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【ドラマ】【ホラー】
(プロローグ)
棗 「永遠にしたい」
隗都「何を……?」
隗都「(N)棗は俺を見て微笑んだ。目を細め、自信に満ちて、見下すように……」
(プロローグ終り)
(場面は現代の魔界。隗都の資料室にいる比呂)
比呂「はぁ……なんだこの大量の資料は。
しかもこの部屋の広さは。天井なんか高すぎて見えないぞ。
ついでにこの部屋の汚さ……この部屋を掃除しろだなんで、
こんなの、一生かかっても無理に決まってる……。
……でもやるしかないんだよな……うん」
(少し間)
比呂「ん?何だこの箱……?随分と汚いようだが……なんか文字が書いてあるな。
えっと……だめだ。古すぎて読めない。だいたいこんな文字、今は使われてないぞ」
(SE:隗都の足音)
隗都「どうだ〜比呂〜?進んでるか?」
比呂「あ、隗都。丁度よかった。これ一体何なんだ?整理するにも分類が分からないが」
隗都「……は?あ〜、別にそれ捨ててもいいやつだ。でも……懐かしいなぁ…これ」
比呂「懐かしい?」
隗都「ああ。これはな、俺の生まれた国の事に関する記録の入ってた箱さ」
比呂「お前の生まれた国…か。
……それにしては随分と古いじゃないか。この文字といい……」
隗都「お前な、俺が今いくつだと思ってんだよ?古くて当たり前だろ?」
比呂「そう言われればそうだが……そういえば、お前って今何歳なんだ?」
隗都「………計算すんの面倒だなあ」
比呂「自分の歳もわかんないのかよ!!??」
隗都「しょうがねぇだろ。俺が生まれてから暦の数え方が5回ぐらい変ってんだから。
今使われてる暦に換算すんのがめんどいんだよ。別にいいじゃん、
ここまで来ると1も1000もたいした問題にならないだろ?」
比呂「……ありえない……
だって、暦の数え方なんて滅多に変わるもんじゃないし、それが5回もって事は……
少なくとも5桁を超えてるってことか!?ちょ、ちょっと待て。
魔族の寿命って魔王クラスの奴等でも何千年かが限度だろ!?」
隗都「その辺は秘密。気が向いたら教えてやるよ」
比呂「……(バケモノ……)ところでその国って、一体どんな所なんだ?」
隗都「どんな国か…か……。そうだな、『俺みたいな種族』のいる国だった。わかるだろ?」
比呂「隗都みたいな……?……つまり、『陰険で狂気じみた腹黒い種族』ということか……」
隗都「違う。『研究好きで好奇心旺盛な種族』って意味なんだけど」
比呂「あ……」
隗都「そーかそーか。俺は『陰険で狂気じみてて腹黒い』のか……」
比呂「ちっ……違っっ!!」
隗都「覚えとくよ。ふふふふふ……」
(SE:比呂の消える音)
(少し間)
隗都「……陰険で狂気じみてて腹黒くないと、魔界でここまで生きて来れねぇよ」
(少し間)
比呂「(結局、あんまり詳しい事は聞けなかった……)」
祁杷「おや、どうしたのです?そんなに息を切らして」
比呂「げっ!!」
祁杷「そんな嫌そうな顔をしなくてもいいでしょう?比呂くん」
比呂「な…何の用だよ!?」
隗都「いえ、ただの届け物です」
比呂「そ、そうか。隗都なら資料室だ」
祁杷「そうですか」
比呂「あ、おい。ちょっと待て」
祁杷「何でしょう?僕に聞きたい事でも?」
比呂「ああ。隗都の事についてなんだが……」
祁杷「本人に聞いたらどうですか?……と言いたいところですけど、
まぁ、あまり話してはくれないでしょうね……。
ふっ…いいですよ。話しても」
比呂「(な、なんか嫌な予感がするのは気のせいだろうか……)」
祁杷「隗都の生まれた国はですね……」
(少し間)
(回想編。場面は隗都の国)
隗都「(N)俺の生まれた国は研究者達の国……というより、
皆、何かしらの研究をするのを生きがいとするような種族の国だった。
それこそ国全体が大きな一つの研究所の様だった。あの頃も俺は医者で、
魔界医学を始めとする様々な分野の研究をしていた。
今も昔も、俺のやっていることに大差はない。
変った事といえば、あいつらがいなくなったことぐらいか。
しかし、俺は今でもあいつらの事を傍らに感じる。
いつでも。ずっと……」
威月「なぁ…聞いた?隗都」
隗都「……何が?」
威月「NP−37地区の生態調査に行ってた奴等の生命反応が消えたんだってサ。
全滅だって」
隗都「あ〜……あそこはかなりヤバイかもな。確か10人くらいで行ったんだったか」
威月「うん。あ〜あ、また減っちゃったねぇ〜」
隗都「そうだな。これで人口100人切ったもんなぁ。
そろそろ『殖え時』(ふえどき)だな」
威月「あ〜あ、めんどくさいなぁ。
研究中断しなきゃなんないじゃん。僕今忙しいのになぁ……」
隗都「そうだっ!死体は転送されてきたのか?」
威月「うん。だってそのために隗都呼びに来たんだもん」
隗都「お前、そういう事は早く言えよ」
(回想編。場面は研究室)
棗 「……つまらんな。ただ魔獣にやられただけとは」
隗都「そう言うなって。これで検体の方は増えたんだしさ」
棗 「しかしこれでまた人数が減ってしまった。そろそろ『殖え時』だな」
隗都「……そうだな(しかし、そうなると次の棗のセリフは……)」
棗 「今夜、各セクションの管理長に招集がかかった。
各管理長は今夜6:00に第282番会議室……だそうだ」
隗都「(やっぱり)」
棗 「内容は……」
隗都「いいよ、分かってるって…はぁ……めんどくせー……」
棗 「よろしく頼むぞ。医療部門の管理長殿……」
隗都「はいはい」
隗都「(N)この国は魔界の技術の最先端を行く国だ。
しかしどんな危険な事でも興味さえあれば何でもする。
自分の命を落とすことさえ辞さないのだ。
そのせいでこの国の死亡率はかなり高い。
今は色々と安全策を取るようになったので昔ほどではなくなったが、
年々、人数は減るばかりだ。
最も、その事に危機感を感じている奴はほとんどいないのだが。
子孫を残さねばならない事は皆、重々承知しているのだが、
何せ子供を作ると養育に時間がかかる。
その分研究にかける時間も割かなきゃならない。
これが、この国の奴等には耐えられないのだ。
だから俺達は子孫は試験管で作る。人数が減ってきた頃にまとめて。
その時期を皆『殖え時』と呼んでいた。
ちなみに、実験動物なんかも試験管から創り出していた。
その方が捕まえるよりも手間がかからないし楽だったから。
動物、魔獣から、時に魔族、人間まで。
毛髪一本手に入ればその情報からいくらでも量産可能だ。ほ〜ら、なんて楽ちん」
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷のいる部屋?)
祁杷「つまり、研究第一で、その他の犠牲は厭わない……
そんな方ばかりの国だったんですよ。
しかも研究に関してはほぼ無法地帯。
しかも他種族への扱いはもっと凄かったみだいです」
比呂「何か…すさまじいな。僕には理解できない……
それに……あんな奴にも恋人がいたんだな……。以外だ……」
祁杷「ふふ……そうですね」
(回想編。場面は研究室)
魔族「殺してくれ……早く…殺してくれ……」
棗 「まだ生きているのか。こいつはだいぶ耐性があるみたいだな。
隗都、次の薬剤投与量は1.5倍にしてみよう」
隗都「了解(棗の奴、随分喜でんな……)」
棗 「今回はなかなか面白い結果になりそうだ…」
威月「あぁ〜!!!僕の検体が自殺しちゃったよぉ〜!!!
もう!どうやって刃物なんか持ち込んだんだろ?」
棗 「メーターに術の発動記録が残っている。どうやら、術で出したようだな」
威月「そんなにゆっくり分析してる場合じゃないよぉ!
