最終更新:
gordonschumway 2011年05月29日(日) 21:24:41履歴
Photo by:(c)Tomo.Yun
![](https://image01.seesaawiki.jp/h/t/honeypocket/8b8fec61aab3d8cf.jpg)
【ドラマ】
[9:32]
紫 「三菱様、本日はありがとうございました…
またお越しくださいませね…」
(SE:車のドアの閉まる音と走り去る音)
紫 「ふう……これで残りの客はあと二人…か……
あら?今日は満月だったのね……綺麗……」
紫苑「あっれ〜?紫じゃん。どうした?こんなとこで」
紫 「紫苑!私はお客様の見送りよ。
あなたこそどうしてここにいるわけ?」
紫苑「ん?俺はちょっと夜のお散歩♪」
紫 「お散歩って……あなただって、夜桜月楼のトップなんでしょう?
そんなお方が、こんな時間に散歩なんて、随分と余裕あるじゃない?」
紫苑「いや〜。ついこの前、俺とお職をかけて争ってた奴が、身受けされてさ。
ライバルがいなくなったもんで、ついね(苦笑)」
紫 「あらまぁ。でも、きっとま〜た次のライバルが現れるわよ〜?
そうねぇ……たとえば……紅葉くんとか」
紫苑「はは、まっさか〜。仮にあいつが水揚げされて客をとるようになっても、
俺を越えることは、天地がひっくり返ってもないね」
紫 「へぇ…随分と自信じゃない?」
紫苑「そりゃあ、俺ですから」
紫 「ふ……あなたらしいわね……」
紫苑「あぁそういえば、お前んとこの紅葉ちゃん、元気してる?」
紫 「えぇ、相変わらずよ。最近は、たまに二人で会ってるみたいだしね」
紫苑「みたいだな。とうとうあいつらも、恋人同士になっちゃったりして?」
紫 「それはどうかしら。少なくとも紅葉の方はだいぶ意識してるみたいだけど……
いずれにせよ、私たち色子が結ばれることは、決してないわ…」
紫苑「………そう…だな……」
紫 「それじゃ、そろそろ私は戻るわね。あなたと違って、このあとも客がたまってるから」
紫苑「あ、紫っ!」
紫 「何?」
紫苑「店まで送る」
紫 「はぁ?別に大丈夫よ。すぐそこなんだし」
紫苑「いや、ちょっと…お前と行きたい所があるんだ。
だから、ちょっとだけ…時間くれねぇ?」
紫 「別にいいけど、あまり時間はとれないわよ?」
紫苑「あぁ、構わない」
紫 「そう。じゃあいいけど」
紫苑「ありがとう…」
(SE:二人の足音)
(場面は裏山の小高い丘の所)
紫 「で?こんな所まで連れてきて、何か大事な話でもあるわけ?」
紫苑「あぁ……できれば、二人だけで話したかったからさ……」
紫 「珍しいわね。あんたがここまで気を使うなんて。
そんなに店じゃ言えない話?」
紫苑「……紫、お前んとこの紅葉ちゃん、水揚げの日は決まったか…?」
紫 「え?あ、あぁ……この前楼主様から、水揚げの相手と日にちを言われたわ」
紫苑「その事を紅葉ちゃんには?」
紫 「話したわ。本人はわかってたみたいで、
ちゃんと覚悟も出来てたみたいだけど……」
紫苑「そう…か……」
紫 「それがどうかした?」
紫苑「俺もさ、この前、楼主様から紅葉の水揚げの相手と日にちを言われた。
もちろん本人にも話したし、本人も納得してた……けど……」
紫 「…けど……?」
紫苑「俺は……どうしても納得できない……」
紫 「紫苑……って言っても、水揚げは避けられない儀式で、
私たちがどうこうできるものでもないでしょ?」
紫苑「わかってる!そんなことはわかってるんだ…!でも俺は……
あいつを……他の奴のものにしたくないんだ……!」
紫 「………………」
紫苑「お前はどうだ?」
紫 「え……?」
紫苑「お前だって、紅葉ちゃんが他の誰かに水揚げされて、
俺達みたいな仕事をするようになって……
それでも…いいのか……?」
紫 「そりゃあ、私だって出来ればこんな仕事、あの子にはしてほしくないけど……
でも、これはもう決定したことで、どうすることもできないでしょ?」
紫苑「………だから俺は…決めた……」
紫 「決めたって……まさか、紫苑…あなた……!」
紫苑「あぁ。紅葉と二人で足抜けする……」
紫 「ちょっと、冗談きついわよ…あなただって廓育ちなら、
簡単に足抜けなんて出来ないのはわかってるでしょう!?」
紫苑「わかってるさ!でも……こうするしかないんだ。
あいつと幸せになるためには……これしか……」
紫 「紫苑……あんたの気持もわかるけど、でも、
仮に足抜け出来たとしても、ずっと追われる身になるのよ?
