3-8:幕間編

初公開:2015/10/20

【K.N.C180年 会議所】

たけのこ軍斑虎を擁する討伐隊は前回の工場跡地発見からまもなく、K.N.C53年に稼働中のスクリプト工場を発見した。
元々、大戦年表ではスクリプト工場の建造、破壊日時などの情報は一切示されない。
大戦に関し、さらにあくまで表向きの情報しか大戦年表は記載しないのだ、とスリッパたちは結論づけた。
その様をオニロは「オリバーも気まぐれだなあ」と、自動筆記ペンのせいにした。

そのため、半ば人海戦術のようなもので工場の破壊に当たらなくてはいけないので、気力との戦いでもあった。
その中で、幸先良く斑虎たちは一回目で工場を発見した。


工場は完全に無人で稼働していた。幾多の小型スクリプトが、巨大スクリプトを製造し続ける無機物の饗宴を目の前にして、
斑虎たちは大きな衝撃を覚えたものの、迅速にかつ的確に破壊した。

スクリプト工場の破壊は、すぐさま“時空震”として編纂室に歴史改変が通知される。
スクリプト工場を破壊したための改変通知ではない。

過去の討伐隊が“討伐した筈の”スクリプトたちが、今回の工場破壊によって謂わば未然に破壊されてしまった。
つまり、件のスクリプトは、過去の年代で大戦を中止させる悪行を働く前に破壊されたという歴史に“上書き”される。

アイムたち討伐隊が破壊したという歴史も無くなるため、その帳尻合わせのための時空震が発生するのである。

過去に参加した討伐隊全員は、歴史の流れから身を守るシェルターでもある編纂室で過ごす機会が必然的に増加した。
徒に外に出て改変の煽りを受けると、歴史再構築の流れによっては、自身の存在に危険を及ぼす可能性があるためである。
編纂室で地震に関する歴史改変の瞬間を迎えてしまえば、その後に地上に出ても自らの身に変化はない。
過去の経験から証明されている。


実働メンバーは、前述のことから、基本的に編纂室から外出することはなくなった。
そのため、ただでさえ人気のない会議所に拍車がかかり、遂には“過疎所”と一部の兵士たちから揶揄されるようになってしまうのだが。
それはまた別の話。

また、スリッパを始めとした幾人かの兵士の予想通り、スクリプト工場は一拠点だけではなかった。
幾多のそれぞれの歴史の時代に、スクリプト工場を作っては破棄し、また作っては破棄するを繰り返していた。

同じ場所のK.N.C53年にスクリプト工場が建造、破棄されたら、残党はK.N.C100年に移動し、同じスクリプト工場を建造し
一定数のスクリプトを生産したらすぐに破棄する。ひたすら繰り返す。時限の境界にスクリプトが存在し続ける限り。
時限の境界に留まり続けるスクリプトたちは、自分と姿が同じ物言わぬ同士をそのような手段で急速に拡充していった。


そのような状況が徐々に明らかになる中で、アイム発案によるハイブリッド作戦――時限の境界を利用しスクリプト&スクリプト工場の捜索、破壊の同時進行―は、
会議所兵士の士気の高さも相まって徐々に効果を出し始めていた。

アイムのように見えざる制約に触れること無く、討伐隊は時限の境界を使って任務を遂行し続けた。
隊員たちは必ず前もって改変する年代を決めてから時限の境界へ突入し、時限の扉をくぐる際は隊員通しで必ず手を繋いだ。

討伐隊員が時限の境界を恐れず、歴史の波にのまれ続けていることも大きかった。
慎重論派の筆頭であった¢も一度会議で方針が決まってからというもの、一度も不平不満を漏らさず寧ろ進んで討伐隊に参加した。
彼の真摯で寡黙な態度が、会議所勢の士気をさらに向上させたことは疑いしれない。

アイムも¢の行動に深く感銘を受けた一方で、先日の一件から彼を完全に信用しきれない思いがあることもまた事実だった。

工場を次々に破壊し、歴史を修正し人々の心の本の“ページ”を修復していく。
長く行われなかった大戦に対して声を上げる気力すら失っていた民衆は、俄に会議所に対して不平不満を語り始めた。
それは一般兵士に徐々に活気が戻りつつあるという証拠に他ならない。

だが、その士気は意外な方向性に向けられた。
一部民衆の声は、歴史修正を行うほどに大きくなり、今では集落内で会議所デモを起こすほどには復活した。
兵士たちは口々に会議所に向かって思いの丈をぶつけ始める。

「大戦を指揮しない会議所はどうかしているいッ!」
「神に祈りお願いし続けた!しかしその縋る神などいなかったッ!信じられるものなどないんだッ!」
「出てこい会議所勢ッ!お前らの顔を見せろッ!」

