2-1:編纂室と占い編

初公開:2014/05/15

暗い部屋に、一人の兵士の息遣いと、サラサラと紙をこするような
インクの音が聞こえてくる。


『…
 大戦に"やまだ"かつてない危機が訪れようとしている。
 かつてともに混迷の会議所を乗り越えた貴方の力を、今一度
 会議所は必要としている。会議所への復帰を、検討していただけないだろうか』

「ふぅ…」
誤字脱字に気をつけながら、やっとの思いで手紙を書き終えた一人の兵士は、安堵の息をもらした。

「慣れない羽ペンなんて使って書くものじゃないな…」
苦笑しながら、自分の書いた汚い字など読みたくがないとばかりに目の前の手紙を封筒に押し込む。

「さて、あとはこれを参謀に頼んで…」
つぶやいている途中で、兵士は声を呑んだ。
目の前の封筒を参謀に渡せば、彼は目的の人物に確実に届けてくれるだろう。そして届けて手紙の内容に目を通し、もし彼が手紙の内容に共感して会議所に復帰したらどうなるのか。

「…」
兵士は葛藤していた。手紙に書かれている通り、目的の人物には会議所に復活してもらわなければならない。
書き上げた兵士自身が誰よりもその結果を望んでいる。
だが、同時に。
心の奥底では期待している結果とは相反したものになってほしいと渇望している自分がいる。

「…」

封筒を参謀に手渡す時。

それは手渡した瞬間から、歴史の潮流に身を任せることと同義であり。
同時に、古くから成り立ってきた伝統のきのたけ世界への叛逆を宣言する行いを意味する。


━━━━━━━━
━━━━
━━

【K.N.C 180年 会議所 大戦年表編纂室】

アイム「大戦年表…編纂室?」

集計班「大戦の歴史に関するありとあらゆる書物が収められているんですよ、ここは。
上のwiki図書館には置いていない歴史書物が全てこの部屋に集まっています」

オニロ「そういえば、探しても探しても大戦の歴史に関する本がなかったんだ。おかしいと思ったんだよなあ」

アイム「どうしてわざわざこんなヘンピな所に、歴史書を全部集めているんだ?」

集計班「さあ。それはこの部屋をつくった本人に聞いてください」

オニロ「いったい誰がこの部屋を?集計さんですか、それとも参謀が?」

集計班「そのどちらでもありませんし、私にもわかりません。
ある日、宛先不明の置き手紙で、私はこの部屋の存在に気がつきました。

『大量の書物の前で
  “←→←→←→←→←→←→ そして最後に祈れ”
これは困難を打破する魔法の呪文なり。 
 さすれば道は開かれる』
とね」

アイム「な、なんだよそのコマンドみたいな指示は…」

オニロ「もしかして、さっき図書館で歩いていた順路を示しているんですか?」

集計班「そうです。どうやら、図書館の書庫一帯に魔法陣が張られているようで、
規則性のある動きをしないと、編纂室に辿りつけない魔法のようなんです」

アイム「なんていうか。すごくヘンテコでファンタジーぽい話だな」

アイム「しかし…見れば見るほどヘンテコな部屋だな。高すぎて天井が見えねえ…」

オニロ「天井近くにある本はどうやって取ればいいんですか?」

集計班「祈れば勝手に本が来てくれます」

そう答え、集計班は両の手を組んで目を閉じた。
すると、天井近くのはるか遠くの本棚から、するすると一冊の本がにアイムたちに向かって飛んできた。

集計班「ね、簡単でしょ?」

宙に浮いている本を掴み、オニロに渡す。
『wiki図書館の成り立ちとその歴史』と書かれたタイトルの本だ。
ホコリをかぶっている。

オニロ「わあ!面白そうな本だ!」

アイム「…なんていうか、他にも色々と聞きたいことがあるんだが。
部屋の中心で浮いている“モノ”はなんなんだ?」

編纂室の中央には、人の腰ぐらいの高さの台座があり、その上にロール式の古紙がちょこんと置かれている。
ロールから伸びた紙は、物理法則を嘲笑うかのように、果てが見えない天井まで伸びている。
螺旋状に天まで伸び、羽衣のように扉からの隙間風に揺らめくその姿は、ひどく幻想的だった。

