1

「ほら。いっしょに寝よ? 最近涼しくなってきたしさ、ふたりで寝たって暑くないじゃん?」

迷いの竹林のどこかにひっそりと建つ、因幡てゐだけが知っている彼女の秘密の隠れ家
そこに招待された少年の"今日"は、まるで瞬く間に時間が過ぎていったようだったろう
つい幾日か前、意を決しててゐに胸のうちの恋心を打ち明けた少年は
午後に隠れ家に招かれてからというもの、今の今までてゐと二人きりの時間を過ごしていた
茶を喫し、他愛もない話で時間を潰し、彼女が手ずからこしらえた炊き込み飯と惣菜を食べ
『汗を流して来い』と言われて湯に入り、戻ってきてみれば布団は一人分、枕は二つ
年頃である少年は、この状況を含め今日一日が夢にさえ感じられてきたのだった
……部屋には心が安らぐ匂いの香が焚かれ、秋の夜の涼しさはまさに安眠にうってつけ
眠るにはこれ以上ない環境であるのに、少年の心はまったく定まらず、落ち着かない
それもそのはず、目の前の布団に寝そべり少年を手まねきするてゐの寝間着は
肌の色さえ透けて見える、大胆極まる薄桃色の夜具であったためだった──

2

「聞いてる? ……あそ。聞こえてるなら早く来る。ほら」
尋常ならざる装いであっても、てゐの普段と変わらぬ口調に、思わず少年は同衾を承諾してしまった
布団は一組、逃げ道などはなく、もちろん逃げ出したとしてもここは迷いの竹林である
逃げ場を失くした状況で、例外のない確実性をもって自らの虜に仕立て上げる
これは数え切れぬほどの色と欲を貪り、知り尽くしてきたてゐの常套手段だった
寝入った布団がいやに冷たく感じたのは、少年の肌が火照り始めた証拠である
「……ほんと、寝やすいよねぇ。気ぃ抜くと体調悪くしそう」
心ここにあらず、の少年の腕に、てゐがすっと身体を寄せて軽く抱きつく
少年はそれだけで身体を震わせ、二の腕にあたるてゐの肉体の柔らかさを感じると
てゐにこれから捕食される運命にあることを心のどこかで悟ってしまうのである
てゐの肢体は豊満ではないが、どこか口では言い表せぬ魅力があった
何も知らない少女の身体に、熟れきった女ざかりのような脂がみなぎっている……ような
少女の姿で幾星霜をもを過ごしてきたという経験と時間が、そんな一見不可解な魅力をもたらしていた

3

そうするうち、少年は自分からは何も言わなくなってしまった
てゐの意味もないような世間話に、最初は簡単な受け答えを続けていたものの
次第にてゐの接触の段階が大胆さを増し、てゐの呼びかけにも紅い顔をさらに紅くするだけになった
今では一組の布団の中で、互いを見つめあって抱き合っているような姿勢になっている
「……んっふふ」
顔と顔、胸と胸、腹と腹……相手の心臓の鼓動までが筒抜けの密着状態にあり
てゐは少年の太ももを自分の股で挟み込み、しきりに股間を少年の脚にこすりつけている
じっとりと熱く湿ったてゐの秘所の温度は、少年も感じてはいただろうが
この状況にあっては生殺与奪を完全にてゐに握られていることも同時に察していた
一見無害なように聞こえる"妖怪兎"は、こと閨事に関しては他の追随を許さない
妖怪兎に告白した少年の愚かさがどのようなものだったかということを
半分てゐは教訓として教えるつもりで、もう半分は確実に少年を"堕とす"ため
少年の汗で重くなってしまっていた着物を脱がしにかかった

4

「ほぉ……ら。裸にされちゃったね? 食べちゃうからね、あんたのこと……」
てゐの唇は彼女の肉体と同じように、『健康に気を使った』たまものである
つや、色、柔らかさ、てゐは言葉を発するとひらひらと動くその唇は、唇そのものが魅力になる
「もう、終わりだよ。お・し・ま・い。もうほかの娘じゃ、絶対だめなようにしたげるから」
密着状態の少年にしか聞こえないようなかすかな声で少年に囁きかける
その受け唇がわずかに開いていて、そこに赤い舌が覗くのがぞっとするほどに欲情をそそる
……少年が自分の唇に釘付けになっているのを見計らい、てゐはひと息に少年の唇を奪った
しっかりと唾液を纏った舌が、すかさず少年の口内に入りこんで、てゐの味を教え込んでいく
何度も舌に蹂躙され、唇で唇をしこたま食まれ、鼻にかかったてゐの媚声が鼓膜に染みる
口先三寸で言い包められるように、口吸いに対しての少年の反応は従順になっていった

