19 :タイツの人:2006/12/01(金) 18:33:58 ID:RibvW2lf
「俺はタイツ!真理の扉をこじ開ける者!今日も平和の代価を払うべく敵女(犠牲者)を求めさ迷うぜ!」
満月の夜、繁華街を少し離れたビル街にある小さな公園で男が叫んでいる。
採石場の一件から半年。再び日本に舞い戻っていた全身タイツの怪しい男はあいも変わらず正義者気取りだった。
女戦闘員の気配に引かれ、寂れた公園にやって来たタイツは全ての感覚を総動員して犠牲者じゃなくて女戦闘員を探し回った。
しかし…彼の前には一匹の猫がいるのみ。「あれ?」と思うタイツの前で、夜の闇に溶け込むかのような黒猫が頭を撫でている。
「ぬぅ。当てが外れたか。それはそれとして、ぬこカワイイよぬこ(*´Д`*)」
本来の目的を隅に追いやって猫相手に遊ぼうとするタイツ。と、彼の背後から煙草の臭いが漂ってきた。
タイツの仲間である聖石戦士いわく「外で吸いにくくなる一方の世の中、自室が一番気兼ねなく吸える場所だ」と言う。
ちなみにそいつは随分前から携わってきた任務にピリオドを打ち、その時知り合った娘と結婚するのだという。
実に羨ましい。俺なんか会う女がみ〜んな戦闘員だから宿命に従って屠ってばっかだぜ。いいなぁ〜。
フ〜ッ、再び煙草の煙。今度は直接吹きつけられた。流石に、臭う。
「…って、誰だァーッ!」
物思いに耽るのを止め、背後の怪しい気配に振り向く変態タイツ。その声に驚いたのか、猫が猛ダッシュで逃げていった。
『敵女の気配を追って猫にたどり着くとはねぇ』
後ろには女が立っていた。厚ぼったいトレンチコートの下に黒のレディーススーツという…銭形のとっつぁんみたいな井出達だ。
どこかで見たような灰色の髪は胸まで伸ばしっ放しにしている。顔立ちは美しく、左眼を覆う眼帯が更にアンバランスな美を醸し出す。
開かれた右目の色は黒く、暗い。よく研磨された黒曜石を思わせる。鼻は高くすらりとしている。明らかにアジア系の顔ではなかった。
その黒い瞳がこちらを見据える。見下すかのようなその姿勢にタイツはむっとしたが彼女は無視して口を開く。
『貴方のアンテナも錆びついたようね…クスクス…おバカさぁん』
その口から発せられた言葉はやはり軽蔑が色濃く出た冷たいものだった。タイツはますます機嫌を悪くした。
「無礼ってレベルじゃねぇぞ!何者だッ!」

『"血風"のクリスタトス』…女は氷のような冷たい声音でそう名乗った。

その頃―――――

今日も一日の仕事が終わった。夜の街を行く会社員風の女――ミユキは疲れた顔で帰路についていた。
採石場で死にかけた彼女もまた、日本に帰ってきていた。"組織"からの追っ手もなく、今は職場に復帰している。
職場といっても"組織"ではない。世を忍ぶための仮の生活である事務員の仕事に戻っているのだ。
(今日はお腹空いたな。あのバカも最近見ないし、ブロフェルドと一緒にラーメン食べに行こうかしら)
気だるい面持ちでそんなことを考えていたら、不意に声をかけられた。
「ねーねー。そこのお姉さん〜」
そいつは馴れ馴れしい口調でこちらを呼んでいる。最初は何らかの―下らない部類の―勧誘かと思い気だるい印象を受けたが、
無視すると五月蝿い手合いかも知れない。仕方ない。適当に相手して手っ取り早く済ませ――…
『ブロ姉(ねぇ)は元気?』
「え?」
完全に振り返る前に意外な名前が飛び出した。それは彼女の家に居候している自称・妹の名だ。
パッと振り向き終わってみるとそこには声で感じた印象と同じ、ちょっと馬鹿そうな小娘がいる。見た目は高校生くらいか。
よく街で見かける"今風の"格好の女の子だ。細い指の全てに何らかのネイルアートが施されていて、ラメの部分が派手に光っている。
「…誰よ貴女」

