NPC女子生徒の日記
最終更新：ID:M10c33Kc1w 2012年07月04日(水) 01:46:28履歴
○月△日
今日、あのかっこいい男の子を見かけて、ひと目で好きになった。
その子は、フツ〜の男子生徒と違って、クリーム色のブレザーを着ていた。ガルデモライブのときに会場を仕切ってる人たちが着ている上着だ。
周りには、セーラー服を着た女の子が何人かいた。短めのプリーツスカートを穿いているせいで、みんな、長い脚がすっごくきれいに見える。
あんなにきれいな女の子たちに囲まれて、話しかけられてるのに、その男の子はなんか心ここにあらずといった感じだった。
友だちに聞いたら、あのブレザー着た連中はみんな、『なんとか戦線』っていう部活のことしか頭になくって、女の子と付き合う余裕なんてないらしいよって
教えてくれた。
そんなぁ〜、高校生の分際で異性に興味ないなんてありえない。あんなにかっこいいのに… ひょっとしてコレの人？
○月□日
食堂に行ったら、あの男の子が一人でご飯食べてた。思い切ってそばまで行って、『隣、座ってもいい？』って話しかけたら、オーケーしてくれた。
たわいない話だったけど、けっこう話が弾んで、印象通りの気さくなひとだった。これって脈ありい〜？ って思って、寮の部屋の番号聞こうとしたら、
紫がかった髪のキレイな女子生徒が『音無くん、ちょっと来なさいっ！』って、彼を引っ張っていっちゃった… ひょっとして、彼女？
我ながら肉食の気配が全身からあふれ出まくってたけど、今日話したことは一生忘れないよ。ってことで、その晩はしっかりひとりエッチしました。
くぅ〜、あたしってなんていじらしいんや！乙女なんや〜！
○月×日
今日は食堂で、あの子がガルデモのベースとドラムの子と一緒のテーブルにいるのを見かけた。どうやらドラム担当の薄いブルーの髪をした子が
彼に憧れてるみたいで、彼女に代わって金髪のベースの子がいろいろ話しかけてたけど、なんかダメポみたいで、ドラム担当の子が泣き出しそうになってた。
そのあと、なんだかんだで二人に引っ張られて連れてかれちゃった。彼ってば、恋愛に対しては受け身みたい。でも女の子からしたらやっぱ、男の子に
リードして欲しいよねー… ってあたしもガンバらなくっちゃ！ 彼ってモテるんだなー、こっち振り向いてくれないかな〜。
○月△日
今日、食堂であの男の子が、ガルデモの赤毛のボーカルの人とギターの背の高い人に囲まれて吊るし上げられてるのを見た。どうしたんだろって思って
聞き耳立ててたら、「てめえ、うちのメンバーに手エ出してただで済むと思ってんじゃねーよ」「この落とし前はきっちり着けてもらうからな、音無」
とか言われてて、どうやら彼ったら、あれからベースの子とドラムの子の両方とエッチしちゃったみたい。そのことが他のバンドメンバーにバレて、
シメられてるみたいだった。彼ってわりと下半身に節操がないみたい。
このまま簀巻きにされて川の主の餌にされちゃうのかな〜なんって心配しながら聞いてたら、「あいつらに先越されちゃうと、あたしらの立場がねーんだよ、わかる？」
「で、あいつらどんな具合だった？ 関根と入江のどっちが良かった？」「あたしらのコト、どう思う？」「あたしらもこいつで済まそっか」「そうだな、入江にゃ悪いけど」
とか言ってどっかに連れてかれちゃった。…彼、どうなっちゃうのかなあ…
○月□日
今日、食堂で彼を見た。なんか彼ったら、もう精も根も尽き果てて、ほとんど腎虚って感じだった。全体的に色素が薄くて、身体の向こう側が透けて
見えるみたいだった。彼の隣には金髪をツインテールにしたスッゴイ美少女がいて、オムライスを食べながら、
「だから、恋人候補の中から誰を選ぶか、いつまでも迷ってるからこんなことになるんですよ」
「今の音無さんに必要なのはちゃんとしたステディです。なんならわたしが…」とか言いながら、時おり、オムライスをすくったスプーンを
彼の口に持っていって食べさせていた。彼は口をあーんと空けて、女の子が差し出してくれるスプーンからオムライスをモグモグと食べていた。
…ちょっと、それって間接キッス？ 金髪ツインテールの子はにこにこしていた。とりあえず、彼って競争率がスッゲー高いってことはよくわかった。
○月×日
今日の球技大会に、例の彼がピッチャーで参加してた。試合中に斧みたいなのを持った怖そうな人と仲良さそうにキャッチボールしたり、
あと外野でうどん食べてる人もいたりして、なんか適当にやってる風だったけど、なんだかんだで勝ち進んで決勝まで行ってた。
最後は生徒会チームに惜しくもサヨナラ負けしちゃったけど、最後になにやら大声で叫びながら青い髪の男の子のほうに駆け寄っていく彼を見て、
「ああ、やっぱ彼ってコレの人かも…」って思っちゃった。
