山の上のホテル
最終更新：ID:M10c33Kc1w 2012年06月30日(土) 01:18:57履歴
「……！！」
ベッドの中で岩沢は目覚めた。
全身にびっしょりと汗をかいて、べっとりとした嫌な感触が身体じゅうを包み込んでいる。
（…ここはどこ？）
おそるおそる手足を動かし、ゆっくりと伸ばしてみる。指のひとつひとつを注意深く曲げたり伸ばしたりしてみて、
ちゃんと意のままに動くかどうか確認する。
（よかった… ちゃんと動く…）
夢の中で感じていた、かちかちにこわばった身体の感触がまだ生々しく残っている。
岩沢はひたいに手をあてて、身の回りのいろんな事柄の名前を思い浮かべてみた。
（今いるのは“女子寮”… わたしたちのグループは“死んだ世界戦線”… バンドの名は“ガールズ･デッド･モンスター”…）
するすると言葉が出てきて、彼女はほっとした。
さっきまで見ていた夢の中で、彼女は、最後の日々がそうだったように、麻痺して動かせない身体で病床に
横たわっていた。
ありありとよみがえる、思い出したくない記憶。
外の世界と切り離された孤独な日々。
奇跡をむなしく待ち続け、わずかな期待に心をすり減らす。そして果てしなく続く絶望と自己憐憫の繰り返し。
無意味だったわたしの人生。
今のＳＳＳでのバンド活動が、寝たきりの病人の見た夢の中の出来事だったらどうしよう、目が覚めたら、あいかわらず
病室のベッドに横たわっていて、口も利けず、手足も動かせないままだったらどうしよう…
そんな、自己の存在に対する不確かさを吹き飛ばしてくれるような、確かな現実感を求めて、岩沢は周りを見回した。
カーテンが開かれたままの窓から、月の光が差し込んで、部屋の中を青く照らし出していた。
ベッドの枕元に埋め込まれたデジタル時計が、ぼんやりと数字を示している。
（午前１時過ぎ…）
二段ベッドの上の段で寝ていた身を起こし、窓の外を見た。
敷地内のいたるところに立っている街灯が、夜の優しい闇を追い払うように、冷たく人工的な光を灯していた。
街灯はどれも、ついさっき電球を替えたばかりのように明るくて、暗くなったり切れたりしているものはひとつもなかった。
身を乗り出して下の段を覗いてみる。
「ひさ子…？」
下のベッドに、ルームメイトの長身はなかった。
一瞬、“消えて”しまったのかと、背筋に冷たいものが走ったが、気を取り直してベッドを降りる。
二段ベッドのはしごを降りてゆくと、身体の平衡感覚が戻ってきた。
はしごにつかまって立ち、薄闇の中に目をこらした。
部屋は、学生寮にしては間取りに余裕があるが、ＴＶもラジオもない。ウォークマンもiPodもない。
岩沢もひさ子も、自分たちのバンドの演奏を除けば、長いこと音楽を聴いていなかった。
歩く感覚を一歩一歩確かめるようにして、ドアの横にあるユニットバスまで歩いていく。
戸を開けてバスルームに入り、汗のしみ込んだパジャマとショーツを脱いで、一緒くたに丸めて洗濯かごに放り入れる。
バスタブに立ってシャワーを浴び、水が身体をつたって流れ落ちていく心地よい感触を楽しむ。
寝たきりの身体だった頃は、汗をかいて身体がべとべとして気持ち悪くても、誰かに拭いてもらえるまで待っているしかなかった。
あの頃の不自由を思えば、 こうやって自分で歩いていって好きな時にシャワーを浴びられるのは本当に素晴らしいことだった。
バスルームの姿見には、健康的な若者がのびのびとシャワーを浴びる姿が映っている。
鏡の中の少女に向かって微笑みかけると、相手も岩沢に向かって微笑んだ。
そう、これがわたしの身体だ。
わたしの人生は決して幸せなものではなかった。あらゆるものを失った。でも、あの肉体から解放されて、わたしは今ここにいる。
これは夢なんかじゃない。現実だ。
シャワーを止め、乾いたタオルで身体をていねいに拭いて、新しいショーツと半袖短パンのパジャマに着替えた。
ＳＳＳの制服を除けば、衣類はぜんぶ学生課から支給されたり寮の売店で買ったりしたものばかりで、どれも同じようなものだ。
サイズの違うブラ以外は、どちらの衣服なのか、岩沢もひさ子も区別することなく使っていた。
岩沢はドアを開けて部屋の外に出て、廊下にぼんやりと立ちすくんだ。
広々とした寮の廊下は、空気がひんやりして、しんとしている。
（ひさ子の奴、こんな夜中にどこ行っちまったんだ？）
フロアのほうに行けばルームメイトがいるかもしれないと思い、行ってみることにした。
ふらふらと行ってみると、壁沿いに幾つかのソファが置かれたフロアはがらんとして、誰もいなかった。
隅っこに設けられた自販機コーナーからはコンプレッサーのぶんぶんという音が響いて、しんとしたフロアの空気を
静かに震わせていた。
身体にしみ込んでくるような、その周期的な低周波音を聞いていると、岩沢はなんだかほっとした。
ふと、自分がひどく喉が渇いているのに気がついて、小銭を取りに部屋に戻り、自販機でミネラルウォーターを一本買った。
それを飲みながら外を眺めていると、隣にある二年生の入っている棟の、真っ暗になった窓の中に一つだけ、明かりが
ついているのが見えた。
「あそこは…」
関根と入江の部屋だった。
岩沢は階段を降り、ふらりと建物の外に出た。
寮は高台にあり、月に照らされた学園が一望できた。
学園はなだらかに続く丘の中腹にあり、どの建物も新築のように真新しかった。
外壁は塗り立てのように色鮮やかで、階段の縁石はひとつも欠けることなく、美しい直線を描いていた。
時間は海の底のように重く、ゆっくりと流れていった。
（ここは、どこなんだろう…？）
以前、ゆりから聞いた話では、体外離脱について書いた本があって、その本によると、人は死んだ後、天国に行くまでの途中に
一時的に魂を休めるところに立ち寄るのだそうだ。そこは、ホテルのような旅館のような場所なのだそうだ。
（ひょっとしたらここは、無理をして長居するような場所ではないかもしれない）と、岩沢は思った。
ここはただの境界線に過ぎないのかもしれない。わたしたちは、今はまだ新しい行き場所を与えられていないだけかもしれない。
そんなことを考えながら、2年生の棟に向かって、ひんやりと澄み切った外気の中を歩いていった。
建物に近づいていくと、明かりのついた窓から、笑い声と麻雀牌を混ぜるガシャガシャという音が聞こえてきた。
関根たちの部屋の前まで来ると、岩沢はドアを軽くノックした。
「はい」中から顔を出したのが遊佐だったので、岩沢は少し驚いた。
「ひさ子の奴、来てない？」
「いますよ」
「…他のメンツは？」
「関根さんと入江さん、それと音無さん」
「音無か」
（あいつら、また男子を連れ込んでハコにしてんのか）などと思いながら、岩沢は部屋に入った。
中は女臭かった。むっとする匂いに、同性ながら思わずくらっとする。
バンドメンバーたち三人と音無が雀卓を囲んでいた。案の定というか予想通りというか、音無が身包み剥がされて
パンツ一丁の格好になっていて、岩沢は思わず吹き出した。
（あ〜あ、カモられてやんの）
関根がはしゃぎまくって、
「はーい罰ゲーム罰ゲーム」と、音無にトマトジュースの缶を突きつけていた。
「だーかーらー、それ何か混ざってるだろ？」音無が弱々しく抗議した。
「いーから飲め飲め」
岩沢が学習机に目をやると、レモンスカッシュやコカコーラ、ファンタグレープなどの缶がずらりと並んでいる。
缶を順々に持ち上げて振ってみると、どれも半分ほど残っていた。
「ちょっともらっていいかな」
「それ、さっき関根さんが混ぜ合わせてましたよ」学習机の椅子に座ってお菓子を食べている遊佐が言った。
「ファミレスのドリンクバーで遊んでるお子ちゃまかよ…」
いちばん無難そうなウーロン茶の缶を選んで、中身を口に含んでみる。
「なにこれ…」それは、およそ飲み物とは呼べない複雑怪奇な味がした。
「ウーロン茶にスポーツドリンクを混ぜたカクテルですね」口をモグモグさせながら遊佐が言った。
「…」まるで味覚が永遠に麻痺してしまいそうなその味に、岩沢は頭を抱えた。
音無のほうも、トマトジュースの缶の中身を飲んで目を白黒させていた。
「げえー、なんだよこれ、何と何混ぜたの？」
「リポビタンＤと牛乳」関根が得意そうに言った。
「全部飲まないと駄目だよ〜」入江がはやし立てる。
「うへえ」ロクに味わいもせずにゴキュゴキュと飲み干す音無。
「うわ〜、マジで飲んでる」ひさ子が笑った。
音無の顔がみるみるうちに真っ青になった。全身から脂汗を吹き出させながら立ち上がる。
「なんだ、そのパンツは？」びっくりする岩沢。
音無はぴっちぴちの黒いビキニパンツを穿いていた。
「吐きそう…」変態チックな黒のビキニ野郎は、身もだえしながらバスルームに駆け込んでいった。
「あいつ、変な趣味してんな」あきれる岩沢。
「あー、あのパンツ、高松の穿いてたやつなんだ。丸裸じゃ可哀想だから貸した」と、ひさ子が言った。
「高松の？」
（なんで、お前が高松のパンツなんか持ってるんだ？）とでも言いたげな岩沢の目線に、ひさ子はぺろっと舌を出して、言った。
「この前、高松をカモってハコテンにして、パンツ一丁にひん剥いてやったら、あまりにキモいカラダしてて気持ち悪かったんで
つい、最後に残ったパンツも取り上げてフルチンにして、窓から叩き出してやったんよ」
「…」
「あのときの高松、悲惨だったね〜」関根がけたけたと笑った。
「リーチかけても、ひさ子さんの追っかけリーチに一発で振り込んじゃうし」そう言って入江も笑った。
「一発掴まされの、振り込みマシーンと化していました」遊佐が論評した。
「ひさ子さんはひさ子さんで、ハネ満ツモりまくるし」と関根。
「高松の奴、最後に、『負け分は、この身体で払います！』なんてエロいこと抜かしてたけど、ひさ子さんが『バカヤロー、金で払え』って
窓から叩き出したんだ」と入江。
「窓の下で、『本物の博打うちだぜ、姐さん…』と言い残して、全裸で息絶えていました」遊佐がこともなげに言った。
「もし、近くに海がありゃあ、ポリバケツに詰め込んで投げ込んでるところさ」とひさ子。
全身真っ青になった音無がバスルームからよろよろと出てきて、カーペットの上にばったりと倒れた。それをつつく関根と入江。
「つんつん、音無生きてるー？」
「死んだ？」
関根と入江は点棒代わりのピックを集めると、まるで子供が遊んでいるように、音無の身体にぺたぺた貼り付けていった。
音無ががばっと身を起こすと、くっ付いていたピックがぱらぱらと落ちた。
「お前ら三人グルだな？ グルなんだな？」今にも泣きそうな表情で、音無が言った。
「気づくの遅せーよ」と岩沢は呟いた。
「いまさらですね」と遊佐。
「ごちそーさま」とひさ子。
「男のくせに往生際が悪いよ」と関根がせせら笑う。
「それって負け犬の遠吠えだよね」突き放す入江。
ＳＳＳの男性陣は、ほとんどがひさ子のカモになっている。娯楽の無いこの学園で、すらっと背の高い美人のひさ子から
「ねえ、あたしと麻雀しない？」と誘われて、ホイホイ付いていかない男は、変人の野田を除けばそういない。
卓を囲めば、関根や入江から、「ハイ、おしぼりどうぞ〜」「なにか飲みませんか〜？」と持ち上げられて舞い上がったところで、
洗牌のたびに触れてくる彼女たちの手の感触や、トイメンに座ったひさ子の大きな胸に気を取られたりしているうちに、
ケツの毛まで毟られてしまうのがオチだった。
音無がため息をついた。
「はあ〜、明日からもう、缶コーヒー代も無えよ」
「音無さん缶コーヒー好きですよね、よく飲んでいるのを見ます」遊佐が言った。
「うん、まあ… 畜生、ただでさえ財布の中身が侘しいってのに、コーヒー代すら無えってのかよ…」
「よしよし、あたしが奢ってやるよ」岩沢が慰める。
「岩沢も来たことだし、ここらでお開きにすっか」ひさ子がにこにこしながら言い、音無のほうを向いた。
「負け分はツケといてやるよ。…それとも、身体で払ってくかい？」
「…えっ？」びっくりする音無。
「ひさ子？」岩沢も驚く。
関根と入江が、赤くなった顔を見合わせる。
「そうこなくちゃ」と、遊佐が呟いた。
「身体で払えって… いったい何言ってんだよ」赤くなりながら、音無がおろおろと言った。
ひさ子は笑いながら、
「なーにとぼけてんだよ、わかってるくせに」と、音無の背中をばしばし叩いた。
「ひさ子、てめーは… タチの悪い冗談だぜ」岩沢が首を振る。
「冗談で言ってるんじゃないよ」ひさ子が言った。
「なんだって？」
「だってこいつ、けっこうイイ男じゃん」そう言いながらひさ子は音無の腰に手を回し、ビキニパンツの上をとんとんと叩いた。
「細身の割になかなかいいモノ持ってるし」
「普通だよ普通！！」赤面する音無。
「音無ってさ、なんか後腐れがなさそうっていうか、セフレ向きの男だって思うんだ」ひさ子がこともなげに爆弾発言。
「セフレ！！」関根と入江が同時に叫んだ。
「いや、セフレつーとなんか聞こえが悪いな」とひさ子。
「彼氏代行サービスというのはどうでしょう」遊佐が提案した。
「彼氏！」「代行！」関根と入江が繰り返した。
「その… セフレと彼氏はどこが違うんだ？」疑問に思った岩沢は訊いてみた。
「彼氏は要りませんが、セフレは必要です」遊佐が言った。
「束縛とか、されたくないしなー」とひさ子。
「たまに性欲を満たしてくれる相手がいれば、それで充分ですよね」と遊佐。
「冴えない彼氏作るより、イケメンのセフレだよな」とひさ子。
（…それって、どう違うんだろう？）と岩沢は思った。
ひさ子は部屋にいる面々をぐるりと見回し、全員に向かって提案した。
「そう言うことで、ここにいる皆で順番に音無とエッチするっていうのはどうかなあ？ なんか面白そうじゃない？」
「順番にエッチ！！」関根と入江がハモる。
こうなると流石に岩沢も、ルームメイトが何か悪いものでも喰ったのかもしれないと心配になってきた。
「…さっきからなに言ってんだオメ？」
「なにって… グループ交際？」
「グループ交際って言ったって、男が一人しかいねーじゃん！ １対１じゃねーじゃん！」
「でも、好きでもない相手とくっつけられるよか、イイ男を皆でシェアしたほうが得じゃん？」
「シェア！！」と関根と入江。
「それのどこがグループ交際なんだよ」
「んー… だから、グループ交際じゃなくってグループセックス？」
