597 :実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー:2014/11/12(水) 08:35:36.61 0
いま気付いたけど>>593これ・・ファイル間違えてる・・・!!!
あほみたいなミスしてましたすみませんまじですみません・・・!確認しろよ馬鹿!!!
そしてまた斧ロダの具合がよろしくないようなので別のところでうp失礼します
何故かここで上げると私のPCではファイル名の劇団が文字化け起こすんですが、04ってついてたら続きであってます
基本タイトル無題なのはセンスの無さが露呈するからなので気にしないで頂ければ・・むしろ誰かタイトル考えて下さい・・・



URL://kie.nu/2ic5
タイトル:無題
PASS: mugen
ネタ元&設定等: こiろiうiばより劇i団i死i期設定
カップリング(登場キャラ): デュオロン×ワラキアの夜  アリスとリーゼが友情出演(というか途中まで劇団ほのぼの)
性描写の有無: 全年齢
内容注意:どっちも別人警報発令中ですご注意下さい、ご注意下さい(大事なことなのでry)


一気に進展しましたなんなんだこいつら・・
翌日二人にバレて「(漸くか・・・)」って思われるんだと思います
また団長のイニシアチブについてとても心配されていたのでおせおせにしてみたらワラキアさんがとんだ乙女になりました、ちょろ甘です
↑コピペで失礼します、枯れ木も山のry



ところで>>595と>>596はどこに正座して待ってればいいんですか?ここですか?ここですか???
ポッキーの日終わったってエビバディポッキーだってお師さんが言ってた(無責任)



【ご注意】
・デュオロン×ワラキアの夜です
・男性同士の恋愛描写を含みます
・キャラクターの口調・性格には正直自信がありません
・謎の捏造設定が入ってくるかと思います
・キャラクターの口調・性格には正直自信がありません(二回目)
・注意書きでNG要素がありましたら、ファイルと記憶を削除して頂けるとありがたいです










***



初めてデュオロンが違和感を感じたのは、そろそろ昼夜の寒暖差が大きくなり、風が冷たくなる頃だった。
この時期は昼が暖かいことも手伝って、余計夜から明け方に掛けての冷え込みが厳しく感じられる。
暑さも寒さも苦手な方ではではないが、一日の内に気温差が15度もあるのは流石に勘弁願いたい。
とはいえ、まだ朝晩こそ一枚羽織るが、暖房を入れる程の気温ではない筈だった。


そもそもはワラキアが、最近何故か朝方に、極僅かではあるが眉根を寄せているな、と気が付いたことに端を発する。
一つ一つの動作も、あの妙な優雅さは失っていないものの、以前に比べると動きがゆったりとしている気がした。
一度気が付くとあれもこれもと気になり出すが、確証と言えるものは何もない。
戦闘での動きの違いならば流石にはっきり分かるだろうが、あの自尊心の塊のようなワラキアが、そこまでのへまを犯すとも考えづらい。
何事も無いなら別に構いはしないのだが、立ち居振舞いにあれほど気を使うワラキアだけに、何か深刻な理由があるのではないかと思えてしまう。
ワラキア自身の不確定さも、それに拍車を掛けていた。
だが、確証もないのに下手につついて、それを隠されてしまうと、再度気付ける自信もない。




何も予定が入っていなければ、針の進みは遅いいつもの午後。
ソファに腰掛けてスケジュールを確認しているデュオロンの視界の隅で、キッチンにいるアリスが何か作業をしている。
ダイニングテーブルではワラキアとリーゼロッテが何かを話していた。
と、ワラキアが依然口を動かしたまま、徐に立ち上がった。そのまま壁際にある備え付けの本棚へと向かう。
どうやら、そこに置いてある何かをリーゼロッテへ見せるつもりらしい。
別段気にすることもない光景の筈なのに、つい先日気が付いたことを思い出して、デュオロンはワラキアの行動をぼんやりと見守っていた。
そうして本棚の前で、然して迷うこともなく目当ての本を見つけて
――むしろワラキアならばここにある全ての本の内容と位置は頭の中に入っていそうだが――ワラキアはそれに指を掛けた。

