1

「あら、お久しぶり♥」
「………」
 ちゃぷと水面から音がすると、久方ぶりに彼女の顔が見えた。姫の名を取る彼女は確かにそれだけ美しい。絵本の人物のような屈託のない笑顔は、きっと誰もがときめいてしまうだろう。いつ会ってもどんなことをしていても、彼女の笑顔は変わらない。
 ブルーの瞳が優しくこちらを見つめてくる。唇だけが艶めかしく月夜に反射して妖しく光るのに気づくと、私の背筋がぞくりと震えた。
「ちゃんと言いつけを守ってるのね。 けど……興奮しすぎじゃない? 水の中にいても分かるわよ、その匂い」
 自分がやらせているくせに。そう思っていても私は口に出せやしない。マントの内側を彼女に見せる。私の肌は夏の熱さに包み焼きにされだらだらと汗ばんでいる。一瞬感じた涼しさは、内側の衣装と玩具を見られてしまう羞恥心に塗り潰された。
 乳房は金属のリングに根本から持ち上げられ、腹部は穴だらけのコルセットが肉を絞り出す。凹凸を剥き出しされた姿は私が芸術作品であったなら、そういうものだと言い張って理性を保てていたのかもしれない。
 だが残念な事に、下半身を穿つものが私の正気を許さなかった。

2

 両穴を穿つのはかつて彼女に手渡された極太バイブ。私の双成りの肉棒もバイブの振動を拾って小刻みに震えていた。ボンテージを着ていたのも、これを装着したまま人里を出歩いたのも、全ては彼女の命令だ。
 モーターの異音がぶちゅぶちゅという水音と混ざる。バイブは根本から先端まで好き好きに動いて私の中をかき混ぜる。内粘膜は七日掛けてどろどろになるまで虐められ、とっくに充血したまま正常を忘れていた。どれだけバイブが暴れても拘束具がきっちりと根本を抑えこんでいたから、どれだけ動いても抜けることは一切無かった。
「まぁ、私はこの匂い大好きだから良いけどねぇ♥ じゃあまずはぁ……バイブから抜いていいよ♥ 当然いつものやり方でね♥」
 許可と共に下半身の拘束具を外す。拘束は緩まりなんとか弱めの力でも外れる状態になった。蹲踞の形でしゃがみこみ、腹部に力を込める。当然目の前には、湖から顔を出す彼女のにんまり顔があった。
「ふぅーーっ、ふっ、あ゛っ、ぐぅぅうっ……」
 もともと荒かった呼吸が彼女の視線のせいで更に荒くなる。いつもこうだ。彼女は私のこれをやたらと見たがる。

3

 初めての時は視線に耐え切れず目をつぶった。今でもこの排泄の最中、意識をどうでもいいことに反らさずにはいられない。
「はぐっ、ぐぉぉっ……ふーーーっ、あぁぁっ……」
「ほらほら、頑張れ頑張れ♥ おしりとおまんこ、どっちが先に抜けるかなぁ♥」
 眼と鼻の先で排泄の一部始終を見られているのだ。恥ずかしくない訳がない。そもそもこんな姿、誰にだって見られたくない。ずっとそう思っていたし、今でもそれは変わらない。
 けれども最近なんだかおかしいのだ。見られたくないと思う一方で私はなぜか、彼女の視線を期待している。人里を歩いているときはあれだけバレちゃいけないと思っているのに、彼女にだけは肉体を見られたい、どろどろに濡れそぼった恥部を奥の奥まで見つめて欲しいと感じている。
 私は彼女の様子を伺い続ける。彼女の視線は私の下半身に釘付けだ。ぴんと立ったひれ耳がぴこぴこと動く様は、まるで私の喘ぎと穴の音に聞き惚れているよう。それだけでも嬉しいのに、彼女は私の視線に気が付いてくれた。彼女は私の目を見ながらにっこりと笑って、私に「早く出せ」と促してくれたのだ。

4

「あっ♥ あっ♥ あ゛ぁぁっーーっ♥ いっ♥ ぎっ♥ お゛ぅう゛ぅっ……♥」
 彼女の眼前での排泄は余りに心地よく、私はただ見られていただけで軽くイッた。肉棒もびくんと悦んで先走りを飛ばす。力が抜けた瞬間、ぼちゅぼちゅと汁気の強い音を立ててバイブがずり落ちていく。勢い良く排出されたそれは、生温かい汁を伴って地面を叩いて抜けきった。膣と尻がぽっかりと空いたまま塞がらなくなると、私は芯を失ったように前のめりにくずれて両手を付いた。
「あははっ♥ すごいすごーい♥ 何もしてないのにイッちゃったんだぁ♥ 」
「あ゛っ♥ あ゛ーーっ♥ わらわっ、ない、れぇっ……♥」
「あはっ、自分から笑われるような事してるのにわがままぁ♥ 虫みたいにバイブ産みながらアクメしといて『笑わないで』は無いんじゃなぁい♥」
 もっともだ。私は笑われるような行為を望んで行っている。以前は肌を見せる事すら抵抗していたはずだ。だがいつしか、私は彼女に言われずとも、外套の中を見せるようになっていた。

