こちらでは、ワイくんとのあらゆるカップリングを妄想しssとして綴っていく場所です！
どしどしssを載せていってくださいね！
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(例)
東郷美森×ワイくん(タイトル)
以下、ssという感じでお願いします。
そして載せる際は、下の線の後に書いていただけたら幸いです。
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東郷美森×ワイくん(タイトル)
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たかしー×ワイの皮を被ったぐんちゃん×ワイ
「ん…、…あれ、友奈？」
「あ、起こしちゃった？
…疲れてそうだったから、つい」
ぼやけた目の前には暖かな木漏れ日、と見知った友奈の顔
今更ながら友奈に膝枕されていたことに気づいて、慌てて体を起こした。
「もうちょっと寝ててもよかったんだよ？」
「いや、流石に恥ずかしいよ」
顔が紅潮してしまっているのが自分でも分かる、なんだか桜の良い香りまでした…//
それにしても此処は何処なんだ？温かくて気持ちがいい、こんなぐっすり眠れたのは何時振りだろう。
最近はバーテックスの侵攻が激しくなって、僕の神経が貧弱な所為か、寝ても覚めても休まらなかったんだ。
「そうだ！友奈、バーテックスは…‼ちぃちゃ…他のみんなは無事なのか!?」
まだ戦いは終わってなかった筈だ。
大侵攻、6体を超える大型バーテックスの群れ。
壁外の超大型バーテックスが放った火球、切り札を使い果たしたちぃちゃんを燃やし尽くそうとするそれを受けて、僕は…
「もう、終わったの。ワイくんはもう戦わなくていいの」
「終わった…？戦わなくてもいい!?
討ったのか、全てのバーテックスを、あいつらを生み出す元凶を…？」
友奈は表情の読めない顔で静かに首を振った。
「なら、どうして」
「私とワイくん、二人が一緒に此処にいれば世界が守られるの」
「…え？」
友奈の言葉を脳内で反芻するも、これだけでは要領を得ない。
「ここは、神樹様の中。神樹様は私たちと一緒になってもっともっと大きくなるの」
「死にかけ僕たちの魂魄を養分に神樹が結界を強化するってことなのか？」
「…うん、ワイくんはやっぱり呑み込みが早いね」
あの激しい戦いの後だ、自分たちが死にかけているであろうことは何となく想像がついていた。
それと以前、強力な精霊を憑依させるため、精霊のイメージを得るため、上里の勧めもあって様々な文献を漁っていた。
僕に憑依した神、カグツチは神話において父イザナギに首をはねられ、その血から多くの豊穣神が生み出された。現代でも火、とりわけ噴火は畏怖すべき自然災害であると同時に、溶岩や火山灰を介して地球内部のリン酸塩やカリウムといった養分を地表に供給している。
友奈の一目連だってそうだ。暴風雨は間違いなく人・農作物を脅かす災害で、しかし木々にとっては水分をもたらす恵みの雨。
なにより、倒したバーテックスが分解され神樹の根に吸収されているところを僕達は見ている。その気になれば、僕達人間のことも栄養にできるのだろう、多分。そして、豊穣を司る精霊憑きの人間ともなれば…
「でも、結界を強化しただけじゃ…永遠に守り切ることなんてできない
他の皆は？もう戦わなくて済むのか？」
「だから、外の皆は敵と話し合って休戦するの」
「休戦…？そんなこと、一体どうしたら」
「相手の言い分をある程度飲んで、赦してもらうの」
「言い分って…それじゃ、力を削ぐために
敵が勇者の首を要求したらどうするのさ!?」
「…きっと大丈夫。もしみんなが死んでも、きっといつかここに来れるよ」
「…！死んでもって…」
「私はワイくんにこれ以上傷ついてほしくない」
「……」
「最近まったく眠れてなかったよね？烏丸さんが教えてくれたよ。血清と切り札の併用で体がもうボロボロだって」
「僕はまだ、みんなを」
「いつも無口で不言実行、弱音なんて絶対吐かないから気づかなかった。寂しかった」
「……」
友奈の手が頬を撫でる。血の匂い、爪は剥がれ、手指はあらぬ方向に曲がりボロボロだ。
「和井君が火の玉に呑み込まれて、カッとなって何度も切り札を使っちゃったんだ。だから私は体が壊れすぎて現世に戻れない。ワイくんは私を一人にするの？」
「いや、それは」
「なら、私を選んで。私に全部委ねて、全部私に任せてよ！」
「ずっと一緒に居よ？」
「……」
もう今更戻ったところで間に合わないかもしれない。すぐに死んで戦えないかもしれない。そして、ちぃちゃんを、みんなを只、悲しませるだけかもしれない。
友奈が殺されたのも僕のせいだ。僕がもっと上手い方法を取れていたら、友奈は死なずに済んだかもしれない。償いはきっと必要だ。
「…僕は」
もういっそ僕は楽になってしまいたかったのかもしれない、
不意に、僕の手の甲に水が滴った、人肌ほどに熱い。
潮の香りがする。
今際の世界故か、不意に昔の記憶がフラッシュバックした。
そうだ、僕はあの時、あの子を海につれていくと約束していたんだ。でも、田舎のバスは一日に数本しか通っていなくて、とても日帰りでできるスケジュールを組めなくて、村の大人に妨害されて、結局約束を守れなかった。そして、何も告げられないままにあの子の元を去ってしまった。我ながら言い訳しようもないクズだった。
でも、そんな僕にやり直しの機会が与えられた。再び相まみえ、謝ることができた。背を預けあう仲間になれた。僕と彼女の共通の友人も作れた。
そして、もう一度約束したんだ。
「プレゼント？」
「うん、友奈に手伝ってもらって作ったんだ。よかったら今渡そうかなって」
「ワイ、ありがと/// でも渡す日は来週にしてほしいなって」
「どうして？間に大きな戦いがあるし、もしかしたら」
「だからこそでしょう？戦いを無事に生き残って、あなたの手で私に頂戴。今度こそ、約束よ。」
潮の香りは止まらない、手が心なしか、包まれたように温かい。
「そこにいるんだね、ちぃちゃん」
「…ごめん、友奈。償いはいつか必ずする」
「ワイくん？」
「でも、先約があったんだ」
「なんのこと…？」
「僕は友奈を置いて、現世に戻る」
友奈の顔から表情が抜ける。
「私を一人にするの」
「いつまで待たせるかは、分からない。でもみんなで必ずこの場所に」
「ふざけないでよ、そんなの待てる訳がない。やっと二人きりになれたのに、私を選んでくれないの？」
「…ごめん」
「…やっぱりあの時手足の一二本圧し折っておくべきだったかなァ？」
ぐしゃり、と友奈の顔が歪む。天災の日から、何度かあの表情を見たことがある、あれは…
「酒呑童子ィィィィ!!!」
友奈の切り札の精霊で、日本三大妖怪に数えられる稀代の大悪鬼、酒呑童子。その比類なき腕力で平安京を恐怖に陥れ、姫君を攫い仕えさせ血肉を喰らう外道。一説にはスサノヲに倒された八岐大蛇の子孫とされる。
神すら殺さんという気迫で友奈はこちらに突っ込んでくる。
あの子の綺麗な黒髪にふさわしいプレゼントを。そんなことを思い立って僕は「これ」を友奈と一緒に作った。まさか、２体目の精霊が憑くなんて思いもしなかったけど。
友奈は拳を振りかぶる。狙いは脚。大腿骨を一撃で粉砕し行動不能にする狙いだろう。
…本当にゴメン、友奈。胸元から取り出した竹の櫛をかざす。
「穿て！クシナダヒメ」
「ごるぱッ!?!?」
地面から勢いよく突き出した筍が、友奈の突進力も相まって悉く友奈の全身を貫いた。
ものの数秒で竹林が生い茂り、友奈は体中風穴だらけで横たわっている。
「ハヒッ…ゴひゅッッ」
肺が傷ついたのか話すこともままならない友奈。これ以上は見ていられない。
「あ…」
竹の節から光が漏れる。月光に似たその柔らかな光が友奈の体を照らすと、風穴は見る見るうちにふさがり、元通りに治癒した。
これが、クシナダヒメの真骨頂。一に女性の生命力、二に櫛の呪力、三に竹の生命力、古来より連綿と語り続けられたそれらが三位一体となり、果たして女性勇者に存分な回復力を与えたのだ。
「…この力のおかげで僕はまだ死んでいないのかもしれない。もっと早くに気づいていれば、あの時先に瀕死にならなければ、友奈が死ぬことなんてなかったのかもしれない」
「だから、本当にごめん。友奈は何も悪くない」
「……ッ」
さっきの暴走だって、バスの中での監禁だって、僕の代わりに戦った所為で穢れを貯めこんでしまっていたのだろう。大体、僕が悪い。
「違ッ…私そんなつもりじゃ…
ワイ君は悪くないよ！私が自分を制御できなかっただけで…次はちゃんとするから！お願い、嫌いにならないで！見捨てないで!!」