彼のチームには、いつも学園構内でストリートライヴやってる小悪魔のコスしたピンク色の髪の女の子と、彼女の知り合いらしい娘が三人参加してたんだけど、
試合のあと、打ち上げ行こうとかいって彼にお持ち帰りされてた。あ〜あ、あたしもついて行きたかったな〜。
○月△日
例の男の子と一緒に野球してたピンク頭の子から聞いたんだけど、どうやら今夜あたり、あたしの大だいっっっっっ好きなガルデモが恒例のゲリラライヴを
やるらしいとなりゃ、そりゃあ行かないわけにいきません。
前列確保しとこうと思って、急いで会場の大食堂に行ったら、もうスピーカーやら照明やら設置されてて、すっかり準備万端整っててスッゴいドキドキした。
フロアにはＧＤＭのＴシャツ着てるオタクっぽい人がウロウロしてて、ガルデモのメンバーがいないか探しながら右往左往してる。つかお前らどっから湧いてきた（笑）。
と、食堂の照明がふっと消えた。みんながどよめく。そして、クロウソングのイントロが流れた瞬間、大食堂がぐわぁぁぁぁぁああああって鳴って、
き、きた ー───ヽ(ﾟ▽ﾟ)ﾉ ───って、みーんな超興奮！！！！
照明がピカピカまぶしくてカオとかよくわかんないんだけど、相変わらずボーカルの赤毛の人かっこよすぎ！！なんてゆーかポップでお洒落で可愛くって
アングラっぽくて頭のネジすこーし外れちゃっててイイ感じにトチ狂っててかっこいい、みたいなｗ
なんかチャラい感じのベースの子も、長い金髪振り乱しながらステージじゅうをぴょんぴょん跳ねるようにステップ踏んでた。白いタイツ穿いた脚がよく動くこと動くこと。
向かって右側にいるギター弾いてる長身のひとも、いざソロが回ってきたら、ぎゅぎゅぎゅいぃー──っんって超絶ギターテクかましまくって、メッチャかっこよかった。
マジで音源欲しいわ。放送部がこれ録って昼休みとかに流してくれないかな。
そうこうするうちに最前列でピケ張ってるセキュリティのブレザー服の中にあの男の子ハッケン！ モッシュを掻き分けつつ、すかさずその前に移動するワタシ（笑）。
「お前ら、ヲタ芸禁止だって言ってんだろ！ 聞こえねーのかよ！」ってよく通る美声で叫んでた。そんなん聞こえてるわけないっつーの。
どさくさに紛れて抱きつこうとしたんだけど、周りで押し合いへし合いしてるＧＤＭヲタの渦に巻き込まれて顔とか背中とかドッカドカ強打されて、思わずクラッとして
へたり込んだら、その子が助けてくれた。
「おい、大丈夫か？ …あ、鼻から血出てるぞ」
…あんたに抱かれたせいです。
やっぱ男前だったー。ますます惚れ直しちゃった。
ライヴのあとも残ってその辺ウロウロしてたら、上のフロアであの男の子がほかのブレザー服やガルデモメンバーと仲良くメシ食ってんの見ちゃった。
くっそ〜、あたしも入りてぇ〜。
部屋に帰ってシャワー浴びたら身体じゅう痣だらけｗ ま、あしたには元に戻るんだけどね。
○月□日
テスト期間が終わってしばらく経ったある日。そのショッキングな事件は起こった。
夕方から降り始めた雨は次第に勢いを増し、夜にはドシャ降りになっていた。
あたしはクラス委員のヤボ用で帰るのが遅くなって、滝のような大雨が降るなか、学習棟の出口で雨宿りをしながら、学園の敷地の外に広がる真っ黒な影のような
林を眺めてた。
時おりピカッと雷が走る。
と、背後になんか気配がしたので振り返ったら、いつの間にかロビーに男子生徒の一団がいた。腕には生徒会の白い腕章を付けていて… なんと、皆さん手に手に
鉄砲を持ってらっしゃる。え〜と… この雨の中、サバゲですか？
みんな押し黙ってて、じっと動かない。よ〜く見ると、み〜んな夢遊病者みたいに目がうつろ。ナニこのヤバそ〜な集団…
と、先頭にいた学帽被ったヤツが口を開いた。このあいだ朝礼で紹介された、新しい生徒会長だ。…コイツ、前から評判悪りいんだよな。
「ちょうどいい、人質に使える… おい、コイツを捕まえろ」
数人がこっちに手を伸ばした。あたしは持ってたカバンをそいつらに思いっきり叩きつけると、降りしきる雨の中に飛び出した。
「止まれ！」
…ピュン！！ あたしの顔の横をなにかがかすめ、それと同時に後ろから銃声がした… ってアレってモノホンじゃん！？
あたしはグラウンドへと続く階段を転がり落ちるようにして降り、すぐ右手にある水飲み場の影に飛び込んだ。
上のほうから、
「この馬鹿者、せっかくの奇襲をパーにしおって！ こうなったら急いで校長室に突入するぞ！」って新生徒会長の声がして、
大勢が雨の中をばしゃばしゃと走っていく音がした。
あたしが水飲み場の影でふるえてると、誰かが階段を下りてくる足音が聞こえた。あたしは腰が抜けちゃって、その場から動けなかった。
やがて、そいつが姿を現わした。けん銃を持った手をまっすぐこっちに向けてた。