5

口内からすっかり自分の味が抜けてしまった頃、ようやく少年はてゐの口唇から開放された
頭に血が上りきってしまった少年は、もはや安眠香の匂いなどは感じることができず、
汗ばんだてゐの身体から立ち昇る、咽るような体臭だけが部屋に充満していた
牝兎が醸し出す体臭は、牡兎がひと嗅ぎすればそれだけで即発情するほどのものだという
てゐに拘束される前は皮がかむっていたはずの少年の陰茎は
さんざてゐの媚臭を嗅がされ、さんざてゐの唾液を飲まされたあげくに
それらによる興奮だけで激しく勃起し、今では亀頭が完全に露出した大人の姿になっている
「そろっそろ……食べごろかなぁ……。んくくっ」
少年の陰茎の成長も、見ずともわかる、てゐはそこまで計算のうちだった
「聞こえてるかな? もう聞こえてないよねぇ……」
先ほど少年の脚に秘所をこすりつけたのと同じ要領で、てゐは股間を少年の陰茎に接近させる
最初はみっちり閉じていたてゐの秘裂は、興奮により歴戦の女のものに姿を変えていた
「"はじめて"。いただきまぁ〜……すっ」
そして大小の陰唇を押し開くように指を添え、愛液の溢れる膣に一気に少年の陰茎を飲み込んだ──

6

──挿入された瞬間、堪えていた堰を切ったように、少年の初精が勢いよく噴出した
「あっ、あぁ……あはっ。う、ふぁ、んんぁあ、やっぱ……ああぁ、キくぅ〜……っ」
瑞々しく濃厚な精液がてゐの膣内を駆け上がり、てゐの子宮の入り口に何度もぶち当たる
射精のたびに身体を硬直・痙攣させる少年だったが、数えて八度震えたのちは
長時間の愛撫の焦らしで溜まりに溜まった情欲を、ここへ来て一度に発散してしまったのか
壮絶な膣内射精の快感に、半ば正気を手放したかのような深い眠りに落ちてしまった
「んぁ……あ、ああっ……」
しかし、てゐはそれだけでは終わらせなかった
もう完全に自分を失くしている少年と少年の陰茎に、とっくりと"自分の形"を教え込むため
腹筋を始め、様々な筋肉を総稼動させて、膣壁を操り、腰を振り、何度も射精を強制させる
「んっ、んっ、……んふふぅっ。ほら、もっとっ、もっと出せっ、もっと射精しろっ? ほらぁっ」
失神した少年の、残り汁を哀れに搾られるだけの、もはや射精とも呼べない吐精は、空が白むまで続けられた

7

「ごめん、ほんとごめんっ。昨日はちょっと……ね? もう、ほんと悪かったよぅ……」
いかにも体調が悪そうに、うつらうつらと船を漕ぐ少年に寄り添って、てゐは何度も謝っていた
「あたし、発情期が来るとさ、もうほんとに我慢できなくなっちゃってぇ。
あたしは日ごろは我慢できる分、ふとした時の反動がひどくてさ……」
まさに精も根も尽き果てた少年は、あいまいな返事をするばかりだったが
「……だから、嫌いにならないでくれる?」
と、この質問については、はっきりと『なるわけがない』と答えたのだった
その張本人のてゐは、声色は心底申し訳なさげではあったが……顔は、含みのある笑みだった
てゐはあの一夜で、少年の身体にさまざまな仕掛けを叩き込んだ
口を吸えば、挿入させれば、てゐの体臭を嗅がせれば……またすぐに、少年は条件反射で発情する
様々な搦め手で相手を"もの"にするのが、てゐの楽しみだった
「それじゃさ、今度からはお風呂もふたりで入ろうよ。ねぇん、いいでしょ?」
身体を先に手懐けられてしまった少年は、もちろんこれを断る気持ちも起きない
それを確かめ、すうっと瞳を細めながら少年へ笑いかけるてゐだった

(二)

