125 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2011/01/03(月) 00:31:36 ID:JyayV.OM [2/5]
126 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2011/01/03(月) 00:32:18 ID:JyayV.OM [3/5]
127 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2011/01/03(月) 00:32:54 ID:JyayV.OM [4/5]

 つかつかと、ラボから培養庫へと続く廊下を歩くスカリエッティ。

「ウーノ、ガジェット製造ライン3から6までの起動準備を。それから、第二次製造分ガジェットの最終チェックは予定通り明朝0700より開始する」

「最終チェック準備はできています。それから、明日はノーヴェ、ウェンディ、ディエチの定期検診の予定ですが」

「スポンサーからは何か?」

「表向きは何も。加えてドゥーエからの連絡もありません」

「では我々の予定に変更はない……ああ、いや、定期検診にはセインも加えてくれ。時間のある内に前倒ししておこう」

「調整します。助手はいつも通りでよろしいですか?」

 手伝うのはクアットロ、あるいはウーノかチンクになる。

「ああ。それからもう一人だ」

「もう一人……ですか?」

 ウーノはスカリエッティの言葉を繰り返すと、振り返って視線を背後に向ける。

「……お手伝い」

 スカリエッティの予備の白衣を拝借し、裾をずるずると引きずりながらついてきているのはルーテシアであった。

「ドクターの……お手伝い」

「ふむ。なかなか将来有望な助手だよ。そうは思わないかい? ウーノ」

「そうですわね」

 ウーノは思わず微笑んでいた。
 ぶかぶかの白衣を被るようにして、真剣な顔で歩いているルーテシアの姿はとても愛らしい。

「きっと、いい助手になりますわ」

「ふふ、どうだい? ルーテシア。君はついに、私の最高の片腕にお墨付きを得たようだよ」

「……頑張る」

「それは心強いね」

「……ドクター?」

「なんだい? ルーテシア」

「……手は、二つあるの」

「ああ、それがどう……」

 どうしたんだい、と言いかけて、スカリエッティは笑う。

「そうか。ウーノが片腕なら、君は残った片腕というわけかい?」

 頷くルーテシア。

「その意気や良し、だよ。まったく、君には驚かされるよ」

 そして、その姿を見ている眼鏡、もとい視線が二組。 

「何をやっているのかしら、あのお嬢ちゃんは」

 三人のいる通路には、非常用の監視カメラが設置されている。
 管制室でそのモニターを眺めているのはクアットロ。そして彼女に従うようにディエチが。
 いつものように上から目線の口調だが、ディエチには微妙なニュアンスがわかる。
 今のクアットロは、苛ついているのだ。

「あんな所で遊んでいるなんて、ドクターのお邪魔じゃないのかしら。困ったモノだわ」

「ルーテシアお嬢さまは、ドクターを手伝っているんだよ」

「お手伝い?」

「うん。ウーノ姉さまがそう言ってた」

 ウーノ、ドゥーエ、トーレ。この三人姉さまの名前を出せばクアットロは静かになる。なんだかんだ言っても、クアットロも姉に真っ向逆らったりはしない。

 あとは、場合によってはチンクの名前も有効だろう。
 ディエチの発見した、クアットロ操縦法だった。

「お嬢さまが手伝うくらいなら、私が手伝った方が効率良いわよねぇ? ディエチちゃん」

「クアットロは、忙しいから。ドクターも気を遣っているんだよ」

「ドクターが? この私に」

「うん。ドクターはクアットロのこと、ちゃんと見てるから」

「それなら……別に……その……いいんですけれど……」

 あまりにも希少な、この場にノーヴェやウェンディ、セインがいれば卒倒しそうなクアットロの反応。これを知っているのは三人姉さまとチンク、そしてディエチだけ。
 さらに、間近で見られるのはディエチだけ。なかなかにレアなのだ、デレたクアットロ、略してデレットロは。

「だから、私たちはこっちの作業を続けよう」

「そうねぇ。ディエチちゃんもたまには良いこと言うわ、ドクターの期待に応えるべきよねぇ」

 いそいそと、モニターから離れるクアットロ。
 ディエチはそれに従うように歩を進めようとして、一旦足を止め、モニターに目を向ける。
 そこには、いつの間にかルーテシアを真ん中に挟んで歩いているドクターとウーノが。
 ルーテシアは、両手をそれぞれ繋いで歩いている。

「まるで……」

 言いかけて、ディエチは口を噤む。
 ナンバーズである限り、きっとそれは許されないだろうから。
 だから、ウーノにとってもそれは夢。
 ドクターにとっても。
 勿論、ルーテシアにとっても。
 けれど……夢を見ることは出来る。それがわずか一瞬でも。

「ディエチちゃん、行くわよ」

「うん。今行くよ」

 ディエチはクアットロへと歩く。もう、足は止めない。
 クアットロとは違った意味でディエチは、ウーノを少しだけ羨ましく思っていた。


著者:野狗 ◆NOC.S1z/i2

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