【豚クズの願望 その1】
日本上空30km。成層圏のあたりにて。
全裸の男神と女神が、遥か下の雲を眺めながら、なにやら会話をしていた。
「卑猥な言葉しりとり、いぇーい!」と男。
「いぇーい」答えたのは女。
「しりとり」
「輪姦……あ」
「いきなり終了かよ!」
「輪姦……輪姦パーティー」
「パーティーつけただけかよ! ……まぁいいや。い? ……淫汁」
「う……? 上の口」
「いいねぇ、そこはかとなく卑猥だねぇ。でもそれ普通の口じゃね? 乳首」
「び……敏感、あ。……敏感パーティー」
「パーティー付けりゃいいってもんじゃねぇぞ。なんだよ、敏感パーティーって」
「『それでは……くふぅ、僭越ながら……んはっ、
私が……あ、だめ、乾杯の、おんど……おんどぉぉ!』みたいなの」
「わからねぇ、何一つ光景が思いうかばねぇ……はい、じゃ、アウト」
「えー」
「えー、じゃない。行ってこい」
「あー」
女はだるそうに足元を見下ろすと、自由落下を開始した。
その日、エロの神(女)が下界に降り立った。
5秒ほど前のこと。
登校中の私のところに、全裸の人間(?)が垂直に落ちてきました。
人間が自由落下するときの終端速度は200km/hくらいらしいです。
それでコンクリートにぶち当たるのですから、痛いとか言う問題じゃないと思います。
が、落ちてきたソレはコンクリを砕き散らしながら血しぶき一つあげず、ごろんと道路に転がっています。
空と人間(多分、女性?)を交互に眺めますが、一向に理解が進みません。
どこから落ちてきたんだろう? ビルなんて無いから、飛行機? 飛んでないっす。
「ちゃーす」
気の抜けた声。
むくりと顔を持ち上げた女性は、眠たそうな目で私を見ています。全裸で。
「へぇー。高校生? いやー、あんたみたいな真面目そうな女の子がねぇー、へぇー」
話が、見えて、来ない。
略して、HMK。
「いやね、落ちるときにね、今一番エロい人のところに落ちるぞ! と念じてたんすよ」
全裸の人に言われたくないなぁ。そして相変わらずHMKであります。
「よぉし、少女よ、速やかに家へ招待してください。さもないと『襲われる!』って叫ぶ」
全裸でそんなこと叫ばれたら私、レズかバイですね。
口を挟む隙も無い超展開。
ダッシュで家に帰ると、全裸の女性を部屋にぶちこみ、ジャージを着せておきました。
本当に、衆目に晒されなくてよかったです。
部屋をきょろきょろ見渡し、その女性は開口一番、
「へー、年下趣味か」
「んなっ!?」
なぜわかる!?
「いや、あなたの雰囲気とか、この写真とかさ。
あ、私その人がオカズに使ったものとか判別できる、無駄機能付だからあいたたたた」
思いっきり頬を引っ張ってやりました。
が、
「えい」
「ひぐっ!?」
「あーら、かわいい乳首していらっしゃる」
カウンターで引っ張られました。
引っ張られました……。
数分後。
「いえ、確かにですね。うすうす感ずいてはいたんです。
同学年の子より、年下の子に興味を持つって言うか……。
年上の頼れる男性よりも、弱々しくて保護してあげたくなる男の子の方が……」
「うんうん、まぁ、人それぞれだからね。
やっぱり、ちっさくて穢れのない男の子を無理矢理こう、ニュルッと、したい?」
「え、ええ、ニュルッっていう表現がアレですけど、そうですね。ニュルッとしたいです」
「ほー、ほー、なーるーほーどーねー」
「……はっ」
なぜ私は学校休んで、この人に自分の性癖を語っているんだろう。
「よーし、その望み、私が叶えてやりましょうか」
「え?」
「どうも貴方は、この写真の男の子に気があるようで」
「へひっ!?」変な声が出た。
「私のオカズスカウターによるとこの写真、ここ一月で30回あいたたた」
今度は耳を引っ張ってやりました。が、
「ひぃっ!?」もぞっと下着の表面を撫でられました。
「あれ、濡れ」
「い、いやあああ!」
ペッチーン。
「おお、女にビンタされたのは初めて……でも私、快感以外感じないから無問題よ。
知ってる? 痛みっていうのは快感に――」
「もうやだ、この変態! 変態!」
「変態って言う方が変態なんです。この年下趣味のド変態が。
あんたみたいな暗い子は写真見ながら妄想してマンズリこくのがお似合いだわ。
この豚」
「ぐ……ぅ……」
もうやだ、何この人。
「いーい? あんたみたいな暗い子が、こんな可愛い男の子に見向きされるわけないでしょ?