「それってけっきょく乱交じゃん…」岩沢が溜め息混じりに言った。
オフビートな女子の応酬に音無も目を丸くする。
「女の子ってすげえ…」
さらに言いつのる岩沢を制止し、ひさ子は言い放った。
「リーダーのあんたがそんな超奥手だから、うちら毎年、オトコ無しの淋しいクリスマスを送ることになるんじゃんか。いい加減オトナになれよ。
ここいらでばしっと、恋人いない歴にピリオド打っちまえよ」
「…へっ？」
ひさ子が続ける。
「みんな血気盛んでヤりまくりたい年頃なんだよ？ うちら、花の命は全ッ然短くねーっつうか、ずっとピチピチギャルのまんまだけどさ、
恋しないでいるのにも限度ってものがあるんだ…」
ひさ子はそう言うと、関根と入江の肩を掴んでシャワールームに押し込んだ。
「あたしは遊佐の部屋でシャワー浴びてくっから、お前らもさっさと身体洗っとけ」
「ちょっと、ひさ子さんっ」関根が言いかけたが、ひさ子はシャワールームのドアを閉め、岩沢のほうを向いた。
「いちおうリーダーなんだし、こいつの初物は岩沢が貰っちまえよ」
そう言って、ひさ子と遊佐は部屋を出て行った。
残った二人は顔を見合わせた。
「バンドやってる女の子ってすげえよなあ… なあ、お前ら、いつもこんなことやってんのかよ…」音無が呆れたように言った。
「…なわけね〜だろ」
バンド仲間として長い付き合いになるからよく知っているけど、ひさ子はボンクラな性格だけど、意外に（？）硬派なところがあって、
誰とでも寝たりするような女の子じゃあない。
「あたしら、そんな尻軽じゃねーから」そう言いながら、岩沢は床に散らばったピックを拾い集めた。
音無は横目でちらりと岩沢を見て、
「だったらいいけど」と言った。
二人は無言で、散らかった部屋を片付けた。
卓の周りに転がったkeyコーヒーの空き缶、眠眠打破の空き瓶、ピーナッツ、点棒代わりのピック。それらを片付けながら岩沢は、さっきの
相棒の言葉を頭の中で反すうしていた。
（いい加減オトナになれよ、か…）
いつまでも子供のままでいられるなら、それでいいと思ってたんだけどね。
ひさ子は､あたしなんかよりずっと大人で､ものの考え方が怖いくらいクールだ｡
うちは別にアイドルグループじゃないから、異性と交際しようがセックスしようが各メンバーの自由だ。見つかれば即刻バンドを脱退、なーんてことはない。
とはいえ、ロックバンドなんて派手なことやってるわりに、四六時中音楽漬けで、いい年して男と付き合ったこともないあたし…。
そんなのがリーダーやってたら、他のメンバーだって自由に恋愛なんかできないよね。
「…」
岩沢は見るともなく、横に立った半裸の少年を眺めた。
（若い男の子のプリプリした肉体か…）
みごとな逆三角形をした背中が、腰にかけてぐっとくびれて、ほとんどむき出しになった尻へと続いていく。
少年らしい引き締まった尻はきゅっと上にあがっていて、自分たち女子のような余分な肉が付いていなかった。
黒のビキニパンツの正面からは、ペニスの形がくっきりと分かった。
岩沢はゴクリ、と唾を呑み込んだ。
もし自分が彼を受け入れるなら、おそらく自分は、この肉体の味に夢中になってしまうに違いない。
人生の最後の日々、病院のベッドでひとりぼっちで過ごしながらも、大人っぽくなっていく同世代の男の子たちの身体に、どうしたって
興味を持たずにはいられなかった。
寝たきりになる前は、スタイルには自分でも結構自信があるほうだったし、ストリートライヴをやっていても、大学生や若いサラリーマンによく声をかけられた。
身体がベッドにしばり付けられていたときでも、いつか病気が治ったら一度でいいから好きな男の子にめちゃめちゃに抱かれて、この若く美しい身体を
荒々しいセックスに酷使したい、頭がおかしくなるような快感を味わってみたいと願っていた。
そんな、身動きひとつままならないのに、日々肉欲を持て余しているこの身体が、自分でも空恐ろしかった。
そして今、美しくよみがえったこの肉体が、いつか誰かに愛される時に備えて、パジャマの中で静かに出番を待って息づいていた。
「なあ、記憶無し男」
「なんだよ」
「男子って、パンツを穿くときに、その… そうやってチンコを上に向けて穿くんだな」
「は？」
「てっきり、下向きにするんだと思ってた」
「なんで」
「みんな、チンコをタマタマのあいだに挟むみたいにして、パンツにいれてるのかと思ってた」
「それ、勃ったら痛えじゃん」
「そっか」
パンツの下でぴんと上を向いたペニスを見ながら、
（なんか萌えるな…）と岩沢は思った。
「横向きとかにはしないんだ？」
「デッカい奴はするかもな」
「あんたのソレは、デッカくないのか？」
「知らねえよ」
音無の引き締まった身体からは、すてきな匂いがした。
彼には、同世代の若者らしく虚勢を張ったり見栄っ張りなところがまったくなく、自分たちに自然体に接しているところも、岩沢には好感が持てた。
岩沢は、半袖のパジャマの下の全身のうぶ毛が、ざわざわと立ってくるのを感じた。
そのようすを、パジャマの上からじろじろ見ていた音無がふと、冗談めかして訊いた。
「なあ、お前らのバンドってさ、みんな揃ってルックスいいよな」
「人並みだと思うけど？」
「なんかオーディションでもやって、ルックスのいい奴ばっかり選んでんじゃねえか？ 仕掛けられた商業ロックバンドみたいに」
「とりあえず、『しょせんはガールズバンド』ってバカにされない技術は持ってる」
「へえ」
「一見さわやかそうに見えて、でもちょっとひねくれた音楽やってるから」
「ふうん」
「ルックス先行と思われてっけど、実力で勝負してっからさ、あたしら」
そう言って胸を張る岩沢の胸元を、音無はじっと見ていたが、
「でもさ、ルックスが悪かったら、あんなに人気なかったんじゃね？」と、からかうように言った。
痛いところを突かれて、岩沢はムキになって言い返した。
「あたしら、顔で売る気ねーし。メイクとかしてないし、いつもすっぴんで演奏してるし…」
「そりゃあ、元がそれだけキレイだからだよ。化粧の必要ねーだろ」
「キレイで悪かったなー」手に持ったピックの尖った先でビキニパンツの前のもっこりを突っつく。
「ちょっ、痛えよ」音無は身をよじらせて後ろを向いた。盛り上がった筋肉が、背中から腰まで一続きになっている。小さなお尻がプリティだ。
「自分たちがキレイなことくらい、あたしたちもわかってるって」
「それ自分で言うか？」
「顔で音楽やってるわけじゃねえ」
「岩沢がキレイで、俺はうれしいけどなっ」
音無の一言に、思わず赤面する岩沢。
「ふーんだっ、自分だってチャラ男のくせに」
笑いながら、手に持ったピックを相手の下腹部に貼り付け、上からぱちんと叩いた。
なめらかな肌の下でムキムキの腹筋がうごめく感触に、岩沢はゾクッした。
尖った先を下にして、ぴとっとくっ付いたピックは、なんだか性器のありかを指し示すマーカーみたいに見えた。
心の動揺を隠そうとして岩沢は、音無の乳首を指でぐりぐりしながら、
「ガールズバンドだって、真っ正直に音楽性で勝負したっていいじゃん」と、ささやかな異議を申し立てた。
「…やっぱ、あんた男前だなあ…」
女の子に乳首を触られてニヤニヤしている音無。
「売れセン狙ってしょーもねー音楽やるよっかカッコいいって、俺も思うぜ」
「あんがとよ」そう言いながら、岩沢は
（…ま、あたしのやりたい音楽イコール、ウケる音楽とは限らないんだけどね…）と、口には出さずに心の中で溜め息をついた。
目の前の若い男の裸体は肩幅がひろく、厚い胸板をしていた。黒いビキニパンツがよく似合っている。
柔らかそうなサラサラの髪、澄んだ瞳と長い睫毛、造詣の整った優しそうな顔。
そんな異性の肉体をしげしげと眺めているうちに、自分自身の内がわがじっとりと湿ってくるのがわかる。
（…男の子って、脱ぐと凄いんだな…）
パジャマの下で、肌がかすかに汗ばんできた。
音無が、岩沢の顔をうかがう。
「こうやって遊んでてもいいんだけどさ、…俺たち、他にすることあったんじゃない？」
音無の手が触れてきて、岩沢はびくっとした。
身体じゅうに鳥肌が立って、頬がピンク色に染まる。
腰の奥深くに血がどんどん集まってきて、どくんどくんと熱く脈打ち始める。
乳首がびんびんに立って、感度が高まってくる。
「することって… アレ？」
「そう。セックス的なアレ」
（それってまんまやん…）
「…音無ったら、ホントにヤっちゃうの？」
「うん、だってこんなキレイな子とヤレるチャンス、なかなか無いもん」
「…」
「嫌なら、俺もう帰って寝るけど…」
バンドをやっていると、その場のノリを大事にするようになる。
その場のノリ、と言うと何やら軽薄に聞こえるが、要はその時々に感じているリアルタイムな気持ち、直感を大事にする、ということだ。
せっかくこうして健康な身体に生まれ変われたことだし、すてきな異性に抱かれて、この身体を思いっ切り堪能してもらいたい。
それに、仲の良いバンド仲間と一緒だったら、エッチするのに心理的な抵抗もあまりない。
（…自分に素直にならなきゃな）
「わかったよ… さっさとすまそう」岩沢は言った。
「岩沢って見た目可愛いけど、なんとなくヒネた感じするよな… じゃ、いただきまーす」
「いただきますじゃないでしょ」
パジャマのすそがまくり上げられ、むき出しになった肌を撫で回される。
男の手が身体のうえを這い回り、長い指であちこちまさぐられる。
胸のとがった先端をぴーんっとつまみ上げられ、思わず、びくんっと身体が震える。
「…ずいぶん女の扱いが上手いじゃん」
「そっかーっ？ 俺、経験ねーし」
「音無って、彼女とかいねーの？」
「いねーいねー。お前らこそみんな可愛いのに、彼氏いらないとかセフレ募集とかわけわかんねー」 音無が溜め息をつく。
岩沢もうなずいた。
「…あたしもわかんねえ」
繊細な指の動きは、岩沢をまだ見ぬ性の桃源郷へといざなうようだった。
膝がガクガクして立っていられず、相手の身体にしがみつくと、ブリーフがずり下がって、ビギ立ちしたペニスがびーんと跳ね上がった。
「！！！」
初めて見る異性の若い肉槍は、腹にくっつくくらいの勢いで、そそり立っていた。
（えーッ、こっこんなもの、アソコに挿れるの…）
むせ返るような男子の生臭い匂い。
（見るだけでも、こんなにドキドキして、身体が震えちゃうのに… こんなもの押し込まれたら、どうなっちゃうんだろう…）
天井を向いたそいつは、『そうさあんたがお目当てなのさ』と言っているようだった。
なんともいえない刺激的な匂いが鼻につんときて、嗅いでいるだけで身体じゅうがびりびりと痺れるようだった。
ボーッとした頭で、ふと、いつもケンカばかりしていた両親のことを思い出す。
（…出会った頃の二人も、お互いのことを好きだと思い込んで、こんなことしたんだろうな…）
そのとき、
「ひゃーッ、ホントにやってる！」という関根の声が聞こえた。
二人が振り向くと、シャワールームの入り口から裸の上半身を乗り出すようにして、関根と入江がこっちを覗いていた。
関根は目をハート型にして鼻息荒くしてチョー興奮、入江は目がぐるぐるとうずまきになってパニック状態といった感じだ。
「いっ、いや、これはっ」しどろもどろになる岩沢。
そんな二人をまじまじと見ていた音無が、ぼそっと言った。
「お前ら、けっこう胸あるんだな」
「えっ…」
きょとんとした二人は胸元に目をやって、
「きゃーっ！！」と叫び、ドアを閉めた。
音無はすばやい手つきで岩沢のパジャマのボタンをはずし、あっという間にショーツ一枚にひん剥いた。
残った最後の布切れが勢いよくずり下ろされ、ぴちぴちの桃尻がぷるんっと揺れる。
（もう、後戻りはできない…）
この先に進めば、今みたいに子供のままではいられなくなる。いよいよオトナになるときが来たのだ。
半ば強引にヤられちゃうことは、不思議と嫌ではなかった。
男の手が、まだ少ししか生えていない陰毛をまさぐり、さらにその下へともぐり込んでいく。
めりめりと処女肉が割られ、その奥を指先でかき回される。
「ん、ふぁ…んンッ」
アソコに触れられただけで、全身にびりびりと電気が走って、頭のてっぺんまでしびれるようだった。
音無の身体が背中にぐっと密着してきて、ゴツゴツした筋肉がぐいっぐいっと動くのが肌ごしに感じられる。
おっぱいに喰らいついた男の手が、壊れちゃうんじゃないかという勢いで、まだ硬さの残る膨らみを荒々しく揉みしだき、こね回す。
岩沢は激しくあえぎながら、ありのままの裸体をさらけ出し、獣のような激しい愛撫に身をまかせた。
アソコからピチャピチャといういやらしい音がして、アナルのほうまでじっとりと濡れていく。
異性との初めてのエッチな行為に、Ｃカップ美乳女子高生のすらりとした肢体がうねるように激しくのたうちまわる。
いつのまにか涙目になっている自分に気がつく。身体が火照って、たぎるように熱い。汗だくでヌルヌルの肌のうえを音無の手がすべるように動く。
肉の悦びを覚え始めた若い肉体が、はじめて味わう背筋が震えるほどの快楽を、むさぼるように堪能していた。
びっくりするぐらいに大きなあえぎ声が、自分の意思とは関係なく、あとからあとからしぼり出されてくる。
どこまでもつややかに伸びるその声は、ステージで聞きなれた自分のものとはとても思えなかった。
とまらぬ愛液が、股のあいだからぽたぽたとしたたっている。
雄雄しく天を突き、こわばりきった若茎に恐る恐る手をのばし、そのつるつるした先端に触れる。
（…マジで触ってる… あたし、男の子のペニスを触っちゃってる…）
声には出さずに心の中で感嘆する。
（大きい… すごい…）
血管が浮き出て、もう暴発寸前といった感じのペニスは鋼鉄のように硬く、やけどするように熱く、どくんどくんと脈動していた。
（…あたしったら、なんでこんなもの触ってるんだろう？ …なんでこんなにいやらしくなれるんだろう？）
そそり立ったソレが、彼女の芯を目指して急いて切羽詰っているのが、岩沢にはいとおしく感じられた。
（これからあたし、オトナの階段昇っちゃうんだ、駆け上がっちゃうんだっ！）
こうして自分の身体が男を喜ばせることができたことに、岩沢は深い満足を感じていた。
誰かに身体を求められ、抱かれたい、肉体の限界までめちゃくちゃに犯されて、相手に満足してほしい…
