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3-8:仕組まれた場面編

初公開:2020/09/22


【きのこたけのこ会議所 ケーキ教団本部】

夜空の星が綺麗に見えるまで宵の口が進んだ時刻。
加古川は例の門塔の吹き抜けから空を見上げていた。

今日、会議所自治区域では定期【大戦】が行われようとしていた。
加古川の記憶が正しければ今日は確か王様制という変則ルールで、戦場で召喚された王様同士が参加している兵士の力を吸収し、兵士たちの代わりに戦うという一風変わったルールだ。
何度もルール試用は行ったし、¢が自信を持って作ったルールだから問題はないだろう。

特に近頃は世界各国の賓客が大戦場に訪れ、既に自治区域内で根付いている【大戦】の文化を世界中に発信している。
通例的に昼間に行われている【大戦】だが、長期連休も多いこの時期は毎年夜に開かれている。さぞ周辺の観光業は大賑わいを見せていることだろう。

加古川「今日の王様制はレアルールだから、参加したかったなあ…」

賛否両論あるルールだが、加古川はそのルールでの戦いが好きだった。


【大戦】開始の号砲が鳴らされたであろう正にその時刻。
加古川は先日潜入した時と同じ場所に身を潜めていた。

今日【大戦】を欠席してまで、ケーキ教団本部に再び忍び込んだことには理由がある。
先日の潜入、そして筍魂の追加報告で加古川は一連の謎を“ほぼ”究明できた。

完全ではないものの、なぜきのたけの“ダイダラボッチ”が【大戦】後の決まった曜日に出現するのか、またなぜケーキ教団本部が武器を密造し角砂糖を乱獲しているのか。
根幹と成る謎はいずれも解けているし合理的な説明もできる。

後は99%を100%にするための確証が必要だった。
そのために、今日【大戦】開催日にケーキ教団本部にいる必要があった。

【大戦】で殆どの住民が出払っているこのタイミングにあわせて、教団は密造武器を秘密裏に何処かで取引をしているはずだと踏んでいたがやはりそれも正しかった。

開戦と同時刻、静まり返った本部内で三人の教団員とともに城門前には大量の荷台が並べられていた。
幌で覆われていた荷台の中身はどれもこんもりと膨らんでおり、明らかに質量を持った物資を積んでいることを想像させた。
その中身が工場で製造した密造武器であることは間違いないだろう。
取引がどの場所で行われているかまでは想像できなかったが、今日で解明の糸口を掴めるはずだ。

―― 『警告だ。これ以上、首を突っ込むようなら容赦はしない』

あの言葉と腰に突きつけられた拳銃の感触を思い出すと、未だに加古川の行動は一瞬鈍くなる。
しかし、目の前で起きている不正を握りつぶすという選択は取れない。

彼は探求家であると同時に正義でありたいと願う誠実な人間でもあった。
先日、覚悟を決めたのだ。

もう彼に逃げるという選択肢はない。



「そろそろ時間ですね」

城門近くに居た兵士の一人がポツリとつぶやいた。それ程大声で離していないにもかかわらず、彼らの話し声は今日もよく響いた。
荷台の周りに三人の兵士と馬にまたがる兵士を数名確認できるが、全員が茶色のフード付きのローブをまとっており、その顔まで伺うことはできない。

「先程、船の姿は確認したんよ。問題なければあと半刻も経たないうちに港に到着する。いまはクルトンさんが現場でいつもの確認をしているはずだ」

三人の中心にいた兵士が後方を振り返り、サトウキビ畑を超えた灯台のあたりを見ている様子が見えた。
ここからではそちらの様子は丁度伺いしれないが、湖上には船舶が見えているのだろうか。

「今日は少し時間が遅れているようですが」

「慌てるな。今日は王様制【大戦】だ。大戦時間は間違いなく長引く。そう決まってるんよ」

焦れた様子で隣の兵士が言うが、中心にいるリーダー格の兵士は落ち着いた様子で制した。

「よしッ!出発だ」

リーダー格の兵士の掛け声とともに、手綱を引く兵士の掛け声とともに大量の荷台に繋がれた馬が動き始め、城門から出発を始めた。

加古川「“取引”ッ!やはり武器は他国に横流しされているということか…見返りに受け取ったものは…ということは、やはり…」

加古川は目の前の出来事に俄に興奮した。

密造武器は他国に横流しされている。
港と言っていたが、チョコ付近での港となると相当距離は離れる。恐らく、湖沿いの何処かで船を停め取引をしているのだ。
迂回貿易も考えられるが、チョ湖に面している国との交易となれば相手側は相当の絞り込みができる。

