Twitterの「#いいねした人を同じアパートの住人として紹介する」タグにて書いたSSの原型まとめとなります。オカルト色強め、心霊・グロテスク・サイコな設定多数。

投稿者:たかし


なんか色々言われてるけど、生まれも育ちもあの町な俺からすりゃ大家さんはただの顔馴染みだ。しかも俺は昔から視えるタイプだったので、度々怖い思いしてる所を助けられた事がある。学校帰りに赤い着物の女に追いかけ回された時とか空から生首降って来た時とか。親には信じてもらえないし周りに視える人もいないから唯一の相談相手だった。

そんな俺が新聞配達のバイトしてた時の話。真っ暗い内にチャリ飛ばして一軒一軒回るんだけど、アパートも俺の持ち場だった。地味に2棟分5階まで階段で上がって配り回るのは骨が折れた。そんな時大家さんから今度アパートにエレベーターを付けるって話を聞いた。大家さんも階段の上り下りには地味に苦労したんだろうな。工事中の足場見ながら早くできないかなあと毎朝そわそわしてた。
でもいざ完成したものを見て震え上がった。明らかに変なのがいる。エレベーターの中にモヤモヤと黒い大きい影が蠢いている。時折何かを探すようにこっち見たりして泣きそうになった。大家さんにその事を教えたらどうやら本人も困ってるようで、「作った途端に住み着かれちゃ困る。あそこ(エレベーターの位置)は何もいなかったから決めたのに…」となんとも苦い顔をしていた。勿論俺達がエレベーターを使う事はなかった。結局階段で上り下りする日が続いた。

一度寝坊して大慌てで新聞を捌いていた時、背に腹は変えられないとエレベーターを使おうとした事がある。一階のエントランスでボタン押してエレベーターが降りてくるのを待った。3時すぎぐらいだったかな、まさかそんな時間に人が乗ってるわけないのに中々降りてこない。ようやく上の階から降りてくる音が聞こえて耳を疑った。エレベーターは作り立てでピカピカの新品。なのに油が切れたような「ギギギギギギギギ」という耳障りな音がする。あちこち軋むような凄く嫌な音を立ててエレベーターが降りて来た。
目の前に来たモノを見てぶっ飛んだ。エレベーターの中には死体がみっちり隙間なく詰まっていた。全裸のもの、ボロボロの着物を着たもの、手や足だけのもの、膨れ上がった水死体、頭が綺麗に割れたもの…
泣きながらダッシュで逃げた。ちょうどアパートの入り口で大家さんがゴミ出ししてて泣き付いた。普通の人ならこんな時間に大家さんと対面しようものならそれこそ失禁モノだろうけど俺はもう見慣れていたのが幸いした。
エレベーターの中の死体について話すと、大家さんは心底びっくりした顔をして言った。
「あまりに死臭が酷いからこの間全部掃き出したのにまだいるの?」
大家さんは困ったような怒ったような苦虫を噛み潰した顔で少し考え込むと箒を持ってエレベーターの方に向かった。俺もなんでか後を追った。大家さんが1階で停止したままのエレベーターを見て舌打ちするのを聞いた。後にも先にも俺が大家さんの舌打ちを聞いたのはこれだけだ。
「具合悪くなるから見てない方がいいよ」と言うが早いか大家さんは開いたドアから死体を無理矢理引き摺り出した。腐ってるのか色んなパーツが取れたり崩れたりしてたけど全部箒で掃いていた。箒ってそんな事にも使えるのか…としみじみしたけど吐き気に耐えられなくなってお礼言って逃げた。幽霊とは言え大量の腐敗した肉塊を平然とした顔で処理する大家さんは凄いと純粋に思った。

後日覗いてみたら死体はいなくなってたけど、まだ別のが住み着いていた。おっそろしくて近寄れない俺に、あればっかりは何度追い出してもダメだと大家さんは愚痴ってきた。この人が死にかけたセミ見て本気で飛び上がってるのを見た事あるけど本当に同一人物なのかちょっとだけ疑った。ほんと、人は見かけによらないよな。

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