福岡県の郷土のものがたりです。


むかし、むかしのお話です。

ある所に、お父さんとお母さんと一人の娘が住んでいました。

けれどもお母さんは、娘にとってはまま母でした。

あるとき、お父さんは用ができて、しばらくの間江戸へ行くことになりました。

お父さんは出かけるとき、娘に、

「さびしいだろうが、お母さんの言われることをよく聞いて、わしの帰るのを待っていておくれ」

と言い残して、江戸へ向かいました。

まま母は、娘が憎くて、「なんとかして、娘をこの家からなくす方法はないものか」と考えていました。

娘は、まま母から叱られるたびに、そっと涙をふきながら、まま母の言いつけをなんとかして守ろうと励むのでしたが

無理な言いつけばかりですから、うまくいく筈がありません。毎日、江戸の方に向かっては、

「ととさま、ととさま……」

とお父さんの帰る日だけを楽しみに、つらい毎日を我慢しておりました。

ある寒い日の夕方のことでした。

「この品物を、となり村の庄屋さんのとこまで、届けておいで」

とまま母が、娘に言いつけました。

となり村といっても、二山も山越えしなくてはいきつかない所です。それに日も暮れかけています。

娘の足では、たっぷりと一晩はかかります。しかし娘は、夕暮れの道をでかけました。

娘はおそろしさに震えながらも、一晩じゅう山道を歩きつづけました。

そして用事を果たし、我が家の前につくと、バッタリ倒れてしまいました。

朝、まま母が娘を見つけたときには、すでに娘は死んでおりました。

――これで、わたしの願いもかなった――

まま母は考えたあげく、裏の畑に娘を埋めてしまいました。

すると不思議にも、そこから一本の竹が生えてきて、すくすくと伸びていきました。

あるとき、そこを通りかかった虚無僧がその竹を見て、まま母に、

「こんなりっぱな竹は今まで見たこともない。笛にしたいので、ぜひ分けてくださらんか」

と頼みました。まま母は、

「江戸では吹かないと約束してくださるなら、お分けいたしましょう」

と言ったので、虚無僧はその竹を切って、笛を作りました。

ところが、その笛から流れる音色は実に悲しく、人の心を深い悲しみに誘い込むほどでした。

虚無僧は、その笛を持って諸国を流れ、いつの間にかまま母との約束も忘れて、江戸でも吹くようになりました。

笛の音は、死んだ娘のお父さんの耳にも流れてきました。それは、


かかさま

うらめし

ヒューヒョロロ

お江戸の

ととさま

恋しやな

と歌っているようでした。お父さんは、何か胸騒ぎを覚え、急いで我が家に帰ってきました。

「娘はどうした……」

まま母は黙っていましたが、厳しいお父さんの詮議に、とうとうまま母は、一切を白状してしまいました。

その日、まま母は、お父さんの手で殺されてしまいました。

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