136 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/07/22(火) 01:59:56 ID:bFn92E3x
137 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/07/22(火) 02:00:32 ID:bFn92E3x
138 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/07/22(火) 02:01:06 ID:bFn92E3x
139 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/07/22(火) 02:01:40 ID:bFn92E3x
140 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/07/22(火) 02:02:14 ID:bFn92E3x
141 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/07/22(火) 02:02:50 ID:bFn92E3x
142 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/07/22(火) 02:03:37 ID:bFn92E3x


 間違っていることはわかっていた。
 だけど、誰かを憎んでいれば自分の心は癒される。
 八神はやてを憎んでいれば、すべてを八神はやてのせいだとしてしまえば。
 安易な逃げ道だけど、確実な逃げ道。
 しかし、一つだけは本当に確実なこと。
 八神はやては、自分からあの人を奪った憎むべき相手。

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 それは別の捜査官が追っていたロストロギアだった。しかし、それが自分のすぐ近くにあると聞いたなのはは、非番であるにもかかわらず即座に行動を開始する。
 ロストロギアの確保と保持。専門の運び役が現れるまでの警護。
 ロストロギアの回収確保は多大の危険が伴う任務なのだ。いかなる形にせよ、管理局のエースオブエースに手を貸すと言われて、断る者などいない。
 この捜査官も、ご多分に漏れずなのはの援助を感謝した。

 彼は後に、その決心を一生後悔したという。

 休止状態だと思われていたロストロギアは突然活動を開始し、高エネルギーを放射することで周囲を破壊し始める。
 なのはは、周囲の被害を最大限に抑えるために自分のシールドでロストロギアを包み込んだ。

 その数秒後、ロストロギアは消失。
 さらに数秒後、ロストロギアは単体で姿を見せる。
 消失時に一緒に消えた周囲のものは、姿を見せなかった。
 消えた一覧の中には、なのはの名もあった。
 なのはは消えた。

 高町なのはが行方不明になったという知らせは、瞬く間にミッドチルダ全体を駆けめぐり、すぐに海鳴町にも伝わった。
 休暇返上でなのはの行方を捜す魔法使いたちがいた。しかし、その行方はいっこうにしれず、ロストロギアの暴走に巻き込まれて次元の狭間に消えたという説が巷に流れ始めていた。

 一年後、当局は公式捜査を打ち切った。
 そして、高町なのは死亡という見解を、正式に発表した。



 高町なのはの死亡宣告から五年が過ぎた。

 宣告されるまで、フェイトはなのはをあらゆる手段で探した。
 宣告後の半年、フェイトは引きこもり同然の生活を送っていた。
 次の一年は、過労死寸前まで仕事に没頭した。
 そして、二周忌にヴィヴィオを抱きしめて泣いた。
 フェイトは立ち直っていた。

 宣告後の半年、はやては黙々と仕事を続けていた。
 次の一年で、はやては結婚した。
 二周忌で、フェイトをヴィヴィオから静かに引き離した。
 だから、フェイトははやてを許さないと決めていた。


「別に許してもらおうとは思てへんよ。そもそも、ここになのはちゃんがいたとしたら怒られるんはフェイトちゃんや。あたしと違う。
なのはちゃんが望むんは、残された人が死を悼んで落ち込むこととは違う。なのはちゃんの意志をしっかりと継いでいくことやよ」

 質問の主……シグナムはうなずいた。主はやての言葉はもっともだ。自分が高町と同じ立場であれば、残された守護騎士に望むのは弔意ではない。
自分に変わって主はやての騎士であり続けることだ。
 しかし、シグナムにはテスタロッサの気持ちもわかる。フェイトにとっての高町はあまりにも特別な存在でありすぎた。
 主はやてにとっての高町と、テスタロッサにとっての高町は、ある意味では別人なのだ。

「そやからええんよ。フェイトちゃんが一生あたしを憎んだとしても、それはそれでええよ。
それで、フェイトちゃんがなのはちゃんのことを一瞬でも忘れてくれるんやったら」

「しかし、それでは主があまりにも…」

「ええんやって」

 そう答えるはやての足下に守護獣が寄り添った。

「主、お時間です」

「もう、そんな時間やった? ありがとな、ザフィーラ。いつもご苦労さま」

「いえ、若様のためならば」

「あー。その言い方、何とかならんやろか?」

「しかし、主のご子息ですから、若様とお呼びするのがもっともふさわしいかと…」

 子守狼が板に付いた、とヴィータに揶揄されるのにも、とうにザフィーラは慣れていた。
 ヴィヴィオから完全に離れた、と思ったら次に待っていたのははやての子供だった。
シグナムたちも子守には志願していたのだが、結局、公式には仕事を持っていないザフィーラにその役割が回ってきたのだ。
 もっとも、ヴィヴィオと違ってまだ小さな赤ん坊なので、ザフィーラだけで完全な世話をすることはできない。
 そこではやてが仕事の日は、管理局を退職したギンガが面倒を見ている。 