ばたり、と重たい音が響く。

入るだけ詰め込まれたその棚から本を抜き出すには、まず背表紙の上に指を掛け、ある程度引きずりだし、改めて本を掴んで引き抜くしかない。
ワラキアの足元に横たわる本を見る限り、本を掴んで引き抜いた後に、何らかの理由によって落としてしまったようだった。
誰も言葉を発さない沈黙の中、デュオロンはスケジュールを目の前のガラステーブルに放り投げて立ち上がる。
椅子に腰掛けたままのリーゼロッテと、動かしていた手を止めたアリスが、目を丸くしてワラキアを見つめる中、少し大股でワラキアに近付いた。
普段ワラキアは、物を乱雑に扱うということはない。

立ち振舞いという意味もあるのだろうが、そもそもワラキアは物を大切に扱う。
紅茶にしろそれを淹れるティーセットにしろ、物質的な物に限った話ではないが、上等なものを好む傾向はある。
が、驕奢を楽しむというよりも、上質なものに対しての興味と敬意、それに触れることへの純粋な喜びがあるらしい。
目新しいものに対してのいっそ無邪気とも形容出来る好奇心と、
時間を経た物に対しての敬愛ともとれる丁寧な扱いは、見ていて気分の悪くなるようなものではなかった。


床に落ちたままの本を持ち上げ、ページが折れていないかざっと点検をする。
そのワラキアが、外的な要因も無い状況で、よりにもよって本を取り落とすとは。
何かがあったのを確信しながらデュオロンは、ワラキアへ本を差し出した。
「珍しいな、お前がこんなミスをするなんて」
自分でも予想外だったのか、本を落とした格好のまま固まっていたワラキアが、手を伸ばしてくる。
「あ……ああ、すまない、ぼうっとしていたようだ。全く面目無い」
そう言いながら本を受け取ったワラキアの指が、僅かにデュオロンの手に触れた。
そのまま離れていく指先に、眉を跳ね上げたデュオロンが、咄嗟にワラキアの手を掴む。
「……デュオロン?どうかしたのかね?」
困惑気味のワラキアという貴重なものを前にして、デュオロンは難しい顔でワラキアの手に視線を落としていたが、
確かめるような動きで指先から手首の辺りまでなぞると顔を上げた。

「もしかしてお前、寒いの苦手なのか」
半ば確信を持って告げられた言葉に、空間は再度沈黙に包まれた。


手を掠めた指先が驚く程冷たくて、デュオロンは思わずワラキアの手を追った。
そうして掴んだ手は、氷のようなと称するのに相応しい温度をしていて、血が通っているとは思えない。

そういえば死徒というのは死んでから生き返ったのだったか。
だが生き返ったというからには、条件付きであっても、それは死体ではなく生きているのだろう。
ああでも、そもそもこれは現象だというから、全く別の原理に基づいているのだろうか。
いや、現象であったとしても、それが再現されている間は生きている人間と変わらないらしい。
だとすると目の前のこれも、基本的な構造は人間に規準しているのではないか。

そんなことをぐるぐると考えていたデュオロンはふと、ワラキアの出自のアトラス院というのは、
暖かい、というか暑い地域にあるのだったな、と思い出した。
ということはワラキア自身の出身も、寒冷とは縁遠い場所にあるのではなかろうか。
雪こそ滅多に降らないが冬になれば冷え込む地方の出である自分や、
ごく普通に雪を体験しているアリスやリーゼロッテは殊更気にするほどでもないが、
もしかしたらここ最近の冷え込みは、ワラキアには堪えるのかもしれない。
それに思い当たったデュオロンは、わりと自分の説に自信を持ちながら、本人に直接確かめてみることにしたのだった。

「…………まあ、そうだね。元が砂漠の出だから、あまり得意とは言い難い」
場にいる全員からの無言の圧力にとうとう屈したワラキアが、渋々といった風にデュオロンの仮説を肯定した。
「あら、そうだったの?言ってくれれば暖房入れたのに」
キッチンでの作業を再開したアリスが、多少の心配と笑みを絶妙な割合で配合した声で言う。

