物語は、もはやそれ以上は語るまでもない安定状態に至って終わり、読者や観客に引き渡されなければなりません。この終わるという条件のために、物語には、二つの基本型しか存在していません。
ひとつは、ロマン型。場違いな主人公が、紆余曲折の末、その落ち着ける場まで流浪する、というもの。この型は、歴史的にも古く、おうおうに長編になります。このため、小説やマンガ、テレビドラマなどでは可能ですが、上演時間の限られている映画では困難です。内容的には、現実批判的になります。
もうひとつは、ノヴェル型。日常の中に事件が起き、解決して日常に戻る、というもの。幕間小劇から発展し、近代に主流となった型で、そのほとんどが中短編です。物語は、時間も場所も限定的であり、小説のほか、マンガやテレビドラマ、映画など、読切や単発のものがこの型を採ります。日常回帰をめざすことからも、現実肯定的、保守的、小市民的な傾向があります。
ロマン型、ノヴェル型、ともに、その冒頭において、安定状態としての結末が宣言されなければなりません。その到達が、読者や観客への物語の引き渡し条件となります。ロマン型の場合、その場違いな主人公によって、その主人公にふさわしい場を見いだすことが結末となることが宣言されます。同様に、ノヴェル型の場合も、冒頭の状態への回帰、すなわち、事件の拡大の停止と日常の最善の回復が結末となります。
しかし、同時に、冒頭において、容易に結末条件には至りえない障害条件も課せられます。ロマン型であれば、その主人公にふさわしい場などどこにも無い、と思われるくらい、主人公は極端に風変わりでなければなりません。ノヴェル型の場合も、容易には解決しえないような複雑な事件が悪化し続けるのでなければなりません。
言わば、ロマン型は、主人公の存在そのものが事件です。しかし、事件である主人公を消滅させるのではなく、場の方を変えます。主人公を受け入れるように周囲が変わるのであれば、時と場が同一でも、ノヴェル型ではなくロマン型です。一方、ノヴェル型は、問題や問題である人物の消滅や追放によって事件を解決します。
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