2chエロパロ板「大人しい女の子が逆レイプ」スレのまとめwikiです

眼底骨折、右鎖骨複雑骨折、鼻骨粉砕骨折、打撲。
僕と親友の茨木が先輩三人に負わせた怪我。
と言うより、茨木が負わせた怪我。
対して僕と茨木は拳骨に軽症を負っただけだった。
僕と先輩二人には停学一週間、茨木は厳重注意、先輩の内一人は退学処分。
事の発端は部活で起こった僕に対するイジメだった。
練習試合の帰り、試合中に僕にパスを出した茨木を先輩達がシメている所に運悪く、僕はかち合ってしまったのだ。

……色々あって、僕と茨木がキレてしまい、先輩達を返り討ちにしてしまったのだ。
そこに、顧問がまた通りすがり、あろう事か喧嘩を吹っかけて来た先輩達が泣きついたのだ。
あとはまぁ、見当が付くだろう。
停学が解けて僕が最初にした事は、顧問兼、担任に退部届けを提出する事だった。


「ご迷惑を、お掛けしました」
頭を下げる。本当に申し訳なかった。
顧問の高槻先生はイジメにも気付いてくれていて、色々と僕に気を使ってくれていたからだ。
『いいか、イジメは負の感情の産物だ。梅田。お前だけはそんなつまらない感情に振り回されるなよ』

「いいのか?」
「はい、もう決めた事ですから」
高槻先生は退部届けを引き出しにしまうと、僕の方に向き直して肩を叩いた。
「すまない、梅田」
「いいんです、先生が出来るだけ先輩達とゲームをさせないようにしてくれたのは、僕にパスを回す様にしてくれていたのは知ってましたから」
「いつでも、戻ってきていいからな」
先生のその一言に、僕の緊張していた糸は切れてしまった。
ただただ、申し訳無くて、悔しくて。
辺りも憚らず、久しぶりに泣いてしまった。
梅田清治、僕のバスケット人生はここで終わってしまった。


それから自堕落な日々が続いた。
何をしてても、どこかに何かを置いて来てしまった様な思いを感じていた。
いけない、とは思わなかった。それほどに僕はまいっていた。
気付けば停学から一ヶ月が経っていた。
季節は春の直前。三学期の終わり。
そう、学期末テストが控えていた。
無防備な僕を、嵐(テスト)が襲う。
嵐が通り過ぎた後、僕は丸裸にされた木の様にボロボロになっていた。
もともと平均点ぐらいしか取れない生徒の僕が勉強を疎かにすると赤点五つぐらいは余裕で取ってしまうのだ。
もう、いっそこのまま退学してしまおうか。
「おい、梅田」
茨木が、僕のボロボロのテスト内容を知ってしまったようだ。
「お前、このまま辞めるつもりなのか」
「……」
「バスケ続けないのは勝手だけど、学校を辞めるのは筋違いだろ」
「……」
「ちっ、おい清治。ちょっと付き合えよ」
校庭に連れて行かれ、いきなりバスケットボールを投げ渡される。
「1オン1だ。俺が負けたら好きにしろ」
「お前には関係無いだろ、ほっとけよ」
ボールを投げ返すと茨木は素早く身を屈め、僕を抜き去りジャンプシュートでゴールを決めた。
「おら、始まってんぞ」
ボールを渡される。
「ハンデだ、臆病者。もう一回オフェンスのチャンスをやるよ」




「はぁはぁ」
「はぁはぁ、おい今のスコアは?」
「25−27ぐらいか?どうする?もうタイムは使い切ってるぜ」
「言ってろ」
強引に、競り合う。
やはり硬い。現役とバスケから離れて一ヶ月とではこんなに差が出るもんなのか。
レッグスルーからのジャンプシュート。俺の得意技。
「読んでるぜ」
「なっ!?」
ボールが、弾かれた。
「はぁはぁ、俺の勝ちだな」
「はぁはぁ、がっ、はぁはぁ」
へへっ、と茨木は悪戯な笑みを見せる。
ボールを拾い、置いていたエナメル鞄に直す。
それから、エナメルから二本ポカリを出した。
「ほれ」
「…、サンキュ」
手渡されたポカリは普段より甘くて、美味しかった。
「おい、清治」
「うん?」
「バスケ、楽しいだろ?」
「ああ…」
「戻って来いよ、誰にも文句は言わさねぇよ」
「……」
「誰がなんて言おうと、岸和のPG(ポイントガード)は梅田清治しかいねえんだよ」
「…悪い、もう決めたんだ」
「そうか、まぁいいや。おし!先生に頭下げに行こうぜ!」
茨木は尻を叩いて、立ち上がる。
「おい、いくらなんでもお前に頭下げさせる訳にはいかねえよ。赤点取ったのは俺だし、俺だけで行くよ」
「は?お前何言っちゃってんの?」
茨木はマヌケな顔で、僕に聞き返す。
「赤点取ったの、お前だけじゃないだろ」
「……、お前何個?」
「俺も五つ」
そう、今の今まで忘れていたけど、茨木は赤点常習犯だった。


「おっしゃー!赤点解消!!」
補講を終えて、春休みの半ば。
僕と茨木はファミレスでささやかな祝杯を挙げていた。
「いやぁ世界史やばかったな、フレアスター出てなかったら俺はココにいないぜ」
「お前、またギリギリ点数方で受けたな?」
「しかたねぇだろ、NBAスーパープレイ集ずっと見てたら、朝になってたんだもん」
「何が『だもん』だよ、ったく」
久しぶりに、何かと向き合った気がした。
必死に取り組んだ補講は教師陣の度肝を抜いた出来だったらしく、僕を嫌っていた国語の枚方でさえ驚いてほどだ。
そろそろ、立ち直る時なのかもしれない。
一ヶ月やそこらで何かが変わるわけでも、変わったわけも無いけど、でも小さなところでは歯車が合い始めているんだ。
高校二年生になる。キッカケとしては充分じゃないか。
「んでさ、お前はこれからどうすんだよ?」
「ん?」
届いたミックスグリル定食を間食した後、ドリンクバーを追加してきた茨木はもう一度聞き返した。
「バスケ部に戻れよ、清治」
「……、悪い」
「……、そうか。いや、気にすんな」
「でもさ、」
「ん?」
「たまに1オン1しようぜ、茨木」


前を向こう。
過ぎちまったのは仕様が無い。
新学期の初め、高槻先生に呼び出しを受けた。
「おい、梅田お前学級委員になれ!」
「は?」
先生の話によると、息の掛かった生徒がパイプ役になってくれると助かるらしい。
でも無茶苦茶だよな。
「それなら茨木とかならいいんじゃないんすか?」
「大祐は……、嫌だろ?お前も」
うん。自分で言っといて何だが、茨木に学級を仕切るのは不可能だ。何と言うか柄じゃない。
「ウーム、そうか悪かったな始業式の朝一に呼び出して」
……、歯車か。
「先生」
「ん?」
「俺、やります」
「え?」
「学級委員に立候補します」