それにもし見つかったら……それこそ……どうなるかわからないわ……」
紫苑「あぁ、そんなこと百も承知だ。
でも俺は…その少ない可能性にかけてみたいんだ……」
紫 「どうしたのよ、紫苑。こんなこというなんて、あなたらしくないわよ?」
紫苑「紫……お前なら……俺の気持ち、わかってくれるだろ……?」
紫 「………そうね。あなたの気持ちは痛いほどわかるわ。
でも、そうだとしたら、この私に話した事は間違いだったかもね」
紫苑「………!密告…するのか……?」
紫 「それはどうかしら?するかもしれないし、しないかもしれない……」
紫苑「お前は…できない……」
紫 「どうしてそう言えるの?」
紫苑「それは……お前のことを……信用して…愛しているから……」
紫 「しおっ……んっ…ん……」(←キスした)
紫苑「…っ……ん……ずっと…お前の事が好きだった……
だからこそ、この事もお前に話した……」
紫 「紫苑……ばかね。
いくらあんたが私のことを好きでも……この世界にいる以上……
結ばれないのは…わかっているでしょう……?」
紫苑「……わかってる……だから…足抜けする前に……
お前に俺の気持ちを…伝えたかった……」
紫 「ばかよ……あんた……」
紫苑「あぁ……俺はバカだ……
だからさ、そんなバカな男の最後の願い……聞いてくれない?」
紫 「まさか、足抜けを手伝えとでも…?」
紫苑「いや……お前と……したい……」
紫 「紫苑……!」
紫苑「どうせ叶わぬ恋なら、最後に一度だけ……お前と結ばれたい………」
紫 「……ほんと……ひどい男ね……あんた……」
紫苑「それでも構わない……」
紫 「ばか紫苑……」
紫 「(N)こうしてこの夜の出来事は、
お互いに胸のうちにしまっておくこととなった…
それから数週間後のある日……」
(SE:いつも以上に騒がしいガヤ)
紫 「ん?今日は随分と店の前が騒がしいわね……何かあったのかしら……」
守里「あ!紫っ……!!大変事態が起きました!」
紫 「守里さん……何?何があったの?」
守里「向かいの店で…男娼二人の、足抜けがあったらしくて……」
紫 「……!足抜け……」
守里「ええ。それで、足抜けした男娼というのが……
その…紫苑くんと、紅葉くんだとか……」
紫 「…………そう……あの二人が……」
守里「今、櫻が様子を見に行ってて………って…紫……?」
紫 「え?あ、あぁごめん。そっか……ったく、足抜けなんて、
ほんとバカな事をしたもんよね。
ここにいる以上、幸せになることなんてできないっていうのに……」
守里「紫………」
紫 「さ、私たちは早く次の仕事の準備をしましょう。
まだまだお客はたまってるからね。
もみじ、手伝ってちょうだい」
守里「は、はい!…あの、紫は……
あなたは心配ではないのですか……?二人の事……」
紫 「別に。仮にこの吉原から抜け出せたとしても、
あの二人の運命はもう決まってるから……」
守里「…………」
紫 「さっ 仕事仕事ーっと」
守里「紫………」
紫 「(N)そう…この閉ざされた世界に生きている以上……
私たちに幸せなど訪れない……
たとえそれがひと時の幸せだったとしても。
最後に待ってるのは絶望だけ……
そんな運命に抗うことを選んだ二人は、ある意味幸せだったのかもね……
でも…そんなひと時の幸せにすら…
すがろうと思ってしまう私は……愚か者なのでしょうか……?」
![](https://image01.seesaawiki.jp/h/t/honeypocket/8b8fec61aab3d8cf.jpg)
【ドラマ】
あらすじ この物語は、夜桜月楼(やおづきろう)という吉原随一の廓で繰り広げられる、 遊女や男娼達の人間模様、恋模様を描いたお話です。 時代背景的には、大正か明治初期あたりの、吉原の遊郭になります。 |
登場人物 | 詳細 | 配役 |
紫苑 [シオン] | 夜桜月楼の傾成であり、店でもトップクラスの色子。 紅葉[クレハ]の事を弟のように思っている | ベア |
紫 [ユカリ] | 夜桜月楼の花魁であり、店でもトップクラスの遊女。 誰にでも好かれる優しいお姉さんタイプ。 | 谷風結香 |
守里 [シュリ] | 夜桜月楼の番頭であり、色子たちをまとめる世話役。 | 岩月十夜 |
![](https://image01.seesaawiki.jp/h/t/honeypocket/7f8b5cc22b0216e8.jpg)
紫 「三菱様、本日はありがとうございました…
またお越しくださいませね…」
(SE:車のドアの閉まる音と走り去る音)
紫 「ふう……これで残りの客はあと二人…か……
あら?今日は満月だったのね……綺麗……」
紫苑「あっれ〜?紫じゃん。どうした?こんなとこで」
紫 「紫苑!私はお客様の見送りよ。
あなたこそどうしてここにいるわけ?」
紫苑「ん?俺はちょっと夜のお散歩♪」
紫 「お散歩って……あなただって、夜桜月楼のトップなんでしょう?
