576 :実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー:2014/10/22(水) 20:27:25.98 0

アシュアカいいなぁ…
あと団内恋愛応援してますw 頑張れ団長!w

>540のネタにティンときて書いた…筈がコレジャナイ結果になりました(いつもの事

URL:www1.axfc.net/u/3347750
タイトル:aphrodisiac
PASS: mugen
ネタ元&設定等: スレ内の書き込み釣られた結果がこれだよ!
カップリング(登場キャラ): ソル+一方通行
性描写の有無:全年齢
内容注意:会話の中でmugen入りしてない原作キャラの名前が出てきます(というか木原くン
       禁書の絶対能力進化実験に絡んだ発言がありますが、あくまでもこのSSでの解釈です
       書いたのが超文系人間なので、難しい話の部分は理論破綻してる可能性があります(つまりねぼし


今までのK’×一方通行もですが、基本的に一方通行の外見は新約以降をイメージして書いてます
今回は服装もまんまハワイ編(新約3巻カラー絵)のです本当におにゃのこみt(ry
>540の通りにK’も出す予定だったんですが…どこで出しても修羅場勃発したので諦めましたorz



※あてんしょん※

・男性同士の恋愛的描写を含みます
・元動画特にナシ、スレ内のネタを拝借…して180度逆方向に逝ってしまったソル+一方通行

・mugen入りしてる一方通行は暗部編のキャラデザですが、当SSでは新約以降の外見を想定してます
・つまりもっと髪が長くておにゃのこみt(ry

・会話の中でmugen入りしていない原作キャラの名前が出てきます

・原作設定は理解した上で投げ捨てるもの

・ね ぼ し


・上記で嫌な予感がした方はファイルを削除をオススメします





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aphrodisiac





混み合ったコーヒーショップのフロアを見回して、ソルはうんざりと顔を顰めた。
昼食時はとうに過ぎているが、店の性質上客の回転率はいいとは言えない。
どちらかといえば静寂を好む性質の男にこの喧騒は堪えるものがある。
今からでもテイクアウトに切り替えて、どこか人気のない場所を探そうかと踵を返しかけて―――

―――見慣れない『白』が目に留まった。

オープンテラスへと続く窓から差し込む陽光で明るい店内にある、数少ない影になる箇所。
柱と壁で四角く切り取られたソファ席に腰掛ける人物の色だと、瞬時に気付く。

「………、」

頬杖を付いて何やら分厚い本に視線を落とすその全身から漏れるのは、明確な他者への拒絶のオーラ。
その所為か、これだけ混雑しているにも関わらず、その向かいの席は空席のままだ。
恐らく睨まれはするだろうが、騒がしいよりは幾分マシだと判断し、ソルはそちらへと足を向ける。
カツカツとタイルを踏む靴音に、件の人物がふと顔を上げ、

「…相席だ」

―――目が合った。

遠目にはわからなかったその瞳の色に、一瞬息を呑む。
白い人物は数秒ソルの顔を見上げ、興味なさげに無言で視線を手元の本へと落とす。
拒否された訳ではないと判断し、僅かに空いたスペースに安っぽいトレイを置き、腰掛けた。
座っていてもわかる身体の華奢さと整った顔立ちは、男とも女とも区別が付き難い。
それでも、ぱらぱらとページを捲る指先からは男特有の骨っぽさが感じられる。
じ、と己を観察する視線に気が付いたのか、その手の持ち主である白い少年が胡乱げに顔を上げた。

「…なンだよ」

「…いや…」

この世界では白髪紅眼の人物は珍しくもない。
が、それらと比べても目の前で不機嫌そうに眉を顰める少年の色は、異質なそれだった。
少し長めの髪は純粋な白色で、瞳も血管が透けて見えるため文字通り血の色をしている。

「………アルビニズムか」

アルビニズム、所謂先天性色素欠乏症の個体は、遠い昔に数度見た事があった。
とはいえ、人間個体を間近に見るのは初めてで、ぼそりと漏らした呟きに、血色の瞳が不思議そうな色を浮かべる。
それによって剣呑だった表情が和らいで、周囲に漂っていた近寄りがたいオーラも若干薄まった、ような錯覚。

「…オマエ、医者か科学者か?」

「…何故そう思った?」

生来の観察癖故か、それとも長く生きたせいか、ソルは他人の感情を読むのが上手い。
目の前の少年は相変わらずの仏頂面だが、その声音の端々に滲むのは明確な興味や好奇心だ。
―――だから、わざと問い返してみる。
今のソルの外見は贔屓目に見ても粗暴な戦士といった所だろう。何を以って研究職だと判断したのか、純粋に聞いてみたいと思った。

