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非能格動詞

非能格動詞Unergative Verbsとは、自動詞の分類の1つであり、生成文法理論などの言語理論でしばしば言及されるもの。

意味的には、意図的に行なう動作を示すもの(走る叫ぶ話す踊るなど)や生理現象を示すもの(咳をする出血する寝る泣くなど)などが多い。注意すべきは、ある言語で非能格動詞に分類される動詞が、別の言語でも必ず非能格動詞に分類されるとは限らないという点である。また、同一言語の同一形態の動詞であっても、意味・用法によって非能格性を示したり非対格性を示したりする。

生成文法においては、表示的計算を行なう枠組み(標準理論やGB理論など)であればD構造・S構造のいずれにおいても動作を行なう者は主語位置に生じ、派生的計算を行なう枠組み(極小主義)であればVP(あるいはvP)の指定部に主語が生じ、TP主要部のEPP素性を満足するために移動するものだと仮定されている。

非能格動詞の統語的特性は、特定の構文に生じたり、特定の文法操作の適用を受けたりすることの可否によって確かめられてきている。非能格動詞が生じる統語的環境を、非能格性テストunergativity diagnosticと呼ぶこともある。

自動詞を二分する試みは、Perlmutter(1978)に詳しい。この論文は、自動詞でも受動態にすることができるものとできないものとがあることを問題として挙げ、両者は統語的な派生が異なると結論したものである。前者が非能格動詞、後者が非対格動詞に相当する。Perlmutterの用いた関係文法?の枠組みでは、ある文法層において、1-arcのみを持つものを「非能格層」、2-arcのみを持つものを「非対格層」、1-arc/2-arc両方を持つものを「他動詞層」という(→非対格仮説?)。ところが、人間言語において1-arcを持たないものは許されない(Final 1 Law)ので、非対格節は始層の2-arc(initial 2)を終層の1-arc(final 1)に昇格する(2-1 Advancement)。

さて、関係文法では、受動形成は1の降格demotionと、2→1の昇格advancementとが起こるものとして分析・説明される。他動詞節のThey destroyed the cityであれば、theyはinitial 1、the cityはinitial 2であるから、initial 1を降格してchomeurに、initial 2を昇格してfinal 1にする。生じる文はThe city was destroyed (by them)である。ここで注意しておくべきことは、2-1 Advancementはある節の中で2度以上適用してはならないことである(the 1-Advancement Exclusiveness Law)。

非対格節と非能格節の受動形成はいかにして説明されるのか。非対格節では、initial 2をfinal 1に昇格した後に受動化されなければならないが、受動化もまた2-1の昇格が起こるから、Exclusiveness Lawによって排除される。非能格節では、始層に2-arcを持たないものの、ダミーを2-arcに生じさせて、2-1の昇格を行なう(このダミーは、言語によって表面化することもあれば、表面化出来ないものもある。しかし、表面化しないからといって存在しないというのではない)。

ドイツ語の非能格節Man tanzte hier den ganzen Abend「ここで一晩中踊りがあった」について、final 1のmanは降格し、(manの場合は)表層から消える。代わりに昇格するのは非顕在的なダミーのesであり、環境に応じて具現する。
Hier wurde den ganzen Abend getanzt (Perlmutter(1978:158))
あるいは
Es wurde hier den ganzen Abend getanzt

このように、非能格動詞に適用される受動を「非人称受動」という。つまり、ある自動詞について「受動態が可能」であれば、その動詞が「非能格動詞」である可能性が高いことになる。

英語の自動詞は総じて受動化を許さない傾向にあるが、特定の前置詞を伴えば擬似的に受動態を作ることが出来る場合がある。例えば、A man spoke to meから、"speak to"を一まとめと分析しなおして(ある種の他動詞と見なして)I was spoken to by a manという受動文が作られる。この説明を「再分析」といい、この受動の形式を「擬似受動pseudo passive」という。

非能格性テスト

上でも少し触れたことであるが、性質の不明な動詞の特性を知るためのテストがいくつか知られている。その中で、「非能格性テスト」といわれるものをパスすれば、その動詞が非能格動詞である可能性が高くなるし、パスしなければ非対格動詞である可能性を考えなくてはならない。

非能格性のテストには、非人称受動・擬似受動・同族目的語構文・way構文・助動詞選択などがある。ただし、非人称受動や助動詞選択は英語にはないし、擬似受動やway構文には英語以外には適用が難しい。

◆同族目的語構文 Cognate Object Construction
「夢見る」という動詞は、英語やドイツ語などにおいて同属の目的語「夢」を目的語にとり、「〜な夢をみる」という表現が可能である。
John dreamed a happy dream.
Karl träumte einen schönen Traum.

この構文は、非対格動詞や他動詞では見られないものであり、この構文に生じた動詞は非能格動詞である可能性が非常に高い。もちろん、その逆(非能格動詞なら同族目的語構文に生じること)は必ずしも成り立たない。

◆Way構文 Way Construction
この構文は、Levin and Rappaport(1995)や米山(2001)などで扱われている。
John yelled / shouted / murmured his way down the street.
John laughed his way out of the room.
They whistled their way out of the restaurant. (以上、米山(2001:72))

これらの例に見るように、way構文に生じる動詞は主に非能格動詞である。ただ、非能格動詞であってもこの構文に生じない例もある。米山は、動詞walkを挙げている。
*He walked his way to the store.
Gandhi walked his way across the country to win the democracy for his people. (以上、米山(2001:72))

また、非対格動詞は原則としてこの構文には生じないと思われるが、高見・久野(1999)は動詞rollがway構文で使えるとしている。
*She rose her way to the presidency. (Levin and Rappaport(1995:173))
*The oil rose its way to the surface. (ditto)
The avalanche rolled its way into the valley. (米山(2001:72))

助動詞選択 Auxiliary Selection
ある言語の非能格動詞は、完了時制で助動詞haveを選択する。助動詞haveを選択するのは他動詞と非能格動詞であるが、自動詞と他動詞を混同することはおそらくないであろうと思われるので、助動詞haveを選択する動詞は非能格動詞であるといってよいだろう。

参考文献(References)

Levin, and Rappaport (1995) Unaccusativity: At the Syntax-Lexical Semantics Interface, MIT Press, Mass.

Perlmutter, David M. (1978) "Impersonal Passives and the Unaccusative Hypothesis," BLS 4, 157-189.

米山三明 (2001)「語の意味論」米山三明・加賀信広『語の意味と意味役割』研究社、東京.
2007年02月04日(日) 23:48:44 Modified by k170a




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