何と言うか期待していた訳じゃないけど、こうもあっさり学級委員が決まってしまっていいのだろうか?
しかも昨年度最後のテストで主要五教科を落としていた奴に学級を任していいのか?
いや、多分任せたのは僕じゃないな。
僕の高校では委員会は男女二人一組が基本だ。
学級委員もその例に漏れず二人一組。
もう一人の学級委員、つまり女子の方に皆期待しているわけだ。
羽曳野 誠。
通称、誠。
今時の女子高校生には珍しい綺麗な混じり気の無い肩まで伸びた黒髪。余り喋らないが、良く通る声。
何より顔の造りがいいのだ。
ただ、人格と言うか。時代錯誤なんだそうだ、考え方が。
聞いた話によると、カップルの事を未だに『アベック』と言うらしい。
いや、これは考え方というより言い方が古いだけだよな。
学級委員としての功績も一年にして中々の物で、女子の靴下の色を自由にしたのも彼女の教師陣への直談判がトドメに効いたらしい。
教師陣からの評価もかなりの物。
成績表も大体が4〜5で、提出物の出来ももはや高校生の域では無いらしい。
これも噂だが、写しのためにノートを借りたはいいが、字が達筆過ぎて並みの高校生では解読出来なかったそうだ。
恐るべし、羽曳野誠。
「梅田、清治くん…だよね?」
「あ、うん」
小動物みたいに怯えながら、僕に話しかけてきた羽曳野。
そんなに怖いか?僕。
「学級委員、初めてだよね?」
「う、うん」
視線を合わせたり、外したりしながら羽曳野は何かと忙しい。
「今日から火曜と木曜は放課後残らなきゃいけないから…」
「ああ、うん。先生から聞いてる。生徒会に出るんだろ?」
羽曳野は僕が知ってたのが意外だったみたいで、少し驚いてからまた言葉を捜し始めていた。
多分、男子に慣れてないんだな。
「羽曳野、お前の方が先輩なんだし何でも言ってくれよ。そっちの方が下っ端としてもやりやすいしさ」
「あ、うん。分かった。よろしくね」
「うん、よろしく」


「おい!清治!!」
茨木が委員会決定のあと、後ろから掴みかかってきた。
「お前、ガラじゃねえよ!」
「お前も生活委員じゃねえか!お前のどこが生徒の見本になる生活なんだよ!」
茨木は少し笑ってから、僕の肩を軽く小突く。
「さては、羽曳野狙いか?」
「馬鹿!アイツ俺と話すのもやっとなんだぞ」
「いいじゃん初々しくて。それに可愛いしさ」
「どうかな?俺は話しやすい方がいいかな?」
茨木は「どうだか」と肩をすくめて見せる。
嘘は言ってない。
実際、やりにくい。
「お前、学級委員といえば放課後の居残りがスゴイって聞くぞ、いいのかよ?」
「部活も辞めたしな、丁度いいくらいに帰れるだろ」
「そんなもかね。ま、終わったら部活みに来いよ。ボールくらいは触ってやれよ」
「ああ、でもいいのか?」
「あの……」
「ああ、構いやしねえよ後輩達にも顔教えときたいしな」
「あの………」
「「おわ!?は!羽曳野!!?」」
思わず茨木とハモる。
「ど、どうも」
なんの会釈か分からないけど、羽曳野は一度頭を下げる。
「梅田くん、今日放課後…」
「ああ、木曜だからね。うん分かった。掃除が終わったら教室に戻っとくよ」
羽曳野は頷くと、また会釈して自分の席へ戻っていった。
「気配が無かったな」
「ああ、あれでHRの時はちゃんと話すんだよね」
「スイッチ的なもんがあるんだろ?スクリーンアウトとか上手い奴にありがちな」
なんでも無理矢理バスケに例えるのはどうかと思うぞ、茨木。
「でもいいなぁ、あの眼鏡の向こうからの上目遣い堪らんなぁ」
「そうか?ただビクビクしてるだけに見えるけどな」
「あの純粋さがいいんじゃないか」
そう言えば茨木は、清純派アイドルが好きだったな。


「あ、違うよ梅田君。ここはね…」
羽曳野と二人、四時半の校舎には生徒は少ない。
教室になんか、僕達二人だけだ。
「羽曳野」
「うん?」
大分僕との会話に慣れてきたのか羽曳野の物怖じが無くなってきた風に見える。
「お前、部活とかしないの?」
「う…、うん、やってたんだけどね」
「行き辛くなっちゃったか?」
羽曳野は頷く。
「分かるよ」
「うん。梅田君は、」
「僕は、先輩に虐められてさ。茨木は庇ってくれたんだけどね…」
「そうなんだ」
「そうなんですよ」
羽曳野は少し笑ってから、僕と視線を合わせる。
「私、弓道部だったの」
「へえ、羽曳野袴似合いそうだね」
「そ、そうでもないよ?」
羽曳野はまた恥かしがる。直球に弱いみたいだ。
「楽しかったな。的にだけ集中するとね、耳の向こうで張り詰める弓の弦がさ不思議と耳に入ってくるんだ」
夢見ごごち、というのか。
「なんで、やめた?」
「うん…、私も、虐められたんだ」
羽曳野の表情が張り詰めた。
好きだったんだろうな、弓道。
「何だか、やりにくくなってさ。同級生からも、顧問からも嫌われちゃったんだ」
そう思うと、まだ僕は救われている方なのかもしれない。
茨木、高槻先生。
バスケ、したいなあ。
「梅田君」
「うん?」
「今日、なんだか楽しいの。おかしいよね?」
「俺も、楽しいからおかしくないよ羽曳野」
「下の名前、知ってる?」
「誠、だろ?」
「うん?知ってたんだ?」
羽曳野は驚き半分、嬉しさ半分といった感じだ。
「カッコいいよな」
「清治も中々だと思うよ」
「やめてよ」
「なんで?」
「女子に呼ばれるとこそばゆいだろ?」
「そうかな?私は嬉しいけど?」
羽曳野はそう言って笑った。


木曜の放課後の五時。
バスケ部の練習してる横で自宅から持ってきたボールを弾ませる。
さすがに部員でもないのに部のボールを使うのは億劫だからな。
そんなにドリブルのスキルも無いけど、少しでもボキャブラリーを増やすために体育館の隅で黙々とドリブルに費やしている。
シュートの練習は部員が帰ってから、というのが少し口惜しい。
「おし!十分休憩!」
茨木の声が体育館に響く。
三年の先輩達は茨木の一、二年チームをよそに三年だけの個別練習をしている。
今年の夏の大会で三年は皆引退してしまうからだ。
進学校である僕の高校では夏の大会が終わると必ずと言っていいほど三年は引退する。
「先輩達、頑張ってるな」
茨木がタオルを持って来てくれた。
「ベスト8には行くって張り切ってるんだ。お前どう思う?」
「……、微妙かな?」
茨木は「だよな」と寂しそうに笑う。
「堺先輩はゴール下からしかシュート出来ないし、八尾先輩はスタミナ無い、ドリブル出来ない、周り見えてないの三拍子」
「何も先輩だけでベスト8狙うわけじゃないぜ?」
「でもスタメンで出すんだろ?」
茨木は頷く。
「だから駄目だ」
「流れ、敵に行っちゃうもんな」
「うん」
僕はタオルで汗を拭った後、中学の時に使っていたエナメルにボールを直した。
「何だよ、もう帰るんのか?」
「うん、もう中間二週間前だろ?」
嘘を付いた。このままだと先輩に聞こえるかもしれないし、茨木が僕に復帰の話を持ちかけてくるからだ。
「けっ、いい子ちゃんめ。じゃあな」
茨木は悪態をつく。
「おう、またな」