集計班「あれは『大戦年表』ですね」

アイム「年表?」

集計班「会議所と大戦に関する歴史上の事件や出来事などが、年代の順を追って記載されている表のことです。
K.N.C1年から現在の180年まで、出来事が詳細に記録されています」

集計班は見えない天井を指さす。ロール紙の端から、K.N.C1年の出来事が記録されているのだという。

集計班「大戦年表への記録は、あたりを飛び回っている『自動筆記ペン』がおこなっています。
“彼ら”は、大戦の結果・総評や、会議で決まった内容など、特定の出来事・事件を即座にあの年表に記録します」

彼らはこの会議所内で、誰よりも歴史家ですね。冗談めいた口調で集計班は語った。
ある自動筆記ペンは、年表のロール部分に張り付き、新たな大戦の歴史が生まれないか
今か今かと待ちわびているようだ。
また、ある自動筆記ペンは、本棚と本棚を行き来し、棚から白紙の書物を引っ張りだしては
仕切りになにか書き込んでいる。その様子はひどく慌ただしい。

集計班「複数の筆記ペンがそこらかしこを飛び回っていますが、
それぞれ与えられている役割が違うのか、まるで会議所の受付所のように
ペンたちは忙しなく動き回っていますよ」

アイムはその言葉を聞いて、受付所でひどくくたびれている加古川を思い出した。

アイム「なんていうか…地上でも地下でもやっていることは変わらない、てか」

オニロ「すごい!なんてすごい部屋なんだ!ボク、あの大戦年表がすごく読みたいです!」

目をキラキラさせながらオニロは喜びを全身で表現している。

集計班「ならば祈ればいいんですよ。さっきみたいにね。試しにやってみるといい」

オニロは頷き、早速両手を組んで祈りはじめた。
対して、アイムは年表に特に興味は示さずに、部屋をジロジロと見回している。

オニロ「おお!年表が手元に来た!すごいよアイム!」

アイム「あーハイハイ。それはよかったな」

マフラーのように古紙を身体に巻きつけながら、オニロは興奮げにアイムに詰め寄った。
対してアイムはオニロのことなど気にもとめず、変わらず部屋の周りを見回している。

オニロ「うわあ。結構正確に記録されているんですね!」

オニロ「K.N.C1年とかどんなことが書いてあるんだろう。なになに…
『K.N.C1年 きのこたけのこ大戦の始祖・たけのこ軍兵士まいう総統が突如きのこ軍に宣戦布告。
無事、たけのこ軍が大戦に勝利…』」

集計班「懐かしい話ですね…」

オニロ「『K.N.C109年 第109次大戦において、たけのこ軍は遂に13連敗を喫する。
大型連敗は、13連敗開始前以前に謎の怪文書”デス論評<ブログ>”によって予見されていた…』
え、なにそれ怖い。この怪文書って社長さんが書いたのかな?」

集計班「K.N.C109年か。確か、社長はその頃まだ…
いえ、なんでもありません。
そうですね、もしかしたら社長が予言したのかもしれません」

アイム「あの変人野郎が、そんなわかりきった予言するのか?」

会議室で突然納豆を練り始め踊り始めた社長の姿を思い出し、アイムは露骨に顔をしかめた。

集計班「その怪文書には『たけのこの里おいしーーー』と、たけのこに関してやけに
ポジティブな発言が書かれていたそうな…」

アイム「なんだそれ。意味ワカンネッ」

どうせあの変人野郎の仕業なんだろ、もう考えたくないね。

アイムはそうつぶやいて頭のなかで『ルーンアクスはデフォ』と言葉を発しながら
立ち姿勢で水平移動を続ける社長を、容赦なくぶった斬った。

オニロ「うわあ、ほんとうに面白いなあ年表って。とても今日中じゃあ読みきれない。
ねえアイム、本当におもしろいよ」

アイム「へぇ、そうかい」

オニロは全身に巻き付いている年表に忙しなく目線をうつしている。
アイムは、犬が尻尾を振りながら餌に食いついている光景を思い浮かべた。

集計班「“彼ら”は日を跨いでも、寝ずに歴史が生まれるのを今か今かと待っています。
そういう意味では、この部屋の筆記ペンたちは会議所の誰よりも『社畜』なのかもしれませんね。ハハッ」

