- 広川町
広川町川瀬の円通寺の山門から真っすぐ下りてきたところに、千部橋と呼ばれる橋があります。
太原から川瀬地域の北側を流れ、広川に注ぐ大園川にかかるこの小さな橋には、
平安時代中期の聖僧・空也上人にまつわるこんな物語が伝えられています。
空也上人が二十八歳の頃、当地を訪れ川瀬を通りかかると、大園川のほとりから赤子の泣き声が聞こえてきました。
上人が近づいてみると、親に捨てられたのか、赤子がひとり、まるで火がついたように大きな声で泣き叫んでいました。
「おやおや、かわいそうに」
と抱き上げてあやしても一向に泣き止むようすがありません。途方にくれた上人がそばにかかっていた橋の丸木を
ひと削りして、燃やすとどうでしょう、赤子はピタリと泣き止んでしまったのです。
この不思議な出来事はあっという間に村中に広まり、夜泣きや癇のきつい子をもつ母親たちが次々にやってきては、
橋の丸木を削りとり持ち帰るようになりました。そのために大きかった丸木の橋もだんだん細くなり、
ついにかけ替えられ、担ぎ棒ほどの残部がいまなお円通寺に大切に保存されています。
千部橋という名は、文永十一年と弘安四年の二度にわたる蒙古軍襲来の後、この地方に悪疫が流行したため、
村人たちが「これは蒙古兵の霊のたたりに違いない」と語り、橋のたもとで法華経千部の供養をしたことから
名付けられたといわれています。
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