4-2:三人目の救世主

初公開:2017/06/25


【K.N.C??年 避難所の避難所】
きのこたけのこ大戦世界のはるか雲の上、高度な魔法で厳格に存在を秘匿される環境下に【避難所の避難所】は存在した。
【避難所の避難所】は大戦世界を正しく導くための管理所として、世界の始祖まいうが創造した。

黎明期は限られたメンバーだけしか利用していないことから別の世界に存在していたが、いつか地上から帰還した中心メンバーの一人である無口が
『今日からここは【天の上】となる』と無表情ながら茶目っ気ぽく語った時から、【避難所の避難所】は雲の上に移動し下界を見守る管理区域と化した。

冗談が過ぎる、と軍神はメンバーの一人として内心苛立ちを感じていた。ただ、この負の感情が正当なものかはたまたつい最近の自身への冷遇から出るものなのか、
どちらに因るものか自信を持てず、表立って不平を言うことはなかった。

白を基調とした広大な談話室の中心で、軍神は独り物思いにふけていた。

DB「おやおやァ。これはこれはァ軍神<アーミーゴッド>様ではないですか」

【恥辱の神】DBの声のした方向に首を向けると、それまで物憂げだった軍神は露骨に顔をしかめた。

軍神「久々に討伐戦に駆り出される予定だと今日の定例会議で言っていただろう。その醜い姿をひっさげてさっさと地上に降りたらどうだ」

DB「ツレないねェ。俺様と貴様の仲じゃないか、俺様の無事を祈っていてくれよなァ」

軍神「ああ祈っているよ、会議所が今度こそ貴様を捕えることを切にな」

短く言葉を切ると、軍神は中央に鎮座されている巨大な水晶に視線を移した。
透き通るほど澄んだ水晶は兵士を数十人は飲み込めるほど巨大でありながら、綺羅びやかに光を放ち続けていた。
軍神の視線を追うように水晶の中身を眺めていたDBだが、水晶の中に映し出されていた光景に下卑た笑いを浮かべた。

DB「連中も噛み合わないねェ。【スキル制】ルールなんてうまくいくわけないだろうにィ」

水晶の中には、大戦場で戦い続ける兵士たちの姿が映っていた。

軍神「哀れなオツムだと否定することしか出来ないのか。きっと上手くいく」

DB「いや、すぐに内外から紛糾してルール中止に追い込まれるさァ。俺様は“ネガティブ”な話題には人一倍に敏感だからわかるんだよ。『預言書』に書かれてなくても予測できるゥ」

水晶の中では、先程まで軍神たちと同じく会議に出席していた集計班が疲れ切った表情で集計作業にあたっていた。

DB「ところでェ。聞いたぜ、帰還命令が出て【避難所の避難所】に幽閉されるんだってな。かわいそうにィ。兵士たちに忘れられた武運の神様は、天の上から指を咥え下界を見ているしかない。
一方で悪役の俺様は強烈な存在感で忘れられずに近々また地上へ降りられる」

