- 川崎町
上真崎の金原台地には、むかし殿様がお国巡視のときに“下に下に”と行列をして通ったという殿様道が
ありました。
英彦山参りの人も、この道を往来していたと言われています。今日では笹やかずらが生い茂り
通行できない所もあるほど荒れ果てています。
道の小高いヒノキ林のなかに、地元の人たちから「イキツシマ太郎兵衛の墓」と呼ばれる墓石がひとつ
静かに立っています。
いつの時代かはっきりしませんが“雷は怪獣”と言われていたころのことです。
田植えもすんだ初夏のある日、諸国巡行の旅僧、太郎兵衛さんは英彦山参りを済ませ、次の霊場へと
向かう途中この地を通りかかりました。
すると、にわかに南の空から真っ黒い雲が現れ、みるみるうちにあたりの空いっぱいに広がりました。
たちまち大粒の雨がザーと降ったかと思うと、ピカピカッ、ゴロゴロと、ものすごい稲光と雷が村中に
とどろきわたりました。「雷さまが来られたぞ」道行く人たちは怖がり小さくなって、ブルブル震えて
いました。
太郎兵衛さんは、よしこの時こそ我が念力を試さんとばかり手にしていた数珠を振り回したり、
手を合わせたりして念仏を一心に唱えました。しかし、雷さまには何の効き目もなく、かえって
雷さまは牙をむき、目を光らせ、太郎兵衛さんに迫ってくるのです。「もうこうなれば最後の手段だ」
太郎兵衛さんはとうとう腰につけていた剣をひき抜きました。そしてこれを頭上高々と両手で突き上げ
「やあやあ我こそは諸国の霊場を巡行する旅僧なるぞ、人々に被害を与えるとは何ごとぞ。
怪獣の目を突き刺してくれようぞ」と言って街道に走り出して行ったのでした。
この様子を見守っていた人たちは、太郎兵衛さんと天上界に住む猫に似た爪の鋭い怪獣との激闘を
予想してかたずをのんでいました。しかし次の瞬間、すさまじい雷鳴がしたかと思うと、太郎兵衛さんの
剣先に火花がパッと散りました。
恐る恐る人々が近寄ってみると、哀れにも太郎兵衛さんは鋭い爪でかきむしられ、ばったりと
倒れていました。
村の人たちはこの地に太郎兵衛さんの墓を建て、のちのちまでその霊を慰めたということです。
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