自分の程度をわきまえなさい。あんた、友達いないでしょ? どうやってこの男の子に繋げるの?
何の望みも無いじゃない。はっきり言うわ、絶対、無理。成立しようが無い」
「え、あ、あぁ……」
「そもそも男とまともに会話したこともないんでしょ?
たとえ付き合うことができたとしても、どうしようもないじゃない。
愛想尽かされて終わるのが目に見えてるわね」
「う……」
「何度でも言ってやるわ、この豚。
アンタなんかが、人様と同じように恋愛しようだなんて、おこがましいにも程があるわ。
人以下の分際で。わきまえなさい。
クズはクズらしく一生妄想の中で満たされるのがお似合いよ」
「……」
「わかった?」
「あ……あぁ……」
彼女の声色と迫力に、私はもう何も考えることができません。
心の隅にあったほんの小さな絶望感を、彼女は容赦なく掘り起こしては私に見せ付けます。
「やめ、やめて、ください……いやぁ……」
「鏡、見る? アンタの顔、なかなか滑稽よ」
涙が出て、顔が紅潮して、口を半開きにしただらしない顔。
私は、そこで壊れました。
「そこで私の出番よ。
私は神。
たとえあなたが豚クズ以下だとしても、その望みを何でもかなえてあげましょう」
「あ、ああ……ありがとうございます、ありがとうございます」
後光が差して見えます。
そうか、この人は、女神様だったのか。
「わかるわよ。貴方がこの子をどれだけ好いているのか。
だから私はこうして降りてきたの。任せて頂戴。
今日から、貴方は思うとおりの結果を得ることができるわ」
「ありがとうございます、ありがとうございます……」
「――よし、洗脳完了」
その日、私は女神様と第一歩を踏み出しました。
決して戻ることのできない、一歩でした。
【豚クズの願望 その1】 了
日本上空30km。成層圏のあたりにて。
全裸の男神と女神が、遥か下の雲を眺めながら、なにやら会話をしていた。
「卑猥な言葉しりとり、いぇーい!」と男。
「いぇーい」答えたのは女。
「しりとり」
「輪姦……あ」
「いきなり終了かよ!」
「輪姦……輪姦パーティー」
「パーティーつけただけかよ! ……まぁいいや。い? ……淫汁」
「う……? 上の口」
「いいねぇ、そこはかとなく卑猥だねぇ。でもそれ普通の口じゃね? 乳首」
「び……敏感、あ。……敏感パーティー」
「パーティー付けりゃいいってもんじゃねぇぞ。なんだよ、敏感パーティーって」
「『それでは……くふぅ、僭越ながら……んはっ、
私が……あ、だめ、乾杯の、おんど……おんどぉぉ!』みたいなの」
「わからねぇ、何一つ光景が思いうかばねぇ……はい、じゃ、アウト」
「えー」
「えー、じゃない。行ってこい」
「あー」
女はだるそうに足元を見下ろすと、自由落下を開始した。
その日、エロの神(女)が下界に降り立った。
5秒ほど前のこと。
登校中の私のところに、全裸の人間(?)が垂直に落ちてきました。
人間が自由落下するときの終端速度は200km/hくらいらしいです。
それでコンクリートにぶち当たるのですから、痛いとか言う問題じゃないと思います。
が、落ちてきたソレはコンクリを砕き散らしながら血しぶき一つあげず、ごろんと道路に転がっています。
空と人間(多分、女性?)を交互に眺めますが、一向に理解が進みません。
どこから落ちてきたんだろう? ビルなんて無いから、飛行機? 飛んでないっす。
「ちゃーす」
気の抜けた声。
むくりと顔を持ち上げた女性は、眠たそうな目で私を見ています。全裸で。
「へぇー。高校生? いやー、あんたみたいな真面目そうな女の子がねぇー、へぇー」
話が、見えて、来ない。
略して、HMK。
「いやね、落ちるときにね、今一番エロい人のところに落ちるぞ! と念じてたんすよ」
全裸の人に言われたくないなぁ。そして相変わらずHMKであります。
「よぉし、少女よ、速やかに家へ招待してください。さもないと『襲われる!』って叫ぶ」
全裸でそんなこと叫ばれたら私、レズかバイですね。
口を挟む隙も無い超展開。
ダッシュで家に帰ると、全裸の女性を部屋にぶちこみ、ジャージを着せておきました。
本当に、衆目に晒されなくてよかったです。
部屋をきょろきょろ見渡し、その女性は開口一番、
「へー、年下趣味か」
「んなっ!?」
なぜわかる!?
