227 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/09/14(日) 00:22:33 ID:HrDNT55x
228 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/09/14(日) 00:23:06 ID:HrDNT55x
229 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/09/14(日) 00:23:41 ID:HrDNT55x
230 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/09/14(日) 00:24:13 ID:HrDNT55x
231 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/09/14(日) 00:24:46 ID:HrDNT55x
232 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/09/14(日) 00:25:27 ID:HrDNT55x
233 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/09/14(日) 00:25:58 ID:HrDNT55x


 更正施設に入って一ヶ月。
 一部の者の心配を余所に、ナンバーズはおとなしく更正プログラムを受け続けていた。
 もともと、破壊が大好きというわけではない。戦いが好きな者はいるが、一方的な殺戮が好きというわけではないのだ。
 試合や擬闘の形式で満足できるのなら、それ以上を求める意味などない。

 退屈はしていた。座学にはなじめない者もいる。

「なんかこう、スカッとすることないかなぁ」
「模擬戦でもやるか、ノーヴェ」
「チンク姉と? いいの?」
「ああ。しかし、ISが封じられたとしても、体術でまだお前に負けるつもりはないぞ」

 ぼっこぼこに負けて、それでもニヤニヤ笑っているノーヴェという珍しいものを、一同は見ることができた。
 ノーヴェとチンクだけではない、ウェンディやセインも時には参加している。
 オットーとディードは、互いに一緒にいるだけで静かに満足しているようだった。
 ディエチは、ギンガに頼んで厨房に入っている。料理が性に合っているのだろう。
 そういえば、ナンバーズとして過ごしていたときもディエチが厨房に入っていることが多かったことを、チンクは思い出していた。

 元ナンバーズは少しずつではあるが、立派に更正施設の生活に順応していた。
 だが、一人問題があった。
 ルーテシアである。

 ルーテシアの様子に最初に気づいたのは、チンクだった。
 一言で言うと落ち着きがない。何かそわそわしていることが多い。何かを探してきょろきょろしていることもある。

 少し考えて、チンクはある出来事を思い出した。
 そう。ドクターとルーテシアのやりとりである。
 ある日、ドクターのラボにルーテシアが一人で入っていくのを見かけたチンクは、何事かと思い、様子を見に行った。
 
「ドクター、お願い」
「おや、ルーテシア。また、おねだりかい? いけない子だな」
「もう……我慢できない」
「ふむ。ルーテシアのお願いを聞いてあげたいのは山々だが、私ではいかんせん不足ではないかな? 騎士ゼストの方が適任だと思うがね。
君が私とそうしていると、騎士ゼストが怖い目で私を見るからねぇ」
「ゼストは……堅すぎるから、痛いの」
「おやおや。私だとちょうどいい、というわけか。君にそうやって選んでもらえるとは、光栄だね。良かろう、君の好きなようにしたまえ。この体勢がいいのかな?」
「うん……」


「というわけで、ルーテシアお嬢様は欲求不満なのではないかと思うのだ」

 話を聞いたギンガは唖然としていた。ウェンディとセインはうなずき、ノーヴェとディエチは頬を赤らめている。
 オットーとディードは話を聞いてるのかどうかわからない。

「欲求不満って、ルーテシアちゃんはまだ……」
「年齢はこの際関係ないと思うが。本人の嗜好の問題だろう。お嬢様は父性に飢えていた。そのような形で解消しても不思議ではあるまい」
「解消って……でも、さすがにまだ早すぎると思うけれど」
「まだ?」

 チンクは首を傾げた。姉妹を見ると、ウェンディとセインも首を傾げている。ノーヴェとディエチはうなずいていた。
 オットーとディードはいつものように二人の世界に突入している。

「ヒゲを触ることに早いも遅いもないと思うのだが」
「ヒゲ!?」
「ああ、お嬢様は、ドクターや騎士ゼストの伸びかけたヒゲを触るのが好きだった」

 こう、じょりじょりと、とジェスチャーで表すチンク。
 ウェンディとセインはやっぱりうなずいている。

「生えかけのヒゲ触るのって気持ちいいッスよね。ジョリジョリって」
「うんうん。でも、ドクターのを触ろうとすると、ウー姉やメガ姉が怖い目でにらんでくるんだよ」
「あー、あれは怖かったスねえ……。でも、ルーお嬢様はさすがに黙認されてたっスから」

