マクロスFのキャラクター、早乙女アルトとランカ・リーのカップルに萌えた人たちのための二次創作投稿所です。




親父  BYアヤ




ぎしりとパイプ椅子が鳴って、鏡に映る自分の顔。
自分でも分かるくらい、ちょっとお疲れ気味。
早朝からの雑誌の写真撮影にインタビューが数社。
そして、テレビのトーク番組の撮影。
私の事をもっと皆に知ってもらう大事なお仕事。
勿論、笑顔で元気に!が重要だし、そう出来たと思う。
だけど、アイドルとして言ってはいけない事だったり、プライベートを必要以上に出さない様にと気を遣うし。
笑顔の下で頭の中がぐるぐる。
終わって控え室に戻れば、どっと疲れが出ちゃう。
今日は一回も歌ってないよ。
パウダーとリップでさっとお化粧直して、鏡に向かって笑顔を作る。
これからベクタープロモーションにあるスタジオでボイストレーニングをしよう。
それが終わったらアルトくんに会える。
だからもうちょっと、頑張れ私!
ワン・ツー・デカルチャー!!
コンコンッ。
「は、はいっ。どうぞ。」
控え室にノックの音が響いて、振り挙げた腕を下ろした。
誰かに見られたわけでもないのに何か恥ずかしくなって、返事の声がちょっと上ずったかも。
「はぁい。ランカちゃん。」
「シェリルさん。」
そう言えば、隣のスタジオでもトーク番組の撮影だって。
シェリルさんだったんだ。
「すみません。失礼いたします。」
シェリルさんに続いて入ってきた和装の男性。
物腰柔らかそうな男性は、会った事は無いけど良く知ってる人。
「紹介するわね。早乙女矢三郎さん。戦争中にちょっとお世話になってたのよ。トーク番組で一緒だったんだけど。」
「初めまして。早乙女矢三郎と申します。」
「初めまして、ランカ・リーです。・・あの、アルトくんのお兄さんですよね。」
「はい。まあ、アルトさんの兄弟子ですが。アルトさんと仲良くして頂いてる様で。」
「仲良くって言うか、アイツの良い人ってやつよ。ね?」
「シェ、シェリルさん!?」
「おや、シェリルさんでは無かったんですね。」
「まあ、ね。」
(知ってて言ってるくせに。この狸・・・否、キツネ?)
ぼそり、と聞こえたシェリルさんの言葉。
「だったら、ランカさんにお願いした方が良いようですね。」
そう言って、真っ白い封筒が一枚差し出された。
「これをアルトさんに。」
「え?」
「ああ、私からだとは内密に。受け取りを拒否されそうですから。」
「ええっ?中味は・・・。」
「舞台の招待券です。」
「先生も持病の方がよくありませんし、アルトさんに顔だけでも出して欲しいんです。」
戦争が終結して勘当を解く知らせが有った事は知ってるけど。
やっぱり、まだ帰ってないんだ。
「そう言う事でしたら、喜んで。」
「ありがとうございます。」
矢三郎さんの眼がギラリと光ったのを見たのはシェリルだけ。
この男を敵に回すのは得策ではない。
心の中でランカにのみ謝りながら、シェリルは黙っていた。





味噌の匂いで目が覚めた。
トントンとリズムカルな包丁の音と、時々聞こえてくる鼻歌。
少し痺れた腕を擦りながら寝返りを打てば、台所に立つランカの後ろ姿。
部屋着のショートパンツに半袖のカットソー、それにレモン色のエプロン。
ランカがアパートの部屋に泊まりに来るようになって見る事が増えた。
(勿論、兄貴達にはナナセの家に泊まると言って来ている。)
良い朝だと思う。
思わず頬が緩むくらいには。
俺は上半身ハダカでスウェットのパンツのみ。
そうっとランカの背中に抱きついて、その手元を覗く。
「アルトくん、おはよう!でも、服着てよぅ。」
「下は履いてるし、いい加減見慣れただろ。」
「ムリムリムリ〜。」
なかなか慣れないランカは、毎回真っ赤に染まる。
まあ、そこが可愛いんだが。
腕を伸ばして切り分けていた出し巻き卵を一欠片、口に放り込む。
「ああっ!」
「ん。美味い。」
出汁も効いている。
家で家事をしているだけあって、料理の腕も悪くない。
俺の為?なのか、和食も覚え始めた。
「よし、出来た。ご飯にしよ?」
笑顔で振り向くランカの頬に口付けて、顔を洗いに洗面所に向かった。