1

「……あの、ね。私、君のことが、好きです」
日中に雨が降り、澄みわたった涼しさが大気を彩っていた夜だった
鈴仙・優曇華院・イナバはこの夜、永遠亭内の自分の部屋にひとりの少年を連れ込んでいた
「えっ……と。私が薬売りに来ているときも、いつも見てくれてたわよね。うん、いつも……」
当の少年は、憧れの鈴仙からの告白に、ただひたすら顔を紅潮させるばかりであった
「ん……」
肩をぷるぷる震わせ今にも気を失ってしまうそうな少年を、鈴仙はひしと抱きしめた
わずかに筋肉を身体に纏い始めた、ほんのりと硬い少年の全身を抱く腕に力を込めると
肉体にやっと男としての頼もしさが現れ始めたばかりのこの少年が、さらに愛おしく感じられた
──最近、てゐが少年を囲っている事は鈴仙も知っていた
当たり障りのない人付き合いをすると思っていたてゐが、柄にもなく……と驚いてはいたが
抱き返してくる少年の腕の力を感じながら……鈴仙は今では自分自身に驚いていた
世の穢れを知らない、自分の事を尊敬とわずかな恋慕の眼差しで見てくれていたこの少年を
今から自分の肉欲の虜にしてしまわんがため、彼女は少年を私室に引き込んだのだった

2

今の鈴仙は湯文字一枚きりで、その中に下着などは身に着けていなかった
その大胆さにも驚いただろうが、少年は鈴仙の肉体の真の異常に気付いていただろうか
彼女が下着を身に着けぬのも、尋常でない汗の量と、触れてみて熱いほどの肌の火照りのため
まさに、今夜の彼女は発情状態の真っ只中にあった
「好き……。君と同じくらい、君が私を好きなのくらい、私も君が好きなの……っ」
残っていた理性もこれまでだったのか、鈴仙は一も二もなく、少年に厚い唇を押し当てた
薬売りとしての普段の彼女の姿しか知らない少年は、それだけで慌てふためいたが
素早い手並みで服を脱がされ、自分の身体の驚くべき場所に舌と唇の愛撫を受けた少年は
性感を感じるが早いか、気が動転するが早いか……全てを忘れそうにもなった
ものの五分、十分で、少年の全身は鈴仙の唾液と吸い痕まみれにされてしまった
「ほら、ほーら……ちゅう、ちゅうっ……ふふ。可愛い……っ」
年頃の少年などには刺激の強すぎる、鈴仙が秘めていた情欲の底知れなさに
すっかり溺れ込んでしまったのか、鈴仙がひとつ指を差し出せば自分から吸い付くようなさまだった

3

鈴仙がこれほどにまで激しく発情しているのも、隣室のてゐの悪質ないたずらのせいだった
永遠亭の私室と私室は襖で仕切られているだけではあったが、この襖には簡易な結界が張っており
この結界には寒気や暖気をある程度調節する能力や、多少の防音効果などが備わっている
しかし、昨夜てゐは密かにこの結界を解いておき、夜通しの物音や嬌声、てゐ自身の"匂い"など
全て隣室の鈴仙に気取らせる目的で、普段より一層激しく"こと"に及んだのだった
それにより鈴仙は無理やり眠りから引き戻され、身体中を疼かされ、ついに一睡もできなかった
耳も鼻も、あらゆる五感が敏いだけに、鈴仙の全身はまるで愛撫されたかのように熱くなった
てゐの媚びたような、鼻にかかった喘ぎ声、幾度となく放たれたであろう精液の臭い──
身体の芯に残る疲労と、それと同量の"もの欲しさ"が、朝の鈴仙の顔に滲み出ていた
自分の中に燃える情欲の炎を確かに感じながら、最初は鎮めようと抗ってはいた鈴仙だったが
あれから幾度も自分の指、道具、あらゆる方法で慰めたが、決して絶頂できなかった
その夜には結局、想っていた少年を私室に招くなどという行為に及んでしまったのであった

4

兎の発情は、生のぬくもりがなければ決して鎮める事はかなわないという
性欲を発散する以上に、溜まりに溜まった人恋しさが解消されなければならない
ただ乱暴に犯されるだけでは決して満たされず、愛し愛される事が最も重要な要素であるとされる
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……」
少年の体力と精力について、鈴仙は対策を怠ってはいなかった
少年に出した飲み物には自らが調合した精力剤や媚薬をいくつも紛れさせていた
もちろん、少年自身に副作用などが残らないよう配慮した種類と量なのだが
師から授かった知識を自らの肉欲を満たす為に最大限活用しているという事実に
鈴仙はすこしの罪悪感と、それを大きく上回る背徳感が背筋を駆け昇るのを感じていた
「も……もう、いいわよね……っ」
鈴仙の下準備通り、少年の若茎はしっかりと勃起しきり、無知な肌色を晒していた
それを確認するやいなや、惚けている少年に飛びかかり、
「ん、ぁ、ああっ……か、はぁあああぁ〜〜〜……っ!」
当たり構わぬ大声で喚き散らしながら、がに股でただひたすら若茎を貪る騎乗位になったが
未経験な少年の陰茎がこれに耐えられるはずもなく、まさに三擦り半で果ててしまった

