626 名前:闇と時と本の旅人 ◆UKXyqFnokA [sage] 投稿日:2012/05/13(日) 23:33:11 ID:kNQiAzG2 [2/11]
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■ 2





 薄手の布が皮膚に擦れる、乾いた感触がクロノの肌に伝わる。
 自分は緊張と湿気で汗ばみつつあるが、相手はまったくさらさらの肌を保っている。
 ベッドに寝かせられ、組み伏せられたクロノの上に、アインスはゆっくりと覆いかぶさっていく。仰向けにさせたクロノの両腕を上げさせ、上着を脱がせてシャツ一枚だけにする。
 クロノも上半身をよじるようにして、服を脱がせてくるアインスに従う。
 その間も、二人はずっと唇を重ね続けていた。
 唇だけでなく、口の周りまで粘つく唾液がこぼれ、二人の顔の肌を濡らしている。うっすらと目を開けると、幸せそうに瞼を潤ませるアインスの表情が、すぐそばにある。
 なめらかな眉と額のライン、整った睫、それらに彩られた白く澄んだ肌。女性の肉体、女体にここまで近づいた事は今までのクロノにはなかった。

 母や、リーゼロッテも、抱き合ったりじゃれついたりはあっても、ここまで面と向かって行為に及んだことはなかった。もちろんエイミィなど、ずっと離れたところから、あくまでも幼馴染としての付き合いだった。
 クロノにとって初めての女性だ。

 ベッドに横たわったクロノの、右手側からアインスは抱きつき、クロノの下半身は浮いた状態にある。目を閉じてキスを続けたまま、アインスはクロノの股間が盛り上がってくるのに合わせてクロノを抱き上げる。
 足を伸ばして寝た姿勢のため、ズボンはぴんと張った状態で、布地が内側から強く持ち上げられている。股間の自分自身が張った布地に突き当たって押さえつけられる感触に、クロノは自分が勃起してきた事を認める。

 さらにアインスの舌が、クロノの唇をかき分けて入り込んでくる。未知の感触に思わずクロノは歯を閉じてしまうが、アインスはそれをも受け入れるかのように、ゆっくりと唇の裏側や歯茎を、舌先で撫でていく。
 クロノもおそるおそる、舌を差し出していく。触れた事の無い彼の敏感な部分を慈しむように、舌先から、そっと、少しずつ触れ合わせていく。クロノにとっては、他人の体内の臓器に触れているような感触だろう。少しずつ慣らしていく。
 それでも、これが人間の求愛行動なのだということは、男として本能的にわかる。
 左手をベッドに広げて身体を支え、空いた右手でアインスの身体に触れる。クロノが手を持ち上げると、ちょうどアインスのわき腹のあたりに触れる。かすかにくすぐったそうに身体を揺らし、計り知れない重量感を持つ乳房がクロノの胸の上で擦り動く。
 アインスも、クロノと同じように乳首を硬く勃起させている。

 胸に触れたい。乳房に触れたい。女性の胸を触りたい、という欲望はある意味本能的なものだ。
 しかし同時にそれは一般の社会生活では許されないことだ。同じ管理局にいる女子局員の胸を触るなどすれば、それは犯罪になってしまう。
 触りたい。触っていいのか。この女は、父クライドの部下だったという彼女は、胸を触らせてくれるのか。

 それを見透かすかのように、もう何分間になるだろうか、ずっと唇を吸い続けていたアインスはようやくクロノの顔から離れ、不敵に微笑んで言った。

「いいぞ……触っても」

 クロノはもはや言葉を返せない。おそらく自分の顔は引きつっているだろう、寝かされながらアインスの顔を見上げる。
 そっとわき腹から手を動かし、おそるおそる、ブラウスの上をなぞっていく。思わず、目をそらして胸を見ようとしたところを、アインスがクロノの頬に手をあてて顔を正面に戻す。