余裕を保とうとしつつ、件の本を持って「いや、それには及ばないよ」と言いながら元の位置に腰掛けたワラキアだったが、
リーゼロッテの「そっか、ワラキアは寒がりなの」という純粋な声に撃沈していた。
「もしかして、いつもマント脱がないのも寒いから?」と追い討ちをかけるリーゼロッテと、
「いや、これは別にそういう意味ではなく、」と自らの言い分を主張するワラキア。
それを新鮮な気持ちで眺めつつ、デュオロンはアリスを手伝う為にキッチンへ行った。

口元へ笑みを刷いたまま手を動かすアリスが、あんなワラキア初めて見るわね、といたずらっぽく呟く。
それに釣られて笑いを溢すと、「こら、そこで何をこそこそと話しているのかね」と八つ当たり気味に怒られた。
二人ともますます笑いを抑えるのが難しくなりながら、ココアを淹れ終わったアリスに二人分のカップを運ぶよう頼まれる。
分かったと返すと、先に二人分のカップを持ち上げたアリスが、
「でも、デュオロンってワラキアのこと本当によく見てるのね」と言ってキッチンを出て行った。


思いがけない言葉に、思考が止まる。
確かにワラキアのことは観察対象にしていた、それは間違いない。
けれども、今の言い方は、それとはまた種類の違った。
一瞬そこまで思いを巡らせ、テーブルから聞こえる賑やかな声に一先ずは置いておこうと決めて、残った二つを持ち上げアリスの後を追った。

アリスがワラキアの前に置いたカップを、ワラキアがアリスの前に戻し、
それをまたアリスがワラキアへ返すという謎の譲り合いを繰り広げている二人の間にカップを一つ置いて、残った椅子に腰掛ける。
手に持ったままのカップからココアを一口すすって、その温かさに息を吐いた。
リーゼロッテは我関せずとココアを飲み、譲り合いに勝ったアリスはドヤ顔でデュオロンの置いたココアを確保している。
ワラキアはというと、もう開き直ることに決めたのか、両手でココアのカップを包んで暖を取っていた。
「末端冷え性とかいうやつか」
その光景を見ながらデュオロンが言うと、先程リーゼロッテに何を言われたのか、少し不機嫌そうにワラキアが言う。
「不便極まりないことだ。というか、そんなに不健康そうな色をしているというのに、君の手は暖かいのだな」
半ば八つ当たり気味に言われた言葉に、デュオロンは苦笑する。
「色は関係無いだろう。そもそもそれを言い出したら、お前も健康そうだとは言えないと思うぞ」
白いを通り越して蒼白な頬を眺める。血を飲むというのに、どうしてこんなに血色が悪いのか。
同じことを考えているのか、心底不思議そうなリーゼロッテの視線を受けて、ワラキアは居住まいを正し、厳かにこう言った。

「ちなみに、高温は平気だが多湿は苦手だ」

「乾燥はいいの……?」
「それはきりっとして言うことか?」
「あんた日本には住めないわね」

一斉につっこまれて、ワラキアは視線を逸らす。
「そもそも生まれがそうなのだから仕方ないだろう。彼処は確かに日射しはきついが、空気は乾いている。
それに、いくら夜の砂漠は気温が下がるといっても、砂漠の中心に住んでいる訳ではない」
まるで子どものように言い訳がましく釈明をする。
そうして今度は、少し拗ねたような雰囲気で、カップで暖めた指先で頬を包む。
その幼い仕草にふととある言葉が知らず口をついて出そうになって、デュオロンは口を閉ざした。
どうしてそんなことを、いやそもそも。

