- 若宮町
江戸時代の中ごろのお話です。水原(みずわら)という所に保作というお百姓さんがいました。
よその村からムコ入りしてきたばかりで、村の仕事の中でも余り注目されない、ため池の水の係りをしていました。
延享四年(一七四七)のことです。雨の少ない年で、ようやく田植えができる程しか水がありません。
田植えを明日にひかえ、池の水の栓はぬいていました。ところがその夜、激しい雨になりました。
大粒の雨をみながら保作さんは考えました。
「これだけ降りゃ池の水を使わんでも田植えはでくる。池の水は日照りの時に備えとかにゃ。
一滴の水も無駄にはでけん」
そこで、一本のカマを腰に池へと向かいました。その池は村から数キロ離れた山口という所にある
鶴ケ谷のため池です。豪雨の中、足をすべらせたりガケ下に落ちたりしながらようやくたどり着き、
池に飛びこんで栓をしようとしました。
すると突然、巨大な生きものが保作さんの背後から襲ってきました。浮きつ沈みつ、カマをふりまわし、
保作さんは大格闘。ようやく手ごたえあってあたりを見渡せばもう怪物の姿もなく、夜も白みはじめて
いました。
その日、保作さんから話を聞いた村人が池に出かけてみると大きなスッポンが水にうかんでいます。
早速、村へ持って帰り、水原、沼口、金丸の三つの村の人が総出で食べました。
その後、まじめな仕事ぶりが近所に広まり、保作さんは、庄屋さんや黒田藩からもたくさんのほうびをもらいました。
また、この保作さんと大スッポンの格闘を版画にして売り出す人まで現れて、このお話は長く語り継がれることに
なったということです。
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