kagemiya@ふたば - フランシス・ベーコン
「おゝ人よ、世界に喝采せよ!! あらゆる誤謬を破却せよ!!」

「知識とは、何者にも代え難い力であるのだから!!」


基本情報

【出典】史実・自然哲学
【CLASS】ライダー
【マスター】
【真名】フランシス・ベーコン
【異名・別名・表記揺れ】初代セント・オールバンズ子爵、経験哲学の祖
【性別】女性
【身長・体重】164cm・49kg
【肌色】コーカソイド系 【髪色】茶 【瞳色】茶
【スリーサイズ】微・細・小
【外見・容姿】何処か尊大さが感じられる髭の紳士。外見年齢の割りに髭が豊か。⇔どこか尊大さが感じられる男装の麗人。抱きしめたら折れそうなレベルのスーパースレンダー。
【地域】イギリス
【年代】1561年1月22日〜1626年4月9日
【属性】中立・悪
【天地人属性】人
【その他属性】人型・キリスト教者(プロテスタント)
【ステータス】筋力:E 耐久:D- 敏捷:D 魔力:B 幸運:D 宝具:C++

【クラス別スキル】

対魔力:E

 ライダーのクラススキル。魔術に対する抵抗力。
 一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。サーヴァント自身の意思で弱め、有益な魔術を受けることも可能。
 なお、魔力によって強化された武器や、魔術によって作られた武器による物理的な攻撃は効果の対象外。
 Eランクでは、魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:EX

 ライダーのクラススキル。乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
 また、英霊の生前には存在しなかった未知の乗り物(例えば古い時代の英雄にとっては見たことも無いはずの、機械仕掛けの車両、果ては飛行機)すらも直感によって自在に乗りこなせる。
 人類が本質的に抱いてしまう誤謬イドラの存在を定義し、それを自在に「乗りこなす」ことで、真理探究への道を開いたライダーは、特殊な形でこのクラススキルを有する。
 即ち、「誤認や誤解の制御」。人が認識する情報に“騎乗”し、それを意のままに制御することで、相手に意図的な錯誤を起こさせることができる。
 この錯誤は、精神干渉ではなく、「相手が自ら引き起こしてしまったもの」、言い換えれば「単なる思い込み」として定義される為、『勇猛』や『鋼鉄の精神』、或いは『狂化』、『精神汚染』などの持つ精神防御効果を無効化する。
 この効果の無力化には、寧ろ真実を注意深く観察し、自身から思い込みを取り払って思考する、名探偵のごとき真摯さが必要である。
 なお、サーヴァントとしての現界時は、必要に応じて「世間一般の想起するフランシス・ベーコン的な男性の外観」と「本来の姿である女性の外観」を、このスキルによって切り替える。

【保有スキル】

天賦の見識:A+

 物事の本質を捉える能力。鋭い観察眼はあらゆる情報を見逃すことがない。原理はまったく異なるものだが千里眼による未来予知にも等しい先読みを行う。
 サーヴァントに対して用いた場合、幸運判定に成功すれば、魔術や宝具等によって厳重に隠蔽された真実をも見抜く。
 論理的推論の一種である帰納法を大成し、その後に続くイギリス経験論の源流を作り上げたライダーは、帰納の材料とすべき事実の観察にも極めて優れている。

枚挙的帰納法:A

 イニュマレイティブ・インダクション。狭義の帰納法的思考がスキルにまで昇華されたもの。
 人間の持つ誤謬を極限まで除外することで、客観的事実に最も近い真実を認識できるライダーによる帰納は、入手可能な情報から、過不足のない適切な結論を常に導き出す。

浪費家:C

 人生における浪費の才能を示すスキル。ファイナンス・クライシスとも。金がそこに存在すると、途轍もない勢いでそれを消費していく。
 また、本人がいくら無駄遣いしないように心がけても、或いは周囲がそれを強制的に止めても、予期しない形で浪費が発生してしまう。
 更に、自分自身が持つ資金のみならず、マスターを含む味方に対しても、自身を援助するという形での浪費を強いる。
 同ランク以上の『黄金律』を持っていなければ無力化できない、完全なるデメリットスキルである。