それこそが、人生の最後の日々に岩沢が願い続け、ここに転生してからもずっと待ち望んでいたことだった。
もう、男の子に抱かれたくてもひたすら我慢したり、性欲なんて無い振りをする必要はない。
介助なしに何もできないくせにはしたないとか、身の程をわきまえろとか、周りの健常者にどう思われるかなんて、考えなくてもいい。
何にも縛られることなく、汚れた魂の欲するまま、自分のしたいことをしていいんだ。
岩沢は、これまでずっと心のうちに秘めていた異性の肉体への渇望を、本能のおもむくままに爆発させ、音無にぶつけた。
ということで、とりあえず今は思う存分セックスを楽しむことにした岩沢の耳元で、音無が悪戯っぽくささやいた。
「じゃあさ岩沢… ベッドに手をついて、お尻をこっちに向けてよ」
「…こっ、こうか？」
言われたとおり、ベッドの柵に手を突いて、ぐっとお尻を突き出した。と、音無の手が太腿の内側に添えられ、そのままずいっと
両脚が開かれていく。
「ちょっ…」
「いいからいいから」
股のところがなんだかスースーする。
（こんな格好、関根や入江に見られたら… ってもう遅いか…）
発情した牝犬じゃあるまいし、人としてこんなあられもないポーズをとってよいものだろうかと、岩沢は自問自答した。
バンドリーダーとしての威厳もなにもあったものではない。
寝たきりのときも、まじまじと見られたことはあるが、それとこれとは違う。
男に抱かれるのが初めてなら、人前でこんなみっともないポーズをとるのも初めて、なにもかも初体験の岩沢だった。
恥ずかしくて気が遠くなりそうだった。
「じゃあ、いくぜ」
尻の割れ目に亀頭を押し付けられて、岩沢はぞくっとして全身が粟立った。
「えっ、ちょっ、このカッコで挿れんの？」
「…よっと」
後ろから深々と貫かれて、岩沢は頭の中が真っ白になる。
アソコが灼けるように熱い。膝が震え、崩れそうになるのを懸命にこらえる。
性器どうしがこすれあい、ヌチャヌチャという水音をたてる。
音無が深く突き込むたびに、打ちすえられる自分の尻からパンパン、パンパンといういやらしい音が部屋じゅうに響きわたって、
ちょうど股のところに彼のキンタマがぺちぺちとあたる音が、ワンテンポ遅れて続いていた。
怒涛のピストンに打ちのめされながらも、ぶつかり合う肉体が奏でるリズミカルなヒットサウンドを聴きながら、
（なんか、セックスってロックンロールみたいなノリだな〜）と思う岩沢だった。
両の手で腰をぐいっと掴まれ、激しく突き動かされる。
休むことなく尻に打ち込まれる衝撃が麻薬のような官能を生み、背筋が震えるほどの快感となって頭へと突き抜けて行く。
耳元で聞こえる音無の鼻息がだんだんと荒くなっていく。
目を開けて、下を向いて見てみると、ボヨンボヨンと揺れるふたつのおっぱいのあいだの向こうがわに、ふたりの激しくこすれ合う部分が見える。
目に残像を残すようなハイスピードな動きに合わせて、ヒップの肉を打つ乾いた音がロックのリズムのように響く。
と、音無の手が両方のわきをすべるようにして伸びてきたかと思うと、そのまま、おっぱいをむんずと鷲掴みにされる。
バックから力強く突かれながら、手のひらでたわわな胸を揉みしだかれ、乳首をくりくりと攻められると、もう気持ちいいなんてもんじゃない。
（ちょっと、ナニこれぇ〜！！）
あとからあとから怒涛のように押し寄せてくる快感に、ついさっきまで処女だった岩沢にはなすすべもなかった。
自分の身体が意思に反してびくんびくんと震え、跳ねあがるのがわかる。
（つーかこいつ、全力で走り過ぎだろ…）
と、そのとき、またもや後ろのほうから、
「あー、岩沢さんがあたしらの部屋をラブホ代わりにしてるー」という関根の嬉しそうな声と、
「ふえ〜、あたしのベッドが〜」という入江の泣き声が聞こえた。
岩沢が後ろを向くと、素っ裸にバスタオルを巻いただけの関根と入江が顔を真っ赤にして、きゃーきゃー騒ぎながらこっちを見ていた。
「…」あまりのことに、声もあげられない岩沢だった。
恥ずかしさのあまり、いっそこのまま死んでしまいたいと思いつつ、いやだからあたしもう死んでるじゃん、いまさら何を恥ずかしがってんだよと、
自分でもちょっと呆れた。
「でもあれって、処女喪失にしちゃ、いきなりハード過ぎね？」目をまん丸に見開いた関根が言う。
「音無の腰の動き、すっごーい」 両手を口に当てている入江。
「エンジン全開だねー」と関根。
ふたりの腰まで伸びた髪はまだ濡れていて、ぴんとはねた毛の先からぽたぽたと水滴がしたたっていた。
「にしてもまあーお二人とも、さっそくマグワッておられますなあ」と関根。
「えっ？ …マグワッてってなに？…『まくわうり』のこと、しおりん？」と入江。
「これがホントのマグワイヤー、なんちゃって」指を立てながら、関根が得意そうに言った。
（…関根の奴、あとで絶対シバいちゃる！！）心に誓う岩沢だった。
そうやってリーダーの性行為を茶化していた関根と入江だったが、よく見ると、さっきからオシッコを我慢しているみたいに、モジモジと両脚を擦り合わせている。
「お前ら、なにモジモジしてんの？ オシッコ？」 音無が訊くと、
「ちっ、違うよ！ トイレなら二人とも、さっきちゃんとしたもん」 ふくれっ面をした関根が唇を尖らせた。
「奥のほうまでキレイに洗ったもんねっ」と入江。
（こいつら、トイレするのも一緒なのかよ）岩沢はちょっとびっくりした。
「そうじゃなくて、マグワッてる二人を見てたら、アソコがなんかヘンな感じになってきたんだよう〜」 入江が泣きそうな顔で言った。
「あたしもー、ムズムズする〜」関根が潤んだ目をこっちに向ける。
「あ〜、なんかもうダメ、我慢できない」そう言いながら、入江がタオルのうえから股間をさすり始めた。
「ねえ音無、なんかあたし興奮しちゃったみたいなんだ。もう抑えられないよ！」関根のほうもバスタオルに手をかけて脱ぐようなしぐさをしてアピール。
「ちょっと待ってな、もし、まだ出来るようだったら、あとで相手してやっから」後ろの二人にそう言って、音無は岩沢の身体を抱え上げて
ベッドに仰向けに寝かし、その上に被さった。
「この状況で続けるって 音無って変態じゃね？」赤面する岩沢。
「…変態か… まぁ、男はみんな変態だよ」
ジュププッという音とともに、ペニスが奥深く挿入される。
音無は両膝をベッドにつけ、本格的に腰を振り始めた。腰を打ちつけるたびに、クリトリスがぎゅうぎゅうと押し潰される。
バンドの皆に見られて恥ずかしいのと、もっとして欲しいのと気持ちが入り混じり、岩沢もどんどん大胆になっていった。
更に快感をむさぼろうと、自分からも腰を動かす。
汗でべちゃべちゃになったお互いの肉体がぶつかり合うたびに、結合部からヌチャヌチャ、ぐちゅぐちゅという音が響き渡る。
泡立つ性器部分から、液体がぴちゃぴちゃ垂れる。ついさっきまで処女だったことを考えると、我ながら信じられないほどの淫らさだった。
ベッドの横では、関根と入江が待ち切れないといったようすで、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
「ねえ音無、早く早くぅ〜」音無の尻をぺちぺち叩く関根。
「早くしてっ、ねえ、ねえったら」同じく、リズムを取るように叩く入江。
二人のまだ濡れた髪が音無の背中や尻のうえにさらさらと降りかかって、まとわり付くようにくすぐった。
「急かすなよ〜」音無は笑いながら、次第にスピードを早めていく。
「やっ… あんっ… んむぅ…」
あまりの快感に、岩沢は男のしたでくねるように身を突っ張らせ、嗚咽とともに激しくのたうった。
まるで、全身の筋肉がぎしぎしと音を立てるようだった。
激しく突かれながら、両方の乳房をぐいっと鷲掴みにされる。
発育の途上にあるふたつの紡錘形のおっぱいが、男の子の大きな手のひらで揉みくちゃにされる。
身体の深いところで肉と肉がこすれ合うと、生理のときのような鉄臭い匂いがする。
自分でも何だかわからないくらい凄い声をあげる。
さっきバックでイったばかりなのに、さらに正常位で力強く突きまくられ、立て続けに押し寄せてくる快感に、岩沢はもう、アクメとか絶頂とか
そんなものとっくに通り過ぎて、魂が身体から引っこ抜かれちゃうような感じだった。
腰を両の手でぐいっと掴まれ、奥までねじ込むようにしてスパートをかけられると、快感の大波が衝撃となって全身を揺さぶった。
「あー、いく、いくぞ！」音無がうめいた。
それ以上我慢できない限界に達すると、音無はあたふたとペニスを引き抜いた。
そのまま腹の上で射精すると、勢いよく放たれた精子が岩沢のあごの下まで飛び散る。
白い奔流が間欠泉のようにドクンッ、ドクンッと何度も吹き出して、そのたびに岩沢の胸元やお腹を熱く粘っこい液体が温かく濡らしていく。
音無はそのまま岩沢のうえに倒れこみ、胸に顔を埋めた。
身体のうえにぶちまけられた白濁液が、勾配の低いほうやくぼんだところへとゆっくり流れていった。
「すっごーい、あんなに勢いよくびゅっびゅって飛ぶんだ…」入江がびっくりしたように言った。
「なんかさぁ、もっとゆっくり、ドロ〜ッて感じに出るのかと思ってた」と関根。
「何か変なにおいしない？」入江が顔をしかめる。
「するする！」
関根や入江は臭い臭いと連呼してはしゃいでいた。
ことが済んでしまうと、岩沢は急に、お互いの身体が汗でべとついているのが気になりだした。
先ほどまでのなまめかしい雰囲気は一変して、気だるく生臭いものになっていた。
音無に猫のようにまとわりつく関根と入江たちにあとを任せて、岩沢はひとりでバスルームに行き、シャワーを浴びた。
下を向いて、鎖骨のうえに溜まった水が胸の谷間をするすると流れ落ちていくのを眺める。
彼女の身体にこびり付いていた有機物がシャワーの水に流され、バスタブの排水孔の奥へと消えていった。
つんと鼻をつく男の精の匂いが、湯気とともにバスルームいっぱいにたち込めていた。その生臭い刺激臭が、関根と入江の甘く子供っぽい体臭と
混ざり合って、その無垢な少女の匂いを打ち消していった。
全身にまとわりついたセックスの代謝物から解放され、すっきりとした気分になる。
まるで身体全体が一度茹で上がって、すっと冷ましたみたいに、全身の毛穴が開き切ったみたいな感じだった。
激しい行為のあとで、喉が渇いていた。音無と自分の唾液が口の中で混ざり合って、ねばねばしている。
顔をあげ、シャワーの水を口に含んでごくごくと飲んだ。身体の細胞のひとつひとつまで水分がしみわたるようだった。
さきほどまでの激しい行為の余韻が、身体の芯に残っている。身体のすみずみにいき渡ったアドレナリンがまだ暴れていて、
身体がガクガクと震えて言うことを聞かない。
ぼんやりした頭で、さっき抱き合った相手のことを考える。
彼のことをなにひとつ知らないのに、一度身体を重ねただけで、すべて理解しえたような気分になる。
なんか運命っぽいものまで、勝手に感じちゃっている自分に驚く。
生きていた頃、人生に不満をつのらせ、どこかに救いを求めていた自分。癒しきれない渇望を抱えながら、音楽に出会い、のめり込んでいった自分。
もし、あの頃に、好きな男の子とこんなふうに愛し合っていたら、音楽なんかやめて、日々セックスに安らぎを求めていたのかもしれない…
…シャワーに打たれながら、そんなことを考えていると、
「痛いッ！！ 痛い痛ぁ〜いッ！！」
ドアの向こうから、いよいよ破瓜を迎えんとする関根の、大きな悲鳴が聞こえてきた。
「ちょ、関根、力抜けって」
なだめるような音無の声がそれに続く。
「それってどれくらい入ってるの？ ねえっ！？」
「…まだ半分くらい？ かな？」
「それ以上はムリッ！ ぜったいムリッ！」
「大丈夫だいじょうぶ」
「いやホント、マジでマジで」
「だが断る」
「音無のスケベーッ！ キング･オブ･スケベ！！」
女子寮じゅうに響き渡ろうかという関根の絶叫を聞きながら、岩沢は
（…男ってやっぱ、いろんな子と経験したいんだろなあ）と、溜め息をついた。
バスルームを出ると、ちょうどひさ子と遊佐が入ってくるところだった。
二人ともノーブラの上にタンクトップ、下はパンツだけというヤる気満々の格好だ。
「うっわー、イカくせーッ …って、マジでやってんのかよお前ら！！」ひさ子が大声をあげる。
「はぁ？」岩沢は呆れた。
（お前がそそのかしたんだろーが…）
「言いだしっぺは誰だよ」
「…岩沢、ひょっとしてお前… 音無とヤッちゃった？」ひさ子が、びっくりしたように岩沢を見る。
岩沢はうなづいた。
「…マジで？」
「ああ」
「…」言葉が出ないようすで、突っ立っているひさ子。その横から遊佐が言った。
「さすがリーダー、アナーキーですね」
遊佐のほうも、胸が大きくて小振りなお尻という今風の女の子のスタイルをしていた。
｢ホントにアナーキーなのは、テメエらの頭の中だ」岩沢は言い返した。
「関根さんの声、廊下に駄々漏れですよ」遊佐が注意した。
「ボリューム下げろ関根、他の部屋に丸聞こえだぞ」とひさ子。
ベッドのうえで狂ったように足をバタバタさせている関根には、なにも聞こえていないようだった。
ポンポンと何度も蹴られて、頭を掻きむしられながらも、音無は慌てることなく、黙々と往復運動を続けていた。
息苦しそうに喘ぎながら、関根は涙声になって訴えた。
「ねえ、今入ってるのってホントに音無のチンコ？ 何か別のモン挿れてんじゃないの、ダイコンとか？」
「いや、俺のチンコだけど？」
「挿れるトコ間違えてないっ！？」
「ここで合ってるだろ？ …合ってる、よな…？ …一瞬挿れるトコ間違えたかと思ったじゃねーか」
「だってむっちゃ痛いんだもんっ」
長い金髪を振り乱す関根。身体がびーんと弓のように反り、真っ白な喉元が晒される。
岩沢は素っ裸のままで椅子に座って、ミネラルウォーターを飲みながら、ベッドの上で関根の身体が蹂躙されるのを、ぼんやりと眺めていた。
さっき自分が貫かれた感覚が身体の芯にまだ残っていて、からみあう裸体を見ていると、腰の奥が疼いて、また濡れてくる感じがした。
目の前の光景と、ついさっき自分自身がしたばかりの行為が、なんだか頭の中でごっちゃになって、まるで幽体離脱したみたいに
