Twitterの「#いいねした人を同じアパートの住人として紹介する」タグにて書いたSSの原型まとめとなります。オカルト色強め、心霊・グロテスク・サイコな設定多数。

投稿者:JAM


こないだ所用でアパート行ったんだけど、帰りに携帯電話拾った。階段の踊り場にポツンと落ちていた。今時二つ折りのガラケー使ってるヤツなんていんのか?無造作に転がってるし落としたっつーよりいらなくなったから捨てたように見えた。
土埃や傷でだいぶ年季入って古ぼけた様子だったけど、深いメタリックグリーンの色合いは普通に綺麗だった。ティッシュで軽く拭いてからパカパカして折れてない事を確認。さすがに電源は無理だろうとボタンを押すとなんと生きてる。ただ、バッテリーがダメみたいで「充電してください」の文字が暗い画面の真ん中にポップアップ表示されるだけだった。もうかなり興味湧きまくりな俺は、携帯をポケットに入れて家に持って帰った。交番に届ける前に中身見てやれって気持ちがとにかくデカかった。やめときゃよかったんだけどさ。

押し入れの奥にしまってあった昔のガラケー充電器引っ張り出してみたら見事にマッチ。充電しながら電源つけたら普通に起動した。壁紙は緑の初期設定のやつ。だけど案の定中身が変だった。
まずメールフォルダには履歴が残ってない。これはまだいい。アドレス帳の登録数も異様に少ない。「ハハ」「オジ」「カンリニン」の3件だけ。表記もまんま、半角全角混ざったカタカナ表記でなんか気持ち悪い。で、この3件も電話番号しか登録されてない。アドレスも他の説明もなんもなかった。
着信履歴は大量に残ってて、ほとんどが「ハハ」たまに「カンリニン」。通話時間はどれも1分未満。「オジ」には発信履歴が1回だけだった。
そんな事をしてたら電話が掛かってきた。非通知だった。まさか持ち主?拾って届ける途中だったって言えば誤魔化せるかなーと思って電話に出た。出た瞬間に切れた。いたずらかよ!
サイトの検索履歴を漁ろうとしたらまた掛かってきた。「ハハ」からだった。出るべきか迷ったけど好奇心には勝てなかった。
「もしもし?」
返事はない。代わりに酷いノイズ音がずーっと響いている。何回か呼びかけたけど反応なし。ザーザー言って1分ぐらい経つと向こうから切れた。ちょっと気味悪くなってきたけど、機械が故障してるか電波が悪いのかなーと庭に出て掛け直してみた。
「おかけになった番号は現在使われておりません」
めちゃくちゃビビった。そんなわけねーだろ、さっきかかってきたぞと携帯相手に本気で言った。その後数回掛け直してみたけどやっぱり使われてなかった。「オジ」にかけてみたら、通話中なのかピーーーーて音しかしない。人が出る気配もない。最後に「カンリニン」にかけた。前者2名は固定電話の番号だったけど、これは個人携帯だった。長いこと呼び出し音が鳴ってから声がした。
『もしもし?』
男の人の声だ!しかし掛けたはいいものの何を話せばいいか全く考えてなかった俺は言い淀む。
『もしもし?どちら様ですか』
「あ、えーっと、その」
結局正直に話すことにした。
「この携帯拾ったんですけど、どことも連絡が取れなくて」
『…………』
「あの、この持ち主って誰か知りませんか?Nアパートってとこに落ちてたんですけど」
『…………』
相手は何も言わない。怒らせたのだろうか。
「あの、もしもし?」
『…すみません、その携帯は私のものです。どうやら落としてしまったみたいで。よろしければ引き取りに伺いたいのですが』
「えっ」
嘘だと思った。自分の番号を管理人とかいう名前で登録するか?てか普通落としたなら真っ先に掛け直すだろ。そもそも根本的におかしい。
「…え、あの、じゃあなんで今電話に出れてるんです…?」
『…二台、持ってるんですよ。そちらは昔使ってたもので、今はスマートフォンです』
なるほど。もっともらしい話だが最初の間が気になった俺は意地の悪い質問をした。
「本当にあなたのものなんですか?色とか機種とか、登録してあるアドレスとか言えます?」
『…………』
考え込んでるようだった。ボロが出まくりでこの時まで俺は内心草生やしてた。だけど状況は一変した。
『メタリックグリーンの二つ折り携帯です。サブディスプレイは長方形で真ん中に縦向き。カメラは裏のやや左上寄り。ストラップなどはついていません』
『アドレス登録数は3件。管理人という名前の私宛の番号と、オジという名前の固定電話の番号と』
『ハハという名前で、貴方の番号を登録してあります』
俺は硬直した。何言ってんだ?とも思った。
『返していただけますか』
「え…待てよ、なんで俺の番号なんだよ?つーかハハはどっかの家電だったぞ!実際自分のスマホいじってない時にハハから電話掛かってきたし」
『その電話、出ましたか?』
「そりゃ出たけど…」
『…そうですか。……じゃあ、もう結構です。その携帯は差し上げます』
「え!?」
『もう、遅いので』
そこで電話が切れた。わけがわからなかった。俺は慌ててアドレス帳の「ハハ」の項目を見ようとした。
その瞬間、電話が掛かってきた。「ハハ」から。
慌てて自分のスマホを取り出すと、何故か発信していた。発信先の表示は俺の名前だった。

それ以来、毎日俺から俺に向けて電話が掛かってくる。

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