Twitterの「#いいねした人を同じアパートの住人として紹介する」タグにて書いたSSの原型まとめとなります。オカルト色強め、心霊・グロテスク・サイコな設定多数。

投稿者:syu


田舎の昔ながらの家には風習やしきたりが残っているところが未だにある。
地域の伝統として根付いているものもあれば、その血筋や土地だけでひっそり行われているもの、由来がはっきりしてるものから最早なんのために行っているのかわからないものまで兎角多種多様だ。

俺の実家は西日本の山奥にある田舎でまさにそんな風習が残る土地だった。
山間にある小さな町は町とも呼べない村の進化系程度のもの、自然はきれいだけど都会の便利さも若者もいないような鄙びた山間部。
やれどこそこの息子が商売女に騙されただのどこそこの長女が出戻っただのご近所ネットワークばかり無駄に発達している、良くも悪くも田舎らしい田舎だ。
俺らの住んでる地域には「御座敷様」という独自の氏神様のようなものがいて、古くからある家ではその「御座敷様」を祀るのが慣わしだった。
と言っても祀ってるのは代々農家をやっているとか元地主の家系とかそういうのばかりで、新しく家を建てたり物好きにも都会から越して来たりする人たちにはなんら縁がない代物だ。
俺はその「古き良き農家」の家だったもんで、でかくて古い日本家屋の広間に作られた神棚にその「御座敷様」が祀ってあった。
じいちゃんばあちゃんは毎日朝晩神棚を熱心に拝んでいたけど俺や兄貴達、それどころか両親ですらそんな古びた風習には無頓着だった。
唯一秋分の頃になると、お盆みたいな形で広間に小さな祭壇を造って三日かけて拝むという儀式だけは家族総揚げでやっていたけど。

その儀式は「御座敷まかり」と呼ばれ、普段家や家人を守ってくれている御座敷様に日頃の感謝を込めて休息を与える目的のものらしい。
まず神棚の真下に誂えられた三段ほどの祭壇の一番上に、和紙を切り抜いてつくった紙人形を絹糸で繋げたものを並べ、その両サイドに榊の葉を立てる。
続いて二段目にはお神酒と家の敷地内で取れた水(基本古い家には現役の井戸があった)を同じ分量用意する。
親戚の家とかでは井戸を埋めちまったとかで水道水で代用してるところもあったけどな。それで罰が当たった話は今のところ聞いてないからいいんだろう。
話が逸れた。用意したお神酒と水の周りに家人の体の一部(大体髪の毛か爪)を桐箱にいれて置く。
これはその家に現在進行形で住んでいない者、たとえば都会に出てった子供とか結婚して家を出た娘とかの分も必ず用意する必要があるらしい。
髪の毛や爪をすぐに用意できない時は大体臍の緒で代用してるようだ。
最後に三段目に、こちらも同じく家に所属する人間全員分の写真を飾る。これで飾りつけは終了。
それから「御座敷まかり」の期間中は毎日欠かさず朝晩にお祈りを捧げ、三日目の夜日が沈んだ後に最上段の紙人形を庭で榊と共に燃やすのがルールだ。

この「御座敷まかり」には一つだけ注意点がある。「御座敷まかり」を行う三日間は、守り神の「御座敷様」が身を休める期間だ。
つまり、家人は何者にも守ってもらえない、無防備な状態となる。
だからこの三日間はなるべく外出せず、できる限り家の中で静かに過ごす事が暗黙の了解だった。
地元の学校ではこの「御座敷まかり」のために特別に休みが許されるぐらいだった。
「●●くんは今日は御座敷まかりでお休みです」なんて先生が言ったりしてたもんだ(「御座敷まかり」の細かい日程は家ごとに異なる)。
といっても遊び盛りの子供や休みが取れない職業の大人たちはそういうわけにも行かず、普通に外出する人もいた。
ただ、その人たちは何故か他の人に比べてその時期に事故や病気になる確率が高かった。
期間中に家を抜け出して川に遊びに行った同級生が溺れたり、泊まりこみの仕事をしている人が出先で高熱を出したり。
勿論外に出てもけろっとしてるやつも多かったけど、地元の人たちはその時期になにか不幸事が起きるたび「御座敷様に守ってもらえなかった」と噂しあった。


