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2-4:脱出編

初公開:2020/07/10


【オレオ王国 カカオ産地 別荘地域】

裏手に回ると、建物の脇に大きな幌に包まれた物体が置かれていた。
躊躇なくTejasが幌を取り去ると、中から人一人程度の大きさの機械が現れた。

オリバー「これが移動手段?ただのゴミの塊じゃねえか」

Tejasはムッとした顔で、オリバーに非難の目を送った。

オリバー「やれやれ。やっと年相応らしくなったな」

自分の発言を棚に上げて、オリバーは頭上の若者の顔を見上げ率直な感想を口にした。

Tejas「これは鉄くずじゃない、乗り物だ。まさかお前、“ホースバイク”を知らないのか?」

今度はTejasが呆れる番だった。事実、オリバーはバイクという乗り物を知らなかった。しかし、此処で認めるのだ。

オリバー「確かに、見た目は馬のように見えなくもない、か…」

結果的に、Tejasの呆れた視線からぷいと目を背け、オリバーは目の前の機械馬をよく眺め観察することにした。

眼前の馬は、長い鋼鉄の胴に、前足と後ろ足の部分には鋼鉄の車輪が取り付けられていた。
馬に鋼鉄の鎧を取り付けたのではない。馬自体がその骨に至るまで全て鋼鉄でできているのだ。

頭の左右からは鹿のように凛々しい鉄の角が伸びている。手綱が取り付けられていないことから、恐らく両の角が操作部となるのだろう。
本物の鹿の角を触ろうものなら蹴られるだろうに、この製作者は動物のことを理解していないな。
と、オリバーは見当外れな考察を行った。

このような工業の結晶をオリバーはこれまで目にしたことはなかった。
自身の祖国は元より、“仕事”でオレオ王国に入ってからも彼が訪れたのは山村や市街地が専らで、こうした乗り物が走る様すら見たことがなかったのだ。

Tejasは間髪入れずに機械馬の背に跨った。途端に、視界を鋼鉄の部品たちで覆われたオリバーは、すぐさまポーチから抜け出しTejasの肩に跳び乗った。

オリバー「あんたが一人で作ったのか?すごいな」

Tejas「その様子じゃやっぱりバイクそのものを知らないな?
バイクという乗り物自体は最近開発されたものでさ。この本体も会議所の倉庫から拝借したのさ。まあ細かい部分は俺が改造してるけど。
昔から機械弄りが好きだと言っただろ?まあ見てなって」

Tejasはバイクに跨ったまま、太ももを載せている胴体部に右手を当て、本物の馬に触るかのように優しく一撫でした。

すると、途端に二人を載せた機械馬は金切り音に似た音を上げ、カタカタと豪快に揺れ始めた。
この鳴き声が機械音だとオリバーが気づくのは少し経ってからになる。

オリバー「なんだこの轟音は…これが工業化された最新鋭のオートメーションってやつかッ!」

Tejas「通常のバイクとは違いイグニッションキーを無くし、俺の右手で動力が反応し、俺の考えを共鳴させる機械と魔法のハイブリッドさッ!
さあ動くぜッ!振り落とされないように捕まってなッ!」


――フォルティシモ(とても強く)。


Tejasが左右の角を強く握ると一度だけホースバイクは短い雄叫びのような轟音を発し、すぐに自ら意志を持つように車輪を回転させながら動き始めた。
精々が野生馬と同等の速度だと予想していたオリバーは、あまりの加速度と揺れにたちまち振り落とされそうになった。


オリバー「こらァッ!こんな速度きいてないぞッ!」

瞬時に路地裏を抜けていく中、運転手のTejasは気持ちよさそうにニヤリと笑い、無言で自身の胸を指差した。ジャケットの中に入れということらしい。
オリバーは舌を突き出し反抗の意志を示しながらも、するりと彼の服の中に収まった。
例のごとく、顔だけは外に出しままだ。