アイム「…あっそ」

気の利いたと思っているジョークがハズレた時ほど悲しいものはない。
集計班の取り繕ったような笑い声だけが部屋に反響する。
見えない天井から反響してくる笑い声の欠片が、余計な虚しさを増幅させた。

オニロ「これからこの部屋に来てもいいんですか?」

集計班「どうぞどうぞ。そのために今日はあなたたちを招待したのです。
喜んでいただけたようでなによりです。まあ、喜んでいただけたのは一名だけのようですが」

アイムはぷいと顔をそむけた。

オニロ「帰るときも来た時と同じ順路を辿らなくちゃいけないんですか?」

集計班「いえ、帰りはその階段を上るだけで元の図書館に戻れますよ。
よくわからない魔法の中身ですが、こういった手間が省けるのには感謝しないとね」

アイム「…なあ。少し聞いてもいいか?」

集計班「少しだけなら答えてもいいですよ」

先ほどの件を気にしているのか、棘を含んだ口調で集計班は答える。
随分と器の小さい兵士だ、とアイムは自らの行いを棚に上げ、一方的にそう評価した。

アイム「なんで俺たちをこの部屋に呼んだんだ?」

集計班「歴史の勉強をしてもらいたいからですよ」

間髪を置かずに流れるような口調で集計班が言葉を返す。
アイムは訝しげな視線を集計班におくる。

アイム「歴史の勉強、ねえ。それは俺たちが新人だからかそれとも“希望の星”だからか?」

集計班「…その両方ですよ」

アイム「いや、おそらく嘘だな」

オニロ「どういうことアイム?」

アイムは目を細め、探偵気分で部屋をゆっくりと歩き出す。
ちなみに足元には物が散乱しているので、けもの道とかしているスペースを行ったり来たりするだけである。

アイム「この大戦年表編纂室。普段から使ってるのは、あんた一人か?
というか、あんた以外にこの部屋の存在知ってる兵士なんて、いないんじゃないのか?」

集計班「どうしてそう思われたんでしょう?」

慇懃無礼な態度を崩さず、しかしどこか試すような口調で集計班はアイムに先を促した。

アイム「まず気になったのは物の散らかり具合だ。部屋には足元にまで本や紙が散らばって、
唯一『人が通っていると思われる』スペースはけもの道のようにならされてはいるけど、
それ以外があまりにも汚い。この点で、まず参謀がこの部屋の汚さを許容するはずがない」

オニロ「あっ。そういえば」

上のwiki図書館は、現館長の参謀兵士が丹念込めて整理整頓を施した一種の『作品』である。
常日頃から清掃活動を行っているのは勿論のこと、本の向きは一様に揃えられた上で本棚に並べられ、
そして綺麗にタグを用いて綺麗に分類分けされた書籍群は、見る者に『清潔感』と『開放感』を与える。

対して編纂室は、物は散らばり、ホコリも水を得た魚のように部屋中に舞っている。巨大な本棚群も、
本の向きはバラバラ、棚によっては横倒しにされている本も見られ、本棚を飛び回っている筆記ペンが
苦労そうに本を取り出している。あらゆるところに煩雑さが目立つ部屋だ。

大多数の人間が不快感を与えるこの空間を、しかし一方で好む好事家もいるのは事実だ。
そして、その好事家の一人に集計班は含まれるのだろうと、アイムは推測していた。

アイム「会議を仕切って会議所を率先してまとめているが、ところどころいい加減な言動が目につくあんたは、
おそらく本質的には参謀と真逆の体質なんじゃないか。つまり、極度のめんどくさがりという点でさ」

集計班は何も言葉を発さない。ただただ静かにアイムの話を聞いている。

アイム「それと、部屋の端には巨大なテーブルと椅子が数脚並べられてるけどさ。
あれ椅子一脚しか使ってないでしょ。特定の椅子の周りだけ、なんというか特に汚いというか。
ベクトルの違う汚さというか…」

編纂室には扉から入って正面に、会議室に備えている大テーブルを縮小したような中テーブルと、
ロッキングチェアがテーブルを囲むように置かれている。当然、テーブルや椅子の上にも本や紙が散乱しているが、
扉に背を向けるように置かれている一脚の周りだけは、ジャンルの異なる本が不必要に何段も積み上がっていたり、
メモ帳用紙がテーブルに置かれていたり、さらには椅子の向きがテーブルではなく年表台に向いていたりするなど、
周りの椅子と妙な違和感があるのだ。