定例会議でその様子を報告した加古川は、苦笑しながら次のように締めくくった。

加古川「まあ両軍問わず、大戦の開催を望む者は徐々にではあるが増えてきている。熱気があるのはいいことだな。
…その熱意が別のものに向けられなければ、の話だがな」

兵士たちからの意外な罵倒に、思わずアイムとオニロはお互いを見やり不思議な気分に陥った。

オニロ「神などいない…か」

アイム「まあオレは無宗教だからいいがな」

社長「百合神さまの強さはガチ」

しかし、こうした兵士の声はほんの一部であり、未だ大衆は大戦への意欲を失い続けたままである。
スクリプトの完全撲滅、加えてDBの捕獲・討伐を果たさないかぎりは、以前のように活気に満ち溢れた世界には戻らない。
会議所は戦い続ける。兵士の熱意を取り戻すために。たとえその兵士たちから非難されようとも。


四季は移り変わる。それでも年度は進まない。

オニロは如何なる時も編纂室で地下部隊の要として、大戦年表とともに歴史の傍観者で在り続けた。
目の前でアイムたちが命を賭して戦うのをオニロは地下から待ち続けることしかできない。
一緒に戦えない無念さはいかようなものか。討伐隊を送り出す以外に、オニロの顔は終始暗いものだった。
そんなある夜。

791「やあ浮かない顔だね」

オニロ「師匠ッ!部屋で寝ていなくていいんですか」

791「オニロこそ寝なくていいのかな?」

オニロ「ボクは…歴史を観測する必要がありますから。みんなが頑張っている時に、一人寝ていることなんてできません…」

791「アイムは筍魂さんから『戦闘術・魂』を伝承したらしいよ。すごいね」

オニロ「はい、やっぱりアイムはすごいですね…」

791「…強くなりたいかい?」

オニロ「強くなっても使う機会がなければ意味がないです…強くなんてなりたく――」

791「私はね。嘘つきと意気地なしが何より嫌いなんだ。わかっているだろう?」

791「思い出せ。あの時の訓練を」

オニロ「…ボクが間違っていました。お願いします、師匠」

討伐隊がスクリプトと戦う中、オニロは師である791と追加の訓練を受けることになるのだが。
それもまた別の話。


【K.N.C??年 ???】

???「何かがおかしいですよなァ」

薄暗いホールの中央に居座る巨大で醜悪なる異形のモノは、ぽつりとそう疑問を投げかけた。
刻一刻と変貌しつつある状況の変化に、困惑を隠すことができていない面持ちである。

???「なぜ、奴らは“工場の在処”を把握しているんだッ」

怒気をはらんだ不快な音波は、伽藍堂としたホールによく反響した。怒りとも嘆きともとれるその声に、しかしさしたる反応はない。
彼の側に居たスクリプトは軒並み消えてしまった。過去に点在した工場をDB討伐隊が破壊する度にスクリプトたちは消えてしまった。

討伐隊に直接、手を下されてずに消えたものも数多い。
歴史の整合性のために、世界は、工場生産のスクリプトを一体、また一体この騒乱の中で消え失せているのだった。

討伐隊が工場の存在を突き止めることは、異型のモノにとっては想定内だった。スクリプトの増加を鑑みるに、会議所がスクリプト工場に辿り着くのは時間の問題だ。
だからこそ、工場を数多の時代に点在させた。スクリプトに一任させ、スクリプトがスクリプトを生産させる無限サイクルを作り上げた。

数多の時代に点在するうちの一つが破壊されたところで大した打撃ではない。たまたま討伐隊が工場1箇所を見つけられたとしても、その間にもスクリプトたちは工場を増産しスクリプトを量産する。
そして、大戦の歴史をスクリプト敗北のものに書き換え、兵士の士気を完全に吸収する。

計画はおおまかにこのようなものだった。計画の始動時点で、彼とスクリプトは勝利を確信さえした。
最初の頃は高笑いが止まらず、感情がないはずのスクリプトさえ、その時はもんどりをうって喜びを前面に押し出していたように思えた。

しかし、討伐隊はまるでその余裕を嘲るかのように、迅速すぎる程に各年代の工場を発見、破壊していった。

数多の工場を個々に特定していくのは、工場稼働の一年代を特定してないといけないという条件上、不可能といっていい。
また、時限の境界を使用する際に避けては通れない【制約】を考えると、総当りで過去の年代へ突入するといった大胆な行動は制限される筈である。

過去の改変で現在の会議所兵士に多大な影響を与える可能性もある。
それこそ、会議所に情報を漏らす内通者がいるか、会議所が“魔法”でも使わないかぎり、工場特定は不可能なのだ。

???「…まさかッ」

ハッとしたように口を半開きにする。開け放たれた口内から、毒々しい吐息が静かに霧消していく。

???「会議所内にも存在するんですかねェ…“ここ”と同じような場所がッ」

自らの居る場所を指し示すかのように、異型のモノは脚を二度、三度踏み鳴らした。


―――


彼は、時限の境界の【制約】を全て把握していた。

否、スクリプトとともに“事前に”知らされていた。


―――

━━
━━━━

最早、彼にとって遠い過去のように思える、運命を分けたその日。彼とスクリプトを閉じ込めていた牢は何者かによって突如として開け放たれた。
大戦中で会議所内の兵士が全てで払っている中、びくびくとしながら牢を飛び出し、急いで会議所を脱出した彼は。
その傍らにいるスクリプトとともに、突如頭の中に響いてくる【声】を聴いた。


