福岡県の郷土のものがたりです。


昔むかし、柳川に西源仲という、お医者さんが住んでいました。

あんまりあわて者だったので、世間の人たちはだれも本名で呼ばず、「およたれ源ちょさん」とか

「源にょむさん」というあだ名で呼んでいました。

この源にょむさんは、失敗話だけでなく、とんち話やなぞなぞも得意で、さまざまなエピソードが

伝えられています。

ある日のことです。源にょむさんは鉄砲をかついで鳥撃ちに出かけました。

山川村蒲地山(かまぎやま)に行く途中に大きな堤があります。見ると、水面に十羽のカモがくの字型に並んで

のんびりと泳いでいます。

「しめしめ、全部いっぺんに撃ってやれ」と思った源にょむさん。ちょっと思案の末に鉄砲をくの字に曲げ、

いちばん右端にねらいをつけ、引き金を引きました。

「ズドーン」

弾はみごとに命中、十羽全部を一度に撃ち取ってしまいました。

首まで水につかりながらカモを拾い集めて岸に上がると、すぐそばの竹やぶで何やらガサガサと音がします。

近寄るとさっきの流れ弾に当たったのか、イノシシが死にそうにしていました。

源にょむさんはすかさずイノシシを縄でしばり、背負いました。ふと足元をみると大きな山いもがころがっています。

きっとイノシシが苦しまぎれに土をひっかいて掘り出したものに違いありません。もちろんこれもいっしょに背負いました。

帰る途中に大根川があります。橋を通るのは遠回りになると考えた源にょむさんは、ひょいと着物のすそをからげて、

川の中をジャブジャブと渡りました。

岸に上がるとわらぐつの中がヌルヌルしています。着物のすそも水につかっていたところがピクピクと動いています。

見るとわらぐつの中にはドジョウが、からげたすその中にはフナがいっぱい入っていました。

こうして源にょむさんは「大漁、大漁」とにこにこ笑いながら、家へ帰っていきました。

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