「目を逃がすな──私を見てくれ」

 ゆったりと上半身を覆うブラウスを、手のひらで押し込んでいく。重みで真下に垂れた乳房は、しかしそれでいて肌の張りを保ち、想像を絶するほどの重量を持つふくらみを胸に支えている。
 女は、女性の肉体というものは、これほどの質量を常に胸に提げ続けているのか。
 アインスが特別巨乳というのかもしれないが、これまで、母に抱きしめられたときなど、その胸の大きさに圧倒されていたものだ。
 アインスの胸は、リンディをはるかに凌ぎ、これまで目にしたどんな女性よりも大きく豊かだ。

 深い。肉の柔らかさが、クロノの手指を飲み込んでいくかのようだ。ちょうど人差し指と中指の間に入り込んだ乳首の大きさも、普段、風呂場などで目にする自分の乳首とは比べ物にならないほど大きく、そして硬い。女の乳首はこれほど大きくなるのだ。
 クロノがわずかに手のひらを曲げ、胸を掴むようにすると、アインスもゆっくりと上半身を下ろしてくる。
 そのまま、再び唇を重ねる。今度はこぼれて乾きかけていた唾液を再び潤すように唇全体を舐め、そこでいったん離す。

 仰向けに寝転がった姿勢が、被虐心をそそる。自分にはそのような気質があったのか、クロノは、アインスにもっと虐められたいという感情が芽生えるのを感じた。

 このまま調子に乗って触り続けたら怒られるかもしれない。でもそれがいい。
 彼女に、アインスに見下されたい──そう思いながら、クロノはアインスの乳房を、こねるように揉みはじめる。
 鋭く見下ろすアインスの目が、クロノを射抜く。彼女に見入られたら、逃れられない。再び唇を重ねようと顔を近づけてくるアインスが、自分をとって食おうとしているように見える。
 年上の女性に、なすがままに弄ばれたい、そんな欲望が芽生える。

「あ……」

 言葉にならない上ずった声をあげたクロノの喉元を指一本で押さえ、アインスは再びクロノの唇を奪う。
 二人の身体は再び密着し、クロノはアインスの左胸に手を当てたまま、押さえつけられた。やわらかく弾力を持って変形する乳房が、クロノの右手を完全に包み込んでしまうように感じる。
 真綿にくるまれるように、心地いい。
 女性の着る服の香り、女性の肌の香り。若い、性的魅力にあふれた肉体。アインスは自らの持つそれを最大限に、クロノを包む。
 唇を合わせる事に、クロノもしだいに慣れ、アインスに寄り添うように唇を揉みあう。
 こぼれる唾液を吸い、甘みを味わい、舌を絡ませあう。初めてのクロノを導くように、アインスはクロノの舌を、自分の舌先で引っ掛け、裏側や唾液腺をつつき、愛撫する。

 口腔内をアインスに犯されつくし、クロノは自分の顔が溶けてしまったように感じていた。二匹の軟体動物が絡み合うように、クロノとアインス、二人それぞれの舌と唇が互いを求め合う。
 舌を差し出すアインスを、赤ん坊が母親の乳首に吸い付くようにクロノは唇をすぼめて吸う。
 その感触をひとしきり味わい、アインスは幼い少年をあやすように微笑んだ。

 慈しみの微笑み。
 やはり、彼女の思い出が心のどこかにある。もしかしたら、自分が幼い頃、父に連れられて会った事があるのかもしれない。
 その頃は自分も幼児だっただろうが、今は成長し、執務官になった。背丈の低さを気にすることもあるが、それでも、コンプレックスだとは思わないようにして、仕事に打ち込んできた。
 彼女も、成長した自分の姿を見てくれている。
 アインスは、きっとクロノ自身よりもクロノの事を知っている。

 彼女が自分に近づいてきたのは、思い出だろうか。探していたのは、自分だったのだろうか。そう思うと、自分も彼女の愛情表現にこたえてやりたいという気持ちが湧き上がってくる。
 性愛の作法などクロノはまだわからない。手探りながらも、それでも、アインスの大きな乳房を、手のひらいっぱいに感じ取るように揉む。

「っ……!」

 亀頭から涙がこぼれるような切なさを感じ、クロノは身体を強張らせた。
 アインスもクロノがそろそろ限界に近づいていることを察し、最後に口の周りを大きく拭うように舐めとりながら唇を離した。

