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3-3:教団本部見学編

初公開:2020/08/23


【きのこたけのこ会議所 チョ湖付近 中心通り】

休日の支店近くの中心通りは多くの人で賑わっていた。
久方ぶりの休みを取った加古川は、休日に多く並ぶ露店の中で狙いの店を見つけると、ゆっくりと歩みを進めた。

加古川「こんにちはお嬢ちゃん。少し話をきいてもいいかな?」

「おじちゃん。だあれ?」

被っていたブラウンのシルクハットを取りにこやかに挨拶する加古川に、可憐な少女はきょとんとした顔で首を傾げた。
露店の前の積み上がった上の木箱に、店番とばかりに少女は退屈そうにちょこんと座っていた。

加古川「通りすがりのおじちゃんだよ。君たちの教団について教えてほしいんだ」

「わたしはお兄ちゃんのかわりに座っているだけなの。詳しいことはお兄ちゃんが戻ってからにして」

木箱の上で足をぷらぷらとさせ、青髪の少女は雑踏の中にいるだろう兄の姿を探した。

スティーブ「これはこれは、新しい希望者か?」

ケーキ教団のスティーブは背中越しに加古川に話しかけた。
少女は彼の姿を見るとすぐに笑顔になった。

「お帰りなさいお兄ちゃんッ!」

スティーブ「ただいまロリティーブ。いい子にしていたご褒美だよ」

同じく青髪のスティーブは少女に向かい棒付きキャンディを差し出した。
ロリティーブは満面の笑みでそれを受け取ると人目も気にせず早速舐め始めた。

加古川「教団に興味があってね。ここなら色々と教えてくれるときいたんだが」

加古川が指差した露店の看板には『ケーキ教団 体験入団応募口』と書かれていた。

スティーブ「その通りッ。あんたは運がいい。今から他の希望者も合わせて教団本部へ見学会に行くところさ。来るかい?」

加古川「定員オーバーでなければ、是非」

休日を使い加古川は市内の中心部を練り歩いていた。
『ケーキ教団』の勧誘出張所が露店で出ているとの話を風の噂できいたためだ。

スティーブ「なら馬車を呼んでくる。ここで少し待っていてくれ」

ロリティーブに“すぐ戻るから良い子にしていろよ”と言い聞かせ、加古川より一回り以上は年下だろうスティーブは走り去っていった。

加古川「ロリティーブちゃんは普段からスティーブお兄ちゃんと一緒なのかい?」

少女は少し間を置いてキャンディから顔を離すと、警戒感なく口を開いた。

ロリティーブ「そうだよ。お兄ちゃんとは【儀式】の時以外は、一緒だよ」

加古川「【儀式】?」

聞き慣れない言葉に思わず加古川は聞き返した。
ロリティーブは加古川と話している合間も再びキャンディをなめ始めた。

ロリティーブ「お兄ちゃんはね、毎日夜にね、仲間の人たちと一緒に礼拝堂に籠もってお祈りを捧げるんだって。
選ばれた人しか入れないからロリティーブは行けないの。つまんないの」

加古川「ほう…」

すると“おーい”という呼びかけとともに、スティーブが走って戻ってきた。

スティーブ「ちょうど馬車が来るぜ。ちょうど今から出るところだッ!のりなッ!」

加古川「お嬢ちゃん、ありがとう」

加古川はポケットからココアシガレットを取り出し渡した。

ロリティーブ「これなあに?」

加古川「甘い砂糖の棒さ。後で食べてごらん。おじちゃんのお気に入りだ」

すぐに踵を返し、加古川は通りに停まっている大型の馬車に向かって小走りで歩き始めた。
馬車に乗る間際、背後をチラリと振り返ると、ロリティーブは左手に棒付きキャンディを、右手に貰った飴を持ちながらブンブンと手を振って別れを告げていた。



【きのこたけのこ会議所 ケーキ教団本部】

加古川「あいたた…馬車の揺れは腰に堪えるな。やれやれ、やっと着いたか」

小一時間程かけて入団希望者たちを載せた馬車は必死に山道を登り目的地の教団本部前に停まった。
すると間髪入れず満面の笑みを顔に貼り付けた一人の人間が馬車に駆け寄ってきた。

クルトン「ようこそ、ケーキ教団本部へ。私は案内役を務めますたけのこ軍 クルトンと申します。どうぞよろしくッ!」

クルトンの格好は神父というよりも寧ろ料理人のそれだった。クリーム色のコックコートと長めのコック帽の着こなしは、まるで厨房から飛び出してきたんじゃないかといわんばかりの格好だ。
ただ、シワも汚れもなくパリッとした服からみるに厨房で料理をしているわけではなさそうだ。

馬車を降りながら加古川はケーキ教団本部の周りを一瞥した。

ケーキ教団本部は湖畔の小山の頂上にある誰も住まわなくなった廃城を再活用している。
古城のすぐ横は岩壁で湖と面しており、眼下のチョ湖をよく一望できる。

もし先日の“ダイダラボッチ”の現れた同じ時間帯に此処に居たら、さぞあの巨人の横腹がさぞよく見えたことだろう。
先日巨人を照らしていた灯台は、今いる本部よりさらに奥地にある高台にちょこんと建っているのが見えた。

クルトンの先導で、加古川を含む入団希望者は本部の見学ツアーの案内を受けることになった。

クルトン「数百年前の戦乱の世でこの一帯を収めていた領主のお城を、今は教団本部として利用させてもらっています。
王族が住んでいた部屋は幾つものキッチンへとリフォームし、王の間は巡礼者を迎える聖堂へと様変わりしています」