自分の身体からふわふわと抜け出して、音無と自分が愛し合っているのを外から眺めているような気がした。
半泣きでギブアップした関根に替わって入江の番になったのだが、やはり、さっきに負けない大きな叫び声が部屋いっぱいにに響き渡る。
「うぎゃー──ッ！ 痛いよ音無、痛いいたー──いッ！」
音無の背中に入江の手の爪がぎゅっと喰い込む。
「だーかーらー、力抜けってさっきから言ってんじゃん」音無のほうも、心なしか泣き声だ。
「ちゃんと穴に挿れてる？ 穴じゃないトコに無理やり挿れたりしてない？」
「ドリルじゃあるまいし、そんなトコにどうやって挿れんだよ！」
「ねえ、そこってホントは穴なんかないんでしょ？」
「あるある、ちゃんと開いてるよ！」
「うそ！」
「うそじゃねえ！ ここにあるだろ？ 自分の身体だろーが！」
（ヤリチンも大変だな…）と岩沢は思った。
「岩沢」ひさ子が訊いてきた。なんかさっきからオドオドしている。
「初体験、どうだった？」
「ん〜、痛いかなと思ってたらけっこう気持ち良かった」ミネラルウォーターをあおりながら、挙動不審の相棒に答える。
「…そ、そう？」そわそわしているひさ子。
そんな風にキョドってるようすを見ながら、
（ひさ子も可愛いトコあるじゃん）と、ついニヤける岩沢。
「ふえ〜、あそこが裂けるかと思ったよお〜」ガニ股でよろよろしている関根に、岩沢は声をかけた。
「お疲れー」
さっきまでひぎぃひぎぃと叫んでいたせいで、声がかすれている。
ヤマアラシのように乱れた金髪からは、シャンプーの残り香と汗の匂いが混じった、なんともいえない甘ったるい匂いが立ち昇っている。
セックスを終えたばかりの、ほかほかと湯気が上がるほどに上気した肌。
ぷっくりとした真新しい乳房、その先にあるピンと立ったピンク色の尖端。
荒げた吐息にあわせて、なめらかな腹筋がうねるように上下している。その下にある、つるつるして子供っぽい恥丘。
金髪碧眼の後輩のそんな可愛い裸体を眺めていると、女同士なのに、ついムラムラしてしまう岩沢。
（ひょっとしたらあたし、性癖に問題あるんちゃうんか…）
初めて嗅ぐセックスの匂い。室内に充満するその刺激的な性臭に、相手が男だろうと女だろうと構わず興奮してしまいそうだった。
股間に無いハズのモノがむくむくと勃ってくるような、そいつを後輩のあそこに挿れちゃいたいような、そんな不思議な気分。
岩沢は関根の顔に手を伸ばし、汗ばんだ額に貼りついた前髪を払ってやった。スベスベの肌に触れると、関根は気持ちよさそうに目を閉じた。
「痛ってー、まだなんか入ってるみたい」関根がぼやいた。
「音無のって、そんなにデカいの？」ひさ子が訊いた。
「デカいデカい、馬並みだわありゃ〜」手振りで大きさを示す関根。
「馬並み！？」ひさ子が口を押さえる。
「んなこたーない」かぶりを振る岩沢。
「なんか握りこぶし挿れられたみたいだった」と関根。
「デカいっていうか、硬いよな、鋼鉄みたい」岩沢もうなづいた。
アレが入ってくる感覚がありありと思い出されて、腰の奥がきゅっと締まる。
結局、入江も途中でギブアップし、ほうほうの体で音無の下から這い出した。
「みゆきち、どうだった？」関根が訊く。
「ふあ〜、ライブより疲れた〜」その場に崩れ落ち、うずくまる入江。
「あたしら、ライブじゃあんなに大声出さないもんねー」そう言って関根が岩沢のほうを見た。
「いやいや、あたしだってあそこまで絶叫しねーよ」と岩沢。
「はぁ〜、なんかリンゴを詰められたみたいだった〜」よろよろと立ち上がろうとする入江だが、うまくいかない。どうやら腰を抜かしたみたいだ。
「さいしょに挿れられたとき、股のところでプチッて、なんか切れるみたいな音がしてさ〜」
「したした！」関根がうなづいた。
「ひえっ」首をすくめるひさ子。
「なんか、ぷすってめり込んでる感じで〜」と入江。
「苦しくて〜、呼吸ができなかった〜」と関根。
「おっお前ら、おどかすなよっ」ビビるひさ子。
彼女が身を震わせると、それに合わせてノーブラのおっぱいが服の下でぶるんと揺れる。
（こいつ、柄にもなくけっこうシャイなとこあんだな）と岩沢は思った。
「ひさ子さん、次、わたしがいってもいいですか？」小さく挙手しながら遊佐が言った。
「そっ、そ〜だな〜」
「いやいや、お次は姐さんの番ですぜ」関根が立てた指を振りながらウィンク。
「えへぇ、へへ〜」入江が間の抜けた声を上げながら、ひさ子の肩を押す。
「ちょ、ちょっと待って」渋るひさ子。
「そ−ゆーコトでしたら、ひさ子さんお先にどうぞ」遊佐も背を押す。
「やっ、でもっ」
「大したコトねえって、お互いの下腹部の粘膜をちょっとばかし擦り合わせるだけさ」
そう岩沢に促されると、ひさ子は一瞬びくんと身体を強張らせた。だが、覚悟を決めたのか、きゅっと唇を噛みしめる。
「…こーなったら、やるっきゃねーか！」
そう言って着ていたタンクトップを勢いよく脱ぎ捨てると、Eカップの巨乳がぶるんっと揺れながらあらわになる。
「おんなは度胸！！」「根性！！」関根と入江が煽り立てる。
「お… おうよ！」真顔で答えるひさ子。
「なんのこっちゃい」岩沢は吹き出した。
「ウルフルズですか？」遊佐が関根に向かって訊いた。
ひさ子は続いて、するするとショーツを脱いだ。細身でありながらボリュームのある肢体が晒される。
無駄毛もばっちり処理してきているのを見て、岩沢は、
（ひさ子の奴、気合充分じゃねーか… 処女のくせに）と思った。
「ひさ子さん、スタイルいいなぁ〜」入江が感嘆の声をあげる。
「確か、ひさ子さんってヒップよりもバストのほうがおっきいんですよね」遊佐が言った。
「こいつぁヤベーぜ…」と呟く関根。
「すっげえ、夢みたいだ…」ベッドの上の音無も目を丸くしている。
岩沢も、ミネラルウォーターのボトルを傾けながら、まるで男の欲望を具現化したみたいな親友の裸身に見入った。
均整のとれたスタイル抜群の身体は、自分たちと違ってなんだか大人びていて、まだ１７歳とは思えない妖艶さを漂わせていた。
岩沢には、彼女が今どんな風に感じているかが手に取るようにわかった… 未知の体験への期待と喜び、相手に全てを晒け出すことへの羞恥と
ためらい、他者に身をゆだねることへの不安… ついさっきまで自分が感じていたことだ。
…それにしても、ひさ子の身体は憎ったらしいほどきれいだ。
（…ったく、ヒップよかバストのほうがデカいってどんだけっすか？ それって日本人離れしてるって言うかむしろ人間離れしてませんか？）
「…ひさ子」
「なに？」
「…はっきり言って、お前のそのスタイルはおかしい」
「…あたしにどうしろと」
女の子の腰のくびれがこんなにいやらしいものだなんて、岩沢は今まで知らなかった。
丸くて引き締まったお尻から、しなやかな曲線を描く太腿、そして、ふっくら膨らんだすねへと続いていく一筋のライン。
「ジーンズを買うときに裾を切ったことがない」というのも納得の長い脚。
汗ばんだ肌から、女の子が興奮してきたときのフェロモンの酸っぱい匂いが漂いはじめる。
ひさ子は照れ臭そうに苦笑いした。
「一部始終を見られながらヤるのって、すっげー恥ずかしいんですけど」
「じっくり見届けてやるよ」
音無に導かれてベッドのうえに身を横たえると、形の良い大きな胸がユッサユッサと揺れた。仰向けになっても、丸くきれいなかたちを保っている。
きれいに毛を剃ってツルツルの女性器に、男性器がぐちゅりと呑み込まれていく。
ゆっくりとピストンが開始されると、ひさ子の食いしばった唇からかすかな悲鳴のような声が漏れる。
枕元に広がった栗色の髪が、さらさらと優美な弧を描きながら、波打つように揺れる。
たわわな乳房をむんずと掴まれて、ひさ子の首筋がきれいな紅色にすっと染まる。
カラダとカラダがばちんとぶつかり合うたびに、玉のような汗が飛び散った。
室内には二人のあえぎ声とともに、さっきからお馴染みのパンパンという肉がぶつかり合う音、 性器どうしが絡まるヌチャヌチャという音が響いていた。
相手をチェンジしながら続いているリズミカルなその音は、少女たちの話の雰囲気を盛り上げるＢＧＭみたいになっていた。
奥深くまでぐりっ、ぐるっとねじ込まれるたびに、弾力のある美乳がぶるんぶるんと大きく揺れた。
「音無の奴、最初っからトバしまくってね？」関根がニタニタと笑った。
「二人とも息のあったコンビネーションだよね」わかったような口調でよくわからないことを言う入江。
激しく突きながら両の乳房を鷲掴みにしている音無を見て、もうそろそろ余裕がなくなってきたな、と岩沢は思った。
腰の振りがだんだんと速くなっていく。
男の腰の動きが激しくなればなるほど、こっちも快感の度合いが増してゆくのを、岩沢は知っていた。
（…そんなに腰が跳ねるほど嬉しいの？ そんなに気持ちいいの、ねぇ？ 音無？）
友人の官能的なボディラインが次第に艶を帯びはじめ、淫らな女の肉体に変貌してゆくのを岩沢は見守った。
官能に身を任せ、アンアン喘ぎながらウネウネと腰を振りまくる親友の姿は、溜め息が洩れるほどエロかった。
音無の腰の動きに合わせて、尻の筋肉がくいっくいっとリズミカルに絞られるように動くのを、少女たちは魅入られたように眺めた。
ふと、関根が思いついたように言った。
「でもさー、あたしたちって若くして死んじゃったけど、その代わりに、ここで永遠に若いままでこうやって色々楽しめるんだから、
これってけっこうお得だよね」
「あたし、年取ったことないから分からないよ…」ひたいに手を当てて考え込む入江。
「それにしても音無のやつ、疲れ知らずのファッキングマシーンだぜ」腕を組んでうんうんとうなづく関根。
（これって、いったい何やってるんだろう…）と岩沢は思った。
死んでしまったのだから、あたしたちにはもう、種の保存とか生物的な本能とかは関係ないはずだ。
美しいパートナーが欲しい、出世したい、他人が羨ましい… そういった生きてた頃に心を占めていたもろもろの感情も、死んだ今となっては
何の意味も無い、ただ通り過ぎるものだということが分かっている。
（じゃあなんで、こうやって刹那的な快楽に身をゆだねてるんだろう？）
肉的な存在を謳歌することに、何の意味があるというのか。
ここの暮らしでは、わたしたちは永遠に若いままだ。いまさっき生まれ落ちたみたいなすばらしい若者たち。永遠の十代。
でもここにはもう子どもの頃感じた日々の新鮮さはない。ここには成長も成熟もない。何も起こらない日々。牢獄のアドレッセンス。
いつも若さと共にあったかつての無邪気さは、シニシズムに取って代わられた。
生きる喜びや恋の予感、未来への希望や胸の高鳴りなどといったものは、失われた人生と共にとっくに遠い彼方に消えてしまった。
それでもなお魂の奥深くから湧き上がってくる、得体の知れない他者の肉体への渇望。
あたしたちはただ、自分をさらけ出す相手を欲しているだけなのかもしれない。
遊佐が前に進み出た。
「音無さん、おかわりです」
処女喪失を決めたばかりの、ガルデモが誇る麗しきギターヒーローは、ベッドのわきに座り込んでいた。
肌を上気させ、官能の波がまだ冷めやらぬ彼女のようすをよく見ると、まだかすかにピクンピクンと痙攣しているようだった。
髪を無造作に後ろでまとめ、いつもすっきりとしている首筋には、幾筋もの汗のあとがついていた。
深い息をするにつれて胸元が上下し、肌に浮き出た汗の粒が胸の谷間へと流れ落ちていった。
座ったまま、時おり身体を震わせると、その動きに合わせて、柔らかな双丘がぶるんっと揺れる。
ひさ子のお腹のあたりにかけられた精液がテラテラと光って、キャンバスに絵の具を散らしたみたいな模様を描いていた。
いつもきりっとして精悍な顔は、涙と涎でぐしゃぐしゃになってしまっていた。
見ていると、乙女の恥じらいや、破瓜への痛みといった彼女の気持ちまで、こっちに伝わってきた。
「ひさ子」
「…」
「シャワー、浴びにいこ」
ひさ子の手をとり、バスルームに向かう。
長い付合いの仲間同士、今まで誰一人エッチしたことがなかったのに、初めてがなぜか乱交パーティーになってしまった。
岩沢もひさ子もなんだかガニ股っぽくよろよろと歩いた。時々、腰ががくんと落ちる。
二人は顔を見合わせて笑った。
「こんなんで、明日のトルネード、ど〜しよ？」ひさ子が言った。
「どうって… 全員ガニ股でステージに立つしかないだろ」と岩沢。
「だよなあ」
初体験を済ませたところで、何も変わりはしない、と岩沢は思った。処女でなくなっても、自分という存在が変わってしまったわけではないから。
岩沢は聞いてみた。
「で、ひさ子… どうだった？」
「どうって？」
「だから… は･つ･た･い･け･ん」
「どうって…」ひさ子はためらっていたが、
「…おっぱい吸われながら下から突き上げられたとき、頭の中が爆発したみたいに真っ白になっちゃって…」
「うんうん」
岩沢は、ひさ子の顔を眺めた。
上気してピンク色に染まった頬が、むしゃぶりつきたいほどきれいだった。
ついさっきまでこの口をついて出ていた可愛らしいあえぎ声が思い出されて、岩沢はもやもやした感情を抑えることができないでいた。
肌を密着させると、ひさ子の身体から、若い娘がセックスしたあとの匂いがつんと漂ってきて、同性なのになんだか興奮してしまった。
（なんかあたし、思いっきり変なモノに目覚めちゃったかも知んない…）
「…なあ、岩沢」ひさ子がぼそりと言った。
「なんだ」
「セックスって、音楽に似てるなーって」
「…」
「なんつーかさあ、ライヴしてっときのエクスタシーとかとは、また違うんだけど…」
「…」
「イクときのあの感じとか」
「…ああ」岩沢はうなずいた。
岩沢は、ステージで歌っているときのウルトラ級の気持ち良さと、終わったあとの魔法が解けてしまったような空しさについて思った。
自分をまっすぐ見つめるおおぜいの瞳、歌っている自分の声、ギターを弾く指の動き、揺れる腰とステップを踏む脚… 演奏中に自分の発する音や
身体の動きやかたち、それらがいっしょくたになって皆を打ち震わせ、相手に吸収されていく。
（…むしろ、音楽ってセックスそのものだよなあ）
遊佐のよがり声が大ボリュームで聞こえてきて、二人はびっくりした。
「ああ〜ん、あんっ、はああ〜〜んんっ」
部屋じゅうにに響きわたる嬌声