「リンヤ、でええよ」

 ギンガにとってのリンヤは、大幅に年の離れた弟なのだ。


 
 皮肉なものだな、とはやては考えていた。親友の命を奪ったロストロギアを、任務とはいえこうやって護送しているとは。
 かつてのスカリエッティのような大物犯罪者が消えて久しいが、それでも犯罪者がいなくなったわけではない。はやてたちの仕事はまだまだ必要なのだ。
 さらに、ある二つの情報がなければ、自分がこの任務に就くこともなかっただろう。 

 一つは、このロストロギアが狙われているという情報。
 調査の結果、これはまさにオーバーSランクとも言えるロストロギアだと判明したのだ。
 時間の流れに干渉するロストロギア。このロストロギアは存在するだけで内部にエネルギーを蓄えていく。
 時間の経過を縦軸として考えれば、このロストロギアはフリーフォールのようなものだった。
ある程度の高さまで上がり位置エネルギーを貯めると、一気に解放して滑り落ちるフリーフォールのように、ロストロギアは時間エネルギーをため込むのだ。
 そしてある期間が過ぎると、一気にそれまでの時間を遡ろうとする。
 周囲に何もなければ、このロストロギアが影響する範囲はきわめて小さく、放置しておいても何の心配もない。
しかし、発見調査回収されたことによって一気に危険性は増してしまったのだ。
ロストロギアに関係を持った者、物、すべての時間が巻き戻される可能性がある。そして、世界の一部だけの時間が巻き戻ると言うことが何を意味するか。
 もっとも楽観的な観測でも、混乱は避けられないだろう。最悪の場合、巻き戻った世界と戻らなかった世界が整合しなければどうなるのか。
 もっとも悲観的な予想では、世界の崩壊。
 このロストロギアを破壊か、あるいは凍結して処分しなければならない。ある意味、闇の書に対する処分の計画とよく似ている。
 それもまた皮肉だと、はやては感じていた。
 そして危険度も似たような物だ。使い方によっては世界一つを変えてしまいかねない。テロリストが入手すれば、間違いなく重要な取引材料となるだろう。

 そしてもう一つ。おそらくは今回の任務に関係していると思われること。
 数日前から、リンヤの姿が消えているのだ。


 憔悴しきったギンガがはやてとゲンヤ〜ナカジマ夫妻の前でうなだれていた。

「ごめんなさい、はやてさん。私がついていながら……」
「ギンガ! お前…!」
「あかん、ゲンヤさん! 落ち着いて! あたしらが落ち着かな、誰がリンヤを助けるんや!」
「ぐ……す、すまねぇ。だが、どうしてリンヤが」
「あたしらはいろんな意味で恨みを買うてる」

 おそらくはもっとも間近かつ重大な任務、時を操るロストロギア護送に関するものだろう。
 護送に関する情報漏れの疑いは、ティアナとフェイトから報告されている。しかし、この手は予想外だった。

「護送任務からあたしが外れれば何の問題もあらへんよ」
「それでうまくいくのか?」
「……フェイトちゃんとティアナなら、問題はあらへん。あるとすれば」
「犯人がそれを由とするかどうか、か」

 はやてが護送任務に就かない。それだけが犯人の狙いではないだろう。はやてを利用してロストロギアを入手する。そこまでは考えられているはずだ。



 犯人からの要求は、身代金だった。
 もちろん、それを本気にするほど甘くはない。
 元々護送任務に就くはずだったシグナムが受け渡し現場へ向かうと言い張った。
 ヴィータは自分が行くという。知られている可能性が高いとはいえ、見た目は子供なのだ。油断を誘えるかもしれない、と。
 それならば自分が適任だと言い張るリイン。
 どちらにしろバックアップは万全にすると、ザフィーラとシャマルは言う。
 一同の言い分を聞いて、はやては決断する。

 フェイトは、ロストロギア保管庫の前に陣取るはやてを訪れた。
 保管庫は大型トラックの中。横には武装局員たちを乗せた兵員輸送車。

「どしたん? フェイトちゃん。交代時間はまだまだやで?」
「うん。ちょっとお話しがしたくて」
「ええよ」
「結局、はやてはこっちに来たんだ」
「そうや。意表をついたんや。その代わりティアナは向こうに借りたで」
「ティアナの幻影ではやてを作る。本物のはやてはこっちでロストロギアを守る。だけど、護送任務ならティアナでも良かったんじゃない?」
「わざわざあたしが外れるように仕向けたんや。犯人が苦手とするのはあたしの力やろ。それがどんな力かまではわからんけどな」
「単純に、はやてと戦いたくないだけかもしれないよ」
「そんな風に考えるんは、一人か思いつかへんけれど」
「誰かな?」
「その前に、一つ忠告してええかな」
「なに?」
「バルディッシュはちゃんと洗いや? 血が付いてるで」

 はやての合図とともにトラックが急ブレーキをかける。
 押し出されるようにして外へ出るフェイト。それをはやてが追う。
 申し合わせたようにコントロールを失い、どこかへ消えていく輸送車。