「今の治癒で、これから数百年は存在できると思う。だからそれまでに、この力で戦い抜いて必ず僕たちもそっちに行くから」
「えッ!？、待って、嫌ッ」
追い縋ろうにも、次々に生える竹が友奈を頑なに拒む。
木漏れ日の暖かな根の国から、冷たく、されど最愛の人がいる現世へ。僕は歩みを進めた。
知らない天井、嘘、何度も見たことある。
戦い始めてから何度も運ばれた病室。随分みんなに心配をかけていたと思う。皆に謝らなくちゃ。包帯ぐるぐる巻きの顔で視線を配る。手には、あの子の細い指が絡まっている。
「ワイ…なの？」
「うん、約束していたから」
ずっと手を握っていくれていた。だから、それを道標に暗い根の道から戻ってこれたんだと思う。頬と手の甲には涙の跡、ずっと泣かせていたんだね。
「ありがとう、ちぃちゃん。心配かけてごめん。」
「…私こそ、ありがとう。いつも、助けてくれて。
だからせめて、たとえ世界が壊れてしまっても貴方の手は離さない」
「……///」
「……///」
…なんか、思ったより重い返しをされて言葉が出ない。でも、嬉しい。
いつも助けてばかりというけど、ちぃちゃんにも結構助けられているんだよ。ゲームでクリアできないところを懇切丁寧に教えてくれたり、苦手な筈の運動とか料理とかににも文句ひとつ言わずいつも付き合ってもらっていた。勇者も巫女さんもみんな親切で人が好いんだけど、一番僕の意を正確に汲んで、我儘に付き合ってくれたのはちぃちゃんだった。お互い凝り性だったから、納得できるまで諦めないというのもよかったのかな。
総じて、ちぃちゃんは僕の意思を信じて、一番大事にしてくれてたんだと思う。
「あと、約束のプレゼント」
「一生大切にするわ、…少し光っているわね、この櫛」
と、そんな僕達の様子をうかがう影がドアの裏に２つ、否４つ。
「ワイが生き返ったぁ！」
「こら！タマッち先輩!! 和井先輩は、病み上がりですよ！
ところで千景さん、さっきのセリフ、次の台本に使っていいですか？」
「二人ともはしゃぎすぎだぞ。…ともかく、ワイ。よく生きて戻ってきてくれた。リハビリまで少しかかるが、それまで何か困ったことが有ったら遠慮なく頼んでくれ」
「和井さん、色々混乱されていると思いますが、どうかまずは自分の体を労わって下さい。和井さんが無事に生きていられることが何よりです。和井さんの意識がなかった６日間のことは追々」
ぞろぞろ出てきた勇者３人に巫女一人。随分気を使わせてたみたいだ。今までの事含めて後でちゃんと謝るとして、今一番聞きたいことは…
「…友奈は…？」
「「「「……」」」」
「高嶋さんは、切り札の連発で四肢を失い、神樹様に取り込まれたわ」
「…千景！和井はまだ…！」
「誰かが話さないと、ワイは納得しないわ」
正直、悪い夢であって欲しいと思っていた。
でもきっとあれは、僕の妄想でもなんでもなく…
「ワイ？」
「…うん、そうか。此処に居ないってことは、そういう事なんだな」
「………」
今更泣いたってどうするんだ。こうなることを覚悟して出てきたんじゃないか、自分は。
「友奈、神樹様に取り込まれる前に、「ワイくんにもう一度会いたい」ってうわごとのように繰り返しててさ、その」
「タマッち先輩、千景先輩もいるのに…」
「私は…気にしないわ。私も同じ気持ちだったから」
「………」
高知で起こした暴力沙汰の後、逃げるように移り住んだ奈良でできた初めての友達。ちぃちゃんが一番長く付き合ってくれる友達だとしたら、友奈はその軽いフットワークで誰よりも早く仲良くなった友達だった。以前の村で形成された人間不信をあっという間に解消してくれたのも彼女だった。彼女の一早い献身のおかげで、奈良ではこと交友関係に困ることはなかった。それが一塩、ちぃちゃんへの罪悪感を掻き立てたが、それは僕の問題。
7.30以降も、やり方はアレだったけど不安定な僕を一人にしまいと彼女（とその巫女）なりに頑張っていたのだと思う。だが烏丸、テメェはだめだ。
ちぃちゃんと一番仲良くしてくれたのもあの子だ。恩義はあれど、恨むべくもない。蔑ろにしていい子ではなかった筈だ。
「……若葉、早速の頼みで悪いんだけど、神樹様のところに連れてってもらえないかな？」
現世での神樹は、樹海の時ほどバカげた大きさをしていない。日本中探せばそれなりに見つけられるタイプの木だ。そも神樹とは結界を地の神の集合体を指すのであり、現実のそれはあくまで人間が形式的に祀るために選んだ地理的座標の近いただのデカい木に過ぎない。
だから、僕が行って何を懺悔したって何も変わらない。だから、これは僕の気持ちの問題だ。
（友奈、恨まれるのは当然だと思う。だから誓うよ、約束は絶対に守る。これからも精一杯戦い抜いて、できるだけ胸を張って会いに行けるように努力する。僕の自己満足だけどこれが今できる僕の精一杯）
３０分、心の中で誓いたいだけ誓った後の帰り道、
「…ねぇ、ワイ。昏睡状態の時、何度か「友奈」ってうなされていたんだけど、夢で高嶋さんに出会ったの？」
「あ、それタマも聞いたぞ」
「ん…そうだね。確かに出会ったよ」
一瞬逡巡するも、答えないわけにはいかない。
「そうか…！何か、話をしたのか？」
「…みんないつかここに来て再会できる日を待っている、と言っていた気がする」
「…そうか、なら猶更胸を張って会いに行けるように精進しなければな」
「高嶋先輩の顔に泥を塗るよう真似はできませんね」
「タマも頑張らないと！」
「………」
（もしかしたら、高嶋さんがワイを昏睡状態から目覚めさせてくれたのかもしれない）
（ありがとう高嶋さん、私の二人目の友達。貴女の分まで幸せになって、いつか必ずその幸せを返しに行きます）
病室、22:00。ちぃちゃんは今夜は残ると言ったが、どう考えても不眠不休で疲弊していたので若葉に連れて帰ってもらった。
「！」
携帯電話の着信音。この電話番号は…
「…もしもし」
『もしもし、和井さん。話は神樹様から伺っています。皆の前では敢えて話しませんでしたが、随分こっぴどく振ったんですね』
「やっぱりそう思うか？」
『はっきり言って、男の別れ文句としては最悪の部類です。もうちょっと言い訳の一つや二つ器用に思いつかなかったんですか？』
「友奈の要求について言い訳が介在する余地はなかった。友奈を選ぶか、現世を選ぶかの二者択一だ。僕は未練があって現世を選んだ。」
『このことは、他の巫女にも伝わっています。友奈さんと仲の良かった巫女の数は少なくない。対応を誤れば、大社が大きく割れることになるかもしれません』
「………」
『…でも、貴方が現世を選んでくれて私たちとしては本当に助かっているんです。貴方が目覚めるまでの６日間で、巫女を炎の海に沈めて天の神に許しを請う、「奉火祭」の話まで議題に挙げられたんです。あなたが目覚めておじゃんになりましたけど』
（たった六日でそんな話が…大社終わってんなぁ）
『なによりも、若葉ちゃんが生き残れる目が増えたのが嬉しいです。よく、その回復技能を引っ提げて帰ってきました』
「……それは、そうなのかな。でもこの櫛を一緒に作ってくれたのは…」
『ええ、貴方がこっぴどく振った友奈さんが恋敵で親友のために作ったんですよ』
「………そうだな」
『多分、これからも貴方は自分の下した選択を後悔し続けると思います。あなたは、そういう性格なんですから。』
「はい」
『でも、それでも進み続けてください。あなたが後悔塗れで下した決断はそれでもきっと誰かを救うんですから。もし貴方が折れそうになった時は、私たちが支えます』
「…ありがとう、上里。励ましてくれて」
『///私は若葉ちゃん一筋ですよ。悪しからず！』
そういうと、一方的に電話を切られてしまった。
僕はきっと迷わず歩くことなんてできない。だから、みんなの力を借りて迷いながら進もう。
そうすればきっといつか友奈のもとへ辿り着ける。
僕たちは、上里を含めそう信じて疑わなかった。
それが大きな勘違いであったと知らなかったのだ。
和井君のその後の軌跡
結論から言って、和井はとてつもなく強くなった。
血清のオーバードーズと「クシナダヒメ」の合わせ技で、リスクを抑えて正規勇者以上の腕力をふるえるようになったこと。カグツチの凄まじい中距離火力に加え、千景の七人御先とのコンビネーションにより回復スポットを複数同時展開できるようになったことで、近・中・支援能力の揃った万能手として戦線を支え続けた。
また、２０歳を超え精霊が降ろせなくなっても血清により得た力は健在で、壁外での「神樹の種」を用いた拠点作成や後進の育成に余念がなかった。そして、終ぞ２５歳の時天の神が無条件の休戦を提案。これを受け、誰も犠牲になることなく天と地の戦いはいったん終結を迎える。