早く保存剤つけないと消えちゃう〜っ!!」
(SE:威月の走っていく音)
隗都「多分、もう間に合わないと思うけど……」
(少し間)
威月「あーあ、もったいない。やっぱ消えちゃったよ〜。
う〜……。もうやんなっちゃうな〜。
今度からもっと監視と拘束を厳しくすべきだよね。
今度、検体管理長に言っとこっと」
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷サイド)
比呂「さすがは……隗都の恋人と幼馴染み……。隗都なみに狂っている……」
祁杷「くす。比呂君、その頃生まれてなくて良かったですねぇ。
もし君がそんな国に迷い込んだりしていたら……」
比呂「考えたくないかも……(きっと原形も残らないだろうな……うん……)
ところで祁杷。
お前、何でそんなに詳しく知ってるんだ?隗都から聞いたのか?」
祁杷「箱の中身を見たのですよ」
比呂「それにしては詳しく知ってるような……」
祁杷「事細かに記録されていましたから」
(回想編2。場面は隗都と過去祁杷サイドへ)
隗都「(N)実はあの箱の中のメモリー記録ディスクにはもう何も記録されていない。
以前、俺と祁杷があれを発見した際に別の場所に記録を写したからだ。
そう、あれは確か……
祁杷がサタンと戦って魔族になってから少し経った頃だと思う」
祁杷「(過去)何なんだ、あれは」
隗都「突然何だよ、祁杷。今取り込み中だから後にしてくれよ。
せめてこの研究書を書き終わるまでさぁ……」
祁杷「(過去)いつ終わるんだ」
隗都「あと2週間ぐらい」
祁杷「(過去)…………俺の部屋の地下に薄気味悪い物を感じるんだ」
隗都「あ?お前、そりゃただの気のせいだろ。もしくは気にしすぎ」
祁杷「(過去)そんなわけあるか。それのせいでまったく眠れなかったんだぞ」
隗都「何デリケートなお姫様みてぇな事言ってんだよ、お前は」
祁杷「(過去)茶化すな」
隗都「だってお前の部屋の地下は何もないもん。あ、土があるか」
祁杷「(過去)それは分かっている。だからおかしいと言っているんだ」
隗都「言っただろ。お前はまだ魔族になって日が浅い。
それだけにまだ魔力、感覚、能力が不安定なんだよ。
今は特に、感覚が鋭くなってるせいで
地中のミミズとかモグラとかの気配まで察知しているんだろうよ」
祁杷「(過去)いや、ミミズやモグラとは違う感じなんだ。
何かこう無機質な……生き物というより物みたいな……」
隗都「ミミズとモグラの判別がつくのかよ!?」
祁杷「(過去)あ、あぁ……。他にもアリとかムカデとか……コケとか。
正直、ここ数日、周囲が騒がしくて仕方なかった」
隗都「ま、まじかよ……」
祁杷「(過去)しかし、どうやらこれも波があるみたいでな。今は普通だ。
まったく……こうも不安定だと本当にやりづらい……」
隗都「うーん……依然興味が湧いてきた…。よし!掘ってみるか!」
隗都「(N)その時見つけたのが、あの箱だった」
祁杷「(過去)何と書かれているんだ。異様すぎてまったく読めん」
隗都「【感染性危険物】(かんせんせいきけんぶつ)
しかしこんな感染性のモノをここまで地中深く埋めたって事は、
明らかに蔓延後って事だよなぁ……誰が埋めたんだろ?」
祁杷「(過去)話が見えない。説明しろ」
隗都「うるさいな〜。人がせっかく故郷の感傷にひたってんのに」
祁杷「(過去)感傷……?お前の故郷で何かあったのか?」
隗都「相当昔に滅亡しただけだよ」
隗都「(N)そう、今はもう俺達の国は存在しない。
理由は……結構普通な気がする」
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷サイド)
比呂「滅亡……?」
祁杷「ええ。理由は「はやり病」だったそうです。
人数が少なかった所為もあって、隗都以外の国民は全員」
比呂「そう…か……」
祁杷「命拾いしましたね、比呂君……?」
比呂「……確かにな……」
(回想編。魔界の研究室)
隗都「一体何があったんだよ、威月」
威月「ああ、隗都……。培養中の検体、実験用生物が全滅したんだ」
隗都「!?……へぇ……」
威月「それも、なんの前触れもなく、突然バタバタと。凄いでしょ?」
棗 「何か新種の病気だろう。今の所、原因も感染源も不明だ」
隗都「俺達への感染の可能性は?」
棗 「それも不明だ。しかし……おそらくは」
隗都「……まぁ、そうだろうな」
威月「ふふっ……いいね、わくわくしてきた♪」
隗都「……そうだな」
隗都「(N)突如発生したその新種の病。
その原因を究明するために、すぐさま国中をあげて行動を開始した。
この危機的状況の中で、国民の誰もが悦び、狂喜していた。
俺達の予想通り、国民に死者が出始めた時も、
深刻な状況を報告するその顔は、皆、どこか嬉しそうだった」
棗 「魔術部門の管理長が死んだそうだ。死因はおそらく……」
隗都「薄命病?(はくめいびょう)」
棗 「ああ。実験用生物と同じように、何の前触れもなく寿命が尽きたそうだ」
隗都「これで今月に入って4人目か……。まだ原因すら分かってないってのに」
棗 「……嬉しそうだな。隗都」
隗都「…棗もな」
隗都「(N)棗はいつものように微笑む。目を細め、自信に満ちて見下すように…。
寿命が突然短くなる病気。
その病状をそのまま反映して、俺達はその病を「薄命病」と呼ぶことにした。
そして、原因もわからないまま、2ヶ月ほどが過ぎ、国民の約3分の1が死んだ」
棗 「薄命病で死んだと考えられる者の死体を調べても、
行動ルートを調べても、何もわからないとはな……」
威月「微生物でもないし、中毒でもないし、
先天的なものでもなさそうだし、わけわかんないね。
特徴と言えば、死んだ奴の魔力の低下ぐらいかなぁ?」
棗 「それは寿命が短くなることによる二次的変化だろう。寄生性の何かか……」
威月「それならもっとこう、検査に反応してくれてもよさそうなんだよねぇ〜」
隗都「(N)威月はため息をついてうなだれた。
だいぶ疲れているようだが、それも無理もない。
病気の発生時から今まで俺達はまともに休んでいない。
その時、俺はふと何か違和感を覚えた。
威月を見ていたのに、突然それが違う奴に見えたような気がした」
隗都「…………?」
棗 「……どうした?隗都」
隗都「…違う……」
威月「……え?どうしたのさ?隗都」
隗都「威月、お前、魔力の波動が違わないか?部分的に」
威月「……は?」
隗都「(N)分かってみれば簡単なことだった。
病気の正体は「魔力」だったのだ。
それは俺達魔族の活動エネルギーでもあり、
魔術の根元であり、国の動力でもあった。
魔界のすべての物は魔力を含有(がんゆう)し、魔力より成る」
棗 「その一部の変質した魔力に接触することにより感染し、
触れる魔力を次々と連鎖的に変質させていたということか」
隗都「変質した魔力は本来の意味を成さず、放出されて、感染者の魔力は減少。
それに伴い、寿命が減少したと考えて、間違いはないだろう」
威月「僕ら魔族の寿命も魔力がもとだもんね」
隗都「(N)俺達はすぐさまこの事を国民全員に伝え、国中の魔族、
また、魔力を媒体、エネルギーとして用いている機器、
道具、呪具、すべてを調べた」
隗都「予想はしてたけど……全てアウトか」
威月「うん、全部。配線系統も全て」
棗 「それはそうだろう。この国…いや、魔界は全てが魔力を元に存在するのだから。
ただ、もう少し早く気付いていれば、隔離ぐらいは出来ていただろうな」
威月「今更言っても仕方ないよ。姉さん」
棗 「分かっている。だから、
こんな簡単な事に2ヶ月も費やしたのかと思うと腹立たしくてな」
隗都「俺らの回りに当然のようにあるものが原因だったんだ。
気付かなくても、無理はないさ」
棗 「…………」
威月「あぁ、そうそう。検査結果が出たんだ。報告しとく」
隗都「何の?」
威月「僕らの残り寿命さ。命日とも言う?」
棗 「威月……。そういう事は最初に言え」
威月「はいはい。えっとね、魔力の変質具合と侵食範囲、
侵食速度から算出したんだけど、
姉さんがあと94日。隗都があと93日だね。
二人共病気が蔓延し始めた時期に研究室で缶詰めになってたでしょ?