ベッドの中で岩沢は目覚めた。
全身にびっしょりと汗をかいて、べっとりとした嫌な感触が身体じゅうを包み込んでいる。
（…ここはどこ？）
おそるおそる手足を動かし、ゆっくりと伸ばしてみる。指のひとつひとつを注意深く曲げたり伸ばしたりしてみて、
ちゃんと意のままに動くかどうか確認する。
（よかった… ちゃんと動く…）
夢の中で感じていた、かちかちにこわばった身体の感触がまだ生々しく残っている。
岩沢はひたいに手をあてて、身の回りのいろんな事柄の名前を思い浮かべてみた。
（今いるのは“女子寮”… わたしたちのグループは“死んだ世界戦線”… バンドの名は“ガールズ･デッド･モンスター”…）
するすると言葉が出てきて、彼女はほっとした。
さっきまで見ていた夢の中で、彼女は、最後の日々がそうだったように、麻痺して動かせない身体で病床に
横たわっていた。
ありありとよみがえる、思い出したくない記憶。
外の世界と切り離された孤独な日々。
奇跡をむなしく待ち続け、わずかな期待に心をすり減らす。そして果てしなく続く絶望と自己憐憫の繰り返し。
無意味だったわたしの人生。
今のＳＳＳでのバンド活動が、寝たきりの病人の見た夢の中の出来事だったらどうしよう、目が覚めたら、あいかわらず
病室のベッドに横たわっていて、口も利けず、手足も動かせないままだったらどうしよう…
そんな、自己の存在に対する不確かさを吹き飛ばしてくれるような、確かな現実感を求めて、岩沢は周りを見回した。
カーテンが開かれたままの窓から、月の光が差し込んで、部屋の中を青く照らし出していた。
ベッドの枕元に埋め込まれたデジタル時計が、ぼんやりと数字を示している。
（午前１時過ぎ…）
二段ベッドの上の段で寝ていた身を起こし、窓の外を見た。
敷地内のいたるところに立っている街灯が、夜の優しい闇を追い払うように、冷たく人工的な光を灯していた。
街灯はどれも、ついさっき電球を替えたばかりのように明るくて、暗くなったり切れたりしているものはひとつもなかった。
身を乗り出して下の段を覗いてみる。
「ひさ子…？」
下のベッドに、ルームメイトの長身はなかった。
一瞬、“消えて”しまったのかと、背筋に冷たいものが走ったが、気を取り直してベッドを降りる。
二段ベッドのはしごを降りてゆくと、身体の平衡感覚が戻ってきた。
はしごにつかまって立ち、薄闇の中に目をこらした。
部屋は、学生寮にしては間取りに余裕があるが、ＴＶもラジオもない。ウォークマンもiPodもない。
岩沢もひさ子も、自分たちのバンドの演奏を除けば、長いこと音楽を聴いていなかった。
歩く感覚を一歩一歩確かめるようにして、ドアの横にあるユニットバスまで歩いていく。
戸を開けてバスルームに入り、汗のしみ込んだパジャマとショーツを脱いで、一緒くたに丸めて洗濯かごに放り入れる。
バスタブに立ってシャワーを浴び、水が身体をつたって流れ落ちていく心地よい感触を楽しむ。
寝たきりの身体だった頃は、汗をかいて身体がべとべとして気持ち悪くても、誰かに拭いてもらえるまで待っているしかなかった。
あの頃の不自由を思えば、 こうやって自分で歩いていって好きな時にシャワーを浴びられるのは本当に素晴らしいことだった。
バスルームの姿見には、健康的な若者がのびのびとシャワーを浴びる姿が映っている。
鏡の中の少女に向かって微笑みかけると、相手も岩沢に向かって微笑んだ。
そう、これがわたしの身体だ。
わたしの人生は決して幸せなものではなかった。あらゆるものを失った。でも、あの肉体から解放されて、わたしは今ここにいる。
これは夢なんかじゃない。現実だ。
シャワーを止め、乾いたタオルで身体をていねいに拭いて、新しいショーツと半袖短パンのパジャマに着替えた。
ＳＳＳの制服を除けば、衣類はぜんぶ学生課から支給されたり寮の売店で買ったりしたものばかりで、どれも同じようなものだ。
サイズの違うブラ以外は、どちらの衣服なのか、岩沢もひさ子も区別することなく使っていた。
岩沢はドアを開けて部屋の外に出て、廊下にぼんやりと立ちすくんだ。
広々とした寮の廊下は、空気がひんやりして、しんとしている。
（ひさ子の奴、こんな夜中にどこ行っちまったんだ？）
フロアのほうに行けばルームメイトがいるかもしれないと思い、行ってみることにした。
ふらふらと行ってみると、壁沿いに幾つかのソファが置かれたフロアはがらんとして、誰もいなかった。
隅っこに設けられた自販機コーナーからはコンプレッサーのぶんぶんという音が響いて、しんとしたフロアの空気を
静かに震わせていた。
身体にしみ込んでくるような、その周期的な低周波音を聞いていると、岩沢はなんだかほっとした。
ふと、自分がひどく喉が渇いているのに気がついて、小銭を取りに部屋に戻り、自販機でミネラルウォーターを一本買った。
それを飲みながら外を眺めていると、隣にある二年生の入っている棟の、真っ暗になった窓の中に一つだけ、明かりが
ついているのが見えた。
「あそこは…」
関根と入江の部屋だった。
岩沢は階段を降り、ふらりと建物の外に出た。
寮は高台にあり、月に照らされた学園が一望できた。
学園はなだらかに続く丘の中腹にあり、どの建物も新築のように真新しかった。
外壁は塗り立てのように色鮮やかで、階段の縁石はひとつも欠けることなく、美しい直線を描いていた。
時間は海の底のように重く、ゆっくりと流れていった。
（ここは、どこなんだろう…？）
以前、ゆりから聞いた話では、体外離脱について書いた本があって、その本によると、人は死んだ後、天国に行くまでの途中に
一時的に魂を休めるところに立ち寄るのだそうだ。そこは、ホテルのような旅館のような場所なのだそうだ。
（ひょっとしたらここは、無理をして長居するような場所ではないかもしれない）と、岩沢は思った。
ここはただの境界線に過ぎないのかもしれない。わたしたちは、今はまだ新しい行き場所を与えられていないだけかもしれない。
そんなことを考えながら、2年生の棟に向かって、ひんやりと澄み切った外気の中を歩いていった。
建物に近づいていくと、明かりのついた窓から、笑い声と麻雀牌を混ぜるガシャガシャという音が聞こえてきた。
関根たちの部屋の前まで来ると、岩沢はドアを軽くノックした。
「はい」中から顔を出したのが遊佐だったので、岩沢は少し驚いた。
「ひさ子の奴、来てない？」
「いますよ」
「…他のメンツは？」
「関根さんと入江さん、それと音無さん」
「音無か」
（あいつら、また男子を連れ込んでハコにしてんのか）などと思いながら、岩沢は部屋に入った。
中は女臭かった。むっとする匂いに、同性ながら思わずくらっとする。
バンドメンバーたち三人と音無が雀卓を囲んでいた。案の定というか予想通りというか、音無が身包み剥がされて
パンツ一丁の格好になっていて、岩沢は思わず吹き出した。
（あ〜あ、カモられてやんの）
関根がはしゃぎまくって、
「はーい罰ゲーム罰ゲーム」と、音無にトマトジュースの缶を突きつけていた。
「だーかーらー、それ何か混ざってるだろ？」音無が弱々しく抗議した。
「いーから飲め飲め」
岩沢が学習机に目をやると、レモンスカッシュやコカコーラ、ファンタグレープなどの缶がずらりと並んでいる。
缶を順々に持ち上げて振ってみると、どれも半分ほど残っていた。
「ちょっともらっていいかな」
「それ、さっき関根さんが混ぜ合わせてましたよ」学習机の椅子に座ってお菓子を食べている遊佐が言った。
「ファミレスのドリンクバーで遊んでるお子ちゃまかよ…」
いちばん無難そうなウーロン茶の缶を選んで、中身を口に含んでみる。
「なにこれ…」それは、およそ飲み物とは呼べない複雑怪奇な味がした。
「ウーロン茶にスポーツドリンクを混ぜたカクテルですね」口をモグモグさせながら遊佐が言った。
「…」まるで味覚が永遠に麻痺してしまいそうなその味に、岩沢は頭を抱えた。
音無のほうも、トマトジュースの缶の中身を飲んで目を白黒させていた。
「げえー、なんだよこれ、何と何混ぜたの？」
「リポビタンＤと牛乳」関根が得意そうに言った。
「全部飲まないと駄目だよ〜」入江がはやし立てる。
「うへえ」ロクに味わいもせずにゴキュゴキュと飲み干す音無。
「うわ〜、マジで飲んでる」ひさ子が笑った。
音無の顔がみるみるうちに真っ青になった。全身から脂汗を吹き出させながら立ち上がる。
「なんだ、そのパンツは？」びっくりする岩沢。
音無はぴっちぴちの黒いビキニパンツを穿いていた。
「吐きそう…」変態チックな黒のビキニ野郎は、身もだえしながらバスルームに駆け込んでいった。
「あいつ、変な趣味してんな」あきれる岩沢。
「あー、あのパンツ、高松の穿いてたやつなんだ。丸裸じゃ可哀想だから貸した」と、ひさ子が言った。
「高松の？」
（なんで、お前が高松のパンツなんか持ってるんだ？）とでも言いたげな岩沢の目線に、ひさ子はぺろっと舌を出して、言った。
「この前、高松をカモってハコテンにして、パンツ一丁にひん剥いてやったら、あまりにキモいカラダしてて気持ち悪かったんで
つい、最後に残ったパンツも取り上げてフルチンにして、窓から叩き出してやったんよ」
「…」
「あのときの高松、悲惨だったね〜」関根がけたけたと笑った。
「リーチかけても、ひさ子さんの追っかけリーチに一発で振り込んじゃうし」そう言って入江も笑った。
「一発掴まされの、振り込みマシーンと化していました」遊佐が論評した。
「ひさ子さんはひさ子さんで、ハネ満ツモりまくるし」と関根。
「高松の奴、最後に、『負け分は、この身体で払います！』なんてエロいこと抜かしてたけど、ひさ子さんが『バカヤロー、金で払え』って
窓から叩き出したんだ」と入江。
「窓の下で、『本物の博打うちだぜ、姐さん…』と言い残して、全裸で息絶えていました」遊佐がこともなげに言った。
「もし、近くに海がありゃあ、ポリバケツに詰め込んで投げ込んでるところさ」とひさ子。
全身真っ青になった音無がバスルームからよろよろと出てきて、カーペットの上にばったりと倒れた。それをつつく関根と入江。
「つんつん、音無生きてるー？」
「死んだ？」
関根と入江は点棒代わりのピックを集めると、まるで子供が遊んでいるように、音無の身体にぺたぺた貼り付けていった。
音無ががばっと身を起こすと、くっ付いていたピックがぱらぱらと落ちた。
「お前ら三人グルだな？ グルなんだな？」今にも泣きそうな表情で、音無が言った。
「気づくの遅せーよ」と岩沢は呟いた。
「いまさらですね」と遊佐。
「ごちそーさま」とひさ子。
「男のくせに往生際が悪いよ」と関根がせせら笑う。
「それって負け犬の遠吠えだよね」突き放す入江。
ＳＳＳの男性陣は、ほとんどがひさ子のカモになっている。娯楽の無いこの学園で、すらっと背の高い美人のひさ子から
「ねえ、あたしと麻雀しない？」と誘われて、ホイホイ付いていかない男は、変人の野田を除けばそういない。
卓を囲めば、関根や入江から、「ハイ、おしぼりどうぞ〜」「なにか飲みませんか〜？」と持ち上げられて舞い上がったところで、
洗牌のたびに触れてくる彼女たちの手の感触や、トイメンに座ったひさ子の大きな胸に気を取られたりしているうちに、
ケツの毛まで毟られてしまうのがオチだった。
音無がため息をついた。
「はあ〜、明日からもう、缶コーヒー代も無えよ」
「音無さん缶コーヒー好きですよね、よく飲んでいるのを見ます」遊佐が言った。
「うん、まあ… 畜生、ただでさえ財布の中身が侘しいってのに、コーヒー代すら無えってのかよ…」
「よしよし、あたしが奢ってやるよ」岩沢が慰める。
「岩沢も来たことだし、ここらでお開きにすっか」ひさ子がにこにこしながら言い、音無のほうを向いた。
「負け分はツケといてやるよ。…それとも、身体で払ってくかい？」
「…えっ？」びっくりする音無。
「ひさ子？」岩沢も驚く。
関根と入江が、赤くなった顔を見合わせる。
「そうこなくちゃ」と、遊佐が呟いた。
「身体で払えって… いったい何言ってんだよ」赤くなりながら、音無がおろおろと言った。
ひさ子は笑いながら、
「なーにとぼけてんだよ、わかってるくせに」と、音無の背中をばしばし叩いた。
「ひさ子、てめーは… タチの悪い冗談だぜ」岩沢が首を振る。
「冗談で言ってるんじゃないよ」ひさ子が言った。
「なんだって？」
「だってこいつ、けっこうイイ男じゃん」そう言いながらひさ子は音無の腰に手を回し、ビキニパンツの上をとんとんと叩いた。
「細身の割になかなかいいモノ持ってるし」
「普通だよ普通！！」赤面する音無。
「音無ってさ、なんか後腐れがなさそうっていうか、セフレ向きの男だって思うんだ」ひさ子がこともなげに爆弾発言。
「セフレ！！」関根と入江が同時に叫んだ。
「いや、セフレつーとなんか聞こえが悪いな」とひさ子。
「彼氏代行サービスというのはどうでしょう」遊佐が提案した。
「彼氏！」「代行！」関根と入江が繰り返した。
「その… セフレと彼氏はどこが違うんだ？」疑問に思った岩沢は訊いてみた。
「彼氏は要りませんが、セフレは必要です」遊佐が言った。
「束縛とか、されたくないしなー」とひさ子。
「たまに性欲を満たしてくれる相手がいれば、それで充分ですよね」と遊佐。
「冴えない彼氏作るより、イケメンのセフレだよな」とひさ子。
（…それって、どう違うんだろう？）と岩沢は思った。
ひさ子は部屋にいる面々をぐるりと見回し、全員に向かって提案した。
「そう言うことで、ここにいる皆で順番に音無とエッチするっていうのはどうかなあ？ なんか面白そうじゃない？」
「順番にエッチ！！」関根と入江がハモる。
こうなると流石に岩沢も、ルームメイトが何か悪いものでも喰ったのかもしれないと心配になってきた。
「…さっきからなに言ってんだオメ？」
「なにって… グループ交際？」
「グループ交際って言ったって、男が一人しかいねーじゃん！ １対１じゃねーじゃん！」
「でも、好きでもない相手とくっつけられるよか、イイ男を皆でシェアしたほうが得じゃん？」
「シェア！！」と関根と入江。
「それのどこがグループ交際なんだよ」
「んー… だから、グループ交際じゃなくってグループセックス？」
「それってけっきょく乱交じゃん…」岩沢が溜め息混じりに言った。
オフビートな女子の応酬に音無も目を丸くする。