しかし、バーテックス血清の過剰投与で和井の魂は大きく変質し、もはや神樹の円環に入ることは適わず、現世では周期的に彼の因子をもった男が顕現するばかりであった。故に彼の魂と友奈の魂の再開は、友奈が加齢により弱った神樹を掌握するまで終ぞ果たされなかった。
おまけ とある女の子の穢れ
違う違う違うどこで間違えた何を間違えた
人見知りで基本的に寡黙で口下手な彼がかわいかった。やるときはとことんこだわる彼が好ましかった。私が他人に仕事を断れずに丸投げされたとき、素っ気なく助けてくれる彼が好きだった。例え誰かと衝突しても自分の決意を貫こうとする彼に憧れた。本当につらい時誰にも弱音を吐かない彼のことが愛おしかった。楽になりたいくせに、険しい道を歩こうとする不器用な彼を愛していた。そんな彼に選んで、委ねて、任せてほしかった。
彼が望めば、私は捧げたのに、キスもお金も体も心も未来も全部、全部
でもしかしそれでもなのにどうして彼は私のものにならないの？
どうしてぐんちゃんなの？
私の大親友。友達を何よりも大切にする素敵な子。黒髪がつやつやしててとても綺麗。シャンプーもコンディショナーも毎日手入れを欠かさないんだって。手足が長くて正直うらやましい。
（もしかしたら、高嶋さんがワイを昏睡状態から目覚めさせてくれたのかもしれない）
淫売の娘って言われてた、承認欲求で生きる寄生虫、結局母親と同じ男を食い物にして他者を顧みないエゴイスト体に傷があるくせにしゃしゃり出てくるなよ汚らわしい私がいなかったら友達一つ作れてなったくせにゲームしか大した取り柄がないくせに料理ひとつまともに作れないくせに
（ありがとう高嶋さん、私の二人目の友達。貴女の分まで幸せになって、いつか必ずその幸せを返しに行きます）
アああああああ黙れ黙れ黙れだｍれだまれまれあｇまｄｄｆｍうぇあｄｊげｗｊふぁｄｃふぁｑｄ五月蠅いるさう売るさいうるさいうりあううるさいこおおおおりいいいいいいちがげきいいえｇびしあvvbdsvbbuchikorodsiteyarukawawohaiedehakusekisa
…会いたいなぁ、早く
「あ、起こしちゃった？
…疲れてそうだったから、つい」
ぼやけた目の前には暖かな木漏れ日、と見知った友奈の顔
今更ながら友奈に膝枕されていたことに気づいて、慌てて体を起こした。
「もうちょっと寝ててもよかったんだよ？」
「いや、流石に恥ずかしいよ」
顔が紅潮してしまっているのが自分でも分かる、なんだか桜の良い香りまでした…//
それにしても此処は何処なんだ？温かくて気持ちがいい、こんなぐっすり眠れたのは何時振りだろう。
最近はバーテックスの侵攻が激しくなって、僕の神経が貧弱な所為か、寝ても覚めても休まらなかったんだ。
「そうだ！友奈、バーテックスは…‼ちぃちゃ…他のみんなは無事なのか!?」
まだ戦いは終わってなかった筈だ。
大侵攻、6体を超える大型バーテックスの群れ。
壁外の超大型バーテックスが放った火球、切り札を使い果たしたちぃちゃんを燃やし尽くそうとするそれを受けて、僕は…
「もう、終わったの。ワイくんはもう戦わなくていいの」
「終わった…？戦わなくてもいい!?
討ったのか、全てのバーテックスを、あいつらを生み出す元凶を…？」
友奈は表情の読めない顔で静かに首を振った。
「なら、どうして」
「私とワイくん、二人が一緒に此処にいれば世界が守られるの」
「…え？」
友奈の言葉を脳内で反芻するも、これだけでは要領を得ない。
「ここは、神樹様の中。神樹様は私たちと一緒になってもっともっと大きくなるの」
「死にかけ僕たちの魂魄を養分に神樹が結界を強化するってことなのか？」
「…うん、ワイくんはやっぱり呑み込みが早いね」
あの激しい戦いの後だ、自分たちが死にかけているであろうことは何となく想像がついていた。
それと以前、強力な精霊を憑依させるため、精霊のイメージを得るため、上里の勧めもあって様々な文献を漁っていた。
僕に憑依した神、カグツチは神話において父イザナギに首をはねられ、その血から多くの豊穣神が生み出された。現代でも火、とりわけ噴火は畏怖すべき自然災害であると同時に、溶岩や火山灰を介して地球内部のリン酸塩やカリウムといった養分を地表に供給している。
友奈の一目連だってそうだ。暴風雨は間違いなく人・農作物を脅かす災害で、しかし木々にとっては水分をもたらす恵みの雨。
なにより、倒したバーテックスが分解され神樹の根に吸収されているところを僕達は見ている。その気になれば、僕達人間のことも栄養にできるのだろう、多分。そして、豊穣を司る精霊憑きの人間ともなれば…
「でも、結界を強化しただけじゃ…永遠に守り切ることなんてできない
他の皆は？もう戦わなくて済むのか？」
「だから、外の皆は敵と話し合って休戦するの」
「休戦…？そんなこと、一体どうしたら」
「相手の言い分をある程度飲んで、赦してもらうの」
「言い分って…それじゃ、力を削ぐために
敵が勇者の首を要求したらどうするのさ!?」
「…きっと大丈夫。もしみんなが死んでも、きっといつかここに来れるよ」
「…！死んでもって…」
「私はワイくんにこれ以上傷ついてほしくない」
「……」
「最近まったく眠れてなかったよね？烏丸さんが教えてくれたよ。血清と切り札の併用で体がもうボロボロだって」
「僕はまだ、みんなを」
「いつも無口で不言実行、弱音なんて絶対吐かないから気づかなかった。寂しかった」
「……」
友奈の手が頬を撫でる。血の匂い、爪は剥がれ、手指はあらぬ方向に曲がりボロボロだ。
「和井君が火の玉に呑み込まれて、カッとなって何度も切り札を使っちゃったんだ。だから私は体が壊れすぎて現世に戻れない。ワイくんは私を一人にするの？」
「いや、それは」
「なら、私を選んで。私に全部委ねて、全部私に任せてよ！」
「ずっと一緒に居よ？」
「……」
もう今更戻ったところで間に合わないかもしれない。すぐに死んで戦えないかもしれない。そして、ちぃちゃんを、みんなを只、悲しませるだけかもしれない。
友奈が殺されたのも僕のせいだ。僕がもっと上手い方法を取れていたら、友奈は死なずに済んだかもしれない。償いはきっと必要だ。
「…僕は」
もういっそ僕は楽になってしまいたかったのかもしれない、
不意に、僕の手の甲に水が滴った、人肌ほどに熱い。
潮の香りがする。
今際の世界故か、不意に昔の記憶がフラッシュバックした。
そうだ、僕はあの時、あの子を海につれていくと約束していたんだ。でも、田舎のバスは一日に数本しか通っていなくて、とても日帰りでできるスケジュールを組めなくて、村の大人に妨害されて、結局約束を守れなかった。そして、何も告げられないままにあの子の元を去ってしまった。我ながら言い訳しようもないクズだった。
でも、そんな僕にやり直しの機会が与えられた。再び相まみえ、謝ることができた。背を預けあう仲間になれた。僕と彼女の共通の友人も作れた。
そして、もう一度約束したんだ。
「プレゼント？」
「うん、友奈に手伝ってもらって作ったんだ。よかったら今渡そうかなって」
「ワイ、ありがと/// でも渡す日は来週にしてほしいなって」
「どうして？間に大きな戦いがあるし、もしかしたら」
「だからこそでしょう？戦いを無事に生き残って、あなたの手で私に頂戴。今度こそ、約束よ。」
潮の香りは止まらない、手が心なしか、包まれたように温かい。
「そこにいるんだね、ちぃちゃん」
「…ごめん、友奈。償いはいつか必ずする」
「ワイくん？」
「でも、先約があったんだ」
「なんのこと…？」
「僕は友奈を置いて、現世に戻る」
友奈の顔から表情が抜ける。
「私を一人にするの」
「いつまで待たせるかは、分からない。でもみんなで必ずこの場所に」
「ふざけないでよ、そんなの待てる訳がない。やっと二人きりになれたのに、私を選んでくれないの？」
「…ごめん」
「…やっぱりあの時手足の一二本圧し折っておくべきだったかなァ？」
ぐしゃり、と友奈の顔が歪む。天災の日から、何度かあの表情を見たことがある、あれは…
「酒呑童子ィィィィ!!!」
友奈の切り札の精霊で、日本三大妖怪に数えられる稀代の大悪鬼、酒呑童子。その比類なき腕力で平安京を恐怖に陥れ、姫君を攫い仕えさせ血肉を喰らう外道。一説にはスサノヲに倒された八岐大蛇の子孫とされる。
神すら殺さんという気迫で友奈はこちらに突っ込んでくる。
あの子の綺麗な黒髪にふさわしいプレゼントを。そんなことを思い立って僕は「これ」を友奈と一緒に作った。まさか、２体目の精霊が憑くなんて思いもしなかったけど。