そんなお方が、こんな時間に散歩なんて、随分と余裕あるじゃない?」
紫苑「いや〜。ついこの前、俺とお職をかけて争ってた奴が、身受けされてさ。
ライバルがいなくなったもんで、ついね(苦笑)」
紫 「あらまぁ。でも、きっとま〜た次のライバルが現れるわよ〜?
そうねぇ……たとえば……紅葉くんとか」
紫苑「はは、まっさか〜。仮にあいつが水揚げされて客をとるようになっても、
俺を越えることは、天地がひっくり返ってもないね」
紫 「へぇ…随分と自信じゃない?」
紫苑「そりゃあ、俺ですから」
紫 「ふ……あなたらしいわね……」
紫苑「あぁそういえば、お前んとこの紅葉ちゃん、元気してる?」
紫 「えぇ、相変わらずよ。最近は、たまに二人で会ってるみたいだしね」
紫苑「みたいだな。とうとうあいつらも、恋人同士になっちゃったりして?」
紫 「それはどうかしら。少なくとも紅葉の方はだいぶ意識してるみたいだけど……
いずれにせよ、私たち色子が結ばれることは、決してないわ…」
紫苑「………そう…だな……」
紫 「それじゃ、そろそろ私は戻るわね。あなたと違って、このあとも客がたまってるから」
紫苑「あ、紫っ!」
紫 「何?」
紫苑「店まで送る」
紫 「はぁ?別に大丈夫よ。すぐそこなんだし」
紫苑「いや、ちょっと…お前と行きたい所があるんだ。
だから、ちょっとだけ…時間くれねぇ?」
紫 「別にいいけど、あまり時間はとれないわよ?」
紫苑「あぁ、構わない」
紫 「そう。じゃあいいけど」
紫苑「ありがとう…」
(SE:二人の足音)
(場面は裏山の小高い丘の所)
紫 「で?こんな所まで連れてきて、何か大事な話でもあるわけ?」
紫苑「あぁ……できれば、二人だけで話したかったからさ……」
紫 「珍しいわね。あんたがここまで気を使うなんて。
そんなに店じゃ言えない話?」
紫苑「……紫、お前んとこの紅葉ちゃん、水揚げの日は決まったか…?」
紫 「え?あ、あぁ……この前楼主様から、水揚げの相手と日にちを言われたわ」
紫苑「その事を紅葉ちゃんには?」
紫 「話したわ。本人はわかってたみたいで、
ちゃんと覚悟も出来てたみたいだけど……」
紫苑「そう…か……」
紫 「それがどうかした?」
紫苑「俺もさ、この前、楼主様から紅葉の水揚げの相手と日にちを言われた。
もちろん本人にも話したし、本人も納得してた……けど……」
紫 「…けど……?」
紫苑「俺は……どうしても納得できない……」
紫 「紫苑……って言っても、水揚げは避けられない儀式で、
私たちがどうこうできるものでもないでしょ?」
紫苑「わかってる!そんなことはわかってるんだ…!でも俺は……
あいつを……他の奴のものにしたくないんだ……!」
紫 「………………」
紫苑「お前はどうだ?」
紫 「え……?」
紫苑「お前だって、紅葉ちゃんが他の誰かに水揚げされて、
俺達みたいな仕事をするようになって……
それでも…いいのか……?」
紫 「そりゃあ、私だって出来ればこんな仕事、あの子にはしてほしくないけど……
でも、これはもう決定したことで、どうすることもできないでしょ?」
紫苑「………だから俺は…決めた……」
紫 「決めたって……まさか、紫苑…あなた……!」
紫苑「あぁ。紅葉と二人で足抜けする……」
紫 「ちょっと、冗談きついわよ…あなただって廓育ちなら、
簡単に足抜けなんて出来ないのはわかってるでしょう!?」
紫苑「わかってるさ!でも……こうするしかないんだ。
あいつと幸せになるためには……これしか……」
紫 「紫苑……あんたの気持もわかるけど、でも、
仮に足抜け出来たとしても、ずっと追われる身になるのよ?