その時、教員棟の三階の窓がガシャーンって割れて、中から見たことないほどでっかい金づちが勢いよく飛び出してきて、何人かの学ランを空中高くはじき飛ばした。
まるでギャグマンガみたいにシュールな光景に、あたしの中で何かがプチッと切れた。
銃を持ったそいつが後ろを向いた隙に、あたしは無我夢中でそいつに飛びかかった。そいつがあお向けに倒れた時にゴツンっていや〜な音がして、それっきりそいつは
動かなくなった。
恐る恐る覗きこむと、そいつの頭の周りにできた血溜まりが雨にうたれてゆっくり広がっていくのが見えた。
逃げ出しかけたあたしは、その場で少し考えてから、そいつの落としたけん銃を拾い上げた。武器が欲しかったんじゃなくて、なんとなくそいつがムックリ起き上がって
また追いかけてくるような気がしたからだ。
この学園では、科学的に説明のつかないおかしな現象が起こる。ひどい大けがをしたはずの生徒が、翌日になったらぴんぴんして授業に出てたなんてことがしょっちゅうある。
サッカーの練習で足の骨を折って担架で運ばれていった男子が、次の日には松葉杖どころか普通にグラウンドを走り回ってたりする。
だからあたしは、動かなくなったそいつから、けん銃を取り上げておこうと思ったのだった。
元来た階段をまた上っていって、教員棟のほうを見てみると、銃を発射した火花が建物の中でパッパッと光るのが窓からみえた。
さっきの巨大金づちが、壊れた窓の向こうでまだゆっくり揺れていた。
建物の外に放り出された奴らが、あっちこっちにぶっ倒れている。
どこか隠れるところはないかとぐるりと見回したあたしは、取り敢えず学習棟の中に戻ることにした。
足音を立てないように忍び足で廊下を歩いていると、向こうのほうから数人の足音が聞こえてきたので、あたしはとっさに近くの教室に飛び込んだ。
窓からそっと外をうかがっていると、そいつらが教室の前まで来た。
なんとガルデモの人たちが数人の学ランに引き立てられていくところだった。あの小悪魔コスのピンク頭の子や、金髪ツインテールの子もいっしょだ。
…みんな、頭に銃を突きつけられている。
タイヘンだ！ …なんとかしなきゃ、みんなを助けなきゃ！
あたしはドアを開け、学ランの一人めがけて撃った。そいつの背中にボコッと黒い穴が開いて、学生服からパッと埃が舞った。
そいつは糸の切れた操り人形みたいに、その場にがっくりと崩れ落ちた。
そのあと何が起きたのか、あたしにはよくわからない。赤毛のボーカルの人が学ランの一人にタックルしたと思うと、ギターの背の高い人が別の奴に頭突きを食らわして
ベースの子が最後の一人に金蹴りかまして、そいつがうずくまったところをドラムの子が両手でそいつの頭を掴んで、アゴに思いっきり膝蹴り叩き込んでた。
気がつくと、学ラン全員がリノリウムの床に転がってて、ガルデモの人たちが奪い取った銃をそいつらに突きつけていた。
「予備の弾倉もいただいとけ」けん銃の狙いをつけたままギタリストの人が言い、ベースの人とドラムの人が学ランたちのポケットをまさぐった。
彼女たちが奪ったマガジンをスカートのへりに差すのを見ながら、あたしもさっき銃を奪ったときに一緒に取っておくんだったと思った。
金髪ツインテールの子は、何ごとも無かったように落ち着き払って、ヘッドセットに向かって何やらしゃべっている。
「くぬやろっ、くぬやろっ」ピンク色の髪の子が学ランにガシガシと蹴りを入れている。
赤毛のボーカルの人は、なんだか手馴れたようすでけん銃をあちこち操作して何やら確認したあと、あたしのほうを向いた。
「サンキュー、あんたのおかげで助かった… いつもライブ見に来てくれてる人だよね」
「あ… あたし…」
あたしの視線の先に気がついたのか、赤毛の人は撃たれた学ランのほうを向いて言った。
「気にしなくていい… どうせ生き返るから」
「生き返るって、それってどういう…」あたしが言いかけると、彼女に向かって金髪ツインテールの子が
「岩沢さん、本部と連絡が取れません」と言った。
岩沢と呼ばれた赤毛の人は、しばらく思案げな顔をしたあと、ぐるっと皆を見回した。
「…よし、あたしたちはこれから独断専行する」
ギタリストの人が倒れている学ランの襟をぐっと引っ張り、詰問した。
「テメエら何モンだ！？ 何のつもりでこんな…」
ガクガクと頭を揺すぶられながら、そいつは無表情なままだった。
「こいつら、クスリかなんかキメてんじゃないッスか？」とベースの子。
小悪魔コスの子に次々延髄切りを叩き込まれて動かなくなった生徒会連中をあとにして、あたしたちは出口のほうに移動した。
先頭を行くギタリストの人は、まるで犯人のアジトに突入する刑事みたいにまっすぐ銃をかまえ、行く先々の安全を確認しながら進み、
あたしたちはそのあとについていった。
玄関には数人の生徒会員がうずくまっていた。よく見ると、その中にあたしをグラウンドまで追いかけてきた顔があった。
