907 名前:サンポール [sage] 投稿日:2011/11/09(水) 22:39:05 ID:7TKZmKX2 [2/11]
908 名前:鬼落とし [sage] 投稿日:2011/11/09(水) 22:41:30 ID:7TKZmKX2 [3/11]
909 名前:鬼落とし [sage] 投稿日:2011/11/09(水) 22:42:35 ID:7TKZmKX2 [4/11]
910 名前:鬼落とし [sage] 投稿日:2011/11/09(水) 22:43:55 ID:7TKZmKX2 [5/11]
911 名前:鬼落とし [sage] 投稿日:2011/11/09(水) 22:44:35 ID:7TKZmKX2 [6/11]
912 名前:鬼落とし [sage] 投稿日:2011/11/09(水) 22:45:32 ID:7TKZmKX2 [7/11]
913 名前:鬼落とし [sage] 投稿日:2011/11/09(水) 22:46:18 ID:7TKZmKX2 [8/11]
914 名前:鬼落とし [sage] 投稿日:2011/11/09(水) 22:47:14 ID:7TKZmKX2 [9/11]

鬼落とし


「生を」

「生一つですね、畏まりました」

「あ、僕はジントニックで」

「はい。生お一つジントニックお一つ。以上で?」

「はい」

「ありがとうございます」

賑わいが絶えず聞こえる。四方から楽しそうに話す声が届き、雑音のようで合唱のようにも聞こえる。

「クロノ、飲みすぎじゃない?」

「かもな」

二人の男が向かい合って腰を落としている。顔も赤く酔いが程良く回っている。
かたやクロノ・ハラオウンは艦長の職についているが、現在エスティアが調整中の為一時的に本局に寄港している。
何時までかかるかは、さだかでない。

「らしくないなぁ」

杯に残る酒に口づけながら、酔いで熱くなった吐息を柔らかな唇から逃がす。
男二人。クロノに時間ができたからと、ちょいとつまみと話を肴に酒を飲む次第。
主にクロノが愚痴を言い、ユーノがぽんと相槌を打ちながら聞くを繰り返す。

かれこれ二時間が経ち、程良く出来上がってきたがクロノの演説は終わりそうにない。
全て酔いに任せて思うがままに愚痴を並べていく。

「僕だって家族を思えばもっと近くにいたいと思うが、そう簡単にはいかないだろう」

「うんうん、そうだよね」


へぇ。
そうでございます。
へぇ。

かしずく小僧のように相打ちの言葉を並べていく。調子が良い、といえばそれまでだが
それもまた酒の魅力。気にするでもなく言葉は続く。

「正直に言うぞ、僕だってエイミィとしたいんだ。数カ月も妻に会えない気持ちが解るか?」

「そうだよね。ごめん。大変だよねクロノも」

「この前夢にまででてきたんだ…… それなのに連絡をすれば文句だったり、子供達はそっけなかったり……」

嘆きと共にテーブルの上に頭が泥船宜しく轟沈していく。確かに、夫婦生活の無い若い夫婦というのは空しさを覚える。
唯一の女を抱けないというのも、男にしてみれば苦痛だ。無論。普段のクロノ・ハラオウンならば一片たりとも漏らさない不満だろうが。
それもやはり酒の魔力か。酒は飲んでも呑まれるな。とあるが人間は脆い。

「でもエイミィさんを裏切らないあたりクロノも優しいよね」

「裏切れる訳ないだろう」

顔が揺れ上目づかい。

「だよね」

「だよねーじゃなくてだな」

あがる顔。
再び始まる話。

「うん、うん」

手頃な相槌が陽気に打たれる。
酔っ払いの大丈夫程信用におけるものはないのか、それともユーノ自身酔っているのか。
それは誰にも解らない。冗談、笑い声、食器の音。注文。周りの席から絶えず聞こえる合奏は心地よい。
枝豆を口に運び、舌上にて踊らせる。