それにもし見つかったら……それこそ……どうなるかわからないわ……」
紫苑「あぁ、そんなこと百も承知だ。
でも俺は…その少ない可能性にかけてみたいんだ……」
紫 「どうしたのよ、紫苑。こんなこというなんて、あなたらしくないわよ?」
紫苑「紫……お前なら……俺の気持ち、わかってくれるだろ……?」
紫 「………そうね。あなたの気持ちは痛いほどわかるわ。
でも、そうだとしたら、この私に話した事は間違いだったかもね」
紫苑「………!密告…するのか……?」
紫 「それはどうかしら?するかもしれないし、しないかもしれない……」
紫苑「お前は…できない……」
紫 「どうしてそう言えるの?」
紫苑「それは……お前のことを……信用して…愛しているから……」
紫 「しおっ……んっ…ん……」(←キスした)
紫苑「…っ……ん……ずっと…お前の事が好きだった……
だからこそ、この事もお前に話した……」
紫 「紫苑……ばかね。
いくらあんたが私のことを好きでも……この世界にいる以上……
結ばれないのは…わかっているでしょう……?」
紫苑「……わかってる……だから…足抜けする前に……
お前に俺の気持ちを…伝えたかった……」
紫 「ばかよ……あんた……」
紫苑「あぁ……俺はバカだ……
だからさ、そんなバカな男の最後の願い……聞いてくれない?」
紫 「まさか、足抜けを手伝えとでも…?」
紫苑「いや……お前と……したい……」
紫 「紫苑……!」
紫苑「どうせ叶わぬ恋なら、最後に一度だけ……お前と結ばれたい………」
紫 「……ほんと……ひどい男ね……あんた……」
紫苑「それでも構わない……」
紫 「ばか紫苑……」
紫 「(N)こうしてこの夜の出来事は、
お互いに胸のうちにしまっておくこととなった…
それから数週間後のある日……」
(SE:いつも以上に騒がしいガヤ)
紫 「ん?今日は随分と店の前が騒がしいわね……何かあったのかしら……」
守里「あ!紫っ……!!大変事態が起きました!」
紫 「守里さん……何?何があったの?」
守里「向かいの店で…男娼二人の、足抜けがあったらしくて……」
紫 「……!足抜け……」
守里「ええ。それで、足抜けした男娼というのが……
その…紫苑くんと、紅葉くんだとか……」
紫 「…………そう……あの二人が……」
守里「今、櫻が様子を見に行ってて………って…紫……?」
紫 「え?あ、あぁごめん。そっか……ったく、足抜けなんて、
ほんとバカな事をしたもんよね。
ここにいる以上、幸せになることなんてできないっていうのに……」
守里「紫………」
紫 「さ、私たちは早く次の仕事の準備をしましょう。
まだまだお客はたまってるからね。
もみじ、手伝ってちょうだい」
守里「は、はい!…あの、紫は……
あなたは心配ではないのですか……?二人の事……」
紫 「別に。仮にこの吉原から抜け出せたとしても、
あの二人の運命はもう決まってるから……」
守里「…………」
紫 「さっ 仕事仕事ーっと」
守里「紫………」
紫 「(N)そう…この閉ざされた世界に生きている以上……
私たちに幸せなど訪れない……
たとえそれがひと時の幸せだったとしても。
最後に待ってるのは絶望だけ……
そんな運命に抗うことを選んだ二人は、ある意味幸せだったのかもね……
でも…そんなひと時の幸せにすら…
すがろうと思ってしまう私は……愚か者なのでしょうか……?」
コメントをかく