---------------------------------------------- ◆ 1日目 夜
---------------------------------------------- なぜ「こんなもの」が私の机の中にあるのだろう?
手錠と、縄と、目隠しと、あとそれと、これはなんという名前の物なのか、皮製のベルトが両側に着いた金属のリング。他の3つがなければ何にどうやって使うのか見当も付かなかっただろうけど、たぶん、……口にはめるためのものだ。
しかし、いったいなぜこんなものが?
夕食も終わり、部屋でだらだらしていた私が、なんとなく気になって、普段はあまり使わない、机の一番下の引き出しを久しぶりに開けると、それらは堂々とそこにしまわれていた。
いつから? 誰が? 何のために?
まず、家の外の人の仕業という可能性はありうるのだろうか?
ドアの鍵をこじ開けて私の家に忍び込み、金目のものに手をつけず、それどころか怪しげな道具を隠して帰っていく変態。
正直、考えたくもない馬鹿らしい話だ。
するとたぶんこれは家族の犯行で、つまり容疑者は3人。
お母さんと、妹と、弟。
お父さんは数年前から単身赴任中だ。
怪しいのは弟のほうかな? 3つ年下の中2。冒険がしたいお年頃ってやつだ。勢いあまってこういうものを買ってみたのはいいけれど、隠しどころに困って私に押し付けようとしたのかもしれない。
妹の可能性も捨てきれない。1つ年下の妹は私と同じ学校に通っていて、その、なんというか、私も好きでこういう人間をやっているわけではないのだけれど、地味で暗い私が姉であるせいで余計な苦労をすることがあるらしい。
それを恨んでの嫌がらせというわけだ。
私の方だって明るくて美人な妹のせいで余計な苦労をしょっていたりするんだけどな……
あと、お母さんの仕業だという可能性は低いだろう。冗談でもそういうことをする人じゃない。
さて、弟か、妹か、どちらを先に問い詰めようか?
考えているうちに時間が過ぎていく。
いけない、もうすぐ10時だ。
いったい何が原因なのか、ここ最近は毎晩午後10時になると強烈な眠気がやってくる。私はそれに抗うことが出来ない。コーヒーもガムも歯磨きも、あらゆる眠気覚ましは無意味で、私はほとんど強制的に意識の断絶を迫られる。
見覚えのない道具、そして睡魔。
何かがおかしい。何かが起きている。
しかし今夜こそは眠るわけにはいか……
---------------------------------------------- ◆ 1日目 深夜
---------------------------------------------- ボクの目の前に男の子がいる。
裸のまま縄で縛られ、両手を手錠でつながれ、アイマスクで視界を隠されて、リングで強制的に開きっぱなしにされた口からだらだらとよだれを垂れ流しているその男の子は、ひどく可愛かった。
全体的に筋肉質だし、ボクよりもずっと背が高いけれど、それでもやっぱり可愛いものは可愛いのだ。
だから、もっといじめたくなる。
「ねえ、ここ、どうしてほしいのかな?」
ボクはできるかぎり艶やかで大人っぽい声で、普段のボクの声が分からないようにして話しかけた。
男の子の股間に手を伸ばす。
親指と、薬指と小指の3本で棒の部分をしごきながら、残りの2本で柔らかい袋をいぢくり回してあげた。
「おー! お……おぅ……おおおっ!?」
ボクの手の中で男の子のおちんちんが大きくなっていく。
もう片手じゃ包みきれない。
ボクが両手を添えてさらに強くしごきあげると、表面に浮き出た血管がびくびくと波打って、先端のきのこの傘のような部分が爆発しそうになった。
その寸前で止めてあげる。
「おおっ……うぅ」
男の子は切なそうなうめき声を上げた。
「ねえ、どうしてほしいのかな? ちゃんと言ってくれないとイかせてあげないよ?」
「おー! おおっおー!」
口にはめたリングのせいでまともな言葉をしゃべれないのに、それでも必死にボクに何かを伝えようと叫ぶ男の子の姿は凄く可愛い。
「分かる言葉でしゃべってよ? もしかして、このまま永遠に何十回も寸止めされたいの?」
だから、もっともっといぢめたくなる。
何度も何度も破裂する直前まで膨らませてから、その先の快感を奪い去る。
その度に男の子のお尻の穴がキュッとすぼまるのが可愛かった。
勃ちっぱなしのおちんちんが次第に黒っぽい紫色に変化していく。
「このままじゃおちんちん腐っちゃうよ?」
「おおぅ! おおっ……!」
男の子があらん限りの叫び声をあげる。
ああ、最高だ。もっと早くこうしておけばよかった。
---------------------------------------------- ◆ 2日目 朝
---------------------------------------------- 目が覚めると、私は自分の部屋の自分のベッドの中にいた。
昨夜の記憶は机の上に突っ伏したところで途切れている。
お母さんが運んでくれたんだろうか?