だから他のみんなより長いみたい」
隗都「(N)余命3ヶ月と伝える威月も、それを聞く俺達も特に動揺はなかった。
3ヶ月の間にどうにかすればいいのだ。
何も問題ない。全滅は何とか避けられそうだ」
隗都「威月はあと何日だ?」
威月「今見てる。え〜っと、僕はねぇ……あぁ、あった。僕はあと7日だってさ」
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷サイド)
比呂「『薄命病』なんて聞いた事ないけど……」
祁杷「それはそうでしょう。もうこの病気は何万年も前に撲滅されたそうですから。
治療法も予防法も、隗都が確立して、広めたそうです」
比呂「へぇ……あの隗都がな……。なんかそれを聞くといい奴っぽいな」
祁杷「『魔界が滅亡したら研究対象が無くなってつまらない』…だそうですよ」
比呂「……そんな事だろうと思った……」
(回想編。場面はだいぶ過去の魔界)
隗都「(N)技術の進歩、発展に犠牲はつきものだ。俺達はそれをよく理解している。
だから棗の発案に反対する奴は一人もいなかった」
棗 「残り寿命の短い者から順に生体実験、検査のためにその身を提供すること。
尚、第1期の対象者は、残り寿命が7日の者とする」
隗都「(N)死体を調べても、魔力…つまり病原は消失して意味がない。
ならば、今現在生きている者を調べるしか道はなかった」
威月「まともに話せるのはこれが最後だろうから言っとくね。
今僕が研究中なのはBF−67地区のセシリア族の生態と、
この前は発見されたばっかりのN2588−第9物質の毒性調査でしょ。
それの中和剤開発もよろしく。
あとは今度刊行予定の魔界植物大全第319巻の134ページからと、
新改良呪術集第896巻の5640ページからが僕の担当だったから
その執筆と編集おねがいしまーす。
あと〜……全部言ってると時間無いなあ。
残りは僕の部屋の研究予定日誌見て。
パスワードはMJK45107974。
最後に…僕ら国民全員の悲願達成のために、
この身が多いに活用される事を大変喜ばしく思います」
隗都「(N)威月が最後に言った台詞…それは国の者にとって、
お決まりの儀礼的挨拶だったが、
威月の顔はとても嬉しそうだった」
棗 「隗都は誰を担当するんだ?」
隗都「化学部門の研究員。棗は?」
棗 「威月だ。私から頼み込んだ。あいつは私が調べる」
隗都「そっか……。威月をよろしく」
棗 「任せろ」
(SE:棗の歩いていく音)
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷サイド)
比呂「狂ってる……。おかしいって…そんなの……」
祁杷「ええ。僕もそう思います。
ですが、それが彼らにとって常識であり、当然の事だったのです」
比呂「…その前に、そんな内容の話を平然と話すお前も充分怖いがな……」
祁杷「………」
(回想編。場面は棗の実験室?)
棗 「(N)悲鳴が実験室に響き渡った。
苦痛に歪む威月の顔色を見ながら、私は彼の喉元に針を突き刺し、薬を注入する」
棗 「……これで1分ごとに値を測定。30分後に中止。その間の記録は頼みます」
研究員「了解」
棗 「(N)威月の血の色で真っ赤になった手袋をすすぎながら、私はふと顔をあげる。
鏡には、目を細めて笑う、私の顔が映っていた。
実験室には先ほどより、いっそう苦しそうな威月の絶叫が響いていた」
棗 「安心しろ。威月……お前のおかげでまた、夢が一歩近づく…」
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷サイド)
比呂「……祁杷?…突然黙り込んでどうしたんだよ?」
祁杷「いえ、なんでもありません」
(回想編2。場面は祁杷(過去)の部屋の地下)
隗都「(N)地下から掘り出された箱に入っていたメモリー記録ディスクには、
棗の名前があった。
どうやらこれを埋めたのは棗らしい。日付はあいつの死んだ日だ」
隗都「いつの間にこんな所に埋めたんだか……」
祁杷「(過去)開けて大丈夫なのか?『感染症危険物』なんだろう?」
隗都「昔はな。ちなみにこのメモリー記録ディスクは、
記憶媒体が魔力なのさ。しかもこれは、思い出機能搭載」
祁杷「(過去)思い出機能?」
隗都「そう。記憶と共に当時の記録者の感情も記録できる。
……死の間際のあいつの『思い出』か……。
一体何が記録されてんのかね……」
隗都「(N)俺はディスクを再生させる装置を組み立て始めた」
(回想編。場面は相当昔の魔界の研究室…?)
隗都「(N)薄暗い部屋の中に、青白く光る円柱状の太い柱がいくつも並んでいた。
それは中でも培養液で満たした大きな試験管だ。
その上部には大量のチューブがつながり、中の液体へと続いていた。
そのうちの一つの試験管の前に、俺は立っていた。
目線の先には威月がいた。
培養液の中でチューブにつながれ、首だけとなって。
試験管の表面を軽くコンコンと叩くと、
閉じられた威月の瞼がゆっくりと開いた」
隗都「よ、威月。報告だけど、お前のお陰で、魔力変質の詳細が解明できた。ありがとな」
隗都「(N)首だけの威月はほんの少し……笑った。
それが、俺が見た最後の威月だった。
当初、病気の原因さえを突き止めれば、
治療法はすぐに分かるだろうと予想していた。
しかしその予想に反して、治療法の開発はかなり難航した。
魔力の変質部分を除去するには、
結局薬を使うのが良いだろうということになったが、
その薬の開発のためにまた何人もの仲間を実験体にした。
そしてついに、俺達は薬の開発に成功した。
そして、薬の開発に成功した時には、
生存者は既に俺と棗の二人だけになっていた。
……成功といっても、かなり問題のある代物だったが」
棗 「……出来たはいいが……治療範囲量と致死範囲量が近すぎるな……」
隗都「ああ……。一歩間違えば死ぬぜ?」
棗 「……隗都、お前の寿命はあと何日だ?」
隗都「3日」
棗 「私はあと4日だ。もう新しい薬を作っている暇はない」
隗都「分かってるよ。だから、あと一人犠牲になればいい。
あと一人が犠牲になって、
もっと正確な量を割り出せばいい、つまり俺を……」
棗 「私を実験体にしろ」
隗都「……はぁ?何言ってんだよ。順序的に俺を使うのが当然じゃねぇか」
棗 「………」
隗都「何で……」
棗 「隗都、私達の夢は何だ?」
隗都「(N)俺達の夢、国の皆が目指した悲願。それは……」
棗 「あまり認めたくはないが……
隗都…お前は私より頭もいいし、才能もある。
『この世の全てを解明し、理解する』
これを達成するのは、お前にこそ相応しいと私は考えている」
隗都「棗っ!そんな事俺だってっ…!」
棗 「お前は私が生かしてやる。死なせはしない」
隗都「おい、どうしたんだよ、棗……らしくないぜ?」
棗 「…やかましい。こういう時、男は女の願いを聞きいれるものだろうが」
隗都「(N)その時の決まりの悪そうな棗の顔が妙に愛しくなって」
隗都「はは……しょうがねぇなぁ」
隗都「(N)俺はそう言いながら、そっと棗を抱きしめ、心を決めた」
棗 「(N)ここで、全てを無駄にするわけにはいかない。
隗都さえ…隗都さえいれば……
私たちの魂が途切れることはない……隗都なら…」
棗 「――――」
隗都「……棗……?」
隗都「(N)実験体用のベッドに仰向けに寝ている棗の唇が、
微かに動き、俺は棗の名を呼んだ。
しかし、俺の呼びかけに答える事なく、そのまま彼女の命は終わった」
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷サイド)
比呂「自分の恋人まで実験体にしたのか……」
祁杷「隗都はそういう男ですよ」
比呂「…………な、なぁ、祁杷……
このまま隗都の助手をしていても平気だと思うか……?」
祁杷「さぁ?僕はどうにか生きてこられましたけど……
比呂君はどうでしょうね」
比呂「…そんな哀れみの目で見るな」
隗都「(N)俺は生かされた。国中の仲間の為に。
威月の為に。棗の為に。あいつらが死んだから、今の俺が在る。
…不思議だな。国があった時よりも、今の方がお前達を近くに感じるよ。
棗…威月…皆…皆一つだ」
比呂「でも……その国の奴等は何でそこまでして自分の命も軽く手放せるんだよ……
研究第1って言ったって、生きてなきゃ出来ないだろ」
祁杷「……『遺託制度』というものがありましてね」
比呂「『遺託制度』……?」
祁杷「『国に残されし生存者は、死者の研究、知識、
その他の望みをすべて引き継ぐ義務がある』
……研究に関してはほぼ無法地帯だった国の唯一、
最大の力をもった法……いえ、思想でした。