「普通のヤツは色素欠乏症を『アルビノ』っつゥからな。だがオマエは『アルビニズム』と疾患名で呼ンだ。遺伝子疾患に造詣があンじゃねェの?」

「………元が付くがな。あとそっちは専攻じゃねぇ」

「ふゥン?」

無意識に呟いた単語から瞬時に導き出された推理に目を見張る。頭の回転は悪くないようだ。
人間だった頃のソルは優秀な科学者だった。だった、とはいえその頭脳は百年以上を生きて尚衰えてはいない。
その、優秀な頭脳が告げる直感―――この少年は『面白い』―――に、ソルの唇に薄く笑みが浮かぶ。
基本的にこの世界の住人は戦闘能力に偏りがちで、知的な話が弾む相手は限られる。
老若男女問わず、貴重な話し相手が増える事は好ましい。

「…で?」

「あン?」

「アルビニズムの割に随分軽装だな。人間の症例は詳しくねぇが、日中の行動には制約があるんじゃないのか?」

色素欠乏症の個体は基本的に紫外線に弱く、また、その大半が視覚障害を伴っている。
にも関わらず、少年は薄いグレーと白の長袖シャツに光沢のあるパイソン柄のパンツと超軽装。その上、サングラス等の保護具も見当たらない。
―――そもそも、人間個体でここまで純粋な白と赤は珍しい。
どうしても紫外線の影響を受けるため、例えば髪なら黄変してしまうのが一般的だった筈だ。
そんなソルの疑問を感じ取ったのか、少年はパタンと本を閉じ、真っ直ぐソルの顔を見つめる。

「残念ながら俺は色素欠乏症じゃねェ。ついでに言うと、先天性白皮症でもねェぞ」

「…何?」

「もっと言うならCSH(チェディアック・東症候群)なンかの合併症でもねェよ? 元々は黒髪黒目だからなァ」

「…それにしては、やけに綺麗に色が抜けてるな」

人間個体で合併症以外の要因で後天的に色素が抜ける、などという奇例は聞いた記憶がなかった。
少年が生きてきた世界とソルが生きてきた世界。その二つが違うとしても、『人間』を構成する物質は共通だ。
可能性としては、光の差さない暗闇で長期間生きた事による退化だが―――その場合、ソルと同等かそれ以上の年月を生きていなければ説明が付かない。

「ンな難しい話じゃねェっての。紫外線を反射してる所為で、身体が色素を不要物と判断してンだ」

「…は?」

「強ェチカラってのも考えモンだよなァ」

細い指をぴんと立て、空中を掻き混ぜながら少年が苦笑する。
どこか幼さを感じさせるそれは、長い時を生きた者には浮かべられない、ごく自然な表情。
となれば、見た目通りの――― 十四、五年程度しか生きていないという事か。
たったそれだけの時間で全身の色素が抜ける、そんな『チカラ』とはどんな物なのだろう。

「オマエ、名前は?」

カップに手を伸ばし、中身を啜りながら思案する。
何時もなら無視するか、自分が先に名乗れと言い返す所だが、そんな瑣末な事よりも目の前の少年に対する興味の方を優先した。

「…ソル。ソル=バッドガイだ」

「なンだよその偽名。元研究職っつゥ事は、実験で下手打って逃亡って所かァ?」

「煩ぇ。…そういうテメェはどうなんだ」

「一方通行」

「『粒子加速器(アクセラレイター)』?」

「ァー、違ェ。俺のは『一方通行(アクセラレータ)』、英語なら『One-way』だな」

ゆっくりと白い指先がテーブルに文字を刻む。
その白と赤の印象で気付き難かったが、顔立ちは東洋系のようだ。もしかすると、ジャパニーズ、かもしれない。

「…テメェこそ、バレバレな偽名じゃねぇか」

『One-way』を意味する文字に、『粒子加速器』を連想させる音を当て嵌める。ソルの『バッドガイ』と然程変わらない。
少年――― 一方通行は肩を竦めて、中身の少ないカップに口を付ける。

「偽名っつゥか、俺の場合は能力名だけどな。本名なンざ覚えてねェよ」

「…何だと?」

「実験動物を態々名前で呼ばねェだろ? そォいう事だ」

「………、」

ソル自身、GEAR化直後に実験動物扱いされた事はある。その際はどう呼ばれていたか―――思い出せない、というよりは、意味のある名で呼ばれた覚えがない。
一方通行は本名を忘れたと言った。自分は本名ではなく、能力名で呼ばれる実験動物だったと。
ソルが受けた扱いと同等か、それ以上。人生の大半をそういう場所で生きてきたのだろう。
ソファの横に立て掛けられた杖は、その過程で脚を悪くしたからなのかもしれない。
喧騒に負けて店を出なくてよかったとつくづく思う。お陰でこうして、予想外の収穫を得る事が出来る。