茨木に行った手前、テスト二週間前から勉強を始めるのは決心していた。
「家帰ってもな、多分誘惑多いよなぁ。七時まで教室でやるか」
家と言うのは最高の環境と最悪の環境とが背中合わせで共存している。
そして僕の様な者にとっては常に最悪の環境なのだ。
「あれ?まだ電気が…」
教室の引き戸から漏れる光に人の存在を匂わせる。
「お?羽曳野か?」
「梅田君?」
こういう時は大概恋人未満友達以上の男女なんだが、
「なにしてんだよ?」
「ちょっと先生に課題出されちゃって…」
見るとアンケート用紙の束に、集計のためのルーズリーフの用紙が一枚。
「羽曳野、これ学級委員の?」
「…うん」
羽曳野は小さい子が事を隠す時みたいに少しおどおどしながら頷く。
「言ってくれよな、またお前だけにさせてるみたいに言われるじゃねえか」
「ご、ごめん!」
冗談めかして言ったのに、羽曳野は頭を下げて謝辞を告げる。
冗談なんだぞ?分かってくれよ。
「いや、嫌味じゃなくてさ。…、とりあえず手伝うよ」
「え…、帰ってもいいよ?先生には手伝ってくれたって言っておくし…」
「馬鹿、そういうのじゃねえよ」
「ご、ゴメン」
また羽曳野は謝る。
いいさ、その内慣れていくだろう。
「好きでやってるし、二人でやってりゃすぐ終わる」
「…うん」
多分、僕にはキツイ仕事だと羽曳野は判断したのだろう。
生徒会に出た時に僕がめんどくさがったのも原因の一つだろう。
優しいというか、気を使い過ぎだろう。
「羽曳野」
「なに?」
「この集計何?」


放課後の六時半。あと三十分で強制下校時間だ。
正直、生徒会に求める規則改善事項のアンケートの集計はキツイ。
「あー、よっとこさ終ったな」
「うん、お疲れ」
羽曳野はお疲れと言ってくれるけど、仕事の七割は羽曳野がやってのけた。
今現在において、羽曳野のために「お疲れ」という言葉がある。
「大概は携帯の使用許可なんだな」
「うん。皆持ってきてるのにね」
「堂々と使いたいんだろ?ま、どうでもいいけどさ。そういえば…」
「うん…?」
一つ気になった。
羽曳野は校則で禁じられている携帯電話を携行しているのか?
という疑問だ。
「羽曳野は携帯持ってんのか?」
「うん。ほら」
持っていた。しかも最新機種だ。
「う、梅田君は?」
俺もポケットから携帯を見せる。羽曳野のより一世代前の機種だ。
「負けた、羽曳野に負けた」
「えへへ、お姉ちゃんが新しいもの好きでさ、その影響」
衝撃の事実。羽曳野には姉がいた。
「お姉ちゃんいたんだ」
「うん、でも全然似てないんだ」
…ちょっと見てみたい。
やはり清純っぽいのだろうか?いやいや、似ていないらしいし以外とさばさばした感じなのかも。
僕が思考を巡らせる中、いきなり教室の引き戸がスライドした。
「お前ら、もう七時だぞ」
高槻先生。時計を見ると七時になる十分前。
「先生、アンケート。集計終りました」
羽曳野はよく通る声で高槻先生に言った。
スイッチを切り替えたみたいだ。
「おっ!速いな。明日でもよかったのに。サンキュウな羽曳野」
「先生、俺も俺も!」
「馬鹿。お前バスケ部に5時までいたって茨木から聞いたぞ」
ぎゃふん。バレていた。畜生、茨木め。
「とりあえず、二人共お疲れさん」


「ほら、乗れよ」
「で、でも…、他の人に見られたりしたら…」
「別にいいだろ、ほら早く」
羽曳野は恥かしさに顔を真っ赤にしながら自転車の荷台に乗る。一応俺のタオルを敷いてるし尻は痛くないだろう。
「や、やっぱり悪いよ…、私なら歩いて帰れるし…」
「馬鹿、ここから駅まで何キロあるんだよ。駅までは送ってやる」
「ご、ゴメン…」
「いいよ、お前軽いし」
「…うん」
「腰に手回すの嫌だったら、荷台によく掴まっとけよ」
「う、うん」
意外にも、羽曳野は僕の制服を掴んだ。なんだかこそばゆい。
「行くぞ」
「うん」
漕ぎ出すと、羽曳野の握力が強くなったのを感じる。
本当に慣れてないんだな。
「羽曳野」
「な、なに?」
「お前、付き合った事とか無いの?」
「えっ!えっと…う、うん。無いよ?」
何のクエスチョンなんだ。
「結構、モテそうなのにな」
「そうかな?告白はされたことあるけど、皆嫌いと言うか、合わない感じだったから」
「どんな、奴らだったの?一応参考までに」
「えっと、五組の豊中君とか」
五組の豊中と言えば、チャラ男で有名だ。今時の女子はああいう軽いのが好きなんじゃないのか?
何と言うか、一口サイズみたいな軽さが。
「ああいう人、馴れ馴れしいから…」
…結構言う奴だな、羽曳野。
「あ、でも梅田君はその、馴れ馴れしくなんてないよ」
直々にフォローを貰った。
「羽曳野。そういうの、勘違いする」
「ご、ごめん!…別にしてくれても…」
「ん?なんて?」
「べ!べつに!!」
何を焦ってるんだ、羽曳野。
「梅田君は…」
「ん?」
「付き合った事無いの?」
「あるよ、中学の時と去年。別れちゃったけどね」
「嘘…」
「嘘付いてどうすんだよ」
「…同じ高校?」
「違う、中学の卒業の時告白されて断る理由もないから何となく付き合った…ってありがちかな」
「そう…、そんな理由で…」
「軽蔑したか?」
「ううん…、そんな事無いよ」
羽曳野は制服を離して僕の肩を掴む。
「なんで別れたかなんてのはつまらないけどさ、多分俺に非があったと思う」
羽曳野は何も言わない。別に何か言って欲しかったわけでもないけど。
駅の明かりが見えてきた。

「ほら、着いたぞ」
羽曳野はスカートを叩いて、荷台から降りる。
「羽曳野、今日ありがとな」
「え?」
「いや、なんとなくだけどさ。羽曳野のおかげで委員会の仕事分かってきたから」
羽曳野は驚いた顔をする。何度目だよ。
「あ、あのね梅田君」
「うん?」
「…ア、アドレス教えてくれない?」