「アルトくん、これ。」
ご飯も食べ終わって、食後の茶を啜っていると差し出されたモノ。
見覚えのある真っ白な封筒が差し出された。
「シェリルさんに貰ったんだよ。」
・・・・嘘だな。
ごく薄く柄の入ったこの封筒は、早乙女家で特別に作らせているもの。
シェリル経由で矢三郎兄さんが持ってきたに違いない。
若干引き攣りながら開封した。
中からは「早乙女嵐蔵襲名披露公演」のチケットが二枚。
「そうか。とうとう嵐蔵襲名か。」
当然だと思った。
血ではない、兄さんの努力が作り上げた歌舞伎役者の力。
俺はもう舞台には立たない人間だ。
「ねえ、一緒に行かない?」
そう言った時点で、中味が何なのか知ってたことバレてるぞ。
「・・ダメかな?」
「仕様がない。襲名披露なら行かないわけにはいかないだろ。」
ランカは満面の笑みで喜んでいた。




「お前、俺を謀っただろ。」
「ええっ?!」
数日後、劇場に着いてみれば特等席が用意されてた。
まあ、そうだろうと思ってはいたんだが。
「どうせ兄さんがチケット持ってきて、俺に少しは顔見に来させろとか何とか、言ったんだろ?」
「なっ!?えっ?」
「早乙女家御用達の封筒とこの席でバレバレだ。」
兄さんが特別な招待客の為に確保する指定席だからな。
「後でおしおき、な。」
「ひえっ。おしおきって・・・。」
焦るランカが可笑しくて、少し笑った。
気付けば激情内は観客で埋まっていた。
ゼントランもマイクロンも同じ様に始まりを待ち侘びて。
歌舞伎もまだまだ人の心に残せる芸術なのだと思った。
豪華絢爛な舞台衣装。
それに負けぬ役者の気迫と腹に響く口上。
役者としての身体が舞台の上で舞い、大胆でいて繊細に。
その動き一つ一つが懐かしい。
そう、懐かしいのだ。
もう、歌舞伎役者は俺のお役ではないんだな。
幕が閉じれば会場外にまで響くだろう観客の拍手が鳴りやまなかった。




「・・・兄さん。」
「アルトさん。ランカさんも。今日はありがとうございます。」
そう言って楽屋で、兄さんは頭を下げた。
本来なら来るべきではないし、関係者や共演者との挨拶で忙しいはずだ。
さっさと帰ろうとしたんだが、押しの強い男が態々迎えに来て、楽屋まで連れて来られた。
流石に他の客の前で駄々こねるわけにもいかず、ランカの上目使いにも・・・。
兄さんは、俺が押しに弱い事良く知ってるよ。
「早乙女嵐蔵襲名おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。」
楽屋口に正座して祝いの言葉を述べると、ランカも共に正座して頭を下げた。
身内だからこれくらいはしないと、な。
「それより、親父は?」
「先生のお体のお加減が良くないので、先にお帰りになりました。」
「そうか。・・・じゃあ、帰るか。」
内心ほっとしながらも、何でも無いふりをして帰ろうとしたが、兄さんに止められた。
「お待ちなさい。折角なんですからご実家で先生に会って下さい。」
「否、俺は・・・。ん?」
シャツの裾が引かれるのを感じて振り向けば、眉を八の字にしたランカと目が合った。
「アルトくん。折角だし顔だけでも見せに行けない?」
「・・・。」
勘当が解けたとは言え、正直気が重い。
「お願いできませんか?少し・・だけ・・・で・・も。」
荒い息をし始めたと思ったら、兄さんの身体が傾いだ。
「おいっ!兄さん!」
倒れ込んだ矢三郎を、アルトが支えた。
心なしか兄さんの身体が熱い気がする。
「ランカ。車を!」
「分かった。頼んでくる。」
この時は気付けなかったんだよな・・・。