Tejas「大通りに出るぞッ!」

彼がそう告げた時には、もうホースバイクは大通り沿いに飛び出していた。


――アレグロ(快速に)。


彼は慣れた手さばきでバイクの角を傾けホースバイクを傾け通りの端で旋回した。
その後にバイクは再加速し通りを快速で飛ばし始めた。

圧巻だった。その一言に尽きた。

乗り物といえば、田園地帯をのんびりと歩く牛車や馬車にしか乗ったことがなった。オリバーにとってそれが日常であり常識だった。
否、確か過去に自らの“主人”が語っていたかもしれない。

『世界には人智を結集させて発明した熱機関を使い、機関車や船舶などあらゆる乗り物が溢れている。その最新技術が他の国では発展している』と。

当時のオリバーは早く外の世界を見たくうずうずしており、主人の語る言葉はあまり気にかからなかった。
その人智の結晶たる技術をいま正に、オリバーは顔に精一杯の風を受けながら体感していた。



大通りを移動していると、二人は正にいま行われている公国の侵略風景を目の当たりにした。
通りには先程と同じ鎧やローブを身にまとった公国兵たちでひしめき合っている様子が見えた。
出歩いていた一般人たちだろうか、彼らは両手を壁に付け、公国兵たちに服従の意を示している様子が快速で飛ばしながら何度か目に写った。

そういった光景のすぐ横を通り抜ける度に、ひゅっと風切り音がオリバーの耳に嫌でも届いた。
体感以上の速度と衝撃を感じ彼の小さい頭脳は悲鳴を上げていた。公国兵たちが自分たちに気づいているのかどうかもわからない。
この姿勢で振り返って背後を確認しようものなら振り落とされてしまうだろう。

別荘地帯を抜けると視界一面にカカオ畑が広がった。
普段なら辺りから漂う香ばしい匂いは、その先で爆発炎上するチョコ精錬所地帯から流れてきた硝煙の臭いに完全に上書きされ、かき消されていた。

バイクは速度を落とさずチョコ精錬所の方へ向かっていく。ひたすらチョコ精錬所の方へ――

オリバー「おい、どこに向かっているんだッ!?チョコ精錬所の方に向かう意味はなんだッ!?」

オリバーは声を張り上げすぐ頭上の運転手に問いかけた。

Tejas「さてね。会議所に戻ろうとしたが、会議所はどっちだっけ?」

思わず怒鳴りそうになるのをぐっとこらえ、オリバーは声を震わし“チョ湖の方だ”と伝えた。
すると頭上の運転手は“おお、真反対じゃないかッ”と素っ頓狂な声を上げ、あっさりと角を操作し機体を反転させた。
急な旋回にオリバーの頭痛はサイレンのようにますます痛みだし、『いっそこの場で投げ出されたほうがこれからの苦しみを味わなくてはいいのではないか』と思うほどに弱々しくなった。

引き返し再加速までを終えた二人が先程の大通りに差し掛かると、通りの入口付近には切れに整列した公国兵小隊が待ち構えていた。

「あそこにいたぞ!“馬乗り”のやつだッ!」

前列には銃兵部隊を配置し、後列には魔法詠唱部隊まで揃えている正規の隊列で待ち構えている。
さぞ先程通り抜けた姿が快速過ぎて、兵士たちに強い警戒感を抱かせたのだろう。

Tejas「おいオリバー。身を低くしながら捕まってろッ、加速するぜッ!」

オリバー「これ以上ッ!?」


――プレスティッシモ(非常なまでに急速に)。


敵に突入する最中、Tejasはその身を下げつつ右手で再度そっと胴体を撫でた。

機械馬は今日一番の唸り声を上げ超加速しつつ、Tejasはすぐさま握り部の角を手前に引き寄せた。
するとホースバイクの前輪は天に向き、ロデオの姿勢のままでバイクの腹を向けたまま敵に突撃する形となった。