「女の子ってすげえ…」
さらに言いつのる岩沢を制止し、ひさ子は言い放った。
「リーダーのあんたがそんな超奥手だから、うちら毎年、オトコ無しの淋しいクリスマスを送ることになるんじゃんか。いい加減オトナになれよ。
ここいらでばしっと、恋人いない歴にピリオド打っちまえよ」
「…へっ？」
ひさ子が続ける。
「みんな血気盛んでヤりまくりたい年頃なんだよ？ うちら、花の命は全ッ然短くねーっつうか、ずっとピチピチギャルのまんまだけどさ、
恋しないでいるのにも限度ってものがあるんだ…」
ひさ子はそう言うと、関根と入江の肩を掴んでシャワールームに押し込んだ。
「あたしは遊佐の部屋でシャワー浴びてくっから、お前らもさっさと身体洗っとけ」
「ちょっと、ひさ子さんっ」関根が言いかけたが、ひさ子はシャワールームのドアを閉め、岩沢のほうを向いた。
「いちおうリーダーなんだし、こいつの初物は岩沢が貰っちまえよ」
そう言って、ひさ子と遊佐は部屋を出て行った。
残った二人は顔を見合わせた。
「バンドやってる女の子ってすげえよなあ… なあ、お前ら、いつもこんなことやってんのかよ…」音無が呆れたように言った。
「…なわけね〜だろ」
バンド仲間として長い付き合いになるからよく知っているけど、ひさ子はボンクラな性格だけど、意外に（？）硬派なところがあって、
誰とでも寝たりするような女の子じゃあない。
「あたしら、そんな尻軽じゃねーから」そう言いながら、岩沢は床に散らばったピックを拾い集めた。
音無は横目でちらりと岩沢を見て、
「だったらいいけど」と言った。
二人は無言で、散らかった部屋を片付けた。
卓の周りに転がったkeyコーヒーの空き缶、眠眠打破の空き瓶、ピーナッツ、点棒代わりのピック。それらを片付けながら岩沢は、さっきの
相棒の言葉を頭の中で反すうしていた。
（いい加減オトナになれよ、か…）
いつまでも子供のままでいられるなら、それでいいと思ってたんだけどね。
ひさ子は､あたしなんかよりずっと大人で､ものの考え方が怖いくらいクールだ｡
うちは別にアイドルグループじゃないから、異性と交際しようがセックスしようが各メンバーの自由だ。見つかれば即刻バンドを脱退、なーんてことはない。
とはいえ、ロックバンドなんて派手なことやってるわりに、四六時中音楽漬けで、いい年して男と付き合ったこともないあたし…。
そんなのがリーダーやってたら、他のメンバーだって自由に恋愛なんかできないよね。
「…」
岩沢は見るともなく、横に立った半裸の少年を眺めた。
（若い男の子のプリプリした肉体か…）
みごとな逆三角形をした背中が、腰にかけてぐっとくびれて、ほとんどむき出しになった尻へと続いていく。
少年らしい引き締まった尻はきゅっと上にあがっていて、自分たち女子のような余分な肉が付いていなかった。
黒のビキニパンツの正面からは、ペニスの形がくっきりと分かった。
岩沢はゴクリ、と唾を呑み込んだ。
もし自分が彼を受け入れるなら、おそらく自分は、この肉体の味に夢中になってしまうに違いない。
人生の最後の日々、病院のベッドでひとりぼっちで過ごしながらも、大人っぽくなっていく同世代の男の子たちの身体に、どうしたって
興味を持たずにはいられなかった。
寝たきりになる前は、スタイルには自分でも結構自信があるほうだったし、ストリートライヴをやっていても、大学生や若いサラリーマンによく声をかけられた。
身体がベッドにしばり付けられていたときでも、いつか病気が治ったら一度でいいから好きな男の子にめちゃめちゃに抱かれて、この若く美しい身体を
荒々しいセックスに酷使したい、頭がおかしくなるような快感を味わってみたいと願っていた。
そんな、身動きひとつままならないのに、日々肉欲を持て余しているこの身体が、自分でも空恐ろしかった。
そして今、美しくよみがえったこの肉体が、いつか誰かに愛される時に備えて、パジャマの中で静かに出番を待って息づいていた。
「なあ、記憶無し男」
「なんだよ」
「男子って、パンツを穿くときに、その… そうやってチンコを上に向けて穿くんだな」
「は？」
「てっきり、下向きにするんだと思ってた」
「なんで」
「みんな、チンコをタマタマのあいだに挟むみたいにして、パンツにいれてるのかと思ってた」
「それ、勃ったら痛えじゃん」
「そっか」
パンツの下でぴんと上を向いたペニスを見ながら、
（なんか萌えるな…）と岩沢は思った。
「横向きとかにはしないんだ？」
「デッカい奴はするかもな」
「あんたのソレは、デッカくないのか？」
「知らねえよ」
音無の引き締まった身体からは、すてきな匂いがした。
彼には、同世代の若者らしく虚勢を張ったり見栄っ張りなところがまったくなく、自分たちに自然体に接しているところも、岩沢には好感が持てた。
岩沢は、半袖のパジャマの下の全身のうぶ毛が、ざわざわと立ってくるのを感じた。
そのようすを、パジャマの上からじろじろ見ていた音無がふと、冗談めかして訊いた。
「なあ、お前らのバンドってさ、みんな揃ってルックスいいよな」
「人並みだと思うけど？」
「なんかオーディションでもやって、ルックスのいい奴ばっかり選んでんじゃねえか？ 仕掛けられた商業ロックバンドみたいに」
「とりあえず、『しょせんはガールズバンド』ってバカにされない技術は持ってる」
「へえ」
「一見さわやかそうに見えて、でもちょっとひねくれた音楽やってるから」
「ふうん」
「ルックス先行と思われてっけど、実力で勝負してっからさ、あたしら」
そう言って胸を張る岩沢の胸元を、音無はじっと見ていたが、
「でもさ、ルックスが悪かったら、あんなに人気なかったんじゃね？」と、からかうように言った。
痛いところを突かれて、岩沢はムキになって言い返した。
「あたしら、顔で売る気ねーし。メイクとかしてないし、いつもすっぴんで演奏してるし…」
「そりゃあ、元がそれだけキレイだからだよ。化粧の必要ねーだろ」
「キレイで悪かったなー」手に持ったピックの尖った先でビキニパンツの前のもっこりを突っつく。
「ちょっ、痛えよ」音無は身をよじらせて後ろを向いた。盛り上がった筋肉が、背中から腰まで一続きになっている。小さなお尻がプリティだ。
「自分たちがキレイなことくらい、あたしたちもわかってるって」
「それ自分で言うか？」
「顔で音楽やってるわけじゃねえ」
「岩沢がキレイで、俺はうれしいけどなっ」
音無の一言に、思わず赤面する岩沢。
「ふーんだっ、自分だってチャラ男のくせに」
笑いながら、手に持ったピックを相手の下腹部に貼り付け、上からぱちんと叩いた。
なめらかな肌の下でムキムキの腹筋がうごめく感触に、岩沢はゾクッした。
尖った先を下にして、ぴとっとくっ付いたピックは、なんだか性器のありかを指し示すマーカーみたいに見えた。
心の動揺を隠そうとして岩沢は、音無の乳首を指でぐりぐりしながら、
「ガールズバンドだって、真っ正直に音楽性で勝負したっていいじゃん」と、ささやかな異議を申し立てた。
「…やっぱ、あんた男前だなあ…」
女の子に乳首を触られてニヤニヤしている音無。
「売れセン狙ってしょーもねー音楽やるよっかカッコいいって、俺も思うぜ」
「あんがとよ」そう言いながら、岩沢は
（…ま、あたしのやりたい音楽イコール、ウケる音楽とは限らないんだけどね…）と、口には出さずに心の中で溜め息をついた。
目の前の若い男の裸体は肩幅がひろく、厚い胸板をしていた。黒いビキニパンツがよく似合っている。
柔らかそうなサラサラの髪、澄んだ瞳と長い睫毛、造詣の整った優しそうな顔。
そんな異性の肉体をしげしげと眺めているうちに、自分自身の内がわがじっとりと湿ってくるのがわかる。
（…男の子って、脱ぐと凄いんだな…）
パジャマの下で、肌がかすかに汗ばんできた。
音無が、岩沢の顔をうかがう。
「こうやって遊んでてもいいんだけどさ、…俺たち、他にすることあったんじゃない？」
音無の手が触れてきて、岩沢はびくっとした。
身体じゅうに鳥肌が立って、頬がピンク色に染まる。
腰の奥深くに血がどんどん集まってきて、どくんどくんと熱く脈打ち始める。
乳首がびんびんに立って、感度が高まってくる。
「することって… アレ？」
「そう。セックス的なアレ」
（それってまんまやん…）
「…音無ったら、ホントにヤっちゃうの？」
「うん、だってこんなキレイな子とヤレるチャンス、なかなか無いもん」
「…」
「嫌なら、俺もう帰って寝るけど…」
バンドをやっていると、その場のノリを大事にするようになる。
その場のノリ、と言うと何やら軽薄に聞こえるが、要はその時々に感じているリアルタイムな気持ち、直感を大事にする、ということだ。
せっかくこうして健康な身体に生まれ変われたことだし、すてきな異性に抱かれて、この身体を思いっ切り堪能してもらいたい。
それに、仲の良いバンド仲間と一緒だったら、エッチするのに心理的な抵抗もあまりない。
（…自分に素直にならなきゃな）
「わかったよ… さっさとすまそう」岩沢は言った。
「岩沢って見た目可愛いけど、なんとなくヒネた感じするよな… じゃ、いただきまーす」
「いただきますじゃないでしょ」
パジャマのすそがまくり上げられ、むき出しになった肌を撫で回される。
男の手が身体のうえを這い回り、長い指であちこちまさぐられる。
胸のとがった先端をぴーんっとつまみ上げられ、思わず、びくんっと身体が震える。
「…ずいぶん女の扱いが上手いじゃん」
「そっかーっ？ 俺、経験ねーし」
「音無って、彼女とかいねーの？」
「いねーいねー。お前らこそみんな可愛いのに、彼氏いらないとかセフレ募集とかわけわかんねー」 音無が溜め息をつく。
岩沢もうなずいた。
「…あたしもわかんねえ」
繊細な指の動きは、岩沢をまだ見ぬ性の桃源郷へといざなうようだった。
膝がガクガクして立っていられず、相手の身体にしがみつくと、ブリーフがずり下がって、ビギ立ちしたペニスがびーんと跳ね上がった。
「！！！」
初めて見る異性の若い肉槍は、腹にくっつくくらいの勢いで、そそり立っていた。
（えーッ、こっこんなもの、アソコに挿れるの…）
むせ返るような男子の生臭い匂い。
（見るだけでも、こんなにドキドキして、身体が震えちゃうのに… こんなもの押し込まれたら、どうなっちゃうんだろう…）
天井を向いたそいつは、『そうさあんたがお目当てなのさ』と言っているようだった。
なんともいえない刺激的な匂いが鼻につんときて、嗅いでいるだけで身体じゅうがびりびりと痺れるようだった。
ボーッとした頭で、ふと、いつもケンカばかりしていた両親のことを思い出す。
（…出会った頃の二人も、お互いのことを好きだと思い込んで、こんなことしたんだろうな…）
そのとき、
「ひゃーッ、ホントにやってる！」という関根の声が聞こえた。
二人が振り向くと、シャワールームの入り口から裸の上半身を乗り出すようにして、関根と入江がこっちを覗いていた。
関根は目をハート型にして鼻息荒くしてチョー興奮、入江は目がぐるぐるとうずまきになってパニック状態といった感じだ。
「いっ、いや、これはっ」しどろもどろになる岩沢。
そんな二人をまじまじと見ていた音無が、ぼそっと言った。
「お前ら、けっこう胸あるんだな」
「えっ…」
きょとんとした二人は胸元に目をやって、
「きゃーっ！！」と叫び、ドアを閉めた。
音無はすばやい手つきで岩沢のパジャマのボタンをはずし、あっという間にショーツ一枚にひん剥いた。
残った最後の布切れが勢いよくずり下ろされ、ぴちぴちの桃尻がぷるんっと揺れる。
（もう、後戻りはできない…）
この先に進めば、今みたいに子供のままではいられなくなる。いよいよオトナになるときが来たのだ。
半ば強引にヤられちゃうことは、不思議と嫌ではなかった。
男の手が、まだ少ししか生えていない陰毛をまさぐり、さらにその下へともぐり込んでいく。
めりめりと処女肉が割られ、その奥を指先でかき回される。
「ん、ふぁ…んンッ」
アソコに触れられただけで、全身にびりびりと電気が走って、頭のてっぺんまでしびれるようだった。
音無の身体が背中にぐっと密着してきて、ゴツゴツした筋肉がぐいっぐいっと動くのが肌ごしに感じられる。
おっぱいに喰らいついた男の手が、壊れちゃうんじゃないかという勢いで、まだ硬さの残る膨らみを荒々しく揉みしだき、こね回す。
岩沢は激しくあえぎながら、ありのままの裸体をさらけ出し、獣のような激しい愛撫に身をまかせた。
アソコからピチャピチャといういやらしい音がして、アナルのほうまでじっとりと濡れていく。
異性との初めてのエッチな行為に、Ｃカップ美乳女子高生のすらりとした肢体がうねるように激しくのたうちまわる。
いつのまにか涙目になっている自分に気がつく。身体が火照って、たぎるように熱い。汗だくでヌルヌルの肌のうえを音無の手がすべるように動く。
肉の悦びを覚え始めた若い肉体が、はじめて味わう背筋が震えるほどの快楽を、むさぼるように堪能していた。
びっくりするぐらいに大きなあえぎ声が、自分の意思とは関係なく、あとからあとからしぼり出されてくる。
どこまでもつややかに伸びるその声は、ステージで聞きなれた自分のものとはとても思えなかった。
とまらぬ愛液が、股のあいだからぽたぽたとしたたっている。
雄雄しく天を突き、こわばりきった若茎に恐る恐る手をのばし、そのつるつるした先端に触れる。
（…マジで触ってる… あたし、男の子のペニスを触っちゃってる…）
声には出さずに心の中で感嘆する。
（大きい… すごい…）
血管が浮き出て、もう暴発寸前といった感じのペニスは鋼鉄のように硬く、やけどするように熱く、どくんどくんと脈動していた。
（…あたしったら、なんでこんなもの触ってるんだろう？ …なんでこんなにいやらしくなれるんだろう？）
そそり立ったソレが、彼女の芯を目指して急いて切羽詰っているのが、岩沢にはいとおしく感じられた。
（これからあたし、オトナの階段昇っちゃうんだ、駆け上がっちゃうんだっ！）
こうして自分の身体が男を喜ばせることができたことに、岩沢は深い満足を感じていた。
誰かに身体を求められ、抱かれたい、肉体の限界までめちゃくちゃに犯されて、相手に満足してほしい…
それこそが、人生の最後の日々に岩沢が願い続け、ここに転生してからもずっと待ち望んでいたことだった。