政治工作:B-

 政治的な工作・交渉などについての高い適性。場合によっては、『諜報』スキルの効果を併せ持つこともある。
 哲学者としての思索の根本に、自身の政治家としての経験があるなど、ライダーは政治家の側面も強い英霊である。
 フランシス・ウォルシンガムのもとで諜報活動に従事し、彼女の構築した諜報網を引き継ぐなど、所謂裏工作にもある程度通じている。

【宝具】

誤謬を払うは新奇の知ノヴム・オルガヌム

ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1人
 特定の対象が持っている、あらゆるイドラの指摘と否定。およそ考えられうる全ての“色眼鏡”を木っ端微塵に粉砕する、世界をありのままに見る為の宝具。
 「人間という生き物の生得的感覚による誤謬=種族のイドラ」。
 「個人の人格が経験によって構築した誤謬=洞窟のイドラ」。
 「他者との交流によって自己の中に形成される誤謬=市場のイドラ」。
 「権威あるものによる言葉や思想を無条件に信じ込んでしまう誤謬=劇場のイドラ」。
 彼女が生前同名の自著で述べたこれらのイドラを、真名解放によって一切合切対象の思考機能から除去。宝具の効果範囲内にある限り、「事実としての世界」を見ることができる感覚を与える。
 但し、人間が事象を認識する際には、意味づけという形で色眼鏡をかけなければ、それがどのようなものであるかを体系的に考えることができない。
 この為、宝具の効果があるうちは、対象は世界の全てを「ただ其処にあるもの」としか認識できない。
 宝具効果が解けた時、それまでの誤謬に満ちた世界と、意味すら付与されない真っさらな事実と、その両方を観測した対象が、どのように感じるか。それは、当人にしか分かり得ないだろう。
 ライダーは、宝具の対象となった人物が、普段見ている世界の恣意性に気づき、それをどう思うのかを、じっと観察する。

【Weapon】

『なし』

彼女自身に戦闘能力はほとんどない。そもそも、戦いは彼女の本領ではない。

【解説】

 イギリス経験論と呼ばれる哲学の一大潮流を創始した、16世紀〜17世紀の政治家であり哲学者。
 「知は力なり」の言葉で知られる通り、実験と観察を重視し、それらを通じて共通する法則を見出す帰納法的な認識の重要性を説き、『ノヴム ・オルガヌム(新器官)』として知られる書籍を著した。
 アリストテレスの哲学を、議論や論争の道具と見なして遠ざけ、確かな事実のみを重視する。その思考法は、自然科学探求における基本姿勢として確立され、ヨーロッパでの科学研究興隆……所謂科学革命に影響を与えたという。
 一方で、彼女はテューダー朝最後の女王であるエリザベス1世、そしてそれを継いだステュアート朝最初の国王ジェームズ1世の双方に仕えた政治家でもあった。
 エリザベス1世の御代では、フランシス・ウォルシンガムの立ち上げた諜報機関での活動に従事し、彼女の後援を受けて政界で活動した。
 その後、一度は議会での失言により失脚するも、ジェームズ1世の治世下では国王大権の護持に努めて国王の信頼を得、最終的には最高裁裁判官に相当する大法官を務めるなど、寵愛を受けた。
 しかし、晩年になると政敵との政争に敗北し、収賄の疑いなどで、かのロンドン塔に一時幽閉される憂き目に遭う。
 その後は政界復帰も叶わず、与えられた領地に戻って執筆活動に専念したが、鶏を使った冷凍の実験を行った際に体調を崩し、そのまま死去した。