「フルファイアッ!」

隊長の一声を合図に、兵士たちはホースバイクに向かい一斉に発泡を始めた。
直後のオリバーの悲鳴は、公国兵からの発砲音と魔法の炸裂音でかき消された。
銃弾や魔法の光弾は全てホースバイクのお腹の部分が受け止めつつ、鋼の塊が高速で近づいてくるさまは、公国兵からすれば恐怖以外の何者でもなかった。

「さ、散開ッ!轢かれるぞッ!」

隊長の指示を待たずに生に貪欲な数人の兵士は武器を捨て逃げ出し、残りの兵士たちも遅れること数秒後、ハッとしたように背を向け逃げ出した。
すぐに散り散りになった小隊のど真ん中をホースバイクが悠々と通過した。
通過と同時に重心を前に向けたTejasはすぐにホースバイクの前足を下ろし同時にさらにスピードを上げた。

「う、打てッ!」

背後から発砲音がきこえてきたが、敵を嘲り笑うかのようにホースバイクはジグザグ走行で敵の攻撃を難なく避け難を逃れた。
あまりの出来事に意識を失いかけていたオリバーだったが、今度の蛇行運転で正真正銘意識を手放した。



【オレオ王国 カカオ産地 チョ湖湖畔】

公国軍の攻撃を振り切った二人は、その後数km先にあるチョ湖の湖畔付近を走行していた。
湖畔ではサトウキビの栽培が盛んに行われているためか、背の高い作物たちに囲まれながらホースバイクは快速を保ちながら轍を走っていた。

Tejas「いやあ、久々に楽しめたなッ!またやろうなッ!」

オリバー「バカヤロウッ!おれは二度とテメエの運転に付き合うのはごめん、だぜ…」

意識を戻したオリバーはよろよろと顔を服から突き出し、外の空気を弱々しく吸い込んだ。
今は顔に当たる風がそよ風のように心地よい。

Tejas「敵の奴らも巻いたし、このまま会議所まで――ん?」

プスッ、プスッ。
明らかにこれまでの機械音には無かった異常音が断続的に鳴り続き、その直後にガコンという鈍い音ともに激しい衝撃が二人を襲った。
Tejasは後ろを振り向きすぐに首を横に振った。

Tejas「これはまずいッ!部品が取れちまったし、チョコも漏れてるッ!止めないと爆発するなッ!」

徐々に機械馬はスピードを落とし、やがて二人の背後から煙を吹かし完全に停止してしまった。

Tejas「さっき敵に撃たれた時に燃料庫をやられていたか。他の部品に引火しないだけ運がよかったな…」

ブツブツとつぶやきながらTejasはホースバイクから飛び降りた。

そのすきにTejasの胸の間からするりと抜け出し地に降りたオリバーは、数日分の体内の空気を外に逃がすかのように深く息を吐いた。

オリバー「もうあんな目にあわなくてすむだけ、まだ運がいいのか悪いのか…」

地に足を付けたのがひどく久々のような気がする。
使っていなかった両の足がじんじんとしびれだし、今頃になり気分の悪さが全身に伝搬した気分だ。
オリバーは地面の上で仰向けになったが、静かにしていれば収まった頭痛が再びひどくなりそうな予感があり、いやいやながらふらふらと立ち上がった。

広大なチョ湖を眼前にしながら、Tejasたちは早くも移動の手段を一つ失った。

チョ湖を間にオレオ王国ときのこたけのこ会議所は接している。
数十km先の対岸は確かに会議所の領地だが、その間には鉄橋や石橋など無く物理的に渡ろうと思えば、気の遠くなるほどの距離を泳ぐしかない。

仮に泳ぎきり終えても、対岸は断崖絶壁の崖が連なる丘陵地帯のため会議所領地に足を踏み入れることは事実上不可能に近い。
そのため会議所へ帰るためにはこのチョ湖の周囲をぐるりと周り陸地で接した地域から会議所領地に入る手段しか無いのである。