当たり前だが、夜中の広場はとても静かだ。
コンクリートの床に一度ボールを弾ませると、ボールの音と遠くを走っているバイクの唸り声だけになる。
バッシュじゃないけど、シュート練習ぐらいは出来る。
ゴールには網も張ってないけど、ゴールリングはある。今はそれだけで充分。
二、三回ボールをまた弾ませてシュート。
膝から腕に力が抜けていく。
流れていくようなイメージを浮かべながら、右手の人差し指がボールと離れるまで神経を尖らせる。
弧を描きながら、ゴールポストに一度当たってからリングの中にボールは落ちていく。
「よし」
独り言を呟きながら転がったボールを拾うと、またさっきシュートを放った位置に戻る。
「PGにも得点力はいる。
切り込んで相手のマークが外れてなかったら俺しかいない、パスとドリブルだけじゃただの『いいPG』止まり。
ならどうする?
決まってる、得点力も、ドリブルも、パスも出来る『ボールを持たせてはいけないPG』になればいい。
そうなったら、俺の他が生きる」
頭の中のイメージを改めて、全身に投身する。
地面を蹴って、膝もそれを伝える。そのまま肘は昇ってきた力を指先に伝える。
またボールは高く弧を描く。今度はどこにも当たらずにそのままゴールの中に吸い込まれていった。
「よし!」
今の感じだ。
どんな勝負にも得点力はあっても困らない。
僕じゃない味方の誰かが得点源になっても構わない。ただ、ゲームの流れを作っているのは僕でありたい。
「シュートフォームまでを早くしなきゃいけないのが課題だよな」
ボールを弾ませて掴んだ瞬間、シュートを試みる。
ガン!
「ありゃ?」
ボールはゴールリングには当たったものの、ゴールには収まらずにでたらめに跳ねた。
基本、応用、必中、迅速。
まずはどの3pのエリアから入るようにしてからか。
まだ膝に充分なイメージが出来ていない気がする。
バスケにおいて…、というかスポーツにおいて下半身とはプレイ内容に直接関わってくる大切な部位だ。
バスケの試合でも鍛えているのと、鍛えてないのとでは雲泥の差が出る。
試合の中盤で腰が高いようでは競り合いに負けるし、ドリブルで置き去りにされる。
四十分戦い抜けるプレーヤーはそこらへんの鍛え方が段違いなんだ。
課題はたくさんある。時間もまだある。
自分決めた事を全部してから、チームに、団体に戻ろう。
それまでは、独りのバスケに徹する。
俺が所属する未来のチームの勝利のために、今は独りのバスケ。
ちょっとカッコいいかも、と少し自分に酔いながら僕はまたシュートフォームをとってボールを放った。


彼は三十分おきにメールの返信をくれた。
内容は他愛の無いものばかり。
明日は世界史の小テストがあるとか、中学の時の思い出とか。
私は彼からのメールを着信すると、三回は読み、三回はメールの内容を書き直し、三回はそのメールを吟味して返信していた。
メールを返信した後も何か失礼があったかも、と着信メールと返信したメールを何度も見直した。
そんな事をしていたせいか、二十数回のメールのやり取りでベッドに入る時間となってしまった。
名残惜しいけど…、そんな気持ちで一杯の今日最後の返信メールを送信する。
数分経って、彼からもメールの打ち切りを了解する内容が書かれたメールが来た。
『また明日な』
その文字の並びに思わず笑みがこぼれた。

「はぁはぁ、ハッ」
弾む息を整えて、汗を拭う。
「これが入ったら百本目だ」
さっきはイメージを疎かにしたから外した。
また頭の中で理想のフォームの組み立てる。全身の筋肉に、それを投影して…。
「ハッ!」
これは入った。何本目からか、放った瞬間にそんな事が分かり始める。ボールも決して低い軌道ではない。
文句なしだ。手首の返しが外したさっきとは全く冴えが違う。
どこにも当たる事無くボールはゴールを通り抜けて、落ちた。
「シャッ!!」
思わずガッツポーズを取る。そのぐらい嬉しい。
「おっ?」
ベンチに置いていたタオルの隙間で携帯の画面が光っていた。
「茨木か?」
画面には羽曳野と表示されている。
「羽曳野か…、ん?」
メールの内容はそろそろ寝るから今日はこのぐらいで、というものだった。液晶を見ると二十三時と表示されている。
「不味いな、メール返すの休憩毎だったから怒ったのか?」
三十分練習しては適当に休憩を繰り返してその休憩の時に返信してたからな、怒るのも当然かも。
「今日び女子高生が十一時きっかりに寝るのか?」
まぁ、そんな家庭もどこかにあるよな。
僕は少し反省しつつ、適当な返信をした。
「ふぅー」
タオルで汗を拭う。テスト勉強、結局出来なかったな…。


世界史の小テストは、まぁまぁの出来だった。授業態度が少し違うだけでここまで違うとは。
「よお、清治。傷を舐め合おうぜ」
茨木が授業が終わった直後にじゃれてきた。
「残念だったな茨木」
「あん?」
「俺、今回八割越えたね」
茨木はそれ聞いて飛び退いた。
「う…裏切り者!!」
「何とでも言え類人猿」
「お、俺のどこが少し賢いオラウータンだと!?」
茨木からの振り。だと思う。だから乗った。
「ウホッ?」
サルの言語もどきを話すと、茨木は嬉しそうにそれに乗ってきた。
「ウキ!!ウキッキ!ウキー!!」
嬉しそうにサルを演じる猿人類、茨木。見てて悲しくなってきたからそろそろオチにすることにした。
「何をやっているんだ?茨木?」
「チックショウーーー!!」
相変わらず愉快な奴だ。
「あの…」
「清治!今日から体育館使用禁止だからな!!」
「これだから類人猿は…」
「あの……」
「ムキーーー!!!」
「ハッハッ!ほれアンヨが上手、アンヨが上手…」
「う、梅田君…」
「「は!羽曳野!?」」
「ど、どうも」
またしても登場に驚く僕達に小さく会釈をする羽曳野。
「今日…、また居残りだから…」
「えっ!そうなの…?」
しょげる僕に羽曳野は敏感に反応した。
「あっ!で、でもね私の方で解決出来たら私が全部やるから…」
「いや、いいよ。そんな事したら二人でやる意味無いだろう」
「うん…そうだねゴメン」
何に対して謝っとるんだ、羽曳野。
「じゃ、また放課後」
「おう」
羽曳野はそう言って自分の席に戻って行った。
「今日金曜だろ…、居残り勘弁…」
「おい、清治」
「うん?」
「羽曳野さん…、また気付かなかったな」
茨木の拳が震えている。
「ああいうのを才能っていうのかな?」
「才能?なんの?」
「シューターの」
「どこがだよ、おい」
「いつの間にかマークを外してくるあたり、相当のセンスが伺えるね」
とことんバスケに例えなければいけないらしい、このオラウータンは…。
「おい茨木」
「うん?」
「チャック、開いてるぞ」