隗都が今、ありとあらゆる分野の研究を続けているのはそういう理由もあるのです。
まぁ、大半は自分が興味があるから調べているのでしょうけど。
まぁ僕からはこれくらいですか」
比呂「……おかしい。やっぱりお前は詳しすぎる。
本当にあのディスクにそんな事細かに記録してあったのか?」
祁杷「ええ。そうですよ」
比呂「…………」
祁杷「(N)実際、僕は嘘はついていない。
この事実は、本当にあのメモリー記録ディスクから得たものだ。
ただし、この話には続きがある」
(回想編2。場面は祁杷の部屋の地下室)
祁杷「(過去)(N)隗都が装置の組み立てを黙々と続ける姿を横目に見つつ、
俺は箱の中身に目を向けた。
箱の中には薄い青色をした半透明の四角い板のような物が収まっていた」
祁杷「(過去)こんなものに本当に記録が出来るのか……」
祁杷「(過去)(N)俺は何気なくその板を手に取った」
隗都「落として壊すなよ」
祁杷「(過去)(N)その時、突然その場の空気が重くなった気がした。
いや、重かった。前にもこの感覚を味わった覚えがある」
祁杷「……(しまったっ!)」
祁杷「(過去)(N)気付いた時にはもう遅かった。
俺には人間だった時から特殊な能力があった。
それは、『吸収能力』。
魔力、術、感情、記憶、時には命までも吸収可能な自分の能力。
幼い頃はその力の制御がきかずにとても苦労したのを覚えている。
大人になった今はもう自分の能力の制御は出来ていた。
ヒト人間だった時には」
隗都(「お前はまだ魔族になって日が浅い。
それだけに、まだ魔力、感覚、能力が不安定なんだよ……」)
隗都(「このメモリー記録ディスクは記憶媒体が魔力なのさ」)
祁杷「……(不覚…だ)」
祁杷「(過去)(N)膨大な量の情報と感情が、次々と流れ込み、
棗という魔族の生涯の記憶が脳裏に焼き付けられていく。
頭が割れるように痛んだ」
隗都「祁杷……?」
隗都「(N)俺がふと顔を上げた時、
祁杷はメモリー記録ディスクを見つめたまま、ぼうっと突っ立っていた。
何か様子がおかしい」
隗都「どうしたんだよ、祁杷」
隗都「(N)声に気付いたのか、祁杷はゆっくりとこちらを向いた」
隗都「……大丈夫か?」
隗都「(N)5秒ほど俺を見ていたかと思うと、祁杷はその顔に笑みを浮かべた」
隗都「……おまえっ…」
隗都「(N)目を細め、自信に満ちて見下すように笑っていた。その顔はまるで……」
隗都「…棗……」
隗都「(N)そういうと祁杷はゆっくりこちらに歩み寄ってきた。
俺の体は金縛りにでもあったみたいに硬直して動かない。
左腕を俺の首にまわし、もたれかかると、左の耳元でこう囁いた」
祁杷「(棗)まだ…生きているのだな……そう…それでいい…。
お前は生き続けろ…永遠に…ずっと……」
隗都「棗…お前……って、うわぁっ!!」
隗都「(N)もたれかかる祁杷の体重を支えきれずに俺は後ろに倒れる。
二つの鈍い音が部屋の中に響き渡った」
(少し間)
隗都「ええと……つまりディスクの中には
棗の知識と思い出がすべて記録されていたんだな?」
祁杷「(過去)ああ、そうだ」
二人「はぁ……」「ハァ……」
隗都「じゃあもうこのディスクの中身は全部お前の頭ん中って訳か」
祁杷「(過去)ワザとじゃないんだ……悪かったな……」
二人「………」「………」
隗都「(過去)ところであの言葉の意味なんだが」
祁杷「…………」
隗都「なっ……なんだよ!怖いぞ、お前」
祁杷「(過去)その話題に触れるな」
隗都「……ははぁ……お前、俺にときめいちゃったのがショックなんだろ」
祁杷「(過去)違うっっ!!あれは貴様の女のっ!!」
隗都「でもお前も感じたんだろ?どんな感じだった?ドキドキした?」
祁杷「(過去)―――ッ!!」
隗都「どうなんだよ、お前が教えてくれないとわかんないだろ?
もうこのディスクは空になっちまったんだから」
祁杷「(過去)やかましいっ!!貴様に話す事などないっ!!!」
(SE:殴る音)
隗都「ぐあっ……」
祁杷「(N)僕の頭には棗の『思い出』が記録されてしまった。
だから、ときたま隗都の昔の話になると、
彼女の記憶の断片が頭をよぎる」
(祁杷の回想編)
威月「まさか、姉さんが隗都とそーゆー仲になるとはね〜。
一体隗都のどこがそんなに気に入ったのさ?」
棗 「隗都は…私や、この国の他の者には無いモノを持っていた。
そこに無償に惹かれたのだろう」
威月「あ〜それ分かるかも……隗都は実験体出身だもんね」
祁杷「(N)当時、あの国の住人達は繁殖目的で生産された者がほとんどだったが、
実験目的で生産された個体も、実験終了後まで生存していれば
そのまま国民となっていた。ただし、生き残ること自体非常に稀ではあったが。
隗都はとある新薬の催奇性を見る実験のために作られたのだ。
そして迷惑なことに奇跡的に生き残った」
棗 「ああ……私達と違って操作を受けてない隗都は、
我々の悲願達成に最も近いだろう」
祁杷「(N)『操作』とは、個体の作成過程で施される、
人間で言う遺伝子操作のようなものだ。
これにより、国民はみな天才的頭脳と
研究者として育つのに都合の良い思想を産まれながらにして持つ。
ただ、それは生物として必要な一つの感情も失わせる結果となっていた」
棗 「隗都には…『死への恐怖』がある。しかも何の操作も受けずに、
あれだけの頭脳と思想を持ち合わせる事は奇跡に近い」
威月「だから好きになったの?」
祁杷「(N)僕はまた別の思い出の扉を開ける」
棗 「最後の結果まで到達しなければ研究をする意味がないだろう。
結果が出るからこそ私は楽しい」
隗都「俺はそれを調べてる時の方が楽しいし面白いけどな」
棗 「……」
隗都「棗も、もっと過程を楽しめばいいのに」
祁杷「(N)棗は結果至上主義で、隗都は結果より過程を楽しむ主義。
僕から見れば、それはたいして珍しい言葉ではない……
が、この言葉は棗にとっては衝撃だった。夢の実現への激しい執着心。
それが彼女の中で隗都を生かし続ける事へと繋がったのだと思う。
それが、夢の実現になると……。
『隗都を永遠にしたい』その心は、
当人の意志も希望もまったく無視している。
彼女は…隗都の心を利用したのだ。
隗都を一人残すことで、隗都は隗都でその状況を喜び、
夢の実現まで、いつまでも生きようとするだろうと。
どんな手を使っても……」
棗 「私は…あれを永遠に留めたい」
祁杷「(ため息)……不愉快ですね……」
隗都「俺も棗も、内心分かってはいたんだ。
俺達の望みをかなえることは不可能だと。
それでも棗や皆はそれを否定しようと研究に没頭していた。
でも俺は不可能であることが嬉しい。
だって『全て』を理解してしまったら、
あいつ等は満足して俺のもとからいなくなってしまうだろう。
俺は次に何を研究すればいい?望みの先にあるものは俺にとっては『無』。
どうしようもなくつまらない世界だ。
でも大丈夫。俺達の望みは永遠に叶わない。
だから俺はずっと研究を続けられる。
こんなに楽しい事は無い。あいつ等もずっと傍にいてくれるだろう。
それこそ、永遠に……」
(場面は現代の魔界。隗都の部屋)
(SE:ドアをノックする音)
祁杷「隗都、入りますよ。例のお届け物です」
隗都「あ〜、サンキュ〜」
祁杷「この箱……まだ捨ててなかったんですね」
隗都「捨て忘れてただけだよ。もう捨てる。どうせ中身は空だしな」
祁杷「ええ。そうしてください。いつまでも残っていると、不愉快ですから」
隗都「……今の会話ってなんか、
元カノのプレゼントを大事にとっておく彼氏に怒る現彼女みたいだな」
二人「…………」
隗都「悪い、自分で言って気持ち悪くなってきた」
祁杷「それ以上に僕は気持ち悪いですよ」
(SE:祁杷の歩いていく音とドアの開く音としまる音)
隗都「こんなもの無くても、過去は永遠に俺とともにあるんだよ」
(SE;ごみ箱に捨てる音)
祁杷「(N)隗都はどうしてあそこまで生きる事、
研究を続けることに執着するのか。答えは分かりきっている。
そうすることであいつは仲間を、友を、恋人を傍らに感じているのだ。
遥か昔、この地にあった国は、すでに跡形もない。
今は隗都の研究所が建っているだけだ。
その姿を眺めていると、こう思われずにはいられない。
まるで、墓標のようだ……と」
終
![](https://image02.seesaawiki.jp/h/t/honeypocket/8a9a6cc134dccd02.jpg)
【ドラマ】【ホラー】
登場人物 | 詳細 | 配役 |
隗都 [カイト] | 見た目23歳 かなりのマッドサイエンティスト。 自分の興味のあること意外の研究は絶対にしない。 魔界医学の第一人者。かなりのマッドサイエンティスト。 実年齢は〜万歳らしい…… | ウぅ´∞` |
