- 嘉麻市(旧碓井町)
全国各地に“皿屋敷”とよばれる話は数多くあり、そのひとつに嘉麻市(旧碓井町)の正統皿屋敷があります。
主人公は美人のお菊さん。彼女は行儀作法を身につけようと豪農清左衛門の屋敷に奉公に出ていました。
元禄六年(約二百年前)の夏のことです。この家の主人が何よりも大事にしていたという朝鮮の陶器の皿
十枚のうち一枚が紛失、この皿の行方をめぐって大騒動が起き、とうとう奉公人のお菊に濡れぎぬが
きせられてしまいました。身に覚えのない菊は、悲しさのあまり泣き泣き裏の古井戸に飛び込んで死んで
しまいました。
この皿の紛失は、清左衛門の妻がお菊の美しさに、ねたみ心をおこし小細工をしていたものと分かりました。
菊が死んでからは、毎晩井戸の中から菊の幽霊が音もなく現れ、一枚、二枚、三枚…と九枚まで数えた後、
ワァッと泣きくずれて、スウーッと消えていきます。あまりの不気味さに、清左衛門一家はよそへ
引っ越してしまいました。
さて、この皿屋敷の話が正統と言われるのは、この後の話からです。
井戸に身を投げた菊には、すでに恋人がいました。三平さんといって気がやさしくて力持ちの美青年。
どうしても菊を忘れられず、菊の母親と亡き恋人の供養のため四国八十八カ所巡礼の旅に出ました。
長い巡礼の末、お母さんが病気で倒れ、三平さんは播磨の国に住みつき、やがて菊に似た女性と結婚して
楽しい毎日を送っていました。
ある日のこと、お坊さんに菊の法要をいとなんでもらっている時、三平さんは急に目まいを覚え気を
失ってしまいました。三平さんが気を取り戻してみると、妻の姿はなく、着物だけが残っていました。
そして、その下には菊を死に追いやったあの皿が一枚ボトンと落ちていました。妻となった女性は、
菊の化身だったのです。
それから三平さんは、この不思議な事件の一部始終をいろんな人々に話して聞かせました。
それが各地に広まったのだ、と旧碓井町のお年寄りは語っています。
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