Twitterの「#いいねした人を同じアパートの住人として紹介する」タグにて書いたSSの原型まとめとなります。オカルト色強め、心霊・グロテスク・サイコな設定多数。

投稿者:大豆


有名な呪いのビデオ系映画が流行ってた時期。

上京したての俺は「駅近、家具付き、安価」の三拍子揃った物件に引っ越した。
普通なら家具は前の住人が引き払うか処分する。
でも前の人が学生で処分費用が工面できなかった&家具の状態が良好だったことからその部屋は家具付きで売り出されてた。
内見時に見た室内は普通にキレイで、家具も思った以上にちゃんとしていた。使用感もほとんどない。
嫌なら管理側持ちで処分すると言われたが、新しく家具を買い揃えるのも面倒なのでこのまま快諾。
ちなみに残っていたのはタンス、大きめの本棚、カラーボックス、テレビ、ビデオデッキ。
ほかに必要な家電だけ買い揃えて俺の新生活はスタートした。

念願の一人暮らしということもありだいぶはしゃいでた俺は引っ越しの翌日に駅前のレンタルビデオ屋で人生初のAVを借りた。
レジの店員さんが若いお姉さんでめちゃくちゃ恥ずかしかったのを覚えている。
帰宅していざ抜刀、というところで、ビデオデッキの中にテープが残されていることに気付いた。
ラベルもなにも貼ってないどこにでもありそうな普通のビデオテープ。
前の人の忘れ物か?何気なくテープを取り出した俺にここで至極当然な疑念が芽生える。
これには何が映ってるんだろう?何も書かれていないテープは好奇心旺盛な俺の想像を掻きたてた。
市販の作品ではなさそうだ。ということはここに残っている映像は完全プライベートなもの。
この時点で俺はもう見てやる気満々だった。あわよくば前の住民(勿論美少女)の世に出せない映像とか映ってないかと期待した。
AV見る気満々だった俺の息子も今か今かと首を長くして待ちわびている。
何故かこのときの俺はテープの中身は確実にエロいものだと信じて疑わなかったので即行で再生ボタンを押した。

ノイズが走った後、海水浴場の映像が映し出されて俺はガッツポーズした。
撮影者であろう女の子とその友人の会話が聞こえて来る。画面端からフレームインしてくる水着姿の女の子。
若い。かわいい。水着の上に羽織ったパーカーがなんともいじらしい。
単なる海遊びの映像に俺はとてつもなく興奮していた。息子の相手をするのも忘れて画面に食いついていた。
しばらく映像が続く。素人撮影なのでカメラはぶれたりピントが合わなかったりと中々見づらかったが、
それでも若い女の子が水着姿ではしゃいでいるという事実が画質の悪さに対する不満を吹き飛ばしていた。
ポロリがないか血眼になって探したが当然そんなものはなかた。
やがて日も暮れ始め、ひとしきり遊んだ彼女等はカメラの前に集まる。友人に向けてのコメントを撮るらしい。
撮影者がカメラを台かなにかに置いて画面に入ってくる。仲のよさそうな女の子が三人。
「さおー見てるー?」とか「こっちはめちゃ暑いでーす」とか色々語っている。
どうやら彼女等の友人は入院中らしく、今回の海水浴に参加できなかったのでビデオレターを撮ろうとなったようだ。
「早く良くなってね」「退院したら一緒に海行こうね」…なんとも涙ぐましい。
さすがの俺もいやらしい気持ちがしぼみ、ああ友達思いの娘なんだなあとしんみりしていた。

画面が暗転して映像終了…と思ったらビデオには続きがあった。
ニュース番組を部分的に録画したものらしかった。
海水浴場で起きた事故が報道されており、上空からヘリで撮影した現場の映像をバックに死亡者の名前が読み上げられる。
俺は息を呑んだ。読み上げられた三名の名前は先ほどの映像で呼ばれていた女の子達のそれと一致したのだ。
ニュースキャスターは現場ではビデオカメラが発見されたことを伝えていた。

この時点でテープを止めればよかったと思う。だが俺は最後まで見続けてしまった。
ニュース映像が突然途切れたと思うと、更に別の映像が流れ出した。
葬式会場?のような背景。撮影者以外誰もいない。並んだ三つの遺影を順々にカメラがズームで映していく。
三人の女の子の写真だった。
撮影者は一人ひとりを紹介するように「まーこです」「りえちーです」「あーやんです」と名前を呼んでいた。
「皆死んでしまいましたが、私は元気になりました」と締めくくり、映像が終わった。

俺はなんとも言えない気持ちで呆然と暗くなった画面を見つめていた。
後味の悪さと言い知れない怖さを感じていた。
多分このビデオは入院していた「さお」という娘に贈られたものだろう。それはわかる。
だが、その後のニュース映像と遺影の紹介はなんだ?
最後の発言的に「さお」が撮影したのだろう。しかし何故そんなものを撮る必要があった?
撮影中の「さお」からは全く悲しむ様子が感じられず、それも不気味さに拍車をかけた。

と、テープが突然巻き戻りはじめた。誤ってボタンを押したかと思い止めようとしたが、何故か止まらない。
海水浴の映像まで戻ると勝手に再生がはじまった。
「さおー見てるー?」「こっちはめちゃ暑いでーす」
女の子達のコメントが流れ始める。
「退院したら一緒に海行こうね」の台詞の後、またもテープが勝手に巻き戻った。
「さおー見てるー?」「こっちはめちゃ暑いでーす」
さっきと同じ場面。一通りコメントを流し終えると「一緒に海行こうね」でテープが巻き戻る。
「さおー見てるー?」
「一緒に海行こうね」
「さおー見てるー?」
「一緒に海行こうね」
「さおー見てるー?」
「一緒に海行こうね」…
俺は必死に停止ボタンを連打した。テレビの主電源も何度も押した。それでも映像は止まらない。
ひたすら彼女達のコメントを再生し続けている。わけがわからない。
パニックになりながらデッキに指を突っ込んでテープを引きずり出そうとした。
「さおー…見てるー?」
「一緒に…海ー…行こうねー」
音声が不自然に間延びし始める。画面にノイズが走る。
可愛かった彼女達の声が不気味な呻き声のようになっていく。
「さーーーーーーーーおーーーーーーーーザッ」
「一緒にーーーーーーザザッ行こうねーーーーーーーー」
俺は悲鳴を上げた。画面に映る彼女達の顔が、どろどろに溶けて崩れていた。
バツン!!
大きな音がして画面が消えた。デッキから嫌な音がしてテープがガタガタと吐き出された。
思わず溜息をついて顔を上げる。

「一緒に行くって言ったのに」

俺の背後から声がした。
真っ黒く鏡のようになったテレビ画面に、俺と三人の顔が映りこんでいた。


その後の事はあまり覚えていない。気絶したのか部屋から逃げたのかもあやふやだ。
とりあえずビデオデッキはテレビごと処分した。
問題のビデオテープは磁気テープ部分が全部伸びきってしまい、再生できなくなっていた。
前の住人に返すべきか物凄く悩んで大家さんに相談したら、その人に連絡を取ってくれた。
その人は大学卒業を期に転居したらしいのだが、間もなく水難事故で亡くなっていた。
その人が「さお」だったのかは未だにわからない。
テープは大家さんに押し付けて、暫くして俺も就職のため引っ越した。
今でも俺は家具付きの部屋は借りないようにしている。

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