「いや、あなたの雰囲気とか、この写真とかさ。
あ、私その人がオカズに使ったものとか判別できる、無駄機能付だからあいたたたた」
思いっきり頬を引っ張ってやりました。
が、
「えい」
「ひぐっ!?」
「あーら、かわいい乳首していらっしゃる」
カウンターで引っ張られました。
引っ張られました……。
数分後。
「いえ、確かにですね。うすうす感ずいてはいたんです。
同学年の子より、年下の子に興味を持つって言うか……。
年上の頼れる男性よりも、弱々しくて保護してあげたくなる男の子の方が……」
「うんうん、まぁ、人それぞれだからね。
やっぱり、ちっさくて穢れのない男の子を無理矢理こう、ニュルッと、したい?」
「え、ええ、ニュルッっていう表現がアレですけど、そうですね。ニュルッとしたいです」
「ほー、ほー、なーるーほーどーねー」
「……はっ」
なぜ私は学校休んで、この人に自分の性癖を語っているんだろう。
「よーし、その望み、私が叶えてやりましょうか」
「え?」
「どうも貴方は、この写真の男の子に気があるようで」
「へひっ!?」変な声が出た。
「私のオカズスカウターによるとこの写真、ここ一月で30回あいたたた」
今度は耳を引っ張ってやりました。が、
「ひぃっ!?」もぞっと下着の表面を撫でられました。
「あれ、濡れ」
「い、いやあああ!」
ペッチーン。
「おお、女にビンタされたのは初めて……でも私、快感以外感じないから無問題よ。
知ってる? 痛みっていうのは快感に――」
「もうやだ、この変態! 変態!」
「変態って言う方が変態なんです。この年下趣味のド変態が。
あんたみたいな暗い子は写真見ながら妄想してマンズリこくのがお似合いだわ。
この豚」
「ぐ……ぅ……」
もうやだ、何この人。
「いーい? あんたみたいな暗い子が、こんな可愛い男の子に見向きされるわけないでしょ?
自分の程度をわきまえなさい。あんた、友達いないでしょ? どうやってこの男の子に繋げるの?
何の望みも無いじゃない。はっきり言うわ、絶対、無理。成立しようが無い」
「え、あ、あぁ……」
「そもそも男とまともに会話したこともないんでしょ?
たとえ付き合うことができたとしても、どうしようもないじゃない。
愛想尽かされて終わるのが目に見えてるわね」
「う……」
「何度でも言ってやるわ、この豚。
アンタなんかが、人様と同じように恋愛しようだなんて、おこがましいにも程があるわ。
人以下の分際で。わきまえなさい。
クズはクズらしく一生妄想の中で満たされるのがお似合いよ」
「……」
「わかった?」
「あ……あぁ……」
彼女の声色と迫力に、私はもう何も考えることができません。
心の隅にあったほんの小さな絶望感を、彼女は容赦なく掘り起こしては私に見せ付けます。
「やめ、やめて、ください……いやぁ……」
「鏡、見る? アンタの顔、なかなか滑稽よ」
涙が出て、顔が紅潮して、口を半開きにしただらしない顔。
私は、そこで壊れました。
「そこで私の出番よ。
私は神。
たとえあなたが豚クズ以下だとしても、その望みを何でもかなえてあげましょう」
「あ、ああ……ありがとうございます、ありがとうございます」
後光が差して見えます。
そうか、この人は、女神様だったのか。
「わかるわよ。貴方がこの子をどれだけ好いているのか。
だから私はこうして降りてきたの。任せて頂戴。
今日から、貴方は思うとおりの結果を得ることができるわ」
「ありがとうございます、ありがとうございます……」
「――よし、洗脳完了」
その日、私は女神様と第一歩を踏み出しました。
決して戻ることのできない、一歩でした。
【豚クズの願望 その1】 了
コメントをかく