「…何か飲むか?」

「苦味の強ェヤツ」

一方通行のカップに手を伸ばす。
何故、を聞かない辺り、ソルの発言の意図―――もう少し話をしてみたい―――を瞬時に理解したのだろう。
カウンターに向かいながらちらりと視線を投げれば、席を立つ事もなく、再び本を開いて視線を落としている。
少しだけ客の減った店内に、ソルのブーツが奏でる靴音が僅かに響いた。




☆ ★ ☆




「…法力にバックヤード…でもってGEARねェ…。学園都市(ウチ)のクソ共が喉から手ェ出る程欲しがりそォだ」

一方通行の理解力の高さは言わずもがな、ソルも元々の専攻は素粒子物理学だ。お陰で無駄な説明をする必要もなく話は弾む。
尤も、その話の内容が楽しいものかどうかは定かではないが。

「あァ、でも法力ってのは魔術みてェなモンか? なら能力者にゃ使えねェなァ」

「…どういう事だ?」

「脳味噌弄った所為かは知らねェが、能力者が魔術を使うと身体に過負荷が掛かンだよ」

カタンと音を立てて、肉付きの薄い白い手がテーブルの上のカップに伸びる。
少し冷めてしまった中身を煽る喉元。その折れそうに細い首にぐるりと巻かれたチョーカーの黒がやけに目を惹いた。

「過負荷?」

「…全身の血管を内側から食い破られたみてェな痛みと…実際身体中から血ィ噴いたしな。生きてンのが不思議なくれェだ」

「…随分あっさりしてるな」

「致命傷への危機感? っつゥモンがあンまねェンだよなァ。まァ、バケモンにゃ生存本能なンざいらねェだろ」

思わず発言内容の軽さを指摘すれば、それすらも人事のように返される。
自身を『バケモノ』だと蔑む一方通行の態度は、まだ十代の子供が取るには冷めすぎていて。

―――それが、ソルには気に入らない。子供は嫌いだが、子供らしくない子供はもっと嫌いだ。

それが科学の犠牲者であるならば尚更。世界は違えど、元科学者として、胸をちくりと刺すような罪悪感を覚えてしまうから。

「…テメェは人間だろうが」

ぼそりと呟いた声音は自分でも呆れる程に強張っていて、誤魔化すようにカップに口を付ける。
一方通行はきょとんと目を瞬き―――直後、くつくつと笑い出した。
ニィ、と綺麗な唇を引き裂いたように歪めて漏らすのは、見る者を凍りつかせるような狂気を帯びた嘲笑。

「肉体(イレモノ)が人間でも中身がバケモンならソイツはバケモンだろォが。逆に中身が人間なら、ソイツはバケモンじゃなく人間だ。―――オマエみてェに」

「っ、」

ゴトリと音を立ててカップがテーブルに落ちた。

「…へェ。そンな顔もできンだなァ」

どくどくと心臓が早鐘を打つ。
この世界では、ソルは自身がGEARである事を特別隠してはいない。
―――かといって、公言している訳でもないのだ。異形を嫌悪する者はゼロではない。

一方通行とは、今日が初対面の筈だ。
少なくとも、今までの会話の中でソルが人間ではないと告げた事実はない、と思う。

「…オマエのソレ、科学的なモンだろ。後は今までの説明から推理しただけだ」

とんとんと白い指先が額を叩いて示す。ソルの額にあるのは、赤いヘッドギア。
それがただ急所を守る為の物ではないと見抜いたと、さらりと告げる薄い唇を呆気に取られて見つめ返す。

「…やれやれだぜ」

―――値踏みしていた筈が、逆に値踏みされている。

それも、ある程度成熟した大人ではなく、自分の十分の一程度しか生きていないような子供に。
机上の駆け引きは本当に久々で、戦いとは別次元の緊張感に胸が高鳴るのを自覚する。