『"烈火"のスカラマンガ』…パッと見、頭の悪そうな小娘は馬鹿っぽい口調を改めてそう名乗った。



20 :名無しさん@ピンキー:2006/12/01(金) 23:26:20 ID:BbbgzM1c
コートの女は煙草を吸いながら楽しげにタイツの格好を観察している。
上から下までジロジロと、途中で『プッ』って聞こえたのがタイツの癇に障る。明らかに馬鹿にされているのだ。
まぁ、タイツは全身ふぁ
「…クリトリス?」
タイツは"わざと"間違えて呼んでみた。軽くからかって相手の性格を掴むつもりだったのだ。が、
『…クリスタトスよ』
ふぅ〜。煙草の煙が三度タイツに吹き付けられる。今度は真正面から受けたので咳き込んでしまった。
「げぇっほげほっ!――よぅし、ならクリちゃんでいいな!お前が今夜の生け贄だ!決定!大決定!」
ビシッとクリちゃんを指差し、今夜の獲物と定めるタイツ。大げさで演技がかったポーズを決め、プルプルと武者震いを再現する。
それを冷ややかに見つめながらクリスタトスは笑う。おもむろに煙草をポイッと投げつけ、タイツの膝に当たる。
「熱っ!」遠距離からの根性焼きがタイツを襲う。膝の部分が焼け焦げてしまった。特注タイツなのに、酷い。
『こんなのが標的ぃ?…クスクス。俗に言う"冗談"ってヤツねぇ』
「にゃにィ〜っ!?」
侮られたタイツはいつものペースを崩されて面食らっている。こんなタイプは初めてだった。
「お前のその余裕もここまでだ!"TIGHTS THE MASK"をナメんなよこのメス豚がァーッ!いきなりイくぜッ!白濁色のオーヴァ――」

 ガ ブ ッ !

「ドライ…ヴィヤーーーーーーーッッ!!?」
突き出されたタイツの下半身を激痛が襲う!思わず最強の碑文を放ちかけるタイツ。だがMPが足りないようだ…
涙目になって――アソコが逝ったかも、という恐れを感じつつ――下半身を見る。猫だ。見覚えのある黒い猫がいる。
「なっ…なんでさっきのぬこが俺のおチンチンを噛んでる、の……う〜ん」
タイツはそのまま前のめりに倒れた。猫の離れた後の股間は真っ赤だ。何たる様。薄れゆく意識の中でクリちゃんの笑い声が木霊する。
『おバァカさぁん…クスクス』

その頃、ミユキは―――、

「…スカラマンガ?」
「そ、ブロフェルド…ブロ姉とは姉妹で〜っす☆ よ・ろ・し・く・ネ♪」
先ほど名乗った時からすぐに軽い口調に戻ったスカラマンガはミユキの前でぶりぶりと媚を売るような素振りをする。
「ミユキおばさんって老けてるねぇ〜。何歳?」
眼前を右に左に、ちょこまかとウルサイ蝿のような動きでミユキをからかう。
"オバサン"、"老けてる"という禁句をズバズバと小娘に言われ怒り心頭のミユキだが、こういった連中にまともに取り合うのは
疲れるだけだし無駄なことだとタイツやコンドー(前作で出てきたミユキの上司。故人?)で思い知ってるので極力抑えるよう努めた。
「(プルプル…)な、なんのよ・お・か・し・ら!?」
それでも語尾が強くなってしまった。ぶっちゃけ、この小娘を引っ叩いてさっさと帰りたい衝動でいっぱいだった。
スカラマンガはそのミユキの心情を知ってか知らずか、目の前で動き回るのを止めて真正面からこう言い放った。
「あのねぇ。死んでくれるぅ?」
「え―――」

 ド ゴ ッ !

聞き捨てならぬ言葉にカッとなったミユキを突然の衝撃が襲う。やられ役の宿命か。しっかり喰らってしまったボディブロー。
「ほげぇっ?!」なんて間抜けな悲鳴を上げてそれっきり彼女の意識は途絶えた。身体から力が抜け、スカラマンガに抱え上げられた。
「女ヤラレ役、ゲットだぜぇ☆」



