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初公開:2023/04/30


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僕が一息つくと、それを見計らってか抹茶さんはテーブル越しにぐいっと身を乗り出しました。

「それで、先程の話に戻ってしまいますが、¢さんとの戦いはどうだったんです?」
「うんうん、私も気になるな」

大戦のことになると二人は興味津々といった様子でしたので、僕は先日の経緯(いきさつ)を話しました。

「惜しかったですね、テペロさん。1対1に持ち込んだところまでは良かったですけど、最後は手数の多い¢さんに軍配が上がりましたね。でも初めての戦いにしてはかなり上出来かと思います」

穏やかで落ち着いた若者に見えた抹茶さんは、大戦の話になると、一転して表情を変え、途端に快活な少年に戻ったように見えました。

「あの大戦では、最終的に私と¢さんの一騎打ちになったんだけど、最後まで地の利は巻き返せなかったなあ。¢さんの軍の統率はすごいよ、気にすることはないよテペロくん」

791さんと抹茶さんは、その後も二人で前回の大戦に関しての反省会を続けていました。
気がつけばテーブルの上には茶菓子がいっぱいに並べられていて、風流な茶会は一転して場末のスナックのような熱気に包まれています。

大戦とは、本当におもしろい文化だと思います、てっきり参加者は屈強な軍人気質の人間ばかりだと思っていましたが、目の前の二人のように凡そ戦いとは無縁に見える人間も参加しています。
傍で二人の話をぼうと聞いているだけでしたが、それでも二人の熱情と陶酔感(とうすいかん)にあてられ僕も自然と笑っていました。

「¢さんはタイマンでの戦いでは負けたことないかもしれませんね、それほど圧倒的です。むしろ僕はテペロさんの戦闘力の高さに驚きましたよ」
「テペロくんは、英雄結集〈コールバック〉だって使ってないんだもんね?」
気がつけば、話題は魔法の話に移っていたので、
「そうですね、当時は使い方も知りませんでしたし。
今は社長に教わって、ほんの少し、使えるようになったんですが」

敢えて口にはしませんでしたが、社長は本当に説明足らずなところがあります。
英雄結集<コールバック>の魔法だって、詠唱の仕方を聞いても「やれば、できるス」と言うだけで、いつまでも埒が明かないので、詠唱風景を見せてもらって、ようやく見よう見まねで使えるようになったのです。
これを“社長に教わって”と表現するにはだいぶ無理があると感じましたが、一宿一飯の恩から彼を立ててあげたのです。

791さんが、再び好奇の目をこちらへ向けました。

「へえッ、それは手強くなるね。何人ぐらい呼んだの?」
「それが、二人だけです」

僕の立てた二本指を見て、驚きのあまり抹茶さんは煎餅菓子を口に含んだまま静止してしまいました。

かと思えば、次の瞬間には煎餅を勢いよく飲み込み、
「あまり取り決めのない自由な大戦でも、数少ない規定として、英雄結集〈コールバック〉で呼び出せる英雄は1000人までと決まっています。
これは裏を返せば、1000人までは呼べるということです。上限まで招集できるのは大魔法使いの791さんぐらいですが、他の参加者でも数百人程度は呼び出しています、大戦をする上ではちょっと少なすぎるのでは?」
心配そうに早口で語り、手に取ったお茶を喉に流し込みました。
理知的で真面目な性格の彼も慌てさせるぐらい、無謀な試みのようです。

横にいた791さんは対照的に、顎に手を当て暫く思案気味でしたが、
「私も抹茶の言うことには賛成かな。
呼び出せる英雄は、過去の自分の記憶や願いをもとに姿形を創り出している、いわば写し鏡の使い魔だよ。
私の見立てでは、テペロくんもそこそこの魔力はありそうだし、頑張れば100人くらいは呼び出せるんじゃないかな。
人数を絞って個々の英雄の力を引き上げるという手もなくはないけど、いずれにせよ一定数は確保すべきじゃない?」
と言い、横で抹茶さんもうんうんと頷いています。

僕は二人の視線から逃れるように、手元の煎茶に目を向けました。
先程まで澄んでいた萌黄(もえぎ)色の茶水の底には、黒々とした茶葉がこんもりと堆積しています。

どれ程綺麗に見え取り繕っても、中身は濁っている。
目の前の小さなティーカップの中身は、これまで歩んできた僕の愚かな人生そのものを映しているように見えました。

「その通りなんですが、ぼくには二人で十分なんです、いえ、正確には二人で限界と言うべきかな。
二人までしかぼくの記憶からは喚び起こせなかったんですよ、社長みたいに創作心も無いですし、暫くはあわせて三人で頑張ろうかと思ってます」
「記憶が思い出せない、もしくは何らかの術で封じられているのですか?」
純粋な抹茶さんの素直な問いが、チクリと僕の胸を刺します。
「いえ、全て覚えています。その上で、二人“しか”思い出さないんです」
そう答えると、791さんは哀しそうな目をして、
「そう、それは、辛かったね」
と呟きました。