「何ニヤけてンだよ気持ち悪ィ」

「別に。…テメェは、俺を人間だと思うか?」

「…そォだな。五感はあるみてェだし、こォして会話が成立してるっつゥ事は自我も確立されてる。意識の混濁もねェみてェだし、ちっと長生きな人間でいいンじゃねェの?」

じ、と赤い瞳を見据えれば、臆することなく視線を合わせて逸らさない。
そのどこまでも真っ直ぐな瞳を―――揺るがせてみたいと思うのは何故だろう。

「GEARはヒトを殺す。それでもか?」

ソルの瞳の中、赤茶色に隠れるように鈍く輝く黄金色はヒトではないモノの証だ。

「―――なら聞くが、オマエは人を殺すのか?」

少しだけ目を眇めて問い返す一方通行の声音は柔らかく、発せられた言葉の意味を危うく見落としそうになる。

人間を殺した事があるか否か、その答えなど考えるまでもない。
長く賞金稼ぎとして生きてきた身だ。この両手が返り血で汚れている事は、覆しようのない事実。

そんなソルの思考を読んだかのように、先に口を開いたのは一方通行の方だった。

「言っとくが、殺されて当然のゴミクズじゃねェぞ。オマエが純粋に殺したくて殺したのは何人だ?」

「………、」

「…ねェンだろ? どォせ、クソみてェなヤツ等か、聖戦…だったか? そン時に死に切れねェヤツにトドメ刺してやったとか、そンなモンだろ?」

ソルの手は血で汚れている。それは事実だ。
だが一方通行が指摘した通り、その大半は同族であるGEARと賞金首達のもので。
GEARが人間を襲うような破壊衝動は額のヘッドギアのお陰で抑えられている。

「…テメェは」

「あン?」

「テメェは、どうなんだ」

――― 一方通行は自分をバケモノだと言う。
ヒトの枠から外れたソルを、人間だと言う。

それが何を意味するのか、わからない筈がない。

「………10031」

ぽつりと。呟いた声音は微かに震えていた。
濃紺色のソファに沈む白い顔が蒼白に見えるのは、光の加減だけではないだろう。
その数字の先を聞きたくないと思う反面、包み隠さず暴いてしまいたいとも思う。やけに即物的な感情に胸がざわついた。

「10031人殺して9969人殺し損ねた。レクター博士も真っ青の殺人鬼だ」

先刻感じた狂気の正体はこれだったのかと、物騒な発言なのにすとんと腑に落ちてしまう。そう、納得”してしまった”。
真っ白い作り物めいた顔が本当に笑っているのか、それとも泣いているのか確かめたくて、ソルは思わず手を伸ばす。

陶磁器のような頬に触れる直前―――ぱちんと、指先が弾けた。

「…わかっただろ? 俺は反射しか、壊す事しかできねェンだよ」

静電気でも浴びたように、皮膚の表面が少しだけ痛む指先。
一方通行の右手が首元のチョーカーのスイッチを押さえている。
ソルは一瞬だけ手指に視線を落とし、もう一度、その手を一方通行へと伸ばした。細い首筋を掴み締めるように。

「っ、触ンな…っ」

冷静さを失った、僅かに怯えを含んだ声が耳に心地いいと感じる。
子供は子供らしく泣けばいい。それができないと言うのなら、手ずから泣かせてやるのも悪くはない。
―――痛みや恐怖に泣く姿より先に、別の意味で泣く姿を想像してしまったのは不可抗力だ。

「…ヘシ折られたくなけりゃ、大人しくしてろ」

スイッチを切れば容赦なく首を締め上げると脅せば、びくりと白い顔が強張る。
少女のように整った顔立ちには狂笑よりもこちらの表情の方がよく似合う。

伸ばした腕の筋が嫌な音を立て、手首の骨がゴキリと―――折れた。

「何、やって…っ」

痛みを感じない訳ではない。
それよりも未知の『反射』というチカラをどう攻略するか、その事に意識が集中しているだけで。
遠い遠い昔、研究室に篭って一人難問に頭を悩ませていた時のような、解けないパズルを解く快感に支配される。

触れた膜のような物がこちらの力をそのまま跳ね返しているのなら。
触れる瞬間にこちらに引き戻せば、理論上は触れる事が可能な筈だ。

「ァ…?」

「…はッ。泣きそうじゃねぇか、”坊や”?」

触れたのは本当に一瞬。
次の瞬間には反射されてしまった掌は裂け、うっすらと赤い中身を覗かせている。
呆然と見開かれた瞳は揺らいでいて、それはソルが想像していたよりも遥かに綺麗な赤色だった。

一方通行がヒトを殺したからといって、その本質が人ではないと思いたくない。
自身の能力で他人を傷付ける事をこんなにも恐れる子供が、化物である筈がない。
一方通行の罪を裁くのは、一方通行の世界の誰かの役目だ。ソルはこの世界で出会った一方通行しか評さない。