36 :タイツの人:2006/12/06(水) 13:02:43 ID:60lY5rQU
≪タイツ編≫

嗚呼、なんてこった。俺の縮退砲が潰れちまった…
しかも愛するぬこにガブリ。だが俺は彼(彼女)を憎むことはできない。
悪いのはクリトリスだ。あのクソアマ。タバコ臭いし口調が挑発的だし…
『おまけに格好がオッサンくさくて色気にかける?』
そうそう。胸は大きいし顔は美人だけど許せん。正義の肉棒で懲らしめて肉奴隷にしてやる。
『最低ねアナタ…女の子を何だと思ってるのん?』
うるさいな。敵女悪女は別だっつーの!…そもそもなんで思考にツッコミが――…タバコのにほひ?
『フ〜ッ。ぜ〜んぶ声に出してたわよ?おバカさぁん』
「うわぁ!」
目を開けてみたら件のクリちゃんが目の前にいるじゃないの!右目でこっちをジッと視姦してやがる。感じるぢゃないかw
というか此処どこ?なんか地下室みたいだべ?日付は?晩御飯は?2chは?…俺の拡散波動砲はどうなった!?
『…縮退砲じゃなかったの?』
「いちいち細かいな。俺の槍は1000の名を持っているのだ!」
威勢よく声を張り上げてみるが、実のところその槍が心配でたまらん。見てみたがやっぱりタイツが真っ赤に染まってるまま…
脳内でおネエちゃんのエチィシーンを想起してみてもピクともせん。感覚ゼロ。これでは自慰もし甲斐がないってモンだ!
「う〜ぐ〜。なんてこった。氷雪姫すら蒸発させた俺の蝶絶倫神ぶりが発揮する前にこうなるとは…お前の仕業か!?」
『さぁてね〜。子猫ちゃんの悪戯まで私のせいにされちゃかなわないわぁ』
目の前でクリちゃんがタバコをプカ〜ッ。彼女はパイプ椅子に座っていて傍には駅で見かけるような足付きの灰皿が置いてある。
落ち着いて周りを見てみると、ここは室内で間違いないようだ。直感で地下室っぽく感じたが、それは窓の外が暗いかららしい。
そして俺はクリちゃんが座ってるのと同じタイプのパイプ椅子に固定されて動けない。後ろ手に鎖で縛られているのだ。
どうやら俺がロケランに受けたダメージのせいで気絶している間に彼女に変な所に連れられ、拘束されたらしい。
『変な所とは失礼ね。ここは私の家よ』
「お前ン家かよっ!」
室内を見回している俺の気持ちを察してムッとしたのか、憮然とした態度になるクリスタトス。椅子の上でふんぞり返る。
「住まいにしちゃ殺風景だな。せめてテレビくらい置けばいいのに」
部屋には、見事に何もなかった。あるのは椅子と灰皿と、ゴミだけ。それもタバコの空き箱とか紙くずだけで、生活観に乏しい。
「まぁいいや。面倒くさいから詮索はやめときましょ。で、俺に何の用だい?」
『……簡潔に言うと、アナタを抹殺せよって指令を受けただけ』
さらっとそう言うと短くなってきていたタバコを部屋の隅にポイと捨てた。なんてやつ。さすが悪役だぜ!!
クリスタトスはコートの内ポケットから新たなタバコを取り出してライター(多分100円のやつ)で火をつけて口にした。
そう言えばこの女、タバコをくわえたままでしゃべるので行儀が悪い。だが似合っている。やっぱり悪党だぜ!!!
『アナタの"悪"の判断基準が分からないわ…』
「いつも最初に言うが、俺は女戦闘員を狩る正義の使者!俺が悪だと思ったら(たぶん)悪!俺の前の現れる女は(おそらく)敵役だぁ!」
『さり気に無茶苦茶言うわねこのコ…でもどんなに威張ったって縛られたままじゃ、ネェ』