 もう、どれだけキスをし続けていたのだろう。
 唇と唇を合わせるキスは、初めてだった。リンディやリーゼロッテとは、あくまでも普段のスキンシップとして首筋や頬に軽く触れる程度のキスしかしなかった。
 リーゼロッテも、あくまでも可愛い子供を相手にするように、一線は引いていたように思えた。

 初めてのキス。
 ゆっくりとベッドから身体を起こしながら、自分はファーストキスをしたんだという感慨にクロノはしばし浸った。

 14歳というクロノの年齢で前線に出る執務官になっているというのは管理局でも稀な例である。ゆえに、士官学校でもクロノやエイミィは最短コースだったし、そこから執務官への道となると、クロノは最年少だった。
 同期生もみな年上で──といっても10代後半程度だが──恋盛りの年頃。やれ誰と誰がキスした、どこまでいった、だの、寮では毎晩そんな話題に花を咲かせていた。
 クロノにも、誰か付き合っている子はいるのかとか聞いてくる者もいた。そういった質問は適当にあしらっていたクロノだったが、まさか今になって、自分がそのような事柄に遭遇するとは思ってもみなかった。
 初体験は何歳で、もう童貞は捨てた、だの、そういった武勇伝を語る男子は皆から賞賛された。
 全く興味が無かったわけではないし、むしろ自然な感情ではあったのだが、クロノはそういった事になると奥手だった。
 もしかしたらリーゼ姉妹には、甘える仕草を見せればそれくらいの事はしてくれたのかもしれない──が、そんなのは自分の柄でもない。

 今こうして、アインスに惚けてしまっている自分は、どうなのだろうか。
 このまま、彼女のなすがままにされるか。彼女は、自分に何を見ているのか。かつての上司の息子。クライドは、尊敬できる艦長だっただろう。次元航行艦隊の期待の若手提督、若い女性局員にとっては憧れの的でもあっただろう。
 父に、リンディ以外にも恋心を持っていた女性はいたかもしれない。既婚者であると知って、人知れず思いを秘めた者もいたかもしれない。
 それが、彼女だろうか。クライドによく似ているというクロノに、惹かれていくのも自然なことだろうか。

 アインスはそっと、惜しむようにクロノの両肩に手を置き、腕を撫で下ろしていく。
 戦闘魔導師として鍛えているクロノは、一般的な14歳男子にしては体つきはいいほうだ。背は低いが、相応の筋肉はついているし骨格もできあがっている。
 じっと舐め回すようにクロノの身体を見るアインスの視線に、クロノも性的な感情を読み取る事ができた。
 自分の腕に触れているアインスの手指に、そっと、手のひらを重ねる。
 名残惜しそうなアインスの表情。さっきまで、クロノの唇を貪っていたアインスは、闇のように澄み切った切れ長の目を潤ませて、ベッドに座っているクロノに、跪くように向かい合っている。

「済まない……時間がない。先ほど言ったように、グレアム提督の進めているプロジェクトは管理局内でも秘密のものだ。提督も、私がお前に喋ったことをまだ知らない。
ゆえに、他の局員や査察部の連中などが、探りを入れてくる事が考えられる。われわれはそれをも交わしながら事を進めなくてはならんのだ」

 アインスはクロノにいったん背を向けて立ち上がり、ブラウスをはだけてブラジャーを着けなおす。しなやかな背筋のくぼみがあらわになり、腕の動きに従って肩甲骨が滑る。
 思わず息を呑みながら、クロノは俯いた。これ以上、刺激を受けたら、本当にどうにかなってしまいそうだ。

 服を整えたアインスは、再びクロノに向かい合う。既に、よそ行きの姿になった。二人きりではなくなった。
 もう、ここを出なければならない。先ほど橋の上で狙撃をしてきたのはおそらく管理局の武装局員、彼らはこちらの事情など知らない。