二日連続で終礼以降も学校に残っているなんて一年の三学期にはあり得ない事だった。
まあ、あの時は僕が堕ちるとこまで堕ちていたせいもあるけど。
「結局、持ち越しになったね」
「うん。まぁ先生達からしたら面倒だもんな携帯の持込みを認めるなんてさ…」
羽曳野は「そうだね」と相槌を打つ。
「皆、隠して持ってきてるのにね。それだけで充分だよね」
「先生もそれぐらい知ってるだろうしな。もう帰るのか?」
「う、うん。どうして?」
「いまから勉強しようかなと思ってさ。残る日は教室の鍵お前が預かってるって先生から聞いたからな、今日は俺が最後まで残るから鍵、貸してくれ」
「うん…」
羽曳野はスカートのポケットからやけに細長い鍵を出す。
「う、梅田君って…」
「うん?」
「一年の三学期に補講受けてたよね?」
「うん?知ってたのか?」
「確か、化学以外全部赤点だった気が……」
そっちも知ってたのか…。
「そっちも知ってたのか」
「えへへ…」
なんでここで笑顔なんだ…。まあ、可愛いけどさ。
「だから、中間もそうならない様に今から勉強するんだ」
「あ、あのね…」
羽曳野は鍵を机に置いてこっちを見たり、下を向いたりしている。
「私、国語とか結構強いの…だ、だからね…」
「うん?」
「お、教えてあげようか?」


テストを一週間前に控えて、僕は羽曳野によく勉強を教えてもらうようになった。
始めは居残りのある火曜、木曜に限っての事だったが、最近では図書館でやってる所に羽曳野が途中参加してくれるようになった。
「ほら、だからねこの洗剤の入れると…」
「表面張力が働かなくなって、さっきのコップに入れた水の量より僅かに少ない量しか入らなくなるんだな?」
「うん。そうだね」
電話越しに勉強の話をする日が来るなんて、人生って何があるか分からないものだ。
「数学とかは大丈夫?」
「ああ、授業聞いてるのと聞いてないのとじゃ全然違うな。この前の世界史も点数よかったんだ」
「そうなんだ。梅田君授業中ちゃんと起きてるからそれぐらい出来るよ。なんで赤点なんて取っちゃたの?」
「まぁ、前は色々な」
こうして話していくと羽曳野の緊張と言うか、許容範囲が小さくなっていくのが何となくだけど、分かる。
「でも、悪いな。もう十時なのに」
「え?あっ!本当だ!!」
電話の向こうでガシャガシャ何かが擦れる音がする。
「羽曳野ってさ、もしかして十一時には寝てる?」
「えっ?う、うん…どうして?」
本当にいた。十一時にきっかり寝る女子高校生。田舎以外なら絶滅危惧種だろ。
「悪いな、そろそろ切ろうか?」
「ま、待って!もう少し話そう?ちょっと目が冴えちゃったから、お願い」
まあ、僕は全く構わないけど。羽曳野が生活リズムを崩すのはどうなんだろう。
「私ね、こんな夜遅くまでと、友達と話すの修学旅行以来なの」
どおりで、声に妙な熱がこもってる訳だ。
「梅田君はさ、」
「うん」
「下の名前で呼ばれるのと、上の名前で呼ばれるの、どっちが好き?」
「下かな」
「そうなんだ、どうして?」
「梅干、嫌いなんだ」
「そうなの?」
「そうなの。あと、清治って響きがいいだろ?」
「う、うん。そうだね、き、清治君」
どさくさに紛れて言いやがった。電話越しでも緊張してるのが分かる。
「羽曳野は…」
「うん?」
「どっちがいいんだ?名前」
「わ、私も…下の名前かな?」
「なんで?」
「カッコいいから、気に入ってるんだ。誠っていう字」
多分、呼んで欲しいんだろうな。誠って。
「ふーん。ところで羽曳野さ」
「あっ…」
「なんだ?呼んでもらえるかって期待したか?」
「ち、違うよ!してないよ?」
してた。これは間違いなくしてた。


「ねえ、清治君」
「うん?」
「私、これからも清治って呼んでもいい?」
またもや緊張感が伝わってくる。どこまで慣れてないんだ。
「もう呼んでるし、いいよ。好きに呼んで」
「ホント!?やった!」
なぜか喜ぶ声に俺の方が微笑んでしまう。無垢だな。
「あ、もう十一時だ」
さっきの声との落差がスゴイ。
「そろそろ寝るね、ゴメン」
「ああ、お休み。誠」
「うん、おやす…え!?」
通話を切った。羽曳野相手だと思わず悪戯やってしまう。
携帯の画面を見ると、メールが来ていた。茨木から。
「新しくバッシュを買った!!」
添付ファイルには赤を基調とした白いラインがいくつか入っているバッシュを食おうとしている茨木が写されていた。
「一週間前に何をしてるんだコイツは…」
僕はそれに返信もせずにさっき取り掛かっていた化学の問題集を再度読み返す事にした。

やった!やった!!
梅田君と、清治君と今日は一杯喋れた!!
携帯を思わず抱きしめる。
「清治君…」
何度も彼の名前を呟く。
最近の私は少しおかしい。二年生になって初めて知り合った彼に、こんなにも踏み入っている。
なんでだろう、なんでだろう…。
「なんでかな、き…清治君……」
ちゃんと、呼んでくれた。私の名前。
家以外じゃ、誰も呼んでくれない私の名前。
彼と話してるとちゃんと目を見れない。ドキドキして、吸い込まれそうになる。
でも、彼となら本当の私が出せる。
羽曳野誠の全部が。
もっとお話したい。もっと彼の傍にいたい。彼の当然になりたい。
彼がクラス内にいる時、いつの間にか彼を追っている。授業中も、どんな時も。
「茨木君と、摂津君と、三島さん…」
彼がクラスの中で一番関わっているグループだ。
「摂津君と三島さんは付き合ってて、茨木君はき…清治君の、親友なんだよね…」
もともとは清治君、茨木君、摂津君のグループだった。でも高一の二学期に三島さんが摂津君と付き合い始めたらしい。
「茨木君とも、仲良くしなきゃいけないんだよね…」
これが今のところ一番の課題。
清治君と仲良くなるんだったら、清治君の仲の良い人とも仲良くしなきゃ。
実際、清治君と茨木君はとても仲が良い。
私がこの一週間学級委員の用事を伝えに行く時、大概は清治君と茨木君は二人一緒にいる。
こんな事言うのも少しおかしいけど、私は茨木君に嫉妬している。
茨木君がいなければもっと清治君に話しかける機会があったかもしれないのに…。
「明日こそ…」
清治君と茨木君との間に入ってみよう。