友奈は拳を振りかぶる。狙いは脚。大腿骨を一撃で粉砕し行動不能にする狙いだろう。
…本当にゴメン、友奈。胸元から取り出した竹の櫛をかざす。
「穿て！クシナダヒメ」
「ごるぱッ!?!?」
地面から勢いよく突き出した筍が、友奈の突進力も相まって悉く友奈の全身を貫いた。
ものの数秒で竹林が生い茂り、友奈は体中風穴だらけで横たわっている。
「ハヒッ…ゴひゅッッ」
肺が傷ついたのか話すこともままならない友奈。これ以上は見ていられない。
「あ…」
竹の節から光が漏れる。月光に似たその柔らかな光が友奈の体を照らすと、風穴は見る見るうちにふさがり、元通りに治癒した。
これが、クシナダヒメの真骨頂。一に女性の生命力、二に櫛の呪力、三に竹の生命力、古来より連綿と語り続けられたそれらが三位一体となり、果たして女性勇者に存分な回復力を与えたのだ。
「…この力のおかげで僕はまだ死んでいないのかもしれない。もっと早くに気づいていれば、あの時先に瀕死にならなければ、友奈が死ぬことなんてなかったのかもしれない」
「だから、本当にごめん。友奈は何も悪くない」
「……ッ」
さっきの暴走だって、バスの中での監禁だって、僕の代わりに戦った所為で穢れを貯めこんでしまっていたのだろう。大体、僕が悪い。
「違ッ…私そんなつもりじゃ…
ワイ君は悪くないよ！私が自分を制御できなかっただけで…次はちゃんとするから！お願い、嫌いにならないで！見捨てないで!!」
「今の治癒で、これから数百年は存在できると思う。だからそれまでに、この力で戦い抜いて必ず僕たちもそっちに行くから」
「えッ!？、待って、嫌ッ」
追い縋ろうにも、次々に生える竹が友奈を頑なに拒む。
木漏れ日の暖かな根の国から、冷たく、されど最愛の人がいる現世へ。僕は歩みを進めた。
知らない天井、嘘、何度も見たことある。
戦い始めてから何度も運ばれた病室。随分みんなに心配をかけていたと思う。皆に謝らなくちゃ。包帯ぐるぐる巻きの顔で視線を配る。手には、あの子の細い指が絡まっている。
「ワイ…なの？」
「うん、約束していたから」
ずっと手を握っていくれていた。だから、それを道標に暗い根の道から戻ってこれたんだと思う。頬と手の甲には涙の跡、ずっと泣かせていたんだね。
「ありがとう、ちぃちゃん。心配かけてごめん。」
「…私こそ、ありがとう。いつも、助けてくれて。
だからせめて、たとえ世界が壊れてしまっても貴方の手は離さない」
「……///」
「……///」
…なんか、思ったより重い返しをされて言葉が出ない。でも、嬉しい。
いつも助けてばかりというけど、ちぃちゃんにも結構助けられているんだよ。ゲームでクリアできないところを懇切丁寧に教えてくれたり、苦手な筈の運動とか料理とかににも文句ひとつ言わずいつも付き合ってもらっていた。勇者も巫女さんもみんな親切で人が好いんだけど、一番僕の意を正確に汲んで、我儘に付き合ってくれたのはちぃちゃんだった。お互い凝り性だったから、納得できるまで諦めないというのもよかったのかな。
総じて、ちぃちゃんは僕の意思を信じて、一番大事にしてくれてたんだと思う。
「あと、約束のプレゼント」
「一生大切にするわ、…少し光っているわね、この櫛」
と、そんな僕達の様子をうかがう影がドアの裏に２つ、否４つ。
「ワイが生き返ったぁ！」
「こら！タマッち先輩!! 和井先輩は、病み上がりですよ！
ところで千景さん、さっきのセリフ、次の台本に使っていいですか？」
「二人ともはしゃぎすぎだぞ。…ともかく、ワイ。よく生きて戻ってきてくれた。リハビリまで少しかかるが、それまで何か困ったことが有ったら遠慮なく頼んでくれ」
「和井さん、色々混乱されていると思いますが、どうかまずは自分の体を労わって下さい。和井さんが無事に生きていられることが何よりです。和井さんの意識がなかった６日間のことは追々」
ぞろぞろ出てきた勇者３人に巫女一人。随分気を使わせてたみたいだ。今までの事含めて後でちゃんと謝るとして、今一番聞きたいことは…
「…友奈は…？」
「「「「……」」」」
「高嶋さんは、切り札の連発で四肢を失い、神樹様に取り込まれたわ」
「…千景！和井はまだ…！」
「誰かが話さないと、ワイは納得しないわ」
正直、悪い夢であって欲しいと思っていた。
でもきっとあれは、僕の妄想でもなんでもなく…
「ワイ？」
「…うん、そうか。此処に居ないってことは、そういう事なんだな」
「………」
今更泣いたってどうするんだ。こうなることを覚悟して出てきたんじゃないか、自分は。
「友奈、神樹様に取り込まれる前に、「ワイくんにもう一度会いたい」ってうわごとのように繰り返しててさ、その」
「タマッち先輩、千景先輩もいるのに…」
「私は…気にしないわ。私も同じ気持ちだったから」
「………」
高知で起こした暴力沙汰の後、逃げるように移り住んだ奈良でできた初めての友達。ちぃちゃんが一番長く付き合ってくれる友達だとしたら、友奈はその軽いフットワークで誰よりも早く仲良くなった友達だった。以前の村で形成された人間不信をあっという間に解消してくれたのも彼女だった。彼女の一早い献身のおかげで、奈良ではこと交友関係に困ることはなかった。それが一塩、ちぃちゃんへの罪悪感を掻き立てたが、それは僕の問題。
7.30以降も、やり方はアレだったけど不安定な僕を一人にしまいと彼女（とその巫女）なりに頑張っていたのだと思う。だが烏丸、テメェはだめだ。
ちぃちゃんと一番仲良くしてくれたのもあの子だ。恩義はあれど、恨むべくもない。蔑ろにしていい子ではなかった筈だ。
「……若葉、早速の頼みで悪いんだけど、神樹様のところに連れてってもらえないかな？」
現世での神樹は、樹海の時ほどバカげた大きさをしていない。日本中探せばそれなりに見つけられるタイプの木だ。そも神樹とは結界を地の神の集合体を指すのであり、現実のそれはあくまで人間が形式的に祀るために選んだ地理的座標の近いただのデカい木に過ぎない。
だから、僕が行って何を懺悔したって何も変わらない。だから、これは僕の気持ちの問題だ。
（友奈、恨まれるのは当然だと思う。だから誓うよ、約束は絶対に守る。これからも精一杯戦い抜いて、できるだけ胸を張って会いに行けるように努力する。僕の自己満足だけどこれが今できる僕の精一杯）
３０分、心の中で誓いたいだけ誓った後の帰り道、
「…ねぇ、ワイ。昏睡状態の時、何度か「友奈」ってうなされていたんだけど、夢で高嶋さんに出会ったの？」
「あ、それタマも聞いたぞ」
「ん…そうだね。確かに出会ったよ」
一瞬逡巡するも、答えないわけにはいかない。
「そうか…！何か、話をしたのか？」
「…みんないつかここに来て再会できる日を待っている、と言っていた気がする」
「…そうか、なら猶更胸を張って会いに行けるように精進しなければな」
「高嶋先輩の顔に泥を塗るよう真似はできませんね」
「タマも頑張らないと！」
「………」
（もしかしたら、高嶋さんがワイを昏睡状態から目覚めさせてくれたのかもしれない）
（ありがとう高嶋さん、私の二人目の友達。貴女の分まで幸せになって、いつか必ずその幸せを返しに行きます）
病室、22:00。ちぃちゃんは今夜は残ると言ったが、どう考えても不眠不休で疲弊していたので若葉に連れて帰ってもらった。
「！」
携帯電話の着信音。この電話番号は…
「…もしもし」
『もしもし、和井さん。話は神樹様から伺っています。皆の前では敢えて話しませんでしたが、随分こっぴどく振ったんですね』
「やっぱりそう思うか？」
『はっきり言って、男の別れ文句としては最悪の部類です。もうちょっと言い訳の一つや二つ器用に思いつかなかったんですか？』
「友奈の要求について言い訳が介在する余地はなかった。友奈を選ぶか、現世を選ぶかの二者択一だ。僕は未練があって現世を選んだ。」
『このことは、他の巫女にも伝わっています。友奈さんと仲の良かった巫女の数は少なくない。対応を誤れば、大社が大きく割れることになるかもしれません』
「………」
『…でも、貴方が現世を選んでくれて私たちとしては本当に助かっているんです。貴方が目覚めるまでの６日間で、巫女を炎の海に沈めて天の神に許しを請う、「奉火祭」の話まで議題に挙げられたんです。あなたが目覚めておじゃんになりましたけど』
（たった六日でそんな話が…大社終わってんなぁ）
『なによりも、若葉ちゃんが生き残れる目が増えたのが嬉しいです。よく、その回復技能を引っ提げて帰ってきました』
「……それは、そうなのかな。でもこの櫛を一緒に作ってくれたのは…」
『ええ、貴方がこっぴどく振った友奈さんが恋敵で親友のために作ったんですよ』
「………そうだな」