「試合の時はそんな素振り見せないんだし、別に構やしないわよ。むしろギャップがあってかわいいんじゃない?」
内心混乱しながら自分の感情を探す横で、いたずらな口調を隠そうともせずアリスが、今しがたデュオロンが飲み込んだ言葉をあっさりと告げた。
その響きにほんの少し身を固くしたデュオロンに気付く様子はなく、
「それはどうもありがとう、とお礼を言うべきかな?」と、げんなりした口調でワラキアが応える。
「砂漠の出身だから喉がすぐ乾くの?」
「言い得て妙だが、その理論でいくと全ての吸血種の起源は砂漠になってしまうな」
リーゼロッテの疑問に大真面目に返すワラキアを見て、そういえば、砂漠での死因で一番多いのは溺死だったか、と思い当たる。
そうしてデュオロンは、潔く先程感じた印象や、それを基因させる全ての感情を認めることにした。




夜も更け、アリスとリーゼロッテはそれぞれの部屋へ引き上げ、リビングルームの照明は本を読める程度にまで抑えられている。
結局入れられた暖房のおかげで暖まった空気に迎えられながら、最後に湯を使っていたデュオロンは部屋へ足を踏み入れた。
ソファの定位置に腰掛け、昼間デュオロンが整理したスケジュールをチェックしていたワラキアは、デュオロンへ目を向けることもなく呟く。
「全く、暗殺者というものはどうしてそう目敏いのだろうね」
一人言の体を模して呟かれたそれは、けれどもデュオロンが入ってきたのが分かっているのだから、当てこすりに相違無いのだろう。
ワラキアが恐らく言いたい部分とは別のところに反応しつつ、デュオロンは一人分程のスペースを空けて横に座った。
「お前が分かりやす過ぎるんだろう。ティーポットの蓋を音を立てて置くなんて、らしくもない」
気付いて欲しいのかと思ったぞ、と言いながら、デュオロンは少し笑う。


正直、己の感情に戸惑いはした。
それに納得して、次は迷った。
相手の事情のことでもあるし、自分自身の事情でもある。
いくらここが何でもありと言っても、永遠にこの安穏が続くと信じられるような育ちは生憎していない。
けれども、一度抱いた感情を、無かったことには出来なかった。
我ながら青いことだと思う。自分も感化されたのだろう。
例えばあの、友人達に。

あの二人の後ろを歩くとき、デュオロンはいつも眩しさを感じる。
引け目を感じるつもりはないが、今まで自分がいた場所とは違う立ち位置からの視点に、気付かされることは存外多い。
得難い友人を得ることが出来たと、素直にそう思った。
そういえば、一度世界からかき消された筈の友人は、何やら気になる相手が出来たのか、最近妙に気分の上がり下がりが激しい。
あれが周りを欺いて、自分の存在を否定してまで抗ったのも、本人は頑なに認めたがらないが、世界や周囲に対しての情のためだった。

流石にあんな無茶をする気はデュオロンにはないし、またやらかしたら、今度は手荒にでも介入するつもりだ。
自分一人で難しければ、こちらのチームメイトの力を借りる用意もある。
幸いにして、頼めば快く手を貸してくれるようなメンバーばかりだった。
若干一名面白がりそうではあるが。


感情があるべき場所に落ち着いてしまえば、細波立っていた水面は次第に凪いでいった。
尤もこれを認めるからには、次から別の理由、
先程ワラキアが漏らした何気無い一言のような類いの言葉に、感情を波立たせることになるのだろうが。

「その程度の差異、私を熱心に観察している君でなければ気付かないだろうとも」
ワラキアは皮肉げに言う。
そこまでは気付かれているのだな、と考えながら、一先ず自分の疑問を優先することにした。
「現象であっても、暑さ寒さは感じるんだな」
「今の私は真祖によって無理矢理形どられた、過去の私だからね。
厳密に言えば完全な現象ではないから、この形であった頃に引き摺られている。まぁ、タタリとしての力を使うに支障はないが」
少々忌々しげに、そう答えるワラキアに忸怩たる思いを垣間見て、少しの罪悪感と、それを上回るほの暗い安堵を覚える。
成る程人に近いことは本意ではないが、だからといって自分でどうこう出来る問題でもないらしい。


