Twitterの「#いいねした人を同じアパートの住人として紹介する」タグにて書いたSSの原型まとめとなります。オカルト色強め、心霊・グロテスク・サイコな設定多数。

投稿者:A.T


私が小学四年生の時の話です。
夏休み、私はクラスメイトのYちゃんとKくん、Kくんの妹のNちゃんと毎日のように遊んでいました。
当時住んでいた町は曰く付きのものや妙な噂が立つ場所が多く、子供心をくすぐりました。
古びた鉄塔のそばまで行ってみたり、底なし沼と噂される溜池を探したりと毎日日が暮れるまで冒険していました。

ある日のことです。Kくんが言いました。
「おばけ小屋に行ってみない?」
Kくん達が住むアパートは鉄筋4階建てで比較的新し目なのですが、そのアパート裏にぽつりとボロボロの納屋が建っていました。
朽ちかけた木で出来たそれを子供達は「おばけ小屋」と呼び、気味悪がって近づきませんでした。
Yちゃんは渋っていましたが、近所の不思議スポットを探検し尽くした私は身近にあった穴場にとても乗り気になり、すぐ出発することにしました。
住んでいるアパートのすぐ裏です。道に迷うこともありません。
アパートの敷地にしては広い裏庭を奥まで進むと例のおばけ小屋が見えました。
納屋の扉は建て付けが悪く、ギシギシと嫌な音を立ててようやく子供が通れるぐらい開けることができました。
私を先頭に、Yちゃん、Kくんと手を繋いだNちゃんが納屋の中に入ります。
中は暗くて湿った土のにおいがしました。壁板の隙間から差し込んだ光に照らされきらきらと埃が舞っています。
バケツやホース、掃除用具、猫車、壊れかけたプランターなど、使い込まれた物達が雑多に置いてありました。なんて事はない、ただの物置でした。
なにか面白いものが見つからないかと全員で納屋の中を探しましたが、10畳分ぐらいの広さしかない物置に目立ったものなどあるはずもなく。
「なーんだぁ。ふつうの小屋だね」
そう私が言った時、Kくんが声を上げました。
「なあなあ、奥にドアがある」
手招きするKくんの方へ集まると、彼の言う通り、ガラクタに埋もれるように古びたドアがありました。鉄製で所々錆びています。
「入ってみよっか」
誰となしにそう言い、奥へ進むことになりました。普通に考えればただの裏口なのですが、私達はこの奥になにか面白いものがあると思い込んでいました。
ドアに鍵はかかっておらず、簡単に開きました。

そこは先程よりもずっと広い部屋でした。地面が土ではなくコンクリートで、天井も10メートルぐらいの高さにある倉庫のような建物でした。
中は真っ暗で、天井付近にある申し訳程度の小窓から辛うじて外の明るさが漏れているぐらいでした。
「なにここ……」
Yちゃんが不安そうに呟きます。私も突然の異様な空間に一瞬気圧されました。
「うわぁ!!」
先へ行こうとしたKくんの悲鳴でした。私達は恐る恐るそちらを覗きます。
そこにはたくさんのマネキンや石膏像が折り重なるように積み上がっていました。どれも割れていたり煤けていたりとかなり汚くとても不気味でした。
「大丈夫、ただのマネキンだよ」
私は自分に言い聞かせるようにしてKくんを押しのけ先に進みました。
当時男勝りで勝気だった私はここへ来て怖気付いたなどと思われたくなかったのです。

その倉庫の中には奇妙なものばかりが置かれていました。
荒縄で一括りに吊るされた大小様々なこけしや、文字が彫られた黒い木の板の山(今思い返すとあれは位牌だったような気がします)、ドロドロした変な液体が入っている甕、頭だけのお地蔵さん。壁には何枚もの剥がされた畳が立てかけられており、その中の数枚は何かで汚れたようにどす黒いシミがありました。
さすがの私達もその異質さに戦慄し言葉を失っていました。もう出ようか、と手探りで元来た道を辿ろうとすると、壁についた私の手に何かが触れました。
見ると、それはよくある呼び鈴です。
「なんでこんなとこにあるの?」
不思議に思いつつ外の光を頼りに目を凝らすと、すぐそばに木製のドアがありました。
掠れてほとんど読めませんでしたが、ドアには「二」と漢数字で番号が振ってあったように思います。
「誰か住んでるんだよ!」
Nちゃんがドアに近付きます。彼女は止める間もなく手を伸ばして呼び鈴を押し、さらにドアをトントンと叩きました。
「ばかっNなにやってるんだ」
KくんがドアからNちゃんを引き剥がすと同時、ドアが内側から開かれました。
「おや、こんにちは。Kくん、Nちゃん。…そちらの二人ははじめましてかな?」
中から出てきたのは、夏だと言うのにはんてんを着た優しそうなおじさんでした。おじさんの顔を見てKくんが驚いた声を上げます。
「大家さん!?」
なんと彼はこのアパートの大家さんだと言うのです。
当時の私は何故か「大家さんだから倉庫の奥に住んでるのか」と妙な納得をしていました。