もう、男の子に抱かれたくてもひたすら我慢したり、性欲なんて無い振りをする必要はない。
介助なしに何もできないくせにはしたないとか、身の程をわきまえろとか、周りの健常者にどう思われるかなんて、考えなくてもいい。
何にも縛られることなく、汚れた魂の欲するまま、自分のしたいことをしていいんだ。
岩沢は、これまでずっと心のうちに秘めていた異性の肉体への渇望を、本能のおもむくままに爆発させ、音無にぶつけた。
ということで、とりあえず今は思う存分セックスを楽しむことにした岩沢の耳元で、音無が悪戯っぽくささやいた。
「じゃあさ岩沢… ベッドに手をついて、お尻をこっちに向けてよ」
「…こっ、こうか？」
言われたとおり、ベッドの柵に手を突いて、ぐっとお尻を突き出した。と、音無の手が太腿の内側に添えられ、そのままずいっと
両脚が開かれていく。
「ちょっ…」
「いいからいいから」
股のところがなんだかスースーする。
（こんな格好、関根や入江に見られたら… ってもう遅いか…）
発情した牝犬じゃあるまいし、人としてこんなあられもないポーズをとってよいものだろうかと、岩沢は自問自答した。
バンドリーダーとしての威厳もなにもあったものではない。
寝たきりのときも、まじまじと見られたことはあるが、それとこれとは違う。
男に抱かれるのが初めてなら、人前でこんなみっともないポーズをとるのも初めて、なにもかも初体験の岩沢だった。
恥ずかしくて気が遠くなりそうだった。
「じゃあ、いくぜ」
尻の割れ目に亀頭を押し付けられて、岩沢はぞくっとして全身が粟立った。
「えっ、ちょっ、このカッコで挿れんの？」
「…よっと」
後ろから深々と貫かれて、岩沢は頭の中が真っ白になる。
アソコが灼けるように熱い。膝が震え、崩れそうになるのを懸命にこらえる。
性器どうしがこすれあい、ヌチャヌチャという水音をたてる。
音無が深く突き込むたびに、打ちすえられる自分の尻からパンパン、パンパンといういやらしい音が部屋じゅうに響きわたって、
ちょうど股のところに彼のキンタマがぺちぺちとあたる音が、ワンテンポ遅れて続いていた。
怒涛のピストンに打ちのめされながらも、ぶつかり合う肉体が奏でるリズミカルなヒットサウンドを聴きながら、
（なんか、セックスってロックンロールみたいなノリだな〜）と思う岩沢だった。
両の手で腰をぐいっと掴まれ、激しく突き動かされる。
休むことなく尻に打ち込まれる衝撃が麻薬のような官能を生み、背筋が震えるほどの快感となって頭へと突き抜けて行く。
耳元で聞こえる音無の鼻息がだんだんと荒くなっていく。
目を開けて、下を向いて見てみると、ボヨンボヨンと揺れるふたつのおっぱいのあいだの向こうがわに、ふたりの激しくこすれ合う部分が見える。
目に残像を残すようなハイスピードな動きに合わせて、ヒップの肉を打つ乾いた音がロックのリズムのように響く。
と、音無の手が両方のわきをすべるようにして伸びてきたかと思うと、そのまま、おっぱいをむんずと鷲掴みにされる。
バックから力強く突かれながら、手のひらでたわわな胸を揉みしだかれ、乳首をくりくりと攻められると、もう気持ちいいなんてもんじゃない。
（ちょっと、ナニこれぇ〜！！）
あとからあとから怒涛のように押し寄せてくる快感に、ついさっきまで処女だった岩沢にはなすすべもなかった。
自分の身体が意思に反してびくんびくんと震え、跳ねあがるのがわかる。
（つーかこいつ、全力で走り過ぎだろ…）
と、そのとき、またもや後ろのほうから、
「あー、岩沢さんがあたしらの部屋をラブホ代わりにしてるー」という関根の嬉しそうな声と、
「ふえ〜、あたしのベッドが〜」という入江の泣き声が聞こえた。
岩沢が後ろを向くと、素っ裸にバスタオルを巻いただけの関根と入江が顔を真っ赤にして、きゃーきゃー騒ぎながらこっちを見ていた。
「…」あまりのことに、声もあげられない岩沢だった。
恥ずかしさのあまり、いっそこのまま死んでしまいたいと思いつつ、いやだからあたしもう死んでるじゃん、いまさら何を恥ずかしがってんだよと、
自分でもちょっと呆れた。
「でもあれって、処女喪失にしちゃ、いきなりハード過ぎね？」目をまん丸に見開いた関根が言う。
「音無の腰の動き、すっごーい」 両手を口に当てている入江。
「エンジン全開だねー」と関根。
ふたりの腰まで伸びた髪はまだ濡れていて、ぴんとはねた毛の先からぽたぽたと水滴がしたたっていた。
「にしてもまあーお二人とも、さっそくマグワッておられますなあ」と関根。
「えっ？ …マグワッてってなに？…『まくわうり』のこと、しおりん？」と入江。
「これがホントのマグワイヤー、なんちゃって」指を立てながら、関根が得意そうに言った。
（…関根の奴、あとで絶対シバいちゃる！！）心に誓う岩沢だった。
そうやってリーダーの性行為を茶化していた関根と入江だったが、よく見ると、さっきからオシッコを我慢しているみたいに、モジモジと両脚を擦り合わせている。
「お前ら、なにモジモジしてんの？ オシッコ？」 音無が訊くと、
「ちっ、違うよ！ トイレなら二人とも、さっきちゃんとしたもん」 ふくれっ面をした関根が唇を尖らせた。
「奥のほうまでキレイに洗ったもんねっ」と入江。
（こいつら、トイレするのも一緒なのかよ）岩沢はちょっとびっくりした。
「そうじゃなくて、マグワッてる二人を見てたら、アソコがなんかヘンな感じになってきたんだよう〜」 入江が泣きそうな顔で言った。
「あたしもー、ムズムズする〜」関根が潤んだ目をこっちに向ける。
「あ〜、なんかもうダメ、我慢できない」そう言いながら、入江がタオルのうえから股間をさすり始めた。
「ねえ音無、なんかあたし興奮しちゃったみたいなんだ。もう抑えられないよ！」関根のほうもバスタオルに手をかけて脱ぐようなしぐさをしてアピール。
「ちょっと待ってな、もし、まだ出来るようだったら、あとで相手してやっから」後ろの二人にそう言って、音無は岩沢の身体を抱え上げて
ベッドに仰向けに寝かし、その上に被さった。
「この状況で続けるって 音無って変態じゃね？」赤面する岩沢。
「…変態か… まぁ、男はみんな変態だよ」
ジュププッという音とともに、ペニスが奥深く挿入される。
音無は両膝をベッドにつけ、本格的に腰を振り始めた。腰を打ちつけるたびに、クリトリスがぎゅうぎゅうと押し潰される。
バンドの皆に見られて恥ずかしいのと、もっとして欲しいのと気持ちが入り混じり、岩沢もどんどん大胆になっていった。
更に快感をむさぼろうと、自分からも腰を動かす。
汗でべちゃべちゃになったお互いの肉体がぶつかり合うたびに、結合部からヌチャヌチャ、ぐちゅぐちゅという音が響き渡る。
泡立つ性器部分から、液体がぴちゃぴちゃ垂れる。ついさっきまで処女だったことを考えると、我ながら信じられないほどの淫らさだった。
ベッドの横では、関根と入江が待ち切れないといったようすで、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
「ねえ音無、早く早くぅ〜」音無の尻をぺちぺち叩く関根。
「早くしてっ、ねえ、ねえったら」同じく、リズムを取るように叩く入江。
二人のまだ濡れた髪が音無の背中や尻のうえにさらさらと降りかかって、まとわり付くようにくすぐった。
「急かすなよ〜」音無は笑いながら、次第にスピードを早めていく。
「やっ… あんっ… んむぅ…」
あまりの快感に、岩沢は男のしたでくねるように身を突っ張らせ、嗚咽とともに激しくのたうった。
まるで、全身の筋肉がぎしぎしと音を立てるようだった。
激しく突かれながら、両方の乳房をぐいっと鷲掴みにされる。
発育の途上にあるふたつの紡錘形のおっぱいが、男の子の大きな手のひらで揉みくちゃにされる。
身体の深いところで肉と肉がこすれ合うと、生理のときのような鉄臭い匂いがする。
自分でも何だかわからないくらい凄い声をあげる。
さっきバックでイったばかりなのに、さらに正常位で力強く突きまくられ、立て続けに押し寄せてくる快感に、岩沢はもう、アクメとか絶頂とか
そんなものとっくに通り過ぎて、魂が身体から引っこ抜かれちゃうような感じだった。
腰を両の手でぐいっと掴まれ、奥までねじ込むようにしてスパートをかけられると、快感の大波が衝撃となって全身を揺さぶった。
「あー、いく、いくぞ！」音無がうめいた。
それ以上我慢できない限界に達すると、音無はあたふたとペニスを引き抜いた。
そのまま腹の上で射精すると、勢いよく放たれた精子が岩沢のあごの下まで飛び散る。
白い奔流が間欠泉のようにドクンッ、ドクンッと何度も吹き出して、そのたびに岩沢の胸元やお腹を熱く粘っこい液体が温かく濡らしていく。
音無はそのまま岩沢のうえに倒れこみ、胸に顔を埋めた。
身体のうえにぶちまけられた白濁液が、勾配の低いほうやくぼんだところへとゆっくり流れていった。
「すっごーい、あんなに勢いよくびゅっびゅって飛ぶんだ…」入江がびっくりしたように言った。
「なんかさぁ、もっとゆっくり、ドロ〜ッて感じに出るのかと思ってた」と関根。
「何か変なにおいしない？」入江が顔をしかめる。
「するする！」
関根や入江は臭い臭いと連呼してはしゃいでいた。
ことが済んでしまうと、岩沢は急に、お互いの身体が汗でべとついているのが気になりだした。
先ほどまでのなまめかしい雰囲気は一変して、気だるく生臭いものになっていた。
音無に猫のようにまとわりつく関根と入江たちにあとを任せて、岩沢はひとりでバスルームに行き、シャワーを浴びた。
下を向いて、鎖骨のうえに溜まった水が胸の谷間をするすると流れ落ちていくのを眺める。
彼女の身体にこびり付いていた有機物がシャワーの水に流され、バスタブの排水孔の奥へと消えていった。
つんと鼻をつく男の精の匂いが、湯気とともにバスルームいっぱいにたち込めていた。その生臭い刺激臭が、関根と入江の甘く子供っぽい体臭と
混ざり合って、その無垢な少女の匂いを打ち消していった。
全身にまとわりついたセックスの代謝物から解放され、すっきりとした気分になる。
まるで身体全体が一度茹で上がって、すっと冷ましたみたいに、全身の毛穴が開き切ったみたいな感じだった。
激しい行為のあとで、喉が渇いていた。音無と自分の唾液が口の中で混ざり合って、ねばねばしている。
顔をあげ、シャワーの水を口に含んでごくごくと飲んだ。身体の細胞のひとつひとつまで水分がしみわたるようだった。
さきほどまでの激しい行為の余韻が、身体の芯に残っている。身体のすみずみにいき渡ったアドレナリンがまだ暴れていて、
身体がガクガクと震えて言うことを聞かない。
ぼんやりした頭で、さっき抱き合った相手のことを考える。
彼のことをなにひとつ知らないのに、一度身体を重ねただけで、すべて理解しえたような気分になる。
なんか運命っぽいものまで、勝手に感じちゃっている自分に驚く。
生きていた頃、人生に不満をつのらせ、どこかに救いを求めていた自分。癒しきれない渇望を抱えながら、音楽に出会い、のめり込んでいった自分。
もし、あの頃に、好きな男の子とこんなふうに愛し合っていたら、音楽なんかやめて、日々セックスに安らぎを求めていたのかもしれない…
…シャワーに打たれながら、そんなことを考えていると、
「痛いッ！！ 痛い痛ぁ〜いッ！！」
ドアの向こうから、いよいよ破瓜を迎えんとする関根の、大きな悲鳴が聞こえてきた。
「ちょ、関根、力抜けって」
なだめるような音無の声がそれに続く。
「それってどれくらい入ってるの？ ねえっ！？」
「…まだ半分くらい？ かな？」
「それ以上はムリッ！ ぜったいムリッ！」
「大丈夫だいじょうぶ」
「いやホント、マジでマジで」
「だが断る」
「音無のスケベーッ！ キング･オブ･スケベ！！」
女子寮じゅうに響き渡ろうかという関根の絶叫を聞きながら、岩沢は
（…男ってやっぱ、いろんな子と経験したいんだろなあ）と、溜め息をついた。
バスルームを出ると、ちょうどひさ子と遊佐が入ってくるところだった。
二人ともノーブラの上にタンクトップ、下はパンツだけというヤる気満々の格好だ。
「うっわー、イカくせーッ …って、マジでやってんのかよお前ら！！」ひさ子が大声をあげる。
「はぁ？」岩沢は呆れた。
（お前がそそのかしたんだろーが…）
「言いだしっぺは誰だよ」
「…岩沢、ひょっとしてお前… 音無とヤッちゃった？」ひさ子が、びっくりしたように岩沢を見る。
岩沢はうなづいた。
「…マジで？」
「ああ」
「…」言葉が出ないようすで、突っ立っているひさ子。その横から遊佐が言った。
「さすがリーダー、アナーキーですね」
遊佐のほうも、胸が大きくて小振りなお尻という今風の女の子のスタイルをしていた。
｢ホントにアナーキーなのは、テメエらの頭の中だ」岩沢は言い返した。
「関根さんの声、廊下に駄々漏れですよ」遊佐が注意した。
「ボリューム下げろ関根、他の部屋に丸聞こえだぞ」とひさ子。
ベッドのうえで狂ったように足をバタバタさせている関根には、なにも聞こえていないようだった。
ポンポンと何度も蹴られて、頭を掻きむしられながらも、音無は慌てることなく、黙々と往復運動を続けていた。
息苦しそうに喘ぎながら、関根は涙声になって訴えた。
「ねえ、今入ってるのってホントに音無のチンコ？ 何か別のモン挿れてんじゃないの、ダイコンとか？」
「いや、俺のチンコだけど？」
「挿れるトコ間違えてないっ！？」
「ここで合ってるだろ？ …合ってる、よな…？ …一瞬挿れるトコ間違えたかと思ったじゃねーか」
「だってむっちゃ痛いんだもんっ」
長い金髪を振り乱す関根。身体がびーんと弓のように反り、真っ白な喉元が晒される。
岩沢は素っ裸のままで椅子に座って、ミネラルウォーターを飲みながら、ベッドの上で関根の身体が蹂躙されるのを、ぼんやりと眺めていた。
さっき自分が貫かれた感覚が身体の芯にまだ残っていて、からみあう裸体を見ていると、腰の奥が疼いて、また濡れてくる感じがした。
目の前の光景と、ついさっき自分自身がしたばかりの行為が、なんだか頭の中でごっちゃになって、まるで幽体離脱したみたいに
自分の身体からふわふわと抜け出して、音無と自分が愛し合っているのを外から眺めているような気がした。