ワラキアに視線を向けながら、目を細めるデュオロンに気付いているのかいないのか、
気付いていても気にしていないのかは知らないが、ワラキアは依然スケジュールに目を落としたまま言った。
「まあつまり、現象であって暑さ寒さは感じるということだ。
尤も、そうでないようにすることも出来なくは無いのだが、試合中ならいざ知らず、
普段の生活でその程度のことに力を使うのも馬鹿馬鹿しい話だしね。さて、この解答でご満足頂けたかな?」
ぱらぱらとページを捲って何かを確認しているワラキアに、デュオロンは念を押す。
「で、そのせいで体調を崩すようなことは無いんだな?」
言葉に込めた真剣さが伝わったのかワラキアは、「ふふ、まるで私の心配でもされているようだね」と笑う。
「そう案じずとも、試合に影響が出るようなことはしないとも」
「待て。俺がいつお前以外の心配をした?」

その言い方が少々心外で、デュオロンは眉をひそめる。
「その言い方ではまるで、私自身に好意があるように聞こえてしまうが」
「そうだと言ったらどうする?」
相変わらず手を動かし続けているワラキアにそう返すと、ぴたりと手を止めた。
「……語弊のある、言い方だね。わたしは構わないが、他の者に言うのは止した方がいい」
慎重に言葉を選びながら言うワラキアに、漸く此方の意図が酌まれたことを感じた。
「元より、お前以外に言うつもりもないがな」


不穏な気配を孕みつつある空気に、ワラキアはデュオロンへと向き直った。
「……君が私に抱いているのは、得体の知れないものに対しての興味だったかと思うのだが」
こちらの真意を探るワラキアへ、デュオロンは真っ直ぐに答える。
「そうだな、それも未だにある。けれどもそれだけではなくなった。ただそれだけの話だ」
それを聞いたワラキアは、こちらの表情を窺うようにじっと見返していたが、暫くすると口を開いた。
「君が、そう私に告げるということは、勘違いや思い込み、また思い違いであるとかいう可能性については、重々検討済みなのだろうね。
それに、君はそういったたちの悪い冗談を言うような人種ではない」

そうして一旦口を閉ざすと、その後の言葉を続けることを逡巡するようにしながら、再度口を開く。
「だが、さっぱり分からないのでこれだけは聞かせて貰いたい。……何故私なのかね?」
君に好かれるような要素も無ければ、行動もしていないと思うのだが。
心底不思議そうに、眉さえ寄せながら聞くワラキアに、思わず笑いが溢れた。


くつくつと笑いながら、此方を驚きの表情で見詰めるワラキアの手からスケジュールを取り上げた。
昼間と同じように、無造作にガラステーブルへ放る。
書類を取り上げられた格好のまま宙に浮く、死徒だのと大袈裟な名前が付けられているわりに、男性にしては繊細な手を捕まえた。
「そうだな、たちの悪いからかい癖からして、性格が良いと言うよりは良い性格をしている。
だが、様々な物事に対する造詣の深さは尊敬出来るし、物を扱う所作は綺麗だ。気配りも上手い」
暖房が入っているのにひんやりと冷たい手を、自分の手で包み込む。
少しでも、自分の温度が彼に移ればいいと思う。
「……何より、昼間の仕草が可愛らしいと思った。それでは駄目か」
最後に指先を軽く握って、手を解放した。

ワラキアは、何故か呆然とこちらを見詰めていた。確かに突拍子はなかったが、そこまで驚くことだろうか。
内心首を傾げていると、ぽつりと口を開いた。
「私は……そういった経験が無い訳ではないし、君がそれを望むなら別に構わない」
やっぱり経験があるのか、とその言葉に正直納得をしながら、またその言い方に眉を顰める。
「俺の希望だからそれに合わせるのか?
頼むから、お前自身はどう思っているのか聞かせてくれないか。無理強いしたい訳じゃないんだ」