『多分、これからも貴方は自分の下した選択を後悔し続けると思います。あなたは、そういう性格なんですから。』
「はい」
『でも、それでも進み続けてください。あなたが後悔塗れで下した決断はそれでもきっと誰かを救うんですから。もし貴方が折れそうになった時は、私たちが支えます』
「…ありがとう、上里。励ましてくれて」
『///私は若葉ちゃん一筋ですよ。悪しからず！』
そういうと、一方的に電話を切られてしまった。
僕はきっと迷わず歩くことなんてできない。だから、みんなの力を借りて迷いながら進もう。
そうすればきっといつか友奈のもとへ辿り着ける。
僕たちは、上里を含めそう信じて疑わなかった。
それが大きな勘違いであったと知らなかったのだ。
和井君のその後の軌跡
結論から言って、和井はとてつもなく強くなった。
血清のオーバードーズと「クシナダヒメ」の合わせ技で、リスクを抑えて正規勇者以上の腕力をふるえるようになったこと。カグツチの凄まじい中距離火力に加え、千景の七人御先とのコンビネーションにより回復スポットを複数同時展開できるようになったことで、近・中・支援能力の揃った万能手として戦線を支え続けた。
また、２０歳を超え精霊が降ろせなくなっても血清により得た力は健在で、壁外での「神樹の種」を用いた拠点作成や後進の育成に余念がなかった。そして、終ぞ２５歳の時天の神が無条件の休戦を提案。これを受け、誰も犠牲になることなく天と地の戦いはいったん終結を迎える。
しかし、バーテックス血清の過剰投与で和井の魂は大きく変質し、もはや神樹の円環に入ることは適わず、現世では周期的に彼の因子をもった男が顕現するばかりであった。故に彼の魂と友奈の魂の再開は、友奈が加齢により弱った神樹を掌握するまで終ぞ果たされなかった。
おまけ とある女の子の穢れ
違う違う違うどこで間違えた何を間違えた
人見知りで基本的に寡黙で口下手な彼がかわいかった。やるときはとことんこだわる彼が好ましかった。私が他人に仕事を断れずに丸投げされたとき、素っ気なく助けてくれる彼が好きだった。例え誰かと衝突しても自分の決意を貫こうとする彼に憧れた。本当につらい時誰にも弱音を吐かない彼のことが愛おしかった。楽になりたいくせに、険しい道を歩こうとする不器用な彼を愛していた。そんな彼に選んで、委ねて、任せてほしかった。
彼が望めば、私は捧げたのに、キスもお金も体も心も未来も全部、全部
でもしかしそれでもなのにどうして彼は私のものにならないの？
どうしてぐんちゃんなの？
私の大親友。友達を何よりも大切にする素敵な子。黒髪がつやつやしててとても綺麗。シャンプーもコンディショナーも毎日手入れを欠かさないんだって。手足が長くて正直うらやましい。
（もしかしたら、高嶋さんがワイを昏睡状態から目覚めさせてくれたのかもしれない）
淫売の娘って言われてた、承認欲求で生きる寄生虫、結局母親と同じ男を食い物にして他者を顧みないエゴイスト体に傷があるくせにしゃしゃり出てくるなよ汚らわしい私がいなかったら友達一つ作れてなったくせにゲームしか大した取り柄がないくせに料理ひとつまともに作れないくせに
（ありがとう高嶋さん、私の二人目の友達。貴女の分まで幸せになって、いつか必ずその幸せを返しに行きます）
アああああああ黙れ黙れ黙れだｍれだまれまれあｇまｄｄｆｍうぇあｄｊげｗｊふぁｄｃふぁｑｄ五月蠅いるさう売るさいうるさいうりあううるさいこおおおおりいいいいいいちがげきいいえｇびしあvvbdsvbbuchikorodsiteyarukawawohaiedehakusekisa
…会いたいなぁ、早く
たかしーワイと元邪神たかしーの神世紀仲直りデートｓｓ
「ご予約の2名様ですね。ラブラブカップルツインオレンジジュースカクテルになります！ブラッドオレンジ入りのシロップときよみジュースのベストマッチをお二人カップルでご共有ください！」
「……高嶋、飲む？」
「……和井くんこそ、どう？」
どうしてこうなった。
事の発端は高嶋との決戦後、暫く経った後の乃木園子の提案だった。
『西暦の和井さんと高嶋さんを仲直りさせ隊、発足なんよ〜』
本人が自由恋愛できなかった反動だったのだろうか、若葉は30代半ば頃から恋バナ大好きお節介お姉さん（ここ重要）と化したが、園子はそれ以上のお節介好きと言わざる負えなかった。
そして、結城と新世紀ワイが賛同することでこの計画は実行に至った。
（あれほど高嶋に体を譲り渡すのを嫌がっていたのにどういう風の吹き回しだ、まぁ他人のことも言えないが…）
お互い、三百年後の自分の因子を有する体に、精霊システムみたく憑依して今日ここで相まみえている。正直、まったく心の準備ができていなかった。
自分はもとより、相対する結城、否高嶋の表情も硬い。道場でもバーテックス戦でもこんな表情は見たことがない。まさしく未知の領域だ。
「取り敢えず飲みきろっか」
「…ああ」
僕はシロップ部分を、高嶋はジュース部分を混ぜることなく呑み切った。今の二人の心境と距離感をこのカクテルが代弁しているかのように思えて仕方がなかった。
「丸亀城、にいってみないか？」
「…いいよ、行こう。300年ぶりだもんね」
丸亀城。僕ら西暦勇者の最重要拠点であり、青春の多くの時間をあそこで費やした。高嶋は11歳から14歳の4年間、僕は13歳から20歳の8年間だったか。
「今の時間帯ならバスがあるけど…」
「バスはちょっと…」
高嶋に監禁されて以来、僕はトラウマのせいかバスに乗れなくなっていた。
「…御免なさい」
「何も怒ってないって、電車と徒歩で行こうか」
「…うん」
丸亀の街を歩く。
「なんていうか、駅も道もピカピカだね。西暦の時はもっと寂れていたのに」
「生活圏と経済圏が四国に限定されているからな。限られた土地をちょっとでも便利に、多機能に使おうとすれば、必然的に都市の新陳代謝も早くなるんだろう」
「ふうん」
街並みをぬけて、市役所を通り過ぎて、丸亀城の堀に出た
「あれ、記憶よりもなんだか大きい気が…」
「増築したんだ、防衛拠点としての兼ね合いでね」
丸亀城は石垣の総高が日本一だけあって、勾配がキツイ。晩年の僕は天守閣に上がるのに息も絶え絶えといった様子だった。このアップダウンの激しい坂道をシャトルランで10周というのは、なかなか狂ったトレーニングだったのではないだろうか。
「へえー…じゃあさ、どっちが早く天守閣に着くか勝負しない？負けたほうがアイス奢るってルールでさ」
「は…？」
「よーい、ドン！」「ちょッ…!!」
高嶋が勢いよく駆け出した。呆気に取られてしまったが、勝負は勝負。負けてやる気はなかった。
「ハアッ…ハアッ…負けちゃった」
「…ルートも確認してなかったくせに中々無謀だよ、にしてもキツイなこれ」
増築してから、高低差６０ｍ、2km強まで膨れ上がった坂道を全力疾走したのだ。お互い心拍数190オーバー、汗だくだくの息も絶え絶えといった様子だ。
「迷子になった時、探してくれてアリガト。一回頂上着いたのに戻ってきてくれたんでしょ？」
「…まぁ、そうしないと一緒に麓まで戻れないからな」
「私と一緒に帰りたかったんだ？電話で連絡すれば先に着いたって伝えられたのに」
「……中々言ってくれるな」
「伊達に300年拗らせてないよ」
「真面でごめんて」
「…許すかは、これからの心がけ次第かな」
「善処するよ」
丸亀城天守閣。かつての学び舎は、現在西暦勇者記念館として公開されている。めちゃくちゃ小さいから、別館を増築したんだけどな。
「わ、みんなの顔嵌めスポットだ。」
「西暦四国の勇者は勢揃いだな」
「ワイ君のだけちょっと等身たかくない？あと私のだけ小っちゃいよ」
「皆は16、17あたりで精霊憑依できなくなって引退したけど、自分は20歳ぐらいまで戦えたからね。友奈のは、仕方ないかな」
「仕方なくなんてないよ！あと、旧姓こおりちか…ぐんちゃんとワイ君の距離がやたら近いんですけどー」
「まぁ、結婚したしな」（若葉が配置を決めたってのは口が裂けても言えないな）
「むきいいいいい！私ぐんちゃんのとこで写真とってやる、ワイ君も自分のところに顔嵌めて！」
「はいはい、…一枚お願いします」
「承りました。凄く仲がよろしいのですね。
因みに、その二人の顔型でとった男女は必ず結ばれるってパワースポットなんですよ」
「…忌々しき黒髪因子め、わたしの因子持ちを悉く踏み台にしてくっつきやがって！」
「はい、チーズ！」
天守閣の階段は和式建物らしく超急勾配、まるで梯子だ。
「ワイ君、上を向いてスカートの中を覗いてもいいんだよ♡」
「それ、結城の体だからな？パンツ見られて恥ずかしいの基本結城だからな？」