5

「ねっ、姫ぇっ、もういいでしょ? お願いっ、早く、ごほうび、ねぇっ……♥」
 腰を揺すって肉棒を振って、期待を彼女に見せつける。先走りがだらめいてはそこらに匂いを撒き散らした。彼女のご褒美の為なら私はなんでもやった。全裸で夜道を歩いたし犬のように片足を上げて木にマーキングした。今宵もそれをねだって発情した犬のように腰を振る。
 彼女は優しい笑みで指先を振る。後ろを向けという事だろう。しゃがんだままで後ろを向くと、後ろ手を先程外した拘束具で結ばれてしまった。両腕が動かなくなったのを確認して、彼女がまたこちらを向くように指示する。
 水中の彼女に向き直ると、彼女は口をぽっかりと開けて私を誘っていた。指先で輪を作り、その中から舌を差し出して口内を魅せつける。真っ赤な舌がぬめぬめと光っていやらしさを強調すると、さらに舌なめずりをして私の劣情を駆り立たせた。

6

「これから私のおくちまんこで、貴方の精液を延々と搾り取ってあげる。後ろ手縛ったから引き剥がすなんて事も出来ないわよ? 私が飽きるまでストローみたいにちゅーちゅーされ続けるの。『もうでない♥』『やめてぇぇっ♥』『たすけてぇ♥』なんて言っても止めてあげないわ。それでもいいのよねぇ、マゾばんきちゃん♥」
「……う、うん……」
「こらこら、うんじゃないでしょう? マゾならマゾらしくおねだりしてごらんなさい?」
 私は小さく考える。これだけ恥ずかしい事をしているのだ、今更淫らな言葉を言うなんて屁でもないはず。だが言ってしまえば二度と戻れなくなるような、そんな気がしてしまうのだ。幾つかの言葉を思いついても、恥じらいの前にそれらは消えてしまう。あぁとかうぅとか呻きながら、ようやくひとつ「お願いします」と言おうとしたが、その前に彼女は、私のマントを無理やり引っ張ってきた。
「もうっ、素直じゃないんだからぁっ♥」
 どぼん! という水音に気づいた時には、私の体は水の中に沈んでしまっていた。私は首から上だけ宙に置いて行かれ、水の中に落ちていく体を眺めていた。

7

「あははっ、体すっごい暴れてる♥ そんなに暴れなくても私が抱えてあげてるから大丈夫よぉ♥」
「あひっ、ううっ、なに、するのぉっ…!」
 唐突な水気が気味悪く反射的に暴れてしまうが、胴体の私は二の腕に当たる弾力に興奮を隠せなかったらしい。緑の着物に包まれたたわわな浮袋が、むにゅむにゅと崩れて下半身を刺激した。状況を俯瞰している私の頭に、彼女は笑って話しかけた。
「くすくす♥ 今からいっぱいいっぱい搾ってあげるのよ♥ 貴方が見えない水の中で、ね♥」
 突然の状況でも、彼女の言葉は明るく。それでいて恐ろしい。
「貴方が素直になれるように、貴方の体をいっぱい虐めてあげる♥ 水の中じゃ見えないけどぉ、素直におねだり出来ない悪い子なんだから仕方ないわよねぇ♥ あ、あとおちんぽ以外もちゃぁんと可愛がってあげるから安心してね♥」
 彼女の言葉でようやく気が付く。挿入してきたあの二本のバイブが陸の上に無いのだ。ウォンウォンという唸りは彼女がいる水辺から響いてくる。彼女の手の中では、確かに二本のバイブがくねくねと蠢いていた。

8

「このバイブは防水性でねぇ、水の中でも平気で動いちゃうの♥ 私もお世話になったのよぉ♥ 貴方の濡れ濡れのおまんこもお尻も、虐めてあげなきゃ損よねぇ♥」
 彼女の舌が汁まみれのバイブを這う。つうと舌先が亀頭の形を撫でると、期待に水中の体がゾクリと震えて悦んだ。あの舌がとうとう私のものに触れるのだ。だが、私にそれを見ることは叶わない。
 私は初めて後悔した。彼女のもたらす快感を目に収められない事が余りにも苦痛だった。そしてこの状況を頭だけで俯瞰する惨めさに、彼女が口にした「マゾ」という言葉がちらついて、私は胸の中でどろどろとした感情が溜まるのを感じた。
「見えないのが悔しいなら、次に私『達』が浮かんでくるまでにえっちなおねだり考えておけばいいじゃない♥ ま、考えるだけの理性が残ってるといいけどね♥ それじゃまた後で、頭のばんきちゃん♥」
 待って、と言う前に彼女と私の胴体が沈んでいく。私はこれから数秒後に襲うであろう快感に、期待と恐怖を膨らませる事しか出来無かった。

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