[789] 『懐かしい写真には』 sage 2008/03/04(火) 10:36:20 ID:a4LJ9Z5A
[790] 『懐かしい写真には』 sage 2008/03/04(火) 10:36:55 ID:a4LJ9Z5A

「……ん」
 窓から漏れ込む日差しが顔にかかって、眩しさのあまりアリサは目を覚ました。
 軽く頭を振って上半身を起こす。
「ふぁ〜〜、もう朝か〜〜。んー、まだ眠いなぁ」
 ぶつぶつと言いながら布団をめくって、ベッドから立ち上がる。
 いくら空調が効いているとはいえ、下着だけという姿は寒々しさを感じさせた。
 それには頓着せず、けれど両親や執事に時折受ける注意を思い出して、苦笑を浮かべる
アリサ。
「……まあ、父さん達の言うこともわからないでもないけどね」
 確かに最近の自分は、令嬢というより男装の麗人と言った外見や言動が多くなっている。
 下着だけで眠ったりするのもその現れで。
「いつから、だったかな」
 呟きながらも、答えは自分でもわかっていた。
 今現在付き合っている佐伯裕也と出会った小学校の六年頃からだ。
 物静かで優しく、女性的な顔立ちの男装少女と言われていた裕也と、付き合うようにな
って、まるでバランスをとるみたいにこうなってしまったのだ。
「てか、あれからもうそんな時間が経つんだ」
 呟きながら、ふと今は遠くに行ったなのは達のことを思い出す。
 お互いに平凡な日々を過ごして、時々けんかしたりしながら、それでも一緒にいられる
と思っていた小学生の頃。
 一度思い出したことで懐かしさを刺激されて、アリサは服を着ようともせずにそのまま
机に向かう。
 PCの電源を入れて、フォトフォルダを開いた。
「今日って、ひな祭りだったわね」
 九年前、はやて達と出会って初めてのひな祭りの記念に撮った写真を引っ張り出す。
 かなり大きなひな壇には、見事なひな人形が並べられていて。
 ……なぜか、みんなそろってひな人形と同じ十二単で、思い思いの姿勢で座ったりポー
ズを撮ったりしていた。
「今見ても、壮観だわ」
 思わず苦笑を浮かべながらその光景に見入ってしまうアリサ。




 すでに宴もたけなわ、アリサが用意してきたワイン用ブドウの100%ジュースや甘酒、
なのはが持ってきた翠屋のひな祭り用ホールケーキも半分がた、消費された頃合いで。
「このひな人形の着ている服、着てみたいですね」
 その盛り上がった気分のままで呟いたのだろう。
 どこかうっとりとした表情をひな人形に向けているシャマル。
「普通の和服なら、用意しようと思えばできますけど……」
「ま、映画の撮影所とかでもないと、おいてないんじゃないですか」
 思わずすずかと顔を見合わせて、苦笑しながらシャマルに答えを返す。
 普通の振り袖なら家に何着かあるけれど、十二単なんかそう簡単に用意できるはずがな
い。
 そのつもりで言った瞬間、離れたところでなのはと差し向かいで飲んでいたはやてが、
にやっと笑うのが見えた。
「それやったら、外見だけでもその形にしてみたらえーんとちゃう?」
『はやて「ちゃん」?』
 一瞬、何を言い出したかわからなくて、皆の問いかけが見事にハモった。
「ふふふ、魔法で外見だけ変えるってことができるやん。ちょうど関係者だけやし、やっ
ても問題は起きへんって」
「では、主はやて。用事を思い出したので……、シャマル。なぜクラールヴィントで縛
る?」
 抜き足差し足でリビングのドアに向かっていたシグナムの体に細い糸が絡みついていて。
 その先をたどっていくと、シャマルの手に連なっていた。
「シグナムもたまには着飾ってみるのもいいんじゃないかしら?」
 そのほほえみに怪しいものを感じて、アリサは思わず口元に苦笑を浮かべてしまう。
「そうやでー、逃げたらあかんよー」
 くすくすと笑うはやてに、なのはとフェイトが困ったような笑みを向けていて。
 何となく止めるつもりがないことだけは理解できた。
「ほな、みんな動いたらあかんで」
 にっこりと満面の笑みを浮かべたはやてが、指をひらひらと動かし始める。
 ……なのはやフェイトの使う魔法とはやり方が違うことに訝りながら、視線を二人に向
けて。
 二人も不思議そうに首をかしげていた。
『彩り綾にして妙なる姿、吾が望むままにそれぞれが身を飾り立てん』
「聞いたことない詠唱だね」
「……リインフォースさんが遺した魔法、なのかな」
 なのはとフェイトのつぶやきと同時に、はやての眼前に四角い図形が浮かび上がった。
『吾の意に従い力を変えて、姿を偽る形とならん。Un vestito di cocktail』
 そのつぶやきと同時に、リビング全体が白い光に包まれて、思わず目を閉じるアリサ。
 しばしそのまま目を閉じ続けて。
「みんな、キレイです」
 すずかの声に促されて目を開いた。
「あー、確かに」
 そのすずかの言葉にこくんとうなずいて、アリサはそれぞれの姿に見ほれた。
 なぜか髪型までひな人形と同じになっているのがおもしろくて、順番に視線を移してい
く。
 さもおもしろそうに笑うフェイトになのは、にっこりと満面の笑みを浮かべるシャマル
とはやて、楽しそうなほほえみを浮かべるすずかに、そんなのは興味ないとばかりにケー
キにパクついているヴィータ。
 みな愛らしかったりキレイだったりする中、一番目を引かれたのがシグナムだった。
「あ、主はやて。はやく、解除していただきたいのですが」
 顔を真っ赤にしてうつむくシグナムの照れた様子は、見てるだけでも楽しくて。
「あ、ついでだから、このまま記念撮影しない?」
 皆が一斉にこちらに視線を向けてくる。
「はやて、この服って写真とかにちゃんと写せるよね?」
「ん、大丈夫やと思うよ。てかそれめっちゃ名案や!」
 ぐっと握り拳から親指を立てるはやてに、思わず苦笑が浮かぶ。
 まだつきあいはそんなに長くないけれど、こういうお茶目な面は見てておもしろいから。
「それでは、私のデジカメで撮りますね。皆さん、用意してください」
 すずかが脇からくちばしを挟んでくるけど、それもらしいなと、そんなことを思いなが
らも、カメラのフレームに入るであろう位置に移動して、ピースサインをカメラに向ける。
 みんなも思い思いのポーズを取るのが見えて。




「……あの頃は、ほんっと楽しかったわね」
 懐かしさとともに呟いて、アリサは大きく背伸びをする。
「ん、そろそろ出る用意しないと」
 今日は午後から出ればいいけれど、午前中は裕也と遊びに行く約束をしているから、少
し急いだ方がいいかもしれない。
 そんなことを考えていると、不意に携帯から着うたが響いてきた。
 SEENAとピエトロ・カレーラスのDUOによるタイムトゥセイグッバイだ。
「これが噂をすればってやつかな」
 思わず苦笑しながら机の端においていた携帯に手を伸ばす。
 発信元は、なのは。
「おひさ〜、こんな時間にかけてくるなんて珍しいわね。……え、こんどこっちに帰って
くる? ふん……ふん…………すずかが喜びそうだわ。桃子さんとかも喜ぶんじゃな
い?」
 そんな風に会話を交わしながら、アリサは思う。
 今は遠く離れているし、会う機会も減ってはいるけど、やっぱり友達だと言うことに代
わりはないんだろうなと。
 できれば、ずっと最後まで友達でいられるといいなと、そんなことを思っていた。



著者:暗愚丸

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