彼の言葉通り本当に古城をそのまま利用したようで、部屋の内装を除く外壁や古城を取り巻く塔などは当時の歴史がそのまま残されていた。
本来の目的が無ければ、城好きの加古川は見惚れてしまうほどに生々しい歴史が残っている。

「城の奥にある建屋は何ですか?煙が出ているから、工場かなにかですか?」

教団本部の古城の奥には、朱色の細長い屋根に続いて工廠と思わしき建屋が何棟も左右奥にも連ねていた。
いずれも細長く突き出た煙突から黙々と薄黒い煙を吐き出している。

クルトン「ああ、あれはケーキスイーツ工場ですよ。教団の資金源は市販用、業務用スイーツの製造販売なのです。
最近巷で人気となっている【ポイフルケーキ】や【ミルキーウェイブクッキー】などは全て教団工場で真心こめてつくっているものなのですよ」

加古川と同じ希望者たちの何人かから“おお”と歓声が上がる。加古川は巷のスイーツ事情には詳しくなかったが、いずれも有名なブランド品らしい。
知らぬ間に日常にまで教団が接近していた事実に、加古川は少なからず衝撃を受けた。

クルトン「それでは皆さん、城の中に。ここが礼拝堂兼食堂です。
ここでは皆で作りあったケーキやスイーツを食べ、一時の幸福を噛みしめる神聖な場です」

大広間に案内された一行は、教会の聖堂に並べられた長椅子を取り払い、全てレストランの長テーブルに置き変えたかのような食堂に通された。
いずれのテーブルも、信者の全員が皿の上に並べられたケーキを一心不乱に食しているところだった。

クルトン「我々は厳しい戒律を求めません。 “ケーキは食と世界を救う”を教理としています。ケーキを食文化に根付かせるために、我々はケーキを作り食すことを至高の喜びと感じます」

クルトンはわざとらしい作り笑いでそう語るので、加古川は一瞬、彼が冗談で説明しているのかと思った。
だが、彼と同じ笑みを顔に貼り付けた信者たちが『ありがたい、ありがたい』とつぶやきながらケーキを食す姿を見て、これが宗教かと思い直した。

「教団に入ったら何か厳しい修行のようなものがあるのですか?」

希望者の一人が恐る恐る質問した。加古川がチラリとその人間を見やると、質問をした彼は背筋が良く、着ている服もシワひとつない清潔な白シャツだ。

“駄目だな”。
こういう付け入る隙を自分自身で無くしていると思い込んでいる人間ほど、宗教にのめり込む。
加古川は経験則で知っていた。

クルトン「とんでもないッ!我々の教えに修行などというものは存在しませんッ!ですが、そうですねえ。
強いて言えば、修行の代わりにここで何種類ものケーキを食べ続け、信仰を深めているのですが、それが時々お腹にたまりましてねえ。
厳しいのは、その時ぐらいですねえッ!」

その質問を待っていたとばかりに、営業スマイルを二割増しにしたクルトンは一気に捲し立てた。
クルトンがツバを飛ばすほど熱心に語る様に、入団希望者たちの持つ警戒感が一気に薄らいでいくのを加古川は肌で感じ取った。

クルトン「特に古い慣習など我々は許容しません。上納金や会費などで皆さんの生活を圧迫することもしません。
皆さんは、ケーキを食べその美味しさを追求し、周りに広めることが教団の望みであり皆さんの喜びにもなるのです」

クルトンの語る理想に、先程質問をした人間も安心したように何度か小さく頷いた。

加古川「この教団には階級があるんですか?教祖も誰だかわからないし」

端にいた加古川は手を上げ質問をした。クルトンはすぐに加古川へ顔を向けた。

クルトン「教団には教祖というものは存在しません。皆は平等ですが、そうですねえ。
教団内で地位を持つ方は“職人”と呼ばれます。そうした人たちは誰よりもケーキを食べ、ケーキを作った人たちになりますね」

ハハハと笑うクルトンに続き、周りもつられて笑い、辺りは穏やかな空気に包まれた。
加古川も口元では笑みを作りながら、何か小さな違和感を覚えていた。

加古川「それでは、特に信者が集まるための集会やらミサはないんですか?」

クルトン「みなさんも参加できる“ケーキフェス”という食事会は定期的に開かれますよ。みんなでケーキを作り合って食べるんです」

何かはぐらかされている気がする。そう加古川には感じられた。
事態の本質にたどり着くのをやんわりと拒まれている気がする。
長年の勘だ。

加古川「それでは、信者になっても本部や支部に夜通し集まり何か、言うなれば、儀式や座禅のようものはないと?」

クルトン「ええ、そんな話は聞いたことがないですね。信者の皆さんはただイベントに来てケーキを食べるだけです。それがなにか…?」

加古川は内心でしまったと思った。
仕事柄、細かいミスを指摘する事に慣れていたからか、つい仕事と同じ口ぶりで相手を問い詰めるように訊いてしまった。
あまりのしつこさに不審に感じたクルトンも眉をひそめている様子が見えた。

加古川「それは――実に素晴らしいですねえ」

咄嗟の加古川の機転に、一瞬眉を潜めたクルトンはすぐにパアと顔を綻ばせしきりに頷いた。加古川も満面の笑みで同調するように頷いた。

その時、加古川は確信をした。


―― 加古川「【儀式】?」

―― ロリティーブ「仲間の人たちと一緒に礼拝堂に籠もってお祈りを捧げるんだって。その間は選ばれた人しか本部に入れないの」





教団かスティーブ。どちらかが嘘をついている、と。





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