496 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2009/09/17(木) 00:25:49 ID:i6/mDVG6
497 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2009/09/17(木) 00:26:24 ID:i6/mDVG6
498 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2009/09/17(木) 00:26:55 ID:i6/mDVG6
499 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2009/09/17(木) 00:27:27 ID:i6/mDVG6
500 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2009/09/17(木) 00:27:58 ID:i6/mDVG6
501 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2009/09/17(木) 00:28:33 ID:i6/mDVG6
502 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2009/09/17(木) 00:29:40 ID:i6/mDVG6

 絶え間ない違和感が、フェイトの身体を覆っていた。
 もう、その原因はわかっている。
 世界そのものが異なるのだ。違和感を感じない方がどうかしている。

 そして――
 世界が消えていく。
 母さんのいた世界が。
 姉さんのいた世界が。
 リニスのいた世界が。

「さよなら、フェイト」

 フェイトは目を覚ました。
 そして、違和感が消えたことを知る。

 違う。この世界は違う。
 自分の中の何かが告げる。この世界は違う世界なのだと。
 限りなく優しく、限りなく温かく、そして限りなく異なる世界。

 それが、ついさっきまで存在していた違和感。

 優しい母のいる世界。
 元気な姉のいる世界。
 決して存在してはならない世界。
 とても存在して欲しかった世界。

 それが、ついさっきまで自分のいた異世界。

 闇の書の幻により生み出された世界。自分の中の記憶と願望により生み出した世界。
 
 世界は消えた。自分は幻の誘惑に打ち勝った。

 フェイトは、なのはの姿を探していた。
 なのはがいてくれたから。
 なのはが名前を呼んでくれたから。
 だから、自分はこの世界に帰ってくることができた。
 だから、なのはの姿を探す。

 闇の書を倒し、はやてを救う。それが今のなのはの望み。そして、なのはの望みは自分の望みでもある。





 ……強いな。
 ……ええ、思ったより障壁は強いようですね。
 ……レベルを上げるとどうなるかね?
 ……フェイトお嬢さまに恒久的な障害が残る可能性があります。
 ……ふむ。肉体的な障害かね?
 ……それならば、ドクターの前では何の心配もないでしょう。しかし、この場合は精神的な障害です。
 ……ああ、それは少々困る。仕方ない、もう少し様子を見ようか、ウーノ。
 ……はい。ドクター。





 フェイトは、どこからか聞こえてきた小さな声に耳を澄ます。
 ドクター?
 ウーノ?
 一体誰なんだろう……。
 心当たりなど……いや……これは……
 違う。何故自分はそんな名前を知っているのだ。

 無限の欲望
 ナンバーズ長女
 
 どこからそんな言葉が出てくるのか。
 どうしてそんな言葉を知っているのか。

「フェイトちゃん!」

 なのはが呼んでいる。そうだ、じぶんはなのはに必要とされている。それ以外、何が重要だというのだろう。

「なのは! 今行くよ!」

 ……本当に?

 疑惑がフェイトの足を止める。
 自分はなのはに呼ばれている。本当に?

「フェイトちゃん、どうしたの?」

 闇の書の夢から抜け出したところ?
 そう、闇の書の見せる幻から抜け出したところ。

 ただし、二回目。
 すでに闇の書はない。ここにあるのは、いや、はやてが所持しているのは闇の書ではない。
 リインフォースもいない。そこにいるのはリインフォースツヴァイ。
 この世界そのものが見せかけ。
 この世界は、フェイト自身の記憶から捏造された偽りの世界。
 だから、フェイトはドクターを知っている。
 ドクターと呼ばれる者の正体を。
 ウーノと呼ばれている者を。
 ならば。

 ……ドクター、精神活動が異常活性しています
 ……面白い。外部からの干渉に堪える精神力か。リンカーコアから力を引き出しているのか?
 ……AMF濃度を上げますか?
 ……いや、私も見てみたくなった。フェイト嬢の精神力とやらを。
 ……では、トーレとセッテに待機させます
 ……用意がいい。さすがウーノだね
 ……ありがとうございます。

 夢だ。
 これは幻の世界、と自分に言い聞かせる。
 あの時、闇の書の呪縛から抜け出した自分なら。
 今も同じ。きっと、なのはが待っている。エリオが、キャロが、はやてが、シグナムが。
 だから、抜け出してみせる。
 スカリエッティの作り出した世界から。
 この世界を脱出する。幻を破壊し、現実を構築し、再帰する。

 ……面白い。これほどの抵抗値を示すとは。さすがは、あのプレシア・テスタロッサがその叡智を懸けて作り出した存在、と言うべきかな?
 ……ドクター、このままでは理論計測値を超えます。
 ……そこまでか……。仕方ない、

「フェイト……ちゃん?」

 なのはが呆然と自分を見ている。
 フェイトは微かに胸の痛みを感じていた。それでも、そこにいるのは幻影のなのは。
 アジトに潜入した自分を捕らえたスカリエッティが、自分の記憶から構築した幻影。  
 少しずつ戻り始めるフェイトの記憶。
 はこぶね破壊に出向いたなのは。
 スカリエッティ逮捕に出向いた自分。
 そして、トーレとセッテを相手取り、いったんは勝利を収めるものの、ルーテシアと闘うキャロとエリオの姿に注意を奪われ、捕らえられてしまった。
 それが、今の自分。
 スカリエッティに幻覚を見せられているのだ。その理由は未だわからない。
 しかし、闇の書と対峙した際の記憶を微妙に改竄されているところを見ると、偽りの記憶で自分を操るつもりなのかとも思える。