「乗ってた局員を殺したんか」
「弱かったよ。抵抗どころか、私が何をしているかにも気づかなかったみたいだったよ」
「なんでや。って聞くのも野暮なんやろうか?」
「うん。わかっているはずだよね。はやてなら、私が時間を巻き戻したい理由」
「なのはちゃんかっ!」
「他に、何があるの?」
「予想はついたわ! そやけど、そんなん考えとうなかったんや!」
「どうして? なのはのいないこの世界なんて、別にいらないよ?」
「なのはちゃんがそんなん喜ぶと思うんか!」
「時間が巻き戻れば、何があったかなんてわからないよ」
「フェイトちゃん。止まる気はないんか?」

 愚問だと、はやてにもわかっていた。すでに局員が殺されているのだ。
 フェイトのために。いや、ぎりぎりまで友を信じたかった自分の判断ミスのために。



「なのはちゃん一人のために、この世界を壊してしまうんか? 何が起こるかわかってないんやで」
「ねえ、はやて。偽善はやめようよ」
「偽善……?」
「はやてが心配しているのは世界じゃないでしょう?」
「何言うてるんや、フェイトちゃん」
「なのはが消えてから、はやては何をしたのよ! 結婚して、子供を作って、家庭を作って!!!
なのはにはできなかった! 結婚できない! 家庭なんてできなかった! なのに、はやてはッ!!!
なのはに当てつけるように幸せになって! 何様のつもりよっ! はやての幸せなんて、なのはのために消えてしまえばいいッ!」
「フェイト…ちゃん……?」
「自分一人幸せになって、みんなを不幸にして! それが偽善なのよッ!!」
「何…言うてるの……?」
「なのはのいない世界で幸せになっている人間なんて、私は絶対に許さないッ!!」

 赤い目は血の色に。憎悪の色がフェイトの瞳を染める。

「嫌や!」

 はやては叫んだ。なのはの友としてではなく、ましてやフェイトの友としてでもない。
 はやては叫んだ。ゲンヤの妻として、リンヤの母として。

「あたしは守る! リンヤを守る! フェイト・テスタロッサ・ハラオウンからロストロギアを守る!」

 しかし、そこに現れたのは絶望の色。
 それを招いたのはフェイトの言葉。
 痴呆を見るような目で。愚者を嘲る目つきで。フェイトは笑う。

「はやてってお馬鹿さん。どうやって守るの? もう、死んでるのに」

 夜天の王は絶叫した。
 どこからともなく現れたリインが怒りに燃える目でフェイトをにらみつける。
 
 ユニゾン

「フェイト……絶対に許さへん…」
「それは、私の台詞だよ。はやて」
「リンヤが、リンヤが何をしたんや!」
「なのはが帰ってきたら、もう一度産めばいいよ。それとも、プロジェクトF.A.T.E.の成果を借りる? 協力するよ?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーっ!!!!!!!」



 何があったのかはわからない。
 ただわかっていることは一つ。
 フェイトが任務中の管理局員とはやてを殺害したこと。そしてその数日前にはやての息子を誘拐して殺害していたこと。
 どのような経過でその事件が起こったのか。動機は何か。
 いくら考えても答えは出ない。

「何があったの、フェイトちゃん」

 いくら尋ねても、フェイトは何も答えない。
 
「良かったね、なのは」

 そう言ってにこにこと笑っているだけなのだ。
 なのはは、今日も徒労感を感じるだけの面会を終えて、施設を後にする。
 自分が死んでいたことなど、何も知らずに。

 ロストロギアを発動させた瞬間、時間軸は変わった。
 なのはは死ななかった。そして、なのはが生きているという前提で時間軸は変わった。
 しかし、ロストロギアを発動させた張本人のフェイトと、その関連の時間軸は変わらなかった。
 フェイトが殺した相手は、殺されたままの時間軸に残った。
 はやてたちはフェイトに殺された。新しい時間軸には、その動機となる事件など起こらなかった。
 フェイトには前の時間軸の記憶が残っている。
 だからフェイトは罪を認めた。
 彼女にとってはどうでも良かったのだ。なのはが蘇ったという事実の前では、すべてが些細なことだった。
 フェイトは幸せだった。




 ギンガは幸せだった。
 はたからどう見えるかは気にしていない。現に、スバルは顔を見せるたびに心配そうにしている。
 しかし、幸せであることに代わりはない。
 かつてクイントを、そして今はやてを失ったゲンヤはショックで寝込んでいる。
 ギンガは嬉々としてゲンヤを世話していた。
 父…いや、ゲンヤと一緒にいる。それが幸せだった。
 ゲンヤを奪った憎き女から取り戻すことができたのだ。
 女がゲンヤを奪うために産んだ子供も消えた。
 もう、邪魔者はいない。
 
 ……ありがとう、フェイトさん。

 口には出さずギンガは、唆し操った相手に感謝していた。
 



著者:野狗 ◆gaqfQ/QUaU

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