オニロ「ほへー。すごいよアイム!それは気が付かなかった」

だって汚かったし。ボソッと独り言のようにつぶやいた言葉は、しっかりと二人の耳に届いた。

アイム「他の椅子は全部テーブル側に向かっていたし、ここ最近使われた形跡もなかった。
つまり、この編纂室の利用者はただ一人。集計班、あんただけってことだッ!」

得意気にそう語り、どうだと言わんばかりに集計班を指さすアイム。気分は上々である。
その勢いの良さにギャラリーのオニロから思わず拍手がもれる。
照れ隠しからか鼻頭を掻きながら、それで、とアイムはなおも続ける。

アイム「おそらく、あんたはこの部屋の存在を意図的に他の兵士に知らせていないと思う。
他の奴等から聞いたことないし。その理由はわからないけど」

それで2つ目の質問に繋がるわけだ、とアイムはギャラリーと化しているオニロに種明かしをするように話した。

アイム「『俺たちが新人だからかそれとも“希望の星”だからか?』
この質問に、あんたは『両方』と答えた。
だが、オレの推理では、新人だからこの部屋に呼ばれるという仮説は否定される。
なぜなら、利用者があんたしかいないからだ」

だとしたら、オレたちがあの変人野郎の占いの“希望の星”だから、この部屋に呼んだということになる。
アイムは集計班の表情を伺うように説明を付け加えた。
集計班は依然、表情をひとつも変えずにじっと話を聞いている。

アイム「どうだ?オレの話は間違っているか?」

集計班「いやはや。アイム君、予想していたとはいえその予想を上回る素晴らしさだ」

笑みを含ませ、大物めいた口調で集計班は答える。だが、別段威厳はない。

集計班「アイム君の言っていることは概ね事実です」

おお!とオニロから歓声が上がる。アイムにいたっては得意気に胸を反らせている。

集計班「『1. この部屋は私しか利用者がいない』その通りです。
『2. “希望の星”だからあなたたちをここに呼んだ』それもその通りです。
あなたたち以外の兵士をここに招くことはしていません。
『3. 私は極度のめんどくさがりや。』これもその通り、いつからか私は掃除しない汚い部屋に
適用できる精神を手に入れました」

ただ、と集計班は続ける。

集計班「3. 参謀がこの部屋を知らない、というか私しかこの部屋を知らない。
これに関しては残念ながら誤りです」

アイム「え」

集計班「参謀はこの部屋を知っていますよ。そしておそらく、この部屋の汚さも知っています。
参謀は『シューさんの管轄内だから任せる』とだけ言って、この部屋の扱いを私に一任しました」

アイム「マジか」

集計班「マジです。あと、参謀以外にも数人この部屋の存在自体を知っている兵士はいますよ。
まあ誰も利用したことがないという点では、アイム君の言うとおりですけど」

惜しかったですね。大して惜しくなさそうに集計班はアイムを労った。

集計班「そして、なんで私は最後の最後まであなたたちに“そのような事実” を知らせなかったか。
まあ、ぶっちゃけますと、お二方のどちらかでもよかったんですが、私は期待していたんですよ」

オニロ「期待?何にですか?」

オニロの言葉にニヤニヤしながら集計班は答えた。

集計班「アイム君のように、勝手に筋道を立てて勝手に論理を立てて説明してくれることに、ですよ」

オニロ「アイム、怒って先に帰っちゃいましたよ」

集計班に利用されたことに気がついたアイムは顔を真っ赤にして、誰よりも早く編纂室を出ていった。
残った集計班は、自分の椅子に座り悦に浸っている。

集計班「まあ彼を利用するような形になってしまったことは悪かったと思っています。
お詫びに、今度の会議に納豆でも持って行こうかしら」

オニロ「それはなおさら彼の逆鱗に触れるだけのような…
あ、ところでどうしてこの部屋の存在を隠しているんですか?」

集計班「秘密基地のようなものです」

オニロ「え?」

キイキイと音を立て椅子が揺れ始める。

集計班「子どもは、自分だけの秘密基地に信頼できる仲間だけを集めて、一緒に秘密を共有します。
一種の連帯感のようなものです。私にとっての秘密基地が編纂室なんですよ」