「まさか、見られた!?」
私はあわてて机のほうを向いた。
出しっぱなしになっているはずの手錠やその他が見当たらない。
私は布団を跳ね飛ばすようにして起き上がり、机の引き出しを片っ端から開けていく。
目的のものは、昨夜と同じところにあった。
手錠と、縄と、目隠しと……
「やだ。なにこれ……?」
私は、口にはめるリングの縁に誰かの唾液が付着しているのに気付いた。
私の唾液だろうか? それとも、他の誰かの?
いずれにしても、その液体はまだ完全には乾いていなかった。つまりこれはついさっきまでこの道具が使われていたということを意味している。
誰がやったか知らないが、悪ふざけにしては度が過ぎていた。
私はとりあえず妹に話を聞いてみようと立ち上がり、部屋のドアに手を掛ける。
ドアノブはロックされていた。
そうだ。昨夜、机の中の異物に気付いた時点で、私は内側から施錠していたのだ。
そして鍵は部屋の中。
背筋が震えた。
立っていることができなくて、私はベッドの中に逆戻りし、頭から布団をかぶって、ブルブルと震えた。
PiPiPiPiPi……
目覚まし時計のアラームが鳴る。
考えなくてはならないことは山ほどあったが、しかし私はとりあえず学校に行かなくてはならない。
いや、こんな意味不明な事態が起きているのだ。もしからしたら登校なんかしている場合ではないのかもしれない。
だけど、でも、私は今日も学校に行くのだろう。
教室に行けば水野くんに、私の憧れの人に会えるから。
きっと、水野君の顔を見ればこの不安な気持ちも吹き飛んでくれるだろうから。
私は2階にある自分の部屋を出て、朝食をとるために1階の居間に降りていく。
さりげなく家族に探りを入れてみたが、どうやら昨夜、誰も私の部屋に入っていないようだった。
---------------------------------------------- ◆ 2日目 昼
---------------------------------------------- 避けられた。
露骨に、あからさまに、避けられた。
慣れているといえば、私にとっては慣れている扱いなのだけれど、相手が水野くんとなるとショックは大きい。
いつもひとりきりで、話しかけてくる人なんてほとんどいない私。たまにいたとしても、妹を口説こうとする男が情報収集しようとしているだけだったりという私。そんな私に唯一普通に声を掛けてくれる水野くん。
私には面白い話なんてできないのに、話題だって話すペースだっていつも私に合わせてくれる。
誰に対しても優しく、誰からも人気で、テニス部のエースの水野くん。
その水野くんに、避けられた。
不幸中の幸いといえば、今日の水野くんは私だけでなく全ての女の子に対してそういう態度をとっているということくらい。
でも、私の精神世界の中で水野くんが占めているパーセンテージは、他の女の子にとっての水野くんの重要性よりずっとずっと、ずっとずっとずっと重いのだ。
そんなわけで、私はトイレの洗面所の水を意味もなく出しっぱなしにしながら、鏡に映った自分の顔を見ている。
1人で学校のトイレに入ることへの抵抗感や恥の感情といったものは、とっくの昔に消えうせてしまっていた。
私にはトイレまで一緒に付き合ってくれるような友達なんていない。
それにしても、我ながら可愛さの欠片もない顔だ。
子供の頃はよく男の子みたいだと言われた。
歳を重ねるにつれて性別を間違えられることは減ったけれど、それは私の顔が女の子らしく可愛くなったからでも、胸が大きくなったからでもなく、身長が全然伸びなかったせいだ。
チビで、胸が小さくて、男みたいな顔。
司(つかさ)という、どちらでも通用する名前も私の悩みを重くしている一因だ。
いっそのこと本当に男の子に生まれていたらよかったのに。
もちろん、男に生まれていたとしても私の性格では友達を作ることも出来なかったかもしれない。
でも、孤独な女より孤独な男のほうがかっこ悪くないと思うのは、女である私の偏見なのだろうか?
「もっと可愛い顔に生まれていたら、人生変わってたのかな……」
私自身は全くそんなことをした意識はないのに、どういうわけか、鏡の中の私の顔は笑っているように見えた。
どうやら顔の筋肉が引きつってしまうくらいに疲れているらしい。
毎日9時間近く寝ているはずなのに、まるでその3分の1くらいしか休んでいないみたいな疲労感だった。
良く見ると目の下にクマまで浮かんでいる。
鏡の中の、冴えない私。
あれが、誰か別の人の顔だったらいいのに!