一つ、二つ。
やれ三つ四つと手が伸びる。
酔えば頭は熱くなり思考が鈍くなる。
頼んだ酒がくればまた口づけて、酒の美味さに付け込まれ、酔いは深まる。

普段のクロノならばここまで深酒はなかろうて。
日頃の鬱憤か。はたまた、気を許せる友がいるためか。
顔も赤く酔っているのは一目瞭然だった。

その後も二人は呑み続け、店が閉まる少し前までいたのだが……クロノが呑み過ぎた為、
ユーノの家に泊まる事に。だが、そこにはなのはがいる。

「悪いから帰る」

とクロノは言ったが大丈夫と言ってユーノはきかない。

案外ユーノも酔っていたのかもしれない。一応なのはに連絡をとってから、帰宅することに。

「ほら、クロノ」

「ああ……」

酔ったクロノを抱えるようにタクシーから降りる。
風が程良く吹いては心地よいが、目の前には一軒家がある。

「ほら、後は寝るだけだよ艦長さん」

「ああ……」

酔っ払いの典型だった。そのままユーノは自宅にあがると、なのはに出迎えられる。

「御帰り、……クロノ君大丈夫?」

「ああ……」

珍しいものをみるように。なのはは目を丸くする。

「もうこのまま客室に寝かせちゃうから」

「うん、解った」

「ほらクロノ。後少しだよ」

「ああ……」

単調な返事に苦笑しながら、ユーノはクロノを客室へと運びベッドに寝かせる。
クロノは、楽になると意識を手放しアルコールで火照った体を眠りへと落とした。

「これでよしっと」

一息つく。ユーノは、静かに客室を後にした。
夜は静かに更けていく。梟の鳴き声もないが、クロノは眠りながらも熱い何かにうなされていた。
アルコールではない。別の何かだ。
何度も何度も、唸りながら寝返りを打つ。苦しさから逃れるように。

それでも、熱は消えない。

「…………ん゛」

目覚めると、自分がどこにいるのか全く分からなかった。
暗闇。静寂。静かに聞こえる時計の秒針。まだアルコールも抜けきっておらず、火照りも完全には消えていなかったが
居酒屋を出た時に比べれば、幾分マシに思えた。それでも、酷く喉が渇いていた。

「(水……)」

渇きから逃れたいが為に、水を求めた。
ベッドを這いずり、部屋を出る。部屋同様暗い廊下を壁伝いに歩いて洗面所を目指す途中。
扉が半端に空いている部屋がある事に気付いた。

人様の家だ。中を伺うのもよくないだろうと停滞した思考で考えたが、
中からは身心定まらぬ女の声が聞こえ、思わず足を止めてしまった。

途切れ途切れに、かつ抑揚のない抑えのきいた声だったが魅力的な声だった。
覗くべきか覗くまいか。足を止めたクロノは、己の心臓が早足になっているのに気付いた。
これも体に残るアルコールのせいではあるまい。

「……………」

唇は乾き体に緊張が走るが、周囲の暗闇に負けた。
そっと、部屋の中を覗くと衣服を纏わぬなのはがベッドの上で自慰に耽っていた。
途切れ途切れで、声を抑えて喘ぐその姿は妖しくもあり、美しくもあった。
目が離せない。

みるみる間に股間は勃起し、喉の渇きも忘れなのはの自慰に夢中になった。
今すぐ部屋に入って襲いたい衝動に襲われるが、一抹の自制心に待ったをかけられてしまう。
妻を数カ月抱いていないとはいえ、家庭と友人関係を崩す訳にはいかない。

喉の渇きも顕著だが、胸に植えつけられた熱い感覚も一入。
股間に指を当て擦る姿に魅せられる。
肉付きの良い女が一人乱れているのは、ある種の拷問だ。襲ってしまえ、とも頭の中で浮かんだが
ユーノがちらつき踏みとどまった。

「(…………ッ!)」

強姦はよくない。クロノは音立てぬようにその場を後にすると、洗面所で水をたらふく腹の中に流し込み、
トイレの中で一物を握りしめた。自慰もここ数カ月していなかったが、飢えた獣のように当て擦った。
残るのは荒々しい吐息のみ。