半泣きでギブアップした関根に替わって入江の番になったのだが、やはり、さっきに負けない大きな叫び声が部屋いっぱいにに響き渡る。
「うぎゃー──ッ！ 痛いよ音無、痛いいたー──いッ！」
音無の背中に入江の手の爪がぎゅっと喰い込む。
「だーかーらー、力抜けってさっきから言ってんじゃん」音無のほうも、心なしか泣き声だ。
「ちゃんと穴に挿れてる？ 穴じゃないトコに無理やり挿れたりしてない？」
「ドリルじゃあるまいし、そんなトコにどうやって挿れんだよ！」
「ねえ、そこってホントは穴なんかないんでしょ？」
「あるある、ちゃんと開いてるよ！」
「うそ！」
「うそじゃねえ！ ここにあるだろ？ 自分の身体だろーが！」
（ヤリチンも大変だな…）と岩沢は思った。
「岩沢」ひさ子が訊いてきた。なんかさっきからオドオドしている。
「初体験、どうだった？」
「ん〜、痛いかなと思ってたらけっこう気持ち良かった」ミネラルウォーターをあおりながら、挙動不審の相棒に答える。
「…そ、そう？」そわそわしているひさ子。
そんな風にキョドってるようすを見ながら、
（ひさ子も可愛いトコあるじゃん）と、ついニヤける岩沢。
「ふえ〜、あそこが裂けるかと思ったよお〜」ガニ股でよろよろしている関根に、岩沢は声をかけた。
「お疲れー」
さっきまでひぎぃひぎぃと叫んでいたせいで、声がかすれている。
ヤマアラシのように乱れた金髪からは、シャンプーの残り香と汗の匂いが混じった、なんともいえない甘ったるい匂いが立ち昇っている。
セックスを終えたばかりの、ほかほかと湯気が上がるほどに上気した肌。
ぷっくりとした真新しい乳房、その先にあるピンと立ったピンク色の尖端。
荒げた吐息にあわせて、なめらかな腹筋がうねるように上下している。その下にある、つるつるして子供っぽい恥丘。
金髪碧眼の後輩のそんな可愛い裸体を眺めていると、女同士なのに、ついムラムラしてしまう岩沢。
（ひょっとしたらあたし、性癖に問題あるんちゃうんか…）
初めて嗅ぐセックスの匂い。室内に充満するその刺激的な性臭に、相手が男だろうと女だろうと構わず興奮してしまいそうだった。
股間に無いハズのモノがむくむくと勃ってくるような、そいつを後輩のあそこに挿れちゃいたいような、そんな不思議な気分。
岩沢は関根の顔に手を伸ばし、汗ばんだ額に貼りついた前髪を払ってやった。スベスベの肌に触れると、関根は気持ちよさそうに目を閉じた。
「痛ってー、まだなんか入ってるみたい」関根がぼやいた。
「音無のって、そんなにデカいの？」ひさ子が訊いた。
「デカいデカい、馬並みだわありゃ〜」手振りで大きさを示す関根。
「馬並み！？」ひさ子が口を押さえる。
「んなこたーない」かぶりを振る岩沢。
「なんか握りこぶし挿れられたみたいだった」と関根。
「デカいっていうか、硬いよな、鋼鉄みたい」岩沢もうなづいた。
アレが入ってくる感覚がありありと思い出されて、腰の奥がきゅっと締まる。
結局、入江も途中でギブアップし、ほうほうの体で音無の下から這い出した。
「みゆきち、どうだった？」関根が訊く。
「ふあ〜、ライブより疲れた〜」その場に崩れ落ち、うずくまる入江。
「あたしら、ライブじゃあんなに大声出さないもんねー」そう言って関根が岩沢のほうを見た。
「いやいや、あたしだってあそこまで絶叫しねーよ」と岩沢。
「はぁ〜、なんかリンゴを詰められたみたいだった〜」よろよろと立ち上がろうとする入江だが、うまくいかない。どうやら腰を抜かしたみたいだ。
「さいしょに挿れられたとき、股のところでプチッて、なんか切れるみたいな音がしてさ〜」
「したした！」関根がうなづいた。
「ひえっ」首をすくめるひさ子。
「なんか、ぷすってめり込んでる感じで〜」と入江。
「苦しくて〜、呼吸ができなかった〜」と関根。
「おっお前ら、おどかすなよっ」ビビるひさ子。
彼女が身を震わせると、それに合わせてノーブラのおっぱいが服の下でぶるんと揺れる。
（こいつ、柄にもなくけっこうシャイなとこあんだな）と岩沢は思った。
「ひさ子さん、次、わたしがいってもいいですか？」小さく挙手しながら遊佐が言った。
「そっ、そ〜だな〜」
「いやいや、お次は姐さんの番ですぜ」関根が立てた指を振りながらウィンク。
「えへぇ、へへ〜」入江が間の抜けた声を上げながら、ひさ子の肩を押す。
「ちょ、ちょっと待って」渋るひさ子。
「そ−ゆーコトでしたら、ひさ子さんお先にどうぞ」遊佐も背を押す。
「やっ、でもっ」
「大したコトねえって、お互いの下腹部の粘膜をちょっとばかし擦り合わせるだけさ」
そう岩沢に促されると、ひさ子は一瞬びくんと身体を強張らせた。だが、覚悟を決めたのか、きゅっと唇を噛みしめる。
「…こーなったら、やるっきゃねーか！」
そう言って着ていたタンクトップを勢いよく脱ぎ捨てると、Eカップの巨乳がぶるんっと揺れながらあらわになる。
「おんなは度胸！！」「根性！！」関根と入江が煽り立てる。
「お… おうよ！」真顔で答えるひさ子。
「なんのこっちゃい」岩沢は吹き出した。
「ウルフルズですか？」遊佐が関根に向かって訊いた。
ひさ子は続いて、するするとショーツを脱いだ。細身でありながらボリュームのある肢体が晒される。
無駄毛もばっちり処理してきているのを見て、岩沢は、
（ひさ子の奴、気合充分じゃねーか… 処女のくせに）と思った。
「ひさ子さん、スタイルいいなぁ〜」入江が感嘆の声をあげる。
「確か、ひさ子さんってヒップよりもバストのほうがおっきいんですよね」遊佐が言った。
「こいつぁヤベーぜ…」と呟く関根。
「すっげえ、夢みたいだ…」ベッドの上の音無も目を丸くしている。
岩沢も、ミネラルウォーターのボトルを傾けながら、まるで男の欲望を具現化したみたいな親友の裸身に見入った。
均整のとれたスタイル抜群の身体は、自分たちと違ってなんだか大人びていて、まだ１７歳とは思えない妖艶さを漂わせていた。
岩沢には、彼女が今どんな風に感じているかが手に取るようにわかった… 未知の体験への期待と喜び、相手に全てを晒け出すことへの羞恥と
ためらい、他者に身をゆだねることへの不安… ついさっきまで自分が感じていたことだ。
…それにしても、ひさ子の身体は憎ったらしいほどきれいだ。
（…ったく、ヒップよかバストのほうがデカいってどんだけっすか？ それって日本人離れしてるって言うかむしろ人間離れしてませんか？）
「…ひさ子」
「なに？」
「…はっきり言って、お前のそのスタイルはおかしい」
「…あたしにどうしろと」
女の子の腰のくびれがこんなにいやらしいものだなんて、岩沢は今まで知らなかった。
丸くて引き締まったお尻から、しなやかな曲線を描く太腿、そして、ふっくら膨らんだすねへと続いていく一筋のライン。
「ジーンズを買うときに裾を切ったことがない」というのも納得の長い脚。
汗ばんだ肌から、女の子が興奮してきたときのフェロモンの酸っぱい匂いが漂いはじめる。
ひさ子は照れ臭そうに苦笑いした。
「一部始終を見られながらヤるのって、すっげー恥ずかしいんですけど」
「じっくり見届けてやるよ」
音無に導かれてベッドのうえに身を横たえると、形の良い大きな胸がユッサユッサと揺れた。仰向けになっても、丸くきれいなかたちを保っている。
きれいに毛を剃ってツルツルの女性器に、男性器がぐちゅりと呑み込まれていく。
ゆっくりとピストンが開始されると、ひさ子の食いしばった唇からかすかな悲鳴のような声が漏れる。
枕元に広がった栗色の髪が、さらさらと優美な弧を描きながら、波打つように揺れる。
たわわな乳房をむんずと掴まれて、ひさ子の首筋がきれいな紅色にすっと染まる。
カラダとカラダがばちんとぶつかり合うたびに、玉のような汗が飛び散った。
室内には二人のあえぎ声とともに、さっきからお馴染みのパンパンという肉がぶつかり合う音、 性器どうしが絡まるヌチャヌチャという音が響いていた。
相手をチェンジしながら続いているリズミカルなその音は、少女たちの話の雰囲気を盛り上げるＢＧＭみたいになっていた。
奥深くまでぐりっ、ぐるっとねじ込まれるたびに、弾力のある美乳がぶるんぶるんと大きく揺れた。
「音無の奴、最初っからトバしまくってね？」関根がニタニタと笑った。
「二人とも息のあったコンビネーションだよね」わかったような口調でよくわからないことを言う入江。
激しく突きながら両の乳房を鷲掴みにしている音無を見て、もうそろそろ余裕がなくなってきたな、と岩沢は思った。
腰の振りがだんだんと速くなっていく。
男の腰の動きが激しくなればなるほど、こっちも快感の度合いが増してゆくのを、岩沢は知っていた。
（…そんなに腰が跳ねるほど嬉しいの？ そんなに気持ちいいの、ねぇ？ 音無？）
友人の官能的なボディラインが次第に艶を帯びはじめ、淫らな女の肉体に変貌してゆくのを岩沢は見守った。
官能に身を任せ、アンアン喘ぎながらウネウネと腰を振りまくる親友の姿は、溜め息が洩れるほどエロかった。
音無の腰の動きに合わせて、尻の筋肉がくいっくいっとリズミカルに絞られるように動くのを、少女たちは魅入られたように眺めた。
ふと、関根が思いついたように言った。
「でもさー、あたしたちって若くして死んじゃったけど、その代わりに、ここで永遠に若いままでこうやって色々楽しめるんだから、
これってけっこうお得だよね」
「あたし、年取ったことないから分からないよ…」ひたいに手を当てて考え込む入江。
「それにしても音無のやつ、疲れ知らずのファッキングマシーンだぜ」腕を組んでうんうんとうなづく関根。
（これって、いったい何やってるんだろう…）と岩沢は思った。
死んでしまったのだから、あたしたちにはもう、種の保存とか生物的な本能とかは関係ないはずだ。
美しいパートナーが欲しい、出世したい、他人が羨ましい… そういった生きてた頃に心を占めていたもろもろの感情も、死んだ今となっては
何の意味も無い、ただ通り過ぎるものだということが分かっている。
（じゃあなんで、こうやって刹那的な快楽に身をゆだねてるんだろう？）
肉的な存在を謳歌することに、何の意味があるというのか。
ここの暮らしでは、わたしたちは永遠に若いままだ。いまさっき生まれ落ちたみたいなすばらしい若者たち。永遠の十代。
でもここにはもう子どもの頃感じた日々の新鮮さはない。ここには成長も成熟もない。何も起こらない日々。牢獄のアドレッセンス。
いつも若さと共にあったかつての無邪気さは、シニシズムに取って代わられた。
生きる喜びや恋の予感、未来への希望や胸の高鳴りなどといったものは、失われた人生と共にとっくに遠い彼方に消えてしまった。
それでもなお魂の奥深くから湧き上がってくる、得体の知れない他者の肉体への渇望。
あたしたちはただ、自分をさらけ出す相手を欲しているだけなのかもしれない。
遊佐が前に進み出た。
「音無さん、おかわりです」
処女喪失を決めたばかりの、ガルデモが誇る麗しきギターヒーローは、ベッドのわきに座り込んでいた。
肌を上気させ、官能の波がまだ冷めやらぬ彼女のようすをよく見ると、まだかすかにピクンピクンと痙攣しているようだった。
髪を無造作に後ろでまとめ、いつもすっきりとしている首筋には、幾筋もの汗のあとがついていた。
深い息をするにつれて胸元が上下し、肌に浮き出た汗の粒が胸の谷間へと流れ落ちていった。
座ったまま、時おり身体を震わせると、その動きに合わせて、柔らかな双丘がぶるんっと揺れる。
ひさ子のお腹のあたりにかけられた精液がテラテラと光って、キャンバスに絵の具を散らしたみたいな模様を描いていた。
いつもきりっとして精悍な顔は、涙と涎でぐしゃぐしゃになってしまっていた。
見ていると、乙女の恥じらいや、破瓜への痛みといった彼女の気持ちまで、こっちに伝わってきた。
「ひさ子」
「…」
「シャワー、浴びにいこ」
ひさ子の手をとり、バスルームに向かう。
長い付合いの仲間同士、今まで誰一人エッチしたことがなかったのに、初めてがなぜか乱交パーティーになってしまった。
岩沢もひさ子もなんだかガニ股っぽくよろよろと歩いた。時々、腰ががくんと落ちる。
二人は顔を見合わせて笑った。
「こんなんで、明日のトルネード、ど〜しよ？」ひさ子が言った。
「どうって… 全員ガニ股でステージに立つしかないだろ」と岩沢。
「だよなあ」
初体験を済ませたところで、何も変わりはしない、と岩沢は思った。処女でなくなっても、自分という存在が変わってしまったわけではないから。
岩沢は聞いてみた。
「で、ひさ子… どうだった？」
「どうって？」
「だから… は･つ･た･い･け･ん」
「どうって…」ひさ子はためらっていたが、
「…おっぱい吸われながら下から突き上げられたとき、頭の中が爆発したみたいに真っ白になっちゃって…」
「うんうん」
岩沢は、ひさ子の顔を眺めた。
上気してピンク色に染まった頬が、むしゃぶりつきたいほどきれいだった。
ついさっきまでこの口をついて出ていた可愛らしいあえぎ声が思い出されて、岩沢はもやもやした感情を抑えることができないでいた。
肌を密着させると、ひさ子の身体から、若い娘がセックスしたあとの匂いがつんと漂ってきて、同性なのになんだか興奮してしまった。
（なんかあたし、思いっきり変なモノに目覚めちゃったかも知んない…）
「…なあ、岩沢」ひさ子がぼそりと言った。
「なんだ」
「セックスって、音楽に似てるなーって」
「…」
「なんつーかさあ、ライヴしてっときのエクスタシーとかとは、また違うんだけど…」
「…」
「イクときのあの感じとか」
「…ああ」岩沢はうなずいた。
岩沢は、ステージで歌っているときのウルトラ級の気持ち良さと、終わったあとの魔法が解けてしまったような空しさについて思った。
自分をまっすぐ見つめるおおぜいの瞳、歌っている自分の声、ギターを弾く指の動き、揺れる腰とステップを踏む脚… 演奏中に自分の発する音や
身体の動きやかたち、それらがいっしょくたになって皆を打ち震わせ、相手に吸収されていく。
（…むしろ、音楽ってセックスそのものだよなあ）
遊佐のよがり声が大ボリュームで聞こえてきて、二人はびっくりした。
「ああ〜ん、あんっ、はああ〜〜んんっ」
部屋じゅうにに響きわたる嬌声
タグ
このページへのコメント
とても良いです!!
続きお願いしますm(__)m
おもしろです！更新してくださーい!!