 哲学者フランシス・ベーコンの抱いていた思想を端的に表すものとして、「自然は人間が支配すべきだ」という言葉がある。
 自然を搾取し、人間の為に用いることこそを是とする言葉と解釈される言葉であり、二十世紀以降の乱開発と自然破壊を引き起こした遠因として批判されることも多い。
 が、この言葉には、彼女のキリスト教者、カルヴァン派プロテスタンティスト(≒ピューリタン)としての強い信仰が潜んでいた。
 彼女にとって、知ることとは、神が人に与え給うた「世界に対する知的支配」という権利の行使であり、人間に与えられた原初の人間性の一つであるとした。これは、彼女の著作である『学問の進歩』において、詳しく述べられている。
 即ち、「エデンの園に住まうアダムが、全てのものに名をつけた」という『創世記』の記述を引き合いに出し、その後「知恵の実を得ることで、貴方は善悪を知るものとなる」と誘惑した蛇の言葉を対置。
 知恵の実を得ることによる原罪、即ち、当時のキリスト教神学者が禁忌とした知とは、飽くまでも「善悪の判断などの、神が司るべき道徳律・倫理に関するもの」である。
 翻って、自然を観察し、それに名前を与える=人間の認識内に自然を切り出し支配する行為こそは、「神自身が人間に期待した働き」なのだ……と、これを称揚した。
 更に、その他の正典とされる書物の事例——神に知恵を求めたソロモン王などを具体例とし、エデンの園から追放された人類にも、自然の観察と体系化という科学的営為を通じて、嘗て神に期待された通り、「自然を知的に支配する」ことは出来ると述べた。
 然るに、彼女にとってあらゆる科学的営為は、今や失われた人間性、自然を支配する知的能力の再獲得の為に存在したと言える。
 それを万民に広める為に著述活動を継続し、また貴族や王族といった為政者にもそれを波及させることを旨として、政治の世界にも積極的に介入したのである。

 信仰者にして知の巨人。断絶した天才ではなく、積み重ねていく普遍的な探求の肯定者。
 世界の正しい在り方を問いかけた彼女の思想的血脈は、今なお科学者に受け継がれている。

【人物・性格】

 傲岸不遜、自身の観察能力を他者に誇って憚らない尊大な人物。
 権力に対する欲、金に対する欲も強く、人の上に立って物事を思うがままに操りたいという願望を曝け出すその姿は、偉大な哲学者とは思われない程に欲深い。
 どちらかといえば、もう一つの顔である政治家……否、政治屋とでも言うべき俗物の感すらあろう。
 しかし、彼女は同時に敬虔なピューリタンでもあり、稼いだ金や権力をどうするのかといえば、為すべきことの為に費やす、と答え、実際私欲を満たす為にそれらを用いることはない。

 生前彼女が掲げた「為すべきこと」とは、自身の唱えた哲学による科学探求・自然支配であり、ひいてはそれを通じた自分の哲学と信仰の証明であった。
 尊大なその態度は、自分こそが誰よりも事実に近い真実の世界を見ていると言う確信から来るものであり、そうであることを他者にも期待するが故に、その能力を他者に誇る。
 「私には世界はこう見えているのだ。お前はどうだ、この風景を見たくはないのか」、と。
 彼女がサーヴァントとしての召喚に応じるのは、ひとえに、その理想の完全な達成を目指す為。
 少しでも多くの人間に、人間に備わる本来の知性を伝え、それを妨げる誤謬を自覚させ、正しく世界を見ることの意義を知らしめる。その目的を邪魔する相手に対しては、第二宝具による徹底抗戦も辞さないだろう。

 なお、公人としてはともかく、私人としての彼女は、有り体に言って生活破綻者である。
 嘗ての同僚であるフランシス・ウォルシンガムとも似通い、己の達すべき目的の為であれば、生活を二の次三の次として私財全てを擲ち、それでも足りなければあらゆる手段で以てこれを補おうとする。
 スキルにまで昇華されたこの金遣いの荒さにより、彼女は異様な少食(厳密には少食の環境に対する過度の適応)となり、その手を握れば手折れそうな程に痩せ細ってしまった。
 ピューリタンとしての個人的禁欲主義も手伝い、生前の彼女は、あらゆる意味で肉体的に貧弱であった。雪中での実験により死んだ、というのも、元々の貧弱さが寒さに耐えられなかったが故のことであろう。
 彼女自身は同性愛者ではないが、公的な場で自身を男性と偽っていたことを利用し、富豪でもある友人の娘と結婚し、その財を利用した……という風説もあるが、これについて強いて否定することもないだろう。
 更に言えば、彼女は結婚のような関係性についてはどちらかといえば否定的であり、世俗的な幸せには大した興味を抱いていない。

 徹底した理想主義者。学問探求の徒でありながら、野心を剥き出しにした政治屋。
 どちらもが彼女にとっての真実であるが、それでも、彼女は理想主義者であろうとした。例えサーヴァントになろうと、その思想は変わらないだろう。