まだ火照る体は、さらに熱くなった気がしたが性欲は抑えられた。
理性を呼び戻し、これでいいと一人納得する。
ばれないように始末をすると、いそいそと客室に戻る。途中、なのはのいた部屋が気になったが、もう扉は閉められていた。
開ける気にはならなかった。

廊下同様暗い客室に戻ると、ベッドに突っ伏し眠りの中へ落ちて行った。
朝まで目覚める事は無かったが、なのはを抱く夢を見てしまった。

翌朝。アルコールもすっかり抜け二日酔いもない快調に目覚める。
リビングに赴くと、なのはがいた。

「おはようクロノくん。よく眠れた?」

「あ、ああ……」

昨夜を思い出してしまい、少しぎこちなくなる。いっそのこと、ユーノがなのはを抱いているところを見られた方が
幸せだったかもしれない。

「朝ごはんもうすぐできるから座って待ってて」

「ありがとう、態々すまない」

「平気平気」

なのはは、いつも通り飄々としている。さすがにアルコールがぬけた状態でいきなり人の女に襲いかかる程クロノも獣ではないが、
なのはの尻を目で追っていた。それ以上もそれ以下もなく。

「おはよう、クロノ。酒抜けた?」

「おはよう。お陰さまで」

ユーノが現れるまで、頭の中は桃尻で一杯だった。
食事を終えるとユーノと共に本局まで出勤し仕事をする。
普段はエスティアの中で生活をしている為サラリーマンに似た行動はある意味新鮮だったが、ある種苦痛が伴った。

なかなかエスティアの調整が終らないのだ。
気にしない人間は気にしないだろうが、いつまでいるの? という眼差しを向けてくる連中も少なからずいるということだ。
人間多様である。そんな煩わしさも普段ならば平気だが、この際だからたまりまくった有給を使ってしまおうとクロノは決断する。
第98管理外世界。

地球の自宅へと赴く。
(一応)土産を手に、実家に赴くと

「どうしたのクロノくん!?」

と、妻に驚かれた。
嬉しいやら悲しいやら、だ。

「ホームシックにでもなったのかい?」

とアルフには突っ込まれ母親であるリンディにはあらあらと笑われる始末。
息子と娘にも顔を合わせると、

「お父さんだー!」

と喜んでくれたのは嬉しいが、適当に本局で買った物販のみやげ品の方が喜んでいたのにはとほほな気分であったとか。
苦笑いの紆余曲折あれど、やっぱり家族はいいものだとクロノは実感する。妻がいて息子達がいて、アルフもリンディもいる。
そういう空間にいると、ホッとするのを実感した。やはり、家族というものは大切なものだ。良いものなのだ。

そんなこんなでクロノの本局生活は続いたが、またある日ユーノと二人で飲む事に。
今度は店ではなく、最初からユーノ宅で飲む事に。悪いから、と最初は断りを入れたがユーノがいいからいいからと押し切った。
今回は前回のように潰れるまで飲まない、と誓ったが、気付いた時には前回とまったく同じ状態になっていた。

「(僕はこんなに酒が弱かったのか……?)」

ぐわんぐわんする頭で考える。リビングで、ユーノも潰れている。
キッチンで水道水を貰い、一息つく。そういえば前回は、ここでなのはが自慰を……と思い出した時。
ある考えが浮かんでしまった。

”変身魔法を使って、ユーノに化ければなのはとできるかもしれない”

「(いや、いやいやいやいやいや……!)」

なのはだって一流の魔導師だ。そんな事をしてばれないはずがない。
酔っている、と思いながらクロノは帰ろうと思ったが、もう時刻は零時を回っている。
転送ポートは深夜帯は稼働していないし、緊急時以外での私用の転送魔法は管理局法に引っかかる。