ポツリとかけられた慰めの言葉は、悪意のない親切心からくるものだとは分かっていたのですが、僕の心の底に、またサラサラと黒々とした砂のような塵が積もりました。
投げかけられた言葉は決していま求めているものではなく、僕は曖昧な笑顔を作ることしかできないのでした。

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その後は他愛のない話を広げ、昼下がりのティータイムを堪能していたのですが、急須で何度目かのお茶を注がれた時に、ふと此処に来た本当の目的を思い出しました。

「そういえば、新たな家を探していまして、どの辺りがいいと思います?」
二人は、“そうだった”と言わんばかりに顔を見合わせました。

「ごめんごめん、つい大戦の話に夢中になってて忘れてたね、テペロくんの希望はあるの?」
「そうですね、あまり多くは望みませんが、できれば自然のある土地がいいですね、砂地にはあまりいい思い出がなくて。あとあまり寒くないところがいいかな、寝やすいし」
目の前の二人は悩み始めました。

「なら、まず¢さんの住んでるレーズン荒野は駄目だね、あそこはからっ風が吹くばかりで草木もまともに育たない、あそこに住めるのは¢さんくらいだよ。
このあたりのルヴァン平野はいいんじゃない?どう思う、抹茶?」
「ええ、このあたりは北部に比べて温暖だし茶葉も育ちやすい。開けている分、日照時間も長く確保できるので季節に応じて色々な植物が芽吹きますよ、テペロ君の希望にも叶う場所だと思います」
詳細に分析するその姿は、本人の性格も相まってまるで研究者のようです。

「それはいいですねぇ、確かに森はいいところですが陽の光を浴びることがあまり無いので心機一転できるかもしれません」

そこで、抹茶さんはすっと立ち上がり棚まで歩くと、中から古びた藁半紙を取り出し、テーブルの上に広げました。

「この周辺以外では、バーボンの丘を挟んで向かいにある東部一帯も住みやすいところですよ、ブルボン湖にルマンド川という大きな水源があり、自然はここ以上に豊富ですしね。
この家の先にも支川は流れているんですが」
「へぇ、風光明媚で良さそうですね」

地図はかなり古ぼけていて、藁半紙自体の傷みもさることながら、文字も所々滲んで読めなくなっているところもあり、かなりの年季を感じさせました。

中心に描かれている丘の中腹部には、比較的新しいインクで「Kコア・ビレッジ」と記された跡があり、広大な村の一帯の中心に描かれているバーボンの丘の存在感が、ここでも際立っています。
抹茶さんの指しているブルボン湖の方にも目を向けると、地図の右端部には巨大な湖が描かれていて、その湖から蜘蛛の手足のように河川が枝分かれしています。

「このあたりには多く村民も住んでいるし、いいところだと思いますよ」
「でもこの川沿いって村のラインのギリギリじゃない?大丈夫なの、抹茶?」
791さんの質問に、抹茶は地図の右上端に尖った線のように描かれている竹やぶ一帯を指差し、
「参謀(さんぼう)の家を越さなければ、大丈夫ですよ」
と答えました。どうやらこの竹林の中に、参謀と呼ばれる村民が住んでいるようです。

「参謀という方は、どんな方なんですか?」
僕の質問に、抹茶さんは、
「とても落ち着いていて、おもしろい人ですよ。博識で物事もよく知っています」
と答えました。
僕はいまさらながら、質問に対しちゃんとした答えが返ってくる、ちゃんと会話ができる、ごく普通の日常のありがたみを感じていました。

「抹茶さんの話を聞いて、興味がわきました。これから参謀さんのお家に向かってみようかと思います」
「あの人は優しいから色々と教えてくれるでしょう、茶の点て方にも一家言ある程です、あッ、そうだ」
そこで抹茶さんはハッとしたように、手を打ちました。

「テペロさん、参謀の家に行くならついでに茶葉を渡してくれませんか?」
「いいですよ、さっきの一番茶ですか?」
「ええ、いつもは頃合いを見て参謀から取りに来るんですが、今年は茶葉の収穫が早くて。
丁度タイミングが良い、いま参謀に包む分の茶葉も作っていて、もうすぐ完成なんです」
「へぇ、茶葉を摘んで包んで終わり、というわけじゃなかったのか」
抹茶さんは心外だとばかりに首を勢いよく横に振りました。

「とんでもない。そうだ、せっかくだし工房も少し覗いていきませんか?ブラックさんの分の茶葉も一緒にお渡ししますので」
面白そうなので頷いてみると、抹茶さんは嬉しそうに立ち上がり、「準備があるので」と部屋を出ていきました。
腰掛けたままの791さんは、穏やかな日常を甘受するように目を細め、まだ茶を嗜んでいます。

「抹茶は、良い話し相手ができたと思っているんじゃないかな?
あの子の方から何か提案するとはめずらしい、これからも、たまには遊びにきてやってよ」

慌ただしく部屋を出ていった抹茶の背中を横目で見ながら、791さんは穏やかに茶を啜りました。
歳の近そうに見える二人ですが、大人びて見えた抹茶さんの幼い部分と、可憐に見える791さんの大人然とした振る舞いのあべこべさを同時に見ることができ、ほんの少しだけ心が暖かくなりました。


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