Twitterの「#いいねした人を同じアパートの住人として紹介する」タグにて書いたSSの原型まとめとなります。オカルト色強め、心霊・グロテスク・サイコな設定多数。

投稿者:私


夏の昼下がり。声が賑わう。

「大家さんにも子供の頃があったんだろぉ〜?」
「あーあたしも見たいな、おーやさんの純真?な子供時代」
「私も!」
「俺も〜〜」
「写真、ないの?あるっしょ1枚ぐらい… え、マジでないの?」
「はーぁ、つまんな」
「どんな子だったんだろーねえ」

止まり木を見付けた蝉共が好き勝手に鳴き喚く。

「かわいーのかなぁ。子供だし」
「男のガキなんて大体生意気だって!」
「ちっちゃいんだろーなぁ」
「でも大家さんのことだから大人しそうだよね」
「意外とヤンチャしてたかもよ?」
「川に飛び込んだり?」
「ありそうありそう」
「ため池で泳いだり」

うるさい蝉の声。耳を塞いだ。

「ねー大家さん、写真、ほんとにないのぉ?」
「赤ちゃんの頃のも?」
「1枚ぐらい隠してんだろ!出せよ〜〜!」
「小さい大家さん見た〜い」


「そんなものはないよ」


斬り捨て、一言。

日差しが頸を照り付けた。汗が流れてシャツに張り付いた。背後でざらりと土を踏む音。

…声がうるさい。

「くだらないことを喋ってないで早く帰りなさい」

「えぇー」
「大家さんつめたーい」
「写真今度見せてね」

蝉が散る。飛び立っていく。
ああ、でも、声がうるさい。

土を踏む音。私の背後から。
四つ足でざくざくと、じゃりじゃりと、手のひらの痛みを訴える様に上げる声がうるさい。

「おぎゃあ おぎゃあ おぎゃあ」

生まれてしまった。よくもまあ簡単に産んでくれたものだ。
べたべたと覚えたての四つん這いが足元をぐるぐる回る。黒い塊がぐるぐる回る。

「おぎゃあ おぎゃあ おぎゃあ」

やんちゃなのか、大人しいのか、無邪気なのか、いっそため池にでも捨てに行くか。
面倒だ。


「お前は」


足元にまとわりつく。どうやら私に懐いているようだ。いやそれとも、これが彼なりの危害の精一杯なのか。

どうでもいい。


「違う」


吐き捨てて、四つん這いの赤子の頭を踏み付けた。
ぐぢゅりと音がして靴の裏でそれはみるみる姿を消した。

耐えがたい嘔吐感が喉奥から迫り上がって、私はその場で頽れた。

蝉の声がうるさい。
声がうるさい。声がうるさい。声がうるさい。声がうるさい。声がうるさい…


「勝手な想像に」


声がうるさい


「巻き込むな」


蝉がしきりに鳴いている

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