棗 [ナツメ] | 見た目23歳 結果至上主義、目的のためなら手段は選ばない。 自分の邪魔になるものにはどこまでも冷徹 威月の姉であり、隗都の恋人。 国が滅亡する際、自分より隗都を生かす事を選び、死亡。 | 谷風結香 |
威月 [イツキ] | 見た目16歳 無邪気。唯我独尊 棗の弟で、 隗都と年が同じ。天使の微笑みで、悪魔のような言動をする、 おぞましき奴。女好き。薄命病により、実験の検体となり、死亡。 | めーさん |
比呂 [ヒロ] | 見た目19歳 それなりに暗いが話す事には話す。結構生意気なところあり。 実は魔界を追われた魔族さん。人間界で暮らしていたが、 ひょんなことから隗都の助手になる。 | 岩月十夜 |
祁杷 [キワ] | 見た目25歳 いつも笑顔で笑ってるですます口調の魔族さん。 魔界の魔王たちとは別に存在する「四死魔」(ししま)の一人。 かなり腹黒いが、ホワイトとブラックがいる。 (※この話に限り、過去のきわっちが出てきます) | ベア |
エキストラ | 魔族 男女どちらでも可 一言のみ | 霧島夏希 |
エキストラ | 研究員 男女どちらでも可 一言のみ | 長谷川絢香 |
(プロローグ)
棗 「永遠にしたい」
隗都「何を……?」
隗都「(N)棗は俺を見て微笑んだ。目を細め、自信に満ちて、見下すように……」
(プロローグ終り)
(場面は現代の魔界。隗都の資料室にいる比呂)
比呂「はぁ……なんだこの大量の資料は。
しかもこの部屋の広さは。天井なんか高すぎて見えないぞ。
ついでにこの部屋の汚さ……この部屋を掃除しろだなんで、
こんなの、一生かかっても無理に決まってる……。
……でもやるしかないんだよな……うん」
(少し間)
比呂「ん?何だこの箱……?随分と汚いようだが……なんか文字が書いてあるな。
えっと……だめだ。古すぎて読めない。だいたいこんな文字、今は使われてないぞ」
(SE:隗都の足音)
隗都「どうだ〜比呂〜?進んでるか?」
比呂「あ、隗都。丁度よかった。これ一体何なんだ?整理するにも分類が分からないが」
隗都「……は?あ〜、別にそれ捨ててもいいやつだ。でも……懐かしいなぁ…これ」
比呂「懐かしい?」
隗都「ああ。これはな、俺の生まれた国の事に関する記録の入ってた箱さ」
比呂「お前の生まれた国…か。
……それにしては随分と古いじゃないか。この文字といい……」
隗都「お前な、俺が今いくつだと思ってんだよ?古くて当たり前だろ?」
比呂「そう言われればそうだが……そういえば、お前って今何歳なんだ?」
隗都「………計算すんの面倒だなあ」
比呂「自分の歳もわかんないのかよ!!??」
隗都「しょうがねぇだろ。俺が生まれてから暦の数え方が5回ぐらい変ってんだから。
今使われてる暦に換算すんのがめんどいんだよ。別にいいじゃん、
ここまで来ると1も1000もたいした問題にならないだろ?」
比呂「……ありえない……
だって、暦の数え方なんて滅多に変わるもんじゃないし、それが5回もって事は……
少なくとも5桁を超えてるってことか!?ちょ、ちょっと待て。
魔族の寿命って魔王クラスの奴等でも何千年かが限度だろ!?」
隗都「その辺は秘密。気が向いたら教えてやるよ」
比呂「……(バケモノ……)ところでその国って、一体どんな所なんだ?」
隗都「どんな国か…か……。そうだな、『俺みたいな種族』のいる国だった。わかるだろ?」
比呂「隗都みたいな……?……つまり、『陰険で狂気じみた腹黒い種族』ということか……」
隗都「違う。『研究好きで好奇心旺盛な種族』って意味なんだけど」
比呂「あ……」
隗都「そーかそーか。俺は『陰険で狂気じみてて腹黒い』のか……」
比呂「ちっ……違っっ!!」
隗都「覚えとくよ。ふふふふふ……」
(SE:比呂の消える音)
(少し間)
隗都「……陰険で狂気じみてて腹黒くないと、魔界でここまで生きて来れねぇよ」
(少し間)
比呂「(結局、あんまり詳しい事は聞けなかった……)」
祁杷「おや、どうしたのです?そんなに息を切らして」
比呂「げっ!!」
祁杷「そんな嫌そうな顔をしなくてもいいでしょう?比呂くん」
比呂「な…何の用だよ!?」
隗都「いえ、ただの届け物です」
比呂「そ、そうか。隗都なら資料室だ」
祁杷「そうですか」
比呂「あ、おい。ちょっと待て」
祁杷「何でしょう?僕に聞きたい事でも?」
比呂「ああ。隗都の事についてなんだが……」
祁杷「本人に聞いたらどうですか?……と言いたいところですけど、
まぁ、あまり話してはくれないでしょうね……。
ふっ…いいですよ。話しても」
比呂「(な、なんか嫌な予感がするのは気のせいだろうか……)」
祁杷「隗都の生まれた国はですね……」
(少し間)
(回想編。場面は隗都の国)
隗都「(N)俺の生まれた国は研究者達の国……というより、
皆、何かしらの研究をするのを生きがいとするような種族の国だった。
それこそ国全体が大きな一つの研究所の様だった。あの頃も俺は医者で、
魔界医学を始めとする様々な分野の研究をしていた。
今も昔も、俺のやっていることに大差はない。
変った事といえば、あいつらがいなくなったことぐらいか。
しかし、俺は今でもあいつらの事を傍らに感じる。
いつでも。ずっと……」
威月「なぁ…聞いた?隗都」
隗都「……何が?」
威月「NP−37地区の生態調査に行ってた奴等の生命反応が消えたんだってサ。
全滅だって」
隗都「あ〜……あそこはかなりヤバイかもな。確か10人くらいで行ったんだったか」
威月「うん。あ〜あ、また減っちゃったねぇ〜」
隗都「そうだな。これで人口100人切ったもんなぁ。
そろそろ『殖え時』(ふえどき)だな」
威月「あ〜あ、めんどくさいなぁ。
研究中断しなきゃなんないじゃん。僕今忙しいのになぁ……」
隗都「そうだっ!死体は転送されてきたのか?」
威月「うん。だってそのために隗都呼びに来たんだもん」
隗都「お前、そういう事は早く言えよ」
(回想編。場面は研究室)
棗 「……つまらんな。ただ魔獣にやられただけとは」
隗都「そう言うなって。これで検体の方は増えたんだしさ」
棗 「しかしこれでまた人数が減ってしまった。そろそろ『殖え時』だな」
隗都「……そうだな(しかし、そうなると次の棗のセリフは……)」
棗 「今夜、各セクションの管理長に招集がかかった。
各管理長は今夜6:00に第282番会議室……だそうだ」
隗都「(やっぱり)」
棗 「内容は……」
隗都「いいよ、分かってるって…はぁ……めんどくせー……」
棗 「よろしく頼むぞ。医療部門の管理長殿……」
隗都「はいはい」
隗都「(N)この国は魔界の技術の最先端を行く国だ。
しかしどんな危険な事でも興味さえあれば何でもする。
自分の命を落とすことさえ辞さないのだ。
そのせいでこの国の死亡率はかなり高い。
今は色々と安全策を取るようになったので昔ほどではなくなったが、
年々、人数は減るばかりだ。
最も、その事に危機感を感じている奴はほとんどいないのだが。
子孫を残さねばならない事は皆、重々承知しているのだが、
何せ子供を作ると養育に時間がかかる。
その分研究にかける時間も割かなきゃならない。
これが、この国の奴等には耐えられないのだ。
だから俺達は子孫は試験管で作る。人数が減ってきた頃にまとめて。
その時期を皆『殖え時』と呼んでいた。
ちなみに、実験動物なんかも試験管から創り出していた。
その方が捕まえるよりも手間がかからないし楽だったから。
動物、魔獣から、時に魔族、人間まで。
毛髪一本手に入ればその情報からいくらでも量産可能だ。ほ〜ら、なんて楽ちん」
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷のいる部屋?)
祁杷「つまり、研究第一で、その他の犠牲は厭わない……
そんな方ばかりの国だったんですよ。
しかも研究に関してはほぼ無法地帯。
しかも他種族への扱いはもっと凄かったみだいです」
比呂「何か…すさまじいな。僕には理解できない……
それに……あんな奴にも恋人がいたんだな……。以外だ……」
祁杷「ふふ……そうですね」
(回想編。場面は研究室)
魔族「殺してくれ……早く…殺してくれ……」
棗 「まだ生きているのか。こいつはだいぶ耐性があるみたいだな。
隗都、次の薬剤投与量は1.5倍にしてみよう」
隗都「了解(棗の奴、随分喜でんな……)」
棗 「今回はなかなか面白い結果になりそうだ…」
威月「あぁ〜!!!僕の検体が自殺しちゃったよぉ〜!!!
もう!どうやって刃物なんか持ち込んだんだろ?」
棗 「メーターに術の発動記録が残っている。どうやら、術で出したようだな」
威月「そんなにゆっくり分析してる場合じゃないよぉ!