あ、歴史を勉強してもらいたいというのは本当ですよ。集計班は忘れていたように付け加える。

オニロ「僕たちは集計班さんからしたら“信頼できる仲間”ということですか?」

椅子は一定の間隔で揺れ続ける。二人の上では筆記ペンが忙しなく動き回っている。

集計班「ええ、そうですよ」

うねる年表を眺めながら、間髪入れずに言葉を返す集計班。椅子は変わらず一定の間隔で揺れ続ける。

オニロ「どうしてそんなに信頼されているんでしょう…ボクたちはまだ会って間もないというというのに。もしかして…」


          ― ボクとあなたは以前どこかでお会いしているんでしょうか? ―

椅子の揺れが止まった。
そこで初めて、集計班は扉の前に立つオニロを見返した。

集計班「…いえ、私はあなたと出会った覚えがありません。
あなたが記憶を無くしているように、私も記憶を無くしていない限りそれは事実でしょう」

オニロ「そうですか…」

しばらく部屋に静寂がおとずれる。筆記ペンの諸差音が上から微かに聞こえてくる程度である。
オニロは今一度、自分が立っている不思議な空間に魅せられていた。

集計班「そんなにここが好きですか?」

オニロの様子に気がついたのか、集計班は優しく声をかける。

オニロ「はい!」

集計班「そうですか…」

二人は黙って、部屋の中央に堂々とそびえ立つ大戦年表を眺めた。
開け放たれた扉から入り込む風で微かにその姿を揺らす年表は、二人の視線から
逃れようと恥ずかしがっているようにオニロには見えた。


集計班「先ほどの話ですがね…」

何分経ったか、年表から目線をオニロに戻し、集計班は再び語りかける。

集計班「もし、もし私があなたのことを知っていたとして、それを黙ってあなたと今こうして接していたとしたら…」


          ― それはとてもイジワルですね ―


集計班は屈託なく笑った。


【K.N.C 180年 会議所 教練所 中庭】

山本鬼教官からの厳しいしごきを耐え抜き、今日もアイムは一人大の字で芝生の上に寝そべっていた。
鍛錬が終わってから夕食までの時間を、アイムはこうして身体の休息に充てている。
風切り音や虫の音色が耳に心地よく響く。目を閉じて、自然の音を聞く。
癒される。至高のひと時である。

