朝倉市の旧勝山という町に、むかし、フウゾウという、少しばかり変わった男が住んでいました。
独り者で、朝早くから山に登っては、日暮れになるまで、山の炭焼き小屋で炭を焼いては、
何を考えているのやら、ものも言わずに暮らしておりました。
顔が炭の粉で汚れていても気にもせず、着物がほころびても独り者ですから繕いもせず、
誰が何と言おうとも、いつもニヤニヤ笑っていました。そんなありさまですから、
「フウゾウどのはうすのろじゃ。だから、誰も嫁のきてがない。フウゾウどのはうすのろじゃ。
いつまでたっても独り者……」
と村人たちはあざ笑っていました。
ところが、どうしたことかこのフウゾウに、都の大家の娘御が嫁となってやってきました。
誰が世話をしたものか、また、どんな訳でその娘御が嫁になってやって来たのか、誰も知りません。
「不思議なことよのう……あんなフウゾウみたいなうすのろに、都の大家の娘御がのう……よう嫁に来たものじゃて」
「こりゃ、きっとフウゾウは、何かうまいことをやりおったに違いないなか……」
「それにしても、何と美しい娘御じゃ」
「フウゾウは、運のよい男じゃて」
村人たちは勝手に、フウゾウのことを噂していましたが、しばらく経ちますと、
「しかし、あの嫁御は……フウゾウを馬鹿にして、大事にしないちゅうでねえか。無理もないことよのう」
「そりゃ、そうだ。あのフウゾウのうすのろに、都育ちの娘御だ。第一、つり合いが取れねえちゅうもんだ」
「当たり前だ。やっぱし、田舎者には田舎者……分相応ちゅうことがあらあ」
「うすのろには、うすのろか」
「そういえば、フウゾウのやつ。この頃は、とんと浮かぬ顔をしているだ」
「まいにち、ご飯の煮炊きから洗い物まで、フウゾウがするちゅうことだ」
「それよ、それよ……嫁御は毎日きれいに着飾っては机に向かい、手習いから本読み……仕事はしねえちゅうからな」
「フウゾウも、まいったろう、ハハハハ」
村人たちの噂話も変わってきました。
ところがある日のことです。夜須村のフウゾウの里へ、嫁御をつれて菊の花見に出かけました。
あまり気の進まなかったフウゾウでしたが、都育ちの美しい花嫁の頼みです。断ることもできず、仕方なくのおともでした。
途中、松延の池のそばにやってきますと
「まあ、カモ……カモが……」
と嫁がさわぎだしました。そして
「あなた……あのカモをとらえて……」
とフウゾウに頼みました。そこでフウゾウは、たもとからキラキラ輝く小判を取り出して、
それを二、三枚つぶてがわりに、カモを目掛けて投げつけました。
「あなたっ、そっ、それは小判……小判じゃありませぬか。何というもったいないことを。
どっ、どうして、そんなにたくさんの小判を持っているのです……」
「なに、これが小判だと……こんなものなら、裏の炭焼き小屋にわんさとあらあ……」
「裏の炭焼き小屋?」
嫁はびっくりして、フウゾウを連れ、我が家の炭焼き小屋へと急ぎました。
なるほどフウゾウの言うとおり、そこにはまばゆいばかりの光を放つ小判が、山のように積んであったのです。
フウゾウは今まで、米も野菜も衣もみんな、自分の焼いた炭と取り替えて暮らしていましたから
むかしから、そこに積んであった小判のありがたさが、全然分からなかったのです。
それから二人は長者になって暮らし、嫁もフウゾウを大事にしたということです。
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