仕方なく、なのはに許可をもらおうと部屋に赴く。律儀な男だ。そして、もしなのはが寝ていたらリビングで雑魚寝させてもらおうと思ったが……
以前同様扉が半端に開いていた。期待と興奮と色んなものが織り交ざる。恐る恐る、中を覗くと、再びなのはは自慰に耽っていた。
そして

「クロノくん、クロノくん!」

自分の名前を呼びながら乳房をもみしだき、クリトリスをいじる姿に我慢はならなかった。
卑屈にも変身魔法で姿をユーノに変えると、バインドでなのはの視界を潰し、そのままなのはを抱いた。
背徳感の赴くままに、クロノはなのはを抱きユーノは静かに眠っていた。

2.

人生の汚点、とも言うべきか。クロノはなのはを抱いた事を墓場まで持って行く事にした。酔った勢いとは恐ろしい。
幸い、なのはにもユーノにも気付かれずに終わったようだが、自分を律するべくもう当面は酒を飲まないと決めた。
そしてユーノにも飲みに行かない事をクロノは誓った。本局でまじめに仕事に取り組み、堅実実直たるクロノ・ハラオウンを演じていた。

無難な日々をやり過ごすと、もうすぐ妻であるエイミィの誕生日を思い出した。こういうイベントを逃すと、妻や義妹から
こっ酷くお小言を頂く羽目になる。仕事が終るとちゃんと買い物にでかけ、帰路につくさなかエイミィに連絡をとる。
誕生日ぐらい、二人で食事を。と思った次第。連絡をとると、直ぐにエイミィは出た。少し乱れた吐息で。

「はっ……く、クロノくんどうしたの?」

「すまない、今は大丈夫か?」

「う、うん……平気だよ……?」

「そうか。来週の4日は君の誕生日だから、一緒に食事をと思ったんだけど都合は大丈夫か?」

「うん……へ、平気ー……た、楽しみにしてるよ……つ」

「僕も楽しみにしておく。それじゃ」

「ま、まったねー……」

そこで通信は終った。特に呼吸が乱れていたのを聞かなかったが、風邪かな? と考えた瞬間。嫌な考えが脳裏を走った。
つい最近、聞き覚えのある吐息をクロノは耳にしていた。なのはを抱いた時だ。息をおさえるようにしながら喘ぐその姿に
無性に興奮したのも他でもない自分だった。股間がむずむずするのも嫌だったが、エイミィが、誰かに抱かれながら連絡している姿を考えると、
死にたくなった。

「(ああ……っ)」

もう二度と浮気すまいと誓うクロノだった。
が、やはり浮気疑惑は消えなかった。あれは少し動いた後だから呼吸があがっていただけ。風邪気味なので声が変だっただけ。
この前自宅に行った時もそうだった気がする。あれは、後ろでアルフが笑わせようとしていただけ……息子達が笑わせようとして頂け。

「…………」

希望的観測が次々と立ち上がっては消えていく。自分がつい先日不倫をしたばかりなだけに不安だった。それまでのクロノ・ハラオウンは
堅実実直で浮気などありえないと言い切る事はできたが、酒の力とは恐ろしいものだ。今でも戻れるものならば、なのはを抱かずにやりすごすだろう。
過ちはやはり過ちでしかない。エイミィに直接聞くべきであったが、それを実行する勇気はクロノには無かった。

「(仮に浮気をしててもいい)」

なんて建前の言葉を浮かべても駄目だった。クロノ以上に。エイミィは女なのだ。
そう考えるとどうしようもない。悶絶の日々が始まった。

「……ハラオウン艦長どうしたんだ?」

「さあ、何か考え事じゃね?」

「そか」

周囲からみれば、そんな感じだった。結局、浮気じゃない。浮気をしているの考えがぐるぐると脳裏を巡りどうしようもなかった。
こんなところでチキンハートが目覚めてもしょうがないというに、さんざ迷った末、エイミィではなくアルフに連絡をとってそことなく聞いてみる事に。
これが仕事ならば、もっとスマートな対応もとれただろうに。不穏を胸に抱き、連絡を取る。