テストが一週間まえになると部活動が全て停止になる。放課後にもなると体育館には練習に来た僕と茨木しかいない。
「俺さ、来世はアナコンダがいいな」
体育館に茨木の戯言が響く。
「なんでだよ?」
「だってさ大蛇だぜ、大蛇。俺、一日中密林を徘徊するんだ」
昨日ケーブルでアナコンダでもやってたんだろうか、茨木の決意は相変わらず簡単で軽い。
「山羊とか丸呑みだぜ」
山羊が密林にいるんだろうか?というか丸呑みって…。
「…まず巻きついて骨とか折って呑み込み易くするんじゃないか?」
「えっ…、窒息させるだけじゃないの?」
茨木が出来の悪い小学校低学年の男の子が必死に掛け算を理解しようとしてる風に見えた。
何と言うか…、よく高校に入れたな。
「それに…、呑み込むのに半日とか掛かるらしいぜ」
「でもテレビとかじゃ人を一飲みだったぜ」
「はぁ…、お前ね、昨日映画とかでやってたの?アナコンダの」
「いや、映画じゃなくて、昨日寝る前に考えててさ、来世人間以外なら何がいいかなって…」
「どれくらい考えたんだ?」
「昨日…、寝てないんだ」
前言撤回、コイツの決意は固く、重い。
「…じっくり考えたなー」
そういえば、コイツは今日本日の午前中の授業四限に渡る深い眠りに落ちていたな。
「ああ、亀もよかったけど…中学の頃に飼っていたコービーを思い出したからな…」
コービーって名前は、多分NBAのチームの内の一つレイカーズの代表的な選手から取ったんだろうな。
「清治は?」
「うん?」
茨木は、転がっていたボールを一つを手に取り、指先で回し始める。
「来世、何が良い?」
「…考えた事ないけど、蛇は嫌だな」
「何だよ…。あっ!分かった!お前羨ましいんだろう!?」
「何が?」
「俺に大蛇取られたの、気にしてるんだろう?」
茨木はボールを持ち直し、自慢げな顔をする。
「じゃあ、俺シャチでいいや」
「えっ?」
「頭いいし、漢字カッコいいし」
「…シャチ…、シャチかぁー、シャチいいなぁ」
茨木はまたおつむの悪そうな悪人が敵の裏の裏を掻こうと必死に頭を使ってる顔をする。
ボールを茨木から取ると、すぐにフリースローラインからシュートを放った。
「お前さ」
「うん?」
「シュートの練習してるだろ?」
ゴールリングを抜けて、落ちたボールを拾うと茨木が何気ない様子で言った。
「シュートまでが早くなったし、何より思い切りが良くなってる」
「…」
何も言わず、ボールをその場で弾ませもう一度シュートを放つ。
ゴールの網が揺れる。
「何より、フォームが綺麗だ」
「まぁ、たまに公園でな」
茨木は落ちたボールを拾うと、弾ませシュートを放った。
「紅白戦だけでもいいから、バスケ部に戻れよ、清治。後輩達もお前に戻って欲しいって言ってるんだぜ?」
「俺、後輩達とプレイした事ないぞ?嘘言うなよ」
茨木は少し笑ってから、落ちたボールを拾い僕にパスをくれた。
「後輩達が練習してる時にも、お前は隅で練習してただろ?見てんだよ、みんな」
僕は少し躊躇った後、フリースローラインを確認しもう一度シュートを放った。入った。もうそのぐらい分かる。
ボールはゴールネットを揺らした。
「お前、もう結構入るようになってんじゃねえか?」
「最近は外す方が少ないな…」


「紅白戦だけじゃない、好きな練習に出て良いからさ」
「…」
「試合の感覚を戻しておくのも無駄じゃない。むしろプラスになるんじゃないか?」
茨木の言ってる事は正しい。
とくに僕のポジションはチームの事をよく知っておかなければならない。
ガードは、そういうポジションだ。
独りのバスケ…、でもまだ僕とプレイしてくれる奴がいるなら、僕はソイツとプレイしてみたい。
「…そうだな、十分くらいなら出してもらえるなら…」
「だろ!だろだろ!!そう来なくっちゃ!!
テスト明けの日に部活も再開するんだ!その日にでも来い!バスケをやらせてやる!」
茨木は嬉しそうに目を輝かせる。
「岸和のガード、梅田清治の復活だ!!」
「お前、まだ部活に入り直す訳じゃないんだぞ?」
「ハッ!でもまた一緒にするって気持ちになったんだろ?一歩前進じゃねえか!!」
嬉しそうに笑う。
「あっ、ところでさ…」
いきなり機嫌を元に戻す茨木。
「なんだよ?」
「シャチって、どう書くんだ?」
「あの…」
「…お前やっぱ馬鹿だな、魚に虎って書くんだ」
「あの…き…きよ…」
「じ、じゃあ蛇はどう書くんだ!?」
「お、お前、蛇はお前が言い始めたんじゃないのか?」
「アナコンダとカタカナで書いて大蛇と読む!!」
「無茶だろ!?」
「清治…くん…」
「おい!なんだ清治!お前最近頭がよくなってるって聞いてたけどやっぱ馬鹿なんじゃねえか!?」
「ハァ!?お前も分からないんだろ!」
「俺と同レベルってことじゃないか!やーいバーカ、バーカ!」
「んだと!!?お前よりは頭がいいもんね!!」
「清治、君…」
「「は!羽曳野ぉおお!!?」」
「ど、どうも」
ペコリと、羽曳野が頭を下げる。
「図書館に、いなかったから…探しちゃった…」
えへへ、と羽曳野は控えめに笑う。
「今日は、もうバスケの練習して帰ろうと思ってたから…、ごめんな、なんか気を使わせて」
「ううん、べつにいいんだよ?私が好きでやってるだけだから…あ、茨木君…」
「あ?」
茨木が『俺に?』と言いたげな表情で、抜けた声を出す。
「は、羽曳野です、これからもよろしく…」
またお辞儀をする羽曳野。
「あ…あとね、蛇っていう字は虫って書いてからウ冠を書いて、その下にカタカナのヒを書くの」
僕と茨木はそれを聞いて、「そうなの?」と同時に首を傾げた。



テストも、ホームルームを終え、テスト週間が今終わった。
クラス中からは色々な声が上がる。
やれ、昨日は寝てないだの、数学は底上げがあるだろうとか、やっぱ鯱だよなとか。
テストが終わった。それだけで安心する。
「おい、清治」
出席番号順になっていたから前から茨木が喋りかけてきた。
「疎水(これ)ってなんて読むんだ?」
「”そすい”だ。どうだったんだ?さっきの化学」
「いや、昨日お前に電話しといてよかったぜ、ベンゼンからの反応は完璧だ!」
昨日、いや今日の午前二時ごろ茨木が泣きついてきて、応急処置程度の所を教えた。
教えた場所はしっかりできたみたいだ。テストにも言った場所はしっかり出てたし、まぁ大丈夫だろう。
「じゃあ化学も大丈夫だな」
「嗚呼!!数学、国語に続いて三教科も赤点から大脱出!」
まぁ、三教科赤点から脱出なら茨木的には快挙だろ。
「おう、キヨ、大祐」
「あっ、摂津」
よっ、と摂津は二枚目な笑顔を浮かべながら現れた。
「どうだったんだ?テストは?」
「上々の出来だね、摂津は?」
「俺は理系科目苦手だからな、五割くらいか?」
摂津は一年の頃なら俺たちの中で一番点数がよかった。三島さんのおかげだが。
「三島は?」
「文化委員だと」
摂津がつまらなさそうに言う。
「そんな事より聞け摂津!ついに今日、岸和のガード、梅田清治が復活するんだ!!」
少し驚いた風に摂津が目を開いた。
「ついにか、キヨちょっと遅すぎるんじゃないか?」
「まだ戻る訳じゃないぞ…」
「「なんだ…そうなのか」」
茨木と摂津はハモって少し落ち込む。