自分の目が信じられなかった。何がなんだかわからない。
彼らは皆、疲れ切ったようすでうなだれていた。顔を上げ、あたしたちの姿を見ると
「うおっ、ガルデモだ」「マジで本人？」とざわめいたが、あたしたちが手に持った銃をみると口をつぐんで、あとずさった。
「あんたたち、誰の命令であたしたちの仲間を襲った？」そいつらに銃口を向けながら、岩沢さんが訊いた。あとの三人のバンドメンバーも同じように
銃をかまえる。
「しっ知らないっ… 俺たちは今日になって急に、会長の直井さんに召集されたんだ｣
「みんなで生徒会室に集合してたら、直井さんが入って来て… そのあとのことは何も覚えてない…」
「気がついたら俺たち、血まみれになって雨の中に倒れてたんだ」
あたしは、見覚えのある少年に訊いてみた。
「あんた、さっきあたしを撃とうとしたの、覚えてる？」
「知らないよそんなの！」
「ポケットの中にある予備の弾をちょうだい」
「え… いつの間にこんなモノが？」
そいつの手からマガジンをひったくると、ブレザーのポケットにしまい込む。
校舎の入り口の真っ黒い雨空を背にして、黒っぽい服の人影がゆらりとあらわれた。
「岩沢、来たぜっ！」
「…テイク･カバー！」
ガルデモのメンバーたちが飛びすさって遮蔽物のかげに隠れるのと同時に、マシンガンの断続的な音があたりの空気を切り裂いた。
弾丸の嵐が座り込んでいた学ランたちに襲いかかり、ずたずたの肉塊に変えていく。
あたしの目の前にいた男子が蜂の巣にされ、手足がばらばらになって吹っ飛んた。
あたしは床に伏せながら、そいつに向けてめくらめっぽうに撃ちまくった。
周りの床に弾丸がぶすぶすとめり込み、あたり一面に破片が舞いあがって前がよく見えない。
弾が切れた。予備のマガジンを取り出したものの、どうやって装填すればいいのかわからなかった。
ふっと銃声が止んだ。気がつくと、入り口の人影は倒れていた。
「クリアー！」ベースの人の声がした。
「しおりんナイスシュートォ！」とドラムの人。
岩沢さんとギタリストの人はグッキル、グッキルと口々に言い、CSIのケイン警部補みたいに銃をかまえながら、ゆっくりとそいつに近づいていった。
「こいつの銃… 藤巻が使ってる奴じゃねえか？」
「ああ、ペペーシャだ。…つーことは」
「本隊の連中がヤラれた」
ギタリストの人は奪取したマシンガンを金髪ツインテールの子に渡すと、外の薄闇の奥を用心深くうかがった。
金髪ツインテールの子は相変わらず無表情のままで、ドラムマガジンを引き抜き、カラカラと振って残弾数を確認していた。
ベースの子があたしのそばに来て、リロードのやり方を教えてくれた。
「撃たれなくて良かったね」
「これって、あなたが持ってたほうが役に立つんじゃない？」
「いやいや〜、あんたけっこう度胸あるし〜」
…だって、死んじゃっても生き返れるってわかっちゃったら、なんぼでも命知らずになるって。
「あ、あれって記憶無し男…」
「ほんとだ… あの野郎、なんで天使なんかと？」
岩沢さんとギタリストの人の声に、あたしが外のほうを見ると、あのカッコいい男の子が前生徒会長と一緒に、グラウンドに下りていくところだった。
ガルデモの人たちに続いて、あたしも雨の降りしきる外に出た。
ナイトゲーム用の照明にこうこうと照らし出されたグラウンドは血の海だった。
ガルデモの会場を警備してるブレザーの人たちがあちこちに無残な姿をさらしてて、そのあいだに生徒会の連中がぼんやりと立ちすくんでいた。
「あいつら何やってんだ？」ギタリストの人が言った。
「さあ…」と岩沢さん。
「あれって死んだ振りして遊んでるんっスか？」とベースの子。
「一応マジで死んでるんじゃない、しおりん」とドラムの子。
「ゆりっぺさん… 死んだ姿も魅力的です…」金髪ツインテールの子がアブナいことを呟いて、ベースとドラムの子が引いてた。
「あんなことしても意味無いってのに…」
岩沢さんの言う、意味無いってことが今のあたしにもわかった。何べん殺されても何度でもよみがえる存在をあやめたところで何の意味も無い。
例の男の子は倒れている青い髪の少年に駆け寄ると、彼を抱き起こした。それを見ながらあたしは、あーやっぱり彼ってコレなのねーって思った。
前生徒会長がなんかドラゴンボールみたいにブレザーの袖口から剣を生やしたかと思うと、目にも留まらぬ動きであっという間に生徒会の連中を制圧した。
例の男の子は新生徒会長を殴り倒したあと、覆い被さるようにして抱きしめていた。
雨音に二人の話し声がかき消されてしまって、会話のディテールは聞こえなかったが、彼が泣いているのはわかった。
前生徒会長は剣を袖口にしまうと、こちらを見上げて、その金色の瞳でじっとあたしたちを見つめた。
あたしは階段の上に立ちすくんで、目の前の信じられない現実を眺めていた。