「あいよー、どうしたんだいクロノ?」

回線を開くなり、ひょうきんというか。陽気で普段どおりな声でアルフは出た。生憎と、それで安心するクロノではない。

「あ、ああ……すまない。ちょっと聞きたい事があったんだ」

「あたしに? うーん解る範囲だと嬉しいなぁ」

「大丈夫だ」

自分で言っておきながら自分で言い聞かせるような感じだった。腹の中に厄介な塊を抱えながら、いざとばかりに尋ねてみる。

「最近、エイミィに変わりはないか?」

「エイミィ? んーないねぇ。何だい浮気の心配かい?」

けたけたと笑うアルフに、笑えない心境だが苦笑いをしておく。

「ちょっと違う……何もないなら、それでいい」

「ああ、でもユーノとはよく会ってるかなぁ」









「え?」

「え?って何だい。ユーノだよユーノ。よく子供達用の本を借りたりしてるからさ。
二人で食事もいったりしてるのさ。リンディが子育ては疲れるからーって」

「あ、ああそうか」

「心配し過ぎだね、あんたもさー。っていうかユーノは結構前からだし
うちにきてご飯もたまーに一緒に食べてるよ」

「そ、そうだったな……」

これまた適当に笑ってやり過ごしておく。
なのはとの夜が脳裏を掠める。適当な話で区切りをつけて通信はきる。もしも、ユーノがなのはを抱いた事を知っていたら……?

「(いや)」

それはそれでおかしい。記憶を掘り返すと確かにユーノの話はでてきたような気が(した)。
大丈夫……と思いながらも、どうしても疑心暗鬼は消えてくれなかった。自分がこんなにも狭量だとは思わなかった。
他人を抱いた自分を、クロノは殺してしまいたかった。戻れない夜は過酷だ。

結局、不倫調査を海鳴の人間に依頼してしまった。
これで白ならば何もいうまい。エイミィの誕生日にこれでもかと祝おう心に決め、黒ならば
考えたくなかった。どうするかは、その先に決める事だと考えることを放棄した。連絡自体は割とすぐに来た。
海鳴の喫茶店で合い、結果報告を受けるのだが。

「資料はここに」

とだけ残して探偵の人間は去ってしまった。料金は先払いなので気にしなくていいが、恐る恐る。
テーブルの上のファイルを手にとってクロノは眺めた。
腹の中の淀みは、掻き廻される気分だった。

エイミィが、男と手を組みながらラブホから出てくる写真が何枚も出てきた。
黒だった。しばらくの間その場から動けなかった。

それでもクロノ・ハラオウンは人で生きている。
脱力した体で喫茶店を後にすると本局へと戻り執務室の椅子にどっかりと腰を下ろした。
これが夢であればどんなに嬉しいか。
離婚か。
それとも知らぬ存ぜぬを貫き通すか。
話し合うべきか。

息子と娘は本当に自分の子供なのかと疑いたくなってくる始末だった。
案外、知らなければ良かった事実だったかもしれない。

「…………………」

そうであれば、幸せであったろうに。
知らない男の種で実った他人の子供を育てている。そう考えると、不気味さと吐き気が現れてどうしようもなかった。

「……ん?」

丁度、光学端末から連絡のサインが入る。仕事用だった。
相手は、ユーノ。他の人間ならば無視しかねない状況だがとにかくでた。

「はい」

「あ、……ってうわ。凄い顔。大丈夫?」

「ああ……平気だ」

「無理って言いながら平気って言ってる感じだよクロノ。
体調悪いなら無理しないでね」

「君に心配されるとは世も末だな」

「酷いよ、それ。で、悩みがあるなら聞くけど?」

「いや……」

大丈夫、と切り返そうと思ったところでクロノは戸惑った。
本当にこいつに話して大丈夫なのか……? と思ったのだ。

「気にしないでくれ、体調も悪くはない。ちょっと考え事をしていただけだ」

「そっか。何か迷ってるなら、その大本のところにいくといいよ
あ、それで仕事の話なんだけど……」

そこからは本当に仕事の話だったが、ユーノのアドバイスはクロノの心に残った。
おおもとのところにいけばいい、ということはエイミィとちゃんと話せばいいということだ。
いくら逃げても、終りじゃない。ただ逃げてるだけなのだ。