バッキーン!鎖は簡単に引き千切られた!バラバラと鎖の破片が宙に舞って床に落ちて硬質な衝撃音を立てる。

「俺は縛られてなんかいないぜ!"銭形のとっつぁんのコスプレしたザクロちゃん"みたいな井出達しやがって!覚悟しろぃ!」
『あらぁ。百均じゃあ駄目だったかしら。』

頬に手を当ててため息混じりに、かつ残念そうにそう言ったクリスタトス。しかしその唇は、悦楽に歪んでいた。


37 :タイツの人:2006/12/06(水) 14:24:49 ID:60lY5rQU
≪ミユキ編≫

―――どこかで声がする。すぐ近く、でも直に話を聞いてる気にならない。おそらくは、テレビか何かの声なのだろう。
『お前に記憶がないように、私もまた、欠けた過去を持っている』
『キミも…?』
なにか深刻そうな内容だ。ドラマか何かだろうか。他に物音らしい物音も……なにかパタパタと音がするぐらいか。
目を開けてみると見覚えのあるギャル(死語)が社内でよく見かける何の変哲もないパイプ椅子に座って携帯と睨めっこしている。
赤いタートルネックのシャツ。上に着た白のファージャケットの袖から赤い袖がはみ出してるので長袖か。下は紺のバルーンスカートだ。
何処にでもいそうで、雰囲気だけ何かが違う感じ。どこで見たっけ?そもそもあたしは何を?
…記憶を辿ってみる。どうやらあたしはこの小娘にやられたらしい。そして今は捕まってしまっているようだ。身動きが取れない。
小娘――スカラマンガといったか。どこの国の名前だろう――は気がついたあたしに構うこともなく携帯を見つめ続けている。
『私にはこうなる前の……自分を知らない。いや、分からないのだ……』
『自分が…分からない?』
自嘲気味な女の人の声。凛としていて意志の強そうな響き、だが今はそれを失っている感じがする。
一方は男の戸惑う声。どこぞのケダモノの暑苦しいボイスと違って、少年らしい若さのある声だ。
2人の声は小娘の持つ携帯から聴こえてくるようだ。よく見ると携帯の画面から発する光が小娘の顔に投影されている。
部屋があまり明るくないせいもあってか、小娘の顔に当たっている光の、色の変化がよく分かる。その彩りには見覚えがあった。
どうやら、彼女はテレビを観ているようだ。少し前に話題になり、今や当たり前のように使われている機能だ。ワンセグ、だっけ。
『見ただろう?私の肩を…私の、この軍服の下を』
『…うん―――ゴメン』
男の人が謝ると、少しの沈黙の後に女の人の『クスッ』という小さな笑みが聞こえた。
『お前が謝る必要はない。あれは、私が無防備だっただけなのだ』
思わせぶりな会話と重い雰囲気。あたしはいつの間にか、耳を集中させて聴いていた…続きが気になる。
そして衣擦れの音(多分、女の人が立ててる)が聴こえてくるところで――音が止んだ。彼女がテレビを切ったのだ。
あたしは我に返るかのようにハッとなって顔を上げてしまっていた。
「なぁ〜んだ。目が覚めてるんじゃん。ミユキおばさま♪」
目の前にはこちらを見て「にぱっ」と笑う小娘の顔。生意気げで可愛くない。妹(自称)とは大違いだ。
「…とりあえずその"おばさん"扱いは止めてくれる?」
本当ならとっくに引っ叩いているのだが手足を縛られていては歩み寄ることも蹴りを入れることもかなわない。
「う〜ん。仕方ないなぁ。でもそれが最後の望みってんなら聞いてあげてもいーかなぁ」
考えている…ように見えないこともない素振りの後で小娘が笑う。"最後の〜"は聞き捨てならないがそれよりも、
「…あたしを捕まえて何しようってのよ。殺すんならさっさと殺りなさいよ。どうせこのままじゃ逃げられないし…」
彼女は自分を倒す前に『死んでくれる?』と言った。なのに自分は生きてるし、殴られたお腹も、もう痛くない。
「え〜っ。でもそれじゃつまんないジャン。どうせだからタップリ遊んでから仕舞いにしたいヨ〜!」
不満は顔で厭な台詞を吐く小娘。つまり弄んで殺すということか。あたしは遊び道具じゃないっつーの!
「どうせって何よ。ウチの妹――ブロフェルドを知ってる辺り、あの基地外(自称・生みの親)の刺客?」
「酷っ!ちょwww刺客なのは当たってるけどwww」
当たってるのか。はしゃぐ小娘を見ながら"ウンザリしてくる自分"を実感する。またそっち方面の厄介事かYp!

一通り笑うとスカラマンガは携帯を閉じて上着のポッケに入れた。
『アタシが受けたのは不肖の被造物の抹殺。ブロ姉には敵いそうもないから貴女を使うわけ〜。アタシってあったま良い〜』
ニヤニヤ笑いながら自画自賛する小娘。あたしは限界だと思った。だが手足の鎖が切れそうもない。ピンチだ。

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