いわずともDBが軍神のことを語っていることは、軍神自身がよく理解していた。

軍神「今は新ルール運用等も含め、兵士たちの心に余裕がないからしかたがない。いつか再び大戦の人気が頂点を迎える時、我がまた姿を現せばいい」

DB「果たしてそれが叶うかなァ?」

DBの下賤な目線に応えることなく、軍神はただ水晶に映し出された大戦を眺め続けていた。

DB「また戻りたいだろゥ?懐かしいんだろゥ?」

軍神「…当たり前だ。だが、ここのメンバーはそう思っていないだろ。戦の神様をお役御免とでも思っているんじゃないのか」

DB「…あんたの願い、叶えてやろうかァ?」

思いがけない言葉に、軍神は思わず眉をひそめ初めて水晶から視線を外した。

軍神「君がか?馬鹿も休みも言え。それに誰が信じるんだッ」

DBの提案を一笑に付す軍神に、下品な笑みを絶やさず恥辱の神は言葉を続けたのだった。

DB「安心しろよォ。ここを離れようとすぐあんたを“迎えに行く”からよォ、【避難所の避難所】もそれを望んでいるだろ」


━━━━
━━━━━━

【K.N.C180年 会議所地下 大戦開発室】

DB「“あの時”の言葉どおり、俺様は“貴様”を再び地上へ連れ戻してやった。さあ感謝しろォ」

アイム「ふざけるなッ!混乱に乗じてオレたちをここに呼び出して――」

オニロ「ボクたちを消滅させて、全ての負のエネルギーを吸収しようとしただろうッ!」

DB「だってェ軍神<アーミーゴッド>がいる限りは、大戦世界には“希望”が振りまかれる。希望ってのは俺様の大嫌いなものなんだよォ。
つまり、“希望”の塊である貴様は俺様にとって天敵というわけだァ!!」

DBが指をパチンと鳴らすと、虚ろな意識でいた操り兵士たちは糸でひかれたようにすっくと背筋を伸ばした。

スリッパ「なんだ、何が起きているッ!?」

オニロ「事情は後で話しますッ!麻痺魔法は解除しましたので起ち上がってくださいッ!」

社長「この会議所荒らす 龍の穴」

操られた兵士たちは、まるでゾンビのようにヨロヨロとアイムたちに近づいていた。

加古川「おーいアイムゥ。残業のない世界は最高だぞォ」

抹茶「そうですよォ。特殊な性癖をもっていても非難されないんですゥ」

埼玉「もう一歩も外へ出なくてもいいたまァ」

¢「…ん、あ」

スリッパ「仲間と戦うのか、冗談がきついな…」

社長「ぼくら かんきんされとるんやで。」

アイム「全員おかしな夢を見ているんだ。だから、ちょっと頭を小突いて目を覚ましてやろうぜッ!」

オニロ「そうだよ。それにボクたちはあの無口さんにも一泡吹かせたんだ。DBがかけた操り如きに負けるボクたちじゃないよ」

アイムとオニロの自信に満ちた鼓舞は社長とスリッパ、そしてサラを目に見えて勇気づけた。事実、数は多くとも操り兵士たちはDBの急ぎかけた術ゆえ不完全で、今のアイムたちの敵ではなかった。
4人の前に操り兵士たちは一人、また一人と意識を失っていくのだった。

