「古今和歌集にみる染と織・其の二」
「古今和歌集にみる染と織・其の二<竜田川>」
◇竜田川◇
題しらず・読人知らず
314 竜田川錦おりかく神無月時雨の雨をたてぬきにして
おりかく 織り懸ける
たてぬき 縦糸と横糸 (経緯)
竜田川賛美の歌。
竜田川は紅葉を錦に織り懸けている、神無月の時雨を縦糸と横糸にして、という歌で、冬歌の先頭。
神無月は陰暦十月。
「おりかく」 とは「織り懸ける」とみて紅葉を錦に見立て、山にも、川にも我が身にも懸かっている、と言うところ
か。竜田川はいかに美しく錦を観るばかり、と言う感じが出ている。
山あいの細い雨を織物のたて糸、よこ糸に見立てているのが、この時代の人々の傍に「織り」がいかに密接
だったかが解る。
二条のきさきの春宮の御息所と申しける時に、御屏風に竜田川にもみぢ流れたるかたをかけりけるを題にて
よめる・在原業平
294 ちはやぶる神世もきかず竜田川唐紅に水くくるとは
ちはやぶる 神にかかる枕詞
唐紅 濃く鮮やかな紅色
水くくる 水を括り染めにする
神世の話にも聞いたことがない、竜田川がこのように華やかで鮮やかな紅色に水を括り染めにするとは。
「括り染め」とは布を染める時に文様を付けるため糸でくくる(絞る)手法のこと。(絞り)
古代中国の蜀では、錦江の流れにさらしてつくる錦が、精巧な品として名高かった。竜田川がでているので、
勝るとも劣らない紅の風景か。
また、「水くくる」の解釈としては、もう一つ 「潜る(くくる)」説があり争点になった。
賀茂真淵「古今和歌集打聴」では「後の説共(ども)は河に散しきたる紅葉の下を水のくゞりて流るゝを紅に水のくゞるとよ
めりといへれど紅は体なき物にてそれをくゞるとはいひがたし或家の伝に泳(クヾル)にあらす絞(クヽル)也と云ぞよき絞
(クヽル)とは絹を紅のくゝり染にせしそれに見なせる也」という理由で「括り染め」の説を支持している。
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2006年11月20日(月) 20:02:56 Modified by y_lecture