筍魂「おつかれさまやで」

こうしてノイズが混ざることも稀にある。

アイム「…なんのようだよ。オレはいま忙しいんだ、話があるなら100年後にきく」

筍魂「こいついつも忙しくしてんな」

アイムは身体を起こして筍魂と向かい合う。

アイム「この間の弟子云々の話なら断ったはずだ。あんたのヘンテコ舞空術は怪しすぎる」

筍魂「ヘンテコ舞空術ではなく、戦闘術『魂』なんですがそれは…」

アイム「そもそも山本教官と話は付けてあるのかよ?」

筍魂「つけたぜ」

アイム「…」

筍魂「嘘ンゴ。本当は話してないンゴ」

アイムは盛大に溜息をついた。

アイム「どうしてオレに付きまとうんだ。まさかお前も、
オレが“希望の星”だからとかいう理由で狙っているんじゃないだろうな?」

筍魂「それは関係ない。俺はお前の実力に惚れ込んでいるんだ」

アイム「なんか面と向かって言われるとキモいな…」

筍魂「あのさぁ…」

アイム「そもそも戦闘術『魂』てのはいったいなんなんだよ?」

筍魂「戦闘術『魂』は、云わば精神と肉体の完全な融合を成し遂げる術だ」

アイム「なんか怪しいな」

筍魂「戦闘術『魂』は、なにもお前の技術を劇的に高めるといったことはしない。
お前の持っている地力を引き出すツールのようなものだと考えればいい」

アイム「地力を?」

筍魂「せやで」

アイム「どうすれば引き出せるんだ?」

筍魂「それは師弟関係にならんと教えられんなあ」

アイム「ぐっ…」

筍魂「続きを知りたければ、ガンガンガン速で検索ゥ!」

アイム「じゃあいらねえや」

筍魂「うーんこの」

戦闘術『魂』の習得にはまだしばらくの時を要する。


【K.N.C 180年 会議所 大戦年表編纂室】

ここ最近、オニロは昼下がりの決まった時間に編纂室に来ては、
夕飯の時間になるまでずっと入り浸っている日々を続けていた。

オニロ「ふむふむ。ふむふむふむ」

集計班「楽しそうですね。791さんとの鍛錬はいいんですか?」

オニロ「ちゃんと午前中に鍛錬はこなしていますよ。最近は詠唱の時間が早くなったと、師匠に褒められました」

地面を埋め尽くす紙束の上に寝転がりながら、オニロは嬉しそうに報告した。

集計班「それはよかった。まあ、ここを気に入っていただけたようでなによりです。
招待したかいがあったというもの」

オニロ「えへへ。でも案の定、アイムは来てないですけど…」

集計班「まあ想定内です」

飲料用抹茶を啜りながら、涼しげに集計班は語る。

オニロ「え。じゃあどうしてアイムを呼んだんですか?」

集計班「そんなことより、時は金なり。今日はK.N.C80年頃まで読むんじゃなかったんですか?」

オニロ「あ、そうだったそうだった!」

手元にある年表を漁り、熱心に読み始める。つい先程した質問など既に頭のなかから抜け落ちているようだ。
扱いやすいなあ。集計班は言葉には出さず心のなかでつぶやいた。

オニロ「ふむふむ。
『wiki図書館の二代目館長の山本さんが迅速に図書館の復旧に務め…』
え、山本さんて図書館長だったんですか!?」

集計班「はい。参謀は三代目図書館長。山本さんは先代の館長です」

オニロ「知らなかったなあ。参謀の館長っぷりがすごく板についていたから」

集計班「張り切ってやられてますからね。図書館は使いやすくて利用者からもとても好評です。
ただし、私からすると少し綺麗過ぎる」

部屋全体を見回してうっとりとする集計班。

オニロ「ボクはもう少し綺麗にしたほうがいいと思います…」

集計班「考えておきます」

集計班は軽く受け流した。

オニロ「そういえば、参謀と山本さんの前の初代図書館長は一体誰なんでしょうか?」

年表には出てこなかったんだよなあ。
自身の周りを囲んでいる年表を手に取りながら、オニロは不思議そうに首をひねった。

集計班「…彼は最後まで沈黙であり続けた」

オニロ「え?」

飲料用抹茶が入ったティーカップをホコリまみれのテーブルの上に置き、
集計班は感慨に浸るように目を細めた。

集計班「我々はその沈黙から多くを学び―」


          ― 同時に重大なものを失った ―

集計班の言葉は、シンとした編纂室によく響きわたった。
虚空を眺めるように、見えない天井に顔を向け語りを続ける。

集計班「歴史とは、現在と過去との対話です。先人の行いを理解し、広い客観的な見方を学んでいくのです」

集計班「wiki図書館初代館長のきのこ軍兵士『無口』さんは、『歴史』を未来の我々に与えてくれた偉大な方です。
あなたが今後大戦に関わっていく上で、名前ぐらいは知っておいたほうがいいでしょう」

きのこ軍兵士無口氏。
ひどく重厚感を感じる名前。初めてその名をきいたはずのオニロは、なぜかちょっとした胸騒ぎを覚えた。

オニロ「えと。無口さんという方は、いま―」

どこにいらっしゃるんですか。
そう続けようとしたオニロは、しかし先ほどの集計班の言葉を思い出し、
すんでのところで言葉を飲み込む。

          ― 彼は最後まで沈黙であり続けた ―

きのこ軍兵士無口は姿を消した。会議所から、そして歴史の舞台から。
理由は誰にもわからない。もし彼の消息を掴める者がいたとしても、彼に倣いひたすら沈黙であり続けるだろう。
今も、そしてこれからも。


