- 筑後地方
むかし、筑後のある山里に小さな水車小屋があり、年老いた夫婦が住んでいました。
おばあさんはたいそう若づくりで、人から
「若いなあ」
と言われると大喜び。いつもそのことを自慢に思っていました。
ある日のことです。水車小屋に柿売りの男がやってきました。おばあさんはいつものようにたずねます。
「わたしはいったい、いくつくらいに見えるかな」
すると、その男はついつい正直に、
「六十くらいに見えるが…」
と答えてしまったものだからたいへん、おばあさんはプィッと怒って、柿を一個も買いませんでした。
男は、なぜおばあさんが急に怒り出したのか、さっぱり見当がつきません。
不思議に思って首をかしげていると、そばにいた村人が
「あのばばしゃまには若く見えると言わねば」と教えてくれました。
「そうだったのか。よーし」
男はふたたび水車小屋へやって来ました。
「さっきはほんとうに失礼なことを言いました。どうみても十九か二十か二十一くらいにしか見えません」
柿売りのこのことばにすっかり気を取り直したおばあさん。今度は柿を全部買ってやりました。
あんまり若く見られたおばあさんは、うれしくなっておじいさんに言うと
「ハッハッハッ、おまえさんもバカだなあ、十九と二十と二十一をたしてごらんよ。ぴったり六十になるではないか」
「なるほど」
と感心したり悔しがったり。
それからは、このおばあさんも年のことは言わなくなったそうです。
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