ARMSクロス2話A




「三秒間、砲撃を止めろ!」借り受けたインカムに叫ぶ。
『了解』返答と共に砲撃が停止/足止めされていたガジェットが動き出した。
跳躍―――内部が焼け焦げた軍用コートを翻す。

戦闘開始から、およそ三十分が経過した。放った砲撃は四十六発/仕留めた敵は八十余り/内大型四体。
浮き彫りになったもの―――自分の/マッドハッターの欠点。
長時間の戦闘には向かない/冷却が追いつかない/余剰熱量の蓄積が能力を押し下げる―――約二十分前から荷電粒子の生成そのものが危険/指が溶け落ちる可能性。
冷却に専念しているが未だ余熱が残る。故に戦術を切り替えた/白兵戦に移行/固有の能力を使わずともARMSの腕はそれだけで兵器。

右手で突きを放つ/五指を揃え、槍のように突き出す。装甲を粉砕/内装を破砕。
左手を返す刀で薙ぎ払う/カメラアイを削り飛ばす―――機能停止。
三秒経過/飛び退く―――再開された砲撃が敵を押し留める。

「機動六課とやらはまだ来ないのか!?」声を挙げる―――機動六課/『専門の部署』の到着を待ち望む。
『生きている通信は内線だけだ。来ていたとしても分からんな』インカムからの返答/髭面の男の言葉。
『それと悪い知らせだマッドハッター。今、一箇所だけだが西側の壁が破られた』
「何だと……!?」驚愕/思考―――二箇所を同時には守れない。どちらを守るべきか/どちらを捨てるべきか/二者択一。
「……敵の数は分かるか?」
『ああ、二十秒前に打った広域探査だと、西には二十体余り、内大型は一体。こちら側に大型はいないが二十七体。
 ついでに北と東にそれぞれ七十体弱。大型は合計五体だ。西だったのは幸運だな』
「ここは、俺抜きで何分持つ?」
『防御に回った二人をシフトに組み込めば十分は持つ。アンタの戦術のお陰でな』
魔導師では、大型に対しては足止めすら出来ない。結論―――
「……了解した。西ということは三番通路だな?」
発掘施設/遺跡を中央に置いた正方形/正面を除いた外周を居住区/直線通路で埋めた単純な構造。
中央である遺跡に発掘員が避難している―――脆い壁を三枚も破れば突入されてしまう。
『ああ、俺達なら大丈夫だ。早く行ってくれ』

出口側を振り返る/押し留められているガジェットを見る/射線を確認―――置き土産をくれてやる。
両腕を揃え、腰を落とす―――荷電粒子を加熱/加圧/加速―――力を解き放つ。

ブリューナクの槍―――その現状最大出力。射線上の三体が塵も残さず蒸発/直撃を免れた六体が、余波で外装を熔かされ行動不能に陥る。

『……感謝する!』
インカムから聞こえる感謝の言葉/代償―――左手の指が第二関節まで溶け落ちる。だが、悪い気分ではない。
排熱/通路での行動の邪魔になる故、ARMSを戻す。指は既に再生を始めている/完全再生まで三十秒と予測。
通路へと駆け込んだ。



空を翔けていたなのはとヴィータ、偶然見える位置にいたフェイトだけが、それを見た。
突如、光の槍が南側を突き破って飛び出し、ガジェットドローンを数体まとめて消し飛ばす。
貫通した閃光は砂漠の砂を穿ち、黒い焦熱痕を残した。砂が蒸発し、或いは焼け焦げ硝子化している。
AMF―――魔力結合を阻害する特殊なフィールドの発現は無い。

「AMFが反応していない……魔力を使わずあんな砲撃を!?」

フェイトの驚愕―――確かに、AMFを無視して攻撃を徹す方法はある。範囲外で純粋に物理的な効果を発生させ、それをぶつければいい。
だが、それによってあのような砲撃を放つ魔法の存在を、彼女は知らない。
外観としては、非常に高い集束率の雷撃系砲撃魔法といった所だ。魔力を使っている様子が無い、ということを除けば。
それが、何よりも異様だった。

「……一体、何が居るの……!?」
「スターズ01より通達! 総員、施設に対して南側から退避!
 突入した二人も南側には近付かないで! 避難の進行状況は!?」
「ライトニング01了解」
『こちらスターズ04、了解です。誘導を開始しました。残り五十三名、加えて、南側で魔導師六名がガジェットを食い止めているとのことです』
『スターズ02、了解だ』『ライトニング02、了解した』『ライトニング03、了解です!』『ライトニング04、了解しました!』
「南の援護はシグナム副隊長が。代わって、北側を私一人で処理します」
「了解だテスタロッサ。私なら不意打ちであっても避けられる」
「……? スターズ03、応答を」
『こちらスターズ03! 施設内の探索中……』

スバルの通信―――焦燥、弾む息と共に。

『アンノウン一体とエンゲージ! 交戦中です!』



全速力で通路を駆けるスバルの前に、その男は突然現れた。

くすんだ金髪に深い青色の帽子を被せ、鋭い視線を送る双眸は鬼火の深緑。
帽子と同色の外套は、両腕が肘で破れ所々が焼け焦げている。

発掘員だ、とスバルは思った。だが、その予想は覆される。
男が、インカムに向かってこう叫んだからだ。

「接敵した、人型が一体だけだ! 片付けたらそちらに戻る!」

同時、
その右袖、半分しかないそれから突き出た右腕が、大木を捻り切るような音を立てて変貌していく。
「……ッ!?」
肘から先の肌が玄武岩の黒に染まり、指や爪までもが倍の太さに膨れ上がった。
直後、それが色を保ったままに収縮し、しかしその長さが一気に伸びる。
昆虫の口器ような、植物の節目のような、魚の鰭のような、獣の牙のような、槍の穂先のような、
―――悪魔の腕のような、異形の右腕。

男が、それを腰の高さに構えたその瞬間、脊髄に走った悪寒。
距離およそ三メートル、全力で加速すれば一秒を十に刻まれようとも届く距離。
速度任せで懐に潜り込み、ナックルの一撃―――絶対に自分の方が速い。そう、理性は告げていた。
だがスバルは直感に従う。マッハキャリバーに魔力を流し込み全速逆進、床に摩擦の痕跡を残し四メートル余りも後退。

その判断が、彼女の命を救った。
残像を残して振るわれた爪が、一瞬前までスバルのいた位置を薙ぎ払う。
男は僅かな驚きを顔に浮かべ、しかし動揺することなく追撃を敢行。低く跳躍し距離を詰め、右腕で突きを放つ。
避ける余裕は無い、と考え、
「マッハキャリバー!」
『Protection!』
ナックルで障壁を張り、受け止める。だが重い。破られはしないが、押されていく。

『スターズ01より通達! 総員、施設に対して南側から退避!
 突入した二人も南側には近付かないで! 避難の進行状況は!?』

通信に返答する余裕も無い。力に逆らわず飛び退くことで距離を取り、リボルバーシュートを撃ち放つ。
命中―――だが、あの右腕で防御された。黒い甲殻には傷一つ無い。

『……? スターズ03、応答を』
「こちらスターズ03! 施設内の探索中……」

来た、と思った瞬間には、既に攻撃が放たれていた。ブーツの踵が右の側頭部を狙う。身を屈めて避ける。
返す刀の左、下段の回し蹴りを何とか捌いた。重い。明らかに人類の持てる筋力を超えている。魔力による強化の気配も無い。
(こいつ、まさか……!)

「アンノウン一体とエンゲージ! 交戦中です!」



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2007年08月06日(月) 19:31:34 Modified by beast0916




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