 ノーヴェとディエチは互いに言い合っていた。

「そ、そうだよな、ヒゲの話だよな、ディエチ、お前何か勘違いしてただろ、顔が赤いぞ」
「ノーヴェ、人のせいにして誤魔化すなんて最低だよ」
「あたしが何を誤魔化したって言うんだよっ!」
「そ、そんなこと言えるわけないでしょ!」

 オットーとディードは(以下略)

「……。えっと、つまり、ヒゲを触らせてあげればいいのかしら」
「端的に言えば、そういうことになるな」
「まあ、それくらいなら何とかなるかしら」
「世話をかける」


 カルタスという名の男がいる。ギンガに協力してナンバーズ更正に尽力している陸士である。
 周囲からは「女の園に出張だと!? 上手くやりやがって、いじめてやる!」と嫌がらせを受ける毎日である。
 しかし、カルタスはめげなかった。正直、彼にとってそこが女の園であろうが男の園であろうが貴方の知らない世界であろうが、どうでもよかった。
 そこにギンガさえいればいいのだ。
 だからカルタスは頑張った。
 どれほど仕事でつらい目にあっても、嫌がらせを受けても、更正施設を訪れるときは笑顔だった。
 服装は端正に。髪には櫛を入れ、香水を振りかけ、歯を磨き、爪を切り、下着を替えて斎戒沐浴して体調を整えた。
 もちろん、無精ヒゲなどもってのほか。ヒゲ剃りどころか発毛抑制ローションを欠かさない。
 そして今日も更正施設へ。

「役立たず」

 ウェンディの第一声に、いきなりカルタスは崩れかけた。いや、しかし、ここでめげてはいけない。

「うわ、ヒゲないのかよ」
「意味ないわね」
「何しに来たの?」
「ヒゲなしは用なしだね」

 ノーヴェ、ディード、オットー、セインの四連撃、そしてとどめにディエチの大きなため息と、チンクの冷たい視線。
 それでもカルタスは耐えた。
 元ナンバーズの罵詈雑言がどうしたというのか。それくらい耐えられずして、あのJS事件を乗り越えたと言えようか。
 ちょっと気持ちよくなってきたのはいいとして、とにかくカルタスは耐えた。
 そしてガルタスはギンガの姿を見た。

「あ、ナカジマさん」
「どうしてヒゲがないの? 困ったわね」

 カルタスは泣いた。

 泣きながら走り去った名も知らぬ役立たずな男のことは瞬時に忘れることにして、一同は会議を開いた。
 ルーテシアの落ち込みようはもはや無視できるレベルではなくなっていたのだ。
 だからといって、「ヒゲをジョリジョリするために男性隊員を派遣してください」と言えるわけもない。
 たとえば、「おっぱいを揉みたいから女性隊員を派遣してください」などと頼めるだろうか? それはただのセクハラである。
次元世界広しといえどもそんな注文を通すのは機動六課すなわち八神はやてしかいない。そしてさしもの八神はやてもヒゲはどうしようもないだろう。



 ヒゲはない。
 ないならばどうする。
 ヒゲの替わりになるものを作るしかあるまい。
 皆で考えているとウェンディが、いいアイデアがあると言い出して、

「オットー、頼みがあるッスよ」
「なに? ウェンディ」
「ボーズ頭にするッス」

 ディードの拳で宙に舞うウェンディ。

「だ、だって、ヒゲの替わりにボーズ頭ならジョリジョリできるじゃないッスか!」

 ディードの乱打に翻弄されながらウェンディは叫んでいた。
 合掌するセイン。けらけら笑っているノーヴェ。

「た、助けてぇ!!」
「無理。オットーがらみのディードを止めることができるのはトーレ姉かウー姉くらいだから」
「反省のため、ボーズ頭にしてみようか」
「ぇえええええっ! 嫌ッス! ボーズ頭はボーイッシュなオットーだからこそ……」

 なんとかディードをなだめ、会議再開。

「つまり、ヒゲの替わりになるものならばいいと」
「髪の毛は駄目です。みんな嫌がりますから」
「毛が生えているのは、頭だけじゃないよな……」

 微妙な沈黙。

「えーと、脇?」
「違うような気がする。ていうか、ジョリジョリしないような気がする」
「…………」
「ここは言い出しっぺのノーヴェが」
「ええっ!」
「そうだな。それがスジだ」
「いや、無理、無理っ!」