---------------------------------------------- ◆ 2日目 夜
---------------------------------------------- 私には、解決すべき問題が3つある。
1つめ、水野君が私を避けていること。
2つめ、机の中の怪しい道具。
そして3つめ、22時にやってくる睡魔。
この中で一番深刻なのはもちろん1つめだ。そして1番解決が難しそうな問題でもある。
避けられている状態をなんとかするためには、まず、なぜ水野くんが突然そんな態度をとるようになったのか、その原因を探らなくてはならないわけだけれど、その問題解決への第1歩が既に私にとっては断崖絶壁を越えるに等しい難業だった。
まさか本人に直接聞くわけにもいかない。かといって代わりに聞き出してくれるような友人もいない。これはもちろん水野君に友達がいないという意味ではなく、私に友達がいないのだ。
私は、私自身のコミュニケーション能力が絶望的に劣悪であることを自覚している。
そういうわけで、どうにも手のつけようがない難題はひとまず脇においておいて、まずは2つめと3つめを何とかしようと思う。
特に、3つめだ。
今朝の出来事から推測するに、手錠やらなにやらが私の机の中に入れられたのはたぶん深夜か早朝のはずで、眠ってさえしまわなければ現場を抑えることが出来るかもしれない。
あるいは、もし私が眠らなければ、あんな嫌がらせをした変態も次の犯行を諦めるかもしれないけれど、それはそれでOK。
犯人探しをする時間は後でたっぷりとある。
まずはなによりも眠気に勝利することだ。
私はミント味のガムを大量にほうばった口に濃いコーヒーを流し込みながら、ヘッドホンで大音量のロックを聴きつつ、手の甲をつねるための大量のクリップを準備する。
午後10時まであと1分。59秒。58秒。57秒……
私は絶対に眠ってやるものかと覚悟を決めた。
『〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
携帯電話が突然振動を始めた。
着メロはロックにかき消されて聞き取れないが、どうやらメールではなく通話のようだ。
表示された相手の名前を見て私の心臓は跳ね回った。
水野真悟。
水野くん! 水野くん! 水野くん……!
私は、どうして私の携帯に水野君のアドレスが登録されていたのかという疑問をほうり捨て、ついでにヘッドホンも放り投げて携帯に飛びつく。
それとほぼ同時に、液晶に並ぶ4つの数字が「21:59」から「22:00」に切り替わった。
---------------------------------------------- ◆ 2日目 深夜(前半)
---------------------------------------------- 「イかせてください。頼むから、イかせてください」
ボクの目の前で、裸の男の子が這いつくばって、哀れな声を出してる。
最初、「放せ」とか「開放しろ」とか乱暴な言葉遣いだったのが、寸止めを繰り返すたびに次第に弱気になっていく様子は本当に可愛いかった。
だけど、まだ完璧じゃない。
「頼むから……? お願いしますから、でしょ?」
「お願いします。お願いしますから、イかせて……!」
男の子はすぐさまボクの要求にこたえてくれる。
縄と手錠と目隠しだけの拘束は少し美しさに欠けるけれど、やっぱり口かせをはずして良かった。
男の子はもう既に限界を通り越してしまったみたいで、たぶん本人の意思とは関係なく、腰がビクンビクンと痙攣を繰り返している。
だけど、まだ楽にはしてあげない。
「イかせてじゃ分からないよ。どうしたいの? もっと正確に言ってごらん」
「え? あ……しゃ、射精! 射精したいです!」
ボクは男の子の陰茎から手を放した。
「いいよ。勝手に射精しなさい」
「なっ……!? む、無理だろ! こんな、止められて」
「減点1。乱暴な言葉遣いはイヤだって言ったよね?」
「…………このままじゃ、無理です。いじってください! お願いします!」
「その前に謝罪の言葉が聞きたいなあー」
「ごめんなさい。ごめんなさいー……ちゃんと敬語を使います。だから、こすって、射精させてくださいっ!!」
「ふふっ。そんなに出したいんだ?」
ボクは再び彼の太くて熱いおちんちんに手を触れた。
その瞬間、男の子は、アイマスク越しにでも切なさが伝わってくる、辛さと幸福感が混じりあったなんともそそる表情をしてくれる。
ああ、本当に可愛い。
だけど、まだ、まだだ。
「イ・ヤ・よ」
「そんな……」
「そうね。もしボクの奴隷になるって誓うんならイカせてあげる」
「なります。奴隷にでもなんにでもなります。だから射精させてください」
「んー? いまいち可愛くないなあ。ねえ、どうせならこう言ってよ」
