- 築上町(旧築城町)
築城町の本庄というところにある月光山天徳寺には、三つ足のカエルの形をした「がまの香炉」が保管してあり、
それにまつわる不思議な話が伝えられています。
この香炉は、今から千年ほど昔、豊前の国を支配していた宇都宮氏が天皇から賜り、菩提所として開いた天徳寺に
納めたものだといわれています。香炉の縁起を説いた「香炉の伝」には、
「香炉の色は漆黒にして、その質何の金やら知らず」と記されていますが、人々は、金でできた世にも珍しい香炉である
と、盛んにうわさしあっていました。
そんなある時、天徳寺が火事になり、記録や宝物など重要なものがほとんど焼失してしまいましたが、香炉だけは、
もとの姿のまま残っていました。そこで、住職は、この香炉にはきっと不思議な力が宿っているのだろうと考え、
以前にも増して大切に保管することにしました。
ところがある夜のことです。金でできた香炉のうわさを耳にしたどろぼうが、香炉を盗みだしてしまいました。
見れば見るほど見事な香炉です。その魅力にとりつかれたどろぼうは、大事に枕元に置いて床に就きました。
うとうとしていると、どこからか「かえる、かえる」という泣き声が聞こえます。びっくりして起きあがったどろぼうは、
あたりを見回しますが、何の物かげもなく、物音ひとつしません。「おかしいなあ、確かに聞こえたんだが」と、
頭をひねりながらまた眠ろうとしますと、前にも増して大きく悲しげな泣き声が聞こえてきます。それからというもの、
どろぼうは、毎晩恐ろしい夢にうなされ続けたのでした。すっかりおじけづいたどろぼうは、
「この香炉が泣いて、恐ろしい夢を見させているにちがいない」と、香炉をお寺に返し、仏前に許しを請いました。
その後も、香炉は何度となく盗まれましたが、必ずお寺に返されたということです。
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