「でも、僕があなたがたの都合のいいように動くとは限らない──闇の書が本当に今も存在しているのなら、それは絶対に封印しなきゃいけない。
それでもし、管理局法に抵触するような事があったら、もしかしたら僕に、それを検挙するよう命令が下るかもしれない──
──そうしたら、アインスさん、僕はあなたの前に立ちふさがることになる」

 言葉に出しながら、クロノは今までになく、胸の奥、喉の奥がきりきりと切なく痛むのを感じていた。
 管理局は警察組織である。何よりも法に忠実でなくてはならない。法律と、人情の板挟みになる事などある意味日常茶飯事ともいえる。

 堪えるようにしてきたはずだった。それなのに、今は、つい数時間前に出会ったばかりのこの女に、悔しいほどに心を囚われてしまう。

「幸いまだ闇の書は起動をしていない。提督は、次に闇の書が選ぶ主に、おおよその目星をつけ既に監視のための人員を送り込んでいる。
われわれが勝利するためには、闇の書そのものだけではなく、主に選ばれた人間を保護する必要がある。闇の書がどのような振る舞いをするかも、言ってみれば主となった人間しだいだ。
そのために──、われわれは、戦うのだ」

 近くから見上げる格好になると、改めてアインスの体格のよさが強調される。
 身長は成人男性並みに高く、肩幅などもがっしりしている。単に脂肪がついているだけではない、その下にはしっかりとした筋肉の土台があり、抱きごたえのある肢体が形作られている。
 胸の大きさに目を奪われがちだが、腰周り、尻周りも、目もくらむような大きさで、女としての、雌としての生命力に満ち溢れている。
 引き締まったウエストは、やたらに細く絞っただけではない、内臓をしっかり守る筋肉が、鋼のように背骨を囲んで編みこまれている。
 短いスカートから露になっている太ももは肉の張りが完璧な肌色のグラデーションを描き、膝上までのハイソックスとあわせて、最も刺激的な太ももの範囲の肌を露出させている。

「アインスさん」

「闇の書を狙っているのは管理局だけではない」

「アインスさん、僕はかつて、グレアム提督に師事し魔法を学びました。提督も、僕の事は知っています。クロノ・ハラオウンと言えばわかります、提督も、彼の使い魔たちも僕をよく知っています。
どうか伝えてください、僕たち管理局員は、次元世界の人々に降りかかる不幸を、少しでも減らし救うためにいるのだと、たとえ管理外世界の人間であっても分け隔てなく救うべきだと──」

 訴えかけるように、ベッドから立ち上がったクロノをアインスはもう一度抱きしめた。
 クロノの顔を、胸の双丘に抱え込み、愛しさを絞るように抱きしめる。声に、涙が混じる。

「信じてくれ。私を、提督を──クロノ、私は、お前のために尽くしたい──」

 アインスの、涙混じりの言葉。
 クロノの答えを待たず、アインスは感傷を振り切るようにきびすを返し、コートを羽織ると部屋を出ていった。
 きつく抱きしめられたアインスの体温の余韻を頬に感じながら、クロノは、それでも股間の昂ぶりが収まってはいなかった。

 部屋に一人残ったクロノのパンツの前は、先走りでぐっしょりと濡れていた。
 あまりここに長居はできない。外に出ると、廃棄都市区画に近い、黴臭い雑居ビルの非常階段に出た。雨はやみ、雨雲は湿り気を残しつつゆっくりと空の向こうへ散らばりつつあった。

 クロノがようやく自宅に帰りついたとき、既に日は暮れかけていた。
 玄関に上がると、奥のリビングからエイミィが飛んできて、今までどこに行ってたの、心配したんだからとまくし立てた。
 アインスと一緒にいた事は言わないほうがいいと思い、クロノはどうにか状況を作って話した。
 彼女の言っていた事が本当であれば、ハラオウン家までもが取り締まりの対象になりかねない。本局の特に最高評議会の下にいる連中は、殊更に横槍ばかり入れているという印象がある。

 本局を出たところで、どこからか銃撃を受け追跡を撒くために時間がかかっていた。局員の制服のまま歩いていたし、犯人は多分管理局員なら誰でもよかったんだろう、と一見もっともらしい事を言う。