 マスターに対しても、彼女はその尊大な態度を改めようとはしない。
 仕える相手としてはしっかり認識しているが、同時に「啓蒙すべき相手」としても扱い、自身の理想達成の為、積極的に論争を吹っかけ、或いはその誤謬を堂々と指摘する。
 多くのマスターにとって、彼女は「認識したくもない正しい現実を突きつけてくる」相手であり、その関係性は瞬く間に悪化するだろう。
 『浪費家』スキルによって家財を食い潰す勢いで消費してしまう割りに、彼女自身はそれを補填しようとせず、特別事情がなければ家に籠もって自身の思索にふけってばかりとなるのも、それを助長する。
 一方で、実際に戦闘する、つまり他のサーヴァントやマスターと出会うという場面になると、彼女は重い腰を上げ、素直にマスターの指示に従う。
 しかし、やっとまともに働くか、と安堵してはならない。彼女の目的は、出会った相手の誤謬をマスターにそうしたのと同様に指摘し、突きつけ、正しい世界を見せることにある。
 余程冷静で度量の大きい相手でなければ、多くの場合は相手を激昂させ、そのまま戦闘に突入することになるだろう。
 タチの悪いことに、特殊な『騎乗』スキルのお陰で、相手の錯誤を利用して生き延びることにだけは特化している為、場面場面を凌ぐこと自体は容易。
 この為、何度も何度も他の主従と出会っては相手を煽り(本人としては単なる啓蒙活動のつもりであるが)、そしてそのままトンズラをブッこくというムーブを強制される。
 当然他陣営からのヘイトを集めまくる為、あらゆる意味で、彼女を連れた上で聖杯戦争に勝ち抜くことは難しい。
 だが、そうした彼女の真実探求を否定せず、完全に受け入れることはなくとも、ずっと付き合ってやることができれば。
 彼女は、マスターを「自身と同様に世界を正しく見ることができる」人材であると見なし、宝具を開帳して、マスター自身の願いにも寄り添うことだろう。
 また、彼女の尊大さは、ひとえに正しく世界を見ることができるという自負が所以であり、逆に言うと、それ以外のところで偉ぶることはない。
 ズボラを通り越して明らかに身体に悪い彼女の私生活まで含めて面倒を見るような、そんな物好きなマスターなら、彼女はその恩に必ず報いる。厚顔無恥な人間では、決してないのだ。

イメージカラー:雪中の枯葉色
特技:清貧生活、放蕩生活
好きなもの:実験、観察、権力、金
嫌いなもの:ロンドン塔、エセックス伯(嫌いというより苦手)、冬の寒さ、風邪、豪勢な食事、その他色々
天敵:ロバート・セシル、エドワード・コーク、その他嘗ての政敵達
願い:ベンサレムの如き真なる知の探究を為す学府の普及と、それによる人類知の再獲得を。

【一人称】私、吾輩(男性偽装時) 【二人称】貴様、貴方(男性偽装時) 【三人称】彼奴、アレ、彼、彼女

因縁キャラ

エリザベス1世:嘗ての主君
 1581年、弱冠20歳で庶民院議員として政界に進出して仕えた、最初の主君。
 当時既に48歳と、当時の平均年齢を考えれば人生の半ばを超えた頃に差し掛かっていながらも、未だ「夢見る少女」としての片鱗を見せる彼女を、間近で見てきた。
 しかし、ベーコンにとって、彼女は、良くも悪くも「理想」という名の誤謬に支えられた女王であり、そうでありながらも君主として偉大な人物であった。
 長らく傍に仕えて得た観察の経験から、その奥底に押し秘められた何かがあったことは理解しているが、その内実まで完全に理解しきることは竟ぞできなかった。
 サーヴァントとしての現界後、彼女の得た姿を見、そしてその振る舞いを観察すれば、彼女が本来どのような人物であるか、その全てを今度こそ見抜くことだろう。
 そうなった時、ベーコンが彼女に対して何を為すのか。それは、誰にも分からない。
「理想とは一種の幻想であり、私の著作から引用するならば、それは種族のイドラを除く三つのイドラが組み合わさったようなものだ」
「女王陛下に対する誤謬が、治世に良い形で作用したのは違いあるまいよ。しかし、最早陛下は死した身、王位を退かれた身だ」
「それなら――――この私が。誰よりも理想誤謬を嫌い打ち砕くこの私が、嘗て仕えたよすがを辿り、陛下に一つ指導して差し上げるのも悪くなかろうな?」