前置きが長くなったけどここからが本題。
俺は大学進学を期に上京して3年目の大学生で、就職もこっちでする予定なんだけど、ある時期から妙な事が起きている。
俺の家は三人兄弟で上に兄と姉が一人ずついる。兄は地元で働いているが、姉は俺と同じく実家を離れて仕事をしている。
「御座敷まかり」は毎年恒例で依然行われているらしく、姉と俺の分も臍の緒と写真を用意して祀っているらしい。
その「御座敷まかり」で不可解な事が起きたそうだ。
なんでも、俺の分の臍の緒を入れた桐箱が突然燃え上がったという。
燃えたのは一日目の朝の祈りの時間、家族が全員揃った時に急に。しかし祭壇に火の気はまったくない。
幸い燃え広がることは無くボヤ騒ぎにもならなかったが、明らかな異常現象に家族全員大パニックになったようだ。
兄貴が大慌てで電話してきたからよく覚えている。
とりあえず臍の緒の代わりに髪の毛(母親が取っておいたらしい。なんで取っておいたんだw)を用意して事なきを得た。
だけど異変はそれだけではなかった。
その日の晩、家族全員が「焼け死ぬ夢」を見て飛び起きたという。場所は何の変哲も無いアパートの一室のようで、気付けば部屋中が炎に包まれていたと。
なんと実家にいない姉ですらその夢を見たようだ。俺は何も見なかったんだけどね。
それで昨日の臍の緒の件もあるからって朝一で実家から電話攻撃にあった。俺の身に何か良くないことが起こるんじゃないかと。
そして二日目の夜も同じ様に俺以外の家族全員が火事の夢を見た。一日目よりももっとはっきりと周囲の景色が見えたという。
窓から見える外は日暮れ時なのか空が気持ち悪いほど真っ赤で、部屋の中からも外からも「熱い」「痛い」「助けて」と呻き声が聞こえていたらしい。
そして三日目の朝、起きてくると祭壇に飾られていた俺の写真の顔部分が焼け落ちていたという。
兄貴に写メ送ってもらったけど本当に顔の部分だけ綺麗に燃えてなくなっていた。さすがにゾッとした。
家族からはお前今なにしてるんだ、危ないことやってるんじゃないだろうな、帰って来いと散々糾弾された。
けど別に俺は何もしていない。というか夏に帰省したばかりだ。
結局その後も俺の身にはなにもなく、そのまま一年が過ぎた。

そうして翌年の「御座敷まかり」の時期、全く同じ現象が再び俺の桐箱と写真に起きた。火事の夢も同じ様に見たそうだ。
いよいよ笑い事じゃなくなったと親父が地元の神主に相談したらしい。神主が言うには、「息子さん(俺)は今非常に危険な場所にいる」と。
で、再び実家からの糾弾電話攻撃を受けてふと思い当たった。
その時住んでいた俺の家、都内の安アパート。値段の割りに立地が良くてアレな噂もちょくちょく流れてるアパートだった。
丁度そこに引っ越した年の「御座敷まかり」から奇妙な現象が起きはじめている。
俺は零感だから心霊体験なんて全くしたことがなかったけど、もしかしてそのせい?と思って親父に伝えた。
そしたら親父から神主に話が行ったらしく、なんと神主直々に電凸してきた。
「悪い事は言わないから今すぐそこを出なさい。なるべく早く」
ほとんど話もしたことが無いオッサンに急にそう言われて「???」状態だったよ。
勿論引越しなんてそうすぐにできるものじゃないし、断ろうとした。
「でないと死ぬよ。君だけじゃなくて皆」
その言葉を聞いて本能的に「あ、多分これヤバイ」と思った。とりあえず適当に返事して、その日から物件探しが毎日のルーティンに組み込まれた。
でも中々いい物件が見つからず部屋探しは難航。引っ越せたのは翌年の「御座敷まかり」の直前だった。
新しい部屋は家賃も高いし駅から遠いしその上狭いしで散々だったが、これで奇妙な現象は収まると胸を撫で下ろしていた。
つっても俺自身はなにも体験してないからいまいち危機感は薄かったんだけど。

その年、「御座敷まかり」の初日に祖父母が揃って亡くなった。実家の納屋で不審火に巻き込まれた。
祖父母の桐箱は真っ黒に燃え落ちて、写真は消し炭になっていた。
「御座敷まかり」二日目、わけがわからないまま実家に向かう新幹線に乗っている中で兄貴からメールが入った。
両親が庭で焼身自殺を図ったという。
父は死亡、母は搬送先で意識不明の重体。冗談にしてはひどすぎると思った。
最寄駅からタクシーに乗って実家へ向かう途中、地元の友人から電話が入った。
「あんたん姉ちゃん、そこの県道で事故ば起こしたっとね!」
同じく実家に向かっていた姉を乗せたタクシーが衝突事故を起こし、車体が爆発炎上したという。
「お客さん、大丈夫ですか?」
尋常じゃなく取り乱す俺に運転手が声をかけてくれたけど何も言えなかった。急いでください、も言えなかった。
タクシーを降りてふわふわした足取りで実家に向かう最中、地元の人たちの喧騒が聞こえてきた。
一様に同じ方向を指差して声を上げている。
俺は嫌な予感しかしなかった。彼らが見ているのは俺の実家がある方角だ。
「火事!火事だ!」
その言葉を聞いて俺は膝から崩れ落ちた。


結局、誰も助からなかった。母は回復の兆し無く死亡、姉も病院で死亡が確認された。
焼け落ちた実家から兄貴のものと思しき遺体が発見された。
地元の人たちは一人残った俺に哀れみと同情と、触れてはいけないものに対する目を向けてきた。
誰もなにも声をかけてはくれなかった。
俺は抜け殻のような状態のまま、父が連絡したという神主の元に足を運んだ。会うのは初めてだけど神社の場所は知っている。この町に神社はそこしかない。
長い石段をのぼり、木々に覆われた薄暗い境内に足を踏み入れたところで俺は彼に出会った。
神主は、一番大きなご神木にぶらさがっていた。
ついさっき首を括ったのだろう。その体は綺麗だった。

俺もこれ投稿したら死のうと思う。焼死か首吊りかはまだ決めてない。

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