 クロノが靴を脱いでリビングに上がるまで、エイミィはずっとクロノに身体を寄せて俯いていた。

「大丈夫だよ、地上本部がきちんと捜査してくれるさ」

 あまりエイミィに近づかれると、また、アインスとの事を思い出してしまう。
 いきなり、あれほど激しく接吻を交わしたのは14歳のクロノにとっては刺激が強すぎた。思い出すとまた股間が元気を取り戻してきてしまう。

 エイミィに引っ付かれた状態で、勃起してしまったらあらぬ疑いを持たれそうだ。それでなくても、士官学校時代は周囲から仲をからかわれる事が多かった。

「……外、雨だったから濡れてるでしょ。お風呂、沸かしてあるから──」

 そう言うとエイミィは、とぼとぼと自室へ戻っていった。
 この場でクロノを問い詰めても何も出ないだろう。フェイトやリンディのいる前なら、仕事の話が出来たかもしれないが、そうしたら今度は彼女たちへの余計な詮索をしてしまう。
 フェイトの裁判に、公選弁護人としてクロノが出る予定だが、それとて、フェイトがクロノに取り付く島を与えてしまう事にもなりかねない。

 計算づくでやっているという事への後ろめたさを、エイミィは感じ始めていた。

「ああ、ありがとう……助かるよ」

 そう言いつつ、自分の部屋でクロゼットにコートをかけ、着替えを持って脱衣所へ入ると、今さらのようにクロノはアインスの肉体を思い出してしまった。

 重要なのは彼女から聞かされた闇の書対策の事であり、情事ではない。
 それでも、彼女がクロノの肉体に訴えかけてきたのは、それ以上に、個人的な感情が含まれている事をあらわしている。
 そう思いたい。年上の、美しい女性に。女性に触れる事の気持ちよさを、クロノは初めてといっていいほど、新鮮に感じていた。

 シャツを脱いで洗濯かごに入れ、下着に手をかける。パンツを脱ごうとすると、自然、自分の股間にぶら下がっているものに目がいく。
 もちろん男女の身体の違い、性器の仕組みと役割というものは学校で習った。人間は、男の陰茎を女の膣に挿入し、射精すると、精子が膣の中を泳いで子宮へたどり着き、そこで卵子と出会い受精する。
 ペニスをヴァギナに挿入する事を性交渉、セックスという。性行為には、さまざまな体位があり、そして性的刺激によって射精や排卵を促すために愛撫を行う。
 知識としてはもちろんあった。だが、少なくともクロノは実践した事など無かったし相手もいなかった。結婚を考える相手が現れるまで必要の無い事だと思っていた。

 アインスとのキス、それは確かにセックスの入り口としての、前戯の意味があった。ディープキスで結合感を高め、乳房を刺激することで性感を高めていく。アインスはそれをクロノに求めていた。

 パンツの中でむくむくと勃起していく自身を見下ろしながら、クロノはどうしようもないほどに顔が火照っていくのを感じていた。
 これから入浴するからではない、熱い湯にはまだ浸かっていない。
 それなのに、こんなに体温が上がってしまう。心が熱く、そして、身体はそれ以上に熱い。これを処理するには、もう、出すしかない。
 そっと外の様子に聞き耳を立て、エイミィがバスルームの近くにいないことを確かめると、浴室へ入り、シャワーで下半身を濡らす。もはやクロノのペニスは限界まで勃起しており、最近剥けたばかりの包皮がぱんぱんに伸びきっている。