――『君たちは、いまからとある場所を目指さないといけない』

――『【時限の境界】。そこは、過去へ時間跳躍できる力を持つ場所だ。また、時限の境界内は【歴史改変の影響を受けない】、いわば歴史の波から君たちを守るシェルターだ。有効に使うと良い』

――『安心してほしい。会議所の、きのたけ兵士たちには、今から話す内容を決して口外したりはしないよ。君たちだけのものだ』


???「な、なぜオレ様たちにそこまで教える。怪しいですなァ」

【声】は冷静に、彼を諭した。


――『君たちは、この牢から逃亡するという選択を選んだ。即ち、会議所との全面対決に他ならない。我々はその選択を大いに歓迎するよ』

――『いつの日か、君たちの行方を追跡するために、会議所から討伐隊が結成されるだろう。その時において、【時限の境界】は重要な意味をもってくる』


???「な、なるほどォ!フハハハッ、オレ様とスクリプトはその時限の境界に逃げ込み、会議所勢を迎え撃てばいいわけだなッ!痛快ッ!愉快ッ!愉悦ッ!」

――『ただ、時限の境界には【制約】が存在する。この【制約】を理解しない者には然るべき罰が与えられる。今から、君たちには、その制約の全てを訓えよう…』

━━━━
━━

時限の境界は、“歴史改変の影響を受けない空間”である。始めに【声】から受けた説明だ。

仮に、同胞のスクリプトが、世界を創り変えるほどの歴史改変を過去にて行い、自身の存在が危ぶまれたとしても、時限の境界内にいればその影響は一切受けない。
たとえば、過去の時代において自分が存在を消されてしまったとする。その歴史改変を、時限の境界内で過ごしていれば、自分という存在は残る。
時限の境界で歴史改変の瞬間をやり過ごしてさえしまえば、自らの身は保証される。この事実は、彼に多大な安心を与えた。

とはいえ、時限の境界の【制約】により、時限の境界内に長時間留まり続けることはできない。
跳躍先の過去においては、時限の境界(シェルター)から出てしまうため歴史改変の影響を受けてしまう。その行動には細心の注意を払わなければいけない。
そして、彼の元から消え去ったスクリプトたちは、跳躍先の過去で討伐隊による再改変の影響を受け、次々とその存在ごと抹消されているのだった。

???「時限の境界と同等の機能を有した場所が存在する筈だ。いや、寧ろそれ以上だァ。たとえば、“大戦歴史を逐一確認できる場所”とかなァ…」

彼は、【大戦の歴史を変えないと現代に戻れない】という時限の境界の制約を知っている。
これ程までに正確に工場を破壊してくる様は、会議所側に歴史を逐一閲覧できるシステムが存在してもおかしくない。そう考えた。

彼の読みは概ね正しかった。ただ一つの読み違えたとすれば、会議所側もスクリプト工場設立の時代を正確に把握しているわけではないということだった。
そのため、会議所側は半ば総当りに近い工場捜索作戦を実施している。ただ、スリッパ発案によりある程度の年代絞り込みがあった上でのことだが、当の異型のモノは知る由もない。

???「オレ樣自身で動かなくてはいけないのか…いや、しかしィ今ここで動くわけにも…」

一時期自身の元に集まっていた兵士の“士気”も、討伐隊の歴史再改変により、今は彼の手を離れ元の兵士の下に戻りつつある。
彼は悩んでいた。兵士の士気を喰らうことが必要だった。
ただ、今ここで崩壊一歩手前のまま外に姿を見せるのは会議所側の思惑通りといっていい。即ち、敗北の二文字。

そして、悩んでいる間にも時限の境界は彼をまた次の過去へと引きずり込むべく彼の脚を見えない力で掴む。
同時に、謎の吸引力を感じながら、彼は手近に居たスクリプトの脚を掴み、歴史改変の行動共有を取るための準備を整える。

会議所側と同じく、彼にもまた十分に思案するだけの時間は残されていない。
ふわりと宙に浮く感触を得ながら、思考を張り巡らせる。そして、扉をくぐる直前に、彼は閉じていた両の瞳をかっと見開いた。
どうやら最善手の行動を発見したようだが、時間跳躍の衝撃でその閃きを維持できたかどうかは定かでない。

時限の境界が微かに揺れる。時代跳躍を行う際、時限の境界は微かに空間全体が微弱に震動する。
両陣営を翻弄してやまないこの空間も、彼らの時間跳躍が済めば、束の間の休息に入る。
長い間、震動するその揺れは、まるで近く訪れるであろう決戦を予期させた武者震いのように、時限の境界は両陣営の動きを観戦者として見守り続ける。


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