今日、あのかっこいい男の子を見かけて、ひと目で好きになった。
その子は、フツ〜の男子生徒と違って、クリーム色のブレザーを着ていた。ガルデモライブのときに会場を仕切ってる人たちが着ている上着だ。
周りには、セーラー服を着た女の子が何人かいた。短めのプリーツスカートを穿いているせいで、みんな、長い脚がすっごくきれいに見える。
あんなにきれいな女の子たちに囲まれて、話しかけられてるのに、その男の子はなんか心ここにあらずといった感じだった。
友だちに聞いたら、あのブレザー着た連中はみんな、『なんとか戦線』っていう部活のことしか頭になくって、女の子と付き合う余裕なんてないらしいよって
教えてくれた。
そんなぁ〜、高校生の分際で異性に興味ないなんてありえない。あんなにかっこいいのに… ひょっとしてコレの人？
○月□日
食堂に行ったら、あの男の子が一人でご飯食べてた。思い切ってそばまで行って、『隣、座ってもいい？』って話しかけたら、オーケーしてくれた。
たわいない話だったけど、けっこう話が弾んで、印象通りの気さくなひとだった。これって脈ありい〜？ って思って、寮の部屋の番号聞こうとしたら、
紫がかった髪のキレイな女子生徒が『音無くん、ちょっと来なさいっ！』って、彼を引っ張っていっちゃった… ひょっとして、彼女？
我ながら肉食の気配が全身からあふれ出まくってたけど、今日話したことは一生忘れないよ。ってことで、その晩はしっかりひとりエッチしました。
くぅ〜、あたしってなんていじらしいんや！乙女なんや〜！
○月×日
今日は食堂で、あの子がガルデモのベースとドラムの子と一緒のテーブルにいるのを見かけた。どうやらドラム担当の薄いブルーの髪をした子が
彼に憧れてるみたいで、彼女に代わって金髪のベースの子がいろいろ話しかけてたけど、なんかダメポみたいで、ドラム担当の子が泣き出しそうになってた。
そのあと、なんだかんだで二人に引っ張られて連れてかれちゃった。彼ってば、恋愛に対しては受け身みたい。でも女の子からしたらやっぱ、男の子に
リードして欲しいよねー… ってあたしもガンバらなくっちゃ！ 彼ってモテるんだなー、こっち振り向いてくれないかな〜。
○月△日
今日、食堂であの男の子が、ガルデモの赤毛のボーカルの人とギターの背の高い人に囲まれて吊るし上げられてるのを見た。どうしたんだろって思って
聞き耳立ててたら、「てめえ、うちのメンバーに手エ出してただで済むと思ってんじゃねーよ」「この落とし前はきっちり着けてもらうからな、音無」
とか言われてて、どうやら彼ったら、あれからベースの子とドラムの子の両方とエッチしちゃったみたい。そのことが他のバンドメンバーにバレて、
シメられてるみたいだった。彼ってわりと下半身に節操がないみたい。
このまま簀巻きにされて川の主の餌にされちゃうのかな〜なんって心配しながら聞いてたら、「あいつらに先越されちゃうと、あたしらの立場がねーんだよ、わかる？」
「で、あいつらどんな具合だった？ 関根と入江のどっちが良かった？」「あたしらのコト、どう思う？」「あたしらもこいつで済まそっか」「そうだな、入江にゃ悪いけど」
とか言ってどっかに連れてかれちゃった。…彼、どうなっちゃうのかなあ…
○月□日
今日、食堂で彼を見た。なんか彼ったら、もう精も根も尽き果てて、ほとんど腎虚って感じだった。全体的に色素が薄くて、身体の向こう側が透けて
見えるみたいだった。彼の隣には金髪をツインテールにしたスッゴイ美少女がいて、オムライスを食べながら、
「だから、恋人候補の中から誰を選ぶか、いつまでも迷ってるからこんなことになるんですよ」
「今の音無さんに必要なのはちゃんとしたステディです。なんならわたしが…」とか言いながら、時おり、オムライスをすくったスプーンを
彼の口に持っていって食べさせていた。彼は口をあーんと空けて、女の子が差し出してくれるスプーンからオムライスをモグモグと食べていた。
…ちょっと、それって間接キッス？ 金髪ツインテールの子はにこにこしていた。とりあえず、彼って競争率がスッゲー高いってことはよくわかった。
○月×日
今日の球技大会に、例の彼がピッチャーで参加してた。試合中に斧みたいなのを持った怖そうな人と仲良さそうにキャッチボールしたり、
あと外野でうどん食べてる人もいたりして、なんか適当にやってる風だったけど、なんだかんだで勝ち進んで決勝まで行ってた。
最後は生徒会チームに惜しくもサヨナラ負けしちゃったけど、最後になにやら大声で叫びながら青い髪の男の子のほうに駆け寄っていく彼を見て、
「ああ、やっぱ彼ってコレの人かも…」って思っちゃった。
彼のチームには、いつも学園構内でストリートライヴやってる小悪魔のコスしたピンク色の髪の女の子と、彼女の知り合いらしい娘が三人参加してたんだけど、