「………信じらンねェ…。科学者ってみンな同じ事考えンのかよ…」

「…あ?」

「…なンでもねェ。つゥか、手ェ貸せ」

「GEARの回復力は普通じゃねぇ。この程度、舐めときゃ治る」

まだ幾分強張った表情でぼそぼそと呟きながら差し出される、雪のように白い手。
すっかり意気消沈してしまった様子に苦笑しながら、求められるままぐにゃりと折れ曲がった手首を差し出す。
一方通行は壊れ物でも扱うかのようにそっと両手でソルの手を包み込み―――

「…何してんだ」

ぴちゃりと、裂けた掌に舌を這わせる。
血の滲む肉をなぞる感触はぴりりとした痛みと擽ったさを伴って、背筋を粟立たせた。

「舐めろつったのはオマエだろォが」

「…誰もそうは言ってねぇ…」

長い睫に縁取られた瞼を伏せて、犬猫がするように傷口を舐める。
それが傍目にはどう見えるのか、わかっているのか、いないのか。

「流石にこのまま帰れねェだろ…。他人にやった事ねェンだが…ちっと再生促してやる」

「随分便利な能力だな…」

じわりと一方通行の唾液が沁みた肉が熱を持ち始めて、少しずつ新しい皮膚がその上に現れる。
GEARの回復力は著しいが、ヘッドギアを装着した状態ではここまでの再生速度は見込めない。
本来はこういう方面に活かすべき能力なのだろう。誰も正しい使い方を教えてやらなかっただけで。

「…性格なんてモンは洗脳、調教、矯正…手段さえ選ばなきゃ幾らでも変えられる」

「………」

「だが本質ってのはそう変わらねぇ。テメェがどう思ってようが、テメェの本質は間違いなく人間だろうよ」

最初に感じた他者を拒絶するオーラも、触れようとした指先を弾いて牽制したのも、誰かを傷付けない為だとすれば。
なんて不器用な優しさなのだろうと思う。こうしてソルの怪我の治癒を試みようとする辺りも、人間臭くて好感が持てる。

―――神様や悪魔が堂々と闊歩しているような世界だ。一方通行もきっと変わってゆくだろう。他の大多数のように。

「………。その選択肢で最初にソレが出てくンのかよ」

「一番手っ取り早いだろ」

「…やっぱ木原くンみてェ…」

「誰だそりゃ…」

濡れて赤い舌を突き出したまま、上目使いに見上げてくる赤い瞳と視線が合う。
故意ならばあざと過ぎる仕草だろうが、恐らく一方通行は何も理解していない。
これも長い実験動物生活の弊害と言うべきなのか。流石のソルも心配になるレベルで危機感が不足している、気がする。

「………とりあえず、あまりこういう真似はするな。いいな?」

「うン?」

一方通行は自身が化物だという認識を今すぐ改めた方がいい。これではただの野良猫だ。
人一倍警戒心が強い癖に、一度気を許したら平気で腹を見せて眠るような無防備さを見せ付けられて眩暈を覚えた。
勿論、本当に限られた人間にしか自身を曝け出す真似はしないだろうが。そう考えればじわりと込み上げてくる、優越感。

―――本気で泣かせてみたくなるから、困る。

泣かせてやろうと考えたときに一瞬脳裏を過ぎった光景を現実にしたら、今度はどんな色を見せてくれるのか、なんて。
勿論、それを実行するつもりは―――今の所は―――ないけれど。

「…流石に外じゃコレは外せねぇ。テメェも来るか?」

半ば拒否される事を願いつつ訪ねれば、思いも虚しく、ちいさな顎がこくりと頷いた。
部屋に戻ったら法術の研究論文でも与えて気を反らすべきか、とソルは若干疲れた表情で溜息を吐く。
それでもこんなやり取りが『楽しい』と感じてしまうのだから、この真っ白い少年には当分退屈しそうにない。




☆ ★ ☆




オマケ



「…テメェのそれは素か? それとも故意か?」

「? 何がだ?」

「だからそれが故意かどうか聞いてんだ」

「訳わっかンねェ。…GEARの血も味は人間と変わンねェンだなァ」

「…比べてどうする。美味かったら飲むつもりか?」

「白くて赤ェけど吸血鬼じゃねェよ。…あァ、でも指喰おうとした事はあるな…」

「…どっから出てきたんだ、その発想は…」

「さァ? ―――オマエの太くて長ェから、咥えりゃ案外イイかもなァ」

「………ヘヴィだぜ」

「あン? どォした?」

天然小悪魔とは、ある意味化物よりもタチが悪い。

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