フランシス・ウォルシンガム:庇護者
 財政基盤を始めとし、あらゆる面で政治家となる為に必要な地盤が欠けていたベーコンの政界活動を、諜報への協力と引き換えに支援した後援者。
 彼女の死去に伴って国務長官としての彼女の権限が別の人間に移行した後も、彼女の築き上げた諜報網はベーコンが継承し、これを再編して保持するなど、その関係性は浅からぬものであった。
 二回りほども年上の先達、且つ女王としてのエリザベス1世からの信頼厚き彼女の支援なくして、ベーコンは決して政界で活躍することができなかっただろう。
 一方で、女王への忠誠心厚い彼女からは、飽くまでも自身の目的を前提とするベーコンの臣下としての態度はあまり気に入られなかった模様。
 目的の為なら金など惜しまず全て突っ込んでしまうなど、幾つかの点では非常に似通ってはいるのだが、性格面ではそうでもなかったということか。
「国王秘書長官閣下に於かれましては、ご機嫌麗しゅう。生前は大変、そう、大変お世話になりました」
「何だ? 流石に私も恩知らずではない。彼女の後援と、受け継いだ諜報網なくして、私は栄達しなかった。それに対する感謝は無論あるとも」
「しかし、彼女も遂には女王陛下への誤謬を捨てることが出来なかった人間だったか。今度こそ、その忠節が報われればよいのだがな」

エセックス伯 ロバート・デヴァルー:支援者、そして裏切った相手
 その武勲と振る舞いにより民衆から熱烈に支持された、エリザベス女王の若き「恋人」とも揶揄されるほど寵愛を受けた男性。
 しかし、彼自身は女王の寵愛を決して快くは思っておらず、されどその内心を察して、常に彼女の恋愛遊戯に従った。
 斯くも陛下の覚え目出度き人物であるから、昇進を望むベーコンが彼に取り入ろうとしたのは、当然の帰結であった。
 ウォルシンガムを義父(義母)とする彼は、その派閥を受け継いでおり、其処に再建した諜報網を持っていけば、彼にベーコンが取り入ることは容易だった。
 その後議会での失言により失脚してもなおベーコンの後ろ盾と成り続けた彼に対し、ベーコンもまた彼から受けた恩義に報いる為に協力した。
 だが、エセックス伯に対する女王の寵愛が薄れ、それに代えて軍事的栄光による民衆の支持獲得を目論んだ彼を、ベーコンは諌めるようになった。
 極めて直情的な彼は、しばしば女王との喧嘩沙汰を起こしていたが、それでも女王と彼の間をベーコンは取り持とうとしたという。
 しかし、エセックス伯が女王に対する反乱を計画したことが露見した際、とうとうベーコンは彼の弁護者から転じ、彼を訴追する側に回った。
 エセックス伯は、彼を弾劾するベーコンの姿を見て、こんなことを述べたという。
 「(ここにいる、自身を弾劾している)ベーコン氏に反論するために、(かつて私が知っていた、自身の擁護者たる)ベーコン氏を呼んでほしい」。
 ……その心理が如何なるものであったかを知ることは出来ない。後世、この行為が非難されるべき悪業だとされることを知っても、彼女は、これが正しかったと断ずることだろう。
「ロンドン塔。あの牢に自分も叩き込まれることになったと聞いた時は、エセックス伯を思い出さずには居られなかった」
「東洋で言うところの『因果応報』というヤツなのだろうさ。これもまた、神のお定めになった結末に過ぎんよ」