「今日の色は何色でしょう？」
「#F5C9C6、朱鷺色」
「正かーい！ワイ君のエッチ♡」
「…事故だからな？」
「カラーコード答えられるくらいまじまじと見た癖に♡」
（（（こいつら爆発しねえかな？）））
「ホントごめんなさい」
天守閣3階（最上階）
「ここで大体月に一回、諏訪と定例通信をやってたんだよな」
「うん。歌野さん、言葉遣いが上品できっと素敵な人だったんだろうなぁって」
白鳥歌野。諏訪を巫女とたった二人で4年間守り続けた諏訪唯一の勇者。自分は最期の半年間しか立ち会っていないが、毎回若葉と熱いそば・うどんディベートを繰り広げていたのを覚えている。ちなみに僕は鯛素麺派だ。魚の王様に適うとでも思ったか。
「勇者システム無し、切り札無しであれだけの期間戦えた、失うにはあまりにも惜しい人材だったよな。…やっぱり大社は、4年と待たず諏訪の反対側から何らかのちょっかいをかけるべきだった。包囲網ってのは、プレッシャーがあって初めて機能するんだ。そうやって圧力をかけ続けてようやく出来た綻びを叩くんだ。勇者システムだって、実地データをもっと早く取れていたらもっと改良は進んでいただろうに」
「…ワイ君、私のエゴで監禁して本当にごめんなさい。昔からワイ君は問題解決にだれよりも真剣に根本から取り組む人だったよね。あの無為な時間が無かったらワイ君とあんちゃんの考えた作戦で、もっと早くに天の神を追い払えていたのかもしれない。もっと苦しむ勇者や巫女さんが減ったのかもしれない。ワイ君が、その子孫が三百年もこの問題に苦悩することはなかったのかもしれない。だから本当に、ごめんなさい」
「もういいんだ、友奈。僕だって最初は旧大社と大差ない戦の素人で、僕の今の考え方は今までの経験全てありきの話なんだよ。あの夢想するしかできない期間があったから、ただ神樹に選ばれた勇者じゃなくて、じっくり練られた目的にに適う勇者に自分から成れたんだ。だから、感謝こそすれ恨んではいない。…ただちょっとトラウマなだけで」
（え、監禁？あの歳でなんて業の深いプレイを…）
（トラウマあるのに感謝してるだって？アイツ、とんでもねぇ変態だぜ…！）
ちらりと窓の外を見る。視界には本州に続く海と西暦のころと比べて聊か広がった工場地帯、それと枯れゆく神樹の壁が。これから十年かけて、今までの供物を資源に還元しながら、神樹はゆっくり終焉へと向かっていくのだ。
（あの頃は、海が忌々しかった。敵がやってくる場所だったから、約束を守れなかったことを思い出すから、そして何度も嗅いだ、あの子の涙の匂いに似ていたから）
「ワイ君？」
「友奈は、今、ここからの景色が綺麗だと思うか？」
「うん！だって、私と貴方と、みんなで守った世界だから」
「そうか、そうだな…僕もそう思う」
「アイス、奢らないと。約束だったしね」
「あぁ、そうだったな。ありがとう」
「ん〜、私全然店を知らないからなぁ、取り敢えず一番高いの行ってみる？」
「結城が泣くぞ…、それならこっちが指定していいか？ちょうど近いし」
「え！どこどこ？」
――――――――
『まもなく、レ〇マワールド駅。お降りの際はお足元にご注意ください』
「レオ〇ワールド、復活してたんだ」
「友奈がいた時は営業休止中だったもんなぁ…にしても明らかにデカくなったな、電車まで通って…まるで西暦のU〇Jだ。流石に西暦から残り続けた四国唯一の遊園地ってとこか」
友奈が取り込まれる前は割と神樹のリソースがカツカツで、遊園地なんて営業できる余力がなかった。僕がクシナダヒメという性能の高い精霊を存分に振るえるようになったのも、友奈の吸収による容量増大の恩恵が大きかった。僕達の栄光と束の間の平穏は、友奈の屍の上に成り立っていた。
（以降、実在のアトラクションとは異なるものがあります。ご了承ください）
・ウルトラウォータースライダーマシン
「キャアアアアッ!?!!すごい水量だよ」
(280年前とは別物だな…これなら当時のちぃちゃんや治（オサム）も吃驚するだろうな…)
・SPACEガンマン
宇宙船を模したレールコースターに乗りながら、2人一組でレーザー銃で数多くの的を狙いポイントを競う。
「的が小さくて、全然あたらな〜い！」
「まぁ、僕ら基本的にインファイターだったからね」
------ 「14万点かぁー、あともうちょっとで景品もらえたのに…って99万点!?!?できる人いるの!?」
「ちぃちゃんと杏ペアのポイントだな。まだ更新されてないのか」
「200年以上トップなの!?」
・カピバラ園
「カピバラだ〜♡かぁわいい〜♡」
「そっちは食用兼皮用のヌートリアだぞ」
「え！？」
「歯がオレンジ色だろう？それにカピバラの方が倍以上大きい」
「…ヌートリアちゃんもかわいいね///」
（球子と同じ反応だな）
・フードコート
「ちょっと小腹がすいたな、アイスとチュロスどっち食べる？」
「どっちも‼」
「はいはい」
「あ、お金は私が」
「いいよ、ワイの方が財布分厚いし」
「えーなんだか悪いよ」
「そっちの方が、僕らが抜けた後のワイも恰好がつくだろ」
「そう、だね」
（やっぱり友奈は元々しっかり食べる子なんだよな…
少しは緊張も解れてきたか）
「………」
「次のアトラクションは…40分後か、待てるか？」
「愚問だよ！なんせ300年待った女だもんね!」
「そうだな…悪かった」
「ううん、いいの。今は一緒に待ってくれる人がいるから。
遊園地で、待ち時間も喋って楽しそうな人たちに、ちょっと憧れてたから。」
「そうか…」
――――――
「でね、ワッサム君がリリ奈ちゃんと一緒にさ…」
「ワッサムって…あぁ、でもそんな感じに呼ばれてたなぁ。治」
「ワッサム君って、ワイ君の良いところを十倍に煮詰めたような性格してるよね。忌憚なく良心の赴くままに意見が言えるところとか、面倒見のいいところとか。手足もぐんちゃん似で長くて、髪もつやつやしてて…」
「すごい詳しいな」
「そりゃあリリ奈ちゃん越しに見てたし、ワイ君とぐんちゃんの息子さんだもん。気にならない方がおかしいよ」
「それもそうか」
「他に、ぐんちゃんとかワッサム君との幸せエピソードとか無いの？
友奈因子持ちの子の視点からしか見れなかったから、もっともっと私の知らない話を知りたいな」
「そうだな…」
『間もなく、４DXの劇場が始まります…』
「取り敢えず、見終わったらまた話そうか」
「…うん！」
『間もなく閉園の時間になります…』
「次で最後だね」
「あぁ、暗くなってきたしな」
ゆっくりとコンテナが上空へ登っていく。ガラス張りの窓から、ライトアップされた街の景色が良く見える。僕らが生きていたころと比べて随分街も広がった。この遊園地は元々山の中で、近くに街の灯りなんてなかった筈なのに。きっと、新世紀を生きた人たちはこの限られた世界を少しでも天上の楽園に近づけたかったのかもしれない。
「…友奈、今日は300年ぶりに君と一緒に過ごせて楽しかった」
「…私もだよ、ワイ君。生きてた頃からだいぶ街も変わっていてなんだかすごく興奮した。でも、ちょっと寂しいかも」「……」
「時間の流れを肌で感じてさ、きっと私達が生きた証もいつか無くなっていくんだろうなって」
「…その時は、童心に戻って初めから世界を楽しめばいい」
「戻れるかな？私に」「戻れるさ、だって今も純粋だもの」
「…200年ぐらい前に、ちぃちゃんから話を聞いていたんだ。神樹で友奈に再会した時のこと」
「ごめんなさい…私、ぐんちゃんに酷いこと言っちゃった。
ワイ君を唆したした売女とか、私の恋心を肴にワイ君を汚したんだって…
ホント私って最低の女…ぐんちゃんの友達なんて言える資格なんてもうないよ」
「ちぃちゃんは、それが友奈の本心からの言葉じゃないってずっと分かってたし、今もそう信じているよ」「…ぐんちゃん…！」
「勿論、僕もみんなも信じてる。だから、友奈は最低なんかじゃない」
むしろ、
「…本当に最低なのは僕の方だ。
元はと言えば、決戦で、僕が自分の身を守れなかったのが悪いんだ。もっと精霊の扱いに円熟していれば、カグツチで炎を吸収できたはずだ。そもそも、クシナダヒメの力にさっさと気づいていれば、ちぃちゃんが七人御崎の6体を失うまで追い込まれなくて済んだんだ。
それができなかったから、友奈を助けらなかった。皆と人生を謳歌する未来を守り損ねたんだ。
あんなに助けられていたのに、生きている間何も返せなかった。友奈が死んで結界が強化されて、そのおかげで活躍できるようになって、英雄って持て囃された。友奈が苦しんでいる間、僕はのうのうと気ままに暮らしていたんだ。精霊システム、生きてた頃から構想はあったんだ。でも、神樹にもたらされた便利な生活を享受してたら、友奈を神樹から引きはがす気にもならなくて…