早く保存剤つけないと消えちゃう〜っ!!」
(SE:威月の走っていく音)
隗都「多分、もう間に合わないと思うけど……」
(少し間)
威月「あーあ、もったいない。やっぱ消えちゃったよ〜。
う〜……。もうやんなっちゃうな〜。
今度からもっと監視と拘束を厳しくすべきだよね。
今度、検体管理長に言っとこっと」
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷サイド)
比呂「さすがは……隗都の恋人と幼馴染み……。隗都なみに狂っている……」
祁杷「くす。比呂君、その頃生まれてなくて良かったですねぇ。
もし君がそんな国に迷い込んだりしていたら……」
比呂「考えたくないかも……(きっと原形も残らないだろうな……うん……)
ところで祁杷。
お前、何でそんなに詳しく知ってるんだ?隗都から聞いたのか?」
祁杷「箱の中身を見たのですよ」
比呂「それにしては詳しく知ってるような……」
祁杷「事細かに記録されていましたから」
(回想編2。場面は隗都と過去祁杷サイドへ)
隗都「(N)実はあの箱の中のメモリー記録ディスクにはもう何も記録されていない。
以前、俺と祁杷があれを発見した際に別の場所に記録を写したからだ。
そう、あれは確か……
祁杷がサタンと戦って魔族になってから少し経った頃だと思う」
祁杷「(過去)何なんだ、あれは」
隗都「突然何だよ、祁杷。今取り込み中だから後にしてくれよ。
せめてこの研究書を書き終わるまでさぁ……」
祁杷「(過去)いつ終わるんだ」
隗都「あと2週間ぐらい」
祁杷「(過去)…………俺の部屋の地下に薄気味悪い物を感じるんだ」
隗都「あ?お前、そりゃただの気のせいだろ。もしくは気にしすぎ」
祁杷「(過去)そんなわけあるか。それのせいでまったく眠れなかったんだぞ」
隗都「何デリケートなお姫様みてぇな事言ってんだよ、お前は」
祁杷「(過去)茶化すな」
隗都「だってお前の部屋の地下は何もないもん。あ、土があるか」
祁杷「(過去)それは分かっている。だからおかしいと言っているんだ」
隗都「言っただろ。お前はまだ魔族になって日が浅い。
それだけにまだ魔力、感覚、能力が不安定なんだよ。
今は特に、感覚が鋭くなってるせいで
地中のミミズとかモグラとかの気配まで察知しているんだろうよ」
祁杷「(過去)いや、ミミズやモグラとは違う感じなんだ。
何かこう無機質な……生き物というより物みたいな……」
隗都「ミミズとモグラの判別がつくのかよ!?」
祁杷「(過去)あ、あぁ……。他にもアリとかムカデとか……コケとか。
正直、ここ数日、周囲が騒がしくて仕方なかった」
隗都「ま、まじかよ……」
祁杷「(過去)しかし、どうやらこれも波があるみたいでな。今は普通だ。
まったく……こうも不安定だと本当にやりづらい……」
隗都「うーん……依然興味が湧いてきた…。よし!掘ってみるか!」
隗都「(N)その時見つけたのが、あの箱だった」
祁杷「(過去)何と書かれているんだ。異様すぎてまったく読めん」
隗都「【感染性危険物】(かんせんせいきけんぶつ)
しかしこんな感染性のモノをここまで地中深く埋めたって事は、
明らかに蔓延後って事だよなぁ……誰が埋めたんだろ?」
祁杷「(過去)話が見えない。説明しろ」
隗都「うるさいな〜。人がせっかく故郷の感傷にひたってんのに」
祁杷「(過去)感傷……?お前の故郷で何かあったのか?」
隗都「相当昔に滅亡しただけだよ」
隗都「(N)そう、今はもう俺達の国は存在しない。
理由は……結構普通な気がする」
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷サイド)
比呂「滅亡……?」
祁杷「ええ。理由は「はやり病」だったそうです。
人数が少なかった所為もあって、隗都以外の国民は全員」
比呂「そう…か……」
祁杷「命拾いしましたね、比呂君……?」
比呂「……確かにな……」
(回想編。魔界の研究室)
隗都「一体何があったんだよ、威月」
威月「ああ、隗都……。培養中の検体、実験用生物が全滅したんだ」
隗都「!?……へぇ……」
威月「それも、なんの前触れもなく、突然バタバタと。凄いでしょ?」
棗 「何か新種の病気だろう。今の所、原因も感染源も不明だ」
隗都「俺達への感染の可能性は?」
棗 「それも不明だ。しかし……おそらくは」
隗都「……まぁ、そうだろうな」
威月「ふふっ……いいね、わくわくしてきた♪」
隗都「……そうだな」
隗都「(N)突如発生したその新種の病。
その原因を究明するために、すぐさま国中をあげて行動を開始した。
この危機的状況の中で、国民の誰もが悦び、狂喜していた。
俺達の予想通り、国民に死者が出始めた時も、
深刻な状況を報告するその顔は、皆、どこか嬉しそうだった」
棗 「魔術部門の管理長が死んだそうだ。死因はおそらく……」
隗都「薄命病?(はくめいびょう)」
棗 「ああ。実験用生物と同じように、何の前触れもなく寿命が尽きたそうだ」
隗都「これで今月に入って4人目か……。まだ原因すら分かってないってのに」
棗 「……嬉しそうだな。隗都」
隗都「…棗もな」
隗都「(N)棗はいつものように微笑む。目を細め、自信に満ちて見下すように…。
寿命が突然短くなる病気。
その病状をそのまま反映して、俺達はその病を「薄命病」と呼ぶことにした。
そして、原因もわからないまま、2ヶ月ほどが過ぎ、国民の約3分の1が死んだ」
棗 「薄命病で死んだと考えられる者の死体を調べても、
行動ルートを調べても、何もわからないとはな……」
威月「微生物でもないし、中毒でもないし、
先天的なものでもなさそうだし、わけわかんないね。
特徴と言えば、死んだ奴の魔力の低下ぐらいかなぁ?」
棗 「それは寿命が短くなることによる二次的変化だろう。寄生性の何かか……」
威月「それならもっとこう、検査に反応してくれてもよさそうなんだよねぇ〜」
隗都「(N)威月はため息をついてうなだれた。
だいぶ疲れているようだが、それも無理もない。
病気の発生時から今まで俺達はまともに休んでいない。
その時、俺はふと何か違和感を覚えた。
威月を見ていたのに、突然それが違う奴に見えたような気がした」
隗都「…………?」
棗 「……どうした?隗都」
隗都「…違う……」
威月「……え?どうしたのさ?隗都」
隗都「威月、お前、魔力の波動が違わないか?部分的に」
威月「……は?」
隗都「(N)分かってみれば簡単なことだった。
病気の正体は「魔力」だったのだ。
それは俺達魔族の活動エネルギーでもあり、
魔術の根元であり、国の動力でもあった。
魔界のすべての物は魔力を含有(がんゆう)し、魔力より成る」
棗 「その一部の変質した魔力に接触することにより感染し、
触れる魔力を次々と連鎖的に変質させていたということか」
隗都「変質した魔力は本来の意味を成さず、放出されて、感染者の魔力は減少。
それに伴い、寿命が減少したと考えて、間違いはないだろう」
威月「僕ら魔族の寿命も魔力がもとだもんね」
隗都「(N)俺達はすぐさまこの事を国民全員に伝え、国中の魔族、
また、魔力を媒体、エネルギーとして用いている機器、
道具、呪具、すべてを調べた」
隗都「予想はしてたけど……全てアウトか」
威月「うん、全部。配線系統も全て」
棗 「それはそうだろう。この国…いや、魔界は全てが魔力を元に存在するのだから。
ただ、もう少し早く気付いていれば、隔離ぐらいは出来ていただろうな」
威月「今更言っても仕方ないよ。姉さん」
棗 「分かっている。だから、
こんな簡単な事に2ヶ月も費やしたのかと思うと腹立たしくてな」
隗都「俺らの回りに当然のようにあるものが原因だったんだ。
気付かなくても、無理はないさ」
棗 「…………」
威月「あぁ、そうそう。検査結果が出たんだ。報告しとく」
隗都「何の?」
威月「僕らの残り寿命さ。命日とも言う?」
棗 「威月……。そういう事は最初に言え」
威月「はいはい。えっとね、魔力の変質具合と侵食範囲、
侵食速度から算出したんだけど、
姉さんがあと94日。隗都があと93日だね。
二人共病気が蔓延し始めた時期に研究室で缶詰めになってたでしょ?
