Twitterの「#いいねした人を同じアパートの住人として紹介する」タグにて書いたSSの原型まとめとなります。オカルト色強め、心霊・グロテスク・サイコな設定多数。

投稿者:冬の雷雨


写真屋でバイトしてた時にあった話。
決まってフィルムの現像だけ頼むお客さんがいた。週一ペースで店に来て、一本だけカラーネガフィルムを出してくる女の人。
そのネガに写ってるのがなんとも気味悪い写真でさ。
ネガって、実際の写真とは色が反転してるんだよ。白いものは黒っぽく濃く映るし、逆に黒い部分とかは白く抜けて見える。昼間の雪原とか撮ると黒くくっきり表示される。

その人が持ち込むネガは決まっていつも、どこかの集合住宅を写したものだった。建物の入り口から見上げるようにとか、道路を挟んだ向かいから引き気味にとか、民家のベランダから撮ったような画角もあった。それだけならまだ普通の写真だ。でも、その写真にはおかしなところがひとつだけあった。

どのコマにも必ず、カメラの方を向いて立っている男性が映り込んでいる。
記念撮影でもなければその人を狙って撮ったわけでもなさそうで、コマの端にちらっと見切れてることもあれば、植え込みの隙間から顔だけ覗いてるものもあった。ピンボケした、どこかの部屋の中から窓ガラス越しにこっち見てるものまであってゾッとした。
でも何が嫌ってさ、その男の人の顔だよ。さっきも言ったけど、ネガって色が反転してるんだ。だから普通に人物を撮影した時、肌は黒っぽく写るんだよ。でもそいつ、ネガで見ると必ず全身真っ白なんだ。わかるだろ?

その男、多分実物は真っ黒なんだよ。
地黒とか黒人とかそういうレベルじゃない。目鼻立ちも年齢もまったくわからないぐらい、塗り潰したみたいな真っ白。いや真っ黒か。髪型と体格で男だってわかる程度で。
そんなのが毎回全コマに写り込んでるものだからもうほんと処理するのが嫌でさ。先輩も受けるたび「ああまたあのフィルムか」って辟易してた。

半年くらい毎週処理してたある日、もう気味悪いのにも慣れて流れ作業で現像してた。ちょうど夜で、俺と先輩の二人で店回してて、客も全然来ない時間。
現像機から出てきたネガの様子がいつもと違った。
相変わらず全部のコマに男はいる。だけど写り込んでるってレベルじゃなかった。
どのコマもど真ん中に、肩から上、つむじまでの綺麗なアップで男が写ってる。背景は建物の、多分アパートだろうな、入り口とか植え込みとか屋上とかバラバラなのに、男の位置だけ全部合成したみたいに同じで。綺麗に並んだ男の白いシルエットにびっくりしてネガ凝視して固まってた。

そしたらもう一つ嫌なことに気づいた。
今まで引きだったり、ボケてたりでわからなかった男の顔。相変わらず顔立ちもなにもわからないのに、ちょうど目の部分だけがくっきり写ってて、黒い白眼の部分と白い黒目の部分とばっちり目が合った。全部のコマ、全部の男が俺をじっと見ていた。
たまらずネガ放り出した。本当は現像した後、ネガを何コマかに分けてカットしなきゃならないんだけど、それもせずに巻き取って、ろくに見ないままフィルムケースに突っ込んで返した。

受け取りに来た女は、長巻(ネガ切らないで巻き取った状態にすること)のネガ見て一言、
「ああ、もうだめでしたか」
と言った。
それから去り際に
「たぶんごめんなさい、だめです」
そう言って帰って行った。
それ以降その客は店に来ていない。俺はそこのバイトを辞めたから後日談も聞かない。
こないだたまたま通りがかったアパートでその男に会ったから思い出した話。
まだ見てる。

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