 海綿体の芯が痛くなるほどの強烈な勃起。この太く大きくなったペニスを、アインスの膣に挿入する。想像するだけで気絶してしまいそうなほどに頭がくらりとする。
 あのまま時間があれば、そこまでいっていただろうか。彼女はそこまで、自分を求めるだろうか。
 どちらにしろ、もう、止まれない。クロノは記憶の隅々までを振り絞り、アインスの顔、表情、髪の流れ、肌の手触りを思い出そうとする。
 口の中に入り込んできたアインスの舌。余すところ無く揉みあったアインスの唇。手のひらで触れたアインスの乳房、アインスの乳首。胸と腹の上に覆いかぶさった、アインスの腹肉、アインスの下乳、アインスの乳房の大きさ。
 全てを思い出し、頭の中で、限りないリアルな想像へと変換する。
 アインスの手指を想像し、それを自分の手で置き換える。アインスがそうしてくれているつもりで、クロノは自身のペニスを扱く。手を握り、輪を作り、その中に通して激しく前後させる。
 膣の正確な形や触感などわからない、でも、とにかく想像したい。想像が現実になってほしい。見た事の無い、アインスの股の間を思い描く。
 アインスの太ももの肌、それは内股から肌の色が、白から褐色へとわずかに変化し、陰部へ向かう。そこにあるはずだ。アインスの膣の入り口、肉の割れ目がそこにあるはずだ。
 その中に、ペニスを入れたい。アインスに入れたい。アインスの膣に、ペニスを挿入したい。アインスと、セックスしたい。

「アインス……さん……」

 名前を呼ぶ。彼女を、思い浮かべる。
 喘ぎ声を上げたくなるのを必死で押し殺し、物音を立てないように、クロノは浴槽の縁に左手でつかまって両足を踏ん張り、右手で自身を扱き続ける。
 この場にエイミィやリンディがやってきたら一巻の終わりだ。何が終わるというか、自分の尊厳が砕けてしまう。それを懸けてやっている。
 目をぎゅっとつぶり、視界を暗闇にして、そこにアインスの姿を思い描く。自分にキスをしていたアインスの表情。すぼめた唇、艶かしく動く舌。キスをしたくて、クロノも唇をすぼめる。
 キスをしながら、ペニスを挿入し、そして──

「はぁっ、はっ、あ、アインスさん、はっあ、アインスさん、アインスさん、アインスさんっ──!!」

 ギリギリまで意識を高揚させ、わずかに残った理性で外の物音に注意しながら、クロノはとうとう射精にたどり着いた。
 握り締めたペニスから、勢いよく白い精液が飛び出し、浴槽に飛び込んでいく。一部は浴槽のへりを伝い落ちるが、最初のひと射ちが丸ごと、その後の数滴が風呂の湯の中に落ちてしまった。
 なんとか掬いださなければと思うも、腰が震えて動けず、その間に精液は湯の熱で固まり、漂っていく。尿道が拡がる感覚とともに、ペニスの先から精液が飛び出し、脈打ち、浴槽から立ち上る湯気と混じってむっとするような潮臭い香りが立つ。
 手で握っての射精。オナニーだ。自分で一人でやるのと、女の中に出すのとでは、快感は段違いだろうというのはわかるが、クロノにはまだ想像もできないことだ。
 浴室の床にへたり込み、クロノはしばらく、ひくひくと痙攣を続けるペニスを握ったまま呆けていた。

 やがて汗が乾いて身体の熱が引いてきて、ようやく意識を持ち直す。
 自慰に要した時間は何分ほどだっただろうか。これから湯に浸かりなおしていたら、時間がかかる。今日はシャワーだけで済ませるか、と考えて、カランとシャワーを切り替えるレバーに手を伸ばす。

 射精からしばらくたち、硬さが抜けて小さくなってきている股間のものを、ぬるめのシャワーでそっと洗う。
 尿道口から、ぬるぬると白い膿のような精液が流れ出ていき、しだいに薄くなっていく。これほどの量が出た事は初めてだ。まだ、ペニスのひくつきがおさまらない。まだ少し、尿道の奥に残っているような気がする。
 赤く膨れた亀頭と、その根元に集まった伸びた包皮が、充血して身体中の熱を集めている。どっと疲労感が襲ってきて、これほどの体力と精力をかけて人間は子孫を残そうとするのだという思考が浮かぶ。

「何、やってんだ……僕は……」

 ある意味では生真面目なクロノらしい思考といえた。性行為とはすなわち子供をつくるためのもので、それは家庭を持ち、将来のためのことである。
 セックスは妻となる女性とだけするべきだという、堅物な思考の持ち主だった。