だから他のみんなより長いみたい」
隗都「(N)余命3ヶ月と伝える威月も、それを聞く俺達も特に動揺はなかった。
3ヶ月の間にどうにかすればいいのだ。
何も問題ない。全滅は何とか避けられそうだ」
隗都「威月はあと何日だ?」
威月「今見てる。え〜っと、僕はねぇ……あぁ、あった。僕はあと7日だってさ」
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷サイド)
比呂「『薄命病』なんて聞いた事ないけど……」
祁杷「それはそうでしょう。もうこの病気は何万年も前に撲滅されたそうですから。
治療法も予防法も、隗都が確立して、広めたそうです」
比呂「へぇ……あの隗都がな……。なんかそれを聞くといい奴っぽいな」
祁杷「『魔界が滅亡したら研究対象が無くなってつまらない』…だそうですよ」
比呂「……そんな事だろうと思った……」
(回想編。場面はだいぶ過去の魔界)
隗都「(N)技術の進歩、発展に犠牲はつきものだ。俺達はそれをよく理解している。
だから棗の発案に反対する奴は一人もいなかった」
棗 「残り寿命の短い者から順に生体実験、検査のためにその身を提供すること。
尚、第1期の対象者は、残り寿命が7日の者とする」
隗都「(N)死体を調べても、魔力…つまり病原は消失して意味がない。
ならば、今現在生きている者を調べるしか道はなかった」
威月「まともに話せるのはこれが最後だろうから言っとくね。
今僕が研究中なのはBF−67地区のセシリア族の生態と、
この前は発見されたばっかりのN2588−第9物質の毒性調査でしょ。
それの中和剤開発もよろしく。
あとは今度刊行予定の魔界植物大全第319巻の134ページからと、
新改良呪術集第896巻の5640ページからが僕の担当だったから
その執筆と編集おねがいしまーす。
あと〜……全部言ってると時間無いなあ。
残りは僕の部屋の研究予定日誌見て。
パスワードはMJK45107974。
最後に…僕ら国民全員の悲願達成のために、
この身が多いに活用される事を大変喜ばしく思います」
隗都「(N)威月が最後に言った台詞…それは国の者にとって、
お決まりの儀礼的挨拶だったが、
威月の顔はとても嬉しそうだった」
棗 「隗都は誰を担当するんだ?」
隗都「化学部門の研究員。棗は?」
棗 「威月だ。私から頼み込んだ。あいつは私が調べる」
隗都「そっか……。威月をよろしく」
棗 「任せろ」
(SE:棗の歩いていく音)
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷サイド)
比呂「狂ってる……。おかしいって…そんなの……」
祁杷「ええ。僕もそう思います。
ですが、それが彼らにとって常識であり、当然の事だったのです」
比呂「…その前に、そんな内容の話を平然と話すお前も充分怖いがな……」
祁杷「………」
(回想編。場面は棗の実験室?)
棗 「(N)悲鳴が実験室に響き渡った。
苦痛に歪む威月の顔色を見ながら、私は彼の喉元に針を突き刺し、薬を注入する」
棗 「……これで1分ごとに値を測定。30分後に中止。その間の記録は頼みます」
研究員「了解」
棗 「(N)威月の血の色で真っ赤になった手袋をすすぎながら、私はふと顔をあげる。
鏡には、目を細めて笑う、私の顔が映っていた。
実験室には先ほどより、いっそう苦しそうな威月の絶叫が響いていた」
棗 「安心しろ。威月……お前のおかげでまた、夢が一歩近づく…」
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷サイド)
比呂「……祁杷?…突然黙り込んでどうしたんだよ?」
祁杷「いえ、なんでもありません」
(回想編2。場面は祁杷(過去)の部屋の地下)
隗都「(N)地下から掘り出された箱に入っていたメモリー記録ディスクには、
棗の名前があった。
どうやらこれを埋めたのは棗らしい。日付はあいつの死んだ日だ」
隗都「いつの間にこんな所に埋めたんだか……」
祁杷「(過去)開けて大丈夫なのか?『感染症危険物』なんだろう?」
隗都「昔はな。ちなみにこのメモリー記録ディスクは、
記憶媒体が魔力なのさ。しかもこれは、思い出機能搭載」
祁杷「(過去)思い出機能?」
隗都「そう。記憶と共に当時の記録者の感情も記録できる。
……死の間際のあいつの『思い出』か……。
一体何が記録されてんのかね……」
隗都「(N)俺はディスクを再生させる装置を組み立て始めた」
(回想編。場面は相当昔の魔界の研究室…?)
隗都「(N)薄暗い部屋の中に、青白く光る円柱状の太い柱がいくつも並んでいた。
それは中でも培養液で満たした大きな試験管だ。
その上部には大量のチューブがつながり、中の液体へと続いていた。
そのうちの一つの試験管の前に、俺は立っていた。
目線の先には威月がいた。
培養液の中でチューブにつながれ、首だけとなって。
試験管の表面を軽くコンコンと叩くと、
閉じられた威月の瞼がゆっくりと開いた」
隗都「よ、威月。報告だけど、お前のお陰で、魔力変質の詳細が解明できた。ありがとな」
隗都「(N)首だけの威月はほんの少し……笑った。
それが、俺が見た最後の威月だった。
当初、病気の原因さえを突き止めれば、
治療法はすぐに分かるだろうと予想していた。
しかしその予想に反して、治療法の開発はかなり難航した。
魔力の変質部分を除去するには、
結局薬を使うのが良いだろうということになったが、
その薬の開発のためにまた何人もの仲間を実験体にした。
そしてついに、俺達は薬の開発に成功した。
そして、薬の開発に成功した時には、
生存者は既に俺と棗の二人だけになっていた。
……成功といっても、かなり問題のある代物だったが」
棗 「……出来たはいいが……治療範囲量と致死範囲量が近すぎるな……」
隗都「ああ……。一歩間違えば死ぬぜ?」
棗 「……隗都、お前の寿命はあと何日だ?」
隗都「3日」
棗 「私はあと4日だ。もう新しい薬を作っている暇はない」
隗都「分かってるよ。だから、あと一人犠牲になればいい。
あと一人が犠牲になって、
もっと正確な量を割り出せばいい、つまり俺を……」
棗 「私を実験体にしろ」
隗都「……はぁ?何言ってんだよ。順序的に俺を使うのが当然じゃねぇか」
棗 「………」
隗都「何で……」
棗 「隗都、私達の夢は何だ?」
隗都「(N)俺達の夢、国の皆が目指した悲願。それは……」
棗 「あまり認めたくはないが……
隗都…お前は私より頭もいいし、才能もある。
『この世の全てを解明し、理解する』
これを達成するのは、お前にこそ相応しいと私は考えている」
隗都「棗っ!そんな事俺だってっ…!」
棗 「お前は私が生かしてやる。死なせはしない」
隗都「おい、どうしたんだよ、棗……らしくないぜ?」
棗 「…やかましい。こういう時、男は女の願いを聞きいれるものだろうが」
隗都「(N)その時の決まりの悪そうな棗の顔が妙に愛しくなって」
隗都「はは……しょうがねぇなぁ」
隗都「(N)俺はそう言いながら、そっと棗を抱きしめ、心を決めた」
棗 「(N)ここで、全てを無駄にするわけにはいかない。
隗都さえ…隗都さえいれば……
私たちの魂が途切れることはない……隗都なら…」
棗 「――――」
隗都「……棗……?」
隗都「(N)実験体用のベッドに仰向けに寝ている棗の唇が、
微かに動き、俺は棗の名を呼んだ。
しかし、俺の呼びかけに答える事なく、そのまま彼女の命は終わった」
(場面は現代の魔界。比呂と祁杷サイド)
比呂「自分の恋人まで実験体にしたのか……」
祁杷「隗都はそういう男ですよ」
比呂「…………な、なぁ、祁杷……
このまま隗都の助手をしていても平気だと思うか……?」
祁杷「さぁ?僕はどうにか生きてこられましたけど……
比呂君はどうでしょうね」
比呂「…そんな哀れみの目で見るな」
隗都「(N)俺は生かされた。国中の仲間の為に。
威月の為に。棗の為に。あいつらが死んだから、今の俺が在る。
…不思議だな。国があった時よりも、今の方がお前達を近くに感じるよ。
棗…威月…皆…皆一つだ」
比呂「でも……その国の奴等は何でそこまでして自分の命も軽く手放せるんだよ……
研究第1って言ったって、生きてなきゃ出来ないだろ」
祁杷「……『遺託制度』というものがありましてね」
比呂「『遺託制度』……?」
祁杷「『国に残されし生存者は、死者の研究、知識、
その他の望みをすべて引き継ぐ義務がある』