ジェームズ1世:嘗ての主君
 政治屋としての華やかなキャリアを本格的にスタートさせた時に仕えた、二番目の主君。
 エセックス伯との親交が深かった彼が新たにイングランドの王となった時、自身が排斥される可能性を危惧したが、実際には、エリザベス1世時代と同じポジションを維持。
 その後、彼の国王大権とコモン・ローが対立した際に、国王大権の擁護に回ったことで本格的に重用されるようになり、彼は出世コースに乗ることになった。
 政敵との政争においても、ベーコンは常に国王の擁護者として立ち振舞い、最終的には、最大の政敵であったエドワード・コークの排斥に成功する。
 ジェームズ1世の寵臣であるバッキンガム侯、ジョージ・ヴィリアーズの後ろ盾の元、政治犯の断罪や地方司法の統制強化など、大法官として活躍した。
 この他、各分野に精通した委員会、現代で言うところの省庁制度の設立を提案するなど、政治分野における活動も活発となり、ベーコンにとって、この時期こそが政治屋としての絶頂期であったろう。
 ……しかし、こうした活躍の裏で、彼はバッキンガム候に対する広範な分野に渡る助言を行い、彼を政治家として育成しようとしていたのだが、候は助言を理解しきれず、政治的失策を連発。
 バッキンガム候を中心とする派閥と、それに反発・対抗する派閥との抗争に、バッキンガム候派閥に属していたベーコンも、否応なく巻き込まれてしまった。
 やがて、バッキンガム候とベーコンという二人の寵臣の双方に対する議会からの批判を躱す為に、ジェームズ1世が下した決断は、「ベーコンをスケープゴートにバッキンガム候を守る」というものだった。
 ベーコンは、バッキンガム候派閥の批判者によって、収賄のかどで告発を受けた。当時病床にあったベーコンがこの事態への対応を遅らせている間に、更に追加での告発が続出。
 ジェームズ1世からの弁護はなく、最終的にベーコンは自己弁護を諦めて、貴族院に対し自身の判決を委ねた。その結果が、罰金と公職追放、更にロンドン塔への一時監禁という有罪判決であった。
 これを切っ掛けに、彼は完全に政治の世界から退き、余生を自身の領地であるセント・オールバンズで過ごすことになる。

 と、このような経歴であるから、ベーコンとしては、この最高の時間と最悪の時間を同時に過ごすことになったジェームズ1世での治世について、一言も二言も腹に含むものがある。
 しかし、彼女の抱く理想に最も近づいたのが、彼とバッキンガム候の下で働いていた時であるのには間違いなく。どちらかといえば、恨みよりも感謝の念の方が強いようだ。
「我が理想とは、取りも直さず、全ての人間の『学ぶ力』の涵養と、それによる信仰の達成だ。それは今尚小揺るぎもしない、私自身の願いだ」
「それに最も近づけたのが、国王陛下と、バッキンガム候の差配によるものであることは、間違いのない事実。詰まらん怒りなどで、その評価を変えるつもりもない」
「それにな? 不出来な生徒ではあったが、バッキンガム候に対する指導というのは、案外楽しかったんだ」

ウィリアム・シェイクスピア:ペンネーム?
 珍説・奇説の範疇を出ないが、シェイクスピアとは彼女のペンネームである、という説が存在する。
 無論実際にはそうではないのだが、そういう誤謬があるなら利用してやろう、ということで、彼女が男性に偽装する時の見た目や振る舞いは、ある程度シェイクスピアを真似たものになっている。
 そんな偽りくらいは見抜いてもらわなければ困る、という気持ちもあり、彼は体良くベーコンに利用されている状態である。
 なお、著名な作家・詩人ということで、その作品については彼女も楽しんだことがあるが、個人として直接の面識はない。
 ジェームズ1世の文化振興政策もあり、もしかしたら行政文書で名前くらいは見たことが在るかも知れないが。

エリザベス1世?:観察対象
 可能性の世界におけるエリザベス1世。彼の方がどう思うかはさておき、此方からは、彼は興味深い観察対象である。
 無辜の怪物にも似た存在の変質を受け、幻霊という要素によって本来の形から姿を変えた彼の、正しい姿とは? これを解き明かすことは難しいであろうが、それこそ彼女の腕の振るいどころである。
「例え私に覚えがなくとも、彼は『エリザベス1世』なのだろうよ。ならば、私の嘗ての主君に他ならない」
「誤謬によって自分の真実すらわからなくなっているというのならば、それを正しく観じられるようにすることも、臣下の勤めと言えるのではないかね?」

【FGO風セリフ】


【コメント】

 哲学者泥もっと増えて欲しい。