 将来、自分が年をとり結婚を考えたとき。それは遠い未来のように感じる。
 母はなんとなく、エイミィをハラオウン家に入れる事を考えているようだ。ということは、エイミィといずれ結婚する事になるのか。
 いずれ将来、エイミィとそのような関係になるのか。
 考えるとなおさらに、自分は何をやっているんだという後悔の念があふれ出てくる。恋人でもない、出会ったばかりの女に、ちょっと誘われただけでここまでだらしなく劣情を催してしまっている自分が、情けなくさえ思えてくる。

「アインスさん……僕は、どうしたら……アインスさんの事を、僕はどうすれば……」

 シャワーのノズルをホルダーに掛け、湯の温度を上げて肩に流す。
 所在無い手をごまかすようにボディソープのボトルを押し、漫然と腕に塗りつける。

 もし、もっと経験を積めば、こんなふうに心が萎える事もなくなるだろうか。
 あの隠れ部屋での出来事はともかくとして、管理局員として、ロストロギアの鎮圧封印は重要な職務である。今は管轄が違うかもしれないが、いずれ自分も、関わっていかなくてはならないだろう。
 ギル・グレアム提督は、クロノもよく知っている。魔導師になるための修行を、グレアムの元で積んだ。グレアム自身は前線を退いて、実戦は使い魔に任せているが、彼の魔導師としての実力はミッドチルダでもトップクラスだ。
 自分が指揮していた作戦で殉職したクライドの息子として、クロノをよくみてくれていたことを覚えている。
 その彼が、闇の書を今度こそ完全に封印するために動いている──だとすれば、クロノにとっても他人事ではない。
 だからこそ、あの彼女──アインスは、自分に近づいてきたのだろうか?

 クロノは、どこか憂いを含んだあの銀髪の女に出会った事を、運命だと──柄にも無く──思いつつあった。

 ハラオウン邸の中で自分用に割り当てられた部屋で、エイミィは明かりを消し、ベッドに入っていた。
 大きなピンクの抱き枕をかかえ、じっと身体を丸めている。
 クロノが帰ってくる少し前、本局のリンディから電話があり、今日は帰るのが遅くなるということだった。夕食はそれぞれで適当に、ということだったのだが、エイミィはまだ何も食べていない。
 いつもなら、クロノのために食事を作ってあげたり、していたが、今日はどうしても気分が乗らなかった。

「どうしちゃったんだろ、私……」

 今日のクロノがいつもと様子がおかしいのは感じていたが、自分もおかしくなっているのではないかと不安になる。
 クロノの事を考えると、わけもなく不安になってしまう。今までこんな事は無かった。
 休暇で、ゆっくり過ごせるはずなのに、どうしてこんなに心が焦ってしまうのだろう。こんな状態で、次の出航できちんと仕事が出来るのだろうか。

 恋わずらい?第97管理外世界での作戦任務の間、クロノは現地の協力者、高町なのはに照れるようなしぐさを見せ、それをユーノにからかわれたりもしていた。
 だが、所詮なのはは事件を通じて、仕事で行動を共にしただけで、そこに特別な感情は無いはず。
 確かにあれくらいの小さい少女なら、クロノは立派なお兄さんといった感じに見えるだろうし、憧れのような感情を抱くだろうが、それは年上の余裕として見送れる。
 なのはがいくらがんばっても、自分には、過ごしてきた時間の長さという有利なものがあるとエイミィは思っていた。

 今日のクロノは、ずっと様子が変だった。
 それはあの、アインスという銀髪の女に出会ってから。
 本局慰霊堂で、クライドの墓碑に手を合わせていた。クロノを見て、クライド艦長、と呼び名を漏らした。クロノはクライドの代わりなのか?そんなことを考えるような女ではなさそうに見えるが、しかし。