 ……無駄だ

 とフェイトは呟く。
 偽りの記憶など、真実の前では色あせる。どれほどの甘言に溢れた世界であろうとも、現実の前では色褪せるだろう。
 幻は現実に敗れる。それはすでに、過去の自分たちが証明してきたことではないか。
 だからこそ、フェイトは目前のなのはを黙殺した。

「フェイトちゃん?」

 なのはではない。どれほど似ていたとしても。それはなのはではない。
 フェイトはも、微かに心に浮かぶスカリエッティの声を探していた。
 まるでノイズのように薄く、ランダムに発生しては消えていく言葉。それが現実の言葉。

 ……気付くのは、時間の問題かな。
 ……どうされます? ドクター。
 ……ナニ、気付いたところで拘束している事実は変わらない。慌てる必要はないさ。

 今にもかき消えそうな囁き声ほどの音量に、フェイトは精神を集中する。
 自分の中に生み出す、確固とした指標。

 ……私は、私の世界に。
 ……私のいるべき世界に。
 ……私が厳と存在する世界に。
 ……導となる錨を撃ち込む。
 ……確固たる我のある世界。
 ……導き、固着せよ。
 ……世界へと。
 ……我の世界へと。

 一瞬、フェイトの瞳に映るなのはの姿がぶれた。まるで、壊れかけたディスプレイの映像のように。
 フェイトはその現象に意を強くする。
 
「フェイイイイイイトトトトトトちゃああああんんん」

 音声までがぶれはじめ、フェイトは嫌悪に表情を歪める。

「フェイト・テスタロッサ! 君は自分が何をしているのかわかっているのか!」

 なのはの姿に重なる白衣の男。
 ジェイル・スカリエッティ。

「やめたまえ! 君はわかっていない! これは、君一人の……」

 ぶつん、という音が聞こえたような錯覚。それとともになのはの姿が消え、周囲の景色も消えていく。
 フェイトは身構えた。
 そこにいるのはナンバーズウーノとスカリエッティのはず。
 二人を確保し、すぐにはやてに連絡しなければならない。

 ……否
 ……否

 心の中の錨が唱える。ここは自分の世界ではないと。もっと確固たる世界があるのだと。

 否!
 否!

 心は叫ぶ、ここは違うと。

 もう、闇の書との戦いは終わったのだ。今は、ナンバーズとの戦いなのだ。

 否!
 否!

 心はさらに叫ぶ。
 フェイトは心の叫びに戸惑う。

 否!
 否!

 何故、否定する? ナンバーズとの戦いを否定する?
 ここが自分の世界ではないのか。
 ここは、自分の世界ではないのか。

 否!
 否!

 風が吹いた。
 フェイトは目を閉じる。

 ……嘘だ。

 吊り下げられた腕が痛む、それでも、痛めつけられた身体の各所の上げる悲鳴の前では腕の痛みなどは些少なことだろう。

「貴方は、どうして私を失望させるの?」

 お母さんがいる。プレシア・テスタロッサが。

「フェイトぉっ!」

 アルフの叫びが聞こえる。

「何をぼうっとしているの? 人の話を聞いているの? それとも考え事!?」

 ああ。
 いっそ懐かしい想いに、フェイトは笑い出したいのを堪えた。
 ここは時の庭園。そして、母親に折檻を受ける自分。
 闇の書事件のさらに前。どうして、こんなところまで。
 さらなる、幻覚なのだろうか。
 こことて、自分の世界ではない。

 否!
 否!

 ほら、心が叫んでいる。
 ここは自分の世界ではないと。

 ここは違う。

 否!
 否!

 そして、闇の書との戦いも違う。

 否!
 否!

 ナンバーズとの戦いは?

 否!
 否!
 否!
 否!

 一体、どれが幻影なのか、何処が真実なのか。
 全ての世界に、フェイトの心は否を唱えている。

 戻らなければならない。
 自分の世界へ。
 自分の本当の世界へ。

 否!
 否!
 否!
 否!
 ……

 否定が止まる。
 ああ、ここが自分の世界。
 幻影を全て失った自分の世界。
 本当の自分の世界。
 幻影を見せていたのは……

 全てに気付いたときには、悲鳴を上げることすらできなかった





 研究室に入ると、使い魔のリニスがモニターを睨みつけてゲームをしていた。

「また、そんなことやってるの?」

 言葉とは逆に、プレシアの表情は笑っていた。

「あら、また培養モニターの方に繋いで遊んでるのね」

 プレシアは、モニターに映っているゲームに目を向ける。そこでは、魔道師や半機械の戦闘員が画面狭しと闘っていた。
 画面に「スカリエッティ」「ナンバーズ」「なのは」「アルフ」などと書かれているのは使用キャラの名前だろうか。

「ああ。すいません。しかし、こちらの方がモニターが大きいのです。それに、定時のチェックは怠っていません」
「この部屋の管理は貴方に任せているから、やり方に口は出さないわ」
「ま、培養ポッドを弄らなければ構わないけれど」
「勿論です。ですが」

 リニスが笑った。

「この者にもゲームくらいさせてもいいかもしれませんよ? お嬢さまのお役に立つという任務を果たしているのですから」
「自意識もない、ただの献体に?」
「冗談ですよ、プレシア」

 そこにあるのは、娘アリシアのクローン体。一応脳はあるが、機能はしていないはず。
 病弱な娘のために、臓器パーツの提供元として母親が製造したクローンの身体。
 戯れに「フェイト」という名前を付けられたそれは、いつものように培養液の中で静かに浮いている。

「……これも、夢を見たりするのかしら?」

 プレシアは誰にともなく呟くと、実験室を後にした。


著者:野狗 ◆NOC.S1z/i2

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