そして、再会する機会を失ったんだ。現世で時間はあったはずなのに」
300年分の失敗と後悔が口から溢れて止まらなかった。懺悔を聞く側はたまったもんじゃないだろう。
「僕がいっぱいしくじったから、友奈に一番つらい思いをさせた。一番友奈を不幸にしたのは、僕なんだよ」
「……でも精一杯に誰かを幸せにしようと生き抜いたんでしょう？」「…え？」
「ぐんちゃん、出会ったとき凄く、嫉妬したくなるぐらい幸せそうだった。いっぱい家族サービスしたんでしょ？アンちゃんもタマちゃんも若葉ちゃんも、みんな口を揃えてワイ君は頑張ってたって言うの。
正直、今日まで自分のことをこんなに覚えてくれている人がこんなにいるなんて思っていなかった。それは、ワイ君とその子供たちが、忘れさせまいと、天守閣の記念館を作ってくれたからだよね？」
「………」
「何よりね…今日のデート、凄く満たされてたの。生きてた頃の、どこのどの時間より。それもこれもワイ君が必死に生きて、誰かの幸せを探した経験値のおかげなのかなって」
「ぐんちゃんが300年前、神樹様のもとで言ってたんだ。『幸せを返しに行く』って。
今日、やっとその意味が分かったんだ。
幸せを培うことは、誰かの幸せにつながっているんだって」
「だからね」
「ぐんちゃんと幸せになってくれてありがとう。高嶋友奈は、今日あなたと一緒に居た時間が、今までの300余年で一番幸福でした」
「…ありがとう、友奈」
「僕からも言わせてくれ」
「306年前、友達になってくれてありがとう」
「304年前、命がけで助けてくれてありがとう、」
「そこから4年間ずっと一緒に過ごしてくれてありがとう」
「そして、300年間、僕と大切な人と、その子孫の幸せを守ってくれてありがとう」
「君と知り合えてよかった、いつか、来世でもどうか友達に」
「……高嶋、飲む？」
「……和井くんこそ、どう？」
どうしてこうなった。
事の発端は高嶋との決戦後、暫く経った後の乃木園子の提案だった。
『西暦の和井さんと高嶋さんを仲直りさせ隊、発足なんよ〜』
本人が自由恋愛できなかった反動だったのだろうか、若葉は30代半ば頃から恋バナ大好きお節介お姉さん（ここ重要）と化したが、園子はそれ以上のお節介好きと言わざる負えなかった。
そして、結城と新世紀ワイが賛同することでこの計画は実行に至った。
（あれほど高嶋に体を譲り渡すのを嫌がっていたのにどういう風の吹き回しだ、まぁ他人のことも言えないが…）
お互い、三百年後の自分の因子を有する体に、精霊システムみたく憑依して今日ここで相まみえている。正直、まったく心の準備ができていなかった。
自分はもとより、相対する結城、否高嶋の表情も硬い。道場でもバーテックス戦でもこんな表情は見たことがない。まさしく未知の領域だ。
「取り敢えず飲みきろっか」
「…ああ」
僕はシロップ部分を、高嶋はジュース部分を混ぜることなく呑み切った。今の二人の心境と距離感をこのカクテルが代弁しているかのように思えて仕方がなかった。
「丸亀城、にいってみないか？」
「…いいよ、行こう。300年ぶりだもんね」
丸亀城。僕ら西暦勇者の最重要拠点であり、青春の多くの時間をあそこで費やした。高嶋は11歳から14歳の4年間、僕は13歳から20歳の8年間だったか。
「今の時間帯ならバスがあるけど…」
「バスはちょっと…」
高嶋に監禁されて以来、僕はトラウマのせいかバスに乗れなくなっていた。
「…御免なさい」
「何も怒ってないって、電車と徒歩で行こうか」
「…うん」
丸亀の街を歩く。
「なんていうか、駅も道もピカピカだね。西暦の時はもっと寂れていたのに」
「生活圏と経済圏が四国に限定されているからな。限られた土地をちょっとでも便利に、多機能に使おうとすれば、必然的に都市の新陳代謝も早くなるんだろう」
「ふうん」
街並みをぬけて、市役所を通り過ぎて、丸亀城の堀に出た
「あれ、記憶よりもなんだか大きい気が…」
「増築したんだ、防衛拠点としての兼ね合いでね」
丸亀城は石垣の総高が日本一だけあって、勾配がキツイ。晩年の僕は天守閣に上がるのに息も絶え絶えといった様子だった。このアップダウンの激しい坂道をシャトルランで10周というのは、なかなか狂ったトレーニングだったのではないだろうか。
「へえー…じゃあさ、どっちが早く天守閣に着くか勝負しない？負けたほうがアイス奢るってルールでさ」
「は…？」
「よーい、ドン！」「ちょッ…!!」
高嶋が勢いよく駆け出した。呆気に取られてしまったが、勝負は勝負。負けてやる気はなかった。
「ハアッ…ハアッ…負けちゃった」
「…ルートも確認してなかったくせに中々無謀だよ、にしてもキツイなこれ」
増築してから、高低差６０ｍ、2km強まで膨れ上がった坂道を全力疾走したのだ。お互い心拍数190オーバー、汗だくだくの息も絶え絶えといった様子だ。
「迷子になった時、探してくれてアリガト。一回頂上着いたのに戻ってきてくれたんでしょ？」
「…まぁ、そうしないと一緒に麓まで戻れないからな」
「私と一緒に帰りたかったんだ？電話で連絡すれば先に着いたって伝えられたのに」
「……中々言ってくれるな」
「伊達に300年拗らせてないよ」
「真面でごめんて」
「…許すかは、これからの心がけ次第かな」
「善処するよ」
丸亀城天守閣。かつての学び舎は、現在西暦勇者記念館として公開されている。めちゃくちゃ小さいから、別館を増築したんだけどな。
「わ、みんなの顔嵌めスポットだ。」
「西暦四国の勇者は勢揃いだな」
「ワイ君のだけちょっと等身たかくない？あと私のだけ小っちゃいよ」
「皆は16、17あたりで精霊憑依できなくなって引退したけど、自分は20歳ぐらいまで戦えたからね。友奈のは、仕方ないかな」
「仕方なくなんてないよ！あと、旧姓こおりちか…ぐんちゃんとワイ君の距離がやたら近いんですけどー」
「まぁ、結婚したしな」（若葉が配置を決めたってのは口が裂けても言えないな）
「むきいいいいい！私ぐんちゃんのとこで写真とってやる、ワイ君も自分のところに顔嵌めて！」
「はいはい、…一枚お願いします」
「承りました。凄く仲がよろしいのですね。
因みに、その二人の顔型でとった男女は必ず結ばれるってパワースポットなんですよ」
「…忌々しき黒髪因子め、わたしの因子持ちを悉く踏み台にしてくっつきやがって！」
「はい、チーズ！」
天守閣の階段は和式建物らしく超急勾配、まるで梯子だ。
「ワイ君、上を向いてスカートの中を覗いてもいいんだよ♡」
「それ、結城の体だからな？パンツ見られて恥ずかしいの基本結城だからな？」
「今日の色は何色でしょう？」
「#F5C9C6、朱鷺色」
「正かーい！ワイ君のエッチ♡」
「…事故だからな？」
「カラーコード答えられるくらいまじまじと見た癖に♡」
（（（こいつら爆発しねえかな？）））
「ホントごめんなさい」
天守閣3階（最上階）
「ここで大体月に一回、諏訪と定例通信をやってたんだよな」
「うん。歌野さん、言葉遣いが上品できっと素敵な人だったんだろうなぁって」
白鳥歌野。諏訪を巫女とたった二人で4年間守り続けた諏訪唯一の勇者。自分は最期の半年間しか立ち会っていないが、毎回若葉と熱いそば・うどんディベートを繰り広げていたのを覚えている。ちなみに僕は鯛素麺派だ。魚の王様に適うとでも思ったか。
「勇者システム無し、切り札無しであれだけの期間戦えた、失うにはあまりにも惜しい人材だったよな。…やっぱり大社は、4年と待たず諏訪の反対側から何らかのちょっかいをかけるべきだった。包囲網ってのは、プレッシャーがあって初めて機能するんだ。そうやって圧力をかけ続けてようやく出来た綻びを叩くんだ。勇者システムだって、実地データをもっと早く取れていたらもっと改良は進んでいただろうに」
「…ワイ君、私のエゴで監禁して本当にごめんなさい。昔からワイ君は問題解決にだれよりも真剣に根本から取り組む人だったよね。あの無為な時間が無かったらワイ君とあんちゃんの考えた作戦で、もっと早くに天の神を追い払えていたのかもしれない。もっと苦しむ勇者や巫女さんが減ったのかもしれない。ワイ君が、その子孫が三百年もこの問題に苦悩することはなかったのかもしれない。だから本当に、ごめんなさい」
「もういいんだ、友奈。僕だって最初は旧大社と大差ない戦の素人で、僕の今の考え方は今までの経験全てありきの話なんだよ。あの夢想するしかできない期間があったから、ただ神樹に選ばれた勇者じゃなくて、じっくり練られた目的にに適う勇者に自分から成れたんだ。だから、感謝こそすれ恨んではいない。…ただちょっとトラウマなだけで」