 クロノが、今までのような朴念仁ではなく、もっと素直に気持ちを表してくれたら。もっと自分を見てくれたら。
 今まではある意味、みんなが配慮してくれていたからよかったようなものだ。アースラの乗組員も、クロノとエイミィを、幼馴染で同じ艦に配属された仲良しとして微笑ましく見守っていた。女性乗組員で、クロノにコナをかけるような者もいなかった。
 むしろ今までが幸運すぎたのだ。恋のライバルはこれから、もっともっと現れてくるだろう。
 そんな状況で、幼馴染だからとたかをくくっていてはいけない。いつのまにか、クロノの心が自分から離れていってしまうかもしれない。
 不安を少しでも無くすためには、もっと自分から、積極的にアプローチをしなければならない。

 暗い部屋で子供のように抱き枕にしがみつきながら、エイミィはそう胸の中で決意した。

 時空管理局本局、次元航行艦隊司令部。
 普段は「海」として、比較的本局直属部隊との交流は少ないが、今回、本局司令部長官を務めるギル・グレアムに、時空管理局遺失物管理部より直通で報告が上がった。
 第一級捜索指定ロストロギア「闇の書」が、本局施設内の隔離区画で移送作業中に突如暴走。死傷者多数を出した。
 さらに報告は、管制人格の出現を観測したと付け加えていた。

 手元に届いた報告書に目を通し、グレアムは老眼鏡を外して机に置き、深くため息をついた。
 最悪のタイミングでの事故である。11年前の事件以来、闇の書を封印する方法を考え、慎重に慎重を重ねて計画を練ってきたつもりだった。
 それでも詰めが甘かったのか、それとも闇の書の力が上回っていたのか。
 グレアムは、機動一課に出向していた二人の使い魔たちを思い浮かべる。
 アリアとロッテのリーゼ姉妹。戦闘力に優れる猫を素体とし、グレアム自身の魔力量もあって二人ともがエース級の実力を持つ。
 その彼女たちでさえ、管制人格──闇の書の意志には手も足も出なかった。

 闇の書の意志は、自分をどう見ているだろうか。11年前、闇の書を運んでいた次元航行艦エスティアごと、アルカンシェルを撃ち破壊した。
 エスティアが消滅してもなお、闇の書は転生と再生を果たした。
 それから11年、闇の書は何を思い続けていたか。
 機動一課で行われていた実験は、グレアムの命令により、管理局内のどの部署に対しても秘密にされた。他の課の局員も、一課で行われていた実験の内容を知らない。
 このまま闇の書を無人世界に封じ込めても、これではまた管理世界に舞い戻ってきてしまう結果になったかもしれない──。

 やはりもう一度、闇の書に正面から挑まなければならない。そしてその場所は、今回の戦場となる場所は、グレアムが生まれ育った世界、第97管理外世界だ。
 かの地で闇の書は、新たな主を見定めた。その主が成長してじゅうぶんなリンカーコアを持ち、魔力を蓄えたところで、闇の書はその活動を始める。そうなってしまえばもう、闇の書を実力で物理的に破壊するより方法はない。
 もしかしたら“彼女”はそれを為すために行動しているのか──そのためにエスティアを、蒐集の対象に選んだのか。
 グレアムは報告書を仕舞うと、机の引き出しに入れていた古い写真立てを取り出す。

 クライドのエスティア艦長就任一周年を祝ったパーティのときのものだ。
 写っているのは、中央にクライドとリンディ、後ろにグレアム、アリア、ロッテ、そして管理局提督レティ・ロウラン。リンディに手を引かれてクロノも一緒にいる。このときはまだ3歳だった。
 リンディの隣にいるクロノの反対側、クライドの隣で前列の一番左手側に、銀髪に赤い目をした長身の女性が写っている。
 このときはまだ、彼女と自分たちは共に管理局に勤める同僚だった。ハラオウン家、ロウラン家そしてグレアム家も、家族ぐるみの付き合いをしていた。彼女はグレアムをよく補佐して働いていた。

 それは11年前のその頃から、今このときも同じ。
 彼女の真実、そして彼女をこの世に現出させた“闇の書”の真実を、まだクライドもリンディも知らなかった頃のことだ。


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目次:闇と時と本の旅人
著者:SandyBridge ◆UKXyqFnokA

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