「・・・兄さん?」
「ほら、早く上がって下さい。先生を呼んできますから。」
車から降りた兄さんは、何事も無かったかの様にすたすたと奥に消えた。
「「・・・・。」」
暫くランカと2人、玄関先で呆然と立ち尽くした。
見覚えのある庭は陽の光で陰影を濃くし、少し陰った部屋は鳥の囀りと庭の水音だけ。
畳の良い匂いが鼻を擽るが、リラックスどころか気が重い。
此処は勝手知ったる、俺の実家。
移築ではなく新しく立て直したものらしいが、その間取りや部屋の造りは以前のまま。
ふかふかの座布団にカチコチに固まったランカ。
自分でも見なくても分かる不機嫌な面で正座の俺。
胡坐でも構わないのだが、習慣できっちり正座してしまう。
気付くべきだった。
楽屋で誰一人慌てていなかった事に。
思い出すべきだった。
兄さんはこういう人だと。
来ちまったものは仕様がねえ。
しかし、あの親父と親子の会話って、無理だろう。
「ランカ。落ち着け。」
「だって、落ち着けないよ〜。」
そうこうしている内に人の気配が近づいて、兄さんに支えられた親父が入って来た。
どうしても、身体が硬直してしまう。
「アルト。戻った挨拶も無しか?」
「・・・ただいま、親父。」
「・・・ああ。そちらは?」
ちらりと親父の視線が移ると、ランカの肩が少し跳ねた。
「初めまして。ランカ・リーと申します。アルトくんには仲良くさせて頂いてます。」
「おや。お付き合いしていると言って良いのでは?」
「兄さん!!」
新しいお茶を配り終えた兄さんが、さらっとバラしやがった。
「そうか。・・・・こんな愚息で良ければ、よろしく頼む。」
「いえ・・。」
ランカは親父の言葉に、頬染めて俯いてしまった。
厳しい事言わなかったことには感謝するが、愚息ってなんだよ、愚息って。
「ところで、何で勘当解いたんだ?」
家に戻るつもり無かったのに、疑問だった。
「お前の母親が望んだ空で、お前は立派にお前の華を咲かせた。早乙女歌舞伎の役者はお前のお役では無かったらしい。」
「私は今でもお戻り頂きたいんですがね。」
「そりゃ無理だろ。」
兄さんの言葉に溜息が出る。
兄さんも、俺の身体を見るなり溜息を零した。
「ん?どうしてなの?」
隣からランカが聞いてきた。
「役者としての身体以上に鍛えちまっているからな。女形の身体のラインはもう出せねえ、さ。」
もう役者に戻る気は、更々無い。
「先の事は、お前の好きにしろ。」
そんな風に親父が言うなんて、思わなかった。
けれど、やっと歌舞伎の弟子ではなく息子として話が出来る。
「お前の部屋もそのまま造ってある。少しは顔を見せに帰ってこい。」
「ああ。」
少し話し込んで、実家を後にした。





「良かったね。お父さんと仲直り出来て。」
「まあ、な。・・・ありがとう、な。一緒に居てくれて。」
「私、何もしてないよ。」
否、一人だったらきっとケンカ腰で、また揉めていたかもしれない。
「親父もランカの事、気に入ったみたいだし。」
「えっ?何で?」
「気に入らない相手には、声一つかけないからな。」
「そっか。良かった。」
きっとその内、あの御嬢さんも連れてきなさいとか何とか・・・。
否、あの親父は言わないか。
「それにしても、小さく感じたな。親父。」
前はあの存在が大きくて、恐怖の様に感じていた。
「それは、アルトくんが大人になってきたからじゃない?」
「そうかも、な。俺も歳とったら親父に似てくるのか?」
「かも、ね。」
「・・まあ、頭が薄くないのが救いだな。」
「アルトくんっ!」
「あははははは。」
手を繋いで、夕日に照らされながら帰った。




あれらアルトくんは、ちょくちょく顔を出しに実家に帰ってる。
親父とあんな話をしたとか色々言ってくるから、良い関係に近付いてるみたい。
今日は朝から、アルトくんが護衛に就いてくれるから嬉しい。
そわそわしながら待っていると、玄関のチャイムが。
「おはよう。アルト・・くん?」
「ああ、おはよう。」
何時も通りの優しい顔と声。
だけど、激しい違和感があって。
トレードマークとも言えるポニーテールが・・・無い。
「え?何で?髪・・。」
「ああ。何時までも母親の影追っているほど、子供じゃいられないし、な。」
ボビーに髪切って貰って、頭軽い軽いって笑ってるけど。
「勿体無い!!」
「へ?」
「あんなに綺麗な髪だったのに〜!」
あの綺麗な髪を結うのが楽しみだったのに。
「似合わない、か?」
「そうじゃないけど。・・・いつも通りカッコイイし。」
「そっか。」
ほっとした様にアルトくんが笑うから、仕様がない。
あ〜、もうっ!
休憩時間に思いっきり弄っちゃうんだから!
本当にデカルチャーだよ、アルトくん。


END

このページへのコメント

髪切ったアルトと、その隣にいるランカも可愛いでしょうねwwwそんな二人の絵も書いてみたいな〜(*≧∀≦*)ラフ画が溜まってく一方で(笑)

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Posted by zion 2013年03月21日(木) 15:19:09 返信

またまた、書いていただけてありがとうございます(*≧∀≦*)

アルトがまた一歩前に進めてよかったです!

髪(笑)
切っちゃったのは驚きましたが
ランカのさりげないのろけと言うか
カッコいいけど発言は最高でした!

0
Posted by ととまる 2013年02月22日(金) 01:31:00 返信

お久しぶりです。お久しぶりなのにコメントありがとうございますm(_ _)m
忙しいのと体調不良でなかなか書けませんでしたよ。まだまだ忙しいので次もちょみっとお待ち下さいませ(^。^;)

0
Posted by アヤ 2013年02月22日(金) 00:21:41 返信

お久しぶりです。
とうとうアルト髪切っちゃいましたね(笑)
お兄様も襲名、親とは仲良く、次はランカへのプロポーズですかな(笑)
次も楽しみにしてます。

0
Posted by YF-29 2013年02月21日(木) 23:39:46 返信

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