試合のあと、打ち上げ行こうとかいって彼にお持ち帰りされてた。あ〜あ、あたしもついて行きたかったな〜。
○月△日
例の男の子と一緒に野球してたピンク頭の子から聞いたんだけど、どうやら今夜あたり、あたしの大だいっっっっっ好きなガルデモが恒例のゲリラライヴを
やるらしいとなりゃ、そりゃあ行かないわけにいきません。
前列確保しとこうと思って、急いで会場の大食堂に行ったら、もうスピーカーやら照明やら設置されてて、すっかり準備万端整っててスッゴいドキドキした。
フロアにはＧＤＭのＴシャツ着てるオタクっぽい人がウロウロしてて、ガルデモのメンバーがいないか探しながら右往左往してる。つかお前らどっから湧いてきた（笑）。
と、食堂の照明がふっと消えた。みんながどよめく。そして、クロウソングのイントロが流れた瞬間、大食堂がぐわぁぁぁぁぁああああって鳴って、
き、きた ー───ヽ(ﾟ▽ﾟ)ﾉ ───って、みーんな超興奮！！！！
照明がピカピカまぶしくてカオとかよくわかんないんだけど、相変わらずボーカルの赤毛の人かっこよすぎ！！なんてゆーかポップでお洒落で可愛くって
アングラっぽくて頭のネジすこーし外れちゃっててイイ感じにトチ狂っててかっこいい、みたいなｗ
なんかチャラい感じのベースの子も、長い金髪振り乱しながらステージじゅうをぴょんぴょん跳ねるようにステップ踏んでた。白いタイツ穿いた脚がよく動くこと動くこと。
向かって右側にいるギター弾いてる長身のひとも、いざソロが回ってきたら、ぎゅぎゅぎゅいぃー──っんって超絶ギターテクかましまくって、メッチャかっこよかった。
マジで音源欲しいわ。放送部がこれ録って昼休みとかに流してくれないかな。
そうこうするうちに最前列でピケ張ってるセキュリティのブレザー服の中にあの男の子ハッケン！ モッシュを掻き分けつつ、すかさずその前に移動するワタシ（笑）。
「お前ら、ヲタ芸禁止だって言ってんだろ！ 聞こえねーのかよ！」ってよく通る美声で叫んでた。そんなん聞こえてるわけないっつーの。
どさくさに紛れて抱きつこうとしたんだけど、周りで押し合いへし合いしてるＧＤＭヲタの渦に巻き込まれて顔とか背中とかドッカドカ強打されて、思わずクラッとして
へたり込んだら、その子が助けてくれた。
「おい、大丈夫か？ …あ、鼻から血出てるぞ」
…あんたに抱かれたせいです。
やっぱ男前だったー。ますます惚れ直しちゃった。
ライヴのあとも残ってその辺ウロウロしてたら、上のフロアであの男の子がほかのブレザー服やガルデモメンバーと仲良くメシ食ってんの見ちゃった。
くっそ〜、あたしも入りてぇ〜。
部屋に帰ってシャワー浴びたら身体じゅう痣だらけｗ ま、あしたには元に戻るんだけどね。
○月□日
テスト期間が終わってしばらく経ったある日。そのショッキングな事件は起こった。
夕方から降り始めた雨は次第に勢いを増し、夜にはドシャ降りになっていた。
あたしはクラス委員のヤボ用で帰るのが遅くなって、滝のような大雨が降るなか、学習棟の出口で雨宿りをしながら、学園の敷地の外に広がる真っ黒な影のような
林を眺めてた。
時おりピカッと雷が走る。
と、背後になんか気配がしたので振り返ったら、いつの間にかロビーに男子生徒の一団がいた。腕には生徒会の白い腕章を付けていて… なんと、皆さん手に手に
鉄砲を持ってらっしゃる。え〜と… この雨の中、サバゲですか？
みんな押し黙ってて、じっと動かない。よ〜く見ると、み〜んな夢遊病者みたいに目がうつろ。ナニこのヤバそ〜な集団…
と、先頭にいた学帽被ったヤツが口を開いた。このあいだ朝礼で紹介された、新しい生徒会長だ。…コイツ、前から評判悪りいんだよな。
「ちょうどいい、人質に使える… おい、コイツを捕まえろ」
数人がこっちに手を伸ばした。あたしは持ってたカバンをそいつらに思いっきり叩きつけると、降りしきる雨の中に飛び出した。
「止まれ！」
…ピュン！！ あたしの顔の横をなにかがかすめ、それと同時に後ろから銃声がした… ってアレってモノホンじゃん！？
あたしはグラウンドへと続く階段を転がり落ちるようにして降り、すぐ右手にある水飲み場の影に飛び込んだ。
上のほうから、
「この馬鹿者、せっかくの奇襲をパーにしおって！ こうなったら急いで校長室に突入するぞ！」って新生徒会長の声がして、
大勢が雨の中をばしゃばしゃと走っていく音がした。
あたしが水飲み場の影でふるえてると、誰かが階段を下りてくる足音が聞こえた。あたしは腰が抜けちゃって、その場から動けなかった。
やがて、そいつが姿を現わした。けん銃を持った手をまっすぐこっちに向けてた。
その時、教員棟の三階の窓がガシャーンって割れて、中から見たことないほどでっかい金づちが勢いよく飛び出してきて、何人かの学ランを空中高くはじき飛ばした。