5

「ぁ……なかはっ……なかは、膣内はだめなのっ。ぜったいにだめっ、だめなのにぃいいっ」
膣内射精を感じ取り、ふと正気に戻ったかのような鈴仙だったが、その本心は真逆であった
理性を手放すまいと振る舞う事自体に一種の快感を覚えているだけで
実際の彼女は、精神と肉体のどちらもが、ただの一匹の牝兎に成り果ててしまっていた
精神で言えば、目の前のまだ未熟な少年が自分を"女"として貪っている事実に陶酔しきり
肉体で言えば、少年の子種のすべてを子宮に抱きしめ、確実に着床する準備を整えていた
「……やっ、やだぁっ、やっぱり欲しいぃ……君のこども、私のおなかで産みたいのぉっ……!」
最初に少年と向き合ったときに見せていた、まぎれもない美少女の外見と
それに伴ういかにも清廉な雰囲気、しぐさ、顔つきまでも、その全てが今では見る影もない
柔らかな肉が少年の身体と何度もぶつかりあう度、室内に響いてゆく肉の音
射精の痙攣に耐え切れず、自分の胸にへたり込んでくる少年の身体の重み
少年が自分に向けている愛情と、自分が少年に向けている愛情が釣り合っていることを
鈴仙は無意識に波長を読む事できちんと確認していたのだった

6

数度の絶頂を経て、鈴仙は自分の身体に変調がきたしている事に気付いた
股間が、乳首が、頭の芯が、今までよりずっと妖しく疼くのも奇妙だった
少年の陰茎が、手指が、愛の言葉が──疼きに燃える鈴仙の身体の各箇所を刺激するたびに
この疼きは一向に治まる兆候を見せず、それどころかさらに激しく熱を増して疼いてくる
それは鈴仙の"波長を操る能力"が自らの手中を離れかけたことにより
自らの兎の本能を際限なく呼び覚まそうとしている所為であった
それも彼女自身に留まらず、すぐ隣の少年の性欲の波長までも狂わせてしまったのである
「ひゃ……ぁあっ! ぇ、あ……? ちょ、ちょっとぉ……んは、ぁ、ああっぁあああっ!」
突然、少年は子供とも思えぬ馬力と速度で鈴仙の膣を荒く突き、貪り、射精を繰り返し始めた
それは鈴仙の用意した薬品がもたらす以上の精力だったが、それは鈴仙も同じ事で
「……っふふ、なぁに、そんなに射精しちゃって……んんっ! あ、っはあぁあ……っ」
絶倫さをものともせぬ余裕の表情で、鈴仙は少年の暴走した性欲を受け止め続けた
そうしてあらゆる汁の一滴も出なくなるまで、彼女たちはまぐわい続けたのだった──

7

──次の朝、泥のように眠っていたふたりが目覚めたのは昼過ぎになってだった
少年は永遠亭に泊まる旨を両親に伝えていたが、まさかこのような事態になっているとは考えまい
竹林を抜け、人里の少年の住まいまで案内する道中、ふたりの関係は普段のものに戻っていた
他愛もない話で微笑み合ったり、時たまには、手を握って歩いてみたり──
昨夜の、けだものの様に互いを求め合っていた痴態を忘れてしまったわけではない
肉体の繋がりを得た事で、ふたりはより親密に距離を縮める事に成功したのだった
住まいの前まで到着したとき、ふたりは握っていた手を離すのを一瞬ためらったほどである
「ふぅ〜……ん」
今回の全ての元凶であるてゐが、いつの間にか鈴仙の背後についてきていた
「できたんだ。彼氏」
「うるさいっ」
少し語気を強めただけでは、てゐは懲りも反省もせず、くっくと喉を鳴らして笑うばかりだったが
「長続きするといいね。……ほら」
てゐに促され見てみると、もう一度こちらに振り向き手を振る少年の姿があった
まだ自分は想いを遂げられたのみであるという事をひしと感じながら、少年との"これから"に想いを馳せる鈴仙であった

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