「き、きよ…」
「まぁ、部活に顔出すだけでもよかったじゃん茨木」
「まあな、コイツ頑固でさ。カッコつけて独りで寂しくバスケの練習してたらしいんだよ」
「カッコつけてなんかいねぇよ」
「清治…くん」
「茨木なんてさ、なんか話すたびにキヨの事ばっかり話すんだぜ。ホモかよって流石に引いたね」
「うわ、お前マジかよ…」
「ホモなわきゃ無ぇだろ!!」
「清治君…」
「「は!!羽曳野!!!?」」
「誰!?この人!?」
僕らに少し遅れて、摂津も驚く。本当に気配が無かった。
「どうも…」
羽曳野はいつも通り小さく頭を下げた。それから摂津の顔を少し見てからまた頭を下げた。
「摂津君ですよね?こんにちは、羽曳野です。よろしく」
「あ、はい。摂津裕太です、よろしく」
摂津も遅れて自己紹介する。羽曳野は少し微笑んでから僕と視線を合わせる。
「今日、ちょっと残ってくれる?」
「学級委員か?」
「うん」
「分かった、昼飯食ってからでいいよな?」
「うん。じゃ、また後でね」
羽曳野の後ろ姿を見送ると、摂津が僕の肩を叩いた。
「おい、キヨ。お前部活を休部中に可愛い娘を落としてたなんてな?」
茨木はそれに便乗する。
「そうなんでゲスよ、摂津はん。清治さんも隅におけまヘンなぁ」
「そうでゲスな、フヒヒ!!」
なんなんだ?コイツら?
「で、どこまでいったんだよ?」
「手は繋いだのか、このさくらんぼ!!」
「摂津さん!ちょっと言い過ぎでゲスよ!フヒヒ!!」
「お前ら随分楽しそうだな…」
「赤くなってるぞ、さくらんぼ!!」
せーの、と二人は合図を取ると、二人一斉に言った。
「「やーい、やーいサクランボ!!お前の母ちゃん四国産!!」」
何の仕打ちだ、これ…。
それとサクランボは普通山形だろ。



昼食を茨木と一緒に食べ終えると、僕は茨木に別れを告げ教室に向かった。
教室には羽曳野しかいなかった。僕のクラスは余り生徒がたむろしない様だ。
「あ、清治君」
羽曳野は僕が入ってきたと同時に笑みを浮かべながら言った。
「今日は、何なんだ?」
「文化委員から文化祭の出し物のアンケートを少しだけでも絞り込んでた方が決まりやすいって事で私達だけで少し決めておくの」
羽曳野は机の上にあったプリントを一枚僕に渡す。
「創作出展、映画作成、喫茶店、お化け屋敷、ギネス記録に挑戦…、結構あるもんだな」
一覧を見ただけでも四十項目ぐらいある。
「うん。去年は…」
「創作出展…だったな」
思い出した。去年の文化祭はホッチキスの芯でドラクロアの代表的な作品の一つである『群集を導く自由の女神』を作った。
あれは、すげぇ地味な作業の繰り返しだったな。二度とゴメンだ。
「今年は何がいいかな?」
「うーん?何個まで絞り込むんだ?」
「大体十個前後かな?後は文化委員とみんなが勝手に決めてくれるから」
去年もこんなのやってたのか…、知らないところで頑張ってたんだな。
「羽曳野、お前なにがいい?」
「えっ…」
「俺とお前、半分ずつで行こうぜ」
「清治君と、は、半分ずつ?」
「ああ、半分ずつ。文句なしだぞ」
「う、うん、分かった」
「じ、じゃあ」と羽曳野は項目の内の一つを鉛筆で囲む。
久しぶりに鉛筆を使う女子生徒を見た。
「じ、じゃあ…そ、創作出展かな」
「待て、羽曳野。それは待て」
最初に文句を言ったのは、意外にも僕の方だった。



三時が過ぎた頃、ようやく内容も纏まりが見え始めてきた。
羽曳野のおかげだ。コイツと僕とではそこら辺の出来が違う。
「ねえ、清治君…」
「うん?」
「テストどうだった?」
羽曳野は手元から視線を外さすに僕に尋ねてきた。
「昨日までの分も見直したけど、中々の出来でさ、羽曳野のおかげだよ。ありがとうな」
「そ、そんな!清治君が頑張ったからだよ!私も…教えてもらった所もあるし…」
あったか?まあここはお世辞としてもらっておこう。
「あ…、あのね…これからも、テストの前とか、ね?私でよかったら付き合うよ?」
「それは…」
羽曳野は筆を止めて、僕の方を上目遣いで見る。
「ありがたいな、僕の方からも頼むよ」
「う、うん!」
羽曳野は、羽曳野は多分、僕の事が気になってるんだろう。
どこなくというか、隠しきれてないから分かる。
「羽曳野はどうだったんだ?」
「えっ?」
「い、いつも通りかな?国語が少し出来なかったけど…」
「そうか…」
「うん、そうなの」
「羽曳野ってさ、得意科目なに?」
「生物かな。清治君は化学なんだよね?」
「ああ。中学の頃、摂津と二人で……」
色々な事を話した。小学校はどこなのか、嫌いな給食だったりとか。
修学旅行はどこに行ったとか…くだらない事ばかり話しながらダラダラと作業を続けて、
ようやく折り返しぐらいになった時、会話が途切れた。
なんていう沈黙なんだろうか?
「…ねえ、清治君」
筆を止めて、僕にも視線もくれず、下を向いたまま羽曳野は続ける。
「一年の頃さ…、一回だけ清治君停学…、してたよね?」
「うん?ああ」
「何かあったの?」
あったんだ。いろいろな事が、咎める何かが胸に痞えた。
「高校に入ったら、すぐにバスケ部に入った。迷いは全く無かったんだ。
塾で知り合った茨木もいたし、一緒にバスケもしたかったし…何より、バスケットが好きだったからさ…」