頭の中でパズルのピースが次々に埋まっていく。
加古川は自らの推理がほぼ正しいことを悟り興奮するとともに、自分の推論通り進んだ場合の世界を考えて同時に息を呑んだ。

加古川「やはり真理は、想像を遥かに超えるな」

小声でも声に出すことで、逸る気持ちを少しでも抑えることが出来た。
一息ついた後に、今起きている出来事を忘れないように、加古川はすぐさま胸ポケットからペンと手記を取り出し記録を始めた。


手記に気を取られている加古川は微塵たりとも気づいていなかった。


破滅の時が刻一刻と近づいている事実を。



「さて。無事、荷台も出発し始めたんよ」

荷台の音に紛れながら、中心に居た兵士はポツリと呟いた。

「少し気が早いけど…」

荷台を一瞥しながら、視線を静かに“門塔の最上部”へと移す。


「…“始末に移るんよ」


瞬間、加古川は、背中越しに強烈な悪寒を感じた。
ゾクリという背中を伝う不気味な感触だ。

咄嗟に背を付けていた壁から身を離したのは何も今後の展開を予期したからではなく、歴戦の兵士として身体が勝手に反応したまでだ。
だが、その行動が結果的に加古川の生命を救った。



  バアン。



加古川「なッ!馬鹿なッ!!」

加古川が先程まで背をつけていた石壁は、ガラガラという石の砕け散った音とともにポッカリと“穴が空いてしまった”。

人の顔ほどの大きさの穴からは外の光景がよく見えた。勿論、加古川の姿もこれでは外から丸見えである。

恐る恐る穴越しに外をチラリと見やると、中心に居た兵士がこちらに銃口を向けている様子が見えた。
ローブの中の顔は相変わらず見えないが、銃口からは煙が吹き出しており、恐ろしいことに弾丸一発で石の壁を粉々に砕くという常識外の出来事を受け止めざるを得なかった。

加古川「ッ!!」

先程と同じ予感。今度は明確に全身で悪寒を感じた。



これは殺意。


強烈なまでの殺意を、あの兵士は加古川に向けている。



  バアン。


間髪入れずに発泡される。自ら空けた穴に再度弾丸を通すという離れ業だ。

今度は咄嗟に左に身体を反らし避けたが、頬を掠めた弾丸は背後で石の壁を粉々にしながら爆ぜた。
頬ににじんだ血を拭う暇もなく、加古川は窮地に追い込まれたことを実感した。

そして考えるより先に、全てをかなぐり捨てる勢いで、加古川は転げ落ちるように目の前の階段から必死に降り始めた。



  バアン。 バアン。


まるでそんな加古川をあざ笑うかのように銃弾は次々と塔を貫通し加古川を狙っていく。
銃声が鳴る度に、階段を走る加古川のすぐ背後から石の砕け散る乾いた破裂音が聞こえてくる。


走る。走る。走る。


その間も銃声は止まない。
二周目の螺旋階段を下り始めたところで、加古川はすぐに気がついた。

銃の主は、まるで追い込み漁のように、敢えて階段を降りる加古川の背後を撃ち退路を断っている。
つまり、加古川は階段を降りることしかできず、降りきった先は――

加古川「ッ!!」

勢いよく塔の出口から出てきた加古川と数十mの位置で相対したリーダー格の兵士は、冷静に銃口を彼に向け待ち構えていた。
反対に残りの二人の兵士が驚愕の様子で加古川を見返しているのが対照的だ。

加古川「これは恥ずかしいところを見られてしまったな。やはり歳は取りたくない」

加古川はコートにかかった砂を払い、持っていたペンと手記を胸ポケットに仕舞った。

「やはり貴方でしたか加古川さん…」

冷静な声で、銃口を落とすこともせずリーダー格の兵士はそう告げた。
やや甲高くそれでいて鼻に突く声。そして舌足らずな方言。

声色を低くしていても、加古川は声の主を確信した。

加古川「その声には聞き覚えがあるな。
















こんなところで会うとは奇遇じゃないか、“¢さん”」





¢「だから忠告したのに。真実を知らないほうが幸せでしたね、加古川さん」

【会議所】重鎮の¢は、ローブの中から妖しげに深緋(こきあけ)色の両目を光らせた。



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