（え、監禁？あの歳でなんて業の深いプレイを…）
（トラウマあるのに感謝してるだって？アイツ、とんでもねぇ変態だぜ…！）
ちらりと窓の外を見る。視界には本州に続く海と西暦のころと比べて聊か広がった工場地帯、それと枯れゆく神樹の壁が。これから十年かけて、今までの供物を資源に還元しながら、神樹はゆっくり終焉へと向かっていくのだ。
（あの頃は、海が忌々しかった。敵がやってくる場所だったから、約束を守れなかったことを思い出すから、そして何度も嗅いだ、あの子の涙の匂いに似ていたから）
「ワイ君？」
「友奈は、今、ここからの景色が綺麗だと思うか？」
「うん！だって、私と貴方と、みんなで守った世界だから」
「そうか、そうだな…僕もそう思う」
「アイス、奢らないと。約束だったしね」
「あぁ、そうだったな。ありがとう」
「ん〜、私全然店を知らないからなぁ、取り敢えず一番高いの行ってみる？」
「結城が泣くぞ…、それならこっちが指定していいか？ちょうど近いし」
「え！どこどこ？」
――――――――
『まもなく、レ〇マワールド駅。お降りの際はお足元にご注意ください』
「レオ〇ワールド、復活してたんだ」
「友奈がいた時は営業休止中だったもんなぁ…にしても明らかにデカくなったな、電車まで通って…まるで西暦のU〇Jだ。流石に西暦から残り続けた四国唯一の遊園地ってとこか」
友奈が取り込まれる前は割と神樹のリソースがカツカツで、遊園地なんて営業できる余力がなかった。僕がクシナダヒメという性能の高い精霊を存分に振るえるようになったのも、友奈の吸収による容量増大の恩恵が大きかった。僕達の栄光と束の間の平穏は、友奈の屍の上に成り立っていた。
（以降、実在のアトラクションとは異なるものがあります。ご了承ください）
・ウルトラウォータースライダーマシン
「キャアアアアッ!?!!すごい水量だよ」
(280年前とは別物だな…これなら当時のちぃちゃんや治（オサム）も吃驚するだろうな…)
・SPACEガンマン
宇宙船を模したレールコースターに乗りながら、2人一組でレーザー銃で数多くの的を狙いポイントを競う。
「的が小さくて、全然あたらな〜い！」
「まぁ、僕ら基本的にインファイターだったからね」
------ 「14万点かぁー、あともうちょっとで景品もらえたのに…って99万点!?!?できる人いるの!?」
「ちぃちゃんと杏ペアのポイントだな。まだ更新されてないのか」
「200年以上トップなの!?」
・カピバラ園
「カピバラだ〜♡かぁわいい〜♡」
「そっちは食用兼皮用のヌートリアだぞ」
「え！？」
「歯がオレンジ色だろう？それにカピバラの方が倍以上大きい」
「…ヌートリアちゃんもかわいいね///」
（球子と同じ反応だな）
・フードコート
「ちょっと小腹がすいたな、アイスとチュロスどっち食べる？」
「どっちも‼」
「はいはい」
「あ、お金は私が」
「いいよ、ワイの方が財布分厚いし」
「えーなんだか悪いよ」
「そっちの方が、僕らが抜けた後のワイも恰好がつくだろ」
「そう、だね」
（やっぱり友奈は元々しっかり食べる子なんだよな…
少しは緊張も解れてきたか）
「………」
「次のアトラクションは…40分後か、待てるか？」
「愚問だよ！なんせ300年待った女だもんね!」
「そうだな…悪かった」
「ううん、いいの。今は一緒に待ってくれる人がいるから。
遊園地で、待ち時間も喋って楽しそうな人たちに、ちょっと憧れてたから。」
「そうか…」
――――――
「でね、ワッサム君がリリ奈ちゃんと一緒にさ…」
「ワッサムって…あぁ、でもそんな感じに呼ばれてたなぁ。治」
「ワッサム君って、ワイ君の良いところを十倍に煮詰めたような性格してるよね。忌憚なく良心の赴くままに意見が言えるところとか、面倒見のいいところとか。手足もぐんちゃん似で長くて、髪もつやつやしてて…」
「すごい詳しいな」
「そりゃあリリ奈ちゃん越しに見てたし、ワイ君とぐんちゃんの息子さんだもん。気にならない方がおかしいよ」
「それもそうか」
「他に、ぐんちゃんとかワッサム君との幸せエピソードとか無いの？
友奈因子持ちの子の視点からしか見れなかったから、もっともっと私の知らない話を知りたいな」
「そうだな…」
『間もなく、４DXの劇場が始まります…』
「取り敢えず、見終わったらまた話そうか」
「…うん！」
『間もなく閉園の時間になります…』
「次で最後だね」
「あぁ、暗くなってきたしな」
ゆっくりとコンテナが上空へ登っていく。ガラス張りの窓から、ライトアップされた街の景色が良く見える。僕らが生きていたころと比べて随分街も広がった。この遊園地は元々山の中で、近くに街の灯りなんてなかった筈なのに。きっと、新世紀を生きた人たちはこの限られた世界を少しでも天上の楽園に近づけたかったのかもしれない。
「…友奈、今日は300年ぶりに君と一緒に過ごせて楽しかった」
「…私もだよ、ワイ君。生きてた頃からだいぶ街も変わっていてなんだかすごく興奮した。でも、ちょっと寂しいかも」「……」
「時間の流れを肌で感じてさ、きっと私達が生きた証もいつか無くなっていくんだろうなって」
「…その時は、童心に戻って初めから世界を楽しめばいい」
「戻れるかな？私に」「戻れるさ、だって今も純粋だもの」
「…200年ぐらい前に、ちぃちゃんから話を聞いていたんだ。神樹で友奈に再会した時のこと」
「ごめんなさい…私、ぐんちゃんに酷いこと言っちゃった。
ワイ君を唆したした売女とか、私の恋心を肴にワイ君を汚したんだって…
ホント私って最低の女…ぐんちゃんの友達なんて言える資格なんてもうないよ」
「ちぃちゃんは、それが友奈の本心からの言葉じゃないってずっと分かってたし、今もそう信じているよ」「…ぐんちゃん…！」
「勿論、僕もみんなも信じてる。だから、友奈は最低なんかじゃない」
むしろ、
「…本当に最低なのは僕の方だ。
元はと言えば、決戦で、僕が自分の身を守れなかったのが悪いんだ。もっと精霊の扱いに円熟していれば、カグツチで炎を吸収できたはずだ。そもそも、クシナダヒメの力にさっさと気づいていれば、ちぃちゃんが七人御崎の6体を失うまで追い込まれなくて済んだんだ。
それができなかったから、友奈を助けらなかった。皆と人生を謳歌する未来を守り損ねたんだ。
あんなに助けられていたのに、生きている間何も返せなかった。友奈が死んで結界が強化されて、そのおかげで活躍できるようになって、英雄って持て囃された。友奈が苦しんでいる間、僕はのうのうと気ままに暮らしていたんだ。精霊システム、生きてた頃から構想はあったんだ。でも、神樹にもたらされた便利な生活を享受してたら、友奈を神樹から引きはがす気にもならなくて…
そして、再会する機会を失ったんだ。現世で時間はあったはずなのに」
300年分の失敗と後悔が口から溢れて止まらなかった。懺悔を聞く側はたまったもんじゃないだろう。
「僕がいっぱいしくじったから、友奈に一番つらい思いをさせた。一番友奈を不幸にしたのは、僕なんだよ」
「……でも精一杯に誰かを幸せにしようと生き抜いたんでしょう？」「…え？」
「ぐんちゃん、出会ったとき凄く、嫉妬したくなるぐらい幸せそうだった。いっぱい家族サービスしたんでしょ？アンちゃんもタマちゃんも若葉ちゃんも、みんな口を揃えてワイ君は頑張ってたって言うの。
正直、今日まで自分のことをこんなに覚えてくれている人がこんなにいるなんて思っていなかった。それは、ワイ君とその子供たちが、忘れさせまいと、天守閣の記念館を作ってくれたからだよね？」
「………」
「何よりね…今日のデート、凄く満たされてたの。生きてた頃の、どこのどの時間より。それもこれもワイ君が必死に生きて、誰かの幸せを探した経験値のおかげなのかなって」
「ぐんちゃんが300年前、神樹様のもとで言ってたんだ。『幸せを返しに行く』って。
今日、やっとその意味が分かったんだ。
幸せを培うことは、誰かの幸せにつながっているんだって」
「だからね」
「ぐんちゃんと幸せになってくれてありがとう。高嶋友奈は、今日あなたと一緒に居た時間が、今までの300余年で一番幸福でした」
「…ありがとう、友奈」
「僕からも言わせてくれ」
「306年前、友達になってくれてありがとう」
「304年前、命がけで助けてくれてありがとう、」
「そこから4年間ずっと一緒に過ごしてくれてありがとう」
「そして、300年間、僕と大切な人と、その子孫の幸せを守ってくれてありがとう」
「君と知り合えてよかった、いつか、来世でもどうか友達に」
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