DB「バカなァ…」

アイム「ツメが甘いなあ。オレたちは皆の戦いをよく知ってるんだ、弱点もよく知ってるってことだろうが」

アイム「この場に791さんや筍魂<バカ師匠>を呼んでたらどうなってたかわからないが。オレたちほどあの野郎、スタミナ切れてまたどこかで寝てるんだろうな」

オニロ「師匠との修行に比べたら、こんな戦いへっちゃらだよッ!」

スリッパ「二人と戦っていると私まで勇気が湧いてくるな。サラッ!さっさと皆の目を覚ましてやろう!」

社長「いいぞ」

気がつけば、4人の周りには数名の操り兵士がかろうじて立ち向かうばかりになっていた。

DB「――もういい」

DBが椅子から立ち上がると、操り兵士たちは糸が切れたようにその場に全員倒れた。

アイム「もう降参か?」

オニロ「相変わらず堪え性がないね。だから【避難所の避難所】の忠告も無視し、長いこと会議所に捕えられるのさ」

二人の言葉に耳を一切貸さず、支配者は自分だとばかりの態度でDBは4人に向かい手をたたき賞賛した。

DB「負のオーラの兵士に、自身の希望 ―正のオーラ― を与えて相殺したな。見事な解決法だ、さすがは軍神<アーミーゴッド>」

そこでパタリと叩いていた手を下ろす。

DB「――だが、不完全な貴様が今の俺様に敵うと思うのか?」

瞬間、DBの体の周りを覆っていたどす黒いオーラが、勢い良く四方に放たれた。

スリッパ「ぐあああああああ」

社長「しねばいいんでしょう?」

アイム「くッ!!みんな、しっかりしろッ!!」

オニロ「ダメだアイムッ!身体が言うことを…きかないッ!」

意識を失うほどの刺激臭と腐敗臭が兵士の鼻をつき、一人また一人とその場で崩れ落ちていった。

スリッパ「も、もうダメだ…二人だけでも先に逃げるんだ」

アイム「そんなこと、できるわけねえだろッ!起き上がって…くっ足が動かねえ」

DB「いい顔になった、俺好みの苦しんでる顔だァ。最後の仕上げだッ」

再びDBがパチンと指を鳴らすと、暗闇の中からぬっと二人の兵士が姿を現した。
それはアイムとオニロの最も会いたくない兵士で、会議所内でも最強に属する兵士だった。

アイム「バカ師匠…!」

オニロ「師匠!」

791と筍魂は顔を伏せながら、怖気づく二人の前までゆらゆらと近づいていった。

DB「ゲハハハハハハッ!愉悦愉悦ゥ!感じるぞォ、追い詰められた貴様らの絶望!恐怖!なんて馳走だァ!」

その場で舌舐めずりをし歓喜に打ち震えるDBと対象的に、アイムとオニロは困惑し自らの師匠から逃げるようにジリジリと後退した。
希望に満ちた状況から一変し、起こり得るはずないと高をくくっていた事実が目の前に突きつけられ、出来すぎなまでのストーリーだった。
791と筍魂に囲まれる形で背中合わせになった二人はただ絶句した。

DB「あァ…うまい、なんてうまいんだ。これが“負のオーラ”。もう諦めろ軍神<アーミーゴッド>。
いやァ諦めるな。諦める前にもっと、も〜っと絶望しろォ。そして最期に希望を完全に失う瞬間が、俺様にとってメインディッシュとなるのだァ!!!!」

アイム「…ここまでか」

オニロは背中越しに、アイムが戦闘の構えを説いたことを察した。

オニロ「アイム…師匠に楯突くことを気にしているのかい?操られてるんだからノーカンだよ」

アイム「そりゃあテメエらの師弟関係じゃ…そうだな。お前の言うとおりだ。でもな。悔しいことにもう足が動かないんだ…先に言っておく、すまねえオニロ」

無口戦から精神的に溜まっていた疲労も極地に達し、遂にアイムは膝をついた。

オニロ「…次、また同じ弱音を吐いたらアイムでも容赦しないよ」

オニロは手に握る杖に力を込めた。
そしてアイムを護るように、オニロは二人の師匠の前に立ちはだかった。

オニロ「絶対にアイムをここから救い出して、後で笑い話にするんだ。『あの時、もうダメだ〜てアイムはボクに泣きついてきたんだ』てね」

アイム「やめろ、ムダな体力を使うな。お前は直感で行動しすぎだ、もっと考えろ生き残る道を」

オニロ「思い出すんだアイム。ボクたちは“希望の星”だろ?
希望を持つんだアイム。底なしの願いでも、希望を持つことをヤメてしまえば何も生まれないッ!」





??「正解だ、小僧―――」



オニロ「!?」

一閃。
アイムとオニロの頬を撫でるように吹いた一陣の風は、数秒の沈黙の後、瞬撃の太刀筋として斬撃音とともに遅れて表れた。
太刀筋の中にいた791と筍魂は衝撃で吹っ飛ばされ、玉座に居たDBも巻き込み壁に叩きつけられた。

??「叶いっこない願い、大いに結構ッ!兵士はただ自身が描いた“夢”に向かい邁進する。それを叶えてあげる手助けとなるのが“希望”。正に底なしの“希望”よ!」

金属と金属が擦れあう音とともに、どこからか攻撃をした兵士は長剣を納刀した。

DB「ぐああああああッ!誰だあ貴様ッ!俺様の負のオーラを食らって動けるはずがないッ!!」

闇の中から現れたその兵士は、いつもの癖でシルクハットのツバに手をかけ不敵な笑みを浮かべた。

??「紹介がおくれたな。俺の名前はコンバット竹内。元・たけのこ軍兵士で、きのたけ“最後の希望”だ」


4-3. 絶望と希望の対決篇〜へ。
Chapter4. 大戦に愛をへ戻る。

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