まるでギャグマンガみたいにシュールな光景に、あたしの中で何かがプチッと切れた。
銃を持ったそいつが後ろを向いた隙に、あたしは無我夢中でそいつに飛びかかった。そいつがあお向けに倒れた時にゴツンっていや〜な音がして、それっきりそいつは
動かなくなった。
恐る恐る覗きこむと、そいつの頭の周りにできた血溜まりが雨にうたれてゆっくり広がっていくのが見えた。
逃げ出しかけたあたしは、その場で少し考えてから、そいつの落としたけん銃を拾い上げた。武器が欲しかったんじゃなくて、なんとなくそいつがムックリ起き上がって
また追いかけてくるような気がしたからだ。
この学園では、科学的に説明のつかないおかしな現象が起こる。ひどい大けがをしたはずの生徒が、翌日になったらぴんぴんして授業に出てたなんてことがしょっちゅうある。
サッカーの練習で足の骨を折って担架で運ばれていった男子が、次の日には松葉杖どころか普通にグラウンドを走り回ってたりする。
だからあたしは、動かなくなったそいつから、けん銃を取り上げておこうと思ったのだった。
元来た階段をまた上っていって、教員棟のほうを見てみると、銃を発射した火花が建物の中でパッパッと光るのが窓からみえた。
さっきの巨大金づちが、壊れた窓の向こうでまだゆっくり揺れていた。
建物の外に放り出された奴らが、あっちこっちにぶっ倒れている。
どこか隠れるところはないかとぐるりと見回したあたしは、取り敢えず学習棟の中に戻ることにした。
足音を立てないように忍び足で廊下を歩いていると、向こうのほうから数人の足音が聞こえてきたので、あたしはとっさに近くの教室に飛び込んだ。
窓からそっと外をうかがっていると、そいつらが教室の前まで来た。
なんとガルデモの人たちが数人の学ランに引き立てられていくところだった。あの小悪魔コスのピンク頭の子や、金髪ツインテールの子もいっしょだ。
…みんな、頭に銃を突きつけられている。
タイヘンだ！ …なんとかしなきゃ、みんなを助けなきゃ！
あたしはドアを開け、学ランの一人めがけて撃った。そいつの背中にボコッと黒い穴が開いて、学生服からパッと埃が舞った。
そいつは糸の切れた操り人形みたいに、その場にがっくりと崩れ落ちた。
そのあと何が起きたのか、あたしにはよくわからない。赤毛のボーカルの人が学ランの一人にタックルしたと思うと、ギターの背の高い人が別の奴に頭突きを食らわして
ベースの子が最後の一人に金蹴りかまして、そいつがうずくまったところをドラムの子が両手でそいつの頭を掴んで、アゴに思いっきり膝蹴り叩き込んでた。
気がつくと、学ラン全員がリノリウムの床に転がってて、ガルデモの人たちが奪い取った銃をそいつらに突きつけていた。
「予備の弾倉もいただいとけ」けん銃の狙いをつけたままギタリストの人が言い、ベースの人とドラムの人が学ランたちのポケットをまさぐった。
彼女たちが奪ったマガジンをスカートのへりに差すのを見ながら、あたしもさっき銃を奪ったときに一緒に取っておくんだったと思った。
金髪ツインテールの子は、何ごとも無かったように落ち着き払って、ヘッドセットに向かって何やらしゃべっている。
「くぬやろっ、くぬやろっ」ピンク色の髪の子が学ランにガシガシと蹴りを入れている。
赤毛のボーカルの人は、なんだか手馴れたようすでけん銃をあちこち操作して何やら確認したあと、あたしのほうを向いた。
「サンキュー、あんたのおかげで助かった… いつもライブ見に来てくれてる人だよね」
「あ… あたし…」
あたしの視線の先に気がついたのか、赤毛の人は撃たれた学ランのほうを向いて言った。
「気にしなくていい… どうせ生き返るから」
「生き返るって、それってどういう…」あたしが言いかけると、彼女に向かって金髪ツインテールの子が
「岩沢さん、本部と連絡が取れません」と言った。
岩沢と呼ばれた赤毛の人は、しばらく思案げな顔をしたあと、ぐるっと皆を見回した。
「…よし、あたしたちはこれから独断専行する」
ギタリストの人が倒れている学ランの襟をぐっと引っ張り、詰問した。
「テメエら何モンだ！？ 何のつもりでこんな…」
ガクガクと頭を揺すぶられながら、そいつは無表情なままだった。
「こいつら、クスリかなんかキメてんじゃないッスか？」とベースの子。
小悪魔コスの子に次々延髄切りを叩き込まれて動かなくなった生徒会連中をあとにして、あたしたちは出口のほうに移動した。
先頭を行くギタリストの人は、まるで犯人のアジトに突入する刑事みたいにまっすぐ銃をかまえ、行く先々の安全を確認しながら進み、
あたしたちはそのあとについていった。
玄関には数人の生徒会員がうずくまっていた。よく見ると、その中にあたしをグラウンドまで追いかけてきた顔があった。
自分の目が信じられなかった。何がなんだかわからない。
彼らは皆、疲れ切ったようすでうなだれていた。顔を上げ、あたしたちの姿を見ると
