１ 法人公民館の社会教育法上の位置
法人公民館とは社会教育法第21条第2項の規定に基づいて設置された「私立」の公民館である。社教法第21条は「公民館は、市町村が設置する」としたうえで、その例外として第2項で「公民館の設置を目的とする一般社団法人又は一般財団法人」に限って設置できると規定している。現行の条文は、公益法人制度改革に伴う2006年6月の関連法整備よって改正されたもので、それまでは法の制定以来「公民館設置の目的をもって民法第34条の規定により設立する法人」とされていた。
法人公民館が社会教育法でどのように規定されているかを条文の改定にも留意しつつ確認しておこう。
公民館としての本質に関わる規定、つまりその目的（20条）、事業（22条）、職員（27条）、職員研修（28条2項）、公民館運営審議会（29条）に関しては、当然といえるが、設置者が市町村か法人であるかによる区別は存在しない。そのほか、都道府県の補助金支給に関する規定（第37条）、2008年の法改正で加えられた公民館運営の評価、改善、情報提供の規定（第32条）、命令違反への罰則規定（41条）も両者を区別して扱っていない。
ただし、運営方針（23条）に関しては、公立公民館には�“鷄塚�、�∪�治的中立、��宗教的中立の3原則が課されるのに対し、法人公民館では� き△世韻箸覆辰討い襦�つまり「特定の宗教」「特定の教派、宗派若しくは教団」を支持、支援する事業が可能なのである。これは法人公民館の大きな特徴である。
財務や人事など公民館経営に関わる規定として、公民館のための基金（第33条）、特別会計（34条）、国庫補助（35条、38条）に関する規定、公民館設置条例に関する規定（24条）、職員や公運審の任命に関する規定（28条、30条）があるが、これらはすべて公立公民館の設置者としての市町村に対する規定であり、法人公民館には適用されない。また、法人公民館の場合には、公運審には設置者である法人の役員を充てる（第31条）とされている。以上のことは、法人公民館が市町村の社会教育行政から独立し、その経営等の方法も法人の責任に委ねられていることを意味する。
法人公民館は市町村ではなく都道府県の教育委員会の監督下にあることを示すのが、第39条の文部科学大臣及び都道府県教育委員会は法人公民館の運営に関し、「その求めに応じて、必要な指導及び助言を与えることができる」という規定である。さらに、第40条では、23条の運営方針に違反した事業、行為に対する停止命令の主体が、公立公民館に対しては市町村教育委員会であるのに対し、法人公民館に対しては都道府県教育委員会とされている。このように教育行政上の位置づけが全く異なるのである。
ただし、この規定は法律制定時の条文では全く異なっていた。上述の第39条、40条とも、法人公民館に関する規定ではなく、公立を含む「公民館」に関する条文であった。公立公民館も等しく都道府県教育委員会の監督下に置かれていたのである。それだけでなく、制定当時の法には「市町村が公民館を設置、又は廃止したときは、その旨を都道府県の教育委員会に報告しなければならない」（25条）、「法人の設置する公民館の設置及び廃止並びに設置者の変更は、あらかじめ、都道府県の教育委員会に届け出なければならない」（26条）という条項もあった。「報告」と事前の「届け出」という相違はあったが、設置等に関しても都道府県教育委員会が関与していたのである。換言すれば、元の法では都道府県教育委員会の権限が強く、その下で公立と法人立の差異は相対的に小さかったといえる。
公民館に関する都道府県教育委員会の関与権限は、その後の法改正により徐々に縮小した。
1953年8月の法改正では、第40条が現行条文に改正され、公立公民館への停止命令は市町村教育委員会が出すことになった。と同時に、都道府県教委が市町村教育委員会に対して停止命令を出すよう勧告できるという第2項が新設された。
1956年6月の法改正では、第39条が現行条文に改正され、指導・助言の対象は法人公民館だけになった。
1959年4月の改正では、公民館の基準を規定した第23条の2が追加され、文部大臣および都道府県教育委員会は市町村の設置する公民館に関しては市町村に対して指導、助言、援助に努めるという現行の規定になった。
1967年8月の許可、認可等の整理に関する法律による改正で、第25条および26条が削除され、公民館の設置等に関する都道府県教委の権限がなくなった。
1984年5月の改正で、53年に追加されていた第40条2項が削除され、都道府県教委の勧告権限がなくなった。
1985年12月の改正では第40条の新しい第2項として、法人公民館への停止命令に関しては都道府県条例で定めるという規定が加えられた。
このようにして都道府県教育委員会の関与は法人公民館に対する指導・助言と違反行為への停止命令だけに縮小していく。同時に、市町村社会教育行政の基幹施設として発展していく公立公民館と都道府県教育委員会の管轄下に留まった法人公民館との距離はますます広がったのである。
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