よしと意気込むと、クロノは直ぐに行動に出た。
早々に仕事を終わらせると、花を買い海鳴に赴いた。が、家には誰もいなかった。

「………………」

伽藍としている。
息子達も、アルフも母もエイミィもいない。丸ごといない。
攫われたのか、という心配がよぎったが、カレンダーを見るとみんなでお泊り! と書いてあった。
落胆するクロノだった。

嬉しいやら悲しいやら空しいやら。なんともいえない気分だった。
既に時刻は夜。せっかく家にまで来ているのだから一泊することにした。
風呂に入り、冷蔵庫にあるもので簡単なものを作ってからベッドに……潜る前にある事を閃いてしまった。

「…………」

エイミィの品物を漁る、ということだ。本来やってはいけないことだが
この家で誰もいないという状況は酷く珍しい事だ。ましてや、エイミィにも言ってないのだから
品物を隠している筈も無い。(一応)二人の寝室をあさるも何も出てこない。予想外だ。

「……………」

次はどこを探す? リンディの部屋? アルフの部屋? 子供達の部屋? なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。
キッチンに赴きビールを取り出すとプルタブをきって酒を流し込む。禁酒の誓いはどこへ行ったのやら。
一本二本と勢いよく開けていき、結局10本近くあけてからふらふらと自室へと戻る事にした。

途中、物置になっている部屋でぴたりと足が止まる。
今日来てから、というよりもここ数年入っていないかもしれない部屋だ。

もしかしたら……? という疑念からクロノは中へと入った。
真っ暗とほこり臭さが少し鼻についた。手さぐりで照明をつけると、
整理されて物が置いてある。別段、へんなものは何もないがこの世界特有の記録媒体(DVD)を見つける。
何も表記はされていない。

「……………」

疑心暗鬼とは恐ろしい。それを数本手にしてままリビングに戻り再生してみることにした。
何も写ってくれなければそれでいい。そうであってほしい。もう浮気の証拠は掴んでいるのだ。
そして、真っ暗な画面が明るくなると写ったのはエイミィではない。

リンディだった。

”ドキドキしますね”

”そうね”

そしてそこはラブホテル。でも、リンディの他に聞き覚えのある声がした。

「……!」

手は停止ボタンを押していた。母が誰に抱かれようと母の勝手だ。いくら身内だろうとそれは母の自由だ。
そう思いながらも股間を膨らみそうなクロノは自己嫌悪した。次のdvdをいれて再生する。

”ねえ、エイミィさん”

”ん? なーに? ユーノ君”

”今日ゴム無しでいい?”

”えー危ない日近いんだけどなぁ”

”大丈夫”

”駄目だよそれはぁ”


「…………………」

ユーノ

だった。

そして先の母のビデオもユーノの声だった。間違いない。
先のビデオも明るいホームビデオと思いたかったがラブホでそれはないだろう。
やってることはやってるだろう。

頭がパンクしそうになるのをこらえた。
もう酒を飲む気にはならない。酔いも感じなくなっていた。
頭を手で抑えたまま無言になる。
呼吸は乱れていないが…… とにかく、後始末をしてクロノは家を後にして本局へと戻っていった。
自宅にいるのは耐えきれなかった、とも言う。

本局の自室に戻っても眠れる事は無かった。
シャワー何度浴びても悪夢はさめてくれない。気づいたら朝を迎えていた。
仕事のはじまりだ。気持ちはやるといっても眠っていない体は素直にうんとは言ってくれない。
矛盾にやや苛立ちながらも、仕事をしていると昼ごろに知人からメールが入った。


”to:大丈夫?”