「うおっ、ガルデモだ」「マジで本人？」とざわめいたが、あたしたちが手に持った銃をみると口をつぐんで、あとずさった。
「あんたたち、誰の命令であたしたちの仲間を襲った？」そいつらに銃口を向けながら、岩沢さんが訊いた。あとの三人のバンドメンバーも同じように
銃をかまえる。
「しっ知らないっ… 俺たちは今日になって急に、会長の直井さんに召集されたんだ｣
「みんなで生徒会室に集合してたら、直井さんが入って来て… そのあとのことは何も覚えてない…」
「気がついたら俺たち、血まみれになって雨の中に倒れてたんだ」
あたしは、見覚えのある少年に訊いてみた。
「あんた、さっきあたしを撃とうとしたの、覚えてる？」
「知らないよそんなの！」
「ポケットの中にある予備の弾をちょうだい」
「え… いつの間にこんなモノが？」
そいつの手からマガジンをひったくると、ブレザーのポケットにしまい込む。
校舎の入り口の真っ黒い雨空を背にして、黒っぽい服の人影がゆらりとあらわれた。
「岩沢、来たぜっ！」
「…テイク･カバー！」
ガルデモのメンバーたちが飛びすさって遮蔽物のかげに隠れるのと同時に、マシンガンの断続的な音があたりの空気を切り裂いた。
弾丸の嵐が座り込んでいた学ランたちに襲いかかり、ずたずたの肉塊に変えていく。
あたしの目の前にいた男子が蜂の巣にされ、手足がばらばらになって吹っ飛んた。
あたしは床に伏せながら、そいつに向けてめくらめっぽうに撃ちまくった。
周りの床に弾丸がぶすぶすとめり込み、あたり一面に破片が舞いあがって前がよく見えない。
弾が切れた。予備のマガジンを取り出したものの、どうやって装填すればいいのかわからなかった。
ふっと銃声が止んだ。気がつくと、入り口の人影は倒れていた。
「クリアー！」ベースの人の声がした。
「しおりんナイスシュートォ！」とドラムの人。
岩沢さんとギタリストの人はグッキル、グッキルと口々に言い、CSIのケイン警部補みたいに銃をかまえながら、ゆっくりとそいつに近づいていった。
「こいつの銃… 藤巻が使ってる奴じゃねえか？」
「ああ、ペペーシャだ。…つーことは」
「本隊の連中がヤラれた」
ギタリストの人は奪取したマシンガンを金髪ツインテールの子に渡すと、外の薄闇の奥を用心深くうかがった。
金髪ツインテールの子は相変わらず無表情のままで、ドラムマガジンを引き抜き、カラカラと振って残弾数を確認していた。
ベースの子があたしのそばに来て、リロードのやり方を教えてくれた。
「撃たれなくて良かったね」
「これって、あなたが持ってたほうが役に立つんじゃない？」
「いやいや〜、あんたけっこう度胸あるし〜」
…だって、死んじゃっても生き返れるってわかっちゃったら、なんぼでも命知らずになるって。
「あ、あれって記憶無し男…」
「ほんとだ… あの野郎、なんで天使なんかと？」
岩沢さんとギタリストの人の声に、あたしが外のほうを見ると、あのカッコいい男の子が前生徒会長と一緒に、グラウンドに下りていくところだった。
ガルデモの人たちに続いて、あたしも雨の降りしきる外に出た。
ナイトゲーム用の照明にこうこうと照らし出されたグラウンドは血の海だった。
ガルデモの会場を警備してるブレザーの人たちがあちこちに無残な姿をさらしてて、そのあいだに生徒会の連中がぼんやりと立ちすくんでいた。
「あいつら何やってんだ？」ギタリストの人が言った。
「さあ…」と岩沢さん。
「あれって死んだ振りして遊んでるんっスか？」とベースの子。
「一応マジで死んでるんじゃない、しおりん」とドラムの子。
「ゆりっぺさん… 死んだ姿も魅力的です…」金髪ツインテールの子がアブナいことを呟いて、ベースとドラムの子が引いてた。
「あんなことしても意味無いってのに…」
岩沢さんの言う、意味無いってことが今のあたしにもわかった。何べん殺されても何度でもよみがえる存在をあやめたところで何の意味も無い。
例の男の子は倒れている青い髪の少年に駆け寄ると、彼を抱き起こした。それを見ながらあたしは、あーやっぱり彼ってコレなのねーって思った。
前生徒会長がなんかドラゴンボールみたいにブレザーの袖口から剣を生やしたかと思うと、目にも留まらぬ動きであっという間に生徒会の連中を制圧した。
例の男の子は新生徒会長を殴り倒したあと、覆い被さるようにして抱きしめていた。
雨音に二人の話し声がかき消されてしまって、会話のディテールは聞こえなかったが、彼が泣いているのはわかった。
前生徒会長は剣を袖口にしまうと、こちらを見上げて、その金色の瞳でじっとあたしたちを見つめた。
あたしは階段の上に立ちすくんで、目の前の信じられない現実を眺めていた。
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