そうデュオロンが言うと、ワラキアはつと視線を逸らした。
本棚へ顔を向け、整然と並ぶ本を眺めながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「正直なところ、君とそういうことを考えた事はない。誤解しないで欲しいのだが、君がどうこうという意味ではないよ。
……私は現象である以前に、一度死した身だから。それ以来、そういったことなど、考えた事もなかった」
そこで一旦、言葉を区切る。
まるで適切な言葉を、本の背表紙から見つけようとしているかのようだった。
その横顔を眺めながら、デュオロンは静かに待つ。


「けれども、何故だろうな」
ワラキアは本から視線を剥がし、またこちらへ向き直った。
ほんの少し、困ったように眉を寄せている。
「君にそう言われて、満更でもない気がする。ならば恋情かと問われると答に窮するが、少なくとも嫌な気はしない。
なにせ、長らくこういった手合いからは遠ざかっていたのでね。
……この返答では、お気に召さないだろうか」
最後は半ば独白のように呟くワラキアに、先程からの表情は戸惑っていたのかと得心がいった。
普段の態度と違い、ひどく頼り無げな様子にふつふつと込み上げるものを感じる。

「いや、そんなことはない。……ないが、折角の機会だから試してみてもいいか」
こちらの台詞に首を傾げてみせるワラキアの頬に、そっと掌を宛がった。
驚いたように肩を僅か揺らして、それでも逃げずに居てくれるワラキアの唇へ、口付けを落とす。
音すら立たない、まるで子どもの戯れのような触れ合いは、お互いの唇に柔らかい感触と、ぬるい熱だけを残していった。
ひんやりとした頬から名残惜しく手を離すと、固まっていたワラキアが、顔を俯かせた。
「どうした、嫌だったか」
垂れ下がった髪で、表情が隠れる。
わなわなと震えているワラキアに、やはり急すぎたかと思いながら声をかけた。
「……カット。カットだ。こんな、このような、待ちたまえ、こんなものはあり得ない、このようなもの私ではない。
リテイク、やり直しだ」
混乱でもしているのか、早口で呟いている。

「大丈夫か?」
肩に手を置いて、なるべく優しく問いかけると、弾かれたように顔を上げた。
「大丈夫か……だと?大丈夫な訳ないだろう。
いいかね、私は他人の感情を起因にする悪性情報として発現する現象なのだからして、感情に振り回されるなどあるはずがない。
それ以前に私はこんなことで感情を揺らし動揺するようなタイプでは、こら、何を笑っているのかね君は!」
どうやら本人的には深刻なアイデンティティの危機に瀕しているらしい。
堪えていたつもりだったが、表情に出てしまっていたのか怒られた。
「そもそも君が!君が、そんな表情をするのが、」
言い募る口を塞ぐように、もう一度口付けた。
「っ、何を」
「リテイクと言っただろう?」
デュオロンはわざとらしく首を傾げてみせる。
そうしてまた、ワラキアの頬にそって手を添わせた。

「俺がどんな表情をしているのかは知らないが……お前こそ、そんな表情をするのなら、こちらの都合の良い風に解釈するが構わないな?」
白かった頬はうっすらと色を帯び、微かにだが、たしかな熱が伝わってくる。
色が白いというのは困りものだな、と自分を棚に上げて思いながら、デュオロンは親指の腹でそっと肌を撫ぜる。
眉を寄せている癖にデュオロンの手は拒もうとせず、所在無さげに固まっているワラキアに、
鉄砲水に押し流されたのは自分だけではないらしいと笑った。









「ところでそんな表情ってどんな表情なんだ」
「何を言わせようとしている」
「気になるだろう?」
「……そんな、慈しむような、愛おしむような表情を向けられても、困る」
「そうか、お前が可愛いから仕方ないな」
「君はそういうキャラだったかね……?」




「リテイクだ、リテイクを要求する。
私はもっとこう、
「ふむ、君にそういう趣向があったとは知らなかったが……まあ私も退屈していたところだ。
厭きる迄ならば付き合おう。退屈はさせないでくれたまえよ」
とか言いながら蠱惑的に笑うような、」
「どこの悪女キャラだ、それは」

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