私達はそのまま大家さんの部屋に招かれました。畳敷きの広い客間は昔ながらの和室と言った雰囲気で、田舎のおばあちゃんの家のようでした。
大家さんは光沢のある卓袱台に4人分の冷たい麦茶と一口サイズに切ったメロンを出してくれました。
「どうして訪ねてきたんだい?」
優しく尋ねる大家さんが客間の障子を開けます。縁側で風鈴がちりんと鳴り、鮮やかな緑の庭から爽やかな風が流れ込んで来ました。暑さが和らいで、汗がすーっと引いていきます。
私達は先程までとは打って変わった穏やかな空間に呆けていましたが、Kくんが言い辛そうに白状しました。
「……裏の小屋を探検しようと思って、奥まで進んだら大家さんの家があって…」
それを聞くと大家さんは目を細めて笑いました。人の良さそうな笑みでした。
「子供は好奇心旺盛だねえ。でも納屋の中は危ないものもあるから勝手に入ってきちゃいけないよ」
「ごめんなさい…」
私達は素直に謝りました。全く怒る気配のない大家さんに、申し訳なさしかありませんでした。
それから私達は大家さんと少しお話ししました。と言っても私達が一方的に学校であったことやこの町の噂、今までの冒険譚などを聞かせただけですが…。
大家さんはうんうんと笑って聞いていましたが、しばらくするとすっと立ち上がりました。
「ごめんね、ちょっと外すよ。私ちゃんもYちゃんもご両親が心配する前に帰るんだよ?それから、隣の部屋は覗かないようにね」
そう言って大家さんは廊下の奥へ消えて行きました。

私達はしばらくぼーっとメロンを食べたり、畳に寝転がってのんびり過ごしました。
人の家なのにまるで自分の部屋にいるような感覚で、最初は萎縮していたYちゃんも風当たりのいい縁側近くで伸びています。
そこでKくんが「隣の部屋を覗こう」と提案しました。私もYちゃんもそれはなんとなく予想しており、静かに頷きました。
わざとらしく大家さんが「覗くな」と釘を刺したのです。隣の部屋になにがあるのか、好奇心旺盛な私達は確かめずにいられませんでした。
Kくんが客間と隣を仕切る襖に手をかけます。その後ろから私達も中を覗き込みます。
そろそろと襖が細く開いていきます。

そこは客間と同じような畳敷きの部屋でした。障子も雨戸も閉め切られ薄暗いその部屋の奥に、仏壇が見えました。
普通の仏間のようでしたが、妙な違和感を感じ私達は目を凝らして身を乗り出します。

違和感の正体はすぐにわかりました。
仏壇にいくつも飾られた遺影。その中に、集合写真がありました。白黒のそれは着物姿の人達が横三列に並んでいる写真でした。
その全員の顔部分が真っ黒に焦げ、溶けていたのです。
「ひっ!」
思わず息を飲んで後ずさるKくんとYちゃん。
私とNちゃんは食い入るように遺影を見つめ続けています。
よくよく見れば他の写真も同じように顔部分が歪んでいました。
あるものは目や口が異様に歪み、あるものは顔が真っ赤に焼けただれ、あるものは首から上が無くなっており…
額の上部に黒いリボンがかかった遺影たちは全てが心霊写真でした。
そのうちの一枚が風もないのにぱたりと倒れました。
「うわああああああ!!」
それを見た瞬間私は絶叫し、襖から飛び退いて玄関へ駆け出しました。YちゃんとKくんも後を追ってきます。
Nちゃんは呆然と襖の奥を見たままだったので、Kくんが無理矢理引っ張って行ったようです。
玄関を飛び出し真っ暗な倉庫の中を訳もわからず走りました。途中、吊るしてあったこけしにぶつかり、こけしが足元に散らばりました。
わあわあ喚く私の声が倉庫内に反響している中、後ろからNちゃんの声が聞こえます。
「ねえ、Nとお兄ちゃん達のお写真あったよ」
そうなのです。
私が最後に見た写真はカラー写真でした。そこに写っていたのは、紛れもない私達だったのです。
黒いリボンがかけられたその写真は、被写体がなにかわかった瞬間顔がどす黒く焼け落ちました。そしてぱたりと倒れたのです。
写真を見ていないKくんとYちゃんは走りながら私やNちゃんに何事か聞いてきましたが、私はもうここから逃げたい一心でひたすら脚を動かしました。
しかし一向に元来たドアに辿り着きません。倉庫はこんなにも広かったでしょうか。
とうとう私はへたり込んでその場で泣き出しました。辺りは真っ暗でもう差し込む光も見えず、闇の中に自分の泣き声だけが聞こえています。Yちゃん達の声ももうしませんでした。
ふと膝になにか硬いものがぶつかった気がして私は手探りでそれを掴みました。先程散らばしたこけしです。
こけしの顔は、どす黒く焼けただれていました。
私はそこで気を失いました。

気付くと私はベッドの上でした。
私を見ていた姉が驚いて母を呼ぶ声がしました。どうやらここは自宅のようです。
なにが起きたのかわからずにいると、母が来て私を抱きしめました。
どうやら私含む4人はアパート裏で全員気絶していたようです。
軽い熱中症を起こしていたらしく、私達を発見した住人の方がKくんのご両親に連絡し、そこから私とYちゃんの家にも話が行ったのです。
後で聞いたのですが、私達が発見された時間はおばけ小屋探検に行ってから数分後だったそうです。
私達は親兄弟におばけ小屋で見た事を全て話しましたが、信じてもらえませんでした。それどころかKくんのお母さんからとんでもないことを言われたのです。
「アパートの裏に小屋なんてないわよ?」
後日私達は再度アパートの裏庭に行ってみましたが、おばけ小屋があった場所はただの花壇になっていました。
そして不思議なことに、親達をはじめアパートの住人も他のクラスメイト達も誰一人おばけ小屋のことを知らないと言いました。
おばけ小屋は存在しなかったことになったのです。

その後もKくんのアパートに遊びに行く事は何度かありましたが、一度だけ大家さんに会いました。
はんてんは着ていませんでしたがあの時の大家さんでした。
あの時のことを聞いてみようかと私が近寄ると、大家さんは私に気付いてこちらに微笑みかけました。
「はじめまして、なにかご用ですか?」
私は怖くなってすぐに逃げ出しました。それっきりその大家さんには会っていません。

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