羽曳野が俯いていた顔を上げて、僕の眼を見る。
「高校のバスケは面白かった。練習試合だけでも中学の頃とは全然違っててさ、最初は上手くいかなかった。
こう見えても中学の頃に結構名前を知ってる人も多かったんだ。それは茨木も一緒だったけどな…。
でも自信があったんだ…。レギュラーのポジションはもらえるって、今のポジションの先輩よりは上手いって…」
窓の方を一瞥するフリをして、羽曳野から視線を逸らした。
「でもさ、先輩たちはそれが気に食わなかった。特に、俺にポジションを取られた先輩がな。それからイジメられたんだ…」
「…どんな?」
羽曳野は緊張から弾かれた様な声で聞いた。
「パスが貰えないんだ、一切な」
「え?」
「酷い時なんか試合にすら出してもらえない、それで茨木がキレてな一回主犯格をボコボコにしたんだ」
「…そんな」
「去年の夏休みの始めの頃だったらしい…、茨木が一人でな。
なんでお前が怒ってんだよ、って俺たち二人も喧嘩したんだ…。
これは先生にバレなかったんだけど、俺と先輩たちの仲はもっと悪くなった。それで…」
ここで言葉が痞えた。唾を呑み込んで、続ける。
「夏休みの練習試合で、茨木が俺にパスを出すように先輩たちに怒鳴って、先輩達も怒ったんだ」
「茨木君に?」
「うん。前にやられた奴もいたな。帰り道に待ち伏せしててな、一対三だった。
人気の無い所に連れて行かれそうになった時に…」
「清治君!?」
興奮したような声の調子で、羽曳野が僕の言葉を遮った。
「あ、ああ。まぁほぼ茨木一人で鎮圧してくれたよ」
「そうなんだ。…、見た目より良い人なんだね」
羽曳野は微笑みながら言う。確かに茨木は少しガキっぽいけど、見た目で判断しちゃいけない。
「まぁ、それで茨木が試合に負けてイラついてたのもあって、再起不能になるまでやっちゃたんだ」
「…」
「まさに地獄絵図だったよ。電柱が血塗れだったからな」
僕はその時、初めて血の噴水を見たとも説明を加えた。
「それで、運悪い事に先生達に遭っちゃったんだな。先輩たちが泣きついて僕にやられたって言ったんだ。
茨木は自分がやったって言い張ったんだけど、先輩たちとこうなった時からもう辞めようって思ってたから…、
先輩たちに怪我させたのは僕ですって、口裏を合わせたんだ」
「そんな…。それで…」
「ああ。停学を受けた」
「そんな事って無いよ…、じゃあ茨木君の」
「アイツには迷惑を掛けたくなかったんだ、それで…」
ぽつぽつと、羽曳野の手元にあったルーズリーフの用紙が濡れた。
「羽曳野…お前」
「ぐっ…うぐっ…」
羽曳野は泣いていた。なんで羽曳野が泣くんだろう。
そんな事を考えながら僕は必死に泣き続ける羽曳野に声を掛け続けた。
「ありがとうな、泣いてくれて」
「ウッ、ヴン…」
鼻水と涙をを垂らしながら、羽曳野は頷く。
何だかすごく羽曳野が愛しく見えた。僕は自然に羽曳野の頭を撫でて、何度も謝辞を述べていた。
羽曳野はいつの間にか撫でていた僕の手を取り、握り締めていた。
涙と鼻水が掌に付いたけど、嫌だとは思わなかった。





羽曳野が俯いていた顔を上げて、僕の眼を見る。
「高校のバスケは面白かった。練習試合だけでも中学の頃とは全然違っててさ、最初は上手くいかなかった。
こう見えても中学の頃に結構名前を知ってる人も多かったんだ。それは茨木も一緒だったけどな…。
でも自信があったんだ…。レギュラーのポジションはもらえるって、今のポジションの先輩よりは上手いって…」
窓の方を一瞥するフリをして、羽曳野から視線を逸らした。
「でもさ、先輩たちはそれが気に食わなかった。特に、俺にポジションを取られた先輩がな。それからイジメられたんだ…」
「…どんな?」
羽曳野は緊張から弾かれた様な声で聞いた。
「パスが貰えないんだ、一切な」
「え?」
「酷い時なんか試合にすら出してもらえない、それで茨木がキレてな一回主犯格をボコボコにしたんだ」
「…そんな」
「去年の夏休みの始めの頃だったらしい…、茨木が一人でな。
なんでお前が怒ってんだよ、って俺たち二人も喧嘩したんだ…。
これは先生にバレなかったんだけど、俺と先輩たちの仲はもっと悪くなった。それで…」
ここで言葉が痞えた。唾を呑み込んで、続ける。
「夏休みの練習試合で、茨木が俺にパスを出すように先輩たちに怒鳴って、先輩達も怒ったんだ」
「茨木君に?」
「うん。前にやられた奴もいたな。帰り道に待ち伏せしててな、一対三だった。
人気の無い所に連れて行かれそうになった時に…」
「清治君!?」
興奮したような声の調子で、羽曳野が僕の言葉を遮った。
「あ、ああ。まぁほぼ茨木一人で鎮圧してくれたよ」
「そうなんだ。…、見た目より良い人なんだね」
羽曳野は微笑みながら言う。確かに茨木は少しガキっぽいけど、見た目で判断しちゃいけない。
「まぁ、それで茨木が試合に負けてイラついてたのもあって、再起不能になるまでやっちゃたんだ」
「…」
「まさに地獄絵図だったよ。電柱が血塗れだったからな」
僕はその時、初めて血の噴水を見たとも説明を加えた。
「それで、運悪い事に先生達に遭っちゃったんだな。先輩たちが泣きついて僕にやられたって言ったんだ。
茨木は自分がやったって言い張ったんだけど、先輩たちとこうなった時からもう辞めようって思ってたから…、
先輩たちに怪我させたのは僕ですって、口裏を合わせたんだ」
「そんな…。それで…」
「ああ。停学を受けた」
「そんな事って無いよ…、じゃあ茨木君の」
「アイツには迷惑を掛けたくなかったんだ、それで…」
ぽつぽつと、羽曳野の手元にあったルーズリーフの用紙が濡れた。
「羽曳野…お前」
「ぐっ…うぐっ…」
羽曳野は泣いていた。なんで羽曳野が泣くんだろう。
そんな事を考えながら僕は必死に泣き続ける羽曳野に声を掛け続けた。
「ありがとうな、泣いてくれて」
「ウッ、ヴン…」
鼻水と涙をを垂らしながら、羽曳野は頷く。
何だかすごく羽曳野が愛しく見えた。僕は自然に羽曳野の頭を撫でて、何度も謝辞を述べていた。
羽曳野はいつの間にか撫でていた僕の手を取り、握り締めていた。
涙と鼻水が掌に付いたけど、嫌だとは思わなかった。



殻が砕けてしまった。自分でも何をしているのか分からない。
清治君の手を握っている手は震えていて、視界は涙で溺れている。
彼も同じだ。彼も同じだった。
それが、それが嬉しくて堪らない。部活で虐められて、友達を庇って…。
違う部分もあったけど、でもそんなの些細な違いだ。すぐに同じになる。
今はただ嬉しい。清治君が私と似てる事が。涙が出るぐらい。
「清治君…」
「ん?」
「好き…」
「え…?」
「私、清治君のこと…、好きなの」
胸の中が溢れ出したみたいに、私はついに思いを口に出してしまった。

このページへのコメント

好きだった誠一文字をまとめてくれて大感謝

0
Posted by 774 2014年08月24日(日) 12:50:09 返信

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

編集にはIDが必要です