Tejas「さて。どうやって帰るかね」

頭をポリポリと掻きながらTejasは同行者を頼るしかなかった。
二人は少しの間押し黙った。その間耳に届くものといえば、湖畔の水の波音に背後で遠くに響く砲撃音と爆発音だった。

Tejasは急速に冷静さを取り戻した。ここは数刻前から戦場となり自分たちは追われている。
バイクの運転で気が昂りすっかりと自分たちが窮地に陥ったままだということを忘れていた。

オリバー「お前が泳ぎとクライマーの達人ならこの湖を超えていけばいいさ。
そうでないなら、ひたすら湖沿いに歩いて会議所領地に駆け込むしか無いな。
でもこんな状況だし、今は国境封鎖でもされているんじゃねえか?」

Tejas「それに関しては、俺の顔を見れば入れてくれるだろうけどな。まあどのみち、ここに留まってもどうしようもないな」

Tejasはお別れをするように、横倒しになり煙を上げている機械に右手でそっと一撫でした。
主人の思いが通じたのか機械馬の心臓部の小箱は一瞬だけブルブルと反応し、すぐに静かになった。



「こちらの方から煙が上がっていたぞッ!急げッ!」

すると、二人の後方から公国兵たちの大声と慌ただしい軍靴の音が近づいてきた。

オリバー「まずいッ!すぐにここを離れようッ!」

Tejas「言われなくてもッ!」

オリバーはひょいとTejasの肩に飛び乗ると、器用に彼の腰程の位置にあるポーチに入り込んだ。
Tejasは近くのサトウキビ畑の中に飛び込み身を伏せながら移動し始めた。

公国兵たちの声が次第に大きくなってくる。今は身を隠せているが、もし魔法でこの辺りを燃やされでもしたらひとたまりもない。
しかし走っては物音ですぐに敵軍に気づかれてしまう。そのため、作物を掻き分けながらTejasたちは慎重に進んだ。
一歩一歩進む度に、まるでサトウキビの葉がTejasをあざ笑うかのように彼の眼前でカサカサと音を立て嗤っていた。

そんな雑念を払うように背後の公国兵たちに意識を向けていたTejasは、よもや進行方向上が斜面になっているとは気づかず、思わず足を滑らせてしまった。

Tejas「しまったッ!」

オリバー「うおッ!」

体勢を崩したTejas尻もちを付きながら斜面となった獣道に身体を打ち付けることになった。

Tejas「イテテ…オリバー、大丈夫か?」

オリバー「ああ、おれは落ちる前にポーチから抜け出したから無事だったぜ」

なんて卑怯な。そんなTejasのうめき声は無視し、オリバーは突如現れた獣道の下る先に目を向けた。
Tejasが尻もちをついた獣道は、まるでそこだけを避けるように作物が一切生えていなかった。
そして、数m先にあった小さい横穴まで続き、道は途絶えていた。

四方は相変わらず人間の背丈程のサトウキビが自生していたが、かえってこの叢がこの洞穴の存在を隠匿しているようにも思えた。
他の道はわからないが、もしこの洞穴がこの場所にしか無いというのならこの場所を引き当てたのは奇跡といえるほどに、目印らしい目印はなかった。
まるで大型のモグラが掘ったかのような洞穴にオリバーは顔を突っ込み、すぐにTejasに手で合図を出した。

オリバー「おい、奥は結構広そうだぜ。先に行ってるから、公国兵に見つかる前に早く来いよ」

声を潜めオリバーは洞穴の中に入っていった。

腰をさすりながらTejasも中腰で起き上がり続いた。モグラの洞穴は近づいてみると、人一人が腹ばいになり通れるほどの大きさはあった。

少し背後ではガサガサという足音ともに公国兵がサトウキビ畑に侵入した音がきこえてきた。

どのみち、この状況では会議所に戻るなど夢のまた夢だ。
ならば、一時でも身を隠し公国兵を巻くしか無い。
追い込まれた寿命が少し伸びた気分でしかないが。

Tejasは半ば諦観に近い思いを抱きながら、洞穴に頭を突っ込んだ。


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