ボクは男の子の耳元に口を寄せて、日に焼けた耳たぶをそっと甘噛みしてから、いつか宣言させようと決めていた言葉を教えてあげる。
誇りや自尊心といったものを完全に打ち砕いてしまうような服従の台詞を。
---------------------------------------------- ◆ 2日目 深夜(後半)
---------------------------------------------- 「み、水野真悟は、ご主人様の性欲処理専用の肉バイブ奴隷になることを…………誓います」
男の子はあっけなくその言葉を口にしてしまった。
あっけなさすぎて少しつまらないくらいだ。
ボクとしてはもう少し楽しみたかったのに、少し最初から激しくいじめすぎたのかもしれない。
うん。
ちょっと早いかもしれないけど、1枚目のジョーカーを切ってみよう。
「ビデオ、撮ってるから」
ボクは男の子の頭のちょうど真上から声を浴びせた。
「えっ!?」
「あなたのクラスの音羽司さんに見せたらなんて言うかしらね?」
「やめろ! それだけはやめてくれ!」
男の子は目に見えて狼狽し、敬語も忘れて大声で叫んだ。
その姿は全然可愛くない。
仕草や言葉づかいの問題ではなく、考えていることが分かりやすすぎるから。
その内容が気に食わないから。
全然可愛くない。
「そっか、やっぱりあの女のことが好きなんだ?」
「なんだよ。なんでそんなこと知ってるんだよ。お前、誰だよ!?」
「ねえ、あんな地味な女のどこがいいの? ちょっといじめてあげたらすぐに引きこもりそうな根暗じゃな――」
「音羽に手を出したらぶっ殺す!」
男の子が本当に本気で怒ったので、ボクは少しだけびっくりしてしまった。
まだそんな台詞を吐く元気があったんだ?
うん、これならまだいじめられるね。
ボクは頬の筋肉を引きつらせるようにして笑った。
いじめてあげる。いじめてあげる。いじめてあげる。
大好きだから、いじめてあげる。
そして、音羽司。
突き落としてあげないと。
大嫌いだから、絶望に突き落としてあげる。
キミはボクをまだ知らない。
だけど……
私はあなたを知っている。
たぶんきっと、誰よりも深く。
---------------------------------------------- ◆ 3日目 朝
---------------------------------------------- 目覚めは最悪だった。
どうやら私はパジャマに着替える前のTシャツにジーンズという姿で寝てしまったようなのだけど、その全身が汗でびっしょりと濡れている。
何か酷い悪夢を見たような気がするのに、どうしても内容は思い出せない。
足がひどく痛かった。
硬いジーンズのまま寝たからなのか、まるで夜中に長い距離を歩いたみたいに感じる。
「また、寝ちゃったんだ」
睡魔は昨夜も私に勝利したらしい。
私は寝ぼけた頭をゆすって意識をはっきりさせつつ、机の上を確認してみた。
カップに飲みかけのコーヒーが少し残っている。
その冷めきった黒い液体を飲み干すと、ただでさえ濃く淹れたものが蒸発によってさらに苦くなっていて、ひんやりとした不快感が喉から胸へと滑り落ちていく。
何か大切なことを忘れているような、それは夢の内容とかではなく、もっと大切な……
「水野君!」
そうだ。
10時になる直前に水野君から電話がかかってきて、それで……
それで!?
「無視して、寝ちゃった?」
私の気分はどしゃぶりを通り越して集中豪雨に大雨洪水警報の土砂降りに叩き落された。
よりにもよって、水野君からの電話をスルーしてしまうなんて、後悔しても仕切れない失態だ。
「携帯。そうだ、携帯は?」
コーヒーカップもヘッドホンもそのままの机の上から、手の平サイズの電子機器だけが消えている。
探すべき場所は一瞬で分かった。
机の一番下の引き出し。
手錠と縄と目隠しとリング、そして私の携帯電話。
古くなったイカのお刺身のような悪臭のするネバネバとした白い液体が付着している。
気持ち悪くはあるけれど、そんなことに構っている場合ではない。
私は携帯の画面を見た。
メールの作成画面だった。
書きかけなのか、これで既に完成しているのか、本文は短く1行だけ。
『私 は あ な た を 知 っ て い る』
背筋がゾクリとした。
そして、昨夜確かに登録されていたはずの水野君の電話番号は、着信履歴もろとも綺麗さっぱり跡形もなく消去されている。
決めた。
私は決めた。
避けられているとか、嫌われたかもしれないとか、話しかけるきっかけとか、そんなのどうでもいい。
水野君に相談しよう。
そう決意すると、なんだか胸の奥が少し暖かくなった気がした。
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