【K.N.C 180年 会議中 会議所 議案チャットサロン】

いつものように円卓テーブルを、両軍兵士が取り囲んで座る。

集計班「はい。じゃあ定例会議を始めましょう。まずはじめに、社長から占いの予言があるようです」

社長「つるはし!なう」

参謀「えーと。前の予言がK.N.C175年だから5年越しになるか。ここ最近からしてみたら、長いブランクやな」

アイム「そんなに頻繁に予言が出てるのかよ」

加古川「だいたい2年に一回ぐらいのペースかな?結構頻繁に占なっては、俺たちを悩ませているよ」

社長「とこんの小ささには吹いた」

抹茶「その内容も『実は抹茶はお○っこ好き』とか『社長は実は大の百合好き』とか、
大戦には関係ないそんな内容ばっかりなんです」

アイム「どれも事実の内容ばかりなんだな」

抹茶「え」

社長「修正液ドバドバかけるのさ〜」

オニロ「占いにも、大戦・会議所に関わるものと、そうでないものに分けられるということなんでしょうか?
ボクとアイムが今まで聞いてきた予言は、全部会議所関連だけど」

¢「オニロの言うとおりだ。ただ、一応占いの見分け方はある」

曰く、『占いに合わせて社長が謎の踊り(イルーム舞踊)を始めると、
大戦・会議所に関わる内容』に予言が限定されるらしい。

175年の『納豆予言』と、アイムたちの出現を占った『テイルアタック予言』では、
占い結果の読み上げと同時に社長がイルーム舞踊を始めた。
そして、今日も社長は席を立ち、既に占いの準備に入っている。
これはイルーム舞踊を始める合図であり、これからの占い結果が大戦・会議所に
関わるものであることを自ずと証明していた。

集計班「では、どうぞ」


社長『ピッコロだいまおうとのせいぜつ』


扉の前に立っている社長が、最初の予言を発すると同時に態勢を低くする。
両手を前に突き出し、今にも走り出しそうだ。


社長『ちかづいてくる…まさか!ソン・ゴクウか!?』


そう告げ、社長が扉からテーブルの周りに向かって移動し始める。
ちなみに、今日の社長の靴はローラースケートになっており、姿勢を維持したまま水平移動を可能としている。
そのため、会議所の面子は姿勢を保った社長が部屋の端から端まで移動しているさまを見せつけられている。
いつにもましてシュールだ。

部屋の端まで移動し終わった社長は、いそいそと元いた扉の前まで戻った。
履き慣れていないのか、何度か躓きながら後ろ向きで元の位置まで戻る社長は占い以上にシュールな光景だ。

社長『ちかづいてくる…』


そして、先ほどと同じ言葉を発し、再び同じ姿勢を取った。


社長『ちかづいてくる… まさか!ソン・ゴクウか!?』


再び社長が同じ前傾姿勢で移動する。ローラーと床のこすれる音が、虚しくサロン内に響き渡る。
そして前傾姿勢のまま端まで移動し終わった社長は、再びいそいそと元いた場所まで戻る。
この間の沈黙が酷く気まずい。


社長『   ちかづいてくる… まさか!ソン・ゴク』


アイム「…」

社長が三度目の前口上を始めた時、アイムは考えることを止めた。
目の前の変人のために脳を働かせることがバカらしいと感じたのである。それは正しい。

何が予言だバカバカしい。
そう思いながら、しかし目の前で真剣に意味不明な行動を取る社長を見て、
アイムは以前の占いからも感じた、言葉では言い表せない気迫を社長から感じ取った。

情熱、という言葉が近いのだろうか。
しかし、普段とさほど変わらずアッケラカンとした本人を見ていると、それほど予言の公表に
熱意があるようにも感じられない。
真剣さは感じられる。だが、熱意は感じられない。

果たして本人は自分から望んで占いを公表しているのだろうか。
社長が進んで占い結果を見せる理由はいったいなんなのだろうか?
社長自身が望んでいないとしたら、それは。

アイム「使命感、からなのか?」

ボソリと呟いた言葉は、ローラースケートの移動音でかき消された。


社長『ちかづいてくる… まさか!ソン・ウか!?』


アイム「ソン・ウて誰だよ」

思わず突っ込んでしまったアイムを、誰も咎めはしない。それは正しい。

社長『むすこ ジョンである。 うれもし、カンっキィー!』


最後にそう告げ、社長は何事もなかったようにすとんと自分の席に着く。
数分間、気まずい時間が流れた。

社長「ちんもくかい」

アイム「…終わり、なんだな?」

社長「そうすね」

こうしてアイムたちにとっての、第三回目の占いは終わった。


2-2.異変編へ。
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