「……じょりじょりというより……もっさもさ……なんだ……」
「ふーん。もっさもさなんだ」
「もっさもっさっスか」

 orz状態で床に伏せてしまうノーヴェ。

「お、お前らはどうなんだよっ!」
「もっさもさっス」
「セインさんももさもさだよ」
「なんでそんな嬉しそうなんだ、お前らは」
「隠しても仕方にないッスよ。ディエチは?」

 突然振られて、真っ赤になって俯くディエチ。

「あ、あたしは……あの……」
「髪の毛みたいに括ってるとか」
「そんなに長くないっ!」
 
 言ってしまってから、さらに真っ赤になってしゃがみ込んでしまう。

「もう嫌、こんな姉妹……」

 オットーとディードには、さっきのウェンディの悲劇を再現したくないので誰も何も言わない。

「まあ、この外見年齢に合わせてるんだと、仕方ないッスね」
「あ、それじゃあチンク姉は?」
「わ、私に振るな」
「でも、最初にルーテシアお嬢様のことを心配したのはチンク姉ッスよ。チンク姉にできることならしてあげるのがスジっす」

 自分の言葉に首を傾げるウェンディ。

「あ、チンク姉の場合、文字通りスジ……」
「どバカーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 ノーヴェの拳で再び宙に舞うウェンディ。
 それを横目で見ながらセイン。

「で、どうなの? チンク姉。ルーお嬢様のためになるなら……」
「まだだ」
「え?」
「姉はまだなんだ。これ以上言わせるな」 


 チンクは問題外。
 残る六人はもっさもさ。(オットーに直接聞くことはできなかったが、ディード証言により補完)
 ジョリジョリは不可能である。

「剃るッス」

 ウェンディはそう言いたかったが、もう宙に舞うのは嫌だった。次に舞ったら確実に死ぬと思う。
 それに、自分が剃れと言われるのはもっと嫌だ。

「我々は……無力だな」
「ヒゲがないのは、しょうがないよ。みんな、女の子だもの」
「ありがとう、ディエチ。それでも、私は自分が無力だと思う。お嬢様に何もできないのだからな」
「もう少ししたら、チンク姉にも生えてくるよ」
「ありがとう……って、ちょっと待て。生えてくるのか」
「うん。きっといずれはもっさもさに」
「もっさもさに……なるのか」
「なるよ」
「もっさもさか」
「もっさもさだよ」
「もっさもさ」
「もっさもさ……あ」
「どうした、ディエチ」
「思い出した。ギンガがいるよ。ルーテシアのためだからきっと協力してくれるよ」
「待て。ギンガも年相応に考えればもっさもさだと思うが」
「うん。それはそうなんだけど」

 ディエチは見たのだ。
 拿捕され、運ばれてきたギンガの魔改造を。

「邪魔だから剃っていたの」
「戦闘機人の改造は盲腸手術か……」
「ちなみに剃ったのはクアットロだよ。あたしに愚痴ってたから」
「なんでまた、クアットロが……」
「ドクターがやろうとしたらウーノ姉が泣いて止めてた」
「そうか、あのときに剃られていたとすれば……」
「今頃はちょうどいいくらいにジョリジョリだよ」
「ルーテシアお嬢様のためならば、ギンガも協力してくれるかもしれないな」


「と言うわけでギンガ…」
「誰がするかーーーーーーーーーーーーーーー!!!」




 ゲンヤが訪れたとき、更正施設に立っているのはルーテシアとギンガだけだった。
 元ナンバーズ一同はそこらに倒れている。

「……なんかあったのか、ギンガ」
「……なんでもないよ、お父さん」
「おヒゲ…」
「ん? どーしたい、お嬢ちゃん」
「…じょりじょりする」
「ん、ああ、剃ってくる暇がなくてな。悪かったかい?」
「ううん」
 
 ルーテシアはにこにことゲンヤのあごをさすっている。

「じょりじょりが、好き……」
「そーかい。こんなんで良かったら好きなだけじょりじょりしてくんな」

 にこにこと微笑むルーテシアと、スバルとギンガの幼い頃を思い出して微笑ましく思うゲンヤ。
 そんな二人を見ながらギンガもまた、にこにこと微笑んでいた。



著者:野狗 ◆gaqfQ/QUaU

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