件名は何だ、と思ったクロノだがメールを開くとネットワークアドレスのリンクがはられ、
接続するとなのはとクロノの情事が映し出された。なのはには目線モザイクとやや声モザがかかっているが……

”局内で噂になってるよ?”

「…………」

ならばどうしろというのだ。もう何もかもが支離滅裂な気分だった。
でも仕事をする辺りクロノ・ハラオウンだったが、トイレに赴いたり用件で執務室をでて誰かとすれ違うたびに

あっあの人は!

という目で見られる。鬱陶しい事この上ない。
やはり苛立ちまじりに仕事をしていると、しらないアドレスからファイル送信がかかる。
受信早々削除、と思ったが動画ファイルの二つ追加。とあって指は開くを選択していた。

ユーノ


ユーノ
ユーノ
ユーノ
ユーノ

「…………………」


”クロノみてる? 今エイミィさんとやってるんだー”

”あっ…クロノくーん気持ちいいよぉ! ユーノくんの最高だよ!
もうお腹の中にユーノくんのあかちゃんいるのぉー!」

”リンディさんも良かったよ。でもババァだからスクライアの生み道具にさせてもらうね
あ、それと君の息子と娘ももらっといてあげる”


直ぐ消すと二本目の再生が始める。

”パパは何してる人?”

”解りません”

”パパには内緒?”

”はい。パパは僕達に仕事を教えてくれないので僕達も内緒です”

ユーノではないが、知らない男と女と息子達が絡んでいた。
不思議と、最後までみるとアダルトビデオを発売している会社名までしっかりと出ていた。
ミッドにある社名が。

再生を消す。


無気力だったが、動画の終了と共に文章ファイルが展開される。目が自動的に追いかける。
○月×日 ハラオウン宅へ。最初はやっぱりエイミィさんにしよう。
     次にリンディさん。小まめにエイミィさんと連絡をとるよう心がける。
○月□日 食事に誘った。感度良好。
○月○日 放っておいてもむこうから連絡がくるようになってきた。面倒が減って助かる。

エイミィ、リンディ、子供達に接触をはかったという日記だった。順々に書かれている。
最初は単調だが、次第に抱き始めると中出しした。どんなプレイをしたと書かれている。
生理を把握し、危険日にはしっかり中出しし、二人とも妊娠したとも書いている。

そうか。

あの物置にあったDVDは全て、身内のハメ撮りか。
しかも最後のは割と最近だ。エスティアが本局にとどまるかなり前から日記はかかれている。

妻も、母も、そして子供達までとられた。
もう、エイミィに尋ねる気力は残ってなかった。離婚という答えもなかった。
何も考えず蟻のように働く事を、クロノは選択する。髪は白髪が増え皺が刻みこまれた末の事。


クロノは死んだ。
クロノはエスティアのドッグで死体となった。
飛び降り自殺、という名目となっているが。
真相はさだかでない。

「ねぇ」

「ん?」

「お腹にね、クロノくんの赤ちゃんがいるんだ」

「それで?」

「HIVにも感染してるんだ」

「そっか。大変だねなのはは」

肩に手を置いて。
ユーノは笑った。
他人事のように。
何事もなかったように、去っていく。
惜別の想いで見送るなのはは、通信が入ったのを見てオンにする。

「はい」

「あ、なのは……」

フェイトだった。
今は誰とも話したくない気分だったが先を促す。

「どうしたのフェイトちゃん?」

「ごめんねなのは……落ち着いて聞いてね」

「ん……?」

「あのね……今海鳴にいるんだけど、桃子さんの行方が解らないんだって」

もう一度ユーノが去っていった方向を見た。
しかし、もう姿はない。

「なのは?」

フェイトの心配の声がかかる。そっと瞼を落とした。

「落ち着いてなのはっ」

何度も何度もフェイトの声がかかっているのを聞きながら、自分の母はスクライアで輪姦でもされているのだろうと
思った。なんで、何故あんな男を愛したのか自分でも答えはでないなのはだった。





鬼落とし 了。


著者:サンポール

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