……研究に関してはほぼ無法地帯だった国の唯一、
最大の力をもった法……いえ、思想でした。
隗都が今、ありとあらゆる分野の研究を続けているのはそういう理由もあるのです。
まぁ、大半は自分が興味があるから調べているのでしょうけど。
まぁ僕からはこれくらいですか」
比呂「……おかしい。やっぱりお前は詳しすぎる。
本当にあのディスクにそんな事細かに記録してあったのか?」
祁杷「ええ。そうですよ」
比呂「…………」
祁杷「(N)実際、僕は嘘はついていない。
この事実は、本当にあのメモリー記録ディスクから得たものだ。
ただし、この話には続きがある」
(回想編2。場面は祁杷の部屋の地下室)
祁杷「(過去)(N)隗都が装置の組み立てを黙々と続ける姿を横目に見つつ、
俺は箱の中身に目を向けた。
箱の中には薄い青色をした半透明の四角い板のような物が収まっていた」
祁杷「(過去)こんなものに本当に記録が出来るのか……」
祁杷「(過去)(N)俺は何気なくその板を手に取った」
隗都「落として壊すなよ」
祁杷「(過去)(N)その時、突然その場の空気が重くなった気がした。
いや、重かった。前にもこの感覚を味わった覚えがある」
祁杷「……(しまったっ!)」
祁杷「(過去)(N)気付いた時にはもう遅かった。
俺には人間だった時から特殊な能力があった。
それは、『吸収能力』。
魔力、術、感情、記憶、時には命までも吸収可能な自分の能力。
幼い頃はその力の制御がきかずにとても苦労したのを覚えている。
大人になった今はもう自分の能力の制御は出来ていた。
ヒト人間だった時には」
隗都(「お前はまだ魔族になって日が浅い。
それだけに、まだ魔力、感覚、能力が不安定なんだよ……」)
隗都(「このメモリー記録ディスクは記憶媒体が魔力なのさ」)
祁杷「……(不覚…だ)」
祁杷「(過去)(N)膨大な量の情報と感情が、次々と流れ込み、
棗という魔族の生涯の記憶が脳裏に焼き付けられていく。
頭が割れるように痛んだ」
隗都「祁杷……?」
隗都「(N)俺がふと顔を上げた時、
祁杷はメモリー記録ディスクを見つめたまま、ぼうっと突っ立っていた。
何か様子がおかしい」
隗都「どうしたんだよ、祁杷」
隗都「(N)声に気付いたのか、祁杷はゆっくりとこちらを向いた」
隗都「……大丈夫か?」
隗都「(N)5秒ほど俺を見ていたかと思うと、祁杷はその顔に笑みを浮かべた」
隗都「……おまえっ…」
隗都「(N)目を細め、自信に満ちて見下すように笑っていた。その顔はまるで……」
隗都「…棗……」
隗都「(N)そういうと祁杷はゆっくりこちらに歩み寄ってきた。
俺の体は金縛りにでもあったみたいに硬直して動かない。
左腕を俺の首にまわし、もたれかかると、左の耳元でこう囁いた」
祁杷「(棗)まだ…生きているのだな……そう…それでいい…。
お前は生き続けろ…永遠に…ずっと……」
隗都「棗…お前……って、うわぁっ!!」
隗都「(N)もたれかかる祁杷の体重を支えきれずに俺は後ろに倒れる。
二つの鈍い音が部屋の中に響き渡った」
(少し間)
隗都「ええと……つまりディスクの中には
棗の知識と思い出がすべて記録されていたんだな?」
祁杷「(過去)ああ、そうだ」
二人「はぁ……」「ハァ……」
隗都「じゃあもうこのディスクの中身は全部お前の頭ん中って訳か」
祁杷「(過去)ワザとじゃないんだ……悪かったな……」
二人「………」「………」
隗都「(過去)ところであの言葉の意味なんだが」
祁杷「…………」
隗都「なっ……なんだよ!怖いぞ、お前」
祁杷「(過去)その話題に触れるな」
隗都「……ははぁ……お前、俺にときめいちゃったのがショックなんだろ」
祁杷「(過去)違うっっ!!あれは貴様の女のっ!!」
隗都「でもお前も感じたんだろ?どんな感じだった?ドキドキした?」
祁杷「(過去)―――ッ!!」
隗都「どうなんだよ、お前が教えてくれないとわかんないだろ?
もうこのディスクは空になっちまったんだから」
祁杷「(過去)やかましいっ!!貴様に話す事などないっ!!!」
(SE:殴る音)
隗都「ぐあっ……」
祁杷「(N)僕の頭には棗の『思い出』が記録されてしまった。
だから、ときたま隗都の昔の話になると、
彼女の記憶の断片が頭をよぎる」
(祁杷の回想編)
威月「まさか、姉さんが隗都とそーゆー仲になるとはね〜。
一体隗都のどこがそんなに気に入ったのさ?」
棗 「隗都は…私や、この国の他の者には無いモノを持っていた。
そこに無償に惹かれたのだろう」
威月「あ〜それ分かるかも……隗都は実験体出身だもんね」
祁杷「(N)当時、あの国の住人達は繁殖目的で生産された者がほとんどだったが、
実験目的で生産された個体も、実験終了後まで生存していれば
そのまま国民となっていた。ただし、生き残ること自体非常に稀ではあったが。
隗都はとある新薬の催奇性を見る実験のために作られたのだ。
そして迷惑なことに奇跡的に生き残った」
棗 「ああ……私達と違って操作を受けてない隗都は、
我々の悲願達成に最も近いだろう」
祁杷「(N)『操作』とは、個体の作成過程で施される、
人間で言う遺伝子操作のようなものだ。
これにより、国民はみな天才的頭脳と
研究者として育つのに都合の良い思想を産まれながらにして持つ。
ただ、それは生物として必要な一つの感情も失わせる結果となっていた」
棗 「隗都には…『死への恐怖』がある。しかも何の操作も受けずに、
あれだけの頭脳と思想を持ち合わせる事は奇跡に近い」
威月「だから好きになったの?」
祁杷「(N)僕はまた別の思い出の扉を開ける」
棗 「最後の結果まで到達しなければ研究をする意味がないだろう。
結果が出るからこそ私は楽しい」
隗都「俺はそれを調べてる時の方が楽しいし面白いけどな」
棗 「……」
隗都「棗も、もっと過程を楽しめばいいのに」
祁杷「(N)棗は結果至上主義で、隗都は結果より過程を楽しむ主義。
僕から見れば、それはたいして珍しい言葉ではない……
が、この言葉は棗にとっては衝撃だった。夢の実現への激しい執着心。
それが彼女の中で隗都を生かし続ける事へと繋がったのだと思う。
それが、夢の実現になると……。
『隗都を永遠にしたい』その心は、
当人の意志も希望もまったく無視している。
彼女は…隗都の心を利用したのだ。
隗都を一人残すことで、隗都は隗都でその状況を喜び、
夢の実現まで、いつまでも生きようとするだろうと。
どんな手を使っても……」
棗 「私は…あれを永遠に留めたい」
祁杷「(ため息)……不愉快ですね……」
隗都「俺も棗も、内心分かってはいたんだ。
俺達の望みをかなえることは不可能だと。
それでも棗や皆はそれを否定しようと研究に没頭していた。
でも俺は不可能であることが嬉しい。
だって『全て』を理解してしまったら、
あいつ等は満足して俺のもとからいなくなってしまうだろう。
俺は次に何を研究すればいい?望みの先にあるものは俺にとっては『無』。
どうしようもなくつまらない世界だ。
でも大丈夫。俺達の望みは永遠に叶わない。
だから俺はずっと研究を続けられる。
こんなに楽しい事は無い。あいつ等もずっと傍にいてくれるだろう。
それこそ、永遠に……」
(場面は現代の魔界。隗都の部屋)
(SE:ドアをノックする音)
祁杷「隗都、入りますよ。例のお届け物です」
隗都「あ〜、サンキュ〜」
祁杷「この箱……まだ捨ててなかったんですね」
隗都「捨て忘れてただけだよ。もう捨てる。どうせ中身は空だしな」
祁杷「ええ。そうしてください。いつまでも残っていると、不愉快ですから」
隗都「……今の会話ってなんか、
元カノのプレゼントを大事にとっておく彼氏に怒る現彼女みたいだな」
二人「…………」
隗都「悪い、自分で言って気持ち悪くなってきた」
祁杷「それ以上に僕は気持ち悪いですよ」
(SE:祁杷の歩いていく音とドアの開く音としまる音)
隗都「こんなもの無くても、過去は永遠に俺とともにあるんだよ」
(SE;ごみ箱に捨てる音)
祁杷「(N)隗都はどうしてあそこまで生きる事、
研究を続けることに執着するのか。答えは分かりきっている。
そうすることであいつは仲間を、友を、恋人を傍らに感じているのだ。
遥か昔、この地にあった国は、すでに跡形もない。
今は隗都の研究所が建っているだけだ。
その姿を